2/13――バレンタインデーの前日。
なまえの父は少々過保護で、可愛い娘を溺愛している。
きっとなまえは、少し大きくなったらお母さんと一緒にチョコを作って、プレゼントしてくれるんだろうなぁと夢を見ていたが、それは儚く散った。
「お母さんっ、廻にバレンタインデーのチョコを渡したいから手伝って!」
本命チョコを一生懸命作るなまえに「父さんへのチョコは?」と聞いたら「あまったらあげる」とにべもなく返されて、父は泣いた。
「サッカーボールの形にするの!」
廻、喜んでくれるかなぁと考えながら、なまえはチョコを湯煎にかける。
廻の無邪気な笑顔がなまえは大好きだ。
悲しいことがあっても元気がでるし、胸がきゅんっとして可愛いと思うのだ。
そんななまえも周りから可愛いと評判なのだが、当の本人は自分より廻の方が可愛いと思っている。
「できたぁ!」
チョコとホワイトチョコで作ったサッカーボールの形のチョコ。
母の力を借りて作ったといえ、初めてにしては上出来な出来映えだ。
ちなみに毎年、廻に手作りチョコをあげるため、年数を重ねるごとにクオリティーは高くなっていく。
「ラッピングはね〜黄色!」
廻の好きな色でラッピングし、チョコは完成。
あとは明日、渡すだけ。
小学生でもバレンタインデーは浮き立つもので、クラスの男子はなまえから貰えないだろうかと少しそわそわしたが、すぐにないな……と、諦めた。
なまえがきっと渡すであろう人物は、ぼけーと唇を尖らせ、その上に鉛筆を乗せてるこいつだ。
何故、美少女転校生として有名な名字なまえが、変なヤツと有名な蜂楽廻のことが好きなのか、もはや学校の七不思議になっていた。
だって、コイツ。笑いながら一人でサッカーしてるんだぜ?
「ばちらはいいよなー」
「なにが?」
「せめて誰でもいいから一個ぐらい欲しいよなー」
「なー」
「なにを?」
はあ……とため息を吐く男子たちに、廻は首を傾げた。
バレンタインデーというものが、まだ何か分かっていなかったからだ。
今日は何を皆そわそわしているんだろう。あ、給食にプリンが出るからかなぁ――とまったく関係ないことを考えてるぐらいだ。
「じゃあ、なまえ。また明日!」
「あ……、待って廻!」
なまえは廻を慌てて引き留める。
廻ならきっと受け取ってくれると思いつつ、初めて渡すのでドキドキだ。
「はい、これ……バレンタインデーのチョコレート」
「え?」
なまえから差し出されたのは、綺麗にラッピングをされた箱。自分の好きな色の黄色だ。
「わっプレゼント!?やったー!」
「あのね、手作りで……お母さんに手伝ってもらって初めてお菓子作りしたの」
「手作り!?すげー!ありがとう!」
想像の笑顔より喜んでくれた廻に、なまえはえへへと照れ笑いする。
「じゃあまた明日ね、廻!」
なんだか恥ずかしくなってしまい、今度は自分から手を振った。
家に帰って来た廻はさっそく優に報告して、箱を開ける。
「わぁ!サッカーボールのチョコだぁ」
「すごいね!なまえちゃんからバレンタインのチョコもらって良かったね、廻」
「そういえば、バレンタインデーってなに?」
廻の疑問に「バレンタインデーっていうのは……」優は説明した。
(好きな人にチョコをあげる日……)
バレンタインのチョコと一言に言っても、義理チョコやら友チョコやらもあるのだが、なまえが廻に渡したのは紛れもなく本命チョコだ。
"好きな人"という言葉に、廻の心はふわふわしてしまう。
ちゃんとおれは、なまえの好きな人なんだ。
「お返ししなきゃね」
「お返し?」
「ホワイトデーにチョコのお返しのプレゼントをするんだよ」
その話を聞いて、何がいいかなぁなまえが喜ぶプレゼントがいいなぁ――そう気が早く考える廻であった。
◆◆◆
「はい、なまえ。バレンタインデーのお返し♪」
「ありがとう、廻!すごく可愛い!テディベアだぁ!」
廻が選んだのは、クッキーと白いテディベアのキーホルダーがついたものだ。
廻も可愛いと思ったし、何か形に残るものが良いなと思ったからだ。
「大事にするねっ」
満面の笑顔で喜ぶなまえに、廻もすごく嬉しい。
「ねえ、なまえ。来年もチョコちょーだい。おれもお返ししたいから」
「うん!来年も手作りがんばるから楽しみにしててね」
来年だけでなく、再来年、その先も。
二人は互いを想って贈り合う。
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あでぃしょなる⚽たいむ!
#義理か本命か
「はい、お父さん。バレンタインデーのチョコレート」
「!例え義理でもお父さん嬉しいっ!」
「お母さん、ギリってなあに?」
「バレンタインデーのチョコレートの意味には色々あって……」
*チョコの説明
「わたし、廻に本命って伝えてない!」
「大丈夫。揺の気持ちは十分、伝わってると思うわ……」