夏休みも後半に差し掛かった頃、今日は近所の町内会の夏祭りだ。
なまえ父も手伝いに参加しており、なまえは廻と一緒に行く約束をしていた。
「――はい、できた」
「お母さん、ありがとう!」
姿見で、前と後ろと自分の浴衣姿を眺める。
花柄の浴衣に、半幅帯で結ぶにはまだちょっと早いので、へこ帯でふわっと結ばれている。
髪型も、浴衣に合わせて母が結ってくれたもの。
下駄はまだ危ないからと、普通のサンダルを履いて、なまえは母と一緒に家を出た。
「あっ、なまえー!」
自身の自宅の前で、甚平を着た廻が大きく手を振る。
「廻!甚平すごく似合うねっ」
「へへっ。なまえも浴衣似合ってるよ!金魚みたいでかわいい♡」
お互いの浴衣姿を褒め合う二人。
二人の母たちも互いに顔を見合わせ、微笑ましく笑ってから、四人でお祭りに向かった。
「屋台いっぱい出てるー!」
「楽しそう!」
夏祭りは公園で行われていた。
真ん中には小さなやぐら。ちょうちんが連なり、薄暗い中、ぼんやりと辺りを照らしている。
そこにスポンサー名が書かれているのは、町内会のお祭りならでは。
「公園の外に出たらだめだよ。知らない人に声をかけられてもついて行かないこと」
「わかった!」
「お母さんたちはここの休憩スペースにいるからね」
「はーい!」
優となまえ母からの注意事項に、二人は元気よく返事をした。次にお小遣いを渡されて、自分たちで食べたいものを買うという社会勉強だ。
「行こう♪」
「うん!」
廻となまえ。親の目が届く範囲内での、初めてのお祭りデート。
「なに食べよっか?」
「あ、廻、たこ焼き食べたいな。半分こして食べない?」
「いいね♪」
ソースの香ばしいにおいが鼻をくすぐり、引き寄せられるように、二人はたこ焼き屋にやって来た。
「へい!らっしゃい!」
「お兄さん!たこ焼き一つちょーだい」
たこ焼きをひっくり返すお兄さんに向かって、廻は元気よく注文する。
「二人で食べるのか?」
「うん、半分こすんの」
たこ焼きに串を二本刺してもらい「熱いから気をつけて食べろよ!」出来立てを廻は受け取った。
「たこ焼きおいしそう!」
「なまえ、食べよう!」
すみに寄って、さっそく二人はたこ焼きを食べることにする。
熱々のたこ焼きを、二人はふーふーするが、慎重ななまえとは違い、廻は先にぱくりと口に入れた。
「あっふーい!」
「廻、大丈夫っ?」
あふあふとしながら咀嚼して、なんとか飲み込んだが、べえと赤い舌を出す。
「ヤケドしたかも〜……」
「たいへん!えっと……そうだ!かき氷買ってくるから待ってて!」
なまえは慌てて駆け出して、すぐに「あっ」と何かを思い出して、くるりと戻ってきた。
「なに味がいい!?」
律儀に味を聞いて、再びなまえは駆けて行く。
「冷たーい♪」
なまえが買ってきたかき氷を食べて、廻は口の中を冷やす。もう痛くないと笑う廻に、なまえはほっと安心した。
「なまえのおかげ!」
「ひどくならなくてよかった」
「なまえもほら……あーん」
すくったかき氷を差し出されて、なまえは戸惑う。
親以外からあーんなんて、食べさせられるのは初めてだからだ。
「ほら、早く。かき氷溶けちゃうよ?」
急かす廻の言葉に、なまえはおずおずと口を開けた。
「おいしい?」
「……おいしい」
こくりと恥ずかしそうに頷いたなまえに、満足そうに笑う廻。ちなみに、これをきっかけに廻はよくなまえにあーんするようになる。
そのあとは、焼きそばにチョコバナナ、ベビーカステラにりんご飴。
手当たり次第に屋台のものを買って食べて、お腹いっぱいだ。
「なまえ、ヨーヨー釣りしようよ!」
「やりたい!」
お腹が満たされたら次は遊戯。
ヨーヨー釣りでは、カラフルなヨーヨーが水の上に隙間なく浮かんでいる。
「廻は黄色狙い?」
「うん!なまえは?」
「んー……ピンク!」
どの輪ゴムがお目当てのヨーヨーに繋がっているかはわからない。
運にまかせて、二人はえいっと同時に輪ゴムを引き上げた。
「やったー!黄色!」
「すごい、廻!」
見事引き当てた廻とは反対に、なまえが引き当てたのは黒色。
かわいい色じゃないなぁとしょんぼりするなまえに、廻はその手にあるヨーヨーと、自分のヨーヨーを入れ替える。
「……え」
「交換しよう♪なまえ、黄色も好きでしょ」
「う、うん。でも……いいの?」
「うん!黒、かっこいいし!」
「……ありがとう、廻!」
廻に交換してもらったヨーヨーを指にかけ、嬉しそうにぽんぽんした。
なまえが黄色を好きな理由。廻が好きな色で、廻のカラーだから。
楽しげにヨーヨーをぽんぽんしながら、二人が次に訪れたのは……
「よく来たね。二人とも」
「あ、お父さん!」
手伝いをしていたなまえ父は、輪投げコーナー担当だったらしい。
「二人もやってくかい?もちろんお金はもらうぞ。一回100円だ」
やる!と二人は元気よく答えて、100円支払った。
「じゃあ、この線に立って、輪投げが成功した数だけ景品がもらえるんだ」
「なまえ、がんばれ!」
「いいか、なまえ。まずコツは、こう手首をだな……」
「お父さん、自由に投げさせて」
「……はい」
父のアドバイスを一蹴し、なまえはひょいっと投げていく。
子供用に簡単にしているとはいえ、なかなか難しい。
五回投げて、結果、成功は二回だった。
なまえは景品の駄菓子をもらう。
「廻、がんばって!」
「まかせて!」
「廻くん……。もし、この輪投げが全部の棒に引っ掛けるというパーフェクトを成功したら、なまえを嫁にもらうことを認めよう」
「えっ、お父さん、ホント?」
「まだお父さんと呼ぶのは早い!」
なまえはその光景を呆れてみていた。もちろん廻ではなく、父にである。
そんなことで認めるってどうなの――と。
「ただし!こっちの大人向けのラインからだ」
大人向けラインは、小学生の廻には当然少し遠く、難易度が上がる。
「失敗したら、もちろん認めない。それでもやるかい……?」
「もちろん!」
なまえ父の挑戦を、廻は力強く答えた。
「心意気は立派だな」
輪投げを廻に渡す。廻は受け取ると、集中して狙いを定めた。
サッカーの才能はあっても、輪投げの才能は果たして……?
「よっ」
廻が投げた輪投げは綺麗に水平に飛んで、棒にくるくる回って引っ掛かった。
「!?」
「すーごい!廻!」
無理だろうと高を括っていたなまえ父だったが、一投目が成功して内心焦る。
廻は得意気にぺろりと舌を出して、二投目を投げた――……
「はっはっは!残念だったな!」
「難しすぎ〜」
いい線はいっていたが、結果的にパーフェクトにはならず。
「はい、残念賞だ」
代わりに廻は、駄菓子をいっぱいもらった。
「なまえをお嫁さんにするのは諦めるんだな!」
なまえ父も本気で言ってるのではなく、楽しんでいるのだが(これぐらいで諦めるようならなまえはやれん)
廻はそのさらに上をいく、ポジティブさを見せつける。
「じゃあ、かけおちするしかないね♪」
「かけおち?」
「駆け落ち……だって!?」
――だから、齢7歳の子がどこでそんな言葉を覚えたんだ!
「行こっなまえ!」
「あっ、こら、待ちなさーい!」
廻はその手をバッと掴むと、なまえ父の制止を振りきり、なまえを連れ去るように駆けて行った。
「駆け落ちはお父さん許さないぞーー!」
「「………………」」
両手をメガホン代わりに、人目も気にせず叫ぶなまえ父に、周囲の怪訝な目が集まった。
駆け落ちのごとく、笑顔の廻はなまえの手を握って走る。
向かった先は――
「あ、お帰り二人とも」
「廻もなまえちゃんも楽しんできた?」
帰ってきた二人を、母たちは優しく迎えた。
テーブルには枝豆にビールと、母同士楽しくやってたらしい。
「なまえとかけおちしてきた♪」
「駆け落ち?」
短い駆け落ち。
お祭りをたくさん堪能し、すっかり真っ暗になった帰り道に、二人は約束を交わす。
「ねえ、なまえ。また来年もお祭り行こうね!」
「うん!約束ね」
◆◆◆
――そして、翌年。約束通りお祭りに遊びに来ていた二人は、今回は金魚すくいをしていた。
袖が濡れるのも気にせず、廻はひときわ元気な金魚を、ひょいっとすくい上げる。
「はい、なまえ♪」
「わぁ、ありがとう廻!大切に育てるね!名前、なににしよー?」
「んー……コイキング!」
「え、成長したらギャラドスになるの……?」
廻命名のコイキングと名付けられた金魚は、ギャラドスには進化しなかったが、数年後……
「ますますコイキングでっかくなったね。これ、いずれ鯉になるんじゃない?」
「エサ、あげすぎたのかなぁ。これ以上大きくなったらちょっと困るな」
なまえが大切に育てた結果か、あんなに小さかった金魚はでっかく成長して、大きな水槽の中を悠々と泳いでいる。
「廻がコイキングって名前にしたからかも」
「にゃはっ、名前に相応しい立派な姿になっちゃったね」
ちなみに、このコイキング。メスだということは誰も知らない。
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あでぃしょなる⚽たいむ!
#廻の得意技
「はい、なまえ、あ〜ん」
「あの、大丈夫だから、廻……」
「いいからいいから。ほら、早く♪」
〜〜〜
「なまえ、これおいしいよ!はい、あーんして」
〜〜〜
「なまえもチョコ食べるっしょ。ほい、あ〜ん」
〜ブルーロックにて〜
「潔、よく決めました!はい、ご褒美。あ〜〜ん」
「いいよ、蜂楽……自分で食べるから」
「そう言わずどーぞ。俺、食べさせるの得意だから!」
「得意ってなんだよ……」
「ここだ!」
「もが!?」
(全然得意じゃねーじゃん!凶器だったぞ今!?)
※なまえには優しいがそれでも強引。