ナカマを増やして

 ――ダーハラ湿原。

 以前の風景と変わりなく、池の上に建つ、木造の足場をシルビア一行は歩いていく。
 世界のあちこちで魔物が凶暴化していると、シルビアも耳にしていたが……この場所も例外ではないようだ。

 キノコのような姿をした魔物、マタンゴ。
 赤く目を光らせ、強い殺気を放っている。
 ちなみに以前は見かけなかった魔物だ。

 先制攻撃のマタンゴ・強のあまい息によって、先頭にいたシルビアは眠ってしまう。

「なんでやねん!」

 すかさずつっこみで起こすアリス。

「……っく。アリスちゃん……以前よりつっこみがビシッとなったじゃな〜い」
「へえ!お褒めに預かり光栄でがす!」
「シルビアさんとアリスさんばかりに頼ってられないぜ!オレたちも海の男の底力を見せつけるぞ!」
「「おお!」」

 ドテゴロの声に、モレオとデニスが大きく返事をした。
 シルビアにもらったイッテツのド派手の武器を構えながら、三人はマタンゴ・強を取り囲む。

「そいやー!」

 モレオは投網をし、魔物の動きを封じ、

「そ〜らそ〜ら。きあいだ、わっしょい!今日も大漁ごちそうだ〜い!」

 デニスが舟唄を歌い、仲間全員の攻撃力と素早さを上げ、

「喰らいな!」

 ドテゴロは魚をモリで突くようにヤリを繰り出した。彼の必殺技の三枚おろしだ。
 倒れた魔物を見て、シルビアはひゅうと口笛を吹いた。

「アナタたち、やるじゃな〜い」
「いいチームワークでげすね!」

 シルビアとアリスに褒められ、照れくさそうに微笑む三人。

「この武器も使いやすくていい感じなんだ!」

 三人は旗を降るようにド派手な槍を掲げる。
 イッテツからもらった武器は、見た目のラブリーさからは想像できないが、攻撃力がとても高い。

 シルビア一行は危なげなく、魔物はびこるダーハラ湿原を進んでいく。

 すると、雨がぽつりぽつりと降ってきた。

 どこか雨宿りできそうな場所はなかったかしら?と、シルビアたちは足早に進む。

「お、あそこで雨宿りできそうだ!」
「あら、先客がいるみたい……だけど」

 デニスが指差すのは、岩のトンネルのように雨が遮れる場所だ。
 先客の神父の姿をした男は、シルビアの目にしょんぼりして見える。

 しょんぼりしている人は、放ってはおけない。

「眠れない……」
「そこの大きなため息を吐いてるアナタ。何かお困りなのかしら?」

 シルビアは気さくに声をかけた。
 虚ろな目がシルビアたちに向けられる。
 その下には、くっきりクマができていた。

「私は旅の神父です。命の大樹が落ち、悩み苦しんでいる人々を各地で救う旅をしております」
「あら〜誰かを救う旅なんて素敵じゃない!」

 うんうんとアリスたちも頷くが、逆に神父の顔は苦々しく歪んでしまう。

「しかし、私ひとりのチカラでは限界がありました……。最近では救えなかった人々の声がアタマにひびいて、眠ることもできません」

 不眠が悩みなのだと神父は言った。それでこのクマなのかと、皆は納得する。

「これでは、人々を救う旅もままなりません。せめて、すこしでも眠ることができれば……」
「そうね。睡眠は元気にも美容にも大事だもの。何か眠れる方法はないかしら?あいにくゆめみの花は、今は持ち合わせていないのよね……」

 シルビアがう〜んと考える横で「子守唄代わりに舟唄はだめかなぁ」と、デニスが呟く。
「さっきの魔物の甘い息なら……」「いや、だめだろ」次のモレオの提案を、すかさずドテゴロが却下した。

「幼い頃、眠れない夜に祖母が作ってくれたホットミルク……あれさえ飲めれば眠れそうなのですが……」
「ミルクならあったはずよ。ねえ、アリスちゃん」
「へい!ホットミルクを作れるがす!」

 解決と思ったが、神父は申し訳なさそうな顔をする。

「祖母のホットミルクを再現するには、しゃべるウシから出る特別なミルクが必要でして……この近くにもウシはいたんですが、あいにく世界崩壊の影響で元気を無くしており、今はミルクが出ないとのこと……」
「世界の異変は動物たちにも影響が出ているのね……」

 シルビアが悲しげに呟き、少しの沈黙のあと、神父がハッと顔を上げる。

「……そうだ。もしかすると、旅芸人のあなたならウシを元気づけ、ミルクをもらえるかも!?どうかやっていただけないでしょうか?」

 それならお手のものだ。

「アタシにまかせなさい!ウシちゃんを元気づけてミルクをもらってきてあげるわ!」
「ありがとうございます、旅の方。どうかよろしくお願いします」

 神父から牛のありかを聞き、神父にはこの先にあるキャンプ地で待っててもらうことにした。
 シルビアたちは小雨のなか、牛に会いに行く。

「なんだか気分は雨模様……。天気予報は大はずれ……。元気が出なくてミルクも出ないモウ……」

 神父が言っていた通り、天気予報の牛はしょんぼりしていた。

(そういえば……いつも真っ先にユリちゃんが天気を聞きにいっていたのよね)

 野生の牛を見つけたら、とりあえず天気を聞くユリの姿を思い出すシルビア。
 遠い過去のように感傷する彼に、アリスが話しかける。

「ねえさん。アッシは故郷でウシを飼ってまして、元気がない時はダンスや歌で励ましてやると、たちまち元気になったもんでがす。こいつも元気がないウシでがすが、同じウシならもしかすると……」

 ……そうね。しゃべろうが、天気予報をしようがウシちゃんはウシちゃんなのよ――。
 それを教えてくれたのは、カミュだった。
 ミルクゲットだと器用に乳搾りをするカミュの姿が、ありありとシルビアの脳裏に浮かぶ。
 
「うふ、そういうことならまかせなさい!アタシたちのダンスで元気づけてあげるわ!」

 ダンスなんて踊ったことがないが、これも世のため、人のため、牛のため。ドテゴロたちはお互いに顔を見合わせ、真剣な顔で頷く。

「さあ、みんな!最高のパフォーマンスでウシちゃんをいっぱい元気づけてあげましょ!」
「はいっ!」

 シルビアと仲間たちは全力でパフォーマンスをした!

「な…なんだか元気が出てきたモウ!この辺りに晴れが戻ってきそうだモウ!やまない雨はないんたモウ!」

 元気になった牛に、やったー!と全員で喜び合う。

「ありがとう、ゆかいな旅の人!これはお礼なんだモウ!」

 シルビアは雨のちミルクを受け取った!

「おおっ、これが眠れない神父さんの言っていたしゃべるウシの特別なミルクでがすね!さっそくあの神父さんに渡しにいきやしょう!」

 それに、これだけあれば今晩はシチューを作れると続けて言ったアリスの言葉に、ドテゴロたちは再び喜ぶ。すっかりお腹がペコペコだ。

「ええ。ちょうどもう陽が暮れるし、このままキャンプ地で休みましょう」

 いつの間にか雨も止んで、彼らの足取りは軽く、神父が待つキャンプ地に向かった。


「これぞ、まさしく求めていたミルク!ありがとうございます、旅の方!これで、ホットミルクを飲むことができます!」

 ビンの中の、たっぷりのミルクを見て、神父の虚ろな目が輝いた。

「……しかし、これを飲んだとして、私はのうのうと寝てしまってよいのだろうか。救えなかった人々のことを思うと、私は……」
「はい、そこまでよ。アナタはがんばったわ」

 神父のその悪循環な思考を、シルビアは断ち切る。

「自分を責めるのはそれぐらいにしなさい。他人を救うためにも、まずはもっと自分を大切にして生きなきゃダメよ」

 たとえば、自分自身が笑っていなければ、他人を笑わせられないように――。

「……そうですね。今、何かがわかった気がします」

 神父はシルビアの目をまっすぐと見つめる。

「もしかすると、私は人々のためだけでなく、誰かを救えなかった負い目から逃れるために、自分を追い込んでいたのかもしれません」

 自分自身に向き合う怖さ。しかし、自分から逃げる者が、どうして人を救えよう。

「……私は、それを指摘されるのをずっと待っていたのかもしれません。本当にありがとうございます」
「ふふ、礼には及ばないわ。ホットミルクを飲んでゆっくり寝なさいな。アタシたちがついているから、安心しなさい」

 鍋で温めたホットミルクをカップに注ぎ、アリスが手渡す。
 神父は両手で受け取り、ふぅふぅと少し冷ましてから、一口。

「……ああ……なんておいしいんでしょう。懐かしい、祖母の味だ……」

 幼い子供のような笑顔を浮かべた神父に、見守っていた皆も目を細めた。
 ゆっくりとホットミルクを味わい、やがて……
 シルビアたちが見守るなか、神父はおだやかな顔で眠りに落ちていった。

「……神父ちゃんを起こさないように、アタシたちは食事にしましょう」

 余ったミルクで作り、ダーハラ湿原産のキノコを入れた、アリス特製雨のちミルクとキノコのシチューだ。
 うめぇうめぇ、とドテゴロたちは小声で言いながら、久しぶりのあたたかい食事を堪能する。

 "食べることは、生きること"

(……そうよね、ユリちゃん)

 そして、この特製シチューを、シチューが大好物のエルシスに食べさせたかったとシルビアは思いを馳せた。

 こうしてキャンプをしていると、かつての仲間たちがそばにいるように錯覚してしまう。

(……もう。ダメよ、シルビア。思い出に浸っちゃ)

 今は前を向いて、歩かなくては。

「シルビアさんとアリスさん。オレたちが交代で見張りをするから、アンタたちは朝まで休んでいてくれ」

 共についてきてくれた、彼らのためにも――。

 そして、夜が明けた。

「……あなたが見張りをしてくれてたのですね。ありがとうございます」

 久しぶりのすっきりした目覚めを迎えた神父は、火の番をしていたドテゴロに声をかけた。

「こいつらと交代でな」

 その近くでは、すやすやと眠っているモレオとデニスの姿。

「……あなた方はなぜ、旅を……?」

 神父の問いに、ドテゴロはふっと笑みをこぼしてから、経緯を話した。
 自分たちはシルビアという人に惹かれて、自分を変えたくて旅に同行させてもらっているのだと――。

「一時の貧しさに耐えかねて、大切な故郷の町を荒らしてまわるなんて、オレたちは自分の不幸に甘えてたのかもな」

 その言葉は自嘲ではなく、自分と向き合って出た言葉だ。
 神父は黙ってドテゴロの話に耳を傾けた。

「シルビアさんの言葉で、オレたちは目が覚めたんだ。苦しい時こそ、助けあうのが人の道ってもんだ……そうだろう?」
「……ええ、そうですね」
「これからはシルビアさんたちと一緒に旅をして、まっとうな人間になれるようオレはがんばるよ」

 清々しい笑顔を見せるドテゴロ。以前の彼の姿を知っていたなら、神父はこう思うだろう。

 まるで、憑き物が落ちたようだ――と。

「……ドテゴロ親分、良いこと言うじゃねーか」
「オレはドテゴロ親分にもどこまでもついてくぜ〜」
「……っな!?お前らいつの間に起きてたんだよ!?」

 恥ずかしそうにするドテゴロに、デニスとモレオはにししっと笑う。

「俺もさ……盗賊をやり始めた頃は、自分が強くなったような気がしてさ。すこしだけ気分がよかったんだよ……」

 寝袋から起き上がり、モレオも自分の胸の内を話す。

「でも、毎日あんなことを繰り返すうちに、悪さをすることしかできない自分が情けなくなって、いつも苦しかった……。シルビアさんたちのおかげで悪事からすっぱり足を洗えて、本当によかったよ」
「……そうだな」
「オレはもう盗賊なんかしたくねえ!まっとうな人間に戻って、いつかまた大好きに船に乗りてえんだ〜!」

 感情のままに叫ぶデニスに「コラ!大きな声を出したら、シルビアさんたちが起きちまうだろ」と、モレオが叱った。

「……うふふ。大丈夫よ。もう起きてるから」
「!?」
「皆さん、おはようございやす」

 アリスさんまで……!今までの会話をバッチリ聞かれたらしく、モレオとデニスも恥ずかしそうに笑った。

 その彼らの様子を見て、神父は一つの決意をする。

「皆さん、本当にありがとうございます。ひさびさにぐっすりと眠れました。……それで、じつは心に決めたことがあるんです」
「あら、何かしら?」
「あなたと一緒にいれば、今度こそ本当に悩める人々を救うことができる。こちらの三人方の話も聞いて……そう確信しました」

 その三人は、神父の言葉に「もしや…」と、顔を見合わせる。

「どうか、あなた方の旅に、私も同行させてもらえませんか?」

 シルビアの答えは、二つ返事だ。

「わかったわ、神父ちゃん。アタシもできることは手伝うから、悩める人々を一緒に救いましょう」

 アリスも頷き、大歓迎だぜ!と、ドテゴロたちも喜ぶ。

「ありがとうございます、シルビアさん!私の名前はイソム。私も全力を尽くします!」

 新たな仲間がひとり加わった!

「人々を救うと息まいて旅に出ましたが、あまりにも多くの苦しみを前にして、私の祈りは……ただ無力でした。もう、祈るだけではイヤなのです。……シルビアさん、アリスさん、ドテゴロさん、モレオさん、デニスさん……。どうかあなた方と一緒に、悩める人々を救わせてください」

 六人となったシルビア一行は、困っている人を助けるため、サマディー地方を目指す――。

 アリスはイッテツの槍をイソムに譲り、彼らはド派手な槍を掲げながら歩く。
 ダーハラ湿原を抜けると、サマディー地方の途中にある海辺が現れた。

「この先は砂だらけで、海は見納めよ。漁師ちゃんたちはしっかり目に焼きつけておくといいわ!」

 ……と、シルビアは言ったものの。

「チッ。この辺りにも凶暴になった魔物がうろうろしてやがるな……油断せずに進んだほうがよさそうだ」

 ドテゴロはうようよする魔物たちを忌まわしく見た。残念なことに、海辺にも魔物ははびこっている。

 魔物たちは彼らに気づくと襲ってきた!

「汝、神と対話したければ、己の心に訴えよ……。何故なら神は〜〜私たちの心の中にいるのです〜〜さて、ここで心とは何か?という話になりますが〜〜」

 イソムは敵を熱心にときふせようとした!
 しかし、話がむずかしく敵はウトウトしはじめた……。
 そして、敵の魔物だけでなく、シルビアたちもウトウトしてきた……。

「イソムちゃん……。アナタ、いい声してるわぁ」
「え、そうですか?」

 海辺の魔物たちも蹴散らし、シルビア一行は先を進む。

「……そういえば、私を助けてくださった時にいただいたミルクは、ダーハラ湿原にいるウシからもらったものなのですよね?」
「そうでげすよ」
「ああ、なんと親切なウシなのでしょうか。お礼に彼の人生……いや、牛生が幸福であるよう祈りましょう……」
「(牛生……でげすか?)」

 歩きながら祈るイソム。牛生という言葉を、かつて牛飼いだったアリスも初めて聞いた。


「サマディー地方に着いたでがすね。この辺りにも、元気を無くした人がいるかもしれないでがすよ」

 遠くに関所が見えてきて、アリスは皆に言う。

「砂漠は暑くって大変でがすが、いっちょ元気をだして進みましょう。がんばりやしょうぜ、皆さん!」

 皆からはまだまだ元気な声が返ってきた。

「ここから陸路で歩いて行ける町は2つ……。サマディー王国の城下町、それからホムラの里ですね。どの町へも危険な道を通らねばなりません。シルビアさんたちが一緒なら心強いですが、準備はしっかりとして進みましょうね」

 イソムに続いて、モレオが口を開く。

「サマディー城下町はここからはまだ近いが、ホムラの里へは砂漠を越えねえとだもんな。……え、なんで詳しいかって?俺、船乗りだった頃は、サマディーの商人ともいろいろ取り引きしてたんだ」

 初耳だというドテゴロとデニスに、モレオは得意気に話した。

「この辺りは砂ばっかりだから、みんな海の話を聞くのが大好きでな。よく酒場で飲みながら話をしたもんさ」

 関所に着くと、サマディー王国の兵士が快く出迎えてくれた。

「これはこれは、旅の方!凶悪な魔物がひしめく中をよくぞここまでたどり着いたな!この砂漠の先にあるサマディー王国でゆっくりと休むといい。あと少し、をつけて進むのだぞ!」

 軽く挨拶をし、関所を通り抜けたところで……

「あ、あなたはもしかして……!」

 そんな驚きの声は、シルビアに向けられていた。

「旅芸人のシルビアさんじゃないっすか!?」
「ええ、そうだけれど、アナタは……?」
「うわー!お会いできて光栄っす!オイラ、サマディーのサーカスに入ったばっかりの新米団員なんすよ!」

 サマディーのサーカス!懐かしさに、シルビアの顔は笑顔が浮かぶ。

「この間のシルビアさんのステージを見た後、あなたみたいになりたいと思ってサーカスに入団したんっす!」
「あら嬉しいわ、ありがとう。……でも、サーカスの団員さんがこんな所でどうしたの?」
「……じつはこのご時世で、オイラたちのサーカス団は、今度の公演を最後に休業するんっす」

 休業……その言葉に、少なからずショックを受ける。

「せめて、最後の公演くらいド派手にいこうって、サーカス団長がイカした計画を立てたものの、肝心の出演者が足りてなくって……このままじゃ、公演を開くこともできねえ。だから、オイラは公演に出てくれる助っ人をはるばる探しにきたんっす」

 彼は悲しそうな表情を見せたものの、最後は明るく言った。

「……でも、全然見つからなくって、途方に暮れていたところにシルビアさん……あなたが来てくれた!」
「アタシ?」
「……失礼を承知でお願いしたいっす!サーカスを盛り上げる助っ人として、オイラたちに協力してくれないっすか!?」

 最後の公演であり、短い間だったが、お世話になったサーカス団だ。
 シルビアの答えは決まっている。

「もちろんよ!ぜひアタシにも参加させて!」
「うわーっ!ありがとうございます!シルビアさんがチカラを貸してくれるなら、最後の公演は大成功間違いなしっす!」

 全身で喜ぶ新米団員は、続けてシルビアにお願いする。

「……それで、さっそくなんですが、サーカスに出てもらう以外にもお願いがあるんす」

 新米団員は、パンッと両手を顔の前に合わせた。

「団長の計画どおりに公演を盛り上げるため、人を元気にできそうな男の人をあとふたり、サーカスにスカウトしてほしいんす!」

 なあんだ、そんなこと――と、シルビアは笑う。仰々しくお願いされたので、何事かと思った。

「オイラが誘った時は断れちまったけど、スーパースターのシルビアさんの誘いなら、町の人もきっと乗ってくれるはずっすよ!」
「オーケー!アタシにまかせて!」
「かすがシルビアさん!頼りになるっす!」

 あっしらもお手伝いするでがすと、アリスたちの言葉に、シルビアは心強く思う。

「それじゃ、オイラはひと足先に、サマディー城下町のサーカステントに戻って準備をしてるっす!」

 言うな否や、彼はすごい勢いで走っていってしまった……と思えば、すぐに引き返してきた。

「言い忘れました!オイラ、パンチョといいます。よろしくっす!」

 そして今度こそ、パンチョは走っていってしまった。

「元気いっぱいの新人さんでげすね!」
「ええ。せっかく将来有望な子が入ったのに、休業するなんて残念ね」

 なにはともあれ、最後のサーカス公演のお手伝いだ。
 まずはサマディー城下町を、一行は目指す。


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