夏だ!海だ!水着だ!

 夏休みを目前にし、現役中学生の青少年たちは、ある計画を立てていた。


「夏といえば……はい、蜂楽くん!」
「海!」
「正解!じゃあ海といえば……」
「イルカ!」
「いや、そこは水着だろ!」
「そうそう!ってなわけで……」


 海にグループデートに行こうぜ!


 ◆◆◆


「みんなで海って楽しそうだね!」
「だよね♪」

 その日の帰り道に廻から話を聞いて、なまえも笑顔で賛成する。千葉は海に面しているので行くことは多いが、友達と海で遊ぶのは初めてで、もちろん廻ともだ。

「水着、買わなくちゃ」

 基本インドア派のなまえはプールにも行かないので、スクール水着しか持っていない。可愛い水着が欲しいな、となまえが考える一方で、廻ははっと慌てて口を開く。

「なまえ、露出が多い水着はだめだからね!」

 こんなヤツ!そう言って自分の体に合わせて手でジェスチャーして伝える廻に、なまえは吹いてしまった。
 どうやらビキニのことを指しているらしいが、手の動きがおかしい。

「そういうのは着ないよー。私だって恥ずかしいし」
「よかった♪俺、他の男になまえの裸見せたくないし」
「それを言うなら肌かな。裸だとちょっと問題なような……」
「そういえば、水着と下着ってなにが違うんだろうね?」
「え、えぇ〜」

 唐突に純粋な疑問を口にした廻に、なまえも確かに……と考える。水着と下着。隠れる面積はほぼ一緒だ。でも、水着で人前で出られても、下着では出られない。前提?生地?

(不思議……)

 いつもなら考えないことを真剣に考えてしまうのも、きっとこの夏の暑さが成せることだ。
 
「俺は水着でも下着でも裸でも恥ずかしくないけどね♪」

 それはドヤって言うことではない。あっけらかんと笑う廻に「せめて裸は恥ずかしがってほしいな」と、なまえは困ったように笑い返した。

 廻がじつは裸族かも?と、なまえが気づくのはそろそろだ。


 ◆◆◆


 待ちに待った夏休みに入り、なまえは一緒に海へ行く友達二人と水着を買いにやって来ていた。
 ずらりと並んだ水着を「これ、可愛い!」と言い合ったり、体の前に合わせて見せ合ったり、楽しそうに選ぶ。

「蜂楽くんはどんな感じが好きそう?」

 その質問に「可愛い感じかなぁ」と、なまえは思い出すように答える。どんなテイストの服装でも、廻はちゃんと褒めてくれるけど。
 廻が明るい色が好きなのもあって、水着だし、ポップな色合いのものにしようかなとなまえは考えていた。

(あ、これ可愛い色)

 パッと好みの色が眼について、手に取る。フリルがついたセパレートタイプの水着で、いわゆるタンキニだ。……うん!デザインも可愛いし、廻の要望通り?に露出度もそんなに高くない。

「これ、どうかな?」
「わあ、可愛い!」
「うんっ、なまえちゃんに似合うよ!」

 二人のお墨付きも貰い、なまえはこの水着に決めた。
 他の二人もお気に入りを見つけて、これで水着はばっちりだ。その後はアクセサリーを見たり、夏服を見たり、カフェで一息する。

 "可愛い水着買ったよ"

 僅かに口元に笑みを浮かべて廻にメッセージを送ると、すぐに既読がついて返信がポンッと画面に出た。

 "めっっちゃ楽しみにしてる!"

 そんなテンション高いメッセージに、なまえは声を出さずに笑う。
 そんななまえを見て、二人は顔を綻ばせた。
 二人の仲良しっぷりはクラスに留まらず学校内で有名だ。最近、彼氏が出来たばかりの二人はこんな風になりたいな、と憧れている。


 ――そして、当日。


 真夏の太陽の日差しがガンガンに降り注ぐ下は、キラキラ輝く青い海が広がっている。
 楽しげな人々の声に、盛り上げるようにDJが音楽を奏でていた。


「夏だ!海だっ!」

 水着だ――!

「ひゃっほーい!」
「いっえ〜い♪」


 わかりやすくはしゃぐ男子三人に、一方の女子三人はくすくすと笑う。

「じゃあ、ここで待ち合わせね」
「おう!」

 海で遊ぶのに、まずは着替えだ。男女に分かれて更衣室に入り、水着に着替える。

「あれ、蜂楽。浴衣は個性的だったのに水着は普通なのな」
「黄色なのはお前っぽいけど」
「気にいってんだ♪」

 新しく買ったもので、黄色のスポーティーな水着だ。色もそうだが、廻が愛用しているサッカーブランドのものだからだ。

「俺は……気合いを入れてきた!勝負水着だ!」
「わーお」
「いや、派手過ぎだろ!パリピかよ!」

 仁王立ちでポーズを決めて。もう一人の男子は笑いながらつっこんだ。

「にゃはは!迷子になってもすぐに見つかりそうだね♪」
「迷子になりそうなのはどっちかって言うと蜂楽だけどな」

 うんうん、ともう一人の男子も頷く。迷子というより、マイペースに単独行動しそうなイメージがある。花火大会の時もそうだったし。
 準備万端になった男子三人は更衣室を後にした。

 そわそわしながら、女子三人を待った。

「……遅いなぁ」
「たぶん、日焼け止めとか塗ってんだよ」

 彼は彼女が「焼けたくない」って言っていたという。なまえも夏は日焼け対策を熱心にしていると、廻は思い出した。(日焼けしても可愛いのになー)

「お待たせ!」

 そんななまえの姿を想像としていた時、待ちに待った彼女たちは現れた。

 ――水着姿の。

「「おぉっ……!」」

 水着姿の彼女たちを前にして、男子三人の声が揃った。

 廻の眼に、白い肌が眩しく映る。

 明るい色合いに、フリルがついた女の子らしいデザイン。可愛い!水着だけど、露出度が少ないのもいい。

「なまえ!いいね、その水着!すごく似合ってるし、元気って感じで可愛い♪」
「ありがとう!廻も……可愛い!」
「いやいや、そこはかっこいいでしょ!?」

 もちろん、かっこいい。廻はかっこいいと可愛いが共存しているから、つい口からは「可愛い」が飛び出してしまった。


「とりあえず海行こうぜ、海!」


 熱した砂浜を歩きながら、海へと向かう。水温は温いが外にいるよりずっとマシだ。
 なまえはとくに泳いだりせず、腰ぐらいまで浸かり、じゃぶじゃぶ楽しんでいた。

「なまえ!久しぶりにどっちが長く潜れるか勝負しよ♪」
「いいよ!」

 小学生の頃はプールの授業でよくそうやって遊んでいた。そんな廻のおかげで楽しくなり、あまり好きじゃなかったプールの授業が、前より好きになったなまえだ。

 せーのっ!

 同時に二人は海の中に潜る。……数十秒経過して、なまえはぷはぁと顔を上げた。濡れた顔を両手で拭う。どうやら、廻の勝ちらしい。
 目の前の水面はゆるやかに揺れている。
 小学生の頃は二人いい勝負だったが、成長した性差に、廻の方が有利になったようだ。

「廻……?」

 少し待っても顔を上げて来ない廻に、なまえは不安が横切る。

 まさか、溺れたんじゃ……!

「ぶはぁ!」
「わぁ!?」

 背後から水飛沫を上げて現れた廻に、なまえは驚きの声と共に肩をびくっと揺らした。

「にゃははっ、驚いた?俺の勝ちだね♪」
「「俺の勝ちだね♪」じゃなーい!もうっなかなか上がって来ないから本気で心配したんだよ!」
「ごめんごめん♪」

 ――うにゃっ!

 怒っても全然悪く思ってなさそうな廻に、なまえは顔面に思いっきり水をかけた。


「あ、ねえねえ、廻。見て、イルカのサーフボード。可愛いね!」

 なまえが見ている先には、小さな女の子がお父さんに支えられながら、楽しそうにビニールでできたイルカに跨がっている。

「海の家で借りられるみたい」
「イルカ!借りようよ、なまえ!」

 海から出ると、海の家に向かった。他の二人組は泳いだり、持参した浮き輪でプカプカ浮いてたりと、それぞれ楽しんでいる。
 海の家では浮き輪だけでなく、パラソルやビーチボールなど、色々なものが借りられるようだ。

「イルカ、ゲットー!」

 廻はレンタルイルカを横に抱える。海と廻とイルカ。よく似合うなぁとなまえは思う。
 二人はレンタルイルカと共に海に戻ってきた。

「はい!支えてあげるからなまえ、乗ってみて♪」

 波に浮かんだイルカに、なまえは慎重に乗り上げる。取っ手もちゃんとあって、思ったより安定していた。

「あはっ、楽しい!」

 イルカに乗って波に揺られる。ちょっと目線が高くなるのも気持ちいい。

「二人乗りできるかな?」
「え、できる?これ一人乗りじゃない?」

 よいしょっと廻は軽々と乗ってきて、イルカはぐらぐらと揺れる。

「おおっ?」
「!?」

 その瞬間。廻が尻尾の方に乗ったことにより、イルカのバランスが崩れた。
 後ろから素肌の廻に抱きつかれて、なまえはドキっとするも一瞬だ。

 イルカは転倒し、二人揃ってばしゃんっ!と海へダイブ。

 ちなみに廻はなまえを守ろうとして抱き締めたのだが、結果的に道連れにする形になった。

「危ない!廻、これ一人乗りだよ〜!」
「あはは〜」
「はい、今度は廻が乗って」

 それでも二人は笑い合って、今度は廻がイルカに乗る。

「なまえ、後ろに乗って!今度はバランス的に大丈夫だって!」
「えー大丈夫かなぁ?」

 廻に言われて、なまえはイルカに乗り上げると、廻の肩に控えめに掴まった。

 上半身、裸の廻に、自分は水着。

 今度こそちゃんとドキドキしている――と。大きめな波にバランスを崩して、二人はやっぱり海にダイブした。


「いっくよー!」

 海の家でお昼を食べたあとは、皆がやってみたいということで、ビーチバレーをする。
 チームはグーパーで決めて、なまえと廻は別れてしまったが、気軽なお遊びにビーチボールも軽くて痛くないので、なまえも楽しんでいる。

 しかし、溶けそうな太陽の下、砂に足を取られ、なかなかハードな遊びだと思う。

「なまえちゃん!」
「えいっ!」

 さすがバレー部の彼女のトスは的確だった。なまえでもスパイクを打ってた。
 だが、コントロールまではできず、まっすぐに廻に向かう。

 廻なら、あっさりとレシーブするだろう。

「にゃっ」
「廻!?」
「おー蜂楽、大丈夫か?」

 何故か廻はぼけーとして動かず、顔面でボールを受け止めた。ビーチボールなので(さらになまえのスパイクだ)怪我はないようだが、運動神経抜群の廻が珍しいと、皆は不思議そうに見る。

「廻、ごめんね!大丈夫?」
「大丈夫大丈夫!なまえに見惚れただけだから」
「え?」

 冗談のように廻は言ったが、それは本心である。なまえがスパイクを打つ際、伸ばした腕に、ちらりと隠れていたお腹が見えて、つい眼が釘つけになってしまった。いや、好きな子のチラリズムに眼がいかない方がおかしい。健全だ。

 今まで夏はワクワクするものだと思っていたけど、刺激的だとも気づいて、廻は眩しい空を見上げた。


 チームをシャッフルし、ビーチバレーは続行したが、太陽が一番高い時間になり休憩になった。
 熱中症にご注意というアナウンスも、頻繁に砂浜に響いている。

「俺たち、かき氷買ってくるよ!なにがいい?」

 彼女たちから味を聞き、男子三人で行こうとしたところ、

「いや、女の子たちだけで残して、ナンパされたら危ないから一人残ろう」

 ……確かに。その言葉に廻もうんうんと納得して、ジャケンで勝った一人が残ることになった。
 負けた廻は、もう一人の男子と共に何度目かの海の家へと向かう。


 そして。


「あ、お姉さん。これ、落としたよ!」

 むしろ、廻がナンパされることになる――。
 ただ落とし物を拾って、にこっと無邪気に笑いかけただけだったが。

(なにこの子、超可愛い!)
(やだ、アイドルみたーい!)

 二人組の年上のお姉さんは、廻の笑顔にずきゅんっと心臓を撃たれた。
 ちなみにその数年後も「好きなタイプは手のひらで転がしてくれる年上の男性」と、公言していたお姉さんの心も一瞬で鷲掴みするので、廻はなかなかの年上キラーだ。

「ねえ、君。あたしたちと遊ばない?」
「海で一緒に泳ご♡」
「(うおーい!?蜂楽ーー!?)」

 一緒に来ていた彼はその光景に、なにやっとんじゃあーー!と、慌てて廻の元に駆け寄る。
 こんなギャル風なお姉さんに逆ナンされて羨ましい……じゃなくて!

「おい、蜂楽っ!」
「あ、お友だち?」
「ちょうどにーにーでいい感じじゃん?」

 お姉さんたちはグイグイと来るだけでなく、ちょうどビキニの谷間も眼にしてしまい、彼は顔を赤くさせてたじたじとなった。
 そんな純朴な少年の反応に、彼女たちは「赤くなってる。かわいー」なんて言うもんだから、さらに彼は固まってしまう。
 代わりに、今まできょとんとしていた廻が口を開く。

「ごめんね。俺たち、彼女と来てるんだ。バイバーイ」

 ……なんだ、そのクールで大人な対応は!
 はっきりあっさり断った廻に、彼は尊敬の眼差しを向けた。可愛い顔をしているのに、今は自分よりずっと男らしく見える。


「かき氷、三つ同時に持つのむずくない?一個頭にのせて運べるかな?」
「……アシカかよ」


 うん。やっぱりいつもの蜂楽だ。


 ◆◆◆


 かき氷で体の中から冷やし、最後は各々カップルで好きに過ごそうとなった。
 廻となまえは再び海に入る。午前中より少し波が高くなり、足がついた場所でも、波に体が煽られた。

「なんか雲ってきたね。雨、降るのかなぁ?」
「予報では雨マークはなかったけど、夏はゲリラ豪雨も多いもんね」

 急にどんよりしてきた空を、二人は波に揺られながら見上げていると、案の定、ぽつりと肌に当たった。

 あーあ、雨が降ってきちゃった……じゃない!?

「廻!これ、ヒョウだよ!」
「え、ヒョウ?」

 いち早く気づいたなまえに、ヒョウってなんだっけ――廻が思い出す間もなく、それは怒濤のごとく降ってきた。

「氷が降ってきた!」
「異常気象!?」

 突然の雹の雨にその場はプチパニックになって、その場にいた人々はパラソルや屋根の下へと避難する。ビシバシ肌に当たって結構痛い。

「廻!私たちも避難しようっ」
「海に入ったら痛くないよ」
「出てる頭とか顔が痛いよ!」

 なによりこのまま海の中にいるのはちょっと怖い。なまえは廻の手を引いて、海の家の方へと避難してきた。
 
 あんなに賑わっていた海に、ほとんど人の姿がなくなって寂しい景色だ。

「くしゅんっ」

 この天気のせいか、急にひんやりした風が吹いて、なまえは小さくくしゃみした。

「着替えよっか」
「そうだね」

 きっと、他のみんなもどこかで避難しているだろう。早めに切り上げ、二人は手を繋いだまま更衣室へと向かった。

「さっきのヒョウ、びっくりしたね!」

 他の二人組も同じように考えていたのか、すぐに合流できた。雹は止んだが、まだ不安定な天気だ。予定より少し早いが電車に乗り、六人は帰路につく。

 電車の席に座り「楽しかったねー」と女子たちは振り返って話す。最後はハプニングだったが、それもまたいい思い出だ。
 別々に座った男子たちは、対してこそこそと声を潜めて話していた。

「蜂楽、ギャルに逆ナンされんだぜ!」
「マジ?」
「でも、男らしく断ったんだぜ!」

 話を聞いた彼の眼は、自然と隣に座る廻を見る。

「……マジ?」

 気持ちさそうな顔で眠る姿は、いつも学校で居眠りしている姿そのまんまで、にわかに信じがたい。

 ……それよりも。


「ギャルに逆ナンっていいなぁ」
「だよな!」


 青少年らしく、廻を羨ましく思う二人であった。





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あでぃしょなる⚽たいむ!
#両方試したい


「今度はプールに行こうぜ!」
「ウォータースライダーだ!」
「ウォータースライダー?」
「二人でボートに乗って、長い滑り台を降りるやつだよ!」
「へー!面白そう!」
「重要なのは前に乗るか、後ろに乗るかだ」
「?なんで?」
「後ろに乗ったら、女の子に抱きつく形になるし、前に乗ったら女の子に抱きつかれる形になるだろ?」
「あーなるほどー」
「蜂楽はどっちがいい?」
「うーーん」

 廻、想像して考え中……
 
「どっちも!」
「「欲張りだな!?」」


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