力を合わせれば

「ふいー。この辺りには火山が近いせいか、砂漠ともまた違う暑さがあるな……。この暑さでこの服はさすがにキツイぜ。アリスのアニキはいいよな。すごく涼しそうな格好をしてて……」

 袖を捲りながら言ったのは、トンタオだ。
 砂漠ではその全身を覆う服は、直射日光を遮る服だったが、ここ、ホムスビ山地は火山地帯のため、もわっとした熱気を感じる。
 
「うほー!この辺りには、あのゆうめいなヒノノギ火山があるんだよな!?オレ、本物見るのが夢だったんだ〜!」

 そうはしゃぐように言ったのは、デニスだ。もともとダーハルーネ付近の地域以外には行ったことがなく、火山も初めて見るという。

「火山ってなんだかロマンを感じるんだよ。オレもがんばって、ああいうでっかい存在になりたいもんだぜ〜!」
「この人助けの旅がひと段落してホムラの里に行ったら、オレはイッテツさんに謝りてえと思ってる。許してもらえるかわからねえが、それがけじめってもんだろ?」

 そう言ったのはドテゴロだ。ホムラの里はこの近くにあるので、この辺りを見回りしたらイッテツに会いに寄ろうと、シルビアは考えた。

「この辺りにとっても太鼓が上手い魔物が出現するって聞いたんだ。もしかして、僕より上手いのかな……よしっ!僕も負けちゃいられない、もっと練習しなくっちゃ!ドンドンドーン!ドンドンドーン!」

 バッチは気合いを入れて太鼓を鳴らす。
 魔物とはドラムゴートのことだろう。この魔物も凶暴化しており、以前より激しい音を立てていた。

「この辺りにも、前のオイラみたいにこまってる人がいるはずっすよね!シルビアさんがしてくれたように、今度はオイラがその人たちを助ける番っす!よーし!がんばるっすよー!」

 砂漠を越えてもまだまだ元気なパンチョ。
 他の皆も負けてはいない。イッテツのド派手な槍を掲げて歩く。
 そんな彼らの前に、困っている人……ではなく。
 
「スライムちゃん?どうかしたの?」

 様子がおかしいスライムと出会した。

「ピキー!に…人間さん……早くぼくから離れたほうがいいよ……」

 スライムはぷるぷると震えている。

「ぼく、わるいスライムじゃないのに、ここ最近、アタマの中でこわい声がひびいておかしくなっちゃいそうなんだ……」
「こわい声……?」
「うう……。あっちの方には、この辺りじゃ見かけない変な子もいるし、ぼくもどうにかなっちゃうのかな……」

 こわい声……。もしや魔王ではないかとシルビアは感づいた。
 魔物が凶暴化したのは、命の大樹が落ちて、世界に異変を起こしてからだ。

 その元凶は真の魔王となった、ウルノーガ。

 スライムが心配だったが、今の彼らにはどうすることもできず、スライムの助言通りに、そっと離れた。

 次に彼らが出会したのは、大きな花の魔物だ。

「ねえさん、さっきのスライムが言ってた魔物はあれのことじゃないでげすか」
「ええ、それに……人を襲おうとしてるわ!」
「シルビアさん!助けましょう!」

 迷いなくランスはシルビアに言った。いつの間にか頼もしくなった彼に、シルビアはフッと笑う。

「ぐううう……っ!ふしゃるるるぅ……っ!」

 花の魔物はなにやらひどく気が立っている。今にも暴れだしそうだ。

「ああ、こんな姿になってしまってかわいそうに……。落ち着いて、ほら、冷静に……」
「キミ!この魔物は私たちにまかせて……」
「……はっ、旅の方!もし、この植物を悪い魔物だと思っているなら、ストップです!どうかボクの話を聞いてください!」

 必死に魔物を庇う学者風の青年に、皆は武器を下ろす。それを見て、彼はほっと安堵した。

「この子、ホントは普通の植物なんです。こんな姿になる前は、ダーハラ湿原でひっそりと咲くキレイな花でした」

 普通の植物……!?改めて見るが、どこからどう見ても植物の魔物だ。

「けれど、荒廃した世界で枯れまいとした結果、突然変異をおこし、魔物のような姿となってさまよいはじめてしまい……」
「世界の異変は動物だけでなく、植物にも悪い影響を与えてしまったのね……」

 その時、植物に詳しく、心優しいセーニャの心を痛める姿がシルビアの脳裏に浮かんだ。
 双子の姉のベロニカは研究熱心なので、この突然変異がどういうものか、きっと興味を持つだろう。
 
「植物学者であるボクが発明した肥料をあげれば、この子も落ち着きを取り戻し、元の姿に戻ると思うのですが……その肥料を作るにはひとつだけ材料が足りないのです」
「材料?いったいなにかしら?もしかしたら持ち合わせているかもしれないわ」
「それは……」

 それは……?

「かぐわしい香りを放つ、うまのふん!」

 ……!

「本当はボクが取りにいければいいのですが、今ここから離れたら、この子は暴走し、道ゆく人を襲ってしまうかもしれません……。旅の方、お願いします!この子を元の植物に戻すため、ボクの代わりにうまのふんを取ってきてくれませんか!?」

 お安いご用とシルビアは笑う。

「大丈夫。おまかせあれよ、植物学者ちゃん。アタシたち、人助けの旅の途中なの。それにキレイな花はアタシも大好きだしね♪」

 なにより……

「かぐわしい香りを放つ、うまのふんなら持ってるわ!アリスちゃん!」
「へい!」

 アリスは袋から『うまのふん』を取り出した。

「さすがマーガレットのステキな落としものだ!人助け……いや、花助けの役に立つなんて!」
「「………………」」

 興奮ぎみに言うバッチとは反対に、他の者たちは複雑そうに苦笑いを浮かべている。

「このかぐわしい香りはまさに……!旅の方!それをボクにゆずっていただけませんか!?」
「もちろんよ!正直、扱いに……ゴホンッ。お役に立てるなら、マーガレットちゃんも喜ぶわ!」

 植物学者はうまのふんを使って、栄養満点の肥料を作ると、それを魔物化した植物与えた……。
 なんと、植物は落ち着きを取り戻し、どこかへ去っていった!

「ありがとうございます。効果はテキメンです!これであの子はダーハラ湿原に戻り、じきに元のおだやかな植物に戻るでしょう」
「うふふ。それはよかったわ。アタシたちの人助けの旅に、種族の壁はナッシング!人も植物も元気なのがいちばんだものね♪」
「はい!荒廃した世界で苦しむ植物たちをどうにか元気にしてあげたい……じつはそれこそがボクの夢なんです!」
「ステキな夢じゃない!アナタのその夢、応援するわ♪」
「……はっ、そうだ!」

 植物学者の青年は、何かに気づいて声を上げた。
 そして、真剣にシルビアたちを見る。

「あなた方と一緒なら、各地を巡り、もっと植物を助けられるかも……。その旅にボクも同行させてもらえませんか?」
「わかったわ。よろしくね、植物学者ちゃん。アタシもできることは手伝うから、アナタのチカラで植物を助けてあげるのよ」
「ありがとうございます!僕の名は、レンズ。チカラがないぶん頭脳で勝負!植物学者の底力、見せてやりますよ!」

 旅の植物学者レンズ。新たな仲間がひとり加わった!

 頭脳派が来たと、皆も歓迎だ。レンズも共に、ホムラの里方面に向かう。
(……あら。何かあったのかしら?)
 途中のつり橋の向こうで、何やら人が立ち往生しているのに気づく――。

「むむっ、何者だ!?何やら怪しげな連中め!里の者たちには用心棒であるこの私……武闘家コブシが指一本触れさせんぞっ!」

 いきなり身構えてきた武闘家コブシと名乗る男。シルビアは敵意かないというように両手をひらひらさせる。

「あらあら、落ち着いて武闘家ちゃん!アタシたはちはこの辺りを回って、元気の無い子たちを助ける旅をしているのよ」

 シルビアの後ろで仲間たちもうんうんと頷いた。

「なんと、こんな世の中で大胆不敵な!?」

 ……。大胆不敵?

「……うーむ、よく見ればウデも立ちそうだし、ただ者ではなさそうだ。ならばこれも縁……」

 コブシは神妙な顔をし、事情を話す。

「私たちは、ホムラという里の住人でな。世界に異変が起きてから、作物が獲れなくなり、食料を手にいれるため旅に出たのだが……」

 そこでコブシは言葉を切り、苦々しく顔を歪めた。

「里に帰る途中、凶悪な魔物に襲われ、やっとの思いで入手した食料をすべて奪われてしまったのだ!」
「お腹をすかせた里のみんなのために、遠路はるばる食料を手に入れてきたのに、全部魔物に奪われたの!ひどいわ!」
「世界に起こった異変により、私たちの故郷、ホムラの里でも食料が獲れなくなってな。みんなハラをすかしているのだ」
「やっとハラを満たしてやれると思ったのに、こんなことになるなんて……。ああ、みんなの食料が……」

 一緒に食料調達をしに行ったホムラの里の住人たちが、コブシに続いて次々と嘆くように言った。

「みんなの大事な食料を……許せないっす!」
「ああ、ひでえ魔物だぜ」

 シルビアの仲間たちからも次々と魔物への抗議が飛び交う。

「あなた方と一緒なら、あの魔物を倒し、奪われた食料を取り戻せるかもしれない。どうか、チカラを貸してくれないだろうか!?」
「そういうことなら協力するわ!みんなの食料を奪う魔物なんて、許せないもの!」

 おー!と仲間たちももちろん賛成だ。

「押忍!ありがとう、恩に着る!魔物との戦いには私もおもむこう!チカラを合わせれば、ヤツに勝てるはずだ!」
「その魔物はどこにいるのかしら?」
「ヤツはホムラの里の南側にいるはず。かなり手強い相手だからな……。しっかりと準備していこう」

 旅の武闘家コブシが同行することになった!

 コブシと共に食料を奪った魔物がいるとされる、南側に向かう。
 皆で懸命に集めただろう大量の食料を独り占めする魔物……

「デハハ、デハハ!また人間が来たど!おめえら食べるもん持ってたらわしに全部よこすだどー!デハハハ!」

 一つ目に、巨大なこん棒を持つ青い巨人――ギガンテスだ。

「こいつが食料を奪ったという例の魔物でがすな。ねえさん、準備はいいでがすか?」
「もちろん!みんな、いくわよー!」
「みんなのチカラを合わせてやっつけるでがすよ!」

 士気は十分に、彼らはギガンテスに戦いを挑む。

「回復は私にまかせてください!」
「オレの舟唄に……」
「僕の守りの太鼓を合わせて!ドンドン、ドドン!」
「オイラがこんしんのステップをおどるっす!」
「私があなたを守るので、シルビアさんは攻撃に集中してください!」
 
 イソム、デニス、パンチョ、バッチ、ランスは、味方をサポートする守備部隊だ。

「船乗りなめんな!」
「動かないで!」

 モレオとレンズは敵の能力を下げる攻撃を仕掛ける。
 レンズはどくがのこなを使い、ギガンテスは身体がしびれてうごけない!

「三枚下ろしにしてやるぜ!」
「燃えな、メラミ!」
「ほいやーでがーす!」

 そこにドテゴロ、トンタオ、アリスの攻撃が入る。

「あちょー!」

 猛追するコブシの蹴りも炸裂した。

「ふふ……アタシもみんなに負けてられないわね」

 ――かえん斬り!

 シルビアの炎のまとった剣が、華麗にギガンテスに振り落とされる。
 一方的に攻撃を受けて、ギガンテスはゾーンに入った。
 そこから、放ったランドインパクトは、周囲の地面をも粉々に破壊する衝撃波に――。

 ちっぽけな人間の彼らは、為す術もなく攻撃を喰らった。

「う……」
「なんだっ、今の……」
「つええ……」

 巻き込まれて地面に伏した仲間たち。弱音も聞こえてきた。

 その中で、ひとり立ち上がるシルビア。

 こんなピンチ、何度も訪れて、その度に何度も越えてきた。

 ――そうよね。みんな。

「みんな!この程度で諦めちゃだめよ!アタシたちはまだ負けてないわ!ほ〜ら、ハッスルハッスル♪」

 シルビアのハッスルダンスは、元気だけでなく、彼らに勇気を与える。

「……へへ。オレとしたことが、一瞬ダメかもしれねえなんて思っちまった」
「大丈夫だ、親分。俺もだからさ」
「ドテゴロ一味の真の恐ろしさをあの魔物に味合わせてやろうぜ!」

 ドテゴロ、モレオ、デニス――。

「神よ……恐怖に立ち向かい、戦う我らをお見守りください……」
「大丈夫さ、神父さん。俺のタマは、この戦い……必ず俺たちが勝つって言ってる」
「トンタオさんの占いは当たりますからね。さあ、皆さん。もう一度、チカラを合わせて戦いましょう。今度はちゃんと私が皆さんを守ります!」

 イソム、トンタオ、ランス――。

「すごいっす……!シルビアさんのハッスルダンス!もりもり元気が出てくるっす!」
「さすがシルビアさんだ……!よーし、僕たちも負けてられないよ、パンチョくん!」

 パンチョ、バッチ――。

「あなた方は大胆不敵だけでなく、気炎万丈の精神を持ち合わせているのか……!」
「僕も先ほど仲間になったばかりですが、皆さん、お強いですね……。皆さんの足だけは引っ張らないように頑張らないと……!」

 コブシ、レンズ――。

「?アリスちゃん、なにしてるの?」
「すいやせん。今の敵の攻撃でマスクが破けちまって……予備があってよかったでがす」
「んもう。アリスちゃんは可愛い顔してるのに、恥ずかしがり屋さんなんだから」
「いえ、可愛い顔はしてないでげす」

 アリス、シルビア――。
 全員、再びギガンテスに立ち向かう!

「しぶとい人間たちど!」
「僕にまかせてください!」

 こん棒を振り回すギガンテスに、レンズは火炎草をまぜたとくせい農薬をあたりにまいた!

「あちちっ」

 ギガンテスは飛び上がりながら、こん棒を落とす。

「やるじゃねえか!新入り!」

 ドテゴロの称賛の声に、レンズは嬉しそうにぺこりと頭を下げる。

「私も得意の武術で全力を尽くそう!」

 スーハーと呼吸をし、力を溜めるコブシ。

「武闘家ちゃん!アナタのこんしんの一撃、叩き込んで!」

 シルビアはコブシの両手を掴むと、ぐるんぐるんと回り、回転力をつけてコブシを宙に投げた!

 こんな風に力を合わせる連携は、マルティナを思い出す。
 マルティナもロウも、武術の達人であった。

「ファイト――!」

 落下するコブシは、そのまま頭上からギガンテスに渾身の一撃を叩き込んだ!

 その場に倒れるギガンテス。

「お楽しみ、いただけたかしら?」
「やったぁー!勝ったぞー!」

 皆の歓声が湧き起こる。

 ギガンテスを倒し、里の住人によって食料は、無事にホムラの里へと運ばれた。


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