お弁当の日。それは、生徒たちが自分たちで買い物をし、調理をし、お弁当箱に詰め、後片付けまでするという食育の一環だ。
二人の通う中学校では、11月の行儀として行う。
廻はなまえに「お弁当、一緒に作ろう♪」と誘い、明後日の月曜に控えた帰り道。
「廻はどんなお弁当がいい?」
「好きなおかず、いっぱい入れたやつ!」
「おいしそうだけど、おかずいっぱいだと作るの大変だよ」
「んーそっか。自分たちで作るんだもんね」
二人はどんなお弁当にしようか、話しながらいつもの通学路を歩いていた。
「俺、目玉焼きぐらいしかちゃんと作れないかも。それも時々失敗するし」
そういえば、小学校の家庭科の授業で作ったとき、廻は殻を入れてたっけとなまえは思い出す。
最近は殻は入れないらしいが、黄身を割ったり、半熟がいいのにうっかり固めにしてしまうとか。
「簡単に作れるのがいいよね。うちのお母さんはそぼろ弁当とかいいんじゃないかって言ってた」
「いいね!あれ、おいしいし♪それにしようよ!」
「じゃあ、決まり!」
そぼろ弁当なら彩りもいいし、炒めるだけで簡単に作れる。お弁当の内容も決まって、二人は明日買い物に行く予定を立てた。
翌日の日曜日。やって来たのは近くのスーパーだ。
「♪」
廻はカゴを持って、メモを片手に見るなまえについていく。
「野菜売り場だから、いんげんね!」
「いんげん、いんげん……あ、これだ!」
いんげんの次は鶏ひき肉に卵。広いスーパーの中、二人は材料を探す。
「白い卵と茶色い卵ってなにが違うの?」
「確かに……どう違うんだろう?」
どれがいいか迷ったりするも、また楽しかったりする。
日曜日に家族で買い物をする人たちも多いが、男女で仲睦まじく買い物をしている人を見ながら、廻は「ねーねー」と、なまえに声をかけた。
「こうやって二人で買い物していると、新婚さんみたいじゃない?」
――新婚さん!?
「……また廻は恥ずかしげもなくそういうこと言うんだから」
なまえは呆れた口調で言ったが、照れ隠しだ。廻はそれに気づいているか気づいてないのか、にっと歯を見せて笑ったと思えば……
「あっ、なまえ!お菓子買おうよ!」
お菓子コーナーを見つけてそっちに行ってしまった。その姿に新婚ではなくて、子供と来てるみたいとなまえは眉を下げて笑う。
「廻、持ってくれてありがとう」
「これぐらいへーきだよ」
会計を終え、買い物袋を持ってくれる廻は、半分こした焼き芋をはふはふ食べながら言った。
お菓子ではなく、買ったのは寒い時期になると売られる焼き芋だ。
なまえも焼き芋にあぐっとかぶりついて、食べながら歩く。
「わ、甘くておいしい!」
「おいしいよねっ♪ホクホクしてるし、なんとかっていうさつまいもなんだって」
「なんとかって全然わからないよ、廻〜」
「はは、名前忘れちゃったー」
笑い合いながら、また一口。澄んだ秋空の下、廻と並んで歩きながら食べるから、さらにおいしいんだとなまえは思う。
◆◆◆
「廻、エプロン持ってきた?」
「ちゃんと持ってきたよん」
二人が帰って来たのはなまえの家だ。たまになまえ母に見守られながら、二人はそぼろ作りを開始する。
飛び跳ねた髪の毛を後ろで一つに縛る廻に、その髪型も似合っているとなまえは見ていた。(そしてかっこいいと思う)
手も洗ったし、エプロンも身に付けて、準備はばっちりだ。
「まずは、いんげんのスジを取るんだって」
「スジってどれ?」
「これ」
「こいつかー!」
椅子に座っておしゃべりしながら、二人はスジを取ったいんげんをボウルに入れていく。
「みんな、どんなお弁当作ってくるんだろうね」
「キャラ弁作るって張り切っていた子も結構いたよ」
「キャラ弁?」
こんな感じの、となまえはレシピ画面が映っていたスマホで検索して廻に見せた。
「すげー!今こんな凝ったお弁当あるんだ」
「明日、みんなのお弁当を見るのも楽しみだね」
なまえは再びレシピ画面に戻して、次の工程を見る。いんげんは塩茹でし、卵の登場だ。
白と茶色かで悩んだ結果、二人は特売の白い卵を買った。
「廻、殻入れちゃだめだよ」
「あれは卵の殻が勝手に入ったんだって。ほらほら、きれいに割れたっしょ」
卵を普通に割れただけで、得意気に言う廻になまえは笑う。
「じゃあこれをかき混ぜて」
「ほいさ!」
廻には卵をかき混ぜてもらう間、なまえは茹で上がったいんげんを切る。
「なまえ、大丈夫?指切らないようにね?」
「もうっ、そんな不器用じゃないよ」
「たまに転けてドジっ子ちゃん出るじゃん?」
「それは運動神経のあれだから!残りの半分は廻も切るんだからね」
「斜めに切ればいいんでしょ?」
包丁をなまえからバトンタッチされて、廻はいんげんを斜めに切るが、長さがバラバラなのはご愛敬だ。
そして、廻が溶いてくれた卵はフライパンで熱して煎り卵に。
「ねーなまえ、つまみ食いしていい?」
「いいけど、味見じゃなくてつまみ食いなんだね」
出来上がった煎り卵をスプーンですくって、廻はぱくっと食べる。
「おいしくできた!はい、なまえも♪」
あーんと毎度のごとく食べさせようとする廻に、なまえは素直に従って口に含んだ。
「あ、いい感じ!」
「次はお肉だね。甘じょっぱくするんだっけ?」
「そうそう」
鶏ひき肉を味付けして、卵は廻が炒めてくれたので、今度はなまえが炒めるように混ぜる。
そぼろ状になって、煮汁がなくなれば完成だ。
「食べたーい」
「はい」
今度はなまえがスプーンですくって、その口に持っていく。
「うまっ!ご飯にめっちゃ合う味!」
「ん、本当だ!明日のお弁当で食べるの楽しみ」
あとは明日の朝、おかずを弁当箱に詰めるだけ。後片付けもちゃんと二人で行い、なまえは廻にタッパーに詰めたおかずを渡す。
「廻、明日は寝坊しないようにね」
「だいじょーぶ♪」
お互い、どんな盛り付けをするのか楽しみだ。
◆◆◆
「じゃあなまえ。いっせーのせで開けよう!」
「いっせーの……」
待ちに待ったお昼休み。クラスでは、お弁当の中身を見せ合うのに盛り上がっていた。
中には焦げていたり、冷凍食品を詰めたものもあるが、それも生徒の自由であり、立派なお弁当だ。
廻となまえは同時にお弁当箱のフタを開けると、周囲に集まっていた生徒たちの「おぉ〜!」という歓声が響いた。
「なまえちゃんのひまわりだ!かわいいね!」
「あまり難しいのはできないから、三色で簡単にできるのにしたの」
「なまえらしくてかわいい♪」
茶色のそぼろを周りにひき詰め、黄色の煎り卵は花を、緑のいんげんで葉っぱを表している。
「廻のはイルカだね!黄色いイルカ、かわいいー!」
「蜂楽もやるなぁ」
「へへ♪」
同じように周りにそぼろをひき詰め、煎り卵はイルカの形に。下の方に飾ったいんげんは海の波のようで、なまえは上手だと思った。
レシピはシンプルながらも、二人の手作りお弁当はクラスメイトからも好評のようだ。
給食のときとはまた違った楽しげな雰囲気の中、自分たちで作ったお弁当を食べる。
「やっぱりご飯と合う!」
満面の笑顔で食べる廻に、離れた席に座るなまえもにっこり微笑んだ。
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あでぃしょなる⚽たいむ!
#きっと卵焼きは甘い派
「なーなー、蜂楽。それ、なまえちゃんと一緒に作ったんだろ?一口味見させてくれ!」
「え〜」
「代わりに俺の卵焼きあげるから!甘いの好きだろ?」
「甘い卵焼きは好きだけど、真っ黒に焦げてんじゃん!」
「味はおいしいから!なっ?」
「やだ!」