「ねえ、なまえ!ワオキツネザルって知ってる?」
「ワオ?」
「ワオっ!文化祭で俺、ワオキツネザルになったんだ♪」
――10月。体育祭も終わり、文化祭が近づいてきた。
中学では演劇や合奏、学習や研究成果を発表する学校が多いが、二人が通う中学校も例外ではない。
一年生では音楽の授業で習った曲を合唱し、二年生となった今年は学習発表をすることになった。
本日のミーティングは、学習テーマはなににするか。
クラスで色々な意見が飛び交い、最終的に「動物」がテーマに決まった。クラスメイトたちはどんな動物を発表するか、どんどんアイデアを出して、教室は盛り上がっていく。
「普通の動物じゃつまらないから珍しい動物にしようよ!」
「動物図鑑っぽく!」
「みんなで耳とかつけたら可愛くない?」
最終的に一人一人が珍しそうな動物を調べ、その動物の姿に扮装することになった。
ちなみにミーティング中、廻は居眠りしていたので、起きてから今年はなにをやるかを知ることとなる。
「蜂楽はこのワオキツネザルなんかいいんじゃない?」
「ワオキツネザル?ワオってなんか蜂楽っぽいな!」
「だよな!てことで、蜂楽。お前、ワオキツネザル調べろよ」
「むにゃ……なんの話??」
そして、起きたときには勝手に調べる動物が決まっていた。
(ワオキツネザルってなんじゃい。どうせならイルカがよかったけど……ま、いっか)
――ワオキツネザル、検索。
放課後、図書室の一室にやってきた廻となまえは、さっそく学校のパソコンで調べてみる。画面に出てきた写真を見て、真っ先になまえは「可愛い!」と声を上げた。
サルのようで顔はサルっぽくない。ワオキツネザルはその名の通り、キツネザルの一種だ。
「面白い顔してんし、名前もワオって変なおサルさんだよね」
「あはは、廻。ワオはそのワオじゃないみたいだよ。しっぽのシマシマ模様から「輪尾」だって」
「へぇ、なるほどね!」
「寒くなると尻尾をマフラーにするみたい。可愛いね」
さらに検索を続けると、ワオキツネザルが日向ぼっこをしている姿にたどり着く。彼らは日向ぼっこが大好きらしく、両手を広げ、お腹を見せる無防備な姿はおかしくて二人はくすくす笑う。
「確かにちょっと廻っぽいかも」
「そうかなぁ?なまえはなんの動物にしたの?」
「珍しい可愛い動物を調べたいなって思ったら、ホッキョクウサギっていううさぎが可愛いくて!」
テンション高めに話すなまえは、次に「ホッキョクウサギ」とパソコンで検索し、写真を廻に見せた。
「ねっ、可愛いくない?」
「すげっ!もふもふだね♪」
真っ白い雪と同じくらい真っ白で可愛いうさぎだ。耳の上だけちょこんと黒く、そんなうさぎの耳を着けたなまえを想像して、可愛いだろうなぁと廻は思う。
「可愛いだけじゃなくて、足もすっごく速いんだって」
なまえが動画を再生すると、廻は吹き出した。
なんか想像してたのと違う!コレジャナイ。
白いモフモフの大福みたいな体に取って付けたような長くて細い足。走っている姿は勇ましくてうさぎっぽくない。
(う〜ん、このうさぎ、どっかで見たことあるよーな……)
あ、あれだ!なまえが昔描いた、下手っぴなうさぎの絵に似てるんだ。
「?そんなに笑うほど面白かった?」
「今のは思い出し笑いかな♪」
そして、二人は写真や説明文を印刷し、翌日から文化祭の準備に取りかかった。
大きな画用紙にどんな動物か、自分なりに紹介文を書く。
去年の文化祭は合唱で、廻は部活を優先してほぼ練習にも参加しなかったが、今年はクラスみんなでわいわい準備して楽しいと思った。なまえも同じらしく、色んな動物が知れて楽しそうだ。
作業中、女子の友達と会話が盛り上がっている。
「でも、やっぱ高校の学祭みたいな出店出したり派手にやりたいよなー」
一人の男子が飾りつけをしながら言った。高校生の兄がいるらしく、学園祭に遊びに行って楽しかったことを話す。
「俺はメイドカフェがやりたい!」
「それ、女子たちのメイド姿が見たいだけだろ!」
「えー可愛いじゃん。「お帰りなさいませ、ご主人さま♡」って言われたいし。蜂楽も名字さんのメイド姿見たいって思うだろ?」
笑いながらつっこまれた男子は、舌をペロリと出して、ワオキツネザルの絵を描いている廻に話を振った。母親が画家という納得の画力だ。
「メイド?」
顔を上げた廻は、知らない単語にきょとんとする。
「メイドってなに?」
「メイドは……メイドだよ!ゴホーシしてくれる!」
「ゴホーシ??」
まったくわかっていない廻に、別の男子が「蜂楽はそのまま純粋でいてくれ」としみじみ言うので、廻はますます不思議そうな顔になった。
(あとでなまえに聞いてみよーっと)
◆◆◆
「ねえ、なまえ。メイドってなに?」
「冥土?あ、メイドか。簡単に言うと家政婦さんみたいな……」
「じゃあ、ゴホーシは?」
「えぇと、仕えるとか尽くすかなぁ」
「ふぅん。よくわかんないけど、お互い助け合う方がいいよね!」
「そうだねっ」
先ほどの男子生徒たちがこの会話を聞いていたら、己の煩悩に恥じるだろうが、二人っきりの帰り道の話だ。
◆◆◆
文化祭当日、中学校全体がいつもと違う活気に包まれている。お祭りが好きな廻は前日からわくわくしていた。
いつもお寝坊なのに、今朝はばっちり起きて、迎えに来たなまえを元気よく出迎えるぐらいだ。
教室には色とりどりの飾り付けがされて、壁には生徒たちの作品が動物図鑑の1ページのように展示されている。そして、生徒たちは手芸部お手製の動物たちの耳や尻尾を付けていた。
廻もキツネのような耳と白と黒のシマシマの尻尾を付け、なまえは耳の先が黒いうさぎ耳だ。
「廻の方が可愛い!」
「いやいや、なまえの方っしょ!」
何故か二人は相手の方が可愛いと言い合っている。これには二人の仲をよく知るクラスメイトも呆れるやら苦笑いだ。
「へぇ、こんな動物もいるんだ!」
「よくまとめてるなぁ」
他のクラスメイトたちや生徒の家族たちが続々入ってきて、教室はごった返す。
自分の作品を眺める視線に、生徒たちはそわそわしだした。
「ワオキツネザルって面白い名前〜」
「アハ、ホントだ!」
「このワオって、尻尾のシマシマが由来なんだよ♪」
廻は訪れた一年生の女子生徒二人組に、ワオキツネザルについて説明をしていると……
「ね、お願いしちゃう?」
「ねっねっ!」
「あの……先輩!」
一緒に写真を撮ってほしいとお願いされる。
「ん、俺と?」
「はいっ」
おっと、これは……!?その瞬間、周囲の女子たちはバッとなまえを見た。その視線の先にいるのは写真を撮っている廻と女子生徒だ。
なまえちゃんもやきもちを焼くのかな!?興味津々に彼女たちは見守る。
「廻、かっこいいし可愛いもんね……」
そう言ったなまえの声は落ち着いたものだった。――対して。
「ホッキョクウサギの足って思ったのと違うな!?」
「うん、コレジャナイ感が……。それより、あのホッキョクウサギの子、可愛くね?一緒に写真撮ってもらおうぜ!」
「おお!上手くいけばLINE交換とかもできたりして!」
「あの、俺たちと一緒に写真撮ってもらっていいですか!?」
男子生徒がそうなまえに声をかけたときだ。
「はいはーい。写真は禁止でーす」
「め、廻?」
そこに強引に割り込んで阻止した廻。――あ、蜂楽くんの方は写真アウトなのね、と見ていた彼女たちは思う。
「廻、さっき女の子と一緒に写真撮ってたよね?」
「あっ……、でも、なまえは絶対ダメ!」
◆◆◆
他のクラスメイトたちが見に来るように、廻となまえも交代で文化祭を見て回った。
歴史や習字の展示などの学生らしいものから、手作りのフォトエリアがあり、二人は写真を撮ってもらう。
「はい、チーズ!」
カラフルな風船を背景に、ワオキツネザルとホッキョクウサギに扮した二人の写真は文化祭の記念になった。
「手作りのプラネタリウムってすごいね!」
「すげー!作れんだね、プラネタリウム」
別のクラスでは生徒たちが作ったプラネタリウムを体験し、今の季節に見られる星座を二人は知る。
「あ、見て、廻。占いだって」
「面白そう!占ってもらおうよ!」
次に訪れたのは三年生のクラスだ。実際に占ってくれるだけでなく、占いについての歴史もまとめてあるという。古今東西の占いを調べたレポートを、なまえは興味深そうに読んだ。
「占うのに、まずは二人の名前とクラス、生年月日、血液型を教えてくれるかしら……」
二人の順番がやってきて、水晶玉が置かれた机を挟み、占い師役の女子生徒の前に座る。
顔を覆うヴェールの向こうで、女子生徒はミステリアスな雰囲気を出すように二人に話しかけた。
二人が順番に答えると「あぁ、あなたたちが噂の蜂楽さんと名字さんね……」返ってきた彼女の言葉に、なまえは「噂?」と首を傾げる。
「あなたたちのこれからの未来を、この水晶玉で占いましょう。……むむむ」
廻もなまえも、占いは良いことは信じて、悪いことは信じないタイプだ。気軽な気持ちでわくわくと待っていると、やがて女子生徒は口を開く。
「いずれ別れますよ。大いなる力によってスパーンと」
え、えええ……!?
さっきのミステリアスな雰囲気はどこへ行ったのやら。投げやりな言い方で告げられ、二人はショックというより驚きにぽかんとした。ややして廻が反論するように口を開く。
「別れないし!」
「別れます〜」
「絶対別れないもんね!」
「人間、いつかは別れるんですぅ」
子どものケンカ……?廻と女子生徒の言い合いに、なまえが困惑気味に間に入ろうとしたときだった。
「ご、ごめんねっ!」
仕切られていたカーテンが開き、慌てた顔と声が二人に向けられる。
「この子、つい最近彼氏にフラれてやさぐれてるの」
「はぁ!?私はフラれたんじゃなくて、フッたの!」
え、えええ……?
それって八つ当たりじゃ……と、なまえが心の中で思っていると「それって八つ当たりじゃん」と、隣の廻は声に出して言った。
「そうよ!八つ当たりよ!ラブラブなカップルって噂のあなたたちにねっ!」
そんな風に噂になっていると初めて知り、なまえはちょっと恥ずかしくなる。
「はいはい、これぐらいにしようね!あ、お二人はこれからも末永く仲良くね!」
最後は強引に友人の彼女が場を収め、二人は教室を後にした。廊下を歩く中、廻は思い出したようになまえに話しかける。
「俺たちって、ラブラブなカップルって噂になってたんだね」
「そんな噂になってただなんて、ちょっと恥ずかしいね」
「いーじゃんいーじゃん!もっと見せつけよう♪」
そう言って廻はなまえの手を取った。学校内で手を繋いで歩くのは少し抵抗あるものの、なまえは微笑み、振りほどくことはない。
――体育祭では演劇を。お昼は皆でお弁当を食べ、あっという間に終わりを告げる。
「あー!文化祭、楽しかった!10月は体育祭とか面白いことがいっぱいだね♪来月はなにかあったっけ?」
「来月はー……期末テストだね」
「……楽しくなーい」
夏に比べて日が落ちるのが早くなった帰り道。
秋の夕暮れの下、朝から高かった廻のテンションはその単語でがっくり落ちた。
--------------------------
あでぃしょなる⚽たいむ!
#メイドといえば
「粉チーズ飛ばすな!」
「脱いだ服はちゃんと脱衣カゴに入れろ!」
「風呂上がったら体拭け、水滴飛ばすな、裸族はやめろ!」
「あーい」
・
・
・
「馬狼って、最近は凪から蜂楽専属メイドみたいになってない?」
「えー俺の面倒もみてほしい。玲王でもいいけど。あ、潔でもいいよ」
「面倒みてくれれば誰でもいいんだな、凪……」
「メイドって家政婦みたいなやつだっけ?」
「蜂楽、メイド知らない?メイドカフェとかさ」
「『バロ、バロ、キュン♡』みたいなやつ」
「にゃははっ!馬狼、ヒラヒラ服似合わないね!」
「なんでお前らの妄想が共有できてんだよ!!」