久々の高熱だった。風邪が流行ってる時期だから、うがい手洗いはしっかりしていたのに。
――数分前に目が覚めたなまえは、ボーッとする頭で天井を見上げていると、不意にドアがノックされた。
「お母さん……食欲ないからいらないって……」
「ちゃんと食べなきゃだめだよ。薬飲むんだし、胃に少しでもいれた方がいいって」
「廻……っ?」
部屋に入って来たのは母ではなく、お盆にお粥をのせて持つ廻だった。
「なまえ、大丈夫?辛い?」
お見舞いに来たよ、と言う廻に「髪ボサボサだし、顔酷いのに……」なまえは顔を隠すように布団を引き上げる。
「なまえはどんな時も可愛いよ」
ちらりと布団の隙間から覗くと、ニコッと廻は笑う。……そんな可愛い笑顔で可愛いって言われても説得力がない。
「……それに廻にうつしちゃうから……」
「大丈夫大丈夫!だって、バカは風邪をひかないって言うでしょ」
「廻はバカじゃないよ……」
そもそもそれ迷信だし……。言ったところで廻は聞く耳持たず、お粥をスプーンで取るとフーフーしてる。
「体、起こせる?」
諦めてなまえは手櫛で髪を整えながら、上半身を軽く起こした。
「はい、あ〜〜ん」
その言葉と共にスプーンが口元に近づいてくるので、なまえは素直に口を開く。
「……おいしい」
「良かった♪」
あんなに食欲がなかったのに、不思議とおいしさを感じた。
廻は再びフーフーと冷ましてから「はい、あ〜〜ん」と、食べさせようとして、なまえはそれに素直に従う。
それを何度か繰り返して、お椀の中身がからっぽになれば。
「よく完食できました!」
いい子いい子、と廻の手がなまえの頭を撫でる。
まるで子供扱い。いつもは逆の立場なような気がするのに、自然と逆転してくるのが廻のズルい所だ。
何とも言えないきゅんとする胸の甘酸っぱさは、熱の苦しみを和らげてくれた。
「じゃあ、次はお薬だね」
「ん……」
「俺が飲ましてあげようか?口移しで♪」
「一人で飲めるから大丈夫……」
「……今日のなまえは重症ちゃんだね」
冗談っぽく言いつつ、廻はわりと本気だったのだが、つっこみどころかスルーされた。
何せ今のなまえは頭が回らない。
後から「そういえばあの時、廻になんかすごいこと言われたような……」と、思い出して赤面するパターンだ。
差し出された薬とコップの水を飲んで、なまえは一息ついた。再びベッドに仰向けに寝ると、おでこの温くなった冷えピタを廻は変えてくれる。
「……ありがとう、廻……」
「どういたしまして」
当たり前のように看病してくれて、すごく嬉しい。
次に、廻の手はなまえの頬に伸びる。
「熱いね……」
その大きな手が熱を持った赤い頬を包んだ。
顔は可愛いのに、廻はサッカーによって鍛えられた男らしい体つきをしている。
同様の、異性を感じさせる廻の手がなまえは好きだ。
「他にやってほしいことある?」
「ん……」
「なんでも言って。俺なんでもするよ」
「……じゃあ」
なまえは素直に甘えることにした。
「私が寝るまで手握ってて……?」
甘えるような声と潤んだ瞳の上目遣いが廻に向けられる。(あ、ヤバ……)
ちょっとだけ意外なお願いに、廻はその眼をわずかに見開いたが、すぐにパッと笑った。
その笑顔の下に、込み上げるもろもろを隠して。
「りょーかい。なまえが寝るまで、俺、ずっと側にいるから……」
指を自分より細い指に絡めて手を握る。
女の子らしいなまえの華奢な手が、廻は好きだ。なまえの可愛い部分の一つだと思う。
なまえは嬉しそうに微笑したあと、眼を閉じた。
「おやすみ――」
眠りに落ちる瞬間、優しい声が聞こえた気がする。
「おはよう♪」
目を覚ますと明るい声が聞こえた。
顔を横にずらすと、眩しい廻の笑顔がそこにあった。
「廻……?」
「ん。おはよう、なまえ」
「おはよう……。今、朝?」
学校に行く前に、様子を見に来たという廻になまえは驚く。あのお寝坊さんの廻が。
「昨日よりだいぶ調子がよさそうだね。はい、体温計」
渡されるままなまえは体温計を脇の下に挟んだ。
「でも、今日は念のため休んだ方がいいって」
「うん……まだ体ダルいかも」
ピピピと音が鳴り、数値を見ると熱は下がっていた。体温が低い朝だからかもしれないが、昨日より頭はずっと楽だ。
それを見て、廻も良かったと嬉しそうに笑う。
「廻の看病のおかげだね」
その笑顔だけで、なまえはいつだって元気をもらえる。
「じゃあ俺、学校行くね。なまえはちゃんと大人しく寝てなきゃダメだよ」
「はあい」
行ってきます――ぽんぽんとなまえの頭を撫でて。(かっこいいなぁ、もう)
サッカーの時だけでなく、そんな顔をするのも廻のズルい所。
「行ってらっしゃい」
平均より少し高いその後ろ姿をなまえは見送った。
◆◆◆
廻の言葉通り、今日一日ベッドの上で安静に過ごしていたなまえだ。
『学校終わったら寄るから』
という今朝の言葉通り、廻は来てくれた。
それに合わせて可愛いパジャマに着替え、今度はばっちり身嗜みを整えたなまえは完璧美少女である。
「部活は大丈夫なの?」
「一日ぐらいサボったって平気っしょ」
楽しくないパスを出すより、病み上がりのなまえの方が廻にとっては重要だ。
友達が心配していたことや、今日の学校での出来事など、廻は面白おかしく話す。
授業内容は頭の良いなまえには必要ないだろう。そもそもどんな授業だったか廻は覚えていないが。
廻の話にクスクスと笑うなまえは、もうすっかり元気だ。
「明日は学校に行けるよ」
熱も平熱に戻ったしと付け加えると、廻は「どれどれ〜確認っ」そう顔を近づけた。
「……っ」驚きの声を上げる間もなく、互いのおでこがくっつく。
「……うんっ。ちゃんと平熱だね」
「〜〜っ」
「ありゃ。……ちょっと熱上がった?」
確信犯的に聞く廻に「上がってないっ」と、なまえはその肩をぐいっと押して物理的距離を確保した。こっちは心臓がドキドキしてるというのに、廻は「にゃはは」と無邪気に笑っていて、ちょっぴりくやしい。
「じゃあまた明日!朝迎えに行くから」
「明後日も迎えに来て?」
「なまえが迎えに来てくれる方がいいな。だって寝坊したら起こしてくれるもん」
「しょうがないなぁ」
そんな会話をして別れた後に、明後日は日曜だったとなまえは気づいた。
――翌日。ちゃんと廻は迎えに来てくれていつものように二人は一緒に登校する。
「うえっくしょん!」
「あっ!やっぱり廻、私の風邪うつったんじゃ……!」
「いや、これは……誰かが俺の噂をしている!」
「……それも迷信だけどね」
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あでぃしょなる⚽たいむ!
#相棒はだれ?
「きっと俺の未来の相棒が噂をしてるんだよ!」
「未来の相棒?」
「うん。一緒にサッカーをやってくれる相棒♪」
〜〜〜
「くしゅっ」
「潔、風邪かー?」
「いや、なんか突然くしゃみ出た」
〜〜〜
「くしゅんっくしゅんっくしゅっ」
「凪って、一度でくしゃみ終わらないタイプなんだな」
「うん、だからくしゃみするのめんどくさい……」
〜〜〜
「くしゅんっ」
「(あ、意外に可愛いくしゃみした)」
「誰かが凛のこと噂してんじゃないか。お前ゆーめい人だし」
「そんなのただの迷信だろ。(まさか兄ちゃんが……)」
〜〜〜
「ぶえっくしょん!」
「おまっ!イガグリきたねーなぁ」
「へへっ、誰かが俺の噂をしてるな?」
「誰がすんだよ……」
※オチ