向日葵が笑ってる

 廻は黄色がよく似合う。

 廻自身の好きな色もそうだし、焦茶に近い黒髪からちらりと覗く、黄色の髪は可愛い。
 そして、なまえの好きな花でもある向日葵は、そんな廻によく似合う花だと思う。
 初めてのなまえから廻への誕生日プレゼントも、庭で咲いた向日葵だった。

 ちょうど、今の季節に咲く花。

「ねえねえ、廻。ひまわり畑に行ってみない?」

 満開に咲いて今が見頃なんだと、なまえが誘うと「いいねいいね!行こう♪」笑顔で廻は二つ返事した。
 なんにせよ、廻がなまえの誘いを断ることはない。
 なまえが行きたい場所なら、どこでも一緒に楽しみたいから。


「廻!おまたせ」
「俺も今家出たとこ。じゃあ行こっか」

 当日の午後、千葉県内にある向日葵畑へ。
 駅のバス乗り場からバスに乗り込み、二人は後方の二人席に座った。

「あー冷房涼しい〜」
「あ、私、ハンディ扇風機持ってきたんだ」

 なまえは鞄から取りだし、スイッチを押すと、暑がりな廻に向けてあげる。
「最高〜」
 快適そうな廻の表情に、なまえも笑顔を向けた。

 バスは発車し、他愛ない会話をしながら、すっかり車内の冷房に冷やされた頃……
「あ、ここだ」
 次が最寄りのバス停に、なまえは降車ボタンを押す。

 降りた途端、熱風に包まれる二人。

 せっかく涼んだが、向日葵畑にはここから少し歩かなければならない。

「なんかのどかだね〜」
「田舎に遊びにきたみたいな雰囲気だね」

 夏の田舎のような田園風景を眺めながら。
 途中、蝉が滑空してくると、なまえが小さく悲鳴を上げて逃げて、廻は笑った。

「今年もセミ爆弾の季節っすな〜」
「夏は好きだけどそれが嫌ぁ」

 なまえは虫全般が苦手だが、特にセミが苦手だ。道端に転がっては、生きてるのか息絶えているのかわからず、いきなりジジジ!と暴れるから怖い。

「なまえ、大丈夫♪コイツ足閉じてるから死んでるよ、ホラ!」
「見せなくていいから〜!」

 それによってなまえが通れないときは、セミの生死確認をするのは廻の役目だ。
 ついでに摘まんで見せて、なまえの反応を面白がる。
 あまりしつこくやると本気で怒られるから、引き際が肝心だ。

 そっと廻はそのセミを木陰において「南〜無〜」っと合掌した。
 セミ地帯を通りすぎると、一面の黄色が二人の眼に飛び込む。

「おぉっすっげー!ひまわりだらけだ!」
「わぁ!綺麗!」

 ずらりと並んで咲き誇っている向日葵たち。
 青い夏空に映える黄色が、鮮やかで眼に眩しい。
 入場は無料で、二人はさっそく向日葵畑に足を踏み入れる。
 向日葵に囲まれた通路は、まるで迷路みたいだ。

「廻よりも背が高いよ!」
「ひまわりってこんなに伸びんだね!」

 なまえの家の庭でも、夏は向日葵を育てるが、こんなにも大きくはならない。
 緑色の大きな葉っぱを広げ、太くて立派な茎は、天に向かってぐんっと背伸びしている。その先に元気いっぱいに咲く大輪の花。

 まさに、"sun flower太陽の花"

「はい、チーズ!」

 人が少ない場所で、なまえは向日葵を背景に廻を写真に撮る。
 やっぱり廻は向日葵がよく似合う。
 向日葵に負けない、明るく元気な廻の笑顔が眩しい。

「交代ね♪」

 今度はなまえが、向日葵を背景に写真を撮ってもらう。
「一緒に撮ろ♪」インカメにして二人で撮っていると「よかったら撮りましょうか?」親切な人に声をかけられ、二人で撮ってもらった。

「廻。あそこの高台で、上からひまわり畑を見れるみたいだよ」
「行ってみよう!」

 特別に設置された高台の階段を上る。
 絶景の向日葵畑の光景がそこに広がっていた。

「すごいね!ひまわりたち、みんな太陽の方を向いてる」

 太陽を追いかけるように。その光を一身に受けて、向日葵たちはこんなに力強く咲いているのだろう。

「にゃはっ面白いね!笑ってるみたいにも見えるし」

 "笑ってるみたい"という感想に、廻らしくて素敵だとなまえは笑う。

「一斉に動き出しそう」
「それはちょっと怖いかな……」

 ホラーちっくな。むしろ植物系ホラーって、新しいかも……?なまえはそう思った。


 ◆◆◆


 期間中は屋台も出ているらしい。ヒマワリオイルで揚げたという珍しいフライドポテトに、二人は食べてみよっかと一つ買う。

「ひまわりの味がする!」

 廻の口から再び謎発言が飛び出した。

「廻、ひまわり食べたことがあるの?」
「なまえも食べてみればわかるって!」

 くすくす笑ってたなまえは、廻に急かされ、揚げたてのフライドポテトをふーふーしてから、ぱく。

「……ん!」
「ね、ひまわりの味するっしょ」
「ひまわりの味かわかんないけど、今までのフライドポテトとはちょっと違う味する」
「それがひまわりの味だって!」

 そうなのかなぁ?と思いつつ。廻がそう言い張るので、なまえはひまわりの味ということにした。


 ◆◆◆


 夕陽に照らされる向日葵畑も美しく、帰る前に眼に焼き付ける二人。
 無料シャトルバスも出ているらしいが、混雑状況を見て、夕涼みがてら二人は来た際のバス停まで歩くことにした。

「なまえ。俺、忘れ物したからちょっと待ってて!」

 忘れ物……?なまえは首を傾げながら、突然駆けていく背中を見つめた。
 数分して戻ってきた廻は、にこにこして、後ろに何かを隠している。

「へへ♪」
「?」

 ますます不思議そうな顔をするなまえに、廻はパッと一輪の向日葵を差し出した。

「あーげる♪」
「ひまわり……?」

 それはなまえの庭に咲いてる向日葵や、向日葵畑のものともまた違う種類のもの。
 小さな淡い黄色の向日葵で、可憐な印象を受ける。
 確かにお店では、色んな向日葵の生花も売っていたけど……。

「いつもなまえから庭に咲いたひまわりもらってるじゃん?そのお返しと、ひまわりの花言葉ってのが書いてあって……」

 向日葵の花言葉は花の色にもよって変わってくるが、黄色の向日葵は……

「「あなただけを見つめてる」とか「あなたを幸せにします」なんだって」

 俺がなまえにプレゼントするのに、ぴったりっしょ。

 ……――驚きと嬉しさで、なまえは一瞬言葉を詰まらせる。
 いつだって、廻はまっすぐに気持ちを伝えてくれる。
 なまえは、心からの笑顔を浮かべて口を開いた。

「……ありがとう、廻。すごく嬉しい……!大切に飾るね!」
「よかった」

 廻も嬉しそうに笑う。なまえが喜んで、受け取ってくれるだけで嬉しい。
 プレゼントをした側なのに、胸が暖かくなって、幸せをもらった気分に廻はなるのだ。


 ◆◆◆


 庭に咲く向日葵とは別に、なまえの部屋には一輪の向日葵が飾られた。
 向日葵の花言葉の意味は知らないまま、ただ廻に似合うという理由で、ずっとプレゼントしていたけど……

(私も、廻にプレゼントするのにはぴったりな花だったんだね)

 窓の隙間から入ってきた風に吹かれ、揺れた小さな向日葵。頷くように、微笑んで見えた。





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あでぃしょなる⚽たいむ!
#地毛?インナーカラー?


 〜中学校入学してすぐの出来事〜

「蜂楽、なんだその髪色は!」
「え〜先生これ地毛っす」
「嘘はいかん!あとで職員室に来なさい」
「待ってください、先生!廻の髪色は本当に生まれつきのもので……」
「そうなのか?」
「そうそう♪」
「幼馴染みの私が保証します!」
「む、そこまで言うなら……疑って悪かったな」
「慣れっこだからいいけどね」
「でも、蜂楽。そのパッツン前髪は今時どうかと思うぞ」
「…………」

 〜〜〜

「俺の髪型ってそんなにヘンかなー?」
「廻によく似合ってるし、可愛くて私は好きだよ!」

(うーん。なまえにはかっこいいって思われたいけど、好きって言ってくれたからいっか♪)


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