「ついに……納豆から脱出!」
BLランキングのチーム内順位か変動して、チームZ内でトップになった潔は、新しいおかずを噛みしめる。
鉄分豊富のレバニラ炒め。
本音は肉が食べたかったが、納豆に比べれば文句は言えん。
「いいなぁレバニラ……。俺は変わらずたくあんだぜ……」
「やったー!ギョーザ!」
「ベーコンエッグってふざけんな!ただの目玉焼きとベーコンじゃねえか!」
それぞれおかずが変動し、ある者は喜び、あの者は嘆いた。
廻はサンマの塩焼きになったのだが、これはこれで味変えできて嬉しい。廻はおいしく食べていたが、それを見て雷市がぎょっとする。
「おまっ……食べ方汚ねーな!」
「俺ならもっと綺麗に食べられるぞ」
「手掴みは論外だろ!?箸使え!」
野菜炒めを手掴みで食べようとしている我牙丸。ギョーザを手掴みで食べるより、絵面がやばい。
「ほら、我牙丸」
潔は我牙丸に箸を渡し、皆で使い方のレクチャーをする。
話は戻って……
「で、蜂楽。お前は身を崩しすぎなんだよ」
「焼き魚って難しくない?」
「綺麗に食べられる方法があんだよ」
違う食事時に、廻は雷市による綺麗なサンマの塩焼きの食べ方を教わる。
「雷市せんせーお願いしやす!」
「まずは骨に沿って、一直線にさんまに箸を入れろ」
沸点が低くすぐキレるが、素直に教えを乞うと、雷市は意外と面倒見がよく教えてくれた。
「雷市って、綺麗に食べるんだ」
「俺は食べ方もセクシーなんだよ」
それはちょっとよくわからないと廻は思う。そもそも雷市の武器である、セクシーフットボールもよくわからん。
「おお、できた!」
「俺が教えたからな」
雷市によって、さんまの塩焼きを綺麗に食べられるようになった廻は、後になまえから驚かれたとか。
「糖分ほしぃー……」
おかずにはとくに不満を持っていない廻だったが、甘いものが好きなので、糖分を摂取できないのは辛かった。
「缶詰のパイナップルが食べたーい……」
食堂のテーブルに突っ伏して、そうぼやいていると……
「ったく。しょうがねーなぁ」
そんな呆れ声が頭上から降ってきた。顔だけ上に向けると、そこにいたのは成早だ。
成早はスウェットのポケットから、四角い箱のようなものを取り出す。
「他のヤツらには内緒だぞ?」
「キャラメル!?マジ!?いいの!?」
バッと起き上がり、わかりやすく眼を輝かせる廻に、成早は吹き出すように笑った。
「一つだけだからな」
「うん!ありがとう、成早!」
さっそく廻は、ぱくっとキャラメルを口に放り込んだ。
「甘ーい!うまー♪」
まろやかな甘さが口の中で広がり、幸せな気分になる。
「でも、なんでキャラメル持ってたの?」
私物は全部入寮前に没収されるのに。廻はキャラメルを口の中で転がしながら、疑問を口にした。
「……家族からもらったんだ。お守りだって。んで、ずっとポケットに入れてたからすり抜けた」
にゃるほど。俺もなまえにもらったお守り、ポケットに入れておけばよかったな。
キャラメルの甘さを堪能していると……ふと廻は気づく。
成早が見つめるキャラメルのパッケージには、たくさんの応援メッセージが書かれていた。
「……ごめん」
「え?」
「俺、成早の大事なもの食べちゃった」
思わぬ廻からの謝罪に、眼を丸くする成早。
大事なもの……確かにそう、だけど。
「いいって。俺からあげたんだし。てか、蜂楽でもそんなん気にすんだな」
からっと笑う成早。廻にだって、キャラメルを見つめるその眼で、成早がどんな感情を抱いていたのかわかる。
「……でも。これが俺の、"青の監獄"で負けられない理由なんだ」
ぽつりとこぼすように成早は話した。
「蜂楽にもある?負けられない理由」
「俺は――……」
廻が、ここに来た理由でもある。
「みんなともっと、サッカーしたいからかな」
「……なんだそれ」
蜂楽らしいというように、成早は笑った。
「俺、ずっと一緒にサッカーできる友達がほしかったから」
それに――廻にも応援してくれる存在はいる。
ずっと支えてくれるなまえを、がっかりさせたくないし、自分のサッカーでもっとワクワクしてほしいから、廻は頑張る。
「……そっか。蜂楽も色々あったんだな」
少しの沈黙の後、廻は元気よく立ち上がった。そして、うーんと腕を伸ばす。
「糖分補給して元気復活したし、生き残るためにも、成早、練習しよ!」
「……そうだな!」
「お礼に俺のドリブルテクニック、伝授してあげる♪」
「いや、蜂楽の説明ワケわかんないし」
二人は楽しげにトレーニングルームへと向かった。
◆◆◆
チームZ、モニタールームでのミーティング。
伊右衛門が、第9試合のチームWvsチームYの映像と共に現状の説明をする。
チームVと最終戦を行うチームZは……
「"勝てば突破"!それだけだ!」
じつに簡単でいいと廻は思う。話はチームWと引き分けたチームYの話になる。
点数によるあれこれは「?」の廻だが、彼らの健闘で、今の"勝てば突破"という状況になったというのはわかった。
「てゆーかさ、二子ってこんなに自分でゴール狙いにいく選手だったっけ?」
「感化されたんだよ、誰かさんに」
廻が言うその誰かさんとは、もちろん。
◆◆◆
「"次の試合、勝てるかなぁ"のカオ!」
「"お腹いたい"のカオ!」
「"おばあちゃん元気かなぁ?"のカオ」
――くわっと変顔をする廻に、何の顔か当てる潔、イガグリ、我牙丸。
「ブー、正解は……"雨って何味かなぁ?"でした!」
いつだったか、なまえと自転車の二人乗りで海に行く最中に、ふざけてした顔だ。
「当たるかそんなん!」
「難〜〜!!鰐間兄弟の"何考えてるカオでしょーかゲーム"!!」
「おい!何やってんだ、お前ら!次、最終戦なんだぞ!?緊張感持て緊張感!」
「んー、"とにかく怒ってる"カオ」
「コラ、蜂楽……」
「このカオはクイズじゃねぇ!」
なんともゆるい空気は、強敵チームとの最終戦というピリピリ感の反動だ。
廻もずっと張りつめた空気は好きじゃない。肩が凝ってしまう。
「じゃあ、とりあえず作戦会議やろーよ!チームVをどうやって倒すかさ」
「ちょっと待て」
今村の言葉に待ったをかけたのは、雷市。
「俺、コイツのこと許してねーから」
部屋の隅で体育座りしている久遠にぐいっとつめ寄る雷市は、ヤンキーみたいと廻は思う。
「つーか、また作戦バラす気だろどーせ!?ああ!?その前にとりあえず全員一発ずつ殴ってこーぜ!おぉん!?」
「いいぞ、雷市!」
「おし、やるべ!制裁じゃ制裁!!」
そこに続くイガグリと成早。血の気があるなぁとさらに廻が思っていると、潔が止めに入った。
「こんな奴に情けかけんのかぁ!?」
「11人いなきゃ……グループ最強のチームVに勝てないって言ってんだ!」
「バカかよ!俺は戦わねぇぞ!」
潔と雷市の会話に口を挟んだ久遠。久遠は前回のチームW戦で3点を取っており、このままいけば、得点王で勝ち上がれるからだろう。
「じゃあ、次の試合」
そこに國神が話に割って入る。
「現状1得点の俺が3点決めたら……4ゴールで俺が得点王だ。それでもお前は戦わないって言えんのか?」
「ハッ……ムリだろ?俺抜きの11人対10人で、チームVからハットトリックなんか」
「俺はやる。正々堂々とお前を潰す」
國神の眼は本気だった。
「……やれるもんならやってみろよ!サッカーは1人じゃ出来ない……そんなのは俺が一番知ってる……」
「どーゆー意味だ?」
1人じゃできない――その言葉は廻も気になった。その逆で、廻はずっと独りでサッカーをしてきたが……。
「うるせぇ……俺はずっと……。本気でサッカーを……W杯優勝を夢見て努力してきたんだ……」
暗い眼をした久遠がこちらを見る。
「一次選考で終われない……もう、仲間のせいで負けるのは嫌なんだ!」
沈黙が流れた。雷市が吠えて、潔が再びその場を宥めるなか「あ、ちょっと待って」廻はあることに気づく。
「最終戦が終わった時点でもしさ。潔と久遠が3得点同士で並んでたら、勝ち上がれるのはどっちなのかな?」
「え」
自分の名前を例えに出されて、驚くように潔は廻を見た。
「たしか……イエローカードの数が少ない方が勝ちだろ?」
「それも全部同じだったら?」
答えた千切に、廻はさらに疑問を問う。
『BLランキング上位の方が突破ですよ』
答えたのは、画面の向こうの絵心だった。
神出鬼没……と誰もが思うなか、一次選考最後のランキングの発表をする。
(あ、また少し落ちちゃった)
廻はゴールを決めていないので、当然といえば当然だが。
そして、最上位は……
「……ハハ、見ろ。俺が最上位だ」
このルールに沿えば、たとえ國神がハットトリックを決めても、久遠が生き残りとなる。
だが、絵心はストライカーとして「下の下の下」と、久遠を一蹴した。久遠だけでなく、この場にいる全員を「クソだ」と。
そして、世界一のストライカーに必要なものは何かと皆に話す。
それは『成功の"再現性"』
……口は悪いが、絵心の話はワクワクする。
廻は自然と口許に笑みを浮かべ、話を聞いていた。
『"たまたま"勝つな。勝つべくして勝ち奪れ』
絵心が画面から消えると、代わりにラストゲームまでのカウントダウンが表示される。
最後の試合は、24時間後。
「あれ、どこ行くの」
「潔?」
一人部屋を出ていく潔に、廻は声をかけたが、潔は無言のままどこかへ行ってしまった。
――その日の夜。
就寝時間も身体を鍛えている國神や、右足のケアをしている千切。
自分の武器について思考している潔に、恐怖に震えているイガグリ。
それぞれ考えていることは違えど、皆が同じように眠れぬ夜を過ごすなか――
「なまえ……俺……がんばってるよ〜……」
しゃぶった親指の隙間から、そんな寝言をもらす。廻は一人、すやすやと眠っていた。
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あでぃしょなる⚽たいむ!
#if〜もしも、名字なまえがブルーロックにやって来てたらの一コマ〜
「頼んでいた冴の直近のデータ、まとめてあるか?」
「うん、まとめてあるよ。日本代表戦のものと一緒に……――」
凛となまえが真面目な話をしていると、飛び出して来た人物がいた。
「やっぱ凛ちゃんとなまえだ!なに話してんの?どこ行くの?」
「!?」
「きゃあ!?」
――全裸の廻である。
シャワーを浴びて、タオルで身体を拭いていると(……ん?)二人の声が聞こえて……
「!?おい、蜂楽!?」
と、潔が止める間もなく飛び出て今に至る。
「おいパッツン、全裸で寄んじゃねえ!名字は俺を盾にするな!」
「だ、だって……」
「なんでなまえ、凛ちゃんの後ろに隠れんの!」
「廻が全裸だからでしょー!?凛くん、なんとかして!」
「なんで俺が……お前の彼氏だろうが」
「凛くん、廻の家庭教師でしょう!」
「俺はこいつの家庭教師じゃねえッ!」
「ねー!なまえってばぁ!」
「――蜂楽!服!服着ろー!」
そこに慌てて走って来たのは、廻のパンツ(黄色のMサイズ)とスウェットを持ってきた潔だ。
千切、玲王、凪、二子も騒ぎを聞きつけ集まって来た。
「はははっ、またやってんだ?」
「ったく。なまえはお前の彼女である前に俺らのマネージャーなんだから、あんまり困らすなっての。潔、蜂楽に服着させるの協力するぞ。凪も手伝え」
「俺もできれば服着たくないから、蜂楽の気持ちがわからなくはないかも」
「蜂楽くんの裸族と、凪くんのめんどくさがり屋はまた違うと思いますが……」
さらにそこに、激おこ馬狼が登場。
「パッツン前髪ぃ……!何度も言わすんじゃねぇ……水滴を廊下に垂らすな!拭け!今日こそ殺す」
「あ、ヤベ。凛ちゃん俺もかくまって」
「その前に服着て、廻!」
「その前もクソもねェ――!」
*
「蜂楽くんとなまえちゃんの周りはいつも楽しそうやな」
"青の監獄"は今日も平和!
※ただし、絵心さんに「全員、帰れ」と言われる寸前。