廻と伊右衛門送人

「チームZ第2試合、勝利を祝しまして」

 乾杯かんぱーい!!


 ――乾杯の合図には、すでに飲んでる廻。

 その日の夜、相部屋で祝杯会が行われた。
 我牙丸と潔のゴールをした分で交換したステーキに、皆は「久々の肉だ!」と舌鼓を打つ。
 各自おかずも持ち寄って賑やかだ。

「でも、よくあの場面で走り込んでたなぁ、潔。ボールが我牙丸の頭越えた瞬間、外れたと思ったし」

 盛り上がる中で、思い出したように國神は潔に言った。

「俺も。ボール来るってわかってたのか?」

 続いて言った我牙丸は、遠慮なく食べる成早の首を絞めながら。
「ギブ……ギ……ギブ」
 顔が青い成早を見て(我牙丸はそうやっていつもイノシシを倒しているのかなぁ)と、思う廻。

「いやいや、そーゆーワケじゃないけど……」

 潔も成早が気になりつつ、二人の疑問に答える。

「自分がゴール決めるために走ってたら、あの辺にこぼれてくるのかなぁって思っただけで、たまたまそこにいただけだよ」
「俺は見えてたよ、潔!」

 フォークで刺したステーキと共に、横からひょいっと顔を出して廻は言った。

「だからお前にパスをした。よく決めました!はい、ご褒美。あ〜〜ん」

 ステーキを潔の口元に差しだす。

「いいよ、蜂楽……自分で食べるから」

 潔は左右に避けるが、廻も諦めない。

「そう言わずどーぞ。俺、食べさせるの得意だから!」
「得意ってなんだよ……」
「ここだ!」
「もが!?」

 むりやり潔の口にぶっこんで、廻は満足げに笑った。
 ――全員の胃袋が満たす頃、祝杯会もお開きになる。

「絶対生き残るぞチームZ !!」

 その言葉に、廻はワクワクした表情を浮かべるのだった。


 ◆◆◆


 少しだけチームらしくなったチームZは、毎日のチームトレーニングも順調だ。

「蜂楽、一人でシュート練習か?俺もだ」

 個人トレーニングで物足りなかったシュート練習を廻がしていると、現れたのは伊右衛門だ。
 ちょうどいいタイミングだと、廻はにっこり笑って伊右衛門に言う。

「ねー伊右衛門。キーパーやってくんない?」
「……俺の話聞いてたか?俺もシュート練習しに来たんだが」
「うん、聞いてたよ。守護神伊右衛門にキーパーやってほしいんだ♪ね、ちょっとでいいから!」
「守護神!?待て、そんなに褒めて頼まれたってやんないからな。俺だってFWなんだぞ!」

 …………その数分後。

「ぬんっ!」
「おー!ナイスキーパー!弾かれて悔しいけど、伊右衛門、ガードの精度上がってきたね♪」
「そ、そうか……?」

 ――は!俺はつい喜んで……!

 けっきょく廻のお願いに負けて、キーパーをする伊右衛門の姿があった。


 ◆◆◆


「ほい、潔!」

 その日は数人でのコンビネーションの特訓。
 廻は潔にパスを出すが、潔のシュートは面白いほど外れた。

「はい、潔!外したから交代!」

 ヘタクソだと雷市にドヤされながら、潔はイガグリと交代する。
(潔、考え込んでるなー)
 休憩に入る潔の後ろ姿を見て。

 あの駆け上がってくる潔の存在は、廻にとっての"かいぶつ"だった。そのときの存在感が今はなく、潔は自分の武器について悩んでいるようだ。

「はいはい、練習続けるよー。次の試合までにコンビネーション高めよう!」

 まとめ役の久遠が手を叩いて、練習の再開を促すと、廻もそちらに集中する。

 ――……

『やあやあ、才能の原石共よ』
「!」

 ちょうどボールを奪ったその瞬間。
 壁に付いたモニターからそんな声が聞こえて、廻はボールに足を乗せたまま動きを止めた。

『やっぱソースとマヨネーズって合う――』

 画面の向こうでカップ焼きそばを食べている絵心。
 第6試合の結果と順位を知らせにきたらしい。
 廻はそれよりも、滝のようによだれを垂らしている成早を見て笑った。

 そしてもう一つ、チームZの最新BLブルーロックランキングが更新されたという。

『ストライカーたる者、ゴールで己の可知を証明すべし』

 その中でも価値の高い得点ゴールを決めた者が上位だと、絵心は言った。

『つまり、現在のチームZのトップランカーはお前だ……潔世一』

 映し出される最新ランキングの上位は、265位の潔……

「あ、ちょい下がった」

 廻はその265位から268位に下がってしまった。ゴールを決めてないからとはいえ、ちょっぴりがっかりする。
 それはさて置き、24時間後にチームWとの試合になり、いつも唐突だなぁと廻は思う。

「OK。今日はここまでにして、各自明日に備えよう」

 久遠の言葉に、皆はその場をぞろぞろと後にする。
 廻も頭で手を組ながら、その後ろについていく。ふと、足を止め、引き返す國神の姿に気づいた。


「おいおい、一人だけ抜けがけの走り込みかよ」
「!」
「チームZランキング1位のお前にそれやられたら、俺もやらない"ワケ"いかないっしょ」
「國神……」

 一人走り込むをする潔を、追いかけるように走る國神。

「ズルいよ、俺も交ぜてよ」
「蜂楽!」

 同じように廻も走る。なんで……というように、驚き顔の潔に笑った。

「ありゃ?自覚ないんだね、潔。このチームZはもう」
 
 潔を見つめたまま、廻はクイっと親指を後ろに向けた。

「お前を中心に回ってる」

 國神と廻だけでなく、皆も潔を追いかけるように走る。
 潔を先頭に、そのまま全速力の走り込みだ。

 ただひとり、――千切を除いて。

 "でも、楽しそうでいいなぁって顔してたよ"

 皆の走る姿を見ながら、千切は廻に言われた言葉を思い出していた。


 ……――その夜、チームZのモニタリングルームにて。
 VTRを観ながら、明日の対戦チームのミーティングを行う。

「俺たちの次の対戦相手。チームWの重要人物キーマンはこの二人……」

 鰐間兄弟だと、伊右衛門が言った。

(どっかで見たことあるような……?)

 椅子にあぐらをかいて座っていた廻は、んーと身を乗り出して写真の顔を眺める。

(あ、思い出した)

 小学生の頃、バカにしてきたアイツに似てるんだ。
 廻は思い出してスッキリすると、今度はうとうとしてきた。
 つらつらと話す伊右衛門の落ち着いた声が、さらに眠気を誘う。

「ゴメン、お待たせ!」
「おかえり〜……監督」

 長風呂から久遠が戻ってきて、廻は眠そうな眼を向けた。

「明日の試合の作戦名考えてたら遅くなった……!!そっちは……どう?」

 ほかほかで火照った顔は、湯あたりしていたらしい。
「今モニターで分析してたとこ」
 水をごくごくと飲む久遠に、潔が答える。

「次の試合、俺たちは練習してきた通り、前の試合の反省を活かした作戦でいく!」

 "次俺9ナイン"は、一人の武器を10分間だったが、今度は相性の良い武器を持った三人が3トップを組み、30分間ずつ3回の布陣変更フォーメション・チェンジで回していくというもの。

 廻は「おお〜さすが監督」と称賛した。

「その名も「3×3サザンオールスター作戦」!!」

 自信満々で考えた作戦名らしいが「いや、ダサ」「壊滅的ネーミングセンス」と、不評の声が飛び交う。

 変な作戦名だけど、俺は嫌いじゃないよ?

 GKは伊右衛門で固定らしく「やっぱり伊右衛門はチームZの守護神だよね」と、廻はうんうんと頷いた。

「……千切は?いいの?ずっとDFで?」

 気遣うように尋ねた潔に、視線を逸らしたまま、千切は口を開く。

他人ヒトの心配する暇あんなら、自分がゴール決めること考えろよ。そんなんじゃすぐ追い抜かれるぞ」
「あ、ゴメン……」

(……?)

 潔と千切のやりとりの様子になんとなく違和感を覚える廻は、不思議そうな顔で二人を見た。


 ◆◆◆


 廻たちがチームWとの試合に挑む頃。

 全国高校サッカー選手権の本選を、玲王・凪不在でも、なんとか勝ち抜いてきた白宝高校。

 ここに来て、強豪校に当たっていた。しかも……

「生吉良くん、やっぱオーラあるなぁ……」
「爽やかイケメンだよな……」
「玲王とどっちがモテるんだろ?」
「そりゃあ俺らのBOSSだろ!」
「いやぁ、相手は日本サッカー界の宝、吉良だぜ?」
「みんな、おしゃべりはそのくらいで、アップをしっかりね」
「「はい!マネージャー!!」」

 そう皆に言ったものの……、なまえも吉良の存在は気になっていた。
 写真で観たときはもっとキラキラしているように見えたけど、実物は影があるような……ではなく。
 対戦相手は松風黒王高校。そのサッカー部に所属しているのは、あの日本サッカー界の宝の吉良涼介だ。

 "青の監獄ブルーロック"に行っているはずだった吉良が、今回スタメンにいるのは誤算だった。

(あの吉良くんが脱落するなんて……)

 "青の監獄ブルーロック"は脱落すると、問答無用で追い出されるらしい。
 廻、凪、玲王。三人が戻ってきていないということは、まだ"青の監獄ブルーロック"で戦っているということだ。

 帰ってくることが脱落を意味するなら――。

 なまえはずっと会えなくても、さびしくても、廻が……三人が帰って来ないことを願う。

(……ううん。今は、目の前の試合に集中しなくちゃ)

 それはそうと……あの吉良の脱落に、廻が大きく関わっていたなんて、なまえは夢にも思わない。


 ◆◆◆


 ――KICK OFF!
 
 チームZと、チームWの試合が始まった。
 チームWの攻撃の要は、鰐間兄弟によるコンビネーションプレー。

「ありゃ?」

 ミーティングで対策していたものの、簡単に中央ラインを突破されてしまう。
 廻が気づいた時には、二人はボールと共に後ろにいた。

「俺たちの武器は"以心伝心連携アイ・コンタクト"!!付け焼き刃のDFで看破できるほど甘くないぜ!?」

 鰐間弟、計助。

「――と、お兄は深く思ってる」

 弟の言葉にコクコクと頷くのは、兄の淳壱。

(変なヤツらだけど、うま!)

 鰐間兄弟はあっという間に最終ラインまで到達したが、潔のファウル覚悟のプレスでボールを奪った。
 プレーは続行。潔は前線にボールを送る。

「ナイスパス、潔!」

 今村からイガグリへ……そこから高めのロングパス。
 数名に囲まれながら、久遠はジャンプした。
 額でボールを受け止め、続けざまのヘディングシュートがゴールに決まる。

「しゃあ!!」

 チームZの先制点だ。

(久遠ちゃん調子いいじゃん)

 喜ぶ久遠に、廻も笑顔を向けた。
 どうやら流れはこっちのようで、試合再開、数分もしないうちに再びチームZにチャンスが訪れる。

「お兄、後ろ来てる!」
「!?」
「集中してないよ、コイツ!」

 國神が淳壱に詰め寄り、駆け寄る廻に意識を向けた瞬間。
「うらぁ!」
 國神が廻に向けてボールを蹴った。
 
「いただき♪」
「だから言ったろ!お兄のアホー!!」

 廻はドリブルしながら、パスを出すべき人物を見定める。

「ターゲットマンは、久遠ちゃんだね」

 ゴール前に向かって走る久遠に、狙いを定めてパスを出した。

「キミの"武器"のジャンプ力なら、届くっしょ?」

 廻の期待に応えるように、高く飛んで胸トラップして……
「お、マジか」
 そのまま久遠はシュート体勢に入る。それには廻も驚いた。

「そっから撃っちゃう?」

 GKは反応できず、ボールがネットを揺らす。

「っしゃあ!!」
「久遠、お前またかよ!フザけんな!GK反応出来てねぇ!」
「ズリぃぞ、お前ばっかし!!」

 本当に今日のターゲットマンは久遠かも知れない。
 0−2。前半30分が経過し、フォーメーションの交代だ。

「っしゃあ、ここからは俺ら3人がFWだね!」
「久遠ばっかし目立たすかよ」
「押せ押せでいく!」

 鳴早、雷市、我牙丸。その三人を興奮気味に追いかけるのは、淳壱だ。
 計助が慌てて止める間もなく。

(お、手ぇ出しちゃう?)
「うに゙ゃ!?」

 廻の眼からだけでなく、誰が見ても立派なファウルだった。後ろから鳴早を引っ張った淳壱に、ホイッスルが響く。

『鰐間淳壱ファウル!チームZ、FK!』

 三度目の巡ってきたチャンス。FKのキッカーは廻だ。

「バタついてんなぁチームWアイツら……」

 マークが甘いのは……――見据える廻の眼が見開き、口角を上げる。

(あそこだ♪)

 廻の蹴ったボールは、狙い通りに弧を描くように飛んだ。だが、そこに高く飛び上がった久遠は、またしても予想外だった。

「!?」

 再びヘディングシュートでゴールを決める。
 一人で三点決めた久遠は……


「ハットトリック!!!」


 そして、前半45分終了し、ハーフタイムに入った。


「っしゃあ!!」

 チームZのロッカールームは、優勢に盛り上がっていた。

「前半で3−0!久遠の武器炸裂!1人だけ突出させやがって!!」
「なんか今日の俺、上手くいきすぎて怖ぇ!!」
「後半は俺が3点ハット決めて6−0だからな!」
「つーか俺ら強くね!」
「練習通りに実力出せてんだよ!」
「もっといけるぞもっと!」
「久遠監督の3×3サザンオールスター作戦もばっちりハマってるね」

 皆に続いて、水分補給をしながら廻も言った。

「このまま勝ち切るぞ!チームZ!」
「おぉ!!!」
「いくぞぉ!!!」


 チームZは気合十分に、後半戦が始まった。


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