シルビアの世助けパレード

 イソムが仲間の手当てをしている最中、コブシはシルビアに手を差し出した。

「一緒に戦ってくれてありがとう。シルビア殿の強さ、そして何よりも……」

 シルビアはその手を握りしめる。鍛練を怠らない、武人の手だ。

「危険もいとわずに、こまっているひとを助けてくれるその器の大きさ……。本当におそれいった」
「武闘家ちゃんも、最後の一撃見事だったわ」
「私は武闘家のはしくれとして、多くの人を守れるようもっと強くなりたい。あなたの旅に同行し、修行させてくれないか?」

 笑顔を向けるシルビアの答えはもちろん。

「わかったわ、武闘家ちゃん。修行して、もっと強くなってこまっている人を守ってあげなさい」
「押忍!ありがとう、シルビア殿!私もあなたのように強くなってみせる!どうかよろしく頼むぞ!」

 熱血武闘家、コブシ。新たな仲間がひとり加わった!

「いやあ、ずいぶん仲間が増えたなあ。これなら俺なんかいなくても、十分人助けができちまいそうだ……なーんてな。冗談だよ、シルビアさん。あんたが旅を続けるってんなら、俺はどこまでも一緒に行くからさ」
「シルビアさん、次はどこへ行くんだい?オレもあんたが行くところならどこへでもついてくぜ〜!」
「ここまでたくさんの人を助けたよね!この調子でがんばっていこう!ドンドン、ド、ドーン!!」

 怪我の治療も終わり、新たな仲間を加えての出発に、モレオとデニス、バッチが次の目的地の話をする。

「ダーハルーネの町からここまでたくさんの人を助けたし、そろそろホムラの里に行くんだろ?ホムラの里に着いたら、オレはイッテツさんに謝りてえと思ってんだ。あの人にはひでえことをしちまったからな。許してもらえるかわからねえが、それがけじめってもんだろ?」

 この地に着いてから、ドテゴロが気にしていたことだ。

「あっしも賛成でがす。助けが必要そうな人は、ここいらにはもう見当たらなそうでげすし、いやーさすがはシルビアねえさんだ!イッテツさんと約束したように、ホムラの里に行ってみやしょうぜ!」

 ドテゴロに同意するように言ったアリス。そこにパンチョも加わる。

「いいっすね!人助けの旅、おつかれサマディーっす!オイラ的にはここまでかなりがんばったなーって思うっすよ!そろそろ旅は休憩にして、ホムラの里で休みましょう!」
「確かに……イソムさんに治療をしてもらいましたが、強敵と戦いましたし、休憩も大事ですね」

 パンチョのあとに賛成だと話すのは、ランスだ。
 
「ホムラの里に無事たどり着いて、イッテツさんって人に会えたら、また人助けの旅をがんばりましょう!」
「ああ。次の目的地をどこにするべきか占ったら、ホムラの里ってとこを目指すべきだと俺のタマたちは言ってるぜ」

 トンタオは最後に「まあ、最後はあんたが決めてくれ。俺たちはどこへ行こうとシルビアさんについていくからよ」そうつけくわえて言った。

 次の目的地は、満場一致だ。

「みんな、ホムラの里に行くわよ!」
「イッテツさん、無事に里について元気にしているといいでがすね〜!」

 ホムラの里へ――。

 イッテツとの再会にも楽しみにしながら、シルビア一行は山の方へ歩いていく。

「悩める人々を助け、笑顔にしたい……それを共におこなえる同志にこんなにも恵まれる日が来るとは……。それもこれも、シルビアさんが私を助け、仲間に入れてくださったおかげですね。ありがとう、心から感謝しています」
「ウフ、いきなり褒められたら照れちゃうわ」

 11人の賑やかな道中に、歩きながらイソムがシルビアに言った。

「ボクは昔から人としゃべるのが苦手で、植物しか友達がいなかったんです。まさか、こんなにたくさんの人と楽しく旅ができるようになるなんて……。ウソみたいにうれしいです」
「私も今までひとりで武者修行をしてたから、これからの旅が楽しみだ!」
「レンズちゃんもコブシちゃんも、楽しいと思ってくれて、アタシもうれしいわ」


 ――どこか懐かしさのある、ホムラの里に到着した。
 さて、まずはイッテツちゃんを探さなきゃねと里を見渡すシルビアだったが、その必要はないようだ。

「ハロ〜♪イッテツちゃ〜ん!」
「……シルビアさん!よく来てくれたな!」

 その姿をすぐに見つけたからだ。

「お元気そうね、安心したわ。もしかして、そちらのマダムは……?」

 イッテツは隣の老女に頷くと、彼女は一歩前に出て、挨拶した。

「あなたがシルビアさんなのですね。私がイッテツの母です。この度は、本当にありがとうございました」

 そう話すイッテツの母親は、気持ちが込み上げたのか、腕で顔を覆う。

「命の大樹が落ち、世界が闇におおわれ……もう息子とは会えないのではと、不安と恐怖におびえて過ごしておりました。こうして、息子とふたたび出会えたのは、シルビアさん、あなたのおかげです」

 イッテツとイッテツの母親は、幸せそうに微笑みあった。

「シルビアねえさんが通った道には、次々と笑顔が咲いていく。……まるで笑顔のパレードでげすな」

 その二人を見て、何気なくアリスが言った言葉。

「笑顔のパレード……ステキじゃない!」

 シルビアの頭の中で、今まで考えていたことが、一つのアイデアとなって生まれた瞬間だった。

「みんな、聞いてちょうだい!」

 振り返り、シルビアは仲間たちに話す。

「この世界は今、光を無くした真っ暗闇よ!……でもね。人助けの旅の中で、みんなの笑顔を見ているうちにわかったの!」

 それは、きっととても単純なことだった。

「暗闇の中で、自分の無力さにヒザをついても、明日が見えず、泣きだしそうになっても……たったひとつの笑顔が未来を切りひらく!!」

 笑顔の大切さを、自分はもっと前から知っていたのに――。

「この世界に必要なのは笑顔!そして、みんなに笑顔を届けるのが……旅芸人、シルビアの役目よ!」

 おお!と返事をする皆の中で、ドテゴロが挙手のように手を上げた。

「シルビアさん……いえ、シルビア……オネエさま!アタシにもお手伝いさせてちょうだい!」

 …………!?

「お、親分……?」
「ん?親分さん、そのしゃべり方……。
……そうか、尊敬する人に一歩でも近づくために、ねえさんになりきるつもりでがすね!」

 ……なるほど!

「さすがは親分、いい考えだぜ!オレ……いいえ、アタシもオネエさまと一緒に行くわ!」
「オイラ……ううん、アタシも!」

 それにデニス、パンチョ……次々と他の皆も続く。
 シルビアは感動して、目に涙が浮かびそうだ。

「ありがとう……ありがとう、みんな!今日からアナタたちはアタシの仲間……そう、大切なナカマよ!!」

 シルビアねえさまのナカマ!

 皆は仕草もシルビアのような乙女ちっくになって、きゃっきゃっと喜びあった。

「アタシたちは世界中の人々を笑顔にして、暗い世界を照らす、希望の光になるの!名付けて……」

 名付けて……全員がシルビアの次の言葉をワクワクしながら待つ。
 
「名付けて!シルビアの世助けパレードよ!!」
「キャ〜!オネエさまナイスアイデア〜!」

 その場に黄色い悲鳴が飛び交った。

「……シルビアさん!」

 その背中に、イッテツの母親が声をかける。
 振り返るシルビアに、頭を深く下げる彼女の姿が映った。

「……息子を、よろしくお願いします」
「イッテツちゃん……?」
「俺……ううん、アタシも一緒に行くわっ!」

 鍛冶職人、イッテツも仲間に加わった!

「これは、アタシとママからの感謝の気持ちよ!……どうか受け取って!」

 ………………

「オネエさまの世助けパレードを彩るラブリーでクールなおみこし!……いっちょあがりよっ!」

 イッテツとイッテツの母親による超高速で造り上げた、これまたド派手なおみこしがバンッと現れた。
 白馬や星や羽をあしらい、華美な装飾の飾り付けは、シルビアのイメージそのままだ。
 きゃあ〜とその場から歓声が上がる。

「すげぇ……」

 アリスだけはぽかーんと見上げていた。
 どうやってこんな大きく凝ったおみこしを、一瞬で造り上げたのか。
 謎過ぎるが、一つだけわかったことがある……。
 このデザインは、シルビアをイメージしただけでなく、イッテツのもともとの趣味だ。絶対。

 アリスが確信していると、モレオとデニスが何やら顔を見合わせていた。

「アタシたちも、オネエさまにお礼がしたくって、道すがらこっそり作っていたの!……感謝の気持ちを受け取って!」

 代表して、モレオはシルビアに"感謝の気持ち"を渡す。それを受け取ったシルビアは、さっそく着替えた――

「みんな、アタシのために……ありがとう」

 赤をメインに背中には羽をたくさんついた、パレードの衣装だ。

「シルビアねえさん、泣くのはまだ早いでげす!ほら、みんなが待ってるでがすよ」

 涙ぐむシルビアにアリスが促す。シルビアはとぅっと高く跳ぶと、パレードの上に着地した。

「世界に〜〜〜」

 ドコドコドコ……バッチが太鼓を鳴らす。

「笑顔を取り戻す!!」

 びしっとポーズを決めるシルビア。

 シルビアだけでなく、全員お揃いの衣装に着替えたナカマたちもだ。
 さらには真ん中にアリスも立ち、両腕を曲げて筋肉ポーズで決めた。

 何がなんだかわからないけど、ホムラの里の住人たちは拍手を送る。

「エルシスちゃん……みんな。……きっと生きてるわよね」

 ホムラの里は、エルシス、ユリ、カミュの三人が、ベロニカとセーニャに出会った場所だと――思い出す。

「ふたたび会える日まで、アタシがんばるわ!」

 彼らの思い出深いこの場所で、希望という名の決意を胸に抱くシルビアだった。


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