クレイモラン城下町

 シルビア号に戻った一行は、戦いによって疲弊した身体を休ませる。
 始祖の森への旅路を確認して、出発は明日の予定だ。
 命の大樹を目指すには、ゼーランダ山を越えなくてはならないが、山に出る魔物はとても強いという。しっかり準備をしなくてはならない。


「もうロウさま、変わってないわ。お孫さんの手本になれるようにしっかりしてって言ってたのに……。もうこんなことがないようにきちんと怒っておかないと……」

 談話室のソファに座り、ぼやくマルティナ。シルビアも同意しながら、エルシスに話を振る。

「エルシスちゃんはああいう本に興味ないわよね。大人とはいえ、勇者なんだから世界が平和になるまでおあずけよ」

 コクコクとエルシスは紅茶を飲みながら頷いた。興味がない……といえば嘘になるが、ロウみたいに収集する趣味はない。

「ちっ違うんじゃ……。前にも言った通り、ムフフ本はとても高く売れるからユグノア復興の資金にしようと思ったのじゃ。祖国の復興という崇高な目的のために恥をしのんで持ってきたというのに、こんなひどい仕打ちがあるか……」

 ロウはもっともらしいことを言ってしょんぼりしたが、それは言い訳だと皆は十分に知っている。
 エルシスは、はあ……とため息を吐いてから、次にカミュに視線を移す。

「……おっと、城門で待ってた間、何をしてたかって聞くのはナシだぜ」

 先に答えられた。気になっていたが、カミュが話したくないなら仕方ない。


 身体を十分に休ませたあと、エルシスは再びクレイモラン城下町にやって来ていた。

 魔法都市であるクレイモランでは、魔法の研究が盛んで、物に魔力をこめる技術も研究されているという。
 町で売ってる武器や防具には魔法の力がこめられており、エルシスはそれを見にきたのだ。

 早くも町ではリーズレットの話が広まっていた。「シャール女王のご友人の魔女が城に住み着いた」ということになっているらしく、皆は興味津々に話題にしている。

「キミはリーズレットさんを知ってるかい?ボク、ひと目見て恋に落ちちゃってさ。なんとかお付き合いしたいと思って、勇気を出して告白したんだ」

 ――中にはそんな強者な青年も。
 行動力がすごい。いや、恋に時間も種族も年齢も関係ないかも知れないが。

「あなたを愛していますという花言葉を持つ花束も一緒に渡してね。すると彼女、付き合ってもいいって言うからよっしゃー!!と思ったんだけど、その代わりひとつ条件があって……」

 リーズレットが告白を受け入れるなんて意外だと思ったが……。恋する青年の顔が曇る。

「シケスビア雪原にある三日月形の入り江に咲く、めずらしい花を摘んできてほしいってお願いされたんだ。でも、ボクのチカラじゃシケスビア雪原なんて危険な場所に行けそうにないから、どうしたもんかと悩んでいてね……」

 恋する青年はエルシスの顔を見て、はっと何やら思いつく。

「あっそうだ!キミは強そうだから代わりにその花を摘んできてくれない?何かお礼はするからさ」
「でも、告白なら自分のチカラで花を摘んできた方がいいのでは……」
「そこをなんとか頼むよ。お礼にレシピブックとかどうかな?魔法武具のなかなか珍しいものなんだけど……」
「やります」

 レシピブックと聞いた途端、エルシスはキリッと二つ返事で引き受けた。

「ホントに!?やった!リーズレットさんがほしがってる花は、シケスビア雪原の南にある三日月型の入り江に咲くそうだよ。花を手に入れたらボクに届けてくれ。ボクが彼女と付き合えるかどうかは、全部キミにかかってる。頼んだよ」
「わかりました!」

 エルシスは踵を返して、るんるん気分で城門に向かう。
 花を手に入れるなんてお安いご用だ。

「あれ、エルシスどこへ行くの?……クエストでシスケビア雪原に花を摘みに?さすがに一人じゃ危ないし、私も一緒に行くよ!」

 町を観光していたユリも同行する。
 ミルレアンの森に向かった時とは反対に、二人は南に下っていた。

「……どうしよう。地図を見るとこの先が三日月型の入り江みたいだけど、氷で塞がれている」

 順調だった二人の前に現れた分厚い氷の壁。火の呪文で溶かすにも、なかなか骨が折れそうである。

「あ、そうだエルシス!ルバンカの突進で氷を破壊できるんじゃない?」

 ユリは魔物を見ながら大胆な提案をした。確かに一度ルバンカに乗って、その突進力はすごかった。

「よし、やってみよう!」

 さっそく二人はキラキラしたルバンカを倒し、乗り物を乗っ取る。

「じゃあ、いくよ――!」

 エルシスが乗り込み、勢いよく氷の壁に突っ込んだ。

「上手くいったね!」

 派手な音を立て、氷の壁は崩れる。
 その道の先に広がるのは、流氷が漂う入り江。
 地図にある通り、円い陸地に三日月型だ。
 ルバンカに乗るエルシスに、慌てて逃げて行くのはつららスライムたち。
 のんびりしていたところ、ちょっと可哀想だった。

 恋する青年が言っていたその花――雪月花はすぐに見つかった。草花が見当たらない雪の上で、ひっそりと咲いていたからだ。

「真っ白でキレイな花だね」
「目的の花も手に入れたし、帰りはルーラで町に戻ろう」

 エルシスの言葉に、ユリはルーラを唱える。

「やあ、キミか。そのカオはもしかして……ついに例の花を手に入ったのかい?」

 さっそくエルシスは恋する青年に雪月花を渡した。

「これがリーズレットさんが言ってた花か。月の光を受け、雪原に咲く白い花……雪月花と呼ばれる花だね。これで彼女と付き合え……いや、待てよ。雪月花の花言葉はたしか……」

 ――未熟。

「……そうか。彼女はボクが自分で行かないことまで見越してあんな条件を出したのか。たしかに、好きな人のお願いを見知らぬ他人に頼むなんて、彼女の言う通りボクは未熟だ」

 リーズレットらしい、とエルシスは思った。恋する青年は花を見つめながら言う。

「でも……でも、いつかこの花を自分で取りにいけるぐらい強くなって、リーズレットさんを振り向かせてみせるよ」
「僕たちも応援してます」
「ありがとう。キミのおかけで自分の未熟さに気づくことができた。これはお礼を受け取ってくれ」

 エルシスは『魔法武具のレシピ』のレシピブックを恋する青年から受け取った。

「よかったね、エルシス」
「武器防具屋も見に行こうと思うんだけど、ユリも一緒にどう?」

 エルシスの誘いにユリは頷き、二人は店へと訪れた。
 レシピブックにはない品物を、エルシスは眺める。

「この両手剣かっこいいなぁ」

 エルシスが気になったのは三日月型の両手剣、クレセントエッジだ。
 斬りつけた敵をたまにマヒさせる効果があるらしく、レシピにもないのでエルシスは購入することに決めた。

「あ、魔法の矢がある!」

 さすが魔法都市だ。魔法の矢なら魔力節約にも使える。炎と氷の魔法の矢も一緒に購入した。
 他の皆の武器は腕を奮って鍛冶で造ろう。良い買い物ができたと、二人は満足げに店を出る。

「エルシス、市場も行ってみない?この地特有の食材を見てみたくて」
「いいね!おいしそうな食材もあったら買っておこう」

 ユリの提案に賛成と、二人は市場に向かう。

「ほらほら、クレイモラン特産のお野菜いらんかねー?お安くしとくよー!」
「寒さの中でじょうぶに育った野菜は栄養がたくさんつまってるよー!」

 商売人の呼び掛けに、寒い土地でも野菜は育つたんだなぁと二人は見て回る。

「雪原でとれた獲物はいらんかねー?旅人さんどうだい?お安くしとくよー!丸々太った獲物をグツグツ煮こんでスープにすると、あったまるよー!」

 寒い土地だからこそ、獣は脂肪を溜め込もうとしておいしいという。確かに、ユリが狩った雪イノシシはとろけるようにおいしかった。
 エルシスは人数分の肉を購入する。

「旅人さん!こっちの魚はどうだい?冷たいクレイモラン近海で育った魚は、身が引き締まってプリッとして、とってもおいしいよ!」
「エルシス、買っていこう」
「うん、買うしかないな」
「まいどあり〜!」

 エルシスは人数分の魚を購入した。

 その後も二人は市場を見て回る。

 珍しいものが売っており、たまにバイキングと呼ばれる者たちが卸してくれるのだとか。

「バイキングっていうと……」
「海賊のこと?」

 海賊といえば、デルカダール地方の南の島で遭遇したカンダタ海賊団を思い出すが、彼らとはちょっと違うらしい。

「海賊とはちと違うな。クレイモラン王国の北西に住むバイキングは、荒っぽいが気のいいヤツらでな。クレイモランへ献上品を届けてもらう代わりに王国が彼らに資金援助するなど、お互いに助け合っているのだ」

 二人の話が聞こえて、髭を生やした男はバイキングのことについて説明する。

「それはそうと、私は王国の御用商人で彼らとの連絡役をしているのだが、少々気がかりなことがあってな」
「気がかりなこと?」

 ユリが首を傾げた。

「そろそろバイキングが献上品を届けるために港に着くはずなのに、約束の日を過ぎてもまだ来ないのだ。ヤツら、あらくれ者のくせに約束を守るのがいいところだったのに、何かあったのかもしれん……」

 北西といえば、リーズレットの氷の魔法の影響は受けていないはず。もしかしたら城門が凍っていて中に入れず、元に戻ったことを知らないのかも知れない。

「そうだ。キミたちは時間をもて余していそうだな。よければ献上品がどうなっているか探ってきてくれないか?」

 時間をもて余しているわけでもないが、凍り漬けの事情も知っているので、エルシスは二つ返事をした。

「それは助かる。あの献上品がなければシャールさまがキゲンを悪くして部屋に閉じこもってしまうからな」

 その言葉に、意外だ……と二人同時に思った。あのシャールさまにそんな子供っぽい一面もあるんだ。

「バイキングのアジトはクレイモランの西どなりにあるぞ。船で行けばすぐ着くはずだ。献上品の行方を突きとめたら教えてくれ。報酬ははずむからよろしく頼んだぞ」


 船、ということで二人はシルビア号に戻ってきた。


「はあ……バイキングに会いにいく?」

 アリスに相談している二人に、話が聞こえたカミュは怪訝な顔をした。
 エルシスはかくかくしかじかと、事の成り行きを説明する。
 簡単にいえばクエストの依頼だが。

「本当、お前は次から次へとほいほい引き受けるよな……」
「でも、カミュ。報酬ははずむって言ってたよ」

 フォローするように言ったユリ。報酬ねえ、とカミュの顔は怪訝なままだ。

「では、小舟で行きやしょうか」

 ベロニカとセーニャがクレイモラン城下町にある魔法研究所に見学に行ってるので、戻ってきた時にシルビア号がないと驚くだろう。
 バイキングのアジトは小舟でも十分行ける距離だ。

「アタシもバイキングちゃんたちに会ってみたいわ!」
「じゃあ、シルビアも一緒に行こう。カミュも行かない?」
「……オレは寝てる」

 そうそっけなく行ってしまうカミュに、エルシスは不思議そうに首を傾げた。
 船番をロウとマルティナにまかせて、アリスの操縦する小舟で、エルシスたちはバイキングのアジトに向かう――。


 バイキングのアジトの入口は、海にぽっかり開いた洞窟の入口のようだった。
 大きな船の帆には骸骨マークが描かれており、ここで間違いないようだ。

「バイキングちゃんのアジトって、ちょっとドキドキするわね♪」
「鍾乳洞みたいなアジトって、いかにもって感じだね」
「今さらげすが、突然押しかけちまって、あっしら大丈夫げすかね?」
「荒っぽいが気のいいヤツらって言ってたから大丈夫だと思うけど……」
 
 心配そうなアリスの言葉に、たぶんと言うように答えるエルシス。

「エイサホー!旅人が来るとはめずらしい。ここは北の海をマタにかける、あっしらのバイキングのアジトでやんす」

 ……あ、大丈夫そうだ。

 陽気な挨拶に迎えられ、全員がそう思った。アリスはほっと胸を撫で下ろす。
 エルシスは事情を話すと、中へ通された。自分は下っぱだから、親分たちと話をするといいと。

 昼間からフラフラに酔っぱらっている男に、いかにも海の荒くれっぽいなぁとエルシスは思いながら通りすぎる。

 奥にある、骸骨マークが描かれた扉を開けた。

「……なんだ、お前。俺たちになんか用か」

 見知らぬ存在が突然入ってきて、男たちの目が鋭く向けられる。
 ひいっとシルビアの後ろに隠れるアリス。
 シルビアはというと「見てユリちゃん!金銀財宝、宝の山よ!」と興奮してユリに話しかけている。

「僕たちは――……」
「……クレイモランの御用商人に頼まれて、バイキングの様子を見るためにここまで来ただって?」

 眉を潜めて言う男に、再びアリスがひいっと小さな悲鳴を上げた。

「それはわざわざ申し訳ない。じつは、シャールさまへの献上品を探しに海に出た舎弟が行方不明になってな」

 ……うん、大丈夫そうだ。

 事情を知ると、態度を和らげた男に全員がそう思った。アリスはほっと胸を撫で下ろす。

「そいつを探すために船を出したり、いろいろあわただしくて商人に連絡することもできなかったんだ」
「そうだったんですか……」
「しかし、舎弟を探そうにも海に現れる魔物に手こずっていて、いったいどうしたものかと……」

 そこまで言って、男はやってきた彼らが雰囲気から旅人だと気づいた。
 
「そうだ!あんたたち、世界を旅してるんだろう。もし、旅の途中で舎弟を見かけたらオレたちが探していると伝えてくれないか?」

 旅の途中なら……とエルシスは頷く。

「舎弟は世界地図の真北にある島の辺りで、行方不明になったから、そのへん探せば見つかるかもしれねえ」

 男は洞窟の壁に飾られた地図に、この辺りだと指差しながら言った。

「幼い頃から一緒に育った大事な舎弟なんだ。一刻も早く見つけてやってほしい。どうかよろしく頼んだぞ」

 大事な舎弟か……どうにか力になってあげたいけど……――


「だめだ。ここから北海の孤島なんぞ、船で何日かかると思ってんだ」

 エルシスは事情を話しただけで、まだ探しに行こうとも何も言ってないのに、カミュはきっぱり言い放った。

「これにはカミュに同感ね。やっとオーブが揃ったんだから、すぐに命の大樹を目指すべきよ」

 シルビア号に戻ってきたベロニカが言う。
 一方で「でも、力になりたいというエルシスさまの気持ちはわかりますわ」そう言ったのはセーニャだ。

 いや、僕まだ何も言ってないけど……とエルシスは思ったが、エルシスの心情など皆はお見通しらしい。

「わかってるよ……。とりあえず報告だけしてくるよ」
「……エルシスのダンナ。一つ、あっしに考えがありやす」

 考え……?皆はアリスの話に耳を傾ける。

「この近くに光の柱があるんでげすが、北海の孤島近くにも光の柱があるんでげす」
「……あ、もしかしたら繋がっている可能性があるかも!」
「そうでがす!」

 ユリの言葉にアリスは大きく頷いた。
 行ってみる価値はある――と、笑顔を見せるエルシス。
 カミュとベロニカはやれやれと苦笑いと共に肩を竦めた。

 シルビア号は人魚の力を借りて、海底の航路を通り、北海に出た。
 その近くの孤島に降り立つのはエルシスと、乗り掛かった船であるユリとシルビアとアリス。
 その島には、一隻の船が停泊していた。

「オイラはクレイモランのバイキング。取り引き先の女王さまへ届ける大事な献上品を集めてるんだ」

 ――ビンゴだ。

 のんびり釣りをしている体格のいい男は言った。
 てっきり遭難したのかと思っていたら、マイペースな姿に、エルシスは拍子抜けする。

「……えっ兄貴に言われて来たって?ははーん、オイラを探すように頼まれたな。兄貴のヤツ、ホント心配性なんだから。女王さまへの献上品を探して航海してるうちに遭難しちまったけど、オイラはこの通り平気さ」
「ご無事ならよかったです」

 船で待ってるカミュにこの事を話したら「取り越し苦労じゃえねえか!」とどやされるなぁと思いながら、エルシスは笑顔で言った。

「しかも不幸中の幸いってヤツで、この島は女王さまへ届ける献上品のジャンボウニの宝庫だったんだよ。それでさっそくジャンボウニを集めて、今からクレイモラン王国に届けようと思ってたところさ」
「んまあ、ジャンボウニ!」

 そう反応したのはシルビアだ。「ジャンボウニ」って?とユリが聞く。

「普通のウニより、大きくて甘くてとってもおいしいの。アタシも一度ぐらいしか食べたことがない貴重なものよ」
「へい、あれは絶品でがす。女王さまへ届ける献上品になるのは納得でげすね」

 へえー!とユリだけでなく、エルシスも興味津々に頷いた。
 彼らを見て男は「そうだ」と思いつく。

「ちょうどいいからあんたたち、この献上品をクレイモラン王国にいる御用商人に届けてくれないか?お礼はこのジャンボウニだ」

 男の提案に四人は笑顔を浮かべて、大喜びで引き受ける。

「じゃあこれがあんたたちの分だ。オイラはもう少しここで献上品を取っていくから心配しなくていい。じゃ、急なお願いで悪いがよろしく頼んだぜ!」

 お礼のジャンボウニと、献上品を受け取った。

「今晩はジャンボウニパーティーねん♡」
「想像しただけでよだれが出るでげす〜」
「そんなにおいしいんだ」
「ウニっていえば、海の宝石……。楽しみ!」

 ご機嫌に船に戻ると、まずはクレイモランへ献上品を渡しに行く。

「やあ、キミか。バイキングから話は聞けたか?……んっ?その手に持っているのはシャールさまへの献上品のジャンボウニではないか!なぜ、キミが持っているのかは知らないがその献上品、私に渡してくれないか?ぜひともシャールさまにお届けしたいのだ」

 男の様子から切羽詰まっているようだ。エルシスはもちろんと言うように献上品のジャンボウニを渡した。

「おおっ黒光する身体に猛々しいトゲ!これはまさにシャールさまの大好物、ジャンボウニに間違いない!助かったよ。これがないとシャールさまはキゲンが悪くなって、三日三晩部屋から出てこなくなってしまうのだ」
「あら、シャールちゃんって意外と子供っぽいところがあるのね」

 エルシスとユリが思ったことを、シルビアは口に出して言った。

「今回の件はすべてキミの手柄だ。ホントに感謝してもしきれない。私から精一杯のお礼をさせてもらうぞ」

 エルシスはキャプテンハットをもらった。

「シルビアが装備できそうだ」
「それじゃあ……。ふふ、どうかしら?」
「シルビア、すごく似合ってるよ!」
「うん、かっこいい!」

 次はバイキングのアジトへ報告だ。

「シルビア姐さん、そのハットよく似合ってるげす!」
「うふ♡ありがとう、アリスちゃん!」

 再び、アリスに小舟でアジトへ連れていってもらう。


「おっあんたか。もしかして、うちの舎弟に会ったのかい?」

 エルシスは状況を話した。

「……ふむふむ。アイツ、遭難して漂着した無人島で献上品のジャンボウニを集めてたのか。はははっ!まったくアイツらしいぜ!転んでもただでは起きねえ!舎弟のことはもう心配性いらないな」

 安堵して笑う男に、エルシスも大丈夫だと言うように微笑んだ。

「あんたも忙しい旅の途中、わざわざ伝えてくれてありがとうな。感謝してるぜ」


 ――こうして無事報告も終わって、晴れ晴れした気分で、四人はシルビア号に戻って来た。

 今日の夕飯はクレイモランの市場で購入した肉や魚と、ジャンボウニと豪勢だ。

 命の大樹への旅路に向けて、彼らは英気を養う。


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