「来いよ、馬狼。お前はまだここで終わる人間じゃない」
――潔と凪が馬狼・成早チームに勝利し、馬狼を引き入れ3rdステージに上がってきた頃。
廻は4thステージで、潔がやってくるのをのんびり待っていた。
新しいチームとなった三人とのサッカーも新鮮で楽しいし、部屋はベッドだし、食堂では食事がちょっと豪華になって、廻に特に不満はない。
(今日はカレーにしよ♪)
自動配膳器からカレーを受け取っていると、その新しいチームメイトの姿が眼に映った。
「おい、お前ら。俺らと一戦どうだ?」
「マ……試合したいんだけどさ……」
どうやら対戦相手の勧誘をしているらしいが……
「え!?お前らTOP3グループだろ!?」
「遠慮しとくわ……」
「いこいこ」
誘われた三人組はそそくさと逃げるように行ってしまう。
(知っている顔が全然いないなー)
他人事のように廻はその様子を眺めていた。
皆より一足先にここまでやってきたので、元チームメイトが1stステージをクリアしたかどうかもわからない。
実力があれば、またこの先で会えるはずだ。……自分も含めて。
「なら、そこのお前らだ。俺らと……」
「ムリムリムリ!」
「他あたって!」
「だ、大丈夫だよ!取って食ったりしないから……!試合したいだけで……」
「嫌だ!」
「誰がやるかよ!」
「あ、待ってよ!」
「ビビって逃げる奴ばっかだぞ」
そして誰もいなくなった。もぐもぐとマイペースにカレーを食べる廻しかいない。
「あぁ!どうしよう……このままじゃ誰も試合してくれないまま……タイムアップとかになるんじゃあぁ……!?」
「ここまできて逃げる奴らなんか倒してもオシャじゃない。どーせ脱落する」
「そもそも俺はやりたくないよ。潔らが4thステージまで上がってくるの待つつもりだし」
傍観していた廻は、そこで二人の会話に入った。
また潔と一緒にサッカーをするのが、今の廻の望みだ。
「でもでもでもぉ……!上がってこなかったらどうすんのさぁ!?」
「来るって」
ネガティブ炸裂な時光の問いに、廻は当然というように答えてから「てか、凛ちゃんは?」続けて二人に聞く。
「あー凛なら……」
――B・L・M・Sトレーニングルームにいたぞ。
蟻生の返答に、カレーを食べ終えた廻はボディスーツに着替えて、トレーニングルームへやってきた。
部屋に入る前から、ボールを蹴る音が反響して耳に届く。
蟻生が言ってた通り、凛はブルーロックマン相手にひたすらシュート練習をしていたようだ。
流れる汗の量と散らばっているボールの数で、廻が食事をするずっと前から練習に励んでいたとわかる。
何十回目のボールを蹴って、髪をかき上げ一息つく凛に、廻は声をかけた。
「1人じゃん、凛ちゃん」
その声に凛は、廻へと顔を向ける。
「俺も混ぜてよ」
「あ?邪魔だ、帰れ」
「……」
凛からそっけない言葉が返ってくるのは想定の範囲だ。
廻はそれとは別に思い出しながら足を凛の方へ進める。
「兄ちゃんを倒したくてやってんだっけ?サッカー」
凛の兄は、天才MFと有名な糸師冴だ。
兄を倒したいというのがどんな感情から来ているか廻にはわからないが……
「だったらどーした?消えろって」
「俺、初めて見たよ。アンタみたいに寂しそうにサッカーする人間」
――自分だけじゃ、なかった。
「喧嘩売ってんのか、オカッパ」
純粋な疑問を口にするように廻は凛に言い、凛はそれに一拍置いて答えた。
直後、常に冷静で表情を崩すことのない凛だが、その眼が見開く。
「俺とやろーよ。楽しくなるよ♪」
廻は笑っていた。いつもの天真爛漫な笑顔ではなく、挑発的とも言えるような笑みで。
「……来いよ」
くだらない喧嘩は買わない凛でも、サッカーでの売られた挑発は買った。
◆◆◆
『世界を揺るがすストライカー誕生なるか!?日本サッカー一大プロジェクト"青の監獄"!』
――なまえの眼はネットニュースの見出しを映し出す。連日、"青の監獄"関連のニュースをくまなくチェックしているが、詳細は伏せられているようで、選手たちについての情報も一切ない。
読み終えると指を滑らせ、次にトーク画面を出した。
凪からの返信も、なし。
究極のめんどくさがり屋の凪とのやりとりは最初から期待していないが、トーク画面には気になる文面で終わっている。
"レオ、マジむかつく"
"もう知らん"
一方的に送られてきて、なまえも"レオと喧嘩でもしたの?"そう送り返したが、今も未読のままだ。
(うーん、心配……)
凪と玲王。これまでマネージャーとして短い間を見てきただけでも、二人が喧嘩するとはよっぽどのことのように思える。
(拗れてないといいけど……)
凪は玲王が初めての友達と言っていたから、凪にとってこれは初めての友達との喧嘩かも知れない。
仲直りできることを祈りつつ、なまえはスマホの画面を閉じた。
意識を机の上に移すと、開いていた教科書が酷くつまらないものに見えてくる。
廻が"青の監獄"に行ってしまってから、毎日が色褪せたように退屈に変わった。
――廻に、会いたい。
その思いは何度も心に浮かんではすぐに消した。
それを願うことは、廻の脱落を願うことと同じように感じるから。
だからなまえは眼を閉じて、鮮明に脳裏に記憶されている廻の姿を思い出す。
いつだって瞼の裏に浮かぶ姿は、サッカーが大好きな廻の姿だ。
◆◆◆
「いくよ、も一本!」
テクニカル同士の奪って奪り返しての1on1。
何度目かの廻から仕掛けてきた動きに、凛は冷静に対処し、ボールを奪った。廻は勢い余ってそのままビッチの芝生にダイブする。
「うん。いいね、凛ちゃん……」
凛に軽くあしらわれても、廻の顔は笑っていた。
「そろそろ本気になってきた?」
「……黙れ。アオってきた割にはぬるいぞ、オカッパ」
対して凛は目線だけ寄越して淡々と答える。凛にとっては廻との1on1も、軽い準備運動程度だ。
何故なら……
「でも、楽しくなったっしょ?」
「ハッ……感性に頼りきったそんなドリブルじゃ、俺相手には通用しねぇ」
「まだ五分五分じゃん!やってみなきゃわかんないよ!」
「理解るさ」
軽くリフティングしていた凛は、そこでボールを手に取り、続けて廻に話す。
「お前のドリブルは楽しんでる様に見えて――……ひとりで戦うことを恐れてる、誰かを探してるサッカーだ」
その瞬間、廻の顔から笑顔が消えて、驚くような顔をしていた。
「そのぬるいエゴじゃ、俺の心は踊らねぇよ」
……――凛がそのサッカーを見て、誰かを探しているとすぐに気づいたのは、昔の自分を見ている様だったからだ。
『兄ちゃんのサッカーが一番すごい!』
兄のサッカーが好きで、兄と一緒にサッカーをしたくて、兄の影を探してサッカーをしていた頃の自分を。
(あー……アイツのことを思い出したら、ムカムカしてきた)
凛はその感情を飲み込むように、ドリンクを喉に流し、水分補給をする。
「ねぇ、凛ちゃん」
「……あ?」
壁に背を預け座っていた廻が、いつの間にか立ち上がって凛に声をかけた。
なにやら考え込んでいたようにも見えたが、凛はそこに興味はない。
「お前の中にも"かいぶつ"はいるか?」
「……は?なんだそりゃオカッパ」
訝しげにその眉が寄った。
「……んー本当にいるワケじゃないけど、自分のやりたいサッカーの空想だよ。凄い奴の中にはみんないると思うんだ」
「……知るかよ」
廻が言う"かいぶつ"はよくわからないが、空想というなら凛は思い描いたことがない。凛のサッカーはいつだって現実を伴っている。
「そんな子どもじみたモンに支配されてるから、お前のプレーは臆病でぬるいんだろ――……」
"夢"を追いかけることは、あの雪の日をきっかけに止めたから。凛は廻に背を向けて歩き出した。
「その"かいぶつ"とやらと一生サッカーやってろ。その間に、俺は世界一になる」
……――その背中をただ見つめて廻は思う。
(凛は)
俺にはまだ理解できない"かいぶつ"を飼っているのかもしれない……と。
(潔とはまた別の――)
このときの廻には、まだ凛の言っていた言葉の意味に気づけなかった。
凛を追うようにトレーニングフィールドを後にすると……
「よぉ、蜂楽。探したぞ」
壁に背を預け、待っていた潔の姿が。
「潔……」
「約束通り、奪い返しに来たぜ」
潔は廻に向けて言ったあと、次に凛に対して勝ち気な表情を向ける。
「戦ろーぜ、凛」
潔、凪、馬狼、千切のチームとの試合が成立した。
そして、その試合で廻は、"かいぶつ"と決別することになる。
"かいぶつ"だけでなく、今までの自分とも――。
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あでぃしょなる⚽たいむ!
#8分前
(千切がチームに加わって、今の俺たちなら凛たちに勝てる!さっそく試合を……)
「おぉ、お前は……名をなんと言ったか?」
「潔くんだよ、蟻生くん!ほら、蜂楽くんが言ってた!」
「どうも……」
「ここにいるということは、4thステージに上がってきたということか。お前……なかなかのオシャだな?」
「あ、ありがとう……(褒められてるん…だよな?)」
「潔くんが来てくれてよかったよ!みんなには試合断れちゃうし……!やっとこれで次のステージに行ける!あっ、君たちに勝つつもりでいるとかそんなんじゃないよ!?」
「あ、うん……。それより蜂楽は……」
「蜂楽なら凛を追って……」
〜トレーニングフィールド入口前〜
(二人の1on1が終わるまで待ってるか……)
「よぉ、蜂楽。探したぞ」
潔、クールに登場!