作れ!世界一旨いカレー

「――お!結月、昨日と打って変わって土汚れがすげえな……!」

 大丈夫か?と、切島くんは心配して駆け寄って来てくれた。

「ピクシーボブの魔獣との特訓でね」
「結局、相澤先生の用はなんだったの?」
「ああ、あれね〜私の"個性"が天才的だからどう伸ばすか打ち合わせで……」
「……。理世の"個性"は厄介だから難儀したってわけね」

 当たらずも遠からずな独自解釈をする耳郎ちゃん。すごいな……!


「さァ昨日言ったね。『世話焼くのは今日だけ』って!!」
「己で食う飯くらい己でつくれ!!カレー!!」
「「イエッサ……」」

 イエッサ?謎の返事に首を傾げる。それにしても……

「みんな、ぐったりしてるね〜」

 カレーだなんて三奈ちゃんや上鳴くんがはしゃぎそうなのに、喜ぶ元気もないみたい。

「むしろ、一番死んでそうな結月が結構元気……?」
「私、途中で気絶してたからかも」

 瀬呂くんの問いに答えると「キャラ得だな、おい」羨ましそうに返って来た。(いや、羨ましがられても……)

「アハハハハ、全員全身ブッチブチ!!だからって雑なネコマンマは作っちゃダメね!」

 何がおかしいのか、お腹を抱えて笑うラグドールはやっぱり不思議ちゃん……。

「確かに……災害時など避難先で消耗した人々の腹と心を満たすのも、救助の一環……」

 ハッとした天哉くんは、先生側に都合のいい解釈をして……

「さすが雄英、無駄がない!!世界一旨いカレーを作ろう、皆!!」
「「おおー……」」
「(飯田、便利)」
(――って、相澤先生思ってるんだろうなぁ)

 まずは汚れた体操服を着替えてから、料理開始だ。

「……回原くんと宍田くん、なんか妙にげっそりしてない?」

 異様な二人の姿に思わず声をかける。

「我ーズブートキャンプがきつくてさ……(色んな意味で)」
「我ーズブートキャンプ?」
「いやはや、全身ブッチブチですぞ……」

 ……とにかく大変な特訓だったらしい。

「A組だと緑谷が参加してたぜ」

 回原くんの言葉に、でっくんを見ると……なるほど。同じようなげっそり感だ。

「――なんだ?気になるなら明日、我ーズブートキャンプに飛び入り参加してみるか?」
「うお!」「ひゃい!」「わふん!」

 いきなり後ろに現れた虎さん(さんと付けたくなる)に、三人で驚く。

「女子はいないから大歓迎だよ。見たところ、ヒーロー志望とは思えぬ軟弱っ…」
「大丈夫です!!明日もピクシーボブによろしくとお願いしてありますからぁ!!」

 最後まで言わせないというように素早く答えた。(めちゃくちゃ私の危機管理能力が警告を発してる……!)

「ははは!冗談だよ。だが、参加したくなたらいつでも歓迎しよう!!」

 豪快に笑いながら、虎さんは立ち去る。

「……理世、断って正解だぜ。スパルタなんてもんじゃねーから」
「恐ろしかったですぞ……!」

 真剣な面持ちで言った回原くんと宍田くんに、そっちの組に入れられなくて良かったと心から安堵した。

 ラフな格好に着替え、A組とB組で合同カレー作り――……

「なんで君たちと一緒にカレーを作らなきゃならないんだ!?ここはどっちのカレーがおいしいか勝負しようじゃないか!」
「しないっての」

 物間くん、さっきまでぐったりしてたのに急に元気になって……。
 なんとなくいくつかの班に分かれて、飯ごうでご飯を炊くところから始める。

「結月さんっ、お水の量ってこのぐらいでいいかな?」

 一緒の班のでっくんに聞かれ「良い感じ」と答える。ご飯の準備はこれで万端。あとは……

「理世ちゃん、火はどうしよっか?飯田くんが原始式で起こそうとしてるけど、めっちゃ時間かかると思うんだ」

 火をつけるのも自分たちでだ。道具もないので、自力でつけなければならない。

 透ちゃんの言葉に天哉くんを見る。

「いつ何時無人島に漂流するか分からぬからな!うおおお!!」

 すごく頑張ってくれているのはよく分かった。
 
「爆豪、爆発で火ィつけられね?」
「つけれるわクソが!」
「ええ……!?」

 何故かキレながら火をつける爆豪くん。釜戸、壊してない?

「爆豪くん。こっちにも火をつけてってお願いしたら殺す?」
「ああ、ぶっ殺すね」
「ぶっ殺されたくないから、爆豪くんにお願いするのは止めようでっくん」
「そ、そうだね……(結月さん、聞いた意味があったのか……?)」
「結月、俺がつけるよ」

 焦凍くんがやって来て「飯田も」と、釜戸の前でしゃがみ、左の手のひらから燃える炎を静かに炭に移してくれる。

「さすが焦凍くん!」
「やったー!」
「おお!ありがとう、轟くん!」
「轟くんの"個性"は色んな場面で活躍するね」

 4人で喜んでいると、ふと彼の横顔に目を奪われる。
 炎を見つめる穏やかな眼差しに――。

「……轟くんは変わったな。いや、もちろん良い方向にだ」

 天哉くんの言葉に「変わった?」と、不思議そうな顔をする焦凍くん。

「うん。以前より表情が柔らかくなったていうか……」

 続いてでっくんもそう言う。焦凍くんはしばし思案するようにして「自分じゃよく分からねえ」と、呟いた。

「前より今の方が素敵ってことだよ」

 私の言葉に「ああ、素敵だ」「それ、良いね。僕も"素敵"だと思う」そう天哉くんもでっくんも笑った。

「……ますます、分かんねえ」
「轟ー!こっちも火ィちょーだい」

 三奈ちゃんに呼ばれ、焦凍くんはそちらへ向かう。引っ張りだこだ。

「皆さん!人の手を煩わせてばかりでは、火の起こし方も学べませんよ」
「………」

 そう言いながら百ちん本人は、指先から着火マンを創って手早く火をつけている。
 説得力が欠ける言動に、思わず耳郎ちゃんと顔を見合わせ、苦笑いした。

「いや、いいよ」
「わー!ありがとー!!」

 焦凍くんに火をつけてもらい、お茶子ちゃんはその場でぴょんぴょんと跳ねて喜んだ。隣で三奈ちゃんも一緒に喜ぶ。

「燃えろ――燃やし尽くせー!」
「尽くしたらあかんよ」

 その様子を微笑ましく見ながら、私は野菜を切る作業に入った。

「透ちゃん、切った野菜を炒めるのをお願いしてもいい?」
「はーい!」

 透ちゃんは手が見えないから、誤って切ってしまわないように鍋係だ。(天哉くんは主に火の番)

「結月さん、切るの僕も手伝うよ」
「ありがとう。――でっくん、慣れた手つきだね」

 何となくでっくんには危なっかしいイメージがあるけど。

「うち、お父さんが長期で海外へ単身赴任中で、お母さんの手伝いはよくしてたから……」
「そうだったんだ……じゃあ何かと大変だね」

 クラスの皆の家庭事情を全員知ってるわけじゃない。
 当たり前だけど……色々な家庭があるんだなって、この時思った。

「でっくんはお母さんを支えてえらいなぁ」
「はは……全然、そんなことないんだよ。最近はほとんど手伝ってないし、いつも心配かけちゃって……」

 この間、死柄木と遭遇した際に迎えに来たお母さんは泣いてしまって、宥めるのが大変だったとでっくんは話す。

「結月さんはその後どうだった?」
「迎えは安吾さんの側近の人が来てくれて……」

 そんな会話をしながら、野菜を順に切っていく。

「……料理できる女子っていいよなぁ」
「……うん」
「上鳴さんも尾白さんも理世さんに見惚れるのは分かりますが、手を動かしてください」
「ご、ごめん!」
「おおっ……て、八百万ぅ!?」

 ……?上鳴くんの驚き声が聞こえて、そちらを見ると――私もぎょっとする。思わず百ちんが持っていた包丁を彼女の手から転移させた。

「あら、包丁が……?」
「百ちん、危ないよ!」
「え?」

 不思議そうに首を傾げる百ちん。
 指ごと切りかねない!

「包丁の持ち方。押さえる手はこうで、包丁は上から垂直に下ろすように切るんじゃなくて……」

 お節介ながら百ちんの横から手を伸ばし、その手に添えながら教える。

「百ちん、綺麗な指してるし怪我したら大変」
「理世さん……」じーん
「理世ちゃん、轟ちゃんにも指南してあげて」
「焦凍くんストーップ!!」
「?」

 百ちんとまったく同じように切ろうとしていた焦凍くん。(ちょっと推薦入試組!?)

「切り方なんてどれも同じだろう」
「切り方じゃなくて持ち方ね!」

 まあ、切り方も料理には関係するけど。

「結月〜目が痛ぁい」玉ねぎで…
「私も得意じゃないけど、変わってあげるから……目洗っておいで三奈ちゃん」
「理世ちゃん!私も切る方、手伝うよ!」

 お茶子ちゃんと並んで「しみる〜」と言いながら、一緒に玉ねぎをくし切りにする。
 
「あ、青山くん。手が空いてそうだから、お皿用意してもらっていい?」
「オーケー」
「フ……ここでも、結月の司令官としての才が発揮されたか」
「トップコマンダーって呼んで、常闇くん」
「「(トップコマンダー……!!)」」

 ――ということで。成り行きで私が全体のカレー作りを監督することになり、行程は進む。

「結月はやっぱカレーに隠し味とか入れたりすんのか?」

 切島くんの何気ない質問に、うーんと答える。

「市販のルーだったら、そのままの手順で作ればおいしくできるようになってるし、私はあんまり入れないかな」

 ルーをミックスしたりはするけど。

「すげえ……!玄人の発言だ……!!」
「いやいやいや〜」

 ちなみに今回用意されていたルーは、家庭で定番の市販ルー。

 何故か無性に「ヒロアカ」と略して言いたくなる"ヒロア[D:21654][D:21937]カリー"だ。中辛。

 謎の可愛いらしいピンクの手のキャラ(よく見るとちょっと不気味)のパッケージが特徴で「あのヒーローもそのヒーローも食べている!」と、上手いことアピールしている。
 
「理世さん……隠し味に牛乳を入れようと思ったのですが」
「牛乳……!?」

 百ちんの発言に、耳郎ちゃんが驚きの声を上げた。

「用意されてたんだね、牛乳……」
「栄養素もありますし、味にまろやかさが出るかと……」

 ……なるほど。なんとなく方向性は間違ってはいない。

「クソテレポ、止めろ」
「百ちん、牛乳は牛乳で飲むのがベストじゃない?」

 いつも無関心な爆豪くんも、これは見過ごせなかったらしい。

「(唐辛子か……)」
「爆豪くん、それ自分のお皿にだけ入れてね」

 今度は私が見過ごせずに言った。
 絶対、君の辛さだと皆食べられないから。

「なんも言ってねえだろ!!」

 だって、入れたそうに見てたから〜


 ――ちょうど辺りが暗くなり、灯りが点る頃。食欲をそそるおいしそうな匂いが辺りに漂う。

「「いただきまーす!」」

 揃った声が、明るく響いた。

「うめぇ!!この状況も相まってうめーーー!!」
「俺たち店出せるんじゃね!?」
 
 そりゃあ私が監督して、まずくできるわけがない!(……んんっ本当においしい……!織田作さんに食べてもらいたいぐらい!)

「ヤオモモ、がっつくねー!」

 三奈ちゃんが振り向いて、百ちんに言った。

「ええ。私の"個性"は脂質を様々な原子に変換して創造するので、沢山蓄える程、沢山出せるのです」
「うんこみてえ」

 まさかの瀬呂くんの失言。耳郎ちゃんの怒りの鉄拳がその頬に打ち込まれる。

「百ちん、たった一つの馬鹿による浅はかな見当違いの発言だから……」
「「(結構、辛辣……)」」

 皆、誰もそんなこと思ってないし、思わないよ……。涙を流す百ちんの背中を撫でた。(まったく、瀬呂くんは!)

 瀬呂くんは「すんませんでした!!」と土下座し、逆に百ちんを困らせるも、どうにかその場は丸く収まり食事は再開。(だが彼は追放されて、三奈ちゃんと席をチェンジだ)

「――結月さん」

 おかわりしようとカレーをよそっていると、でっくんに声をかけられた。

「今、洸汰くんの姿を見かけて。もしかしたらお腹が空いてるかもしれないから……僕、ちょっとカレー持って行ってくる」

 聞くと、洸汰くんは上の方へ歩いて行ったらしい。私有地といえ、暗い中ちょっと心配だ。

「分かった、暗いから足元気を付けてね。行ってらっしゃい」
「行ってきます……!」

 洸汰くんの足跡を辿る、でっくんの後ろ姿を見送る。(自分たちのことを邪険に思われても、ほっとけないんだろうなぁ)

「……緑谷、どこ行ったんだ?」

 次に声をかけてきたのは、同じようにおかわりをしに来た焦凍くんだ。

「洸汰くんのところへ」
「洸汰?誰だ?」
「マンダレインの……なんだっけ……甥っ子じゃなくて男の子の……」
「従甥か」

 そうそうそれ、と頷く。(焦凍くんも大概人の名前覚えないよねぇ……でも従甥はすぐに出てくると)

「お腹空いてるかも知れないから、カレー持っていくって」
「……あいつらしいな」
「そうだね」

 私もくすりと笑って、焦凍くんと一緒に席に戻る。


 ――戻って来たでっくんは浮かない顔をしていて、目が合うと苦笑いを浮かべた。
 どうやら、洸汰くんと仲良くなれなかったようだ。
 空の手を見て「カレー、食べてくれると良いね」励ますようにそう言うと、彼も釣られるように笑顔を見せ、頷いた。


 ***


 食事が終われば、もちろん後片付けも自分たちでする。

「あのさ、理世」

 梅雨ちゃんと耳郎ちゃんと一緒にお喋りしながらお皿を洗っていると、お皿を持った一佳が小声で話かけてきた。

「あのセクハラ男子?が、さっきからこっちをじぃって見てくるんだよね……」

 その言葉を聞いて「はあ……」と自然に口からため息が出た。

「なんか大人しいと思ったら……」
「峰田ちゃん。昨日、覗きに失敗したから今日もまたするつもりかしら……」

 覗き……!?と、どん引く一佳の反応は当然のもの。

「警戒した方がいいね。本当にまたやるつもりなら成敗しないと」

 耳郎ちゃんの言葉に、梅雨ちゃんと顔を見合わせ頷く。B組の女子たちにも伸びようとしている魔の手を阻止しないと!

「そういうことならあたしたちも協力するよ」
「ん」

 後から来た唯ちゃんも、一佳の言葉にこくりと頷いた。


 ***


「明日の夜は肉じゃがね」

 片付けも終わった頃、やって来たマンダレインの言葉に「うおー!」と、食べ終わったばかりだと言うのに男子たちは盛り上がる。

「お肉は豚肉と牛肉だから、A組とB組でどっちがいいか選んどいてね」


 その、何気無く言ったマンダレイの言葉が、まさかの騒動を引き起こす――。


「肉じゃがって豚肉だよね?」
「え、牛でしょ?」

 豚か牛か。真っ二つに意見は別れた。

「うちは昔から牛かなぁ……理世ちゃんは?」
「私は豚バラで作るのが好きだけど、鶏肉もおいしいよ!」
「むしろ、結月が作った肉じゃがが食いてえ。プライベートで作ってくれ」
「プライベートの部分が重くて嫌かな〜」

 真剣な顔で言ってきた上鳴くんの言葉を軽く流す。

「それでは、今決めてしまおう!いいかい、拳藤くん!」

 手をグルグル回しながら口を開いたのは、天哉くんだ。一佳を名指ししたのは、彼女がB組の委員長だからだろう。

「あぁいいよ。じゃあ、ジャンケンで勝ったほうが選ぶってことで」

 ジャンケンで、と天哉くんは一言も言っていないけど、手をグルグル回している行動に一佳は察してくれたらしい。

「異論はない。では……」
「ちょっと待った!」

 タイミングを計ったように制止する声。その声の持ち主は……

「ねえ、ジャンケンなんかで決めるのつまらないだろ。ここはきっちり勝負して決めたほうがいいんじゃない?」

 ……物間くんだ。またか、と正直思う。

「は?べつにジャンケンでいいだろ」

 うん、良いと思う。対して物間くんは、ハッと鼻で笑う。

「なに言ってるんだい、拳藤。憎きA組と直接対決できるせっかくのチャンスなんだよ?」

 カレー対決はできなかったからね……。

「そんなジャンケンごときで決めるなんてバカなのかい」
「だから、べつに憎くはないっつーの」
「物間くん、周りよく見て。君以外はみんなどっちでもいい顔してるから」
「結月さんは黙っててくれるかなぁ!?」
「うん。べつに豚でも牛でもどっちでもいいし」
「ん」

 レイちゃんに隣の唯ちゃんも頷く。ほらぁ。
 
「肉食えりゃ、俺もどっちでもいいぜ!」
「俺も俺もー!」
「僕も同じく」

 男らしい鉄哲くんの意見に、回原くんと庄田くんだけでなく、他の男子たちも同意する。

「肉はなんだってうまいしな!」

 切島くんの言葉に「だよな!」と、鉄哲くんが頷き、二人はニッとサムズアップし合った。にくいねえ!……肉だけに。

「ハァ?どっちでもいいわけないだろう?肉じゃがは豚肉に決まってるんだよ。(本当はどっちでもいいけど、勝負に持ち込みA組に勝ちたい……!)」
「じゃあもうB組が豚肉でいいんじゃない?ねえ、天哉くん」
「……そうだな。他の者たちもそれでいいなら」

 クラスの皆を見回す天哉くん。すでに皆はどっちでもいいを通り越して、何でもいいという顔をしている。

「A組がどっちでもいいっていうなら、ジャンケンもしないでこっちで選ばせてもらおうよ。牛肉の肉じゃがなんて僕には想像もできないけど、A組はかまわないんだろ?――ねえ、爆豪くん?」
「あぁ?」

 最後に、物間くんは唐突に爆豪くんの名前を出した。ニヤリと嫌味っぽく笑って。
 せっかく話がまとまりそうだったのに、どうしても物間くんは勝負したいらしい。
 そして、A組に勝ちたいという執念がひしひしと伝わってくる。

 明らかな挑発でも、爆豪くんの着火点はすこぶる容易いため……

「……ふざけんな、こっちだって豚肉だ!!(肉なんてどっちでもいいが、一方的に押し付けられてたまるかッ)」
「「……………………」」

 案の定、キレる爆豪くん。
 してやったりと笑う物間くん。
 呆れる外野。

「じゃあ勝負して決めるしかないね」
「あったりめえだ!クソB組なんか蹴散らかして豚肉奪いとったるわ!!」

 クソB組、という爆豪くんの暴言に、彼らがカチンと来たのが分かった。

「なんだと!クソB組ってどういうこったよ!」
「クソはクソだろうが!」
「すまねえ、鉄哲!爆豪のクソは、なんつーか口癖みてえなもんで」
「クソみてえなフォローすんじゃねえ!クソ髪!」
「爆豪くん!君はまたそんな勝手なことを……今は神聖な合宿中なのだぞ!?それを勝負とは……!」

 天哉くんは天哉くんで、激しく手を上下させながら抗議している。

「カンケーねえよ!売られたケンカは買うしかねーだろが!!」
「ケンカ売ってんのはそっちだろーが!刻むぜェ!」
「ああ!?なんだテメっ鎌野郎!!」

 食ってかかった鎌切くんと爆豪くんの間に火花が散る。
 一触即発な雰囲気に「落ち着け、鎌切」「爆豪も……な?」と、鱗くんと切島くんが間に入って宥める始末。

「――あ、相澤先生」

 いつの間に、そこに立っていた相澤先生に気づいた。「先生!」と、百ちんが制してもらおうと訴えるも、先生は静観を貫くらしい。

「やらせておけ」
「でも」
「訓練時間以外は自由だ。周りに迷惑かけるなら論外だが」

 その言葉に、何故かハッとする天哉くん。

「確かに、自由時間は各自の自由……。だが、そのなかで自主性を重んじつつ、生徒同士で切磋琢磨するのもヒーローとして闘争心を養う特別な時間……。そういうことですね、先生!」
「……そういうことだ」

 相変わらず、天哉くんの先生側に都合の良い解釈っぷりがすごい。


「それでは諸君、腕相撲で勝負を決めるというのはどうだろう!」


 こうして……

 男子たちは肉じゃがのお肉を賭け、己の腕で戦うことになった。(さ、今日は早く寝よう〜)


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