廻はワクワクとした気持ちでカレンダーを眺めていた。
何故なら、もうすぐなまえの誕生日だから。
誕生日プレゼントはなにを贈るか、ずっと前から決めていた。
(なまえにぴったりの花をプレゼントするんだ♪)
自身の誕生日に「廻にぴったりな花だと思うの」と、なまえから向日葵をもらって嬉しかったから。なまえの誕生日には同じく花を――なまえに似合う花を見つけてプレゼントしたい!
さっそく廻は、花屋に偵察しに行くことにした。
花の種類は向日葵の他に、桜や、夏休みの授業で育てた朝顔ぐらいしか廻は知らない。ここは実際に見て、直感で決めるつもりだ。
(なまえならやっぱりピンクかな?水色や黄色もにあいそう♪)
漠然とした可愛い花をイメージしながら、花屋への道を歩いていると(あっ)廻の眼は引き寄せられるようにそこに向いた。
一軒屋の家の庭にある花壇、風に吹かれて花が揺れている。
初めて眼にするその花は、咲いてる姿は綺麗なのに、ふんわり色を染めている花びらはとっても可愛い。
――なまえにぴったりの花、見つけた!
眼にした瞬間、びびっときて真っ先に廻はそう思った。
なんの花だろう?お花屋さんにも売ってるかな?
家を囲む塀の鉄格子から、爪先立ちして花をよく見ようとする。他人の家には無断に入ってはいけないと、常識に捕らわれない感性を持っている廻でもちゃんとわかっていた。
「――うちの庭になにか気になるものでもあったかな?」
そう優しげに声をかけられて、視線を花とは反対方向に向けると、白髪の混じったおじいちゃんが立っていた。
おじいちゃんは声と同じく、穏やかな表情を廻に向けている。
「ねえ、おじいちゃん!あの花、なんていう花なの?」
物怖じせずに廻はおじいちゃんに聞いた。
廻ぐらいの年だと、人見知りや知らない人に急に話しかけられたら怖じ気づいたりするが、廻には一切ない。
知らない人だろうと年上だろうと、廻は幼い頃から壁を作らなかった。
「あの花が気に入ったのかい?」
「うん!キレイで色もかわいいし、なまえにぴったりの花なんだ!」
出てきた名前に、おじいさんは少し不思議そうな顔をしたが、すぐにガールフレンドだと思い当たり、廻を微笑ましく見る。
「もっと近くで見てみるかい?あっちにある玄関から入っておいで」
「ホント!?やったー♪」
廻は無邪気に玄関へと回った。
ちなみになまえは、この廻の警戒心のなさを少しひやひやしている。自分は両親から「知らない人には気をつけろ」はもちろん、むしろ「ちょっと知っているぐらいの人にも気をつけろ」と、言い聞かされているからだ。
花壇の前にいき、花を近くで眺める廻は一人納得する。
……うん!やっぱりなまえにぴったりの花だ!
廻はこの花の名前をおじいさんに聞くと、その花の名前を忘れないように口の中で反復した。
「……この花は私の家内が育てていた花でね。一年前に亡くなってしまって、私が代わりに育ててやっと今年咲いたんだ」
そう話してから、ちょっと難しかったかな?と彼は気づいた。天真爛漫そうな少年は小学校低学年ぐらいに見える。
「ねえ、おじいちゃん。この花、お花屋さんに売ってるかな?おれ、なまえのたんじょう日に花をプレゼントしたいんだ」
聞いてもいなかったようだ。自由な子だなぁと笑いつつ、質問に答える。
「誕生日に花をプレゼントなんて洒落てるねえ。なら、その子の誕生日にまたここにおいで。この花をあげるといい」
「うれしいけど、おじいちゃんのたいせつな花なんでしょ。もらえないよ」
急に大人びて言った廻に驚いた。ちゃんと自分の話を聞いていたらしい。
「……やっと咲いたこの花が、誕生日プレゼントとして役目を果たせるなら私も嬉しいし、花も家内もきっと喜ぶと思う」
――大好きな子への贈り物にしてやってくれないかい。
そこまで言われて、廻も素直にこくりと頷いた。
「ありがとう、おじいちゃん!なまえもきっと喜ぶと思う!」
***
――今年の誕生日はなにがほしい?
誕生日にはリクエストができ、なまえは毎年今一番欲しいものを誕生日プレゼントにしていた。
けど、今年は一番欲しいものより、嬉しいプレゼントを貰う。
「ハッピーバースデー!なまえ♪これ、おれからのたんじょうびプレゼント!」
「ありがとう、廻!わぁ、すごくキレイなお花だっ!嬉しい!」
背中に回した廻の手が、なまえに差し出す。リボンが結ばれた一輪の花だ。
「色もとってもかわいいし、なんて花なの?」
「この花は……」
廻は花の名前と共に、この花をくれたおじいちゃんのことも話した。
「……そうだったんだ。わたしもそのおじいちゃんにお礼を言いたいな」
「なまえがよろこんでくれたことを知ったら、おじいちゃんもよろこぶよ!今から会いにいこ♪」
廻に案内されて、向かった先はご近所さんだが、なまえが通ったことのない道にある一軒屋だ。
「あっ、おじいちゃん!」
「おや、廻くん。なまえちゃんにお花を渡せたかな?」
「うんっ!なまえがおじいちゃんにお礼を言いたいって」
廻は隣にいるなまえを見ながら言うと、おじいさんの目線もなまえに移る。……なるほど。聞いていた通り、この花が似合うとっても可愛いお嬢さんだ。
「はじめまして、名字なまえです。あの、お花、ありがとうございます!すごくキレイでうれしいです!」
丁寧に挨拶をした少女は、廻より少し大人びているようだとおじいさんは思った。そして、うんうんと頷き、二人に向けて微笑む。
「喜んでくれたようで私も嬉しいよ。廻くんもサプライズがうまくいってよかったな」
「うん!おじいちゃん、ありがとう!」
「花だんにはたくさんのお花が咲いてるんだね!」
「ゆっくり見てくといいよ」
花を仲良く見る二人に、まるで孫ができたようだ。
この出来事がきっかけに、彼の趣味は本格的に園芸になり、文字通り人生に彩りを与えた。
庭には一年中、美しい花たちが咲き乱れ、近所の評判になるのは数ヵ月後のこと。
そして――さらに数年後。
「蜂楽廻くんは、よく私の庭の花を見に来てたんですよ。可愛い彼女さんも一緒にねえ」
U-20日本代表vs青い監獄11傑の試合を観て、友人たちに自慢する彼は、すっかりサッカー観戦が趣味になっていた。