『二人はちゃんと、俺のことを考えてプレゼントをくれよ!』
玲王への誕生日プレゼント……
「ねえ、なまえ。玲王への誕生日プレゼント、二人からにしない?俺がお金払うから、なまえがプレゼント選んで」
「それは、だめじゃないかな……玲王はめんどくさがり屋の凪が、自分のために選んでくれたらすごく喜ぶと思うよ」
「えーそうかなぁ」
――そして。玲王の誕生日まであと数日というところ。
(やべーなにも考えてねえ)
ベッドに仰向けになりながら、凪は今日もスマホでゲーム三昧だった。
夏休みに入ると、クーラーが効いた部屋でダラダラ過ごすのが凪の平穏な日常だ。(玲王は部活に来いって言ったけど行きたくない。暑ーい、めんどくさーい)
食事はほぼゼリー飲料に済ませ……
「あ、残り3個しかない……」
そんな凪の食生活に、どうやってその体格で生命維持をしているのかいつもなまえは不思議がっている。(結果、凪は究極の省エネ体質だと結論付けた)
ほぼスマホゲーム、たまに電子漫画にYouTubeを観て、凪の一日は終わる。
「チョキ、お休みー」
今日も俺、お疲れしたー。
翌日、そのまた翌日。そんな日々を繰り返して気づけば……
(あれ、玲王の誕生日って明日じゃん)
明日に迫って、ついに凪の重い腰が上がった。
進路希望調査票のときや受験勉強のときと同じだ。ぎりぎりになってやっと行動できる。それは小さい頃からで、夏休みの宿題なんてもっともの例だ。
ただ凪が大半の、最終日に泣いて親に手伝ってもらう子たちと違うのは、凪は自分で終わらせることができたからだ。凪がその頃から天才だったというのもあるが、放任主義の両親は絶対に手伝ってくれないとわかっていたので、めんどくさいが自分でやるしかない。
シャワーを浴び、適当に夏服を着て、凪は靴を履くと玄関のドアを開けた。
…………。
ドアを開けたものの、凪はそのまま閉めて、涼しさがまだ残る部屋に戻りたくなった。
(え、この中歩いたら、俺死ぬんじゃね)
スマホを見ると、今日の東京の最高気温は36度らしい。俺の体温と同じぐらいじゃん、と凪はげっそりして思う。
それでも凪は、一歩外に踏み出し、ドアに鍵をかけた。
『玲王はめんどくさがり屋の凪が、自分のために選んでくれたらすごく喜ぶと思うよ』
本当にそうなのかねぇ……。
とりあえず、なんでも揃ってそうなショッピングモールに行くことにした。
◆◆◆
(……あれ、俺なにしに来たんだっけ?)
色々ショップを回り、気がついたら凪はゲーセンに来ていて、格闘ゲームをしていた。
(えーっと、そうだ、玲王の誕生日プレゼント。でも、玲王がなに喜ぶか全然わからんし)
なまえはもう、玲王の誕生日プレゼント買ったのかな……。(いや、買ってんよな。玲王の誕生日、明日だし)
凪は立ち上がり、ゲーセンを後にしようとしたところ……眼に止まったもの。
――あ、これ。
UFOキャッチャーの箱の中で、たくさん積み上げられているぬいぐるみたち。それは、凪がスタンプで愛用しているキャラだった。
(これ、玲王にあげよう)
そう直感的に凪は思った。少なくとも、凪はもらったらちょっと嬉しい。
100円を投入すると、ボタンを押してクレーンを動かして感触を確かめる。一回では取れなかったが想定内。
あと二回で、凪はぬいぐるみを取ってみせる――。
◆◆◆
「「BOSS!誕生日おめでとうございます!!」」
サッカー部の部室で、クラッカーが弾ける音が鳴り響く。
今日の主役の玲王は、王冠ではなくカラフルなメタルテープを頭に被った。
「みんな、ありがとうな!」
テーブルにはばぁやが用意した、部員たちが全員食べられる特大のケーキが用意されている。
「BOSS!これは俺たちからです!」
「おーサンキュー!」
玲王は部員たちから大きな包みを受け取った。
「プレゼントの中身は監督が選びました!」
と、後ろで親指を立ててドヤ顔の監督を見て、玲王はあまり期待しないでおくことにした。
「玲王、お誕生日おめでとう!誕生日プレゼント、どうぞ」
「なまえ、ありがとな!開けていい?」
「もちろん」
ラッピングされた袋から出てきたのは……
「伊勢エビ炊き込みご飯の素か!」
「ほえ〜縁起がよさそう」
斜め上のなまえからのプレゼントに、玲王は驚く。もっと女の子らしいプレゼントかと思ったら、ずいぶんと渋いぞ。
「千葉って、意外にも伊勢エビの名産地なんだって」
なまえは迷って母に相談したところ、千葉の特産物はどうかと提案された。
『旅行とか、そこでしか買えないようなお土産って喜ばれるでしょう?』
千葉の特産物は落花生が有名だが、伊勢エビならお祝い事にもぴったりだ。
「玲王の口に合うといいけど……」
「伊勢エビ好きだし、意外だったけど、嬉しいぜ!今晩、さっそく食べてみるよ」
これはこれでありだ――と玲王は思う。なにより、自分のことを考えて選んでくれた気持ちがやはり嬉しい。
「じゃあ、次は凪だね」
「俺からの誕生日プレゼントは――これ」
…………呪いの人形?
いや、呪いの人形ではない。凪のアイコンでもあり、よく送ってくるスタンプの謎キャラのぬいぐるみだ。
「あのキャラのぬいぐるみなんてあったんだ」
「UFOキャッチャーでゲットした」
「すごい凪!器用なんだねっ」
「玲王、俺だと思って大事にしてね」
「お、おう……」
――戸惑い。
玲王は凪からぬいぐるみを受け取った。
顔を大きく占める黒い丸い眼が特徴的だ。じっと見つめていると、まるで深淵のようで吸い込まれそうだった。
『深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ』
というニーチェの言葉を玲王は思い出す。いや、コレとは全然関係ないな。
……これは、部屋に飾ればいいのか?
「あー……玲王、嬉しくなかった?」
「いや、そんなことねえ!」
これは、あの究極的にめんどくさがり屋の凪が、悩みに悩みに悩んで(※玲王の妄想)ついに見つけたUFOキャッチャーで、わざわざ取ってプレゼントしてくれたんだ。
嬉しくないわけがねえ!!
「ありがとう、凪。これをお前だと思って、俺は一生大事にする!」
「いや、冗談だったんだけど……」
「よかったね、凪。玲王が喜んでくれて」
「二人の誕生日にはちゃんとお返しするから楽しみにしててくれよな!」
――今まで、誕生日には両親からはもちろん、玲王は色んな人から誕生日プレゼントをもらってきた。
誕生日以外にも、欲しいものはすべて両親から与えられてきた。
「あ、俺はガチャ10000円分でいいから」
「味気ねえな!」
「このケーキ、すっごくおいしい……!!」
「なまえさま。そちらは世界大会優勝のパティシエ、佐藤樫氏による、この日のために作られたオリジナルケーキ――玲王坊ちゃまハピパケーキでございます」
「あの有名な!?」
でも、予想を越えるプレゼントはこんなにも嬉しいのだと、今日、初めて玲王は知った。
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あでぃしょなる⚽たいむ!
#誕生日前後の小話
〜母に相談〜
「お母さん、御曹司への誕生日プレゼントって、なにがいいのかなぁ……」
「え、なまえ……まさか、廻くんから玲王くんに……。なまえが決めたならお母さんは応援するけど……」
「違いますー!!」
※玲王から「部活があるときはなまえさんを車で安全に送りますのでご安心ください」と丁重に挨拶されて、母の玲王好感度はバツグン。
〜誕生日の晩、玲王より〜
(あ、玲王からメッセージだ……)
"もらった伊勢エビの炊き込みご飯、すげえうまかったぜ!"
ポンッ
(写真も送って……え!?土鍋に入りきらないほどの大きな伊勢エビが……!崩した身は入ってたと思うけど、伊勢エビ丸ごとはどこから……)
※専用コックが気を利かせて用意した。
(……玲王が喜んでくれたならいっか)