なまえは動物が好きだ。小さい頃は猫を飼いたいと思っていたが、父が猫アレルギーなので諦めていた。
「じゃあ、わんちゃんを飼おっか」
「わーい!」
母もわりと動物が好きな方なのでそう提案したが、どうやら父は動物全般の毛がだめだと判明し、名字家では可愛いモフモフのペットを買うこと自体を断念した。
代わりに今日も、なまえは小さい頃に行った夏祭りで、廻が金魚すくいでくれたコイキング(♀)を愛でる。
「コイキング、ごはんだよ〜」
餌をあげようとすると、コイキングは口をパクパクさせ寄ってくる。彼女はなまえのことはしっかり「餌をくれる人」と認識していた。むしろ、それ以下でもそれ以上でもない。
「大きくなるんだよ〜」
毎回そう言って餌を与える娘に、母は笑顔で眺めつつ「これ以上大きくなったらちょっと困るな」と思っている。その名のとおり、コイキングはすくすくコイのように成長し、水槽を三回は買い替えているからだ。
(廻くん、生命力の強い金魚を選んでくれたのね)
金魚の寿命は短いが、最大だと10年ぐらいは生きるという。
「よし、なまえ。コイキングをもっと長生きさせてギネスに載せるぞ!」
「うん!」
と、張り切る父になまえも意気投合して、今日もコイキングは大切に育てられている。
――蜂楽家もペットと縁のない家だ。優も廻も動物は好きだが、親子共に世話をしきれないと思っている。そんな蜂楽家に……
「ただいまー」
「おかえり、廻」
「にゃー」
猫がやってきた。
◆◆◆
「ただいまー」
部活を終えた廻は、家に着くと自宅の玄関からではなく、隣接しているアトリエのドアから入って家に帰っていた。
母である優は大体そこで絵を描いているので、小学校からのルーティンだ。
「おかえり、廻」
廻が帰ってくると、優はどんなに集中していても絵から視線を外し、笑顔で息子の帰宅を迎えた。
「にゃー」
……にゃー?今日は優だけでなくもう一匹、廻の帰りをお出迎えする者がいた。
「え、猫……?」
廻の第一声が疑問符だったのは家に猫がいたのを驚いたのではなく、見た目は猫だけど、その猫は見たことがないほどデカかったからだ。
顔は小顔なのに、その倍ぐらい体はでっぷりしている。ふわふわの長い毛がさらにそう見せるのかもしれない。
「どうしたの、この猫」
わたあめみたいな白い毛に、青い透き通ったビー玉みたいな眼。見知らぬ猫は我が物顔で背筋よくそこに座って、廻を見上げている。気品とは縁のない廻でも、そんじゃそこらにいる野良猫とは違う、高級な猫だとわかった。
「そうそう、この子ね。お世話になった学芸員の人が急遽入院することになっちゃって、家で一週間預かることになったんだ」
「え、マジ?」
今日もサッカーで怒られて、少し沈んていた廻だったが、その言葉にわくわくした感情が顔を出す。
しゃがんで近づくも、猫は逃げない。
飼い猫なこともあって、人馴れはしているようだ。手のひらを向けて差し出してみる。近所に住む野良猫のボスのように引っかくことはせず、大人しく撫でさせてくれた。
「すげっ、モフモフだ!」
さわり心地も抜群だ。見た目以上に柔らかくて、猫ってすごいと廻は思う。次にリュックからスマホを取り出すと、猫の写真を撮った。
(なまえ、うちに猫がいるって知ったら驚くだろうな)
家に遊びにきたなまえの姿を思い浮かべて、廻の頬は緩む。
数分後、返ってきたテンションの高いメッセージに、今度は小さな笑い声がもれた。新しいメッセージが届く。
"その子、メインクーンかな?"
"なにそれ?"
"猫の種類で、大型の猫なんだよ"
へー!もともと大きな猫なんだ。犬に小型犬や大型犬のくくりがあるように、猫にもあるんだと廻は初めて知った。
"明日、学校終わりに遊びに行っていい?"
そのメッセージにはもちろん二つ返事だ。ぽんっとOK!の意味のスタンプを廻は押した。
◆◆◆
「可愛い〜〜!それに写真で見るより大きいね!」
ソファで悠々くつろぐ猫に、眼をキラキラと輝かせて言ったなまえは、廻の想像通りの反応だ。
「この子の名前はなんていうの?」
「レオって名前なんだって♪」
その名前を聞いて、瞬時になまえはある人物が頭に浮かぶ。
「……レオさま」
「さま?」
「あ、ううん!」
思わず口に出してしまって、なまえは笑ってごまかした。なまえが通う白宝高校には彼の有名な御影コーポレーションの御曹司、御影玲王が通っている。学校中の人気者で、ほぼ毎日「玲王さま」と呼び名を耳にするので、つい「さま」を付けて呼んでしまった。
「男の子?」
「そ、オスだって」
「じゃあ、王子さまだ」
「あはっ、確かにこの貫禄は王子さまですなぁ」
家に来たその日から、レオは我が物顔でいるらしい。そして、今はソファを独り占めして横に伸びて寝ている。見た目の気品さもあり「レオさま」という名の呼び方も間違っていないと二人は笑った。
「おもちゃもあるよ」
「遊びたい!」
廻は一緒に預かった鞄から、レオのお気に入りだというおもちゃを持ってきた。先端にふさふさがついた猫じゃらしだ。
それをなまえは受け取ると、小刻みに動かした。レオのビー玉みたいな眼はさらに大きくなり、好奇心いっぱいに猫じゃらしの動きを追っている。
次の瞬間、シュパ!と手を出し、体の大きさに似合わず動きは俊敏だった。
レオが食いついたところでなまえは激しく猫じゃらしを揺らし、レオもそれに合わせて激しい動きを見せる。
「あははっ、すごいすごい!」
「大きいのに動きは素早いんだよね。朝は冷蔵庫の上にひょいっと乗って寝てたし、猫界のメッシだよ!」
猫界のメッシという廻の言葉に、なまえはさらに笑った。それを裏付けるように、廻は小さいボールを取り出して言う。
「レオは猫サッカーもできるんだよ♪」
廻は「それっ」と少し遠くにボールを投げると、レオはソファからばっと力強くジャンプして、転がるボールを追いかける。ちょいと前足で転がしては追いかけて遊んでいる。
「ねっ」
「すごいね!ドリブルみたい」
レオは大きくて気品ある顔立ちから、性格はおっとりしているのかと思いきや、好奇心は仰せいで遊ぶのが大好きらしい。
おやつも大好きらしく、なまえがあげたいと袋を開けた途端、とととっ、と足音が聞こえそうなほどにレオはかけ寄ってきた。
「だっこしてもいいかな?」
「レオはだっこしても大人しいよ。でも、見た目よりずっしりしてて、昨日、優がだっこしたけど「最近、筆より重いもの持ってないから明日腕が筋肉痛になるかも」って言ってた」
「え、そんなに?」
なまえは優が筋肉痛になったのか、少し気になりながらも、おやつを食べて満足げなレオの両腕の下に手を差し込む。そのまま持ち上げようとしたが、
「重っ……!」
重いだけでなく長い。持ち上げようとするも、持ち上がるどころか、レオの体だけが伸びる伸びる。
巷で猫は軟体動物や、液体と言われているほど体が柔らかい。
廻も手伝い、やっとのことでなまえの膝の上にレオは抱っこされたが、すぐにレオのでっぷりしたお尻がずりずりとすべり落ちていくので廻は笑った。
でかいレオをなまえがだっこすると、ますますレオはでっかく見えて、なまえがいつもより小さく見える。
「いいなぁ、廻。一週間だけでも猫飼えて」
不安定な体勢での抱っこだが、レオにとっては案外悪くないらしい。そのまま居座り、なまえの手に撫でられて気持ち良さそうにしている。
「なまえ、毎日遊びにくればいいじゃん?てか泊まりにくればいいよ!」
「泊まりはお父さんがうるさいから……」
「こんな家近いのに?」
家が近くだろうが、しっかりと線引きをするのがなまえの父だ。
「あ、夜はレオ、どこで寝てるの?」
「そういえばどこで寝てんだろ?自由に家ん中、動き回れるからなー」
今夜、どこで寝ているか報告するよ!と言う廻の言葉に、なまえは楽しみに待っていると笑顔で答えた。
その夜、お風呂から上がったなまえのスマホにメッセージが届いたと告げた。ダイニングテーブルに置いたままだったスマホを手に取り、確認すると……
「廻からだ」
色んな所で寝ているレオの写真が送られてきていた。
窓の縁や廻のベッドの上。棚の上や洗濯物のカゴの中で寝ているのもある。どれも可愛いくて、自由に寝るレオは預かり先でも楽しんでいるようだ。
「あ、お母さん見て見て!」
「あら、どの写真も可愛いわねー。お母さんも明日見に行こうかな」
「うん、本物はもっと可愛いよ!」
――蜂楽家で預かっている猫の話に盛り上がり、きゃっきゃとしている妻と娘を見て、疎外感を感じているのはなまえ父だ。
別に自分も猫は嫌いじゃない。むしろ可愛いと思う。ただ動物アレルギーなだけで。話に混ざりたくうずうずする父は、二人にさりげなさを装って声をかけた。
「お父さんも一緒に見に行こうかな」
「さっきなまえの制服についた猫の毛だけでくしゃみ連発してたじゃない」
「レオもびっくりするし、迷惑かけちゃだめだよ」
妻と娘にそっけなく言われて、父はしょんぼりする。いいんだ、うちにはコイキングがいるから――水槽の中を泳ぐコイキングを愛でる父であった。
◆◆◆
翌日、学校に登校したなまえは、休み時間にいつものグループで会話に花を咲かせる中「そうだ、昨日ね……」猫のことを皆に話した。写真を見たい!という彼女たちに、なまえはスマホの画面を見せる。
「可愛い〜♡」
「長毛種の猫ちゃんだね!」
「この子、メインクーンじゃない?」
「うちも猫好きなんだけど、家では犬飼ってるから飼えないんだよね〜」
「私のところはお父さんが動物アレルギーだから、猫も犬も飼えないの」
彼女たちの言葉に続いて、なまえは残念そうに言った。
「そっかぁ、アレルギーはどうにもできないもんねぇ」
「ねえねえ、この猫ちゃんの名前はなんていうの?」
「名前はレオで、男の子なんだって」
レオ。
彼女たちは揃って同じ顔を頭に思い浮かべる。昨日のなまえと同じように。その名前で思い浮かぶ人物は、この学校に在籍しているなら一人しかいないからだ。
「すごーい!玲王さまとおんなじ名……」
「名字さん……今、玲王さまのことを呼び捨てにしたでしょ!?」
おっとりした彼女の声を遮るように、鋭い声が響いた。なまえはあまり話したことがないが、確か彼女はどこかのご令嬢だと耳にしたことがある。
「玲王さまとちょくちょく話していると思ったら、やっぱり!玲王さまを呼び捨てにするような仲に……!」
「違うよ!?」
なまえはぎょっとして慌てて否定した。確かに御影くんとは夏休みの短期留学や、サッカー関係でちょくちょく話すようになったが、決して彼女が怪しんでいるような関係ではない。
「この猫!猫の名前がレオなの!」
スマホ画面を某ご隠居の印籠のごとく、なまえは彼女に見せた。じーと訝しげに見つめる彼女の目に、丸まって寝ている愛らしい猫の姿が映っている。
「……。猫の名前なんてまぎらわしい!次からは気をつけてよね」
「ご、ごめんね」
前後の言葉は聞こえなかったのかな……と、ちょっと腑に落ちないところはあるが、素直に謝った。それより変な誤解されずによかったとほっとする。
「なまえ、気にしなくていいよ」
「あの子、玲王さまガチ勢だもん」
ひそひそと声を潜めて話す彼女たちの言葉になまえは「ガチ勢とかあるんだ……」と驚き呟いた。さすが御影くん。彼との距離感は気をつけようと改めてなまえは思う。いや、向こうからやたらフレンドリーに来るのだけど。
「まあ、レオって猫に合う名前だよね。かっこいいし、この子は玲王くんみたいな気品あるしさ」
「でも、この子ってよく見ると玲王さまより凪くんに似てない?」
その言葉に、皆は猫のレオと机に突っ伏してずっと寝ている凪を交互に見比べる。モフモフの白い毛。大きな体。よく寝てるし。
「確かに……?」
なまえは昨日の俊敏なレオの動きを思い出し、凪くんもじつはあんな動きをしたりして……と考えた。思えば体育の授業もめんどくさがって、凪がちゃんと運動しているところを見たことがない。
◆◆◆
二日目はなまえとなまえ母が蜂楽家に遊びに来て猫と戯れ、翌日の三日目。
事件は起きた。
「レオ、待てって!」
「あっ、待って廻!」
逃げるレオを廻が追いかけ、その廻をなまえが追いかける。
――事の始まりはほんの数分前。
ドアを閉め忘れたアトリエにレオが入ってしまい、二人が気づいた時には遅く、置いてあった絵の具を踏みつけてしまっていた。
足裏だけでなく長い白い毛にも絵の具がついている。
レオは預かっている猫でもあり、早く洗わないと――!慌てる二人の心情も知らず、レオはのんびり歩き、その後ろをカラフルな肉球の足跡がついていった。
あ、可愛い。
うまい具合にグラデーションにもなっていて芸術っぽくも見える。二人がそう思ったのも一瞬で、すぐにハッと気づいた。
ここままでは家中がカラフルな猫の足跡だらけになってしまう――。
被害が広がる前にレオを捕まえないと!
「も〜なんで逃げんの!?」
そして、廻が追いかけるのでレオは逃げ、その逃げるレオをさらに廻は追いかけ……
「廻、追いかけちゃだめだよ!」
その廻をなまえが止めようと追いかけた。猫は追いかけたら逃げる生き物だ。狭くもないがそこまで広くもない家の中を器用に疾走する一匹と一人に、なまえは感心するものの、……感心してもいられない。
「あいたっ」
追いかけるのに夢中になっていた廻は家具の角に小指をぶつけた。
同時にぶつかった衝撃で飾ってあった物は音を立て落っこちた。
たぶんこのまま二人の追いかけっこが続いたら、猫の足跡だけでなく物が散乱し被害が拡大する――と、なまえは考える。
「……あ、そうだ」
閃いたなまえはレオの荷物から、おやつの袋を取り出した。
「レオー!おやつだよ〜」
そう呼びかけると、レオは一目散になまえの元へやってくる。……確保!少し遅れてむすっとした顔の廻もやってきた。
「ねえ、なまえ。小指ぶつけたー」
「見てたから知ってる。……はい、廻にもおやつあげるね」
「やったー!」
スクールバッグから自分のおやつ用に買っていたポッキーを廻にあげた。
昔、猫を飼いたかったこともあり、猫の扱いは勉強してそれなりに知っていたが、それ以上になまえは廻の扱いが得意だった。
一瞬でご機嫌になってポッキーを食べる廻と、おやつを夢中で食べているレオ。そんな二人を見てなまえはくすりと笑う。
「なんか廻とレオって、兄弟みたいだね」
「え……なまえにはレオが人間に見えんの?」
「えぇ?」
予想外の言葉が返ってきた。そう真顔で聞き返されるとなまえは困る。
「えっと、種族を越えたというか……。どっちかというと廻が猫っぽいけど」
「猫なら根子田っちじゃない?」
根子田っちとは、廻となまえの中学時代の社会科を担当していたおじさん先生だ。顔も雰囲気も猫そっくりで「前世はきっと猫に違いない」や「転生した猫だ」やら、生徒たちの間でもっぱらの噂だった。
「確かに根子田先生は顔が猫にそっくりだけど、廻も猫っぽいと思うな」
「そうかにゃー?なまえの勘違いじゃにゃい?」
「ほら、それ!」
「にゃははっ!」
そうあっけらかんと笑う廻は、猫耳と尻尾が生えてもおかしくない。
「おやつも食べ終わったし、今度はレオを洗わなくちゃね……」
「大人しく洗われてくれるといいね」
猫はあまり洗わないという。一応、レオの荷物にシャンプーが入っていたので、洗われるのは初めてではなさそうだが……。
「おっも」
廻がレオを抱っこして浴槽につれていき、そのまま暴れないように体を後ろから押さえた。とりあえず汚れた部分だけ洗えればいいので、なまえはレオの足元にだけお湯をかける。
押さえられたままといえ、お湯をかけてもレオは大人しかった。大人しかったが……
「廻、レオ、すごい不機嫌な顔になってる」
「どんな顔?見たい!」
後ろから覗き込むように見ると、レオは明らかにむすーとしていた。その表情もまた可愛いけど。
「なまえ、これいつレオがブチギレてもおかしくないよ」
「あはは……その前に洗わないとね」
なまえは手早くシャンプーを泡立て、レオの手足を洗った。絵の具が落ちて毛色が白に戻ると、二人は安堵する。
お湯で洗い流すと、そこには細い手足が現れた。
「「…………」」
無言で見つめる廻となまえ。しばらくして廻が先に口を開く。
「全身濡れたらレオってじつは細いんじゃない?」
「見てみたいけど、全身洗うと大変だからね……」
なにより、レオがさらに不機嫌な顔になっている。まるで「はよせい」と言っているみたいだ。
しっかりタオルドライをし、乾かすと、レオはソファの上で毛繕いをしながらくつろぎ始めた。
対して、二人はこれで終わりではない。
「うへ〜これを掃除するのかぁ」
「優さんが帰ってくる前に掃除を終わらせちゃお」
優なら怒りはしないだろうが、この惨劇は確実に困るだろう。二人は雑巾を手に、床や家具についた足跡を落としていった。
「あれ、なんか家の中が綺麗になってない?」
二人の(主になまえの)頑張りによって、以前より蜂楽家は綺麗になったとか。
◆◆◆
「ぐぇっ!」
レオが蜂楽家にやってきた四日目の朝、廻はそんな蛙の潰れたような声を出して起きた。というか起こされた。
レオがどこからか廻のお腹の上にダイブしたからだ。一瞬で目が覚めた廻は恨めしそうに見るが、レオはきょとんとしている。
「レオ、起こすなら優しく起こしてよ……なまえならもっと優しく起こしてくれるよ?」
レオはわかっているのかわかっていないのか(たぶんわかってない)ぷいっとそっけなく廻の部屋から出ていった。……ありゃ。
猫って本当に気まぐれなんだなーと思いながら、廻はうーんと猫のように上半身を伸ばし、ベッドから起きた。
蜂楽家に猫がきて四日目ともなれば、その存在は当たり前のようになってくる。
「どう、レオ?君をモデルにして描いたんだけど……」
画家、蜂楽優の代表的な作品は"かいぶつ"をテーマに抽象的な絵だが、たった今描き上がったこの絵は、それに猫のイメージをプラスしたものだ。
「……ありゃ、気にくわなかったかな?」
興味がないような素振りをするレオに優は笑う。猫には人間の言葉も絵もわからないだろうが、ペットは家族というように、つい声をかけてみたくなるものだ。
ちなみにこの作品は、いつもと雰囲気が違うと、蜂楽優ファンから隠れた名作として人気が出ることとなる。
――レオが蜂楽家にやってきた一週間はあっという間だった。
1週間後。無事、退院した飼い主の元にレオは帰っていき、少しの間でもその存在は大きかったと、二人はしんみりしていた。
「ペットロスってこんな感じなのかなー」
「そうだね。さびしくなっちゃったね」
テーブルの上にはお礼にもらった菓子折りがあったが、二人は手を伸ばす気にはならない。
そして、猫を飼おうという気も……。
確かにレオは可愛かったが、同時に生き物を飼う大変さも知ったからだ。
ただ、なまえと結婚したら猫を飼うのはいいなと廻は思った。
自分一人じゃ生き物を飼う自信はないけど、コイキングを大事に育ててくれているなまえと一緒なら安心だ。なまえも猫を飼いたがってたし、よし将来は猫を飼おう――と廻は勝手に決めた。
……そんなことを考えていたからか。
「あのね、廻……。びっくりすると思うけど……」
廻はその夜、猫を飼う夢を見た。
猫と言っても、
「私、耳と尻尾が生えて猫になっちゃったみたいなの……」
――猫になったなまえを。
いつだったか、廻が猫になった不思議な夢を見たとなまえが話をしたことがあった。今回はその逆だ。
『だって、絶対猫耳も尻尾も似合うし、絶対可愛いじゃん。俺、一生大切にしていっぱい可愛がるよ。ワクワクさせるし退屈させない。ね?俺に飼われてみたくなったっしょ?』
そのときに言った言葉の通り、廻はなまえを飼うことにした。
可愛がるってことは……いいんだよね?
そこで、廻はぱちっと目が覚めた。
一年に一度あるかないか。こんなにはっきりと目が覚めることなんて滅多にない。
ベッドの上で天井を見つめたまま、廻は愕然と呟く。
マジ、ありえねー……。
ものすごくいいところで目が覚めた。猫のなまえとあんなことやこんなことをしようと、可愛がるところで……
「寸止め……」
夢とはいえ、めちゃくちゃ惜しい。布団でゴロゴロ……ではなく悶々しながら、廻は途中までの甘い夢に浸ろうとする。
(……あ、二度寝すれば続きを見れるかも)
わくわく期待しながら廻は眼を閉じた、……が。
「…………」
夢を見る前に、けたたましい目覚ましの音で起こされた。
(こんな早くに廻から連絡くるなんて珍しい……)
朝の通学電車の中、そう不思議に思いながらスマホを見るなまえの眉が、怪訝に潜む。
"なまえ、猫の耳と尻尾生えてない?"
――どういう質問?廻、寝ぼけてる?
レオがいなくなって猫ロスになったのだろうか。ちなみになまえはめちゃくちゃレオロスになって、メインクーンの動画をしょっちゅう観ている。
なまえは少し考えてから、廻にメッセージを返信した。
"今のところ、生えてないよ"
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あでぃしょなる⚽たいむ!
#蜂と豹
「俺、よく猫っぽいって言われるけど、千切んの方が猫だと思うんだよね」
「はは、また唐突な話だな。猫なら見た目の雰囲気とか、俺より蜂楽っしょ。あのイラストも猫っぽく描かれてんじゃん」
「性格は千切んじゃない?猫って気まぐれな性格じゃん。千切んでしょ」
「いや、言うほど俺気まぐれじゃねぇし」
「いやいやいや、気まぐれっぷりなら千切んの隣に並ぶヤツはいないってば。この間も潔とおかず交換しようってなって、國神としてたし」
「あー……あれは國神の方のおかずがおいしそうに見えたから。そういう蜂楽だって、1on1しようってなって寝てたよな?」
「んー……たぶん眠くなったから寝たんだと思う。睡魔には勝てないよね」
「蜂楽はよく寝るところも猫っぽいんだよな。……あ、潔。お前は俺と蜂楽、どっちが猫っぽいと思う?」
「えっ、俺?」
「忌憚のない意見をちょーだい潔♪」
「そうだな……」
(うーん、二人とも種類が違う猫っぽいというか……とにかく自由人なんだよな。まあ、どっちがより猫っぽいと言ったら……)
「千切かな?ほら、やっぱ気まぐれな性格が猫っぽいていうか」
「2対1で千切の方が猫だね♪」
「……はぁ。はいはい、じゃあ俺が猫でいいよ。にゃあ」
「投げやりな……。ちなみに二人は自分を動物に例えるとなんだと思う?」
・・・
「しいて言うならチーターだな!(世界一速い動物)」
「"かいぶつ"(キッパリ)」
(いや、チーターって猫科じゃん!蜂楽に至っては動物じゃねーし!)
やっぱこいつら自由人!