命の大樹が落ちた世界

 ……何が、どうなったの?
 ……ここは、いったいどこ?

「アタシ、まだ生きてる……。なぜ……?」

 波の音が耳に届くなか、シルビアは目を開ける。どこかの砂浜に、自分は倒れているらしい。
 痛みが激しい身体を起こす。まだぼやける視界に、あれは……シルビア号……?

 それに、こっちに走ってくるのは――……

「ねえさん……シルビアねえさん!!しっかり、してくだせえ……!ねえさん……!」

 アリスの焦る声を聞きながら、シルビアの視界は再び暗闇に閉ざされた。

 ――世界に命の大樹が落ちたとき。

 大地を揺るがす激しい地響きと共に、周囲の山は崩れ、燃え盛る噴石が世界に飛び散った。
 そして、世界は闇に覆われた。
 地上だけでなく、海も荒れ、港は大パニックに陥る。停泊していたシルビア号も波に呑まれ、危険に晒されながら、なんとか持ちこたえた。

 彼らの身になにかあったのだと、すぐにアリスにはわかった。

 不安に思いながら、漁に出ていた船の救助にアリスも乗り出す。
 かつて、大切な主君の命を、自分は守れなかった。その自分の不甲斐なさに、自暴自棄になった過去が、アリスにはある。

 そんな自分でも、今――

「皆さん!もう大丈夫でげす!今すぐ引き上げやす……!」

 できることがある。

「あいつは……!もう一人、男はいなかったか……!?一緒に……一緒に……漁に出たんだ……っ」

 彼の言葉に、アリスは無念そうに首を横に振った。
 ……間に合わず、助けられなかった人もいた。
 命の大樹のあの葉の一枚一枚が、誰かの命と繋がっているという。だが、地に落ちた大樹はまるで枯木。

 それを意味することは……。

 今、生きている自分は、奇跡だ。生かされた命で、一人でも誰かを救うことができるなら……自分にとって、それ以上の幸福はない。
 他に助ける者はいないかと、望遠鏡で辺りを捜索している時だった。
 名もなき砂浜で倒れている、シルビアの姿を見つけたのは――。


「シルビアねえさん、ここにいたんでがすね」

 自室にいないシルビアを探しにきたアリスは、甲板でその後ろ姿を見つけた。
 海を眺めることなく、目を伏せていたシルビアは、視線だけアリスに向けて、口を開く。

「ええ……ちょっと深呼吸をしたくって。船室でじっとしていると、イヤなこばかり考えてしまうから……」
「元気を出してくだせえ。シルビアねえさんの悲しそうな姿を、あっしはもう見てられないでがすよ」

 シルビアは視線を外に向けた。そこに広がるのは、暗い海だ。

「あの日……魔王ウルノーガのすさまじいチカラの前に、なすすべもなくアタシはもう死んだと思ったわ……」

 あの日の出来事を思い出して、シルビアは話す。その暗い瞳は、この景色を映し出しているだけではなかった。

「でも、アタシはまだ生きていて、目を覚ましたら、世界は闇におちていた」
「…………」
「アリスちゃん。アタシ、不安で仕方ないの」

 シルビアは胸の内をアリスに話す。

「助かったのはアタシだけで、みんなは……エルシスちゃんたちはもういないんじゃないかって……」

 あの日の最後、どうなったのかシルビアに記憶はない。
 ただ、絶望的だったことを覚えている。

「ねえさん。失礼するでがす……」

 そうアリスは断ってから、手のひらをシルビアに向ける。
 気づいた時には、シルビアは床に手をついて倒れていた。
 はっ倒すような勢いの平手打ちだった。

「あの人たちは!ねえさんの仲間は!魔王なんかにやられちまうようなヤワな人たちなんでげすか!?」

 語気を強めて、叫ぶようにアリスは話す。遅れてやってきた頬の痛みに、シルビアは片手で覆った。

「……皆さんを信じてやれるのは、一緒に旅をして、世界のために戦ってきたシルビアねえさんだけなんでがすよ!」

 この痛みに、その言葉に……シルビアは目を覚ます気分だ。

「……ありがとう。アリスちゃん」

 シルビアは立ち上がる。

「アタシがこうして生きているんだもの!エルシスちゃんや他のみんなもどこかで生きているかもしれないわ!」

 そこにいるのは、目の輝きを取り戻し、アリスが尊敬するシルビアの姿だった。

「……いつまでもメソメソしていられない!あの子たちに会った時、はずかしくないようにアタシ……がんばらなきゃ!」
「それでこそシルビアねえさんだ!あっしはどこまでもお供するでがすよ!」

 アリスの言葉に、シルビアは優しく微笑む。

「そうと決まれば、行動あるのみよ。まずは近くの町へ船を泊めて、世界の様子をこの目で確かめましょう」

 もしかしたら、仲間たちにも会えるかもしれない。

「……こんな暗い世界だからこそ、アタシたちにしかできないことが、きっと何かあるはずよ!」
「ここからいちばん近い町といえば……港町ダーハルーネでがすね」

 アリスの言葉に「あら、ちょうどいいじゃない」そうシルビアは頷くと、腕をびしっと伸ばした。

「それじゃ、ダーハルーネの町を目指してシルビア号、全速前進!」

 力強く指差すシルビア。

「がってん!」

 アリスも同様に力強く頷き、二人を乗せたシルビア号はダーハルーネに向かう。


 暗い海を越えた先に、ダーハルーネが見えてきた。ドッグにシルビア号を預け、二人は町へと足を踏み入れる。

「さて、ダーハルーネの町に着きやしたね!この町は、世界中の名産品が集まる貿易都市だったでがすが……」

 明るいアリスの声が、町を見渡して、徐々にトーンが落ちていく。

「あんなことがあって、さすがに以前のような活気がないようでがすね」
「ええ。以前はあんなに賑わっていたのに……」
「とりあえず、町を回って町の人に話を聞いてみやしょう。さあ、行くでがすよ、シルビアねえさん!」

 張り切るアリスにシルビアはくすりと笑って、二人は町の中心へと向かう。
 商人たちの姿も少なければ、売り場もすっからかんだ。当然、市場もがらんとしている。

「もうダメだ、ダメだよ、旅人さん。命の大樹が地に落ちたあの日から、世界は混乱の渦に飲み込まれてしまって、商人たちも貿易どころじゃないし、町はすっかり活気を無くしてしまった」

 一人の住人が、物寂しい町を眺めながらシルビアたちに話す。

「町が荒れれば人の心もすさむもので、タチの悪い盗賊団まで現れる始末。この町ももうおしまいだよ……」
「簡単におしまいなんて言っちゃダメよ」

 絶望的だと言うような彼を、シルビアは励ました。世界の異変の影響は、人々の心を大きく脅かしているのだと知る。

「旅人さん。近頃町を荒らしまわってるドテゴロ一味って盗賊団には気をつけな。よそ者と見られれば、真っ先に狙われるぞ。さっきも町に来たばかりの旅人が襲われて、荷物を盗られちまったようでな。北の広場のほうに逃げていったよ」

 情報収集していると、違う住人の口からも盗賊団の話が出てきた。
 それもあって、町中に人気が少ないのかもしれない。

「ダーハルーネは治安もよかったはずげすが、警備兵の姿も見辺りやせんね」
「そのドテゴロ一味という盗賊団は気になる存在ね」

 もう少し町の状況を調べてみましょうと、歩くシルビアの目に――知っている姿が映った。

「なあ、起きろよ、父ちゃん!別の町に仕事を探しにいくんだって、言ってたじゃねえか!」
「むにゃ、むにゃ……うーん……もう飲めねえよお……」

 ――ラッドだ。彼が父親と呼んだ男は、まっ昼間だと言うのに、酔っぱらって地面に大の字で寝ている。

「ハァイ、ラッドちゃん。元気だったかしら?」
「!?あんたたちは……」
「話には聞いていた、その少年がラッドくんでがすね」

 驚いて目を見開いたラッドだったが、すぐに嬉しそうな表情を浮かべる。

「あんた、サラサラ髪の兄ちゃんの仲間だよな!この混乱の中、海を越えてくるなんて、さすがはヤヒムの恩人のひとりだぜ!」
「ウフ♪お褒めに預かり光栄よ。アタシはシルビア。こっちはアリスちゃんよ」
「よろしくげす」

 よろしくと答えるラッドは、あの後の自分とヤヒムのことを軽く二人に話した。次第にその表情は陰っていく。

「……だけど、この町のありさまを見ただろ?大樹が落ちた混乱で、貿易船が来なくなったから、船乗りの仕事がなくなっちまったんだ」
「それで、周辺の海には漁船を見かけなかったのね……」
「地上だけでなく、海の魔物たちも凶暴化しているので危険でありやすしね」
「それで、はたらき者だった船乗りたちが、今じゃあ朝から飲んだくれてんのさ。……オレの父ちゃんもこのざまだ」

 ラッドは空を仰ぐ酔っぱらいの父に、落胆の目を向けた。

「……オレ、こんな町はイヤだよ。でも、どうしたら前みたいに戻れるのか、誰にもわかんねえんだ……」
「ラッドちゃん……」

 泣きそうなラッドの姿を見て、シルビアの胸が痛んだ。
 子供たちが元気で笑っている世界が、シルビアの望む世界だ。いや、子供たちだけでなく、この世界に生きるすべての人々が――。

 世界中の皆を笑わせるのが、シルビアの夢なのだから。

「そういえば、もし時間があったらヤヒムのヤツにも会ってやってくれよ。あいつの母ちゃん厳しくってさ。大樹が落ちて町が荒れてから、ほとんど外に出してもらえねえんだ」

 気がかりそうに視線を動かし、ラッドは続けて話す。

「前にあんなことがあったしムリもねえが、きっと退屈してると思うから、話し相手になってやってくれよな!」

 最後は明るい声で言ったラッドに、シルビアも笑顔で頷いた。

「アタシもヤヒムちゃんに会いたいしね」
 
 二人はラハディオ宅を訪れることにした。
 彼は驚いた顔をしたものの、すぐに恩人である二人を明るく出迎えた。

「……これはいつぞやの旅の方!ご無事でしたか!さすがはヤヒムの恩人のお仲間だ!」
「ええ、お久しぶりね。ラハディオちゃん」

 彼は二人をにこやかに客間へと案内する。

 屋敷にはメイドの姿はなく、紅茶の用意をするラハディオの姿を、シルビアは眺めた。
 町長でもある彼も、この町の惨状に胸を痛めているようだ。以前よりやつれた顔に、体型も少し痩せたように見える。

 三人分の紅茶を用意すると、ラハディオは二人と向かい合うように席についた。

「……それはそうと、町をご覧になりましたか?大樹が地に落ちて以来、町の混乱は次第に大きくなっていくばかりです……」

 ラハディオはラッドと同じように顔を曇らせて、二人に話す。町を守るには、自分の力では限界があると……情けない思いも打ち明けて。

「この町に必要なのは、希望なのです。どんなに小さくてもいい。それは明日を生きる糧となる。しかし、このような暗い世界で、どうやって希望を見つけたからいいか。住人の皆、迷いつづけているのです……」

 希望――目に見えず形のないものだが、人が生きていく上で、支えとなるものだ。
 希望とはなにかしら……シルビアは紅茶に口をつけながら、考える。
 絶望を味わった自分が、こうして前に進めるのは、その希望を見つけたからだ。

(もし、人々に希望の光が見つけられたら……)

「あー!あなたは僕を助けてくれたお兄ちゃんの仲間のオネエさん!無事だったんだね、よかった」

 考えに更けていたシルビアは、その元気な声に、顔をそちらに向ける。
 ヤヒムだ。にこにこと笑う笑顔のヤヒム。シルビアもつられるように笑顔になった。

「こんにちは、ヤヒムちゃん。ヤヒムちゃんは元気そうでよかったわ」
「うんっ、僕はあれからすっかり元気だよ。……あれ?そういえば、サラサラヘアのかっこいいお兄ちゃんと、他のみんなは一緒じゃないの?」

 ヤヒムの言葉に「そういえば……」とラハディオも気づき、シルビアに視線を送った。
 シルビアは大樹が落ちた混乱で、皆と離ればなれになってしまった、探している途中だと話した。
 生死に関わることは話さなかった。
 何より、シルビア自身が彼らは生きていると信じている。

「……そっか。でも、僕はオネエさんが元気でいてくれて、とってもとってもうれしいよ!」
「ありがとう、ヤヒムちゃん」

 ヤヒムはシルビアに大樹が落ちてからの話をした。

「母さんたちは、今は危険だからって僕を家の外に出してくれないんだ」

 少し不満げな声に、ヤヒムの母が弁解するように話す。

「息子のヤヒムはご存知の通り前にも危ない目にあっていますの。だから、荒れた町であの時のようにまた危ない目にあったらと思うと、外に出すことが不安でしかたないのです」

 子を思う母の気持ち。わからないではないと、アリスは彼女の話に耳を傾ける。

「過保護すぎる親だとお思いでしょうが、愛するヤヒムを守るためです。今のままでは息子を外に出せませんわ」
「町では盗賊団も暴れてしまい、警備兵もやる気をなくて野放しの状態なのです……」

 ラハディオも致し方ないというように、肩を落として頷いた。

「前みたいに町が平和になったら、ラッドと外で遊べるようになるのかな?……今はまだ、想像できないや」

 ……子供たちが、町の中でさえ安心して遊べない状況。これは見逃せない事態だ。

「安心して、ヤヒムちゃん。その盗賊団はアタシたちが退治するわ!」

 シルビアのその言葉に、ラハディオとその妻は驚き顔を見合わせる。

「ホントに!?オネエさん!」
「ええ、しっかりお仕置きしてくるわ」

 パアァと顔を明るくさせたヤヒムに、シルビアはにっこり笑いかけた。
 ラハディオの屋敷を後にした二人は、盗賊団退治をするため、まずは彼らの居場所を探す。

「そういやねえさん。先ほど町の人が、町に来たばかりの旅人が襲われたとかなんとか言ってやしたね」
「たしか、北の広場のほうに行ったとか言ってたわね……。盗賊団について、なにか手がかりが掴めるかもしれないわ」

 行ってみましょう――シルビアとアリスは、北の広場へと向かう。
 海の男コンテストの会場はそのままだが、かつての熱気が嘘のようだ。一人の吟遊詩人が、寂しげに歌声を海風に乗せている。

 もう一人、海を眺める中年の男の姿が。

「……そこのしょんぼりボーイさん。どうしたのかしら?」

 今にも海に身投げしそうな背中に、シルビアは声をかけた。
 男は少し遅れて、ちらりと振り返り、反応を示す。

「あんた、見たところ旅芸人か何かだろ?金が欲しいんなら他をあたりな。……俺は、今一文なしだぜ」
「あらっ、それはダメよ。しょんぼりした人をひとりにしないのがアタシのポリシーなの」
「…………」

 返ってきた無言に、シルビアはさらに続けて話す。

「悩みがあるなら、アタシに話してちょうだい。すこしは心がラクになるかもしれないわよ?」

 ややあって男は振り返った。片目にモノグルをかけて、髭を生やした男だ。

「やっと目があったわね。アタシはシルビア。お察しの通り、旅芸人よん」
「俺の名前はイッテツ。ホムラの里から来た鍛冶職人だ。……情けない話になるが、聞いてくれるかい?」

 鍛冶職人。なるほど、確かに彼から職人気質のような雰囲気を感じる。
 シルビアとアリス、イッテツは、階段に並んで腰かけた。

 イッテツは暗い声色で二人に事情を話す。

「俺は長い鍛冶修行の旅を終えて、故郷のホムラの里に帰るところだった。……だが、その矢先、命の大樹が落っこちてな。故郷に残したおっかさんのことが心配で、なんとかこの町までたどり着いたんだが、俺の運はそこまでだった……」

 そこてイッテツは、はあと自分に落胆するようなため息を吐いた。

「最近、この町に現れた盗賊団、ドテゴロ一味に荷物を盗まれちまったのさ」

 どうやら、彼が盗賊団に襲われた旅人だったらしい。シルビアとアリスは、こっそり顔を見合わせる。

「ホムラの里へは丸腰で戻れる道のりじゃねえ。……それによ、あの荷物の中にはスズランが入ってたんだ」
「スズラン……でげすか?」
「もし、もう一度おっかさんに会えたら、苦労ばかりかけちまったせめてものおわびに、あのスズランを渡すつもりで……俺は……」

 そこまで話して声を湿らせるイッテツ。シルビアはスッと立ち上がる。

「……お母さまへのアナタの気持ち、痛いほど伝わったわ!」

 シルビアは続けて、イッテツに力強く言い放つ。

「アタシたちがドテゴロ一味とやらをこらしめて、荷物とスズランを取り返してあげる!そいつらがどこにいるか教えてちょうだい!」

 どのみちにその盗賊団を退治するために、居所を探していたところだ。

「ド…ドテゴロ一味なら、町の南側にある、値下げ合戦で有名な商人兄弟のアニキの店で暴れていたような気がするが……」
「ありがと!すぐに戻るからイッテツちゃんはここで待っていてね。さあ、アリスちゃん行くわよ!」
「がってん!」

 意気揚々と向かうシルビアとアリスに、イッテツはその背中に慌てて声をかける。

「ダ…ダンナ。気持ちはうれしいが、やめときな。あらくれ者ぞろいのドテゴロ一味に、ただの旅芸人がかなうわけねえじゃねえか」
「そういうことなら安心なさい。アタシたち、こう見えてもちょっとだけウデに覚えがあるのよ♪」

 ウィンクと共に気にも止めず言ってのけたシルビアに、イッテツはぽかーんとする。

 彼はそのまま、二人の背中を見送った。


「罪もない旅人の大切な荷物を盗むなんて、ドテゴロ一味とやらは許せない性悪でがす!」

 とっちめて荷物を取り返しやしょうぜ!
 アリスはマスクの下で怒りを露に、シルビアに言った。
 値下げ合戦で有名な商人兄弟……その店にシルビアは心当たりがあった。セーニャが店を行き来して、ねこの着ぐるみをお買得に買った店である。

「……あら、アナタ。こんな所でなにしてるの?」

 シルビアが声をかけると、ビクッと肩を震わせ、その若い男は振り返る。

「ドテゴロ一味に襲われているあの店は、私の兄貴の店なんです……」

 隠れてその様子を見ていたのは、商人兄弟の弟だった。

「助けにいこうと、様子を見にきたのですが、身体が震えて動かなくって……。兄貴……弱虫な弟でごめんな……」

 まあ、無理もないかもしれない。シルビアは優しく「アタシたちにまかせて」と声をかけ、アリスはその肩にぽんと手を乗せた。二人はそちらに向かう。

「何度も言ってるが、う…うちの店の商品はこれで全部なんだよ〜!もうカンベンしてくれよ〜!」

 兄貴の叫びもむなしく、ドテゴロ一味は、店のカウンター越しに詰めよっている。

「ちょっとアナタたち!」

 シルビアが声をかけると、三人の男たちの視線は、シルビアと隣のアリスに向けられた。

「あん!?見てわかんねえのか!?今は取り込み中なんだ!買い物なら別の店を当たりな!」
「やいやい、見せもんじゃねえぞぉ〜!しっ!しっ!消えな!」
「おいおいダンナ、ジャマしないでくれよ。オレたちゃこの店の店主とお話中なんだ。用がねえならさっさと失せな」

 まるで盗賊団というよりゴロツキだ。シルビアは怯むことなく、彼らに向かって言う。

「アナタたちが盗賊団、ドテゴロー一味ね?イッテツちゃんから盗んだ荷物を、今すぐ返してちょうだい」
「ははっ、盗賊団に向かって獲物を返せとは、ずいぶんとおもしれえ野郎じゃねえか!……だが、その頼みは聞けねえな!」

 男は武器を取ると、残り二人も武器を手にした。

「しょせん、この世は弱肉強食だ!荷物を返してほしけりゃチカラずくで取り返してみやがれ!」

 それを見て、シルビアも腰から剣を引き抜く。

「かかれ!ヤロウども!」
「シルビアねえさん!あっしも一緒に戦うでがすよ!」


 三対二。数ではこちらが有利だと、ドテゴロー一味の三人は笑っていた。


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