冥府へ

「山頂へはドゥルダ郷を出て、東に進んだ先にある洞くつから行くことができます」

 道順を説明するサンポと共に、彼らはドゥルダ郷の出口に向かうため、上層から下層へと降りていく。

「魔王の影響で魔物が凶暴化しているのに、たっはひとりで山頂に向かうとはな。いったい何を考えているのか……」

 修行者の話は、瞬く間にドゥルダ郷内に広まったようだ。そんな声が耳に届くなか、グレイグが口を開く。

「聞くところによると、修行者の中には厳しい環境にわざと身を置いて、おのれを鍛える者がいるらしい。もしかしたら、例の修行者もそのような目的があって山頂に向かったのかもしれんな」
「私は大師の死を聞いて、という部分に引っ掛かった。もしや、大師となにか縁がある者ではないか?どのみち、無謀な者には変わりないがな」

 ホメロスも続いて、それぞれ自身の見解を口にした。

(その人が手遅れになる前に、早く助けにいかなきゃ……)

 そう思うユリだったが、こんな状況でも、彼女はクエストを引き受けることとなる――。

「不退転……。背水の陣……。戦いの勝敗はおのれの覚悟で左右される。負けると思っている者が勝つ道理はない」

 ユリはそう師範代の男に話しかけられ、はあ…と生返事をした。

「おい、私たちは忙しい。それに、なれなれしくユリさまに話しかけるな」

 ホメロスは横から言ったが、男は無視して続ける。

「いかなる強敵が立ちはだかろうとも、勝ちたければおのれを信じ、闘志を燃やせ。どの局面においてもゆるぎない勝利を信じよ。……これぞ、郷に伝わるドゥルダの心得。郷の僧たちはドゥルダの心得を守り、日々修行を積んでいるのです」

 ほぉーとユリは聞いていたが、本題はここからだった。

「これから先、戦いに身を投じる者であれば、このドゥルダの心得は役に立つでしょう。ひとつ、この心得を体現してみませんか?」

 師範代からのクエストだった。

「とあるれんけい技を使って強敵の魔物を倒すというものです。どうでしょう?やってみますか?」
「あ、はい」

 ユリは言われるまま返事をした。不思議なことに、クエストは受けなければという使命感が込み上げてくるのだ。

 きっとこれも、勇者代行の宿命に違いない。

「いい返事です。今の返事でわかりました。あなた方はこれまで数々の修行場を超え、多くの強敵と死闘を演じてきたようですね」

 確かに死にかけたり、記憶喪失になったりはしたなぁとユリは思い出す。

「さて、修行の内容ですが、ドゥルダ郷の外にスノードラゴンという魔物がおります。昼にしか現れないとても強い魔物です。れんけい技の背水の覚悟を使ってそのスノードラゴンを倒してください」

 背水の覚悟……?そのれんけい技にピンと来ず、首を傾げた。

「背水の覚悟を使うと攻撃力が高まり、守備力が下がります。文字通り背水の覚悟で挑むのです」

 とりあえずクエストは引き受けることにすると、見守っていたグレイグとホメロスはユリに話しかける。

「そのれんけい技なら、俺とホメロスでできそうだ」
「ええ、何故我らがそんなことをやらねばいけないのかわかりませんが、ユリさまの引き受けたものでしたなら喜んでやりましょう」

 前半、嫌みにも聞こえそうなホメロスの言い方だったが、ユリは気にせず「ありがとう」と二人に言った。
 修行者を助けたら、クエストに挑戦してみよう。

 そして、今度こそドゥルダ郷を後にしようとした一行だったが、再び呼び止められた。

「この世界に起こる物事すべてに、意味がある……それが大師さまの教えでした」

 そう切り出した老人は、ユリに話があったようだ。

「あなたさまが勇者の代役を務めるのも、修行者を助けるために山頂に行くことにも……きっと意味があるはず。目の前の役割を精一杯果たしてください」

 老人のその言葉を聞いて、かつて師であったイザヤールが言っていた言葉にも似ていると、ユリは思い出す。


 この世界はすべて繋がっていて、偶然はない。


「山道には強い魔物が出るそうです。もし、戦いでキズついたら、すぐに郷に戻ってお休みください」
「勇者さま、聞きましたよ。山頂の聖域へ向かった修行者を助けにいくそうですね。本当はお供したいところですが、おそらく足手まといになるでしょう。私はここでお待ちしています」

 見張りの修行僧に見送られ、一行はサンポの案内に、行きとは違う東の道に進む。

 今日は昨日より風が強いようだ。

 少しでも寒さを凌ぐため、ユリはフードを被る。

「ユリさま、風避けにグレイグの後ろへ……」
「おい、人を風避け扱いするな」
「なんだ、お前の方が私より体格がいいだろう」
「うむ、確かに……。ユリ、俺の後ろを歩くといい」

 あ、やっぱり納得するのね、グレイグ……とユリは思いつつ、その言葉に甘えて彼の後ろを歩いた。

「サンポ大僧正は寒くないのですか?」

 他の修行僧と同じように薄着のサンポに、ユリは尋ねる。

「ええ、私たちドゥルダの者は寒さに慣れているというのもありますが、修行もしていますから」
「すごいです……」

 ちょうど雪混じりの風が吹き荒んでも、平然とした顔で答えたサンポに、ユリは尊敬の念を送った。

「……っくし」
「ホメロス、大丈夫?」
「失礼しました。このぐらいの寒さ、私も平気ですのでお気にならずに」

 そう答えたホメロスだったが、再びくしっ、と小さなくしゃみをする。

「お前、くしゃみは子供みたいなのは昔から変わらないな」
「……うるさい。くしゃみに子供も大人もないだろう」

 懐かしそうに言ったグレイグに、ムスッと返すホメロス。

「お二人はとても仲が良いように見えます」

 二人を見ながら微笑ましそうに言ったサンポに「私もそう見えます」と、ユリも笑顔で答えた。

「ローシュさまとウラノスさまも、もしかしたらこんな雰囲気だったのかも知れませんね」

 今度は子供のように言い合っている二人を見ながら、サンポは言った。ローシュとウルノスがどんな風に修行していたかは、当時の者にしかわからない。

 雪に足を取られながら歩いていると、洞くつの入り口が見えてきたようだ。

「おおっ。これは勇者さま方。山頂に向かった修行者を助けにいくのですね。どうぞ、お気をつけて」

 山頂への洞くつに足を踏み入れると――そこはれんごく天馬やブラックドラゴンなど、話に違わず、ふもとよりも強い魔物が住み着いている。

「マヒャド!」
「つるぎのまい!」
「いくぞ!ドラゴン斬り!」

 救助が目的なので、あまり戦闘に時間をかけたくはない。三人は強力な攻撃を繰り出し、魔物たちを倒していった。

「はあぁ!」

 そんな中、サンポの拳の一撃がブラックドラゴンの脳天に炸裂した。

 踊るようにひらりひらりと魔物たちの攻撃を躱し、ブラックドラゴンのテールスイングを跳んで避けてからの攻撃だった。
 その身のこなしと、素手で強敵と渡り合える力。やはり、大僧正の地位は伊達ではないと、三人は思う。

「ふぅ。辺りの魔物は一掃しましたね。さすが勇者一行の皆さんです。お強い」
「サンポ大僧正こそ、魔物の攻撃を一回も喰らわずにすごいです!それに、今の拳の攻撃はただの攻撃には見えませんでした」
「ああ、あれは……」

 ユリの質問にサンポは答える。拳に魔力を纏わせて、当てた瞬間に魔力を放つという、ドゥルダの武術の基本的な戦い方だと――サンポは説明した。
 だから素手でも戦えるのかと、ユリだけでなく、グレイグもホメロスも納得する。

「どうやら、この辺りには修行者の方はいないみたいですね。奥に進みましょう」
 
 洞くつは縦へと伸びており、行きと同じように、乗り物化したドラゴンに乗って上昇していく。

「まさか、こうしてドラゴンに乗れるとは……青天の霹靂です!」

 サンポは初めて魔物……ドラゴンに乗ったという。驚きながらもわくわくしているその顔は、初めて年相応に見えた。
 逆にユリたちは、修行僧たちは道具を使わず登るとい聞いて驚いた。

 広い洞くつ内を飛び回り、魔物と戦うことなく上から修行者を探す。

「例の修行者は魔物がうろつく、この険しい山道をひとりで進んだのか……。修行者が何者かは知らんが、そこまでして山頂に向かうとは、よほどの理由があるのかもしれんな」
「しかし、姿が見当たらんな。ここより先に進んだのだろうか」

 よもや魔物の腹の中にいなければいいが――さすがにその言葉は口には出さず、ホメロスは心の中だけに止めた。

 洞くつ内をくまなく探すなか、ユリは宝箱を見つけた。
 中身は『ソーサリーリング』
 装備した者の魔力を増やし、僅かだが徐々に魔力を回復させる、嬉しい効果のある指輪だ。

「ホメロス、つける?」
「いえ、そのアクセサリーならユリさまの方がよろしいかと……」
「私はもう、二つ装備しているから」

 ユリは『きんのロザリオ』と『ちからのゆびわ』を装備しており、二つ以上装備をしても効果は得られない。

「では、私が着けますね」

 ホメロスはリングを装備した。愛用のアクセサリーもどこかへいってしまったのでちょうどよかった。
 もう一つ装備しているのは『誓いのペンダント』で、グレイグとお揃いのものだ。

 修行者を探しながら進んでいると、洞くつの終わりが見えてくる。この先はもう山頂の聖域らしい。

 ドラゴンから降りて、洞くつから出た瞬間、
 
「くっ……ドゥーランダ山頂は空気がうすく、ひどい寒さだな。普通の人ならば長居もできないだろう」

 吹き荒ぶ風が彼らを襲った。風に雪が混じり、まるで吹雪のようだ。グレイグは腕で顔をガードする。

「好き好んでこんな場所に来るとは例の修行者はいったい何を考えているのか……」
「ああ、まったく迷惑極まりない……」
「ここまで来る途中の山道に、例の修行者らしき人はいませんでしたね。残りの探してない場所は山頂だけなので、修行者はこの近くにいる可能性が高いです。念入りに探してみましょう」

 顔をしかめるグレイグとホメロスとは反対に、相変わらず平然とした顔でサンポは彼らに言った。
 ホメロスはフバーハを唱え、優しい光の衣が皆を包む。少し寒さが楽になり、皆は前に進んだ。

(山頂の聖域……きっとなにか理由があって、その人はここに来たんだ)

 明確な理由があるわけではないが、この場所に来て、ユリはそう感じた。

「階段を上がった先にある御堂に、何やら人影のようなものが見えるぞ。例の修行者かもしれんな」

 風に雪が舞って不明瞭な視界に、グレイグは目を凝らして言う。

「遠くからではよく見えんから、近寄って調べてみよう」

 皆は同意して、共に階段を上がる――

「なんてことっ……」

 ユリはその光景を目にした瞬間、息を呑んだ。冷たい空気に喉がひりひりするよりも、痛ましいその姿に胸が痛む。

 そこには、痩せこけてミイラのようになっている老人の姿があった。

 上半身は裸で、長い時間、この体勢のまま動いていないように見える。

「もうすでに手遅れだったというのか……」
「くっ……こいつは見るにたえんな……。もしや、これがひとりで山頂に向かったという修行者なのか?」

 ホメロスは残念そうに言い、グレイグも同じような顔をして、サンポに問う。

「きっと、そうに違いありません……。しっかり座禅を組んで、息絶えたところを見るに、この者は覚悟の死を遂げたのでしょう」

 サンポは目を閉じ、その姿に悟って答えた。

「しかし、この姿、どこかで見たような……」

 サンポのその言葉に、目を逸らしていた三人は、再び修行者を見る。
 すると、グレイグは老人のそばに本が落ちているのに気づいて、それを拾い上げた。

「グレイグ?なんだそれは……」

 その表紙を見て、グレイグは刮目した。
 そして、興奮ぎみに口を開く。

「むっ……!これは数あるムフフ本の中でも最高と名高い……『ピチピチ★バニー』ではないか!」

 ………………

(このムッツリスケベめっ!)

 しーんと静まりかえった空気の中、ホメロスはこの地よりも冷ややかな視線をグレイグに送った。

 ……あ。

 くさった死体を見るようなホメロスの視線だけでなく、不思議そうにこちらを見ているユリとサンポにもグレイグは気づき……わざとらしく咳払いをした。

「不幸中の幸いとはこのこと……。この修行者、哀れな最期ではあったが、きっと幸福に包まれ、天に召されたに違いない」

 もっともなことを言っている風だが、まったく取り繕えてないぞ――と、ホメロスは思う。

「ウフフ本で……?」
「!」

 ウフフ本……!?可愛らしい聞き間違いに、ホメロスとグレイグは衝撃を受ける。

(ユリさまはなんて純粋なお方だ……!)

 旧仲間たちも同じように思って、ユリに真実を教えていなかっただけである。

「あ、見て!この首飾りって……」

 ユリは老人の首にかけられた首飾りに気づいて、声を上げた。綺麗な翡翠の宝石は見覚えある。それに、そこに記されている紋章は……

「む……?これはユグノア王家の者が持つ首飾りっ!?こんな貧相な修行者がなぜこれを……」

 同じタイミングで全員がはっとした。

「ま、まさか!この修行者は……」

 そして全員、顔を見合わせて声を揃える。


 ――ロウさまっ!!


 そう思って改めて老人を見ると、確かに生前の面影があるような……。

「そうか……ロウさまはニマ大師の愛弟子。おそらく大師が亡くなったことを知り、世をはかなんで安らかな死を選んだのだろう」
「ロウさま……あなたに謝罪をできないのが心苦しい。せめて、安らかにお眠りください」
「で、でも、ロウさまがエルシスを置いてだなんて……」

 ユリが知るロウは、絶望に落とされてもなお生きる道を選んだ人だ。二度と会えぬと思っていた孫と再会し、エルシスのために立派な祖父でいようと頑張っていたロウが……そのエルシスの安否がわからないまま、この世を去るだろうか。

「いやっ、待ってください!まだ息があります!」

 三人がそれぞれ話している間、心音を聞いていたサンポが慌てて言った。

「え!?」
「なんだとっ!」
「まさか……!」

 サンポは物言わぬロウを見つめて、皆に話す。

「おそらくロウさまの御霊は今、生と死をさまよっておられると思われます。しかし、このままでは死……」

 サンポは振り返って続ける。

「いえ、ひとつだけ……。ロウさまを救う方法があるかもしれません」
「サンポ大僧正、その方法は……!」

 ユリは逸る気持ちを抑えきれず、サンポに聞いた。サンポはそんなユリを見つめながら、神妙に口を開く。

「ユリさんが冥府……生と死のはざまにある世界へおもむき、ロウさまを救出して戻ってくるのです」

 冥府に――……

「ユリさまが……?」
「冥府に行くだと……だが、どうやって?そんなことが可能なのか?」

 訝しげなホメロスとグレイグの問いに、サンポは答える。

「じつは、ドゥーランダ山頂にあるこの御堂は、古来より冥府と通じる霊験あらたかな場所だと伝えられます。私が郷に伝わる分霊の儀式をおこなって、肉体から魂を離脱させれば、冥府に入ることができるはずです」

 ……なるほど、とユリはひとり頷く。天使だった頃には簡単に行けた場所だが、今の自分に行けるかわからなかった。

 行ける方法があるなら……

「ですが、冥府は生と死がゆらぐ世界。生者であるあなたが行けば、二度と帰ってこられないかもしれません」

 重々しく告げたサンポが、覚悟を問うようにユリをまっすぐ見上げる。

「ユリさん。それでもあなたは、ロウさまを救うため冥府に行きますか?」
「っお待ちください!」

 ユリが答える前に、割って入ったのはホメロスだった。

「ユリさま、このやり方は危険過ぎます。……サンポ大僧正、それはユリさまが行かねばならぬのか?私が代わりに冥府に行くことはできぬのだろうか」

 ホメロスは剣としてではなく、ユリを守ることも己の使命としている。彼女の友人とも約束した。それに、一度死んだような自分に死も冥府も恐ろしくはない。

「ホメロス……ありがとう。でも、大丈夫」

 ユリは優しくホメロスに言って、自分が行くという意思を見せた。

「サンポ大僧正……私は元天使です。何度か冥府には行ったことがあります。きっと、人より耐性があるはずです」
「なんと……!ユリさんにはそのようなご事情があったのですね。それならば、あなたを勇者の代わりに大樹が選んだのもわかります」

 何故なら、天使は命の大樹と共に生き、魂を守護する聖なる存在だからだ。

「サンポ大僧正は天使のことをよくご存じなのですね」
「ええ、ドゥルダには文献としてあなた方のことは伝わっておりますよ。今度、ゆっくりお話ししましょう」

 柔らかく笑ったサンポは「では、改めて」と、表情を引き締める。

「……ユリさん、それではあなたを冥府へと送りましょう。心の準備ができたら言ってください」

 ユリは、ホメロスとグレイグに向き合う。

「じゃあ、二人とも行ってくるよ。必ずロウさまと一緒に戻ってくるから心配しないで」
「ユリさま……。私は信じてあなたの帰りをお待ちしております」
「ああ!ユリならきっと大丈夫だ。ロウさまをよろしく頼むぞ」

 二人の言葉に、ユリはこくりと頷いた。

「ユリさん、冥府に向かう準備ができましたか?」
「はい。サンポ大僧正、お願いします」

 ユリの迷いのない返事に、サンポは満足そうに頷く。

「さあ、あなたを送ります。すべての魂が還る場所へ」

 サンポは最初の修行僧が見せたような、ユリに対して不思議な動きを始める。そして……

 ドゥ〜ラリホ〜ドゥ〜ラリホ〜

 あの呪文のような謎の言葉を発しながら、舞踊のように動きを続けた。
 ユリを見守っていたグレイグが、怪訝に眉を寄せ、サンポに顔を向ける。

「おい、なんだその変な踊りは!?本当に大丈夫なのか!?」
「大僧正といえ、ユリさまになにかあったら承知せぬぞ……」

 サンポは二人の言葉が聞こえないほど集中しているのか、単に無視しているのか「ドゥ〜ラリホ〜ドゥ〜ラリホ〜」と、ひたすら珍妙な動きをした。

 やがて、ユリの身体から魂が離れようとし――その瞼は閉じ、意識を手放す。

「……!」

 眠りに落ちたように……意識が抜けて倒れそうになる身体を、ホメロスが横から支えた。

(ユリさま……どうかご無事で)


 ……――光に包まれて、ユリは気づくと冥府に立っていた。


「懐かしいな……」

 いつぶりの訪れだろうか。しかし、以前とはまるで違う。

 そこは、無の世界になっていた。

 ユリが一歩足を踏み出すと、左右の燭台に次々と青白い炎がついていく。
 まるで、早く階段を登ってこいと言われているようだ。

 ユリは冥府の意思に従うように、階段を上がっていく――。


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