なまえのサッカーの概念は、廻のサッカーによって作り替えられた。
楽しそうにボールを蹴って、それでいて魅了するテクニカル。
初めて目にしたときは、自然と「ボールとダンスしているみたい」っていう言葉が口から出た。
誰かとサッカーをしていると、その才能の片鱗がよくわかる。
いつだって、廻が一番うまい。
特にドリブル。くるりと躱して、隙を突いた股抜。
正確に通したボールは、廻の脚から放れることなく、そこからヒールリフト。
一人、二人、三人と抜いた先にはもう誰もいない。
そこは廻だけのスペース。
「ボン♪」
軽いシュートでボールはばすっとゴールに入った。
――なまえは廻がサッカーしている姿が大好きだ。
いつもと違う真剣な表情も。
夢中で自分の好きなことを熱中している姿も。
誰よりもかっこいい。
「――廻!!」
だからか、なまえにはわからなかった。
皆が"蜂楽廻"という、天才の存在に気づかないことに。
「なにしてるの!?…廻、だいじょうぶ!?」
「なっ……なんだよ、こいつが先に手出してきたんだ!」
「せーかくには、足だけど」
廻は今日もサッカーしてるかな――そういつものサッカーゴールがある公園を覗いていたところ、急にその場はケンカに発展し、なまえは慌てて駆け寄っていた。
「だからって三人がかりはだめでしょ!わたしが廻の代わりにあやまるから、そっちも廻にあやまって!」
「っ誰があやまるかよ!意味わかんねー!行こうぜ!」
その場から立ち去る三人組には気にも止めず、なまえは立ち上がろうとする廻を支える。
「だいじょうぶ?廻」
「……ん……」
血が出てると、なまえはそこをハンカチで押さえる。
「……なんでケンカしたの」
「……あいつらがおれを変って言うから……」
「廻は変じゃないよ。でも、顔蹴ったらだめだよ?」
なまえは廻を家まで送り届けると、優に事情を説明した。
「ありがとう、なまえちゃん。後は大丈夫だから、もう遅いしなまえちゃんもお家にお帰り」
笑顔で言う優になまえは素直にこくりと頷く。
「また明日ね、廻」
「…うん、また明日」
笑顔で廻に手を振れば、廻も少しだけ笑って振り返してくれたから。
だから、これはただの男の子の些細なケンカだろうとなまえは思っていた。
でも、それは違くて、自分が思ってたより溝が深いんだと気づいたのは――
「にゃはは♪こっち、こっちぃ!!」
廻が誰ともサッカーをしなくなってからだ。
「やべーよ、アイツ…見えない友達がいるんだ…」
「やっぱ変だ」
「キモっ♪」
あの日の三人組はそう言い残し、どこかへ行ってしまう。
でも、なまえは違う。わかりたいと思うから、もっと廻のことを知りたいと思うから、一歩足を踏み込む。
この行動は廻と出会う前のなまえからしたら考えられない行動だ。
「廻、だれとサッカーしてるの?」
「"かいぶつ"と!」
無邪気な笑顔で答える廻。
「もしかして、なまえにも見えるの?」
「ううん、見えない。ねえ、廻。それって……オバケ?」
恐る恐るなまえは尋ねた。廻がオバケとサッカーしてたらどうしようと真剣に考える。
「違うよ!"かいぶつ"だよ。おれのなかにいる"かいぶつ"――」
廻はくわしくなまえに話した。
優が話してくれたことを。
信じてサッカーをしていたら、"かいぶつ"が生まれたことを。
"かいぶつ"とするサッカーは楽しいことを。
「……いいなぁ。わたしには見えないから見てみたいな。その"かいぶつ"くんってどんな姿してるの?」
なまえから返ってきた言葉に、廻はぱぁぁと表情を明るくさせる。
本当は少し、ほんの少し、もしもなまえが信じてくれなかったらと……こわかった。
「"かいぶつ"の姿はね!」
嬉しそうに話す廻に、にこにこと話を聞くなまえ。
本当は、よくわかんなかった。
理解したいと思うのに、理解できないかもしれない。
廻は本物の天才だから。
だからあの日、廻のサッカーをしている姿はあんなに眩しく見えたのだ。
才能を持っている者と、持っていない者の違いをなまえは知っていた。
「ねえ廻。わたし、廻のこと信じるよ」
理解できなくても信じることはできる。
なまえは廻が信じたことを信じる。
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あでぃしょなる⚽たいむ!
#イマジナリーフレンド
「廻にだけしか見えない友だち……」
「……なまえちゃんはそれを聞いてどう思った?」
「よくわかんなくて、わかんないからわかりたいと思うけど、やっぱりわかんない」
「あはは、そうだよね。他人を理解するってすごく難しいことだもん。大事なのは、理解しようと寄り添うこと」
「理解しようと寄り添う……」
「なまえちゃん、廻のこと好き?」
「……大好き」
「じゃあ、これからも廻の側にいてくれると嬉しいな。廻もなまえちゃんのこと大好きだから」
「うん!」
「なまえちゃんは、なまえちゃんのままでいいからね」