「うえ〜ウワサには聞いてたけど、砂漠ってこんなに暑いんだなあ。オレ、もうバテバテだよ〜」
世界が崩壊する前と変わらぬ、太陽の光熱が降り注ぐ。
砂に足を取られながら歩き、ぐったりした声を上げるデニス。
「この辺りには、身体を休められるキャンプがあるみたいだからさ。ムリせず休憩しながら進もうぜ〜」
「なに言ってんだ。ほら、サマディー城が見えてきただろ?」
「もう少しだからがんばりましょ、デニスちゃん」
ドテゴロとシルビアに励まされ、デニスは「うへ〜い」とゆるい声を返した。
「た…旅の方、助けてくれ!」
――その時、助けを求める声が、砂漠に響いた。
声がした方を見ると、騎士の格好をした男が何やら岩影に隠れている。
(あの服は……)
まず、その姿に目がいくシルビア。彼が着ているその青い正装は――間違いない。
「そんなにあわててどうしたんでがすか?」
「あそこを見てくれ!」
近寄ってアリスが声をかけると、彼は指差す。全員、そちらを見た。
「ヘイヘイ!」
「ウェイウェイ!」
「ヒューヒュー!」
――三匹のチャラいダンスニードルが、親子と思われる二人に絡んでいるでげす!
「私はソルティコの町から来た騎士でな。命の大樹が地に落ち、人々が苦しんでいると聞き、使命感にかられて旅に出たはいいが……」
ソルティコ、という言葉にやっぱりと声に出さず頷いたシルビア。
「いざ、人助けをしようにも魔物を前に、恐怖で足が動かないのだ」
見ると、確かに男の足はがくがくと震えていた。……残念ながら、武者震いではなさそうだ。
「旅の方よ、情けない話なのだが……私に代わって、あの親子を助けてくれないか?」
困っている人を助けるために旅をしているのだ。当然、ダンスニードルに絡まれて困っているあの親子を、見捨てることはできない。
「アタシにまかせなさい!魔物を倒して、あの親子を助けてあげる!」
「ありがとう!なんて勇敢な方なんだ!私はとにかく足が動かなくてな。情けないがここで待機しているよ」
彼を残して、シルビアたちはダンスニードルたちの元へ歩いていく。
「お願い、助けて!この魔物たち、ヘンテコなリズムで迫ってきて、さっきからとってもこわいの!」
「旅の途中で魔物たちに出会ってしまい、私たちを帰してくれないんです……。どうか、助けてください……」
「もう安心して!アタシたちが助けるわ!」
シルビアたちの存在に気づいた親子の助けに、全員が力強く答えた。
「ヘイヘイ。お前らいったん何してん、ジャマはカンベン、オレたちのリズム、誰にも止められん。お前らが止めるってんなら即バトル。ヘイヘイ、どうする止めんのか?」
リズムに乗りながら、謎の口調で挑発してきたダンスニードル。
「そこまでよ、魔物たち!今すぐそこの親子を解放しなさい!でないとお仕置きするわよ!」
シルビアは臆せず言い放った。
「その選択、バッドな選択。話がわからない連中、あの世行き。とっとと倒すぜ、さよならだ」
ダンスニードル・強が戦いを挑んできた!
凶暴化しているだけあって、みょうちくりんなリズムを刻むわりに、魔物は強かった。
さそう踊りに、耐性の低いシルビアが誘われたり……
「シルビアさん!なんてキレキレなんだ……!」
「かっこいい〜……!」
ステテコダンスに、漁師三人衆が笑いこけたり……
「なんでやねん!なんでやねん!なんでやねん!」
「つっこみ三連発!さすがアリスちゃんね!」
高速で転がる攻撃には、かつてエルシスたちが苦しめられたように、全員が痛いダメージを受けた。
「皆さん!回復はまかせてください」
イソムとシルビアも回復呪文を唱える。
次にアリスが全力で叫んで、おどろきすくみあがるダンスニードル・強たち。
そこからは全員で猛攻撃を仕掛け、ついにダンスニードル・強たちを倒した!
「旅の途中であの魔物たちに出会ってしまい……もうダメかと思いましたわ。本当にありがとうございました」
「助けてくれてありがとね!それじゃバイバイ!」
親子は彼らにお礼を言って、その場から離れていく。護衛した方がいいかと思ったが、目的地はサマディー王国なので、この距離なら二人でも大丈夫だろう。
「ありがとう、旅の方。魔物に襲われた親子を見つけ、助けようと思ったのだが、多勢に無勢でな……」
シルビアは、彼をまっすぐ見て言う。
「騎士たる者、どんな逆境にあっても正々堂々と立ち向かう……。それが、騎士道なんじゃなくって?」
その言葉に、騎士の男は目を丸くする。
「……なぜ、その言葉を?」
「風のささやきで聞いたことがあるだけよ。アタシね、この言葉が大好きなの」
ふっと小さく笑うシルビア。だが、すぐに真剣な顔をし、びしっと騎士の男に人差し指を突きつける。
「いい!?この言葉を忘れちゃダメよ!一度、自分がやると決めたことは、どんな逆境にあっても貫き通しなさい!」
「はっ、はい……!」
彼は姿勢を正し、力強く返事をした。……まるで、ジエーゴ師匠のようだ。
「あの親子を見捨てず、助けようとしたアナタは、実力不足だけどただの臆病者ではないわ。いい騎士になれるようがんばってね♪」
最後は茶目っ気たっぷりにシルビアは言った。
「な……なんて、立派な方だ。あなたはわが師である騎士のように誇り高い。その強さと生きざまに心を打たれました」
騎士の男は拳を胸に当てる。
「あなたのもとで、ぜひ修行させてください。急なお願いではあるのですが、どうか旅に同行させてもらえませんか?」
珍しくシルビアは少し考えたが……やがて静かに頷いた。
「わかったわ、騎士ちゃん。そこまで言うのなら、ついてきなさい。アタシのもとで修行するといいわ」
「ありがとうございます!立派な騎士になれるよう、がんばります!」
へっぽこ騎士、ランス。新たな仲間がひとり加わった!
「私はランス。我が故郷……騎士の町ソルティコにも、あなたのように深く騎士道を理解し、実力を兼ねそなえた騎士は多くありません」
ランスはキラキラした尊敬のまなざしを、シルビアに向ける。
「あなたのもとでいちから修行して、誇り高く皆を守れる騎士を目指します!どうぞ、よろしくお願いいたします!」
「ふふ、その志は悪くないわ」
思わずアリスたちは、二人に拍手を送った。
仲間になったランスと共に、一行はサマディー国の大きな門前にたどり着いた。
門を開けてもらい、城下町に足を踏み入れる。
「うほー!じつはオレ、サマディーに来るのははじめてなんだ〜!大きくて立派な町だな〜!」
最初は明るい声を上げたデニスだったが、町の状況を目にすると、すぐに声が萎んでしまう。
「だけど、町の人は元気がねえみてえだ。あんなことがあって、苦しい思いをしてるのは、どの町も一緒なのかもしれねえな……」
「うう〜ん、サマディー城下町もダーハルーネの町と同じく活気を無くしているようでげすな……」
歩いている人も少なく、市場も閑散としている。
シルビアがやって来た時は、ファーリス杯が行われることもあり、一番賑やかな時期だったのであまりにも落差が激しい。(お坊ちゃんは元気かしら……?)
「……おや、ようこそ、旅の方。このご時世に砂漠を越え、サマディー王国までやってくるとはたいした人だ」
町を見回す彼らに、一人の兵士が近づき、声をかけた。
「しかし、命の大樹が落ちて以来、王さまからむやみな外出をひかえるよう命令がくだり、町は人通りが減って、活気が失っています……」
「……なるほど。サマディー王の命令なんでげすね」
「町に残った唯一の楽しみであるサーカスも、今度の公演を最後に休業するそうですし、町はさらにさみしくなりそうですよ……」
そう声を落として、兵士は職務に戻っていく。その背中を見ながら、モレオは口を開く。
「俺たちが芸のひとつでもできれば、サーカスの助っ人になってやれたんだが、あいにく海の仕事しか能がねえ……」
天気予報の牛を励ますために踊った、ちんちくりんダンスが精一杯だ。
「シルビアさん、助けになれなくてすまねえな。でも、助っ人になってくれる親切な人は、この町にもきっといるはずだぜ!」
同意するように、デニスとドテゴロも頷く。
「ここのサーカスは、ガキの頃に一度だけ観たことあってな……。華麗な芸のトリコになって、技をマネして遊んだもんさ。休業しちまうのは残念だが、オレたちの手でサーカスの最後の花をド派手に咲かせてやろうぜ!」
ドテゴロのその言葉は、全員に元気を与えた。
まずはサーカス団に挨拶をしようとなり、町の東のテントに向かう。
「えー!あなた、シルビアでしょう!?新米が連れてきた助っ人って、あなたのことだったのね!」
チケット売り場の女性は、シルビアを見るなり声を上げた。
「あなたがいれば百人力だわ!これなら最後の公演も、成功するような気がしてきちゃった!」
他のサーカスの者たちもシルビアの姿を見て気合いが入ったようで、仲間たちは「本当にシルビアさんはすごい人なんだな」と、感心して見ていた。
裏口は準備のてんやわんやで入れないそうだが、ステージには団長がいるので、ぜひ会いに行ってくれと、団員の一人が言う。
外で待っていると、仲間たちから見送られながら、シルビアはテントの中に入った。
「おひさしぶりね……団長」
「……シルビアさん!あなたがどうしてここに!?」
久しぶりの再会だが、団長の変わらぬ姿にシルビアは安心する。
「こんなご時世でも、みんなの笑顔のためにサーカスを開こうとする……ステキなおバカさんのチカラになるためよ」
「……ありがとう、シルビアさん」
差し出された団長の手をシルビアが掴めば、団長は思いを込めるようにその手をぎゅっと握った。
「あなたが参加してくださるなら、最後の公演を開催できる気がしてきました!あきらめずに準備を続けます!」
「助っ人はアタシにまかせて、団長は準備に専念して。素敵な逸材を連れてくるわ」
……――と、団長に言ったものの。
「……え?サーカスの助っ人にならないかって?すまないが他を当たってくれよ。大樹が落ちて、明日は生きていられるかもわからないような不安な世の中なんだ。そんなのんきなことしていられないよ」
助っ人探しは難航していた。まず町に人が少ないし、良さげな青年に声をかけられるが、皆そんな風に断っていた。
手当たり次第ではだめね……とシルビアは考えながら、向かっているのはサマディー城だ。
せっかく来たのだから、ファーリスに会いに。
――が。
「申し訳ありません。サマディー王の命により、当面の間、お城への立ち入りはご遠慮いただいております」
「王子の恩人であるあなたさまとはいえ、お遠しすることはできません。どうかお引きとりを」
「それならしょうがないわね……。お坊ちゃんによろしくと伝えといてちょうだい」
門前払いを食らってしまい、早々にシルビアたちは引き返す。
デニスやランスは、城内を見学できず、残念そうな顔で城を見上げた。
「大樹が落ちてしばらくたった頃から、ファーリス王子はお城にこもりきり。まったくお姿を見てないの。王国中の有名な学者たちがお城に集められていることと、何か関係があるのかしら?」
城の前でそう教えてくれたのは、ファーリスファンクラブの彼女たちだ。
ファーリスは王子として、王と共にこの事態に対し、何か対策を考えているのかも知れない。
「ボウッ!ボウガンとは愛。ガンッ!あふれんばかりのボウガン愛。私は会いたい。ボウガンボーイに。ボウッ!……ボウガンガールは元気だろうか……。ガンッ!」
途中、ボウガン大好きボウガンマスターのユミルと出会したが、経緯を知らないシルビアは「ボウガンガール?誰のことなのかしら?」と、首を傾げた。
「異常しかなし!」
馬に乗って巡回している兵士のそんな声を耳にしながら、シルビアたちが次に向かったのは教会だった。
「サマディー王国の教会の神父さまは、高名なベテラン神父さまなのですよ。とても勇敢で、信仰心に厚い立派な方です。一度ごあいさつをと思っていたので、この町に来られて本当によかったです」
というイソムの言葉を聞き「ねえさん。願掛けも兼ねて、あっしらもおいのりしやせんか?」と、アリスの提案でだ。
教会でのおいのりはシスターが受け継いでおり、なんでも神父は、子供を魔物から守って大怪我をしたらしい。
イソムの話通り、とても勇敢な神父だと皆は思った。
今もなお怪我が完治していないが、椅子にひっそりと座る彼に、イソムは嬉しそうに挨拶をしていた。
(……あら)
おいのりを済ませ、教会から出ると、そこには先ほどいなかった青年がそこに立っていた。
サマディー兵士のようだが、肩から太鼓をぶら下げている。
「ああ、愛しいキミを笑わせるには、いったいどうすればいいんだろう……。どうか、僕の太鼓で笑顔を見せておくれ……」
憂いとは反対に、彼は軽やかに太鼓を叩いている。
この人の太鼓はなかなかの腕前だ。
ピンと来て、シルビアは青年をサーカスの助っ人に誘う。
「ねえ、太鼓を奏でるアナタ……――」
「……ええっ!僕をサーカスの助っ人に!?僕はもともとシルビアさんの大ファンだからうれしいけど……今はちょっとムリなんだ」
「理由を聞いてもいいかしら?」
シルビアの問いに、太鼓の青年は真剣な顔をして口を開く。
「大樹が落ちたあの日から笑顔を失った、愛しいあの子を笑わせるために、僕は太鼓の練習を続けなきゃダメなんだよ」
「まあっ、誰かの笑顔のためにがんばるなんて、とってもステキだわ!」
その理由を聞いて、シルビアはますます太鼓の青年を助っ人に引き抜きたくなった。
「ねえ、アタシにアナタのお手伝いをさせて。そして、もしその子を笑顔にできたら、サーカスの公演に参加してくれないかしら?」
「ほ、本当かい!?もちろんいいさ!あの子の笑顔が見られるなら、僕は助っ人だってなんだってするよ!」
シルビアの提案に、彼は喜んで話に乗った。
「僕の愛しいあの子は……肌が白くて、通った鼻筋に、しなやかな脚線美……それに、羽の衣装が最高に似合ってるんだ!」
じつに具体的な特徴を太鼓の青年は教えてくれた。
「今頃あの子は、町の北西で休んでいるはず。話を聞いてもらって、彼女を笑顔にするきっかけが見つかったらうれしいな……」
……とりあえず。太鼓の青年の言葉通り、シルビアたちは町の北西に向かうことにした。
「う〜ん。休んでいるというと、彼女は踊り子でしょうか」
「羽の衣装が最高に似合うとも言ってたな」
「きっと美人さんだろうな〜」
ランス、ドテゴロ、デニスが歩きながらそんな会話をしている。
「なんだか特徴的にはユリねえさんみたいな女性げすかね?」
「そうね。彼があんなにお熱なのだから、きっと素敵な女性で間違いないわ!」
町の北西は、パドックや馬房がある区域だ。
「大樹が落ちて、こんな世界になってしもうた以上、パパっと全財産を使ってやろうと思ったが、レースをやらないんじゃしょうがないのう。わしのように老い先短いじじいの楽しみさえかなわんとは、まったくなんてひどい世の中じゃ……」
どうやらウマレースは中止らしく、老人の嘆きの声が聞こえてきた。
「わわ!シルビアさんじゃないですか!その節はファーリス王子を救っていただいて、ありがとうございました!」
次にシルビアは、気さくに兵士から声をかけられる。
レース場を管理している兵士で、レースに出たシルビアも顔見知りの兵士だった。
「レース場が開いていたら、またあなたのレースが見たかったなあ!」
「レースが再開されたら、その時はぜひ参加させてもらうわ」
「わぁ〜!絶対ですよ!」
ウマレースの話を耳にして、アリスはあっと思い出した。
「シルビアねえさん。じつはねえさんと会う前にウマたちはここに預けていたんでがす」
大樹が落ちたあと、アリスも皆を探すので必死で、馬たちの世話をここの馬屋に頼んでいたのだ。
久しぶりに愛馬に会えると、シルビアは足取り軽く、馬房に向かう。
ファルシオン、オレンジ、マーガレットと並んでそこにいた。
マーガレットは、主人の姿に顔を向けるが、今にも泣きだしてしまいそうなほど、ひとみの色が悲しみに沈んでいる……。
「マーガレットちゃん……あなたもこの世界の異変を悲しんでいるの?相変わらず優しい子ね……」
シルビアは優しく首筋を撫でた。
「心なしか、白い毛並みもくもって……って!」
そこで何やら思いつき「どうしたんでげす?ねえさん」アリスはシルビアの様子に首を傾げる。
「……この白い肌?通った鼻筋?脚線美……羽の衣装が似合う……?」
……!?アリスもその言葉に気づいた。
「……まさかっ兵士ちゃんが愛するあの子って!」
「シルビアさ〜ん!!」
そこで、太鼓の青年の声が響いた。
「えへへ、いてもたってもいられなくって、愛しいあの子、マーガレットの様子を僕も見に来ちゃったよ!」
まさか、本当にマーガレットのことだったでげすか!?
アリスだけでなく、皆驚愕して、うっとりマーガレットを見つめる太鼓の青年を見た。
「おどろいた!アナタの笑顔にしたい子って、マーガレットちゃんだったの!?この子はアタシの愛馬……大切なナカ馬よ!」
「ええ!?シルビアさんの愛馬!?……なるほど!マーガレットの優雅さはシルビアさんゆずりだったのか!」
今度は太鼓の青年が驚いたが、すぐに納得した。
「この子はね、音楽やダンスが大好きなの。軽快なリズムで気分を盛り上げてあげれば、きっと笑顔を取り戻すはずよ♪」
「なるほど……でも、僕の太鼓だけじゃ彼女の心には全然ひびかないんだ……。いったいどうしたら……」
「ノンノン、アナタの太鼓はとってもステキ。それでも足りないなら……この旅芸人、シルビアにおまかせあれ♡」
シルビアは縦笛を取り出して、仲間たちは整列する。
「さあ、みんな!マーガレットちゃんに最高のセッションを聴かせてあげましょ!」
「はいっ!」
シルビアとバッチのセッションがかつてないグルーブを生んだ!
「ヒ…ヒ… ヒヒーン♪」
シルビアの愛馬、マーガレットは、とても楽しそうに笑っている!!
「……笑った、笑ったぞ!愛しのマーガレットが笑った!ありがとう!シルビアさんのおかげだよ!」
「いいえ、みんなのチカラがあったからこそよ。……ねえ、サーカスの舞台に一緒に立って、もっと多くの人を笑顔にしてみない?」
「……僕の太鼓がチカラになるなら、お約束どおりよろこんで!僕はバッチ。よろしくお願いします!」
太鼓の得意なサマディーの兵士、バッチがサーカスの助っ人を引き受けてくれた!
……勢いで物事が進んだ気がするが、何はともあれ一人目の助っ人をスカウト成功だ。
仲間たちも良かったと、顔を見合わせた。
「…………あっ!そういえばマーガレットがお礼にって、ステキなものをくれたんだ!これはシルビアさんが受け取っておくれよ!」
「……まっ、まあっ!なんてかぐわしい香り……っ!」
シルビアはうまのふんを手に入れた!
――陽も落ち、二人目のスカウトは明日にしようと彼らは宿屋にやってきた。
なかなかの大人数だったが、すんなりと部屋を取れたのは、やはり旅人はめっきり少なくなったらしい。
「住人も家に閉じこもっちゃてねえ。このサマディーが危険だという噂が流れて、引っ越しする者も多いのさ」
宿屋の女将はやれやれと最近のサマディー事情を話した。
(ディアナちゃんたちはどうしているのかしら?)
家族三人でこの町に住んでいるそうだが、まだいるのだろうか。
「シルビアさん。酒場に行かねえか?酒場は営業してるらしいが、客が入らなくて困っているらしい」
「そうそう。俺たちが飲み食いすれば酒場も助かるだろ?」
ドテゴロの言葉に、調子よくモレオが言った。久しぶりの酒を飲みたいだけだが、閑古鳥の酒場に客人はありがたいだろう。
夕飯も兼ねて、シルビアたちは酒場に向かった。
すると、噂とは違い、何やら入り口が賑やである。
「あの占いってホントに当たるのかしら」
集まっている人たちの声を聞くと、どうやら酒場に占い師が来ているらしい。
「酒場によく当たる占い師が来たって聞いて、仕事をさぼって見にきたんだけど、ずっとジャグリングをしてるんだよな。あの人、ホントに占い師かよ?俺たちと同業者に見えるんだけど……」
ジャグリングの占い師……?全員訝しげな顔をした。
ジャグリングをする占い師なんて聞いたことがない。
ただ一人、シルビアだけが「やだ。おもしろそうじゃな〜い」と、好奇心旺盛に中を覗く。
「この店にいる占い師はスゴイのよ!なんにも言ってないのに、あたしの仕事が踊り子だって言い当てたの!ジャグリングしてるだけに見えるけど、ホントはすっごい占い師なのよ!」
そう踊り子の彼女は力説しているが、彼女の格好を見れば、誰だって踊り子だと言い当てることができるのでは……と皆は思った。
「暗い世の中を明るく照らす、タマ占いはこちら!」
「ごきげんよう。良いウデしているじゃない?」
格好は占い師っぽいが、男は三つの玉を器用にジャグリングをしている。
「おや?あんた、人を探してるのかい?……なぜ、わかったのかって?フッフッフッ、何を隠そう俺は占い師なのさ!」
確かにまだシルビアは何も言っていないが、占い師は言い当てた。だが当てずっぽうの可能性があると、アリスは疑り深い目で男を見る。
「この3色のタマに念を込めれば、タマの動きで失せ物探しから、恋愛相談までなんだってわかっちまうんだぜ!」
恋愛相談!?と乙女な仕草で反応したシルビアに「シルビアさん。それより助っ人探しです」と、イソムは小声で言った。
「今は、大樹が落ちて苦しんでいる人たちの悩みを解決できたらと思って、この辺りの町を訪ねてまわってるんだ」
「まあっ、苦しんでる人たちのためにがんばるなんて、とってもステキだわ!」
この人はなかなか見込みがありそうだ。
シルビアはタマ使いの占い師を、サーカスの助っ人に誘った。
「ねえ、占い師のアナタ――……」
「……ええ?俺をサーカスの助っ人に?人を楽しませるってのも、悪くないが……あいにく俺にも占い師としての務めがある」
そこまで占い師は言って、何やら考えているようだ。
「……そうだな。だったら、このタマで決めよう!今からオレは、この赤青黄のタマのひとつに魂を込めて強くアタマに思い浮かべる……あんたは俺が思い浮かべているタマの色を、ズバリ当ててみてくれ!」
「……おもしろそうね。受けて立つわ!」
「見事タマの色を言い当てられたら、あんたを助ける運命だったってことだ!よろこんでサーカスの助っ人になるぜ!」
「アタシが外したら、すっぱりアナタのことは諦めるわね」
お互い了承し、にっと口角を上げた。
「それじゃあ準備はいいかい。俺の思い浮かべた魂のタマ……その色をズバッ当ててみな!」
シルビアは三色の回る玉を見つめる。
「タマよ〜タマよ〜タマさまよ〜!受け取りたまえからこの思い〜!赤く燃える炎のようなこの思い〜!ハァっ!」
……。赤く燃える炎のようなこの思い?
「……よし、これで準備はカンペキだ!赤青黄、3色のタマの中から俺が思い浮かべているタマを選んでくれ!」
「赤色のタマ!」
シルビアは間髪入れず答えた。
「赤いタマ……あんたの答えは本当にそれでいいんだな?」
ええ、と頷くシルビア。
「………………大正解!あんたの勝ちだ!俺が思い浮かべたのは、赤く燃える情熱の赤!バッチリ、俺の魂を見抜いてくれたな」
思いっきりヒントをくれたような気がするけど、無意識かしら……。
まあ、助っ人になってくれるならと、シルビアは気にしないことにした。
「あんたなら、俺の魂もタマも預けられる!サーカスの助っ人とやらもよろこんで引き受けさせてもらうぜ!俺はトンタオだ。よろしくな」
タマ使いの占い師、トンタオがサーカスの助っ人を引き受けてくれた!
「さてと、助っ人をふたり集めたでげすね!明日、サーカステントにいる新米団員さんに報告に行きやしょう!」
そのまま酒場で助っ人集め成功のお祝いと、サーカス成功の前祝いをし……夜更けまでシルビアたちは盛り上がった。