可愛い二人の日

 廻は小学六年生になった。

「はい、廻。どうぞ」
「やったー!ありがとう!」

 毎年バレンタインデーには、なまえから手作りお菓子をもらってこちらも六年となる。

 今年はチョコチップクッキーで、おいしくてすぐにペロリと平らげた。

 ホワイトデーのお返しは、自分がおいしいそうと思って、見た目がなまえっぽい可愛いお菓子を選んでいるが、少し大人になった廻は考える。

(なまえが本当に欲しいものをあげたいな)

 廻が誕生日になまえから向日葵をもらって以来、お互いの誕生日には花をあげているので、ものを贈るならホワイトデーかクリスマスだ。

 今年のホワイトデーはなまえが欲しいものを贈ろうと廻は決めた。
 さっそくその欲しいものを調査するべく、まずはなまえと仲が良い女の子たちに聞いてみることにした。

「ホワイトデーのお返し?」
「うん。なまえが欲しいものをあげたいんだけど、なんか知らない?」
「なまえちゃんなら蜂楽くんがくれた物ならなんでも喜ぶんじゃないかなぁ」
「うんうん」
「だよねー」

 うーん、それじゃあ意味ないんだよなぁ。
 とりあえず女の子たちは、まかせて!となまえの欲しいものを聞いてみてくれるらしい。
 サンキューと喜んだ廻だったが……

「ごめん!うちらの聞き方が悪かったのか……」

『廻からホワイトデーにもらったら嬉しいもの?廻が考えて贈ってくれたものならなんでも嬉しいな』

 その返答は嬉しい。すごく嬉しいけど……。

「普通に欲しいものはない?って聞いたら、新しい消しゴムが欲しいってのは言ってた」

 消しゴム……。それをホワイトデーにプレゼントするのもなんか違う気がする。

「髪飾りとかは?」「ネックレスとかも嬉しい!」

 女の子たちからプレゼントのアドバイスをもらって、廻は参考にするとだけ言っておいた。
 髪飾りやネックレスをプレゼントして、身に付けてくれたら廻が嬉しい。

(なまえも喜ぶかな……?)


 廻はなまえが本当に欲しいもの――一番喜ぶものをプレゼントしたい。


「ねえ、ママ。なまえが一番喜ぶプレゼントってなにかな?」
「あ、ホワイトデーのお返し?」
「うん」
「廻がなまえちゃんのことを思ってプレゼントしたものじゃないかな」
「似たようなことをなまえの友達にも言われたけど、違うんだよ」
「ありゃ。そっかー」

 いっそのこと直接聞いちゃえば?一緒に買い物に行くのもいいんじゃない?と優は廻に言ったが「それじゃあサプライズにならないよ」と却下した。

「廻もこだわるね」
「だって、びっくりさせたいし」

 てか、ドキドキさせたい。ドキドキして頬を染めるなまえの顔はすごく可愛いくて、廻は好きだ。


 なまえへのホワイトデーのお返しが決まらないうちに、二月も後半になる。


(こーなったら、さりげなくなまえに聞くしかない!)

 とある日――。

 廻はなまえの家に遊びに来ていた。冬は寒がりななまえが家で遊ぼうとなるので、こたつがあるなまえの家に来て、二人でぬくぬく勉強したり(廻はすぐ眠くなるが)ゲームしたりする。

 今日はマリカーで対決だ。廻は好きなキャラクターのキノピオを選び、なまえはヨッシーだ。

「なんで、曲がるときって体も傾くのかなぁ?」
「わかんないけど、一緒に曲がった方が曲がれる気がする」

 カーブで曲がる時に、ついついプレイしている自分たちも一緒の方向に曲がってしまう。人体の不思議だと廻は考えていた。

「なまえ、カーブ曲がるのヘタクソだもんね」
「今日こそ廻に勝つから!」

 白熱したレースは、NPCを置き去りにし、キノピオ(廻)とヨッシー(なまえ)の一騎討ちになる。

「やったー勝ったー!」
「にゃは、負けたー」

 なまえはアイテムを的確に使ったこともあり、廻に勝利した。
 ゲームは終了し、遊んだところで二人は宿題に取りかかる。

「ねえ、なまえって今欲しいものとかないの?」

 なまえ母に出してもらったココアを飲みながら、廻はさりげなく(本人的には)なまえに今日の目的の質問をした。

「欲しいもの?うーん……あ。学校の教室だと足元寒いからストーブが欲しいんだけど、危ないから置いちゃだめなんだって」
(……。え〜〜)

 確かに2月は寒さが厳しく、寒がりななまえらしい欲しいものが返ってきた。違う、そうじゃない。

「そういうんじゃなくて……他にない?」
「他に?……猫!」
「猫!?」

 すっとんきょんな声が廻の口から出た。さすがに廻は本物の猫をプレゼントできない。

「でも、お父さんが猫アレルギーだから飼えないの」

 そう残念そうになまえは続けて言った。(うーん、猫のぬいぐるみとかあげたら喜ぶかな?)

「そういえばなまえ、新しいペンケースが欲しいって言ってなかった?」

 どうも廻くんはホワイトデーのお返しの調査をしに来たようだが、ずれた返答をしている我が娘に難航しているとなまえ母は気づき、助け船を出した。

「そうなの?」 
「そうそう。今の小さくてあまりペンが入らないから、新しいの欲しいなって」
「どんなの!?大きさとかデザインとか!?」
「っ?えっと、大きさはこのぐらいで、デザインは可愛いやつ……?」

 勢いよく話に食いついてきた廻に、なまえはびっくりしながら答える。やっとそれらしい情報を手に入れた。
 ペンケースならお小遣いの予算範囲で買える!

(あざっす、お母さん!)

 廻は視線でなまえ母にお礼を言うと、母は頑張ってとこれまた視線で返した。

 とある日――。

 廻は文房具売り場を巡っていた。なまえのホワイトデーのお返しのペンケース探しだ。
 どんな大きさがいいかは具体的にわかったが、デザインは可愛いというぼんやりした情報しか入手できなかった。

(猫?うさぎ?でも、イルカもペンギンも好きだって言ってたし)

 廻は楽しそうという理由で、動物ではイルカが好きだが、なまえは可愛いという理由で、可愛い動物なら皆好きというストライクゾーンが広い。

「う〜〜ん」

 それか動物じゃなくて、こういうピンクのふわふわした感じなのが良いのかなぁ。廻は悩み、なかなか自分の勘にぴんと来るものもない。

「――あ、可愛い」

 そんな廻の目に止まったのは、可愛いみつばちと四つ葉のクローバーのデザインのペンケースだ。
 廻は自分の蜂楽という名字に蜂がついているので、蜂も好きだ。(リアルな蜂は刺されたら危ないので近づかないが)
 大きさもちょうどいいし、クローバーのチャームがついているのもいい。
 確か、クローバーってラッキーアイテムじゃなかったっけ?

(これ、いいなぁ)

 なまえ、喜んでくれるかな……。よし、これにしよう!
 廻は自分の直感に従い、みつばちとクローバーのペンケースをプレゼントすることにした。


 そして、ホワイトデー当日。


「はい、なまえ。バレンタインデーのお返し♪」
「ありがとう、廻!あ、お菓子じゃないみたい」
「うん!開けてみて?」

 なまえは袋のリボンをほどき、中身を取り出す。

「ペンケース!可愛い!みつばちとクローバーだぁっ。もしかして、廻の名字の蜂から?」
「正解♪」
「嬉しい!大事に使うねっ!」

 喜んでいるなまえに、廻もすごく嬉しい。その笑顔が見たかった。

「わ、中に飴も入ってる!」
「飴はママのアイデアなんだ♪」

 ラッピングを手伝ってと、優にお願いした時だ。

『どうせなら、中に飴入れてホワイトデーっぽくしちゃお』

 きっと、廻のお茶目な部分は母親の優譲りだ。

「ありがとう!優さんにもお礼言わなきゃ。……でも、どうしてわたしがペンケースが欲しいってわかったの?」

 聞いてから、なまえはすぐにあっと自分で気づいた。

「この間、家に遊びに来た時に聞いてたのって……」
「うん。なまえが欲しいものをあげたいって思って探ってたんだ」
「……そうだったんだ」

 廻のその思いが、なまえは何よりも嬉しい。

「ねえ、廻が今欲しいものはある?」

 なまえの問いかけに廻は「んー……」と考える。

「なまえからのお礼のちゅーかな♪」

 本当にもらえるとは思ってなかったので、ほぼ冗談で廻は言ったが……――


「…………へ」

 一歩近づいたなまえ。廻の頬に柔らかくてしっとりしたものが触れた。
 感触は夢だったかのようにすぐに離れる。

「……じゃあ、廻!また、明日ね」

 頬を赤く染めて、恥ずかしそうに笑ってなまえは家に入っていった。
 ぽつりと残された廻は、自分の頬に残った感触に思いを巡らせる。


 夢、じゃない――!





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あでぃしょなる⚽たいむ!
#来年のホワイトデーは


「廻、おかえりー。なまえちゃん、喜んでた?……ってまた幸せそうな顔しちゃって」
「おれ、今ならノエル・ノアとサッカーして勝てそうな気がする……!」
「とりあえず、大成功だったってわけね」
「来年はホワイトデーまで待たずにお礼する!」
「ん?」

(今度はなまえのほっぺにおれがちゅーしてお礼するんだ♪)


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