朝の食卓に流れるニュースが、今朝の天気を伝える。
『大型台風は、今日の夜にでも関東全域に影響を与えそうです――』
なまえはもぐもぐとパンを食べながら、テレビを見ていた。
どうやら、台風はここ千葉県にも影響が出るようだ。
台風が近づいている影響による雨の予報に、なまえは傘を持って家を出る。
「廻、おはよう!」
「おはよう、なまえ!」
「今日は廻の目、ばっちり起きてるね」
同じように傘を持った廻はにこっと笑って答える。
「台風が近づいてきてるから、今日はワクワクして起きれた!」
「廻、台風好きなんだね。男の子だっ」
「なまえは好きじゃないの?」
「雲が速く流れるのはおもしろい」
なまえが空を見上げながら言うので、廻もつられるように空を見上げた。
すでに目でわかるぐらいの速さで雲は流れていく。あ、なんかすごく分かるかも。
廻も自分の興味がないときは、よくぼーっと空を眺めているタイプだ。
今朝の二人はそんな話をしながら登校し、クラスに入ると――
「台風FUUUUUUーー!!」
教室は台風の話題で盛り上がりを見せていた。
子供は台風が好きだ。
そんなそわそわした教室で授業が始まり、午後はそのそわそわがピークに達する。
窓の外は、天気予報の予報より早く荒れ始めた。
「雨が激しくなってきたぞー!」
子供たちは大興奮で窓の外を眺めている。授業どころではない。
「みんなー一旦席につくように!」
担任が叫ぶ。席についてるのは、なまえと廻と興味のない数人のみ。
同じように台風をワクワクしていたのに、廻は寝ていた。今朝の足りなかった睡眠はここで補充する気らしい。
少し離れた席で、その廻の様子を見て「マイペースだなぁ」となまえは笑った。
そういう自由な所も廻らしくて、好き。
「……おい、ジーコパス〜……」
「廻、起きて廻」
夢の中でサッカーをしているのか、そんな寝言をもらす廻を、なまえは肩を揺らして起こす。
「……ふあ……なまえ、おはよ」
「おはよう。よく寝てたね、廻」
この騒がしい教室の中でと、なまえはくすりと笑う。
「なんでみんな騒いでんの。お祭り?」
「台風が予定より早く来てるみたいで、集団下校になるんだって」
「あ、じゃあもう帰れるんだ」
「うん、廻も帰る準備しよ」
登校時は雨が降ってなかったのに、今はザーザー降りである。
同じ帰路同士、上級生下級生関係なく帰る中、廻となまえは後ろの方でマイペースに後をついていく。
「なまえ、ここだよ、ここでジャンプ!」
「廻はできるけどわたしにはむりだよ……」
どうにか靴を濡らしたくないなまえが、水溜まりを避けて慎重に歩いているのだ。
廻が安全そうな道を誘導してくれてるが、廻のようになまえは運動神経はよくないので、この大きな水溜まりは飛び越えられそうにない。
「でも、この雨じゃ濡れずに帰るのはムリだと思うよ?」
珍しく廻は正論を言った。それでも恐る恐る浅そうな所を選んで歩こうとするなまえに、見かねた廻は、えいっと水溜まりを足で切る。
「いっそのこと濡らしちゃえばいいよ!」
「きゃあ」
水飛沫は見事になまえの足元にかかり、靴も靴下もびちょびちょだ。
「もう廻!せっかくここまでがんばったのにー!」
「にゃははは♪」
逃げる廻を追いかけるなまえ。でもその顔は笑っていて二人は楽しそうだ。
もうすでに濡れているので、水溜まりを気にせず二人は追いかけっこのようにバシャバシャ走る。
そのおかげで集団の最後尾に追いついた。
「あっ」
「どうしたの?」
「ママだ!」
急に止まった廻の視線の先には、傘を持った優の姿がいた。
「お帰り、廻となまえちゃん」
「どうしたの、ママ」
お迎え?首を傾げる廻。優は廻に笑いかけてから、後ろのなまえを見ながら口を開く。
「なまえちゃんのご両親から連絡があってね」
二人は親戚の法事で朝早く出掛けていったけど、午後には帰ってくる予定だと言っていたはず。
「予想外の台風の影響で、今日中には帰って来れないみたいなの。だから、なまえちゃんは今日はうちでお泊まり」
「え!ホント!?」
真っ先に声を上げたのは廻。予想通りの息子の反応に母は笑う。
「やったー!なまえ、お泊まりだって!」
「うんっやったー!」
「いっしょにごはん食べて、いっしょにお風呂入って、いっしょに寝ようね♪」
廻はニコニコと笑いながら無邪気に言ったが、途中の言葉は聞き捨てられない。
幼稚園ならまだしも、小学校に上がってしまえば、男女の一緒のお風呂はさすがに問題だ。
「廻とわたしは男の子と女の子だからいっしょにお風呂には入れないよ」
「そうなの?」
自分が何か言う前に普通に答えたなまえ。しっかりしていると優は感心する。
さすが名字さん。可愛い娘さんだし、女の子としての危機管理をしっかり教えているのだろう。(お父さんがあのお父さんだしね……)
うちの子にも、その辺りのことをそろそろ教えといた方がいいのかしら……と優は考える。
思春期にはまだまだ早いが、成長速度は子供によって違う。
起こってからでは遅い。廻に限ってはと思いたいけど。
「なにして遊ぼっか?」
「雨だから廻はサッカーできないね」
「家の中でリフティングはできるよ!」
「じゃあ、リフティング教えて!」
「いいよ♪」
無邪気に笑い合う二人を見て、優は大丈夫かと思えて来た。
「とりあえず、二人とも帰ろっか。まーこんなにびしょびしょになっちゃって」
「なまえとおいかけっこした」
「この雨の中?」
「バシャバシャ楽しかった」
三人で仲良くおしゃべりしながら、雨の中を歩く。
「なまえちゃん。お泊まりの準備、一人でできる?」
「できるー!」
「あとなまえちゃんも濡れてるから着替えておいでねー」
「はーい」
元気よく返事し、なまえは自分の部屋へ向かった。
その間、名字家のリビングのソファで待つ優は、隣に座る廻の肩を掴んで向かい合う。
「廻。なまえちゃんのことはちゃんと大事にするんだよ」
色々な、それは深い意味を込めて。
「うん、ママ。おれ、なまえのこと一生大事にする」
何かを悟ったのか、廻からは真剣な表情と力強い言葉が返ってきた。
いっちょ前に"一生"という言葉までつけて。
「よしっ。よく言った廻!」
優は廻の頭をぐじゃぐじゃと撫でて褒めた。
「準備できた!……あれ、どうしたの?」
「ううん、なんでもないよ。ね、廻」
「うん、ナイショ♪」
「えー気になる〜」
優に誓ったように、廻はこの先もずっとなまえを大事にする。
大事にし過ぎて出したい手をなかなか出せなかったり、我慢の限界が来るのはまた別の話。
蜂楽家に帰ってくると、さっそく二人は遊んだ。今日は宿題も出なかったので思いっきり遊べる。
リフティングの練習、オセロ、トランプ……
「廻、オセロ弱ーい」
「なまえが強すぎるんだよ」
リフティングはまったくできなかったし、運動では負けるなまえだったので、廻に勝ててちょっぴり嬉しい。
「トランプはなにする?」
「んーしんけいすいじゃくとか?」
あとは7並べとか、ババ抜きとか、それぐらいしか廻は知らない。
「わたし、ちがうのがいいな」
「どうして?」
「んー……あんまりおもしろくないから」
「じゃあババ抜きにしよ」
「うん!」
きっと今度も廻に勝てる!そう自信満々に思っていたなまえだったが……甘かった。
「うーん……こっち!」
ぺろりと舌を出して、廻はなまえの手からカードを一枚引いた。
「にゃはっおれの勝ち!」
「負けちゃった」
二人でやるので、ババであるジョーカーはどっちかが持ってるということだが、廻は勘がいいのだ。
「二人とも夕飯できたから、こっちおいで」
「「はーい!」」
トランプをほっぽり出して、二人はダイニングに向かう。
「パスタだー!」
「うまそー!」
「二人とも召し上がれ」
ミートソースのパスタだ。いただきます!二人の声が元気よく合わさった。
「あははっ、廻ちっちゃい子みたい!あと、粉チーズかけすぎ」
「えーいっぱいかけた方がうまいもん」
廻は口の周りにミートソースをべったりつけて、パスタにはてんこ盛りの粉チーズ。
ちなみに、この廻の食べ方は高二になっても変わらない。
なまえはティッシュで廻の口の周りを拭いてあげる。
「かわいい♪」
「もうっかわいいのはなまえのほうでしょ!」
不満げに言いながらも廻はされるがままなまえに拭かれる。
「――二人とも可愛いーよ」
テーブルに頬杖をつきながら、その様子を眺めて優は優しく言った。
「じゃあ、なまえちゃん。先にお風呂に入ってきていいよ。廻はその間お片付けだ」
「いつもは片付けろって言わないのに」
「う……。ほら、たまにはちゃんとお片付けしようよ」
◆◆◆
「なまえちゃん、髪乾かしてあげよっか」
次に廻がお風呂に入っている間、優はなまえの髪にドライヤーをかけ、乾かしてあげる。
廻より長い髪は、乾かすのに時間がかかるだろう。娘がいたらこんな感じかなと考えていると「フフ」と優から笑みが零れた。
「優さん?」
「ちょっと思い出し笑いを、ね」
将来、なまえちゃんはうちの娘にもなるんだっけと思い出して。
廻は大人になったら、なまえに自分のお嫁さんになってもらうと決めているからだ。
「お風呂上がったよー!」
ホカホカで駆けてきた廻。(この時はまだ裸族ではない)
二人の姿を見て、すかさず「あ!」と声を上げる。
「いいなーずるい!」
「えへへ♪」
「おれもなまえの髪乾かしたい!」
え、そっち?これには優となまえ。二人して同時に思った。
「ねえねえ、なまえといっしょに寝ていいでしょ!?」
「わたしも廻といっしょがいい!」
そろそろおやすみの時間……となると、廻となまえは二人で優にお願いする。
お風呂はだめだけど、一緒に寝るのは大丈夫かと優は了承した。
「ただし、夜更かしはしちゃだめだよ?明日も普通に学校あるし、すぐ寝ること」
「「はーい!」」
二人は「おやすみなさーい」と優に言って、嬉しそうに廻の部屋に行く。
「なまえ、電気消すよー」
「うん」
電気を消して、暗くなった部屋で、廻はベッドに潜り込む。
隣にはなまえが寝ている。
ドキドキして、自然と顔がニヤけてしまう。
「……なまえ、おれとおんなじにおいがする」
「え?」
「あ、わかった。シャンプーのにおいだ」
くんくんと嗅いでくる廻に、なまえは「廻、くすぐったい」ときゃっきゃと声を上げた。
その直後、外でぴゅーぴゅーと風が吹き荒れる音が聞こえてきて、なまえの口はぴたりと閉じる。
どこかでガタガタと風が窓を叩く音もする。
「こわい?」
「うん……でも、廻といっしょだからだいじょうぶ」
「じゃあ、なまえがこわくないように、おれずっと手を握ってるよ」
廻はなまえの手をぎゅっと握る。
「安心して眠れそう」
「おれも。眠くなってきちゃった……」
「廻、おやすみ……」
「おやすみ、なまえ」
暗闇に少し目が慣れて、なまえの寝顔を眺める廻。
(寝顔もかわいいなぁ♪好きだ)
そんな感情を抱いて、その手を握ったまま廻も目を閉じた。
明日の朝も、起きたらなまえが隣にいてくれて「廻、おはよう」って、笑顔で言ってくれる。
大人になって、なまえがお嫁さんになってくれたら、ずっとこんな毎日が続くのかな。
早く大人になりたいな――そう思いながら、廻は眠りに落ちた。
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あでぃしょなる⚽たいむ!
#綺麗好きの馬狼さん
〜ブルーロックにて〜
「――おい、蜂楽。お前殺すぞ」
「馬狼じゃん。なんで?」
「なんでじゃねえよ。お前が雑にパスタ食うからソースが飛び散ってんだろうが」
「え、マジ?染みついちゃう」
「テメェの服にじゃねーよ!!テーブルにだよアホパッツン!言ってんそばから粉チーズ飛ばすんじゃねえ!」
「まあまあ……。とりあえず蜂楽、まずは自分の口拭けよ。ほら」
「あ、潔サンキュー。いつも拭いてくれるなまえがいないのさびしー」
「(彼女に拭いてもらってんのかい、コイツ……)」
「どうでもいいがこれ以上汚すんじゃねえぞ」
「あいあーい」
「馬狼……結局お前が綺麗にするんだな……」
「やっぱメイドじゃん」