真相

 クレイモラン王国城門前に飛んだ一行だったが、状況は一変していた。

「すごい……っ吹雪いているみたい」
「ううう……寒い、寒い!前より雪が強くなってるわね!」

 ユリは片手で風で飛ばされそうなフードを押さえ、ベロニカは両腕で体を抱き締めるように身を縮めた。

「……この地方はもともと寒いが、ここまでの寒さははじめてだな。とても自然の気候とは思えないぜ。これも氷の魔女が関係してるはずだ」

 ユリにだけ聞こえるような声でカミュは言った。ユリは静かに頷く。来たときには無事だった港までが凍り始めていた。

「聖獣は魔女のチカラを吸収するらしいわね。ってことは、聖獣がいなくなったてことで、魔女はかつての魔力を取り戻したのかしら」
「自然現象では考えられん吹雪じゃ。そう考えて間違いないじゃろうな」
「ただでさえ王国を氷漬けにする魔女が、昔のチカラを取り戻したとしたら、かなりやっかいだわ……」
「このままでは我が王国が完全に凍り漬けにされてしまうわい」
「さっさと魔女を倒して、クレイモランを元の姿に戻してやろうぜ」

 皆の声を受けて「行こう」と、エルシスは足早に裏門に向かう。

「……あら。デルカダールの兵士ちゃんじゃない?」
「まだ残ってたのかよ……」

 バレたら厄介だとカミュは顔をしかめたが、どうやらそれどころじゃないらしい。
 
「なんなんだよ、この寒さは!グレイグ隊長を追って城下町に戻ってきたら吹雪がすごく強くなってるじゃないか!しかも隊長たちはもう出航した後でひとりだけ置いてけぼりだし……もうふんだりけったりだよ!」

 そ、それは可哀想だ……一行は哀れみの目を向けて通り過ぎた。

「この吹雪で町の氷漬けが強くなっています。このままではたとえ魔女を倒しても、町の人は手遅れになるかもしれません」

 城下町は以前より凍り漬いている。

 その中で――出会った時と同じ場所で、同じように一人佇むシャールは異質に見えた。

「ああ、皆さん。ご無事だったんですね!私、このまま帰ってこないんじゃないかと夜も眠れないほど心配で、心配で……」

 シャールは微笑むが、反対に皆の顔は厳しい顔をしている。何故なら……

「ねえ……もうお芝居やめたら?」 
「え……?」

 ベロニカの言葉にきょとんとするシャール。
 彼女の首には、出会ったときにはなかった布が巻かれている。
 ベロニカはゆっくり近づくと、素早く手を伸ばし、シャールの首もとに巻かれた布を払った。

 その下の首に巻かれているのは、白い真新しい包帯。
 
「やっぱり!それ、あたしの呪文で受けたキズね!アンタが魔女なんでしょ!」
「あら、ばれちゃった♪」

 ベロニカの言葉にシャール……リーズレットは悪びなくあっさり白状する。
 不敵な笑みと共に彼女は丸眼鏡を取ると、それを投げ捨てた。

 その身体が光輝く――姿はみるみるうちに変わり、氷の魔女が現れた。

「まっまさか……!魔女が女王さまに化けておったとは!」

 驚くエッケハルト。予想はしていたとはいえ、本当に魔女が女王に化けていたとは……。

「オレたちはまんまとヤツの手のひらで転がされていたってわけか」

 自分たちだけじゃなく、救援に来たデルカダールの兵士たちも。
 聖獣を魔女の手先の魔獣といったのは、
 
「ふふふ!あんたたちが聖獣を倒してくれたおかげで、昔のチカラがよみがえったわ!」

 ――彼らに倒させるため。エルシスはくやしげに歯を食いしばった。
 その思惑はまんまと成功し、宙に浮かぶリーズレットの身体は、魔力が満ち溢れている。

「英雄グレイグを取り逃がしたあの時の借り、ここで返してあげる!さあ、私のウデの中で永遠に凍りなさい!」

 リーズレットから発生られた凍えるような冷気が、彼らを襲う。

「……っリーズレットを弱らせ、禁書を奪い返すんじゃ!私が今一度魔女を封印してみせよう!」

 エッケハルトの言葉に彼らは頷き、武器を取った。

「ふふ、私の魔力で何もかも永遠に凍らせてあげる!」
「アンタの氷なんかあたしの炎でぜーんぶ溶かしてやるわ!」

 リーズレットの言葉に、挑発的に言ってのけるベロニカ。
 リーズレットは持っていた杖に立つと天に祈りを捧げた。

「何をするきじゃ……?」

 祈りは天に届き、辺りが吹雪がつつまれる。

「いやーん、寒い〜っ」
「目を、開けてられません……!」
「っ、それだけじゃないわ。こうしているだけでも、体力をじりじり奪われてしまう……!」
「ベギラマ……!」

 エルシスが炎の呪文を唱えるが、その暖かさも一瞬で、すぐに吹雪が彼らを襲う。

「ユリ!アンタ天使でしょ!同じように天に祈ってこの吹雪を止めてちょうだい!」
「元、だから!成功するかわからないけど、やってみる……!」
「へぇ、あんた天使だったんだ」

 彼らの会話を聞いて、リーズレットは珍しそうにユリを見た。

「ウフフッ雪だるまにしてあげる♡」
「え……」
「「!?」」

 なんとユリが雪だるまにされてしまった。

「ユリ!……なんだこれ、全然壊れねえ!」
「手のかかる弟子ね!カミュ離れて!」

 ベロニカが炎の呪文を唱えるが、雪だるはびくともしない。

「アハハ!完璧になった私の魔力に、その程度の魔力じゃ勝てないわよ」

 リーズレットは杖の上で足を組み、空から慌てる彼らを見下ろしている。

 その姿は高みの見物そのもの。

「ドルマ……!」

 ロウの闇の呪文がリーズレットを襲うが、彼女は臆することなく片手を前に出して、呪文を唱える。

 ロウの魔法は凍てつく冷気の魔法に相殺されてしまった。

「うむむ……。さすがに偉大な魔導士が封印に手こずる相手じゃ……」
「ひとまず、皆さまを吹雪からお守りしなくては!」

 セーニャは琴を取りだし、かじかむ指先で氷の旋律を奏でる。
 音は暖かな旋律となって、吹雪から彼らを守る。

「面白い力ね。あんたも雪だるまにしてあげるわ!」
「セーニャ!よくもセーニャまで雪だるまにしてくれたわね……!」

 ゾーンに入るベロニカ。

「次はそこの背の高い男とサラサラ髪のお前よ!」

 びしびしっと続けざまに指名され「アタシ!?」「僕……!?」二人は怪訝に驚いた。

「おそろしいカオをしているとか、シワシワだとかずいぶん好き勝手言ってくれたじゃないの。人間を食べるですって?ありえないわよ!」

 ……どうやらリーズレットは、シャールに化けている時に話していた四人の会話にご立腹だったらしい。

「……アンタ、相当根に持つタイプね」
「うるさいわね!生意気なお嬢ちゃんは、あとでたっぷり痛めつけてあげるから待ってなさい。――それ!」
「今度はシルビアが……!」

 ユリ、シルビア、セーニャの三人は雪だるまに閉じ込められて動けない。
 残りは自分たけ――何か回避方法はないかと必死に考えるエルシス。

「デイン!」
「ふふふ。残念。そこには誰もいないわよ」

 強力な魔法も当たらなければ意味がない。
 吹雪は自分たちの動きを妨げるだけでなく、リーズレットの姿も隠す。
 しかも、彼女は宙に浮いてるのだ。(そんな相手にどうやって攻撃すれば……!)

「さあ、お前も雪だるまに……」
「エルシス!お前は下がってろ!」
「あら、目がいいのね。それとも耳かしら?それに、よく見ればあなたもなかなかのイケメンね。あの人の次にだけど……」

 狙いを定めて飛び上がったカミュ。
 炎を帯びた剣を振り上げるが、リーズレットは余裕の表情を崩さない。

「あなたには、私の冷たい息をプレゼントしてあげる♡」

 リーズレットは投げキッスをするように手のひらをカミュに向けた。
 ふぅーとそこに息を吐きかければ、
「くっ……!」
 彼女の手の上で冷やされた息は、冷たい息となってカミュを襲う。

 氷属性のダメージをセーニャの氷の旋律が軽減するが、カミュは吹き飛ばされて地面に足をついた。

「――油断は禁物よ」
「っ背後!?」
「バーカ。オレは囮だ」

 カミュはにやりと笑った。振り返ったリーズレットに、マルティナは構えた槍を大きく振り回す。

「くぅ……っ」

 ガキン……!寸前でリーズレットは氷の杖で受け止めるが、マルティナの力を込めた一撃には叶わず、吹っ飛ばされた。

「ああっ……!」

 リーズレットは地面に叩きつけられて、痛みに声を上げた。

「やるじゃない……」

 起き上がろうとするリーズレットに、ベロニカが杖を向ける。

「まずはみんなを元に戻してもらうわよ」
「それは……魔法陣……?」

 ベロニカを中心にある魔法陣は、エルシスとベロニカのれんけい技による"超"暴走魔法陣。

「お得意の炎の呪文かしら?弾き返してあげるわ!」

 リーズレットも杖を向けて、魔力を高める。

「違うわ。アンタの魔力をあたしが貰うのよ!」

 超マホトラ――!

「な……!?」

 攻撃魔法を使ってくるのかと思えば、まさかの魔力を吸いとる呪文。
 暴走した呪文で、ベロニカはどんどんリーズレットの魔力を吸いとり、己のものにしていく。

「うぅ……!やっと取り戻した私の魔力を……!」
「さっきエッケハルトさんが教えてくれたのよ。アンタの魔力が消耗すれば、雪だるまにされた仲間たちも元に戻るってね」

 それは本当だと言うように、雪だるまが次々と壊れて、三人は動けるようになった。

「三人とも大丈夫!?」
「大丈……うぅ」
「んもうっ冷えは女の敵なのに〜!」
「さすがに身体が冷えてしまいましたわ……」

 三人は寒そうにしているが、それ以外の問題はないようだ。

「仲間を解放したからってなんなの?全員まとめて凍り漬けにするだけよ!」

 ヒャダルコ――!

 巨大な氷の刃を皆を襲う。

「ベホマラー!」

 すかさずセーニャがユリ伝授の癒しの呪文を唱えた。

「フフ、そんなに急いでどこへ行くの?逃がさないわよ〜」
「っ、ムチ……?」

 宙に飛ぼうとしたリーズレットの腕をシルビアのムチが巻き付き、妨害した。

「――!吹雪が……」

 次に辺りを吹き荒んでいた吹雪が止んでいく。
 跪づき、両手を組んで天に祈ったユリ。彼女の祈りを天は聞き入れた。

 吹雪が晴れ、その光景を目にしたリーズレット。
 まずい――思ったときにはもう遅い。

「僕たちの大魔導師が降臨さ!」

 超暴走魔法陣、ゾーン、そして……

「アンタから奪った魔力。活用させてもらうわね」

 身体は小さくとも、大魔導師という名に負けぬ魔力を身に纏ったベロニカ。

「う、嘘……」

 リーズレットの血の気を感じさせない顔が、さらに青ざめた。
 両手を上に向けて広げるベロニカの頭上には、巨大な火の玉。

「さあ、やけどだけじゃすまないわよ!!」
「ちょっちょっと待ちなさい!私が悪かったわ、話し合いましょう!」

 急に下手に出て、許しを乞うリーズレット。

「問答無用――!」

 容赦なくベロニカはメラゾーマを越えるメラミを放った。
 きゃあああという氷の魔女の悲鳴が晴れた空に響く――


「……そんな……この私が……こんなやつらに負けるなんて……」

 リーズレットは咄嗟に防魔の呪文を張ったが、ベロニカの特大魔法は防ぎきれなかったようだ。

「今よ!エッケハルトさん!魔女を封印する呪文を!」
「よしきたぁ!」

 攻撃を受けた際に、リーズレットが手放した封印の本をエッケハルトは拾い上げ、そこに書かれた呪文を読み上げる。

「ポカ、ポカ、ズマバ!ポテ、ズマバ!」
「ああっ!やっ、やめなさい!その呪文は……っ!ああぁーーーっ!」

 リーズレットの身体を封印の呪文が支配し、彼女は苦しむような声を上げる。

「ムチョ、ムチョ、ズマバ!ポチャ、ズマバ!ズマ、ズマ、ズマバ!ポカッ……!?」

 エッケハルトの声がそこで不自然に止まり、首を傾げるエルシス。

「……ええっと、なんじゃ、この字は!?」
「ちょっとエッケハルトさん!しっかりしてよ!」
「おおっそうじゃ!ズマ、ズマ、ズマバ!」

 ベロニカに叱咤されながら、エッケハルトは思い出し、本を掲げる――!

「ポカ、ジョマジョー!」

 封印の本の表紙に書かれた紋章が、青く輝いた。

「いやっ、いやぁぁーーーっ!ねえっ!謝るから、許しっ…………」


 今度こそ本当にリーズレットは許しを乞うが、最後まで言い終わる前に、彼女は本に吸い込まれていった。

「皆さま、見てください……!氷が溶けていきます!」

 静かになったその場に、セーニャが声を上げる。
 見回す彼らの目に、本来の美しい姿を露にしていく城下町。
 人々の氷も溶け、止まっていた時が動き出すように、町は喧騒を取り戻す。

「よかった!みんな元通りだね」
「でも、みんなは自分たちが凍っていたなんて気づいていないみたいだ」

 ユリの言葉に同じように思うも、不思議そうにエルシスは人々を眺めた。

「……む。本が……!」

 突然、エッケハルトが持っていた封印の本が輝き出す。あまりの目映さに、エルシスは腕で目を覆った。

「こっ……ここは?」

 戸惑う声が耳に届き、彼らが目を開けると……

「ご無事でしたか、シャールさま!」

 現れた女性にエッケハルトが案ずる声をかけた。
 彼女が本物のシャール女王のようだ。

「……………………?」

 呆然とするシャールだったが、やがてはっと口を開く。

「そうだ!思いだしました。魔女が私をこの本の中に閉じ込め、女王に化けていたのです」
「よかった。記憶もきちんとしておられますな。一時はどうなることかと思いましたがもう安心です。魔女は私たちが封じました」

 次に石畳を走る足音に見ると、クレイモランの兵士が慌てて駆け寄ってくる。

「シャールさま!こんな所にいたのですか!早く城にお戻りください。大臣が心配しておられましたぞ」

 シャールは兵士に頷くと、ゆっくり振り返り、彼らに視線を向けた。

「ありがとうございます。皆さんのおかげでクレイモランに平和が戻りました。何かお礼をしなければなりませんね」

 シャールは両手を合わせ、続けざまに言う。

「そうだ。本の中で聞いていたのですが、皆さん、オーブが必要なんですよね。差しあげますから、後ほど城に来てください」

 その言葉に皆は嬉しそうに顔を見合わせた。

「さあ、エッケハルト。その本を私に」
「待ってください!女王さま、その本は危険です。あたしたちが預かっておきますわ」
「あっあら、そう……」

 ベロニカはエッケハルトから封印の本を預かる。シャールとエッケハルトは兵士と共に城へと歩いていった。

「よかったわね、エルシス。オーブはすんなりもらえそうよ。女王さまに会いに城に行きましょうか」

 続けてベロニカは「あっそうだ。この本はエルシスに預けておくわね」と封印の本を渡した。
 ずっしりと重く、ベロニカが持つには大変だろう。

 エルシスは本を受け取った。

「――ああ、なんて美しい町並みなの!これが本当のクレイモランなのね!こんなにカラフルでオシャレな建物はじめて見るわ!世界一美しいって話もウソじゃないわね!」

 クレイモランの城下町をぐるりと見渡し、シルビアがはしゃぎながら声を上げる。
 目を引くカラフルなガラスが組み合わせられた窓は、"ステンドグラス"というのだとロウは言った。

「まさか、氷の魔女がシャールに化けておったとはのう。最初に来たときは全然気づかなかったな。じゃが、結果的にはヤツの正体を見破り、無事に倒すことができたんじゃから結果オーライとするかのう」

 ロウに続いてセーニャが口を開く。

「魔女を倒すことで町が元通りになるか心配でしたが、大丈夫だったみたいですね。皆さん何事もなかったように生活してます。町が凍っていたことも知らないようですが、おそろしい記憶は知る必要ないですし、これでよかったんですよね」
「その辺りは本物の女王さまがなんとかするわよ」

 平和に戻った町並みを眺めながらベロニカが言った。
 たとえ話したところで、皆が信じるかも別の話だ。

 住民は行き来し、商売人は笑顔で客引き。子供たちは雪合戦をしている。

 先ほどまで町全体が凍り漬いていたなど、信じられないほどの平和な光景がそこに広がっているからだ。

「あの大きな噴水は、魔力で動いておるのじゃ。まさに魔法都市を象徴するシンボルじゃな」

 ――興味津々に噴水を眺めるユリにロウが説明する。緑のオーブが輝きながらゆっくり回っており、天体儀のようなオブジェだ。

 ハイテクだなぁとユリが思っていると、

「ひゃーどうなってんだ!?」

 そんな驚きの声が聞こえて、ユリは声がした方を見る。

「急に城門の氷が溶けて中に入ってみたら、みんな普通に生活してるじゃねーか!」

 きょろきょろと世話しなく町並みを見回すのは、郵便配達人の男だ。
 彼が驚くのも無理はないと、ユリはくすりと笑った。

「――ユリ」
「カミュ?」
「オレは城門辺りで待ってると、エルシスたちにそう伝えてくれるか」

 カミュがユリにそう言ったのは、なんとなく自分の事情を知っている彼女なら、察してくれるだろうと踏んでだ。

「あ……じゃあ、私も」
「変に気ィ遣わなくても大丈夫だ。お前だって城の中見たいだろ?」

 そうカミュが聞くと「……見たい」少しの沈黙の後にユリは答えた。
 好奇心が勝ったらしい。素直でよろしいとカミュは笑う。

「……そんな顔すんな。気分が乗らないだけだ」

 最後にそう言ってカミュはふらりと城門へと向かっていった。

「カミュはどうかしたの?」
「あ、ええと、気分が乗らないから城門辺りで待ってるって……」

 気づいたマルティナに、ユリはカミュに言われたまま答える。そう……とマルティナは特に疑問を口にしなかった。
 代わりにユリをじっと見つめる。

「もしかして、ユリとカミュは……」
「?」
「……いいえ、聞くのはヤボね。なんでもないわ」

 そう笑うマルティナに、ユリはますます不思議そうに首を傾げた。

「エルシス。町の観光もいいけど、早く城にブルーオーブをもらいに行きましょう!」
「そうだな。……あれ、カミュは?」
「そういえば、見当たらないわね」

 クレイモラン城に向かおうかという最中。カミュがいないことに気づき、エルシスとベロニカがきょろきょろする。

「ユリ、カミュと何かあったの?」
「何か?」
「なにもないってば、師匠」
「カミュは私たちが城へ行く間、城門の辺りで待っていると言っていたわ」
「え、そうなの?カミュ、どうしたのかな……」
「何があったかは知らないけど、ひとりになりたい気分なんでしょ。どんな人でもそういう時、あるじゃない」

 マルティナが上手く皆に伝えてくれて、ユリはありがとうと小声で彼女に言った。
 どういたしましてと言うように、マルティナはユリにこっそり笑う。


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