逆襲の青森駄々田高校

「ねえ、なまえ!このあと近くにできた新しいカフェに寄らない?」

 ――放課後。授業が終わるや否や、なまえに声をかけたのは仲のいいグループの女子生徒たちだった。
 お誘いは嬉しいが、なまえは彼女たちに申し訳なさそうな顔をする。

「ごめんっ、今日も部活があるから……」
「全国大会終わったのに、マネージャー続けてるの?」
「うん。大学受験を見据えるぎりぎりまでやるつもり」
「玲王様いないのにね〜」

 玲王ファンの彼女のその言葉には、なまえは曖昧な笑顔で笑った。その玲王がいないからこそだった。

『全国に向けてこれからって時に、途中で投げ出す形になっちまったからさ……。できればなまえに、サッカー部をお願いしたいんだ』

 玲王から部を託され、なまえも引き受けたからには、きちっと最後までやり遂げたい。
 全国大会は敗退したが、なまえがサッカー部のマネージャーなのは変わらずで、また辞める部員も一人もいなかった。
 
「でも、いつ帰ってくるのかしら、玲王様……」

 彼女は寂しげに呟いた。なまえにもわからないが一つだけ言えること。"青の監獄ブルーロック"に行った選手たちは、今も世界一のストライカーを目指して戦っている――。


 ◆◆◆


「名字さん!大変だよっ!」
「どうしたの?」

 なまえがサッカー部の部室に訪れると、部員の一人が慌てた様子で声をかけてきた。
 他の部員たちもうんうんと首を縦に振っている。

「監督が言ってたんだけど、急遽明日……青森駄々田高校から練習試合を申し込まれたらしいんだ!」
「青森駄々田高校から……?」

 その名を聞いてなまえが思い出すのは、全国常連の王者の風格を持つ選手たち……ではなく。
 凪の異次元な天才プレーの衝撃だ。
 新生白宝高校サッカー部の初めての試合は、玲王の父の差し金で青森駄々田高校との練習試合だった。玲王と凪のデビュー戦でもある。

「どうして今頃?」

 部員の皆が疑問に思ったことを、なまえも同じように口にした。
 玲王も凪もいないし、わざわざ青森から東京の高校に試合を申し込む理由がわからない。
 全国大会でも、青森駄々田高校は白宝高校よりずっと勝ち進んでいる。

 なまえは監督に聞いてみたが、練習試合をしたいと申し込みが来ただけで、特に理由は聞いていないらしい。
 不思議に思いながらも、部員たちは明日の試合に向けて張り切って練習を行うことにしたようだ。

「やっぱ試合だよな!」
「二人がいなくったって、俺たちだけで今度も勝とう!」

 何はともあれ、明日の試合に向けてやる気に満ちる彼らの姿がなまえは嬉しかった。
 玲王と凪なしでも彼らはもう、立派な白宝高校サッカー部だ。


 ――そして、翌日。


 威風堂々と青森駄々田高校はピッチに現れた。……あの日と同じように。

「久しぶりだな、白宝高校サッカー部!天才コンビくんなしで全国まで行くとはなかなかやるじゃねーか」
「舐岡……!」

 前回は萎縮していた白宝サッカー部員たちだったが、今回は臆せず青森駄々田の選手たちを見据えていた。

「いきなり練習試合ってどういうことだ!?」

 一人の部員が食い気味に尋ねると、舐岡はその質問を待ってましたとばかりに答える。

「これは逆襲だよ……」
「……!?」
「あの二人のせいで俺は、"青の監獄ブルーロック"を敗退した……。俺の未来はあいつらに潰されたんだ……!」

 舐岡は忌々しい二人の顔を思い出して話すが、直接的な原因は驚異的な反射神経で斬鉄がボールを避けたからだ。

「全国大会上位になってもこの腹の虫は収まらねえ。せめて、あいつらの元いたこのサッカー部を潰してやろうとわざわざ来てやったってわけよ!」

 恨むんならあの二人を恨め!と高々に笑う舐岡に、一同ぽかんとするのも一瞬で。
 一斉に白宝サッカー部員たちの口がぐわっと開く。

「なんだそりゃ!?」
「ただの逆恨みじゃねーか!」
「ダッセーぞ、舐岡!それでも強豪校のエースか!」
「うっせぇ!再起不能に潰してやるから覚悟しやがれ、弱小サッカー部!」
「俺たちはもう弱小じゃないぞ!」

 白宝高校と青森駄々田高校はぎゃいぎゃい言い争う。このまま取っ組み合いになりそうな勢いだ。

「監督、止めた方が……」
「みんな、元気があり余ってんなー」

 心配そうななまえの言葉に監督は、ははっと呑気に笑って答えた。玲王不在をなまえが代わりに勤めているので、今も監督はお飾りの監督だ。

「監督、よく練習試合を許しましたね」
「東京は楽しかったからな!」
「エンジョイし過ぎでしょ……」

 見た目が濃い青森駄々田高校の監督も同じようなお気楽っぷりだった。なまえは二人の大人たちに呆れた視線を向けた。

 ――なにはともあれ、試合は試合。超強豪校だろうと、やるからには負けるつもりで戦わない。

「フィジカルでは勝てないから、接触プレーは避けて。ワンタッチのパスで素早く繋いでいこう」
「オーケー!マネージャー!」

 青森駄々田高校との試合は一度見ているのでなまえは記憶しているが、当然、優れているのはフィジカルだけじゃないと知っている。

 ……でも。

(こっちだって玲王と凪がいない中、全員で勝ちに行ったんだ)

 飛び抜けた選手がいないからこそ、FW、MF、DF、GK……それぞれの役割を最大限に生かせるような戦術とチームワークで戦ってきた。なにより、玲王の御曹司パワーをフル活用した特訓の成果で、皆の実力は最初の頃より見違えるほど上がっている。

 全国大会は終わってしまったが、今再び、新生白宝高校サッカー部が試される時だ――


「弱ぇ弱ぇ!」
「ぐっ!」
「やっぱ強い……!」

 試合開始早々、白宝チームは青森駄々田チームに圧されていた。
 容赦ないディフェンスに、ガンガンにプレッシャーもかけてくる。ファールにならない加減で強引にボールも取られた。
 だが、白宝チームは怯むことなく、必死に食らいつく。

「守備しろ!」
「こっちだっ!」

 途中までは玲王と凪の力だったが、後半、自分たちの力だけで全国大会まで行った経験は嘘をつかない。

 しかし、先制点は許してしまった。

 前半20分ほどで、舐岡がゴール前でボールを受け、力強いシュートを放って。
 GKは反応するも、凄まじい回転がかかったパワーに指先が弾かれ、ボールはゴールネットを揺らす。

「ハッハー!あと2点は取るぞ!」
「すまない……!」
「どんまい!」
「あのボールに反応しただけですげえって!」

 1−0。前半の流れは向こうに取られた。

「奪られたら、奪り返せばいいんだ!」

 白宝高校からのキックオフ。彼らは短いパスを繋いで、確実にボールを保持し、少しずつ前進する。

「弱小校らしいパスワークだなぁ?」

 舐岡が突進してきたところを見計らって、彼はドリブルに切り替え、高いクロスを上げた。

「!?クロス!?」

 ボールが弧を描き飛ぶ先には、駆け上がるサイドバックの選手がいる。パスが繋がった。
 よしっ!なまえは心の中で呟き、ゴール前の攻防を見守る。

「甘いぜ!」

 白宝高校のチャンスだったが、シュートはDFに阻まれた。
 そこで前半を終えて、スコアは1−0のままハーフタイムへ――。

「まだ1点だ!大丈夫だ!お前たちなら勝てる!」

 監督が選手たちを励ますが、皆はほぼ聞いておらず、なまえと共に戦術の確認を行っている。

「ハイラインディフェンスでショートカウンターを狙っていこう。その際の要はディフェンスラインとGK。ミスが生じると一気にピンチを招くリスクもあるから気を引き締めて」
「わかった!」
「ああ!守備はまかせろ!」

 全員顔を見合せ頷き、再びピッチに向かった。

 後半に入り、白宝チームはさらにパスワークを強化し、スピードを活かした攻撃を仕掛ける。

「俺たちは負けて気づいたんだ……!」
「サッカーで負けることが、こんなにくやしかたってことを!」

 ――サッカーを続けていたのは、最初は不純な動機だった。

 玲王と凪がいて敗北を知らなかった白宝チームは、全国大会に出場したものの、早々の敗退に自分たちの実力を突きつけられた。
 くやしくて涙を流し、玲王に動かされていたのではなく、いつの間にか自分たちは純粋にサッカーをしていたと気づいた。

 その経験が、彼らを強くさせる。

 MFがキラーパスを出し、そのボールはFWへと繋がった。
 彼は相手DFの裏を取り、冷静にシュートを放ち――。

 GKとは逆、ゴール右隅に突き刺さる!

「やった!」
「うおぉ!よくやった!」

 なまえと監督は飛び上がるように声を上げ、選手たちも喜びを身体いっぱいで現す。
 1−1。粘った戦いに、気づけば試合は残り10分だ。白宝チームはさらに逆転を狙う。

 ――あと1点取れば、俺たちが勝ちだ!

 両チーム共、同じように思いながらのラストプレー。1点を取ったことに白宝チームは勢いが乗り、攻勢を強める。

 チャンスはすぐにやってきた。MFによる、ゴール前の絶妙なクロス。

 そこに現キャプテンがヘディングでゴールを狙うも「させるかよ!」飛び出してきた舐岡の脚に阻まれる。

 こぼれ球――

 一瞬だった。反射的に伸ばされた脚がボールをゴールへと押し込み、小さくネットを揺らす。
 ゴール前の密集もあり、これには青森駄々田チームの優秀なGKも反応できなかった。

 試合終了!

 ピッチ上には喜びを爆発させ、皆で抱き合う白宝チームの姿が、なまえの眼に映る。

「みんな、すごいよ……!」
「でかしたぞ、お前らー!ありがとう!」

 なまえも思わず両手を上げて喜んだ。監督も歓喜し、感謝の言葉が口から飛び出す。

「チッ……」

 喜び合う白宝チームから視線を逸らし、小さな舌打ちしたのは舐岡だ――。


「今回の試合の勝敗はアレだ……。お前ら、運がよかったな!!」
「運も実力のうちだ!」
「素直に負けを認めろっての!」

 負けは負け、勝ちは勝ちだ。舐岡の言葉にすかさず白宝高校から反論とブーイングが起こる。

「こぼれ球だ!あんなのまぐれに決まってるだろ!」

 もし、舐岡が"青い監獄ブルーロック"に残っていたなら、運のカラクリについて絵心から話を聞き、今のシュートも違う風に捉えたかも知れないが……これはたらればだ。

「……まあ、弱小サッカー部が多少強くなったのは認めてやるよ」

 以前は自分たちのプレーに翻弄されていた奴らだ。あの天才二人がいなくても十分にチームとしてまとまっていた。

「ちょっとはBOSSや凪も誇ってくれるかな?」
「本当は優勝して驚かせたかったけどな」

 なんだかんだ強豪校のエースに認められて、彼らの顔は嬉しそうに綻んだ。


「「ありがとうございました!!」」

 全員の揃った挨拶で締めるなか……

「……最後に、一つだけいいか?」

 舐岡は青森駄々田を代表するように口を開いた。

「そちらのマネージャーさん、一緒に写真を撮ってくれませんか?」
「え?」
「「!?」」


 ◆◆◆


「やっぱ、東京のマネージャーはレベル高えなー!」
「マネージャーがいるだけで羨ましい……」
「なによりあの天才コンビのどちらとも付き合ってねえってのが、好感度高いぜ!」

 
 負けたにもかかわらず、満足げに地元へ帰っていった青森駄々田高校だった。





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あでぃしょなる⚽たいむ!
#その名は舐岡
※エピ凪映画特典の-EPISODE 原宿-ネタがある
※メタい


「おい、凪!エピ凪映画の設定用イラストだってよ!」
「あ、玲王。俺や玲王、ばぁやさんもいるじゃん」
「あともう一人は……」
「誰だったけこの人?うーん、会ったことあるような気もするんだけど……」

(この野郎!二度も俺のことを忘れやがって!)

「だ、だ、だ……」

(そうだよ!青森駄々田高校の……)

「誰だっけー」
「俺も思い出せねえんだよな……」
「青森駄々田高校のエース舐岡だ!お前ら鳥頭か!?つーかわざとだろ!?」
「「あ」」

 ・
 ・
 ・

「ハッ!ふざけられるのも今のうちだぜ!次回からは-EPISODE 舐岡-が始まるからな!」
「略してエピ舐?あ、それともエピ岡?」
「いや、それ始まるなら-EPISODE 玲王-だろ」


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