一次選考セレクション突破!

「ホラ、楽しくなってきたっしょ?」
("楽しく"……?)

 チームの皆に囲まれる廻の姿が、凪の視界に映る。
 1点を決めたことによって、チームZが息を吹き返したのもわかった。

「……あれ?なんかチームZアイツら、意気消沈?」
「意気投合な。バカ斬鉄……」
「終わってねーなー」
「面白ぇじゃん。完全に潰すぞ」
「……えー。めんどくさ……」

 確かにあのドリブルはすごいと凪は思った。玲王も斬鉄も抜かれたし。でも、"たった1点"奪っただけで負けてるのに、なんであんなに喜んでるんだろうと不思議だ。

 このときの凪は、まだ『楽しい』を知らない――。


(……まだ、見つけられてない天才ってそういうことかよ)

 いつだったかなまえが言っていた言葉を、玲王は思い出していた。
 一見、パスに特化した選手かと思えば、とんでもない武器を隠し持っていた。
 この逆境で本領発揮し、自らゴールを決められる実力。

(恋の盲目じゃなかったっつーわけね)

 こちらを見て笑う廻に、玲王もまた口角を上げる。

「うおお!!凄ぇぞ蜂楽!!」
「1人で1点返しやがった!!」

 対して、廻を中心に沸き立つチームZ。そのプレーはチームの士気を上げただけでなく、彼らに勝つための突破口を見せた。
 廻のプレーは、絵心が言っていた『成功ゴールの"再現性"』に必要な『己のゴールを産み出すための"方程式"』のまさにそれ。

 自分の武器である、ドリブルを進化させたことによって。

 それは誰でもない、自分で見つけるしかない。
 当の廻自身は「その場のインスピレーションでやってみたらできただけ」とあっけらかんに言ってのけた。それこそトリッキーなプレーを産み出す廻の強みだが。


 それぞれ"個"エゴの進化を目指して、試合は再開される。


「なーに盛り上がっちゃてんの……チームZアイツら……。さっきまで死にかけてたクセに……なんかムカツク」
「ん?玲王なんか怒ってる?」
「別に」

 斬鉄からのキックオフでボールを受ける玲王は、口ではそう言いつつ、面白くないという表情だ。

「ただ、サッカー歴半年の俺と凪の無敗記録に……傷がつくのが嫌なだけだ!」

 サッカー歴、半年……!?

 玲王の言葉が耳に届き、驚愕するチームZの選手たち。
「すっげーコイツら、やっぱ"かいぶつ"だよ♪」
 嬉しそうなのは廻だけだ。

「雷市!玲王にマンツーマンマークついてくれ!」
「は?なんだそれ勝手に!!」
「俺と体格の良いお前の2人でハサミ込む!空いたスペースは千切と我牙丸でカバーして!」

 司令塔のように、チームに指示を出す潔。

「凪ぎより先に玲王アイツを潰す!そうしてなきゃさっきと同じようにやられる!」
「よし!それでいこう!5バック気味に守るんだ!陣形フォーメーション修正しろ!」

 潔のあとに伊右衛門も続き、千切と我牙丸はすぐさまポジショニングした。

「クソ……俺のセクシーフットボールが……完全にできねぇポジションじゃねぇか……」

 イライラしつつも、言われた通りに駆け出す雷市。

「やってやるよクソが!!その代わり、負けたら一族までたたり殺すぞチームZおまえらぁ!!」

 玲王の前に飛び出す。横から潔も突っ込むが、察知した玲王は素早くボールを引っ込めた。

「根に持つタイプはモテねーぞ、ギザッ歯!」
「うるせーよ……」

 ――潔の采配は的確だった。

 雷市の執念深いしつけえディフェンスは期待以上で、苦しくなった玲王は、斬鉄にパスを出す。

「斬鉄!」
「任せろ。もっかい俺がゴールまで切り裂いてやる」
「させるかよ、今度は俺が潰す!」
「!?」

 そこに走り込むのは千切だ。

「スピード・キングは俺だ!バカメガネ!」
「親しくないクセに……バカって言うな……ノロマが」

 斬鉄は爆発的加速で千切を離すも、千切の爪先がボールに触れる。

「なっ!?」
「届いたぞ!ノロマ!」
「ナイス千切!よく触った!」
「よっしゃパス逸れたぞ!」

 成早とイガグリがマークにつき、凪はゴールに背を向けてのトラップをせざるを得ない。
 今なら奪える!成早がそう思った瞬間、凪はくるり――

 !?

 反転したかと思えば、シュートモーションだ。そのままゴールに向けて撃った。

「フン!!」

 そこに、まさかの顔面でシュートボールを止めたイガグリ。

「ごぁ……」
「!」
「イガグリ!?」

 痛そうな音と共にボールは弾かれた。鼻血が吹き出しながらもイガグリは叫ぶ。

「止めたぞうらぁぁ!!!」
「ナイス顔面ブロック!」

 イガグリの健闘を称えながら、廻は飛んできたボールをジャンプしてトラップ。

「来いよ、パッツン前髪」
「!」

 立ち塞ぐように、すぐさま玲王が現れた。
 
「さっきのはマグレだろ?そう何回も1人でブチ抜けると思うなよ」
「うん、知ってる。でも、さっきとは違うよ」

 玲王の挑発的な言葉にも意に介さず、けろりと廻は答える。

「戦ってるのは、俺だけじゃない」

 チームで戦うことの強さを、廻は"ブルーロック"ここに来て初めて知った。
 ドリブルで切り込むと見せかけ、パスを出す。

「チームZ、覚醒ターイム!」
「!」
「おう!」

 受け取ったのは國神だ。チッと舌打ちをする玲王。「止めろ!國神そいつのシュート射程レンジに侵入されるな!」

 國神の射程レンジは28mだ。だが、そう易々と敵チームが侵入を許すわけもなく。
 持ち前のフィジカルでボールをキープするも、DFが集まってくる。

「パスだ!國神!」

 我牙丸が呼ぶも、國神はパスを出さない。迷いを見せるその姿に……

「ビビんな國神!!勝負しろ!!お前は、」

 ――スーパーヒーローになるんだろ!!?

 その潔の言葉に弾かれるように、國神はボールを蹴った。
 弾丸のようなロングシュートだ。
 コースはGKの真正面だが、ボールの軌道は不規則に変化した。
 40m付近からの國神の無回転シュート。
 GKは反応ができず、ボールはネットをボスンと揺らす。

「ッシャア!!!」

 ガッツポーズと共に声を上げる國神。ここで、前半終了のホイッスルが鳴る。

「さっすが國神ヒーロー!」

 前半戦で3−2に追いついたのは大きい。

「言ったっしょ。チームZ覚醒タイムって。まだまだ続くよ♪」
「……宣誓布告かよ」

 廻の言葉に「可愛い顔してんのに可愛いくねー奴」と、玲王は内心毒づいた。


「うぉぉし、あと1点差ぁ」
「いくべ!!いくべ!!」
「やばかったな!!國神のシュート!!」

 チームZのロッカールームでは、一時の絶望的な空気が嘘のようだった。
 廻はというと、給水ボトルをべこっと凹ませ、口に噴射するように水分補給をしていた。
 その飲み方に潔が気づいていたら突っ込んでいただろうが、潔は自分の"成功ゴールの方程式"を見つけるのに熟考している。

「とりあえず5バックはハマってる!後半もこのまま全員が100%以上の力で戦うぞ!!」
「おぉ!!泣いても笑ってもあと45分で終わる!!」
「あと1点で追いつく!そんで逆転だ!!仕事しろよ、前線!!」

 伊右衛門、イガグリ、雷市……

「勝つのはチームZおれたちだ!!」
「ウォォオ!!」


 最後に、久遠以外の――全員の揃った声がロッカルームに響いた。


「いけ國神!」

 潔からのキックオフ。國神はドリブルをしながら前線に上がっていくが、先ほど点を決めたことによって、早くも警戒が強まっていた。

(だったら蜂楽だ!)
「だよね」

 廻はボールをワンタッチで……

「すかさず!我牙丸ぅ!」
「え!?(このタイミング!?)」

 廻の無茶ぶりパスだ。ボールより前に進み過ぎて我牙丸は戸惑うも(いいや、撃っちゃえ!)思いきってダイブする。

「おお!!スコーピオン!!アクロバットシュート!?GK準備してないぞ!」

 ふわっとしたボールは吸い込まれるようにコーナーの隅へ――

「よっしゃ……」

 !!?我牙丸もGKも見ていた者たちも決まったと思ったボールは、斬鉄によって弾かれた。

「はぁ!?クソ……聞いてねーし!斬鉄おまえが守備すんのかよ……!?」

 チームVもまた、玲王によって対応を変えてきたからだ。

チームVむこうも守り固めてきやがった!!」
こぼれ球セカンドボール!」

 イガグリに続いて、今村が仲間に呼びかける。

(来た!!)

 マイボールにしたのは潔だ。ぎりぎり潔の射程圏内。
 そのとき、廻は潔のシュートを期待したが、そのコースは塞がれた。潔はボールをキープするも、後ろから来た奴に取られる。

「何やってんだクソ潔!!お前は撃とうとすんじゃねぇヘタクソ!!!!さっさと戻れ!!」

 容赦ない雷市の怒声が飛んだ。カウンターを警戒するチームZ。ボールは玲王へ回るが、その雷市がストーカー並のディフェンスをし、チームVの攻撃パターンは崩れる。

(雷市、いい仕事してる〜)

 ていうか、鬼体力。そのスタミナは成早と一緒に雷市のからあげをつまみ食いし、どこまでも追いかけられ捕まった廻はよく知っている。
 きっと、地獄の果てまで追いかけてくるだろう。

「お前はあの天才くんがいなきゃ、ただの優秀な器用貧乏くんだ!」
「てめ……」

 煽りも一級だった。その発言は玲王の神経を逆撫でし、咄嗟に出たヒジは雷市の喉に入る。
 悪質なファウルと見なされ、玲王はイエローカードを言い渡された。

 試合はすぐ再開され、雷市は千切にパスを出す。

「やってみろお嬢。俺の方が速いぞ」
「お嬢じゃねーよ……」

 千切の前に現れた斬鉄。爆発的加速力がある斬鉄に対して、千切は自分の武器である長距離疾走ロング・スプリントで勝負を仕掛けた。

鈍足ザコはひっこんでろ」

 勝負に勝ったのは千切だった。ぶっち切った先で蹴ったボールは、正確にネットに突き刺さる。

 3−3。

「ついに並んだね♪」
「一気にいくぞ、このまま!!」
「っしゃあ追いついた!!うらあ!!」

 波に乗るチームZ。
 ――もしかして、チームZコイツら……勝つのかマジで……!?

 コートの隅でただ見ていた久遠は、愕然としていた。

「な……何やってんだよ、チームVおまえら!!?本気出せバカ!!10人相手に負けるとか恥ずかしくねーのかよぉ!!?タコぉ!!!」
「黙ってろゴミが……」

 玲王は視線だけそちらに向ける。点数を追い上げられ、屈辱的だったのは、誰よりも玲王だった。

 ――後半、15分

 前半とは違い、フィールドはチームZが完全に制圧していた。

「玲王……」

 その状況で、玲王のその表情カオを見て――凪は走り出す。


(あれ、あのめんどくさがり屋くん、動いた……?)

 廻の視界に、自ら動いてパスをもらいにいく凪の姿が映った。
 玲王からパスをもらった凪は……
(浮き球ロビングで頭上を意識させて股抜き……!)
 イガグリを颯爽と抜く。そのドリブルテクニックに廻も眼を見張る。

「頼む今村!」
「OK、ついていく!」

 凪は寸前でサイドにパスした。そこには凪の動きに連動する斬鉄の姿が。

(覚醒したのは、チームZ俺たちだけじゃなかったんだ……)

 斬鉄のエグい軌道のパスも超絶トラップし、あり得ない方向から凪はゴールを決めた。

「ねぇ玲王。サッカーって、面白いんだね」

 廻には――覚醒した天才は"かいぶつ"ではなく、"底知れないナニカ"に見えた。


「ああ……最悪だ……このまま逆転できる流れだったのに……」

 頭を抱えるイガグリ。一転してチームZは、再び意気消沈だ。

「くそ……くそぉ……!!あと15分しかないよぉ……!!」
「逆転できなきゃ……終わるぞこれ……」
「……どうする?どうやって凪誠士郎アイツを止める……!?」

 成早、我牙丸。そして國神の全員に向けた問いかけに、答えたのは千切だ。
 それは國神が前線から下りてきて、守備に回るというもの。攻撃力は落ちるものの、もう1点奪られたら負け確実という事態に、全員同意という雰囲気だ。

 それは廻も。どちらにせよ、自分のやるべきことはきっと変わらないだろうから――

「バカか!?攻めろカス!!!」
「!?」
「攻めろ攻めろ攻めろぉぉ!!!」

 静かな場に、雷市の吠えるような声が響く。

「中盤は俺とこのヘタクソでなんとかする!!!攻めろ!!!」
「雷市……!!」

 潔の胸ぐらを強引に掴みながら。

「今さら守り固めてどーすんだ!!あ!!あと15分で逆転しなきゃ終わるんだぞ!!あぁ!?チームZおれたちの攻撃は通用してる!!V相手に3点も取れたのは……今まで俺がやりたくもない守備をやってやったからだ!!」

 ……確かに。雷市が玲王を抑えてくれたのは大きかった。

 そして、その雷市だって……

「俺の努力を無駄にしたらブッ殺す!!!死ぬまで攻めろ!!撃ち合えバカ!!!お前らストライカーだろぉ!!?」


 ――ストライカーの一人だ。


「いくぞ、蜂楽!!」

 潔からのキックオフで、廻はドリブルで駆け上がる……が。(身体が重い……)

 たった一人減った10人というだけで、それは体力に負担がかかる。
 炎天下で東京から大阪までドリブル旅を成功させるほど体力に自信があった廻だが、さすがに疲労を感じていた。

 ましてや、DF三人に囲まれた状況で……。

「うらぁ!!」

 先ほどのゴールで息を吹き返したDFは、強気の姿勢で揺さぶりをかけてくる。
 流れる汗が眼に入って沁みるなか、廻はきょろきょろとパスを出す人物を探した。ここで自分がボールを奪われるわけにはいかない。

「これ以上は、1人じゃムリっす……サイドからブチ抜けお嬢!」
「ああ、任せろ」

 パスを受け取ったのは千切だ。(……潔?)
 そこで、廻は唐突に走り出す潔の姿に気づいた。
 一方の千切は、マークしてきた斬鉄に対して再び追い比べに持ち込む。
 ボールを遠くに蹴った。初速では斬鉄に負けるが、加速後の最速力は千切が上。

「――ナイスファイトだ、バカ斬鉄」

 待っていたというように、ボールの先に現れたのは凪だった。
 千切が斬鉄と追い比べることも、その際にボールを長く蹴り出すことも、凪は読んでいた。

「もらうよ、お嬢さん」
「甘いぞ、天才……」

 その手前に走り込んできた潔は、

「奪うならこの位置だ!!」

 さらにその思考を上回ったかのような動きだった。
(……潔。あの時、走り出したのはこうなるってわかってたのか……?)
 廻の眼には、潔の行動は偶然ではなく予測していたような動きに見えた。

「いくぞ、千切!」

 潔は千切の前にパスを出す。

「いい子だ潔。あとでよしよししてやる」

 失速せずに走る千切に、誰も追いつけない。

「おい、お前ら!ゴール前止めろ!!」
「大丈夫!DF人数足りてる!」

 玲王の言葉にチームメイトはそう返すが、右隅ががら空きなのは、廻の眼だけでなく千切の眼にも映っているだろう。

「どこがだよ、ザル守備ディフェンス……」

 千切は狙い通りにシュートしたが、わずかにGKの指先に触れて、ボールはポストに当たる。

「だぁぁ!!!」
「ポストぉ!!!」

 今村やイガグリから愕然とした声が上がるが、ボールはまだ生きている。
 逆サイドのスペース。待ち構えていた我牙丸がシュートした。

「いった!!!」
「!?」
「クソ……玲王てめえ……」
「これでも決まんねえのかよ!!」

 必死の形相でゴールを守備した玲王。らしからぬ泥臭いプレーだった。
 ――蹴り上げたボールの行方を眼で追う玲王は、息を止める。

「攻め潰すぜ」

 國神のシュートによって、弾丸のように放たれたボールを、止める術はなかった。

「ウルァ!!!」

 再び4−4で並んだ。チームZから大きな歓声が上がる。
 一方、ぽかんと口を開けて見ているのは廻だ。
 今のはまるで、何重にも用意されていた一つの策のように感じたからだ。

 ――残り時間、5分を切った。次の1点が勝負を決める。
 格上との対戦と思われていた試合だったが、もはやどちらが勝ってもおかしくない。

(このまま何もしなければ、俺は生き残れる……!!!)

 コートの隅でずっと見ていた久遠は……

(いいんだよ、このままで……このままで……)

 本気でサッカーをしている姿を見て、熱狂を肌に感じて、心は揺らいでいた。


 その心が、決めた答えは――。


「うぉおらあ!!!」

 ゴール前、背中でトラップするという異次元の発想と神業を見せた凪が、最終ラインを突破して、伊右衛門と対峙したとき。

「止めろォォ!!」
「伊右衛門!!」

 シュート直前、久遠は凪に飛びついた。二人はそろって芝生に倒れる。

『ピピーッ!!チームZファウル!!悪質な反則行為による得点機会の阻止とみなし……久遠渉、レッドカード!!退場!!』

(久遠ちゃん……)

 なぜ、久遠がこんな行動に出たのか、廻にはわからない。何もしなかったら、このままチームZが負けても勝ち残りになったのに。
 國神が3得点決めて並んだ今、フェアプレーポイントでペナルティーが少ない方が勝ち上がりのため、レッドカードになった久遠に勝ち上がりはない。

「久遠、お前……!?何やって……」
「あークソ。これでまだ戦えるだろチームZお前ら

 むしろチームZが負けたら一緒に敗退だ。(えーと、なんだっけ……そんな四文字熟語を習ったようーな……)

 あ、そうだ。一蓮托生。

 負けられない、とは廻は思わない。最初から廻は、負けるつもりで戦っていないから。


「大丈夫か、凪!!?フザけんな久遠てめえ!!」
「止めろ!!止めろ!!」
「玲王……俺ヘーキ」

 廻がマイペースに、マイボトルを取りに行っている間。当然その場は一悶着があった。
 もう一枚イエローカードをもらったら玲王も退場になると、斬鉄が止めている。

「てめぇら……どーゆー作戦だ……?」
「知るかよ……こっちが聞きたいくらいだ……。おい、久遠……」

 玲王の問いに答える國神は、その張本人に話を振った。

「何もしなきゃ生き残れたのに、なんのマネた?」
「……別に……俺が俺の為にやった行為コトだ……」

 久遠は皆から視線を逸らして答える。

「このまま引き分け以下で終わったら、チームZと一緒に久遠おまえは敗退することになるぞ……!?」

 その問いには、少しだけ沈黙する久遠。皆のなんで……という視線が集まる。

「……うっせぇな。わかってたよ、そんなこと……。わかってたけど……身体が動いちまっただけだ……」

 ややあって口を開いた久遠。その眼が、チームZを映した。

「つーかお前ら、絶対に勝てよ。世界一のストライカーになるのは、俺だからな」

 それだけ言うと、久遠は背を向け、ピッチを後にする。

「フザけんなよ、久遠。そんなの当たり前だ。チームZおれたちは勝つ!」

 その背中にその言葉をぶつける潔。一瞬だけ、久遠は足を止める。

「世界一になるのは俺だ」
「俺だろ」

 國神と雷市も続き……再び潔は言う。

「こんなとこで終わるかよ」

 皆も同様というような顔をしたが、廻だけはしっかり水分補給をしていた。

 ――後半、A・T突入。チームVのFKにキッカーが玲王だ。

「ファウルすんなよ!お前ら!」
(え、雷市がそれ言うの?)

 イガグリや我牙丸と同じように、廻は思わず雷市を見た。
 そんな廻は、今村と共に凪についている。

「凪にもう1枚つけ!」
「死守だ死守!」
「壁!!もうちょい右だ!右!」

 今村と成早の焦る声に、伊右衛門の指示が飛び交う。

 凪が最終ラインを突破し、シュートしようとした瞬間、誰もが終わったと思った。

 それが、久遠の行動によって生まれた時間だ。

 なにがなんでも止めてやる――その気迫が伊右衛門にあった。
 そしてそれは、プレーに現れる。

「マジか……」
「パス……じゃない……!?」

 凪か斬鉄にパスをすると思われていたが、玲王は自ら点を取りにいった。
 伊右衛門はそれを予測したように飛んで、ゴールを阻止する。

 ここは、"青い監獄ブルーロック"だ。エゴイストなら自分で撃つだろ――という、伊右衛門の読みは見事当たった。

「なっ!?」
「来たオラァア!!」
「ナイス伊右衛門!!」
「こぼれ球!」

 叫んだ直後、千切の視界に誰よりも速く動いた斬鉄の姿が飛び込む。
 千切は追いかけ、ファウル覚悟で手を伸ばすも届かない。伊右衛門は体勢を崩したままで、ゴール前には誰もいない。
 斬鉄はシュートをした。が、寸前で雷市がスライディングで止める。

「てめぇ……どっから!?」
「フロム壁DF!」

 ボールは宙へ飛び……

「ボール拾え!」
「浮いてる!!」
「誰か先に触れ……!!」

 チーム関係なく忙しなく声が飛び交う。
 ボールは吸い寄せられるように凪の元へ落ちた。
「あと1点……」
 胸トラップした凪は、ゴールのみを見つめている。

「と……止めろぉ!!!」
「うあああ!!!」

 成早と今村が叫んだ。凪の前に伊右衛門だけでなく、イガグリと雷市が集まった。

 それを見てから、ボールを柔らかく蹴った凪。

 ふわったとしたループシュートだ。束になった三人の頭上を易々と越えて、ゴールへと向かう。

「まだだ」

 愕然とする伊右衛門たちを飛び越え、ボールを追いかける我牙丸。
 再び跳んで、しなやかな脚を前に出し、ボールがゴールに入るのを阻止した。

 何度も危機を乗り越え、跳ね返ったボールが最終的に落ちた地点――

「さあ、最後の反撃ラストチャンスだ」

 トン、と足でトラップした潔の姿を廻は眼にした瞬間、走り出す。

「この1プレーで終わりだ!!決めりゃ勝ちだチームZ!!」
「戻れ!!戻れチームVおまえら!!止めれば勝てる!!!」

 ほぼ同時に伊右衛門と玲王が自チームに向かって叫んだ。
 潔が自軍のゴールを背にし、駆け出す。
 自分以外に"二人"も動いたのは、廻は見なくとも感じていた。

 國神と千切。

 んべっと舌を出して、廻は走る。ゴールへの道筋は、きっと潔の頭の中にあると信じて。

「止める……!潰す!!」

 潔の前に現れた玲王。強引に奪いにくるが、一歩先に潔はパスを出す。

(いけ、蜂楽!お前の自由なドリブルで……)

 ――敵陣を切り裂け!!

 あいあいさー!廻は潔の思考通り、後半戦を感じさせないキレッキレな動きで、一人また一人とドリブルで抜いていく。

「!?」

 ガッと後ろから肩を掴まれた。体勢を崩しそうになるところで「蜂楽!こっち!」潔が廻を呼ぶ。
 敵チームがファウル覚悟で止めにくるのを、潔は当然のように読んでいた。

(オーケー潔!)

 廻は潔にパスを出し、潔は逆サイドに向けてボールを蹴る。
 千切へのパス。千切は敵選手を置き去りにし、猛スピードで駆け抜ける。

「人数増やせ!」
「このサイド塞ぐぞ!!」
「来いオラォ!!」
「くっ」

 警戒して前方に敵選手が集まってきた。さすがに3対1は千切も厳しい。

「千切!」
「!」

 そこにタイミングよく現れた潔の存在。
(お前はいつも良いトコにいやがる!!)
 ディフェンスの合間をぬって、千切はパスを出す。

「な!?」
「ワンツーカバーだ!!」

 俺とお前で突破するぞ――と、千切がそう思った瞬間。潔はくるっと中央に切り返した。
 すぐさま千切は気づく。自分は囮で、左サイドにDFを集中させるための作戦だったと――。

 潔はがら空きの中央スペースを走る。
 廻はじっと、その潔の動きを追いかけていた。

 今、ゴールにもっとも近いのは潔だ。

「いけぇぇ!!!」

 ――そんな声がコート外から響いた。久遠だ。息が上がり走るのが苦しくも、その声が彼らの背中を押す。

 ゴールまで35mの所で、DFはあと二人。

 そこで潔は、同じく中央突破していた國神にパスを出す。
 國神と潔の視線が合った。考えていることは一緒だ。

(國神と……)
(潔と……)

 ――俺でブッ壊す!

 敵DF二人さえ突破すれば、あとはGKだけ……

「!?」
「ギリギリ届く!!」

 そこで斬鉄が現れたのは、潔の想定外だった。
 潔の予感よみを越えるスピードで、斬鉄は横から國神のボールをカットする。

「ゔ……」
「お前のミドルは撃たせん……」

 コートの外に向かって転がるボール。

「よっしゃ!外に出たら終わりだ!」

 敵選手の嬉々とした声が響いた。そこには誰もいない。誰もいなかったが――

「ウァ゙ァ゙!!!」
「雷市!?」
「アイツ……!?体力どんだけ……」

 ボールを追いかける雷市の姿に驚愕する玲王。
「決めろって言ってんだろ……殺すぞ……」
 ラインギリギリで雷市の足が届く。

「行けオラぁ!!」
「ナイス雷市!!」

 雷市がボールを蹴った。勢いよく飛んだボールをトラップしたのは……

 蜂楽!!!!

 そう認識した瞬間、ほぼ同時に走り出す千切と國神。

(来い!!)
(俺に出せ!!)

 誰よりもセンタリングの上手い廻だ。「自分が決める」と、廻からパスをもらうため、ベストなポジションに向けて走る。

「センタリング警戒しろ!!撃たせんな潰せ!!」

 それをわかって叫ぶ玲王。

 チームZ、これが本当の最後の攻撃になるだろう。

 千切と國神、二人のルートを確認してから潔は走っていた。二人にDF二枚は向かうので、潔が走るのは空いているゴール左19m地点。

 そこが潔にとっての、ゴールを生む領域テリトリー

 ――来い、蜂楽!!お前なら解るだろ!!?
 俺を、感じろ!!!

(……感じるよ)

 潔の気配!

 その瞬間。離れていても廻と潔、二人の視線はかち合った。
 ドリブルをしていた廻は、ボールを高く蹴り上げる。皆がボールの行方を追う。

 千切と國神、どっちだ――

「信じるよ、潔……最後の一撃……お前に懸ける」
「最高だ、蜂楽……」

 廻は潔にパスを出した。GKと一対一の状況。これ以上ない最大のチャンスだった。

 ――そこに急激な不安要素が現れる。

 潔の後ろを追いかける凪だ。"かいぶつ"のようで、"かいぶつ"とはまた違う異質な気配。

 ボールは落下地点に確実に近づいている。
 凪は内に入り、的確に潔を追いつめる。

「こっちだ潔!!」
「俺に出せ!!」

 千切と國神がパスを出せと叫ぶ。
 潔がゴールを決めるには、今ここで、この瞬間に進化するしかない。

「そうだ、潔。思い出せ」

 潔が内で葛藤しているのがわかり、廻は一人呟く。

「お前のゴールを」

 ――潔に期待していた廻でも驚いた。
 潔が出した"成功ゴールの方程式"の答え。

 それは、直撃蹴弾ダイレクトシュート

 高威力のシュートは、ボールをゴールへと押し込む。

「お見事♪」

 廻は微笑み、ひとり呟いた。そして、試合終了のアナウンスが耳に届く。

『試合終了!!5−4でチームZの勝利!!』

 その瞬間、駆け寄り、潔の背中に飛びつく廻。チーム全員で勝利を喜び合った。……いや、全員ではない。

「おい、久遠!」
「!」
「何やってんだ、お前も来いよ」
「……え」

 気づいた國神が久遠を呼ぶ。

「いいだろ!勝ったんだし、もう……」
「おいおい、勝手に許すなヒーロー気取り」
「雷市……」
「裏切った罪、消えてねーし。俺、許してねーし」

 潔の背中にしがみついたまま、そのやりとりを見守る廻。
 廻は國神と同意見だ。もともと裏切り行為についても許す・許さないで考えていなかったけど。

「でもまぁ……あの瞬間とき凪を潰してなきゃ、勝てなかったのも事実だし」

 そう話してから、雷市は久遠へと手を伸ばす。

「だから、ホラ……来いよ裏切りモン
「あの雷市が許した……」
「うん……あの雷市が……」

 廻と潔が珍しいとそう口にした直後だった。

「フン!!」

 思いっきり、雷市が久遠の頬を殴り飛ばしたのは。
 唖然とするその場。ぐえ、と蛙が潰れたような声を出した久遠。

「お前のことは一生嫌いだけど!!裏切った件はこれで終いだクソゲス野郎!!お前らももういいなぁ!!?」

 後ろで久遠が倒れながら、そう皆に向かって言う雷市。

「はは、勝手な奴……」
「フォー!!」
「うぇーい!!」

 雷市らしいやり方だと廻は思う。なにはともあれ、こうして久遠は正式に許された。

「だとよ。立てホラ、久遠。一緒にアガろーぜ」
「……ああ、すまん……」

 差し出された國神の手を、今度こそ久遠は掴み、立ち上がる。

『第伍号棟、全試合終了!!ただいまより、一次選考セレクション結果発表を行います』

 アナウンスが流れ、最終結果を伝える。

 1位はチームV、2位はチームZ。

 そして脱落する下位の3チームの最多得点者3名――チームWの鰐間、チームYの二子、チームXの馬狼の名前がモニターに映る。

『以上25名を"青い監獄"ブルーロック第伍号棟、一次選考セレクション突破とする!!!!』


 チームZによる、今日一番の歓声がピッチに起きた。


 ――ねえ、なまえ。俺、まだまだ帰れそうにないよ。
 でも、最後まで生き残るから待っててくれ!





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あでぃしょなる⚽たいむ!
#凪とのトーク画面


なまえ

明日の課題忘れないように




やっほーなまえ元気?


3点決めたからスマホ返してもらったんだ


なまえ

凪は元気?玲王もいっしょ?


なまえ

あっ私は元気だよ!


うん、元気


レオも一緒だよ
試合に負けて落ちこんでるけど


なまえの彼氏のばちらくん


試合したけどすごいやつだったよ


ドリブルでレオも抜かれて1点とられた


なまえ

教えてくれてありがとう凪


俺、ここに来てサッカーの面白さに気づいたかも


なまえ

存分にサッカー楽しんできて!




 ――あ、謎スタンプだ。

(……廻も、たくさんサッカー楽しんできてほしいな)


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