旅立ちのほこらに向かうため、三人はデルタコスタ地方の平原を走っていた。
岩崖の間に入ると、そこは小さな森になっているらしい。
その森の中で、彼らは不思議な出会いをした――。
「たいへんだッチ!たいへんだッチ!」
森に入ってすぐ。
そんな声がどこからか聞こえた気がして、エルシスとユリは辺りをきょろきょろと見渡す。
「?どうした?エルシス、ユリ」
「いや、なんか変な声が……」
「うん、「たいへんだッチ!」って」
声まねをするユリに、カミュは怪訝そうに眉を寄せる。(たいへんだッチ?またこいつは変なことを言ってるのか?)
そう思ったのだが、どうやらエルシスにも聞こえているようで。彼らより耳が良い(気配にも)と自負するカミュは首を傾げた。
「このままじゃヨッチ族がたいへんッチ!誰かに助けてもらいたいけど、誰もオイラたちが見えないッチ!」
さっきより声が近くなる。エルシスはふと視線を下げた。
「もう、どうしたらいいか、わからないッチ!ホントにピンチッチ!」
…………………いた。
それはエルシスが時々見る不思議な生き物?にそっくりで、丸くて小さくて白い生き物?だった。
丸い黒い目に、鼻なのか口なのか同じく黒いものが間についている。
彼らは村や道や、岩の上だったり……いたる所で見つけたが、どうやら見えているのは自分だけらしく、エルシスはずっと不思議に思っていた。
だが、見た目の愛嬌さと、しゃべらない触れられないと無害な存在なので、エルシスはあまり気にしていなかった。
今では当たり前の存在で、妖精みたいなものかと思っている。
しかし、今目に映るその生き物はしゃべって、何やら背中に鞄を背負っている。可愛い。
さらに驚いたのは――
「わあ……なにこのヒト!?可愛いね、森の妖精?」
ユリにも見えていることだった。
今まで自分以外が見えてた人をエルシスは知らない。デルカダールの城下町にも見掛けたが、皆素通りをしていたし。
カミュには見えないらしく「ついにユリがおかしくなったか!?」と、わりと本気で心配している。
「えっまさかオイラが見えるッチ!?」
妖精?はユリに話しかけた。
意志疎通ができることに、エルシスはさらに驚く。(しゃべっているから当然といえば当然?)
「うん、見えるよ」
「すごいッチ!とうとうオイラが見える人を見つけたッチ!」
妖精?は身体に対してはちょっと長い手を上げて喜んでいる。可愛い。
「オイラが見えるってことはあなたユーシャさまッチね!やった!とうとう見つけたッチ!」
「ううん。勇者さまはこっちのエルシスだよ」
ユリに紹介されてエルシスは「一応、勇者の生まれ変わりと呼ばれてます」と、妖精?に何故か敬語で挨拶した。
カミュは「エルシスまで変なこと言いはじめた……?」といよいよ本格的に二人を心配しはじめる。
彼には何もない所に二人が話しかけているしか見えないのだ。
「なんと!ユーシャさま以外でオイラが見えるとは驚きッチ!不思議なお嬢さんだッチ!」
妖精?は表情は変わらないが、声と身体の動きで感情を表現してる。可愛い。
「あなたがユーシャさまッチね。はじめまして、ユーシャさま!オイラはヨッチ族のクルッチだッチ!いきなりだけど、お願いがあるッチ!」
「お願い?なにかな?」
「オイラたちヨッチ族のピンチを救ってほしいッチ!どうか、お願いしますッチ!」
クルッチはそう身体を折り曲げてお願いした。
「エルシス、力になってあげようよ」
「うん、そうだね」
「やったッチ!ユーシャさまならそう言ってくれると信じてたッチ!」
そこで「なあ」とカミュがいい加減、二人に話しかけた。
「さっきからお前たちは誰と話してるんだ?」
察しが良いカミュは、何か二人にしか見えないモノと話しているのではないかと検討がついたらしい。
ユリがクルッチの存在を説明する。
「このぐらいの白くてまあるいクルッチが、なんだかピンチだから、私たちが助けてあげようって……」
「……。すまん、全然わかんねえ」
難しい顔をするカミュ。
エルシスも、ユリが説明した以上にうまく説明できる自信がない。
「じゃあさっそくユーシャさまたちを村へ案内するッチ!それでは、ヨッチ村に出発シンコーだッチ!」
クルッチがそう言うと――……
気づけば三人は、森は森でも見知らぬ森の中に立っていた。
「どうなってんだ!?いきなり目の前に村が現れたぞ!」
カミュが驚く。彼だけでなく、エルシスとユリも驚く。
「見て!クルッチみたいのがたくさん!可愛いね。ここはクルッチたちの村なのかな?」
ユリがはしゃぐ声を上げ、あれが……と、今度はカミュにも見えた。
ユリが説明した通り、確かに小さくて白くてまあるい生き物?だ。
「あなたもユーシャさまの仲間ッチね!言ってなかったけど、ヨッチ村には不思議なチカラが満ちていて……村の中だけは普通の人でもオイラたちヨッチ族の姿が見えるッチ!」
クルッチはカミュを見上げて言う。
「……んっ?ヨッチ村?ヨッチ族?いきなりそんなこと言われてもなんのことかわかりゃしねえ。話があるなら、ちゃんと相手が分かるように説明しやがれ」
クルッチ相手にもカミュは容赦ない。
正論ではあるが。
「……えっと、じゃあ説明するッチ!オイラたちが住むこのヨッチ村は、ロトゼタシアとは時の流れがちがう全然別の場所にあるッチ!時の行く末を見守る一族……オイラたちヨッチ族はある使命を果たすため、ずっとここで暮らしてたッチ!」
「ひとまず、ここはオレたちがいた世界とは違う世界ということになるのか?」
カミュが確認するように聞くと。
「そうだッチ!良かったら、ユーシャさまのお仲間の、不思議なお嬢さんと青いお兄さんのお名前も教えてほしいッチ!」
ユリとカミュは、クルッチに名前を教えた。
「ユリ嬢さまとカミュッチさまっていうッチね!よろしくッチ!」
「っおい!オレだけお前の口ぐせと混ざってんぞ!?」
つっこむカミュの隣で、エルシスとユリが爆笑している。
「カミュッチ……!!」
「響きが可愛いねっカミュッチ!」
「あっオイラ、ユーシャさまたちのことを長老さまに教えないといけなかったッチ!だからここから先は長老さまに聞くッチ!長老さまは村の階段をのぼった先にある祭壇の間にいるッチ!じゃ、オイラは先に行ってるッチ!」
「あっ待て!訂正しやがれ!」
クルッチはカミュが引き留める前に、スタタタタタとどこかへ行ってしまった。
「……………。おい、お前らはいつまで笑ってんだ」
「ごっ…ごめん、カミュ」
エルシスは涙を指先で拭いながら答える。
久しぶりにこんなに笑った。
「違和感ないからクルッチも気づいてないのかも」
ユリはいまだにクスクスしている。
カミュは顔の半分を手で覆い、ため息をついた。
小さい頃につけられたあだ名「青色ハリネズミ」よりはマシ…………いや、どっちもどっちだ。
「……まあ、とにかくアイツが向かった祭壇の間に行ってみようぜ」
気を取り直してカミュは言った。
村は奥に滝が流れていたり、光る花が咲いていたり、不思議な雰囲気が漂っている。
だが、宿屋があったり酒場があったりと、自分たちの村ともそんなに変わらないようにも見えた。
クルッチの言うように、奥の階段を上がると、それらしき建物があった。
三人は中へと入ると、そこはまるで大きな図書館のような場所。
「長老さま見てくださいッチ!ユーシャさまが来てくれたッチ!」
出迎えてくれるクルッチの後ろには。
髭が生えた、いかにも長老というヨッチ族がいた。
「勇者さま、ようこそヨッチ村へ。わしはヨッチ族の長老、ジョロッチですじゃ。わしらはある使命を果すために、勇者さまを探していたのです。まずは周りにある祭壇をご覧くたざれ」
ジョロッチの言葉に周りを見ると。
そこには計十個の祭壇があり、その上には本が置かれている。
だが、その本たちはすべてボロボロだ。
「それぞれの祭壇にあるのは冒険の書ら。それには異なる世界に生きた伝説の勇者の功績が刻まれております。我々、ヨッチ族に与えられた使命はこの冒険の書を守り、正しい勇者の功績を後世に伝えること……。そのために、我らヨッチ族はこの祭壇の間で冒険の書を大切に保管し、ずっと守ってきたのですじゃ」
長老の話はすぐには理解しがたいというほど摩訶不思議な話だった。(別の世界の勇者か……)
「……しかし、見ておわかりになる通り、最近何者かによって、冒険の書が破られたり黒く塗りつぶされておるのです。いったい誰がこのようなことをしたのかはわかりませんが、とにかくこのままでは冒険の書の正しい歴史が失われてしまいます。そこで勇者さまには冒険の書の世界の中に入り、冒険の書を元の姿に戻してほしいのですじゃ」
「冒険の書に入る……本の中に入るってこと?」
「本の中に入るなんて、素敵!」
「まさに夢物語だな」
三者三様に思うなか、ジョロッチは詳しく説明する。
なんでも冒険の書に入るのには合言葉が必要らしく。その合言葉は、ロトゼタシアに探しに行ってる他のヨッチ族に聞けば手に入るらしい。
広いロトゼタシアで、ヨッチ族の見える自分とユリで探すのはなかなか骨が折れる作業だとエルシスは思った。(…あれ?なんでユリはヨッチ族が見えるんだろう?)
ヨッチ村とロトゼタシアの世界は時間が違うので、いつでもいいとジョロッチは言った。
「それではさっそくですが、あちらの祭壇を調べ、冒険の書の世界で何が起こっているか確かめてきてくだされ」
続いてエルシスは、クルッチに合言葉を教えてもらい、物は試しで三人はさっそく冒険の書へ入ることにする。
本に触れて、合言葉を言えば、途端に石碑は光り――……
「ここが冒険の書の世界……?本の世界とは思えない。もっと夢の中にいるようなふわふわした感じかと思った――」
ユリは冒険の書の世界を見渡す。
気づけば、三人は町の中に立っていた。
「へぇ……ここが冒険の書の中の世界……クルッチが言ってたガライの町か。なんだかとんでもねえ場所に来ちまった気がするな」
「うん…!まさか、僕ら違う世界にいるなんて」
「ここで昔何があったかは知らねえが、時間は気にしなくていいって言ってたし……今は冒険の書の中の世界をとことん楽しむか!」
カミュの言葉にエルシスもユリも賛成した。
まずは散策しようと歩くが、すぐに町の様子がおかしいと、三人は気づく。
「……誰もいない。代わりに魔物がこんなにたくさんいるなんて……」
エルシスは剣を構えながら言った。
町の中にいるにも関わらず、うようよしている魔物たち。
だからなのか、住人の姿がひとりも見当たらない。
幸いにも魔物はスライムなどが多く、倒すのには問題ないが。
「町に人がいないって、こんなにも不気味なんだね……」
ユリが怪訝な表情で呟いた。
「魔物に壊滅されたのか?町は荒らされた形跡はないが……」
カミュが町を観察しながら言う。
しばらく歩くと、町の端で老人を見つけた。
墓守だと名乗った老人は、何故こうなったのか。三人に町の現状を話してくれた。
「おお、旅のお方、聞いてくださいまし。ここは偉大な吟遊詩人ガライの名を継いだ昔ながら語りの町。先日、急に魔物がやってきましてな。ガライの墓に忍び込んで、彼の遺品の『ぎんのたてごと』を盗みよりました」
「ぎんのたてごと……?」
聞き返すエルシスに、墓守の老人は頷き、話を続ける。
「『ぎんのたてごと』はただの遺品ではありませぬ。ひと度かき鳴らせば、音色で魔物をひきよせるあやかしの品。魔物はこの町でぎんのたてごとをかき鳴らし、とめどなく町に魔物を呼び寄せてまして……。町の者はみんな逃げてしまいました」
「だから町には住民がいなくて、代わりに魔物たちがいたのね……」
納得とユリは呟いた。
「このままでは町は滅びてしまいます……。どうか『ぎんのたてごと』を盗んだ魔物を倒し、町に平和を取り戻してくれませんか?」
墓守の老人の願いに、もちろんと三人は頷く。
「おお、ありがとうございます!『ぎんのたてごと』を盗んだ魔物めはこの町のどこかにひそんでおります。町の中では、たてごとの音色に引き寄せられた魔物であふれ返っていますからご注意を」
最後に「ご武運をお祈りしています……」と、墓守の老人は身を案じる言葉を彼らに贈った。
「さっさとその魔物を見つけて、『ぎんのたてごと』とやらを取り返してやろうぜ」
カミュの言葉に二人は元気よく返事をし、町を探索する。
そこまで広くない町だ。
すぐに見つかるだろうと思っていた三人だったが――。
「こんなに探しても盗んだ魔物が見当たらないなんて……もう町から出て行っちゃったんじゃ……」
そう簡単にはいかないようだ。エルシスが疲れた声で言うように、ずっと町中を探し回っているのに、一向に見つからない。
出没する魔物は弱いのだが、墓守の老人の言葉通り、エンカウントが半端ない。
三人がうんざりしていたところ、現れたフォンデュというオバケのような魔物たち。
奴らは出会い頭にイオを唱えてきて、ちょっとピンチになりかけた三人は、回復がてら小休憩を取っていた。
「他に探してない所、あるかな……?」
ユリがはあとため息まじりに言う。
彼女がため息なんて珍しい。
「いや、町の隅々まで全部探した。あとは……隠し扉とか隠し通路とかでしか行けない場所とか……」
「また探し回るのは結構しんどいな……精神的に」
カミュの言葉に、エルシスも珍しく弱音を吐く。
「一度、冒険の書から出るって方法もあるぜ。本の世界なら時間も違うだろうし」
「う〜ん…それもなぁ……」
エルシスはどうしようかと悩む。体力的には問題はないのだが。
「こんなに魔物がいるってことは『ぎんのたてごと』をかき鳴らしたってことで、やっぱりその魔物はこの町にいると思うけど…………わっ!」
ユリが壁に寄りかかった途端。
あるはずの壁がなく、そのまま仰向けに地面に倒れた。背中を打って地味に痛い。
慌てて二人が駆け寄ってくる。
「おい、大丈夫か?」
カミュの手を借り「いたた…」と彼女は立ち上がる。
「これ、隠し扉だ……やったね、ユリ!」
回転式の隠し扉を見ながら、エルシスが言う。
「じゃあ、この先に……」
「ああ、きっとそうだ。行くぞ!」
三人は隠し扉を通り、町の裏手を進んだ。
「ガハハ!こいつぁいいや!この『ぎんのたてごと』をかき鳴らせば、客がどんどん集まってきやがる!」
「……見つけた!その『ぎんのたてごと』を大人しく返せ!」
緑色の太鼓をかかえた魔物に向かってエルシスが叫んだ。
手には彼らが探してきた『ぎんのたてごと』をしっかり持っている。
「……お!なんだなんだ人間の客か。お前もオレの歌が聞きたくて来たのか?……なんだって?『ぎんのたてごと』をかえせだと!こんな夢のような楽器返すもんか!」
すると、唐突に魔物は身の上話を始める。
どうやらワケありらしい……。
「オレはドラムゴート族のはみだしもん……。生まれつきオンチで誰もオレの歌なんか聞いちゃくれなかった」
「……魔物でもオンチとかあるんだね」
「すげえどうでもいいな」
ユリの言葉に続き、呆れ声で言うカミュ。
「どんな理由があろうと墓荒らしはだめだし、町の人に迷惑をかけてはだめだ」
対してエルシスは真面目に魔物に言った。
「だが、この『ぎんのたてごと』があればオレの歌を聞かせる客に困ることはねえ!毎日毎晩リサイタルしてやるぜ!ジャマするヤツは容赦しねえ!オレさまのタマシイノビートその身に刻みやがれ!ウガアアアン!」
そう叫び、魔物――ウガーンは三人に襲いかかってくる。
なんとなく弱そうだなと、今までの戦いで培ってきた経験から思いながら三人は戦う。
やっぱりウガーンは弱かった。
「なかなかやるな……!だが、『このぎんのたてごと』をかき鳴らせば、魔物たちが無限に応援にくる!エンドレスリピートかましてやるぜ!!」
そう言ってウガーンは『ぎんのたてごと』をかき鳴らそうとするが…………
「あれ……?『ぎんのたてごと』が無いぃ……!!……!!……!?」
今まで手元にあったのにとウガーンは必死に探す。
「お探しのモノはこれか?」
カミュがニッと笑って、自分の手の中にあるものをウガーンに見せた。
カミュは『ぎんのたてごと』を盗んだ!
「さすがカミュ!」
「あとは倒すだけね!」
エルシスとユリが、ウガーンを見据えながら言う。
「てめぇ、オレの『ぎんのたてごと』を盗みやがって!!もう許さねえ!!」
そうウガーンはめちゃくちゃに太鼓を叩いて、怒るが。
「お前のじゃ……っ、ないだろう!!」
エルシスの一撃が決めてとなり、あっけなく倒れた。
「おお、旅のお方。『ぎんのたてごと』を取り返してくれたのですね。ありがとうございます」
取り返したというか、盗み返したというか。
墓守の老人に、エルシスは『ぎんのたてごと』を渡した。
「魔物におびえて逃げてしまった町の人々もこれで戻ってきましょう。さあ、こちらは私からのお礼です」
エルシスは『きんのブレスレット』を受け取った。
「この『ぎんのたてごと』は元通りガライの思い出と供に、墓の奥深くに戻しておくとしましょう。旅のお方。あなたのおかげで『ぎんのたてごと』を後世に残すことができます。本当にありがとうございました」
無事、町の平和に取り戻し、三人は元の世界に戻ることにする。
「ユリ、そのきんのブレスレット装備してみたら?ユリに似合いそうだ」
エルシスの言葉にそうかなとユリはそれを眺める。
「前にお礼にもらったきんのネックレスは炉銀にしちまったからな」
そういえば、ナプガーナ密林への準備のために売り払ったんだっけ……とエルシスは思い出した。(すでに懐かしいなぁ)
「じゃあ、お言葉に甘えて私つけてみるね」
そう言ってユリはきんのブレスレットを手首にはめた。
華奢なユリの手首には少し大きいが、よく似合っていると二人は思った。
最初に立っていた場所に行けば、三人は祭壇の間に戻って来れたようだ。
「おお、勇者さま、お戻りになりましたか!」
エルシスは冒険の書の世界のことをジョロッチに話した。
「なんと!冒険の書の世界のガライの町が魔物に襲われていたですと!?」
驚くジョロッチは「う〜む……」と考え、やがて口を開く。
「これはわしの予想ですが……おそらく冒険の書がけがされたことで、中の世界の歴史が書き変えられたのでしょう。書き変えられた歴史を元に戻すには、冒険の書の世界で困っているヒトの頼みを聞き、解決すれば良いのではないでしょうか」
つまりは人助けということだ。
「僕たちと違う世界とはいえ、困っている人は放っておけないしね」
「色んな世界に行けて楽しそうだしね」
「まあ、旅の間で良いみたいだから、気楽に解決しようぜ」
長老の言葉に三人は思い思い口にする。
「勇者の功績を伝えるというヨッチ族の使命は、あなた方の活躍にかかっております!」
最後にジョロッチは、三人に向き合い、改めてお願いをした。
「よろしく頼みましたぞ、勇者さま!ユリ嬢さま!カミュッチさま!」
「おい」
――オチも決まったところで、三人は元の森へと帰って来た。
「あっ」
「今度はネクタイつけてる!」
どうやら違うヨッチ族がそこにいるらしい。
ここではカミュには見えないので、ユリが通訳をしてくれるという。
「おかえりなさい、勇者さま方。どうやら長老の頼みを聞いてくれたッチね。ありがとうッチ!これからよろしくッチ!」
これを話しているのは通訳のユリである。ちゃんと声まねをして。
わざわざしなくても後で簡単に教えてくれれば良いのだが、カミュは黙って聞いてやる。
「ワシはクルッチの叔父のオジッチだッチ」
(叔父とかいるのか……)
「ヨッチ村にまた行きたい時はワシに話しかけてくれッチ。あっ!そうだッチ。勇者さま方が戻ったら、これを伝えるように長老から頼まれたッチ。勇者さま、耳を貸すッチ!」
そこでオジッチは「……ごにょごにょごにょッチ!」と何かをエルシスに耳打ちをしているらしい。
エルシスは、冒険の書の合言葉を探しているヨッチ族のだいたいの居場所を教えてもらったと言った。
「最後に、旅のご武運を祈るッチ!勇者さま、ユリ嬢さま……ふふ…カミュッチさま。行ってらっしゃいッチ!――だそうだよ」
オチ、二回目。
(オレの名前はそれで伝わってるのかよ!!)
最後はユリは笑いを堪えながら通訳をしていた。
色んな意味で、そんな彼女に仕返ししたいと思ったが、残念ながら旅立ちのほこらに急ぐ身である。
カミュは次の機会に取っておくことにした。
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残りの冒険の書の話はいずれまた……(長編優先)