エルシスが不思議な声に導かれるように向かった先――
(誰かが戦っている……?)
先ほどよりは弱まった吹雪に、目を凝らす。
「ムン!!」
(!?グレイグ……!)
彼が何故ここに――いや、救援部隊はデルカダールの兵士だった。(隊長はグレイグだったのか……)
彼が剣を向ける相手は、金のたてがみを生やす純白の巨獣だ。雪の中ということもあり、グレイグは苦戦している様子だった。
「ムッフォ!ムッフォ!」
「おのれ、魔女の手先め……」
やはり、あれがシャールが言っていた魔女に飼いならされた魔獣らしい。
向かってくるグレイグに、魔獣は太い前足を地面に叩きつけた。そこから衝撃波が発生し、舞った雪と共にグレイグを襲う。「く……」足を止め、怯むグレイグ。
衝撃波はエルシスにも届き、咄嗟に腕でガードする。
「お……お前は……悪魔の子!?」
エルシスの存在に気づいたグレイグ。
「ムフォ!ムフォーン!」
その隙をついて魔獣はグレイグと距離を詰めた。吹雪とその純白の体が同化し、突然現れたようにグレイグには見えただろう。
その証拠にグレイグは反応できず、背を向けた魔獣の後ろ足に蹴飛ばされた。
(!グレイグ……!)
グレイグは大きく後ろに倒れる。
「ぐっ!俺としたことが!」
足場の悪い雪の上で、かつこの吹雪の中での戦いに、消耗した体はなかなか起き上がれない。
それをいいことに魔獣はゆっくりと近づく。
だが、途中で魔獣は視線は横に向いた――その先にはエルシスがいる。
「ムフォフォ!ムフォフォ!」
「……!」
雄叫びを上げると、魔獣はエルシスに向かって走ってきた。
慌ててエルシスは大剣を構える。
間近にその風貌を露にした魔獣。
前足は太く長いのに対して、後ろ足は短い。
純白の大きな体に金のたてがみ。赤い目。大きな顎と口。
――魔獣、ムンババ。
(一人でも、やるしかない……!)
だが、あのグレイグも苦戦した相手だ。生易しい相手ではないだろう。
この雪の中でどう戦う……。じりじりとお互い相手の出方を見ていると、先に動いたのはムンババだった。
「ぶはっ」
ムンババは雪玉を投げつけてきた。予期せぬ攻撃に、見事エルシスの顔面に命中。
「うわっ!」
そして、勢い任せの体当たりをする。エルシスは重い衝撃と共に雪の上を転がった。
「何をしている!?それでも貴様は悪魔の子か……!」
「……っ僕は……悪魔の子じゃない……!」
グレイグの野次のような声に、どんな声援だと思いながら……エルシスは剣を地面に突き刺し、立ち上がった。
「ムッフォフォ!」
調子づくようにムフォフォダンスを踊るムンババ。自身の守備力は下げるが、反対に攻撃力を上げる躍りだ。
(この状況で戦うのはこっちが不利だ)
この雪という環境でなければ、きっとグレイグもここまでやられなかっただろう。
グレイグにできなくて、自分にできること。
「燃え盛る炎よ……」
エルシスはありったけの魔力を込め、片手を宙に翳した。
「ベギラマ――!」
炎の呪文が、エルシスを中心に吹き荒れる。
突っ込もうとしたムンババは炎に呑み込まれ、辺りの足元にある雪は溶けて、本来の大地が現れた。
「っよし。これで身体も暖まった」
口許に笑みを浮かべて、エルシスは大剣を握り直す。
吹雪で視界は悪いし、魔獣の姿は雪に隠れてわかりにくいが、
「渾身斬り!」
足場が雪じゃないだけで、エルシスの動きは格段に良くなる。
攻撃を避けて、ブレードガード。再び渾身斬りを叩き込む。
「ムフォー…………」
何度かそれを繰り返し、瀕死状態になったムンババ。力なく声を上げ後退りする。
「ずいぶん、手こずらせてくれたな。魔女の手先め……」
逃がさないというように、その後ろにはいつの間にかグレイグが立っていた。
ムンババが振り向いたと同時に、グレイグは高く構えた大剣を降り下ろす!
「ムフォフォーン…………」
ムンババは後ろにのけぞるように倒れた。
その体が光を帯び、やがて紫色の光となる。
魂のような形に成すと、どこかに飛んでいってしまった。
あれは、一体……?
不思議に思うエルシスを、グレイグの鋭い眼が向く。
「次は貴様だ……。悪魔の子よ!今度こそ逃がさん!」
「……っ!」
エルシスが大剣を構える前に、異変が起こった。
身も凍るような暴風雪が二人を襲う。
あまりの凄まじさにエルシスは剣を落とし、両腕を前に翳して防御する。
ピキ……と、氷が張る音がどこからか聞こえたと思えば、それは自分の足元からだった。
「なっ……!」
「なんだ、これは!?」
エルシスだけでなく、グレイグも。
足元からピキピキと氷が張っていき、やがて二人の上半身をも覆い尽くした。
「くっ、動けない……!」
「くそっ……、悪魔の子よ!炎の呪文を唱えろ!」
「――やるだけ無駄よ。私の氷はその程度の炎では溶けないわ」
「「!?」」
どこからか聞こえた妖艶な声。見上げると、空からゆっくり女性がこちらに降りてくる。
「ふふふ。捕まえたわ、英雄グレイグ!」
「氷の魔女!この氷は貴様が……!」
(彼女が氷の魔女……!)
金の髪に血の気を感じさせない冷たそうな肌。魔女といえば老婆という、エルシスの想像を裏切る美しく妖艶な姿だった。
彼女はちらりとエルシスに色っぽく視線を送ってから、笑みを浮かべてグレイグを見つめる。
どうやら、用があるのはグレイグのみらしい。
「このままお前を氷漬けにすれば、私を解放してくれたあのお方との約束を果たせる……」
優雅に近づいてくる氷の魔女は、手を伸ばし、グレイグの首にかけられたネックレスを引きちぎった。「な……!」
そしてもう用はないというように、彼女は二人に背を向け、ペンダントを宙に翳して眺める。
「うふふ♡あの方と同じペンダント。これで私たちお揃いだわ!」
お揃い……?
「なんだと……!?」
「英雄と呼ばれた男もあっけないものね。ふたり仲良く永遠に凍るがいい!」
振り向くと、氷の魔女は杖を持っていない方の手のひらに魔力を込めた。
みるみるうちに冷気が圧縮していく。
その塊を二人にぶつけようとした――その時。
「させないわ!」
ベロニカ……!!
現れたベロニカが炎の呪文を魔女にぶつける。
「くっ!」
その拍子に、魔女はグレイグから奪ったペンダントを手放した。
「エルシス!」
「無事か!?」
「ユリ、カミュ!みんなも!」
ベロニカだけでなく、皆も駆けつける。
魔女は火傷した首を押さえながら苦々しい顔で彼らを見る。多勢に無勢。落としたらペンダントを一瞥したが、彼女は諦めて空に飛び上がった。
逃げていく魔女に、エルシスとグレイグを覆っていた氷が音を立てて崩れる。
どうやら呪文は不完全だったらしい。
「エルシス、大丈夫!?」
エルシスに駆け寄るベロニカに、仲間たちも続く。
「ありがとう、ベロニカ。おかげで助かったよ」
「エルシス。無事で何よりじゃ。して……」
彼に案じる眼差しを向けたあと、ロウはその背に視線を移した。
「グレイグ……。救援に来たのはおぬしらデルカダールの兵だったのだな」
グレイグは何も答えず、地面に落ちている自身のペンダントを拾った。
そして彼もまた、その場を立ち去ろうとする。
「どうした?グレイグ。わしらを捕まえるのではないのか?」
グレイグの足が止まった。顔だけ振り返り、今度はその問いに答える。
「貴様らを捕らえる前にやるべきことができた。それだけ……」
そして、再び彼らに背を向け、吹雪の中を去っていく。
さっきまで自分を捕まえようと躍起になっていたのに――その背中を不思議そうに見つめるエルシス。
……あ、あれ……
その姿が次第に朧気になっていく。力が抜けたように、両足で体を支えることができず、エルシスは前に倒れ――
「!エルシスっ!?」
倒れる前にユリがその身体を咄嗟に受け止めた。支えきれず膝をつく彼女に、素早く横からマルティナも支える。
「エルシス、しっかりして……!」
「おい、どうしちまったんだ?」
「魔女にやられたようね。身体が冷えきっているわ」
「早くエルシスちゃんを暖めてあげないと!」
「うむ、低体温は危険じゃ」
「そういえば、ここに来る途中で小屋を見かけたわ。そこでエルシスを休ませましょう!」
ベロニカが指差す方には、森の向こうから煙が立ち昇っている。
全員、顔を見合わせて頷いた。
シスケビア雪原にぽつりとある小屋には、エッケハルトという魔法学者が滞在していた。
ロウは心当たりがあるというように皆に話す。
「その名は聞いたことがある。クレイモランの魔法学者としてかなり有名な人物じゃ」
彼は魔女が現れた際には国を離れており、運よく凍り漬けから逃れたという。
今はこの小屋でクレイモラン王国を元に戻すため、魔女について研究しているのだとか。
事情を説明すると、エッケハルトは快く彼らを迎え入れ、エルシスは暖かいベッドで寝かせてもらった。
彼らも小屋で世話になり、一夜が明ける――……
早朝、清々しくも冷え込む空気に、ユリの口から吐く息は白い。
雪に残った足跡を追って、雪原を一人歩いていく。
ユリが雪原にやって来たのは、狩りをするためだ。
食料調達もあるが、倒れたエルシスに精がつく肉料理を食べさせたいという思いからだ。
ベロニカの献身的な看病もあり、熱が出て魘されていたエルシスも、今はスヤスヤと眠っている。
ずっと食事を取ってないので、起きたらきっとお腹が空いているだろう。
(――いた)
足跡の主の白いイノシシを見つけた。
ユリは重心を落とし、弓を構える。
彼女の腕ならこの距離でも簡単に射ぬけるだろう。
(苦しませないように、一撃で……)
命をいただくのだ。そこに敬意がなくてはならない。
(射ぬく……!)
――急所に狙いを定めて集中していたせいか、"元盗賊"の忍び足のせいか、ユリはすぐ隣の存在に気づかなかった。
「雪イノシシの肉は上質だから食うのに適しているな」
「……っ」
その瞬間、自分の意思とは別にユリの矢は放たれた。
動揺は矢に的確に現れ、獲物ではなく、その近くの木に刺さる。
当然、わずかな音にイノシシは逃げていった。
「珍しいな、お前が外すなんて」
「……カミュのせいだよ」
「はあ?……人のせいにすんじゃねえよ」
いきなりに隣に来て、驚かすから。というのがユリの言い分だ。
だが、それだけではないと、自分がよくわかっている。
『ユリが好きだ――』
カミュの顔を見ると、どうしても昨日言われたその言葉を思い出してしまうのだ。
鼓動が早くなり、恥ずかしくなる。
こういう場合、どう振る舞えばいいのかわからない。
「……私一人で大丈夫だから、カミュは戻ってて」
カミュがそばにいると集中できないという意味合いでユリは言った。
「……悪かった」
唐突の謝罪にえっとユリは振り返る。
カミュはユリの言葉を、違う意味で受け止めた。
――彼女は自分を避けていると。
「お前を困らせたいわけじゃなかったんだ。昨日言ったことは忘れてくれ」
「……っ」
忘れてくれ……?
「忘れられるわけないじゃない!」
「ユリ……?」
突然声を上げたユリに、カミュは戸惑った。
怒っているわけではなく、彼女は悲しそうな顔をしている。
「ごめん……。違うの、私……」
その時――パキッと枝が折れる音が響き、二人はバッと音が鳴った方を振り向いた。
「シルビア……?」
「おっさん……」
いかにも男女のあらあらな所に遭遇して、こっそり立ち去ろうとする背中だった。
「……オホホホ。ユリちゃんの狩りの様子を見に来たんだけど、カミュちゃんがいれば大丈夫ね!もちろん誰にも言わないから安心して♪二人がすでに痴話ケンカをする仲だったなんて!キャ♡」
「痴話ケンカ……?待ってシルビア!なんか勘違いしてる!」
「おっさん、早とちりすんじゃねえ!」
二人の言葉も聞かずにルンルンと走り去るシルビア。二人は頭を抱えた。
「……カミュ」
しばらくして先に切り出したのは、ユリだった。先ほどの話の続きだ。
「私……カミュのことを意識し過ぎて、どうしたらいいかわからなかったの」
「……そう、か」
「誰かに好きって言われたのも初めてだし、恋って本でしか知らないし……。とりあえず、今は大事な旅があるし、支障をきたさないためにも、今まで通りカミュと接したいと思うんだけど……どうかな?」
「…………いいんじゃねえか」
それで。バカ正直に心中を話され、真剣に尋ねられたところで、カミュはそう答えるしかない。
(……やれやれ)
オレも難儀なヤツを好きになったもんだとカミュは笑う。
だが、惚れちまったもんは仕方ない。
「やっぱお前、真面目ボケにジョブチェンジしたよな」
「?真面目ボケって?前にも言われたことある気がする……」
「とりあえず、エルシスに肉食わせたいんだろ?雪イノシシ探すぞ」
「うん!」
……――エルシスは暖かさに包まれて目を醒ました。
パチパチと暖炉で火が弾ける音。
自分はベッドで寝ているのだと気づき、身体を起こす。
(……ここは、どこだろう)
クレイモランの城下町だろうか?視線を動かすと、ベッドの端にもたれて小さな寝息を立てる存在に気づいた。
――ベロニカだ。
……そうだ。僕は倒れて――。エルシスは思い出した。もしかしたら……いや、もしかしなくても、ずっと彼女が看病してくれていたようだ。
「おお、お目覚めかな。どうだ、身体はもう大丈夫かね?」
「あっ、はい」
横から声をかけられ、慌てて答えるエルシス。
そちらに顔を向けると、本を片手に帽子と片眼鏡を着けた、いかにも老学者な風貌の男がいた。
彼はエルシスの様子を見て穏やかに笑う。
「それはよかった。顔色もよいし、仲間の看病のおかげじゃな。あれほど心配してくれる友はなかなか見つからん。大切にせねばならんぞ」
「はい……僕も、そう思います。それで、あなたは……」
「そうか。自己紹介がまだだったな」
エルシスが尋ねると、彼は改めてエルシスと向き合い名乗る。
「私は魔法学者、エッケハルト。クレイモランに住んでいたのだが、今はここで町を氷漬けにした魔女について研究しておる。じつは魔女が現れたとき、私はたまたま国を離れておってな。幸運にも氷漬けをまぬがれたのだ」
「そうだったんですね。あ、ベッドありがとうございます」
「気にすることない。君たちがシャールさまから魔女退治を引き受けていることは仲間の者から聞いた。私も魔女について知っていることを話そう」
続いてエッケハルトは、エルシスに氷の魔女について詳しく話した。
「君を襲った氷の魔女……リーズレットは、いにしえの時代、高名な魔法使いによってある禁書に封印された魔女なのだ」
「封印された魔女……」
「神話の時代に造られ、膨大な古文書が眠るという古代図書館。いにしえの魔法使いはそこに魔女を封じた禁書を収めたという」
封印されていたということは、誰かが封印を解いたということだ。(一体誰が、なんのために……)
「そこで、私は魔女を封印する手がかりを求め古代図書館に足を運んでみたのだが、中はすっかり魔物の巣になっていてな……」
「……あっ!エルシス。よかった、目が覚めたのね」
その時、声に気づいてか、目を醒ましたベロニカ。
ほっと安堵の笑顔をエルシスに向ける。
「うむ。もう心配はなさそうじゃ。君もベロニカさんに感謝せねばならんぞ。彼女は特に熱心に看病しておったからな」
「ありがとう、ベロニカ。おかげさまでもう大丈夫だ」
彼特有の綺麗な笑顔で言うエルシス。素直な言葉に、さすがのベロニカも顔をほんのり赤くさせて照れた。
「もっもう、エッケハルトさん!余計なこと言わないでよ」
「はは、そう照れるでない」
「ベロニカでも照れるんだね」
「ちょっとエルシス。それはどういう意味かしら?」
先ほどの乙女な顔とは打って変わってじと目。いや、いつも自信満々だから……。うっかり口を滑らせたエルシスは、しまったと視線を泳がせた。
「……まあ、それはいいとして」たじろぐエルシスにエッケハルトは助け船を出すように切り出す。
「先ほど、魔女に関する話は伝えておいた」
「そう、じゃあ話は早いわね」
話が変わり、ベロニカの意識もそちらに向いてほっとするエルシス。
「エッケハルトさんと古代図書館に行って、一緒に魔女を倒す手がかりを探しましょう」
「だが、まずは腹ごしらいをしなくてはな」
ぐうぅとエルシスの腹の虫の声を聞いて、エッケハルトは笑って言った。
恥ずかしそうにするエルシスだったが、ちょうど外からおいしそうなにおいが漂ってくると、そちらに夢中になる。
このにおいは……シチューだ!
「ユリがアンタのために朝早くから狩りに行ってたのよ。ユリだけでなく、みんなが必死にアンタのこと看病してたから、後でちゃんとお礼を言っておきなさい」
ベロニカの言葉にそっか……とエルシスは頷く。きっと自分が思っている以上に皆に心配かけて、助けてもらった。
「エルシスが寝込んでる時ホントに大変だったのよ。熱があってずっとうなされてるんだもの。……あっあたしはいいのよ。別にたいしたことしてないんだから」
ほら、早く元気な姿をみんなに見せにいくのよ――そうベロニカに急かされ、エルシスは扉を開けて、外に出た。
キャンプのように、仲間たちが分担して料理を作っている姿が目に映る。
彼らはエルシスの存在に気づくと、ぱっと笑顔になって、それぞれその名を呼んだ。
「エルシスさま!もう起き上がって大丈夫なのですか?」
「うん、おかげさまでもう大丈夫だよ、セーニャ。心配かけてごめんね。みんなも……本当にありがとう。いつも僕のことを助けてくれて……」
「んもうエルシスちゃん!そんな改まってお礼なんて言わなくていいのよ」
「心配するのも助けるのも当たり前じゃよ、エルシス」
「お前だってそうするだろ?」
「そうね、エルシス。これからも助け合っていきましょう」
シルビア、ロウ、カミュ、マルティナ。
「エルシス!ちょうどシチューが出来上がったところなの。みんなで食べよう」
最後にユリ。それぞれに笑顔を向けたエルシスは「お腹ペコペコなんだ!」そう元気よく彼らの輪に入った。
エッケハルトも加わり、皆で食事をする。
ユリが狩った雪イノシシの肉入り特製シチューは絶品で、身も心も暖かくなった。
「エルシスさまがエッケハルトさんの小屋で寝込んでいる間、お姉さまがつきっきりで看病していたんですよ」
「ちょっとセーニャ。それはもういいんだってば」
「よほど心配だったのでしょうね。あそこまで面倒見がいいお姉さまを見たのは初めてです」
「いつもアンタの面倒を見ているのは誰だと思ってるのよ!」
「お姉さまですか?」
双子の凸凹な会話に、ドッとその場に笑い声が上がった。
「君たちは愉快な旅人だな」
シャールさまが気に入りそうな者たちだ――。それもあり、きっと彼らに魔女退治を依頼したのだろうとエッケハルトは思った。
「古代図書館は東の方角にあるが、南の道から遠回りしないといけないから注意するがいい。では、向かうとするか」
エッケハルトは地図を広げて、彼らに道を説明する。休息も食事も取り、万全な状態で一行は出発した。
氷の魔女、リーズレットを倒す手がかり求めて、古代図書館へ――。