廻と國神錬介と今村遊大

「いつのまに、潔とあんな連携を生み出したんだ?」

 ――廻がセンターフィールドを後にすると、通路には國神が待っていた。
 う〜んと、廻は考える素振りをしてから答える。

「別に生み出したってほどでもないよ。あの場で潔となら1点取れそうだなって思って、試しただけ」
「その場のアドリブってやつか」
「まあ、そんな感じ。潔が國神にパス出したのは、俺も予想外だったけどね」
「それを言うなら俺もだ。あのとき、雷市の方がフリーだったからな」

 二人はそんな会話をしながら、他の面々と共に更衣室へと向かう。
 廻は先にシャワーを浴びることにした。

(あー……糖分欲しい)


 ◆◆◆


 さっぱりして廻が戻ってくると、また何やら揉めているらしい。

「俺が獲ったあのゴールは、蜂楽と潔がいなきゃ絶対無理だった。あのゴールは勝つヒントになるだろ」
「國神……」
「お前がパスもらってゴールしまくって、得点王になりたいだけだろ!?」
「でも、凄いゴールだった!あの試合のベストゴールはアレだったな、うん」

 雷市の言葉に続けざまに発言した廻。単純なことなのになぁと思う。

「アレをいっぱいやれば勝てる!」

 タオルでわしわしと髪を拭きながら。
 別にポジションとか関係なく、みんなであんなスーパーなプレーをすればいい。

 廻の理論はじつにシンプルだ。

「な!潔!な!」
「蜂楽……」

 廻は同意を求めたが、潔から返ってきたのは、怪訝な表情。

 フルチン、やめろ……!!

 堂々と全裸の廻。何故、蜂楽は裸族なんだ。それは全員思っていたこと。


「8−0!?」
「マジかよ……チームV強すぎ……」

 潔が今回の試合の考えを話していると、突然壁のモニターから現れた絵心。
 驚きの声が上がったのは、第2試合が終了しての暫定順位にだ。

(すげえ、チームV……。やべーヤツがいっぱいいるのかな?)

 戦ってみたいと、廻は神妙な顔をする皆の中で呑気に思う。
 そして絵心が言うには、一次選考セレクション突破に必要なのは、"己の武器"だという。

『ゴールという"革命"を起こすのは、いつだって己の武器だ!!』

 その一歩として……

「自分の武器を言って、全員で把握しよう」

 そう提案したのは久遠だ。チームZルームに戻って、布団の上での作戦会議である。

「じゃあまず、蜂楽くんは?」
「俺の武器は……」

 ペンとノートを片手に久遠は尋ねる。最初に廻に聞いたのは、ウトウトして、今にも寝てしまいそうだったからだ。

「……ドリブル……」


 ……あ、寝た。


 ◆◆◆


 ――翌朝。自分が寝てる間に決まった「次俺9ナイン」という作戦を聞かされた、廻の第一声。

「変な作戦名だね」
「えっ、変かな?俺、けっこう気に入っているんだけど……」

 誰もがつっこみたくもつっこまなかった久遠の作戦名に廻はつっこんで「こいつ、顔に似合わずバッサリいくよな……」イガグリが驚愕の眼で廻を見た。

 そこから、一にも二にも特訓だ。

「このタイミングでボールをくれ!!」
「OK!」
「要求高えよ!!」

 チームとしてはまだまとまってないチームZなので、まずは少人数での連携の特訓をすることになった。
 廻、國神、今村での三人。二人のレベルに今村は、ひーひー言いながらなんとかついていく。

「今村、遅い!」

 國神だけでなく、廻も容赦なく言った。
 今村の得意武器はスピードとテクニックらしいから、これぐらいついてきてもらわないと困る。

「お前ら……無理難題を突きつけて愛を試す「臆病でいて、でもいったん心を開けば尽くしてくれるタイプ」かよ……」

 ……。は?

 廻と國神。息を切らす今村の発言に、同じような顔をした。

「どういうこと?」
「俺にもわからん」
「俺にとってはサッカーは恋愛と同じなんだよ。あー……ついお前らを女の子に例えちゃったじゃん」

 サッカーは恋愛と同じ……?

「どういうこと?」
「俺にもわからん」
「サッカーしかしてこなかったサッカーお馬鹿のお前らにはわかんねーよ!」

 その言葉には、廻も國神も揃って反論する。

「失敬なー!」
「おい、サッカーしかしてこなかったは暴論だろ」
「じゃあ、去年のバレンタインチョコ。二人はいくつもらった?」
「10個だ」

 ドヤ顔で國神は即答した。うち三つは姉と妹と母からもらったものだが、わざわざ自己申告することはない。

「俺は102個だ」
「!?」

 ニヤリと笑う今村に、國神の余裕の表情が崩れる。は……三桁……だと!?待て、どういうことだ。

「蜂楽くんはどうかな?」

 続けてニヤニヤと聞く今村に、廻は大したことないというように口を開く。

「俺、数より質だもん。彼女から手作りチョコもらえればそれでいーの」

 ……!?

 今度は國神と今村が同じような表情をした。

「は!?なに、蜂楽彼女いんの!?」
「うん」

 こくりと頷いた廻に、今村は驚愕する。千切とかならともかく、蜂楽に彼女がいるとは、予想外であり意外だった。

(サッカー大好き天真爛漫なフリしてヤることヤってんのかよ!?)

 たぶん、今村が思っているようなことは、廻はやっていない。

「それより続き続き!今度は俺にパス出して!」
「……そうだな」
「ちょ、待てって!どんな?同い年?可愛い?」
「そんなの今関係ないじゃん?……ま、俺の彼女は世界一可愛いけどね♪」
「そこまで言うなら写真見せてもらおうか!」
「いや、スマホとか没収されて手元にないだろ」

 三人での特訓を再開したものの、その後から恋バナしようと今村がしつこくて、さすがの廻もうんざりした。

「今村、サッカーより女の子の方が好きでしょ」
「じゃあ蜂楽。彼女とサッカー、どっちかしか取れねえってなったらどっち取るよ」
「そんなの……両方!」
「いや、どっちかだって」
「両方取る!」


 サッカーとなまえ。どっちかなんて。
 そんなこと、考えてみたこともなかった。





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あでぃしょなる⚽たいむ!
#潔くんの欲しいもの


「まさか、俺が望んでも手に入れなかったモノを……蜂楽、お前は手にしてたんだな……」
「潔にも潔にしかない武器があるって!」
「いや、サッカーの話じゃなくて。そっちも深刻だけど……」
「えー?」
「バレンタインのチョコだよ」
「ああ、そっちね。ちなみに今村は、去年102個もらったらしいよ」
「は……!?いやいや、どうやったらそんなにもらえんだよ……!おかしいだろ!」
「ほとんど義理かもよ?愛のこもった本命チョコ1個の方が嬉しいっしょ」
「俺はどっちももらってないんだよ!こんちくしょー!」


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