ふたたびのメダル女学園

「私はこの先の崩れた谷を越えてきたのだが……落ちた大樹から距離が近いこともあって、西側の荒れ果てようはひどいものだったよ。その上、不気味な格好の人たちがぞろぞろと行進する様子も目撃されている。この先に進むなら十分に気をつけるんだな」

 ――途中ですれ違った兵士も、ソルティコの町で聞いた噂話と同じ内容を話した。
 一体どういうことなのか見当もつかず、不思議に思いながらメダチャット地方へ続く道を行く。

 確かにその道は崖が崩れて、人が通れる道になっていた。

「ユリさま、お手を……」

 道と言っても、崩れた岩がそこら辺にごろごろして、足場は悪い。
 ホメロスは大きな石の上からユリの手を掴み、引き上げた。
 しばらく歩き、平坦な道になると、メダチャット地方に出たらしい。

 地図を確認すると、どうやら怪鳥の幽谷付近のようだ。

「命の大樹が落ちた影響は、この辺りにもおよんでいるようだ」

 まだ自然は残っているものの、辺りの木々は燻っていたり、落石で道は塞がっている所もある。

「ここは今や、魔王の手に落ちた世界は……どんなことが起こるかわからんからな。ユリ、気を引きしめて行くぞ」

 謎の集団ともいつ出会すかわからない。グレイグの言葉に、真剣な表情でユリは頷いた。


 まずはこの場所から近い、メダル女学園へと一行は向かう。


「ここは変わってないみたい……」

 メダル女学園の門を潜り、一歩足を踏み入れると、そこは世界の異変とは無縁のような場所に感じられた。

「まるで、ここだけ平和な世界のようじゃな」

 ロウも学園を見渡しながら言う。覇気のない管理人も相変わらずだし、花壇に水をやる生徒や、運動場で走り込む生徒たちの姿もあった。

「もしや、命の大樹が落ちたことを知らぬのではあるまいな……」

 訝しげにホメロスは呟いたが、さすがにそれはないようだ。

「命の大樹が落っこちてから、ご学友の皆さまが筋トレのすばらしさにお気づきになられましたの!今ではこうして共に汗を探す日々!ワタクシ、とても感動しておりますわーん!」

 先頭を走る彼女は、シルビア扮するレディ・マッシブファンの女生徒だ。

「レディ・マッシブさまにあこがれ、校舎のすみでひとり身体を鍛えるのは少しさびしかったのですわーん!」

 そう言って元気よく走る姿に「レディ・マッシブ……?」と、グレイグは不思議そうにその名を口にした。話せば長くなるとユリは笑う。

「ステキなレディのタマゴたるもの、どんな困難にも立ち向かい、乗り越えていかねばなりません!」
「世界が混乱に満ちている今!ステキなレディのタマゴたるもの、美しく、優雅に乗り越えねばなりません!」
「さあ、皆さん、明日に向かって走りましょう!どんな悪しき魔物にもくっしない、強き心と身体を手に入れるのですわ!」

 そんな先頭の彼女に続いて、女生徒たちは走る。最後尾には共に走るスライムの姿も。この学園には人も魔物も関係ない。

「ある意味、立派な少女たちだな」
「ひた向きな子たちじゃ」

 感心するグレイグに、ロウは暖かな目で彼女たちを見ながら言った。

「メダル女学園は男子禁制のはず……。ユリさま、我々はここでお待ちしております」

 校舎へ歩くなか、そうわきまえるホメロスに、ユリは「それなら大丈夫」と、にこやかに答える。

「エルシスはメダル女学園初の男の子の客員生徒で、仲間たちである私たちも、学園内を自由に動き回っていいって校長から許可をもらっているよ」

 さすが、勇者……!

 ホメロスとグレイグは、二人そろって驚愕した。
 堂々とメダル女学園の校舎内に入ろうとしたら……「お待ちなさい!」一行は呼び止められる。

 分厚い唇をプリプリさせた、マリアンヌ先生だ。

「あなた方がこの学園にいらしてから、何も言わずに様子を見ていたけれど、もうガマンの限界ざます!」

 そんな、突然言われても……と、ユリは困惑する。

「メダル女学園は世界一の名門女子校!未来のステキなレディに関わる紳士はそれなりの品格が必要なんざます!……それなのに、あなたも……あなたも!ごくごくふつう、ああふつうっ!」

 マリアンヌ先生はグレイグとロウに向けて言った。「ごくごくふつう」と言われ、二人はちょっぴりショックを受けている。そして、非常に理不尽だ。

「この学園にふさわしい紳士になりたければ、生徒指導のわたくしがキッスしたくなるくらい魅力的な男になってごらんなさい!」
「いや、俺たちは……」
「ご自分のみりょくがわたくしのおメガネにかなうとお思いになったなら、ここに戻ってくるざます!いいざますか?」

 意義は認めず、マリアンヌ先生は問答無用で言った。そんな彼女の視線が、つつつ……と後ろの方で控え目に立っているホメロスに移る。

「あら、あなたは……」
「ん、私か……?」
「……んん、んんん……んんんんん〜!」

 なにやらホメロスをじっと見つめてマリアンヌ先生は唸っている。やがて……

「……んん〜すばらしいざます!なんと魅力的な紳士ざましょ!」

 白で統一した旅装束、腰に携えるプラチナソード、さりげないソーサラーリング……。ホメロスの立ち振舞いだけでなく、そのトータルがマリアンヌ先生のお眼鏡にかなったらしい。

「では、さっそくその努力をたたえて先生のあつ〜いキッスを……!」
「……!?」
「……というのは冗談ざます!先生は年上が好みなんざます。これをあげるからキッスはガマンざますよ」

 ホメロスはレシピブック『トレビアン衣装のレシピ』を受け取った!

「………………」
「よ、よかったね、ホメロス!」

 複雑そうな表情をしているホメロスに、フォローするようにユリは明るく言う。

「むむぅ……」

 グレイグはというと、マリアンヌ先生が一体いくつなのか気になっていた。

「…………彼女より年上……ロウさまか?」
「え、わし?」

 現在、ホメロスは自分と同じ36歳だ。いや、ホメロスは若く見られるので、彼女は自分より年下だと勘違いしている可能性もある。そもそも魔物と人間は同じ歳で数えていいのか?

 そもそも何故、魔物がここで教師をしているのだ……!?

「んん!ついつい見とれていたざます!わたくしが10歳若かったらクラクラするほどあつ〜いキッスを……なーんちゃって冗談ざますよ!わたくし、年上が好みなんざます!期待させてごめんねざます、おっほっほ〜!」
「このレシピはユリさまにお渡ししておきますね」
「ありがとう」

 ユリは受け取ったレシピをパラパラと見る。……名前からしてもそうだが、どう見てもシルビア専用衣装だ。

(シルビア……元気にしてるかな……)


 校舎に入ると、学内も特に変わりはないようだ。一応、校長に挨拶しておこうとユリは校長室に向かう。

「こんな小川じゃ……何も釣れないけど。……大樹が落っこちて外は危険。しかたがないから、釣りごっこでガマンする」

 校長室を囲む中庭の水路で、幼い女学生がブツブツ言いながら釣り糸を垂らしていた。
 幼い彼女たちは「外に出ては危険」と先生たちから言われているらしい。

「……しかし、なんだかさっきからくさったドブのニオイがするね。大樹が落ちて、川までくさったのかな……」

 ……確かに、とユリたちも鼻を利かせる。ニオイはこちらの方から……?

「しくしく……しくしく……。ああ、この世の終わりだわ……。今のわたくしはとってもクサい……」

 そこにはピンクの髪のくさった死体の女生徒がいた。
 どうもニオイは彼女からのようだ。
 彼女の名前はコルトというらしく、悲しみに暮れて泣いている。

「愛用のかぐわしい香水を切らしてしまって、くさったニオイを隠せないのです……。これじゃ死んでいるのと同じだわ……」
「あ……!」

 ユリはポーチからそれを取り出す。

「よかったら、これを……」
「ああ!このステキな香りは、まさしく父の作ったかぐわしい香水!」

 ちょうどここの用務員の男性にもらったものだ。

「ありがとうございます、旅人さん!これでわたくし生きていけますわ!」

 受け取ったコルトは、慌てて香水を自分の身体に吹き付ける。その場にかぐわしい香りが辺りに広がった。

「ご親切な旅人さん。ありがとうございます。代わりに、くさった死体に伝わる秘宝、この『腐敗の魂石』の受け取ってください」
「いいの?ありがとう!」

 ユリは受け取って眺めると、丸い石には煌めきが封じ込められている。

「じつは、わたくしの父、スミスはかぐわしい香水を作っておりますの。いつもなら、毎月かかさずかぐわしい香水を送ってくださるのに、もうふた月も届かないのです」

 続けて、心配そうにコルトは事情を話す。

「わたくしの家族はホムスビ山地の西にある、荒野の地下迷宮で暮らしております。近頃、あの辺には凶悪な魔物が出現するようですし、香水が届かないことと、何も関係がなければよいのだけれど……」

 荒野の地下迷宮といえば、まさしくエルシスと一緒にくさった死体から追いかけられた場所だ。そんな思い出はあるが、心配そうな彼女を見過ごせない。ユリは笑顔で口を開く。

「すぐには行けないけど……近くに行ったら、お父さんの様子を見てくるね」
「まあ、旅の方。ありがとうございます!父のことをよろしくお願いします」

 ――その一連のやりとりを見て、ホメロスは感動していた。

「ユリさまは本当にお優しい方だ……。魔物にさえ、手を差し伸ばすとは……」

 大袈裟だよ、とユリは屈折なく笑う。

「あの子は悪い魔物じゃないし、エルシスや……みんなもきっと同じことをするよ」

 みんなとは、彼女の仲間たちのことだろう。
 ホメロスは彼らのことを思い出す。
 個性豊かな者たちだったが、皆、正しき心を持っていたと――今ならわかる。

「王立メダル女学園へ、よくぞ参られましたな!」

 エルシスは不在で初めての顔もいるが、校長は気にせず歓迎してくれた。
 ユリも特に詳しい事情は話さず「おじゃまします」とだけ挨拶する。
 メダルはそこそこ貯まったと思うが、エルシスが戻ってくるまでスタンプは押さないことにした。

 校長室を出て、校舎内を見て回ることにした一行は、年配の女性に声をかけられる。

「……おや。ミリガン先生、なにかお困りごとかのう」
「じつは、ロウさんたちにお願いしたいことがあります」

 以前訪れた際に、ロウはミリガン先生と親しくなったらしい。彼女はお願いしたいことの事情を話す。

「メダル女学園に勤務してはや40年。数えきれない生徒の巣立ちを教師として見送ってまいりました。その中に、たったひとつだけ気がかりで仕方のない生徒がいるのです」
「……ふむ。ちなみにどんな生徒なんじゃ?」
「彼女はすこしばかりおてんばで、いたずら好きな手のかかる子でした。けれど、彼女がそこにいるだけで学園の皆が笑顔になるような、魅力的で明るい皆の人気者だったのです」

 ロウの質問に、ミリガン先生はその生徒を思い出しているのか、懐かしいという顔をして答えた。

「しかし、卒業式を間近にひかえた年の冬でした。退学願いとだけ書かれた手紙を残し、突然学園を退学してしまったのです」

 突然退学なんて……彼女の身になにが起こったんだろうとユリは考える。

「それから30年……私もトシを取りました。この学校を去る日も近いでしょう。教師である私の最後の仕事として、この渡せなかった卒業証書を彼女に渡してやりたいのです」

 そこで、ミリガン先生は彼らの顔を順に見回して言う。

「ロウさん……皆さんにどうかお願いです。世界のどこかにいるこの生徒を見つけだし、卒業証書を渡してくださいませんか?」
「世界中を旅しているわしらならうってつけじゃ。その願い、わしらが引き受けよう」

 よいじゃろう、とロウは一応皆に確認するが、返ってくる答えはわかっていた。

「ありがとうございます!彼女がメダル女学園を退学した時、送られてきた手紙の住所を見るに……彼女はクレイモランという王国から手紙を出したようなのです」

 クレイモラン……この場にいる全員にとって馴染み深い国だ。

「その王国に行けば、彼女の消息を知る者がきつといるはずです。王国の人々にたずねてみてください。……彼女の名前はリリアンです。それでは旅人さん、お願いしますね。どうか彼女に卒業証書を渡してください」

 ユリは『メダル女学園の卒業証書』を丁重に受け取った。大事なものとしてポーチにしまう。
 他にも旅人の自分たちにお願いごとをしたい人たちがいるかも知れない――と、引き続き校舎内を見て回ることにした。

 東側の教室で、ユリは双子の女生徒に出会った。

 お揃いのボブショートの女の子で、以前ベロニカとセーニャが仲良くなったと言っていた二人だろう。

「あたしがオラルで、この子がオレル。あたしたち、見ての通りの双子なの」

 二人は双子とあってそっくりだが、性格はオラルが利発的で、オレルが少しおっとりしているようだ。ユリは雰囲気がベロニカとセーニャに似ていると、くすりとする。

「大樹が地面に落っこちて、あたしたちもいつ死んじゃうかわからないから、オレルとあたしは約束したんだ」
「オラルが死んだら、わたしがオラルになるの。それなら、ふたりはずっと一緒よ」

 もし、オレルが死んだら、オラルがオレルになると――。
 それで二人がずっと一緒ということになるのか、ユリにはわからない。

(ベロニカとセーニャならわかるのかな……)

 その言葉がどこか印象に残りながら……次に苦しそうにしているドラキーに気づく。彼女はガブリエルという名前らしい。

「最近、アタマの中に恐ろしい歌がひびいているの。旅人さん、この歌、聴いたことある?」

 そう言って、ガブリエルは歌を歌う――……

 我らは闇の子、暗い夜の子。
 目覚めよ、目覚めよ、時は来たれり。
 おそれよ、たたえよ、我はここにいる。
 闇の子らの王、破滅の使者。
 駆けろ、集えや、我はここにいる。

「……おそろしい歌、なんだろう?誰かがあたしを呼んでいるのかな。暗い、闇の世界に……」

 その歌を聴いて、はっと表情を変えたのはホメロスだ。ガブリエルを見つめて、言い聞かせるように話す。

「……大丈夫だ。心を強く持てば、闇は君に何もできない」
「……ありがとう、かっこいい旅人さん。あたし、負けないわ」

 ガブリエルは少し元気が出たようだ。ホメロスは小声で仲間たちに説明する。

 あれは魔王の声のものであり、各地で魔王が凶暴化したのはその声のせいだ――と。

 しかし、中にはガブリエルのように、善の心がある魔物は支配しにくいようだ。

「ここの魔物たちは清き心が育っているので、凶暴化することはないと思うが……」

 その言葉にユリはほっと安堵する。

 そろそろ授業も始まるようなので、教室を後にしようとしたが――……
 窓辺で独り、ぽつんといる少女が気になって、ユリは声をかけた。

「……おねえちゃん、あたしが見えるの?夜でもないのに!すごい!すごいわ!」

 少女の言葉にユリは首を傾げる。

「あたしはローズ。10歳の誕生日に死んじゃったんだ。いわゆる……ユウレイってヤツね」
「え!?ユウレイ!?」

 ……ユウレイ?ユリの発した言葉に、今度はグレイグ、ホメロス、ロウの三人が首を傾げた。
 三人にはローズの姿は見えず、ユリが窓辺に向かって一人驚いているように見える。
 ちなみにユリが驚いたのは、少女がユウレイということではなく、その姿がはっきり見えたからだ。勇者の力の一部を引き継いだからだろうか。

「あっ!こわがらなくても大丈夫だよ!あたしは人を呪ったりするような悪いユウレイじゃないの!ただ、どうしてもかなえたい願いがあってこの学校を離れられないんだ……。あたしだって早く成仏したいんだよ」

 ……こんな風に、ユウレイはこの世に未練があると成仏できなくて、天使はそれを手助けしたりもする。

「……ねえ、旅人のおねえちゃん。あたしが見えるあなたがここに来たのは、きっと神さまのおぼしめしよ。ここを離れられないあたしの代わりに、あたしの最後の願いをかなえてほしいの。ねえ……いいでしょ?」
「いいよ。ユウレイのお願いを聞くのは得意だし」

 ユウレイのお願い……?

 男三人はますます首を傾げる。ユリに自分たちには見えないなにかが見えているのはわかった。

「ありがとう!旅人のおねえちゃん!……あたしの願いはたったひとつだけ。メダル女学園の歴史にさんぜんと輝く最高のメダル愛好家、ヌルスケが残した伝説の秘宝を手に入れることなの!」

 ヌルスケの秘宝……?ここにカミュがいたら、詳しく知っていただろうか。

「その伝説の秘宝のかがやきは、波のように押しよせる黄金のようで、見る者の心を魅了すると言われていてね。一説によると、バンデルフォン地方のどこかに建てられたヌルスケのお墓に埋められたと考えられてるの!」
「……ねえ、グレイグ。バンデルフォン地方に、ヌルスケって人のお墓があるの知ってる?」
「すまない。まったくもってわからん」
「お願い、おねえちゃん!ヌルスケが残した伝説の秘宝を見つけて、あたしの所に持ってきて!」

 とりあえず、ユリはユウレイのローズのお願いを引き受けた。バンデルフォン地方に行ったら探してみよう。

「さすがユリさま。霊の願いごとも聞くとは……まことに心が広い方だ」
「おい、本当に大丈夫なのか?呪われたりせんか?」
「ユリ嬢が引き受けたのなら大丈夫じゃろう」

 ――ユウレイからのクエストを引き受けたユリは、今度は図書室でスライムつむりのチコからのクエストを引き受ける。

「お姉ちゃん、今、おヒマ?もし、おヒマだったらあたしとなぞなぞ勝負しなーい?」

 暇というほど暇ではないが、それがクエストになると「はい」となってしまう不思議。

「わーい!お姉ちゃん、いいノリねー!それじゃあさっそくなぞなぞでーす。とーっても切れ味の悪いなまくらなつるぎってなーんだ?」
「え……なんだろ?錆びたつるぎ?」
「ユリさま、残念ながらそれではなぞなぞにならないかと……」
「フ……わかったぞ。正解は、ひのきの棒だ!」
「ハズレでーす」
「なに!?」
「わしはダジャレは得意じゃからすぐにわかったぞ。正解は、刃がねえで切れない……はがねのつるぎじゃ!」

 ロウがえっへんと得意気に答えた。

「あらら、おじいちゃんか問題の答えがわかったんだねー。うーんと……だーいせーいかーい!」

 正解するのはユリでなくても、チコ的にはいいらしい。

「はがねのつるぎは刃がねえ、つるぎ。だから、なまくらなつるぎなんだー!すごいわ、すごいっよくわかったねー!」
「ほっほ、それほどでもないわい!」
「威張るほどのことか……?」
「ホメロス、聞こえるぞ」
「お姉ちゃんたちはなかなかできる人たちだね。でもね、まだ勝負は終わらない。もう1問、あたしのなぞなぞを解いてみて」
「うんっ、今度はがんばって答えるよ」
「今度のは前よりもっと難しいよ。それじゃあ、さっそくなぞなぞでーす。持ってると、なんだか負けない気持ちになってくる。この武器、いったいな〜んだ?」

 負けない気持ち……?武器……?

 ………はっ!ユリは答えがわかった。むしろ、正解はこれしかないだろう。

「答えは勇気!勇者の武器は……勇気だよ!」
「ぶっぶっー。ざんねーん」
「えっ、違うの?」
「いえ、私的には答えは100点満点です、ユリさま……!」
「今回は難しいのう」
「俺もなぞなぞは得意ではない……」

 ………………

「……正解がわかったから言ってもいいか?」
「お兄さんがわかったんだねー。いいよー」

 しばらく待ってみたものの、誰も答えを言わないので、痺れを切らしてホメロスは口を開いた。

「正解はまけんしのレイピア、だろう?」
「……だーいせーいかーい!」

 負けない……負けん……まけんし!ああ!

「まけんしのレイピアを持ってると、負けんしっ!と気合いが入ってなんだか負けない気持ちになるんだよー」

 ……なるほど。残りの三人は正解がわかってスッキリした。

「……は〜あ。自慢のなぞなぞを2問も解かれちゃうなんて思わなかったな。お姉ちゃんたち、とってもスゴイのね。今回はあたしの負けだよ。お姉ちゃんたちの勝利をたたえてとってもいいものさしあげまーす」

 ユリはちいさなメダルを5枚受け取った!やったー!

「あたしもまだまだ修行が足りない。もっともっとなぞなぞを磨いて、今度こそお姉ちゃんたちに勝ってみせるよー」
「楽しみにしてるねっ」


 なぞなぞは思いの外盛り上がった。


 お昼を食べようと次に訪れたのは食堂だ。ユリはるんるん気分で歩く。ここの給食は豪華でとってもおいしかった。

「ここの生徒は、みんなにこやかに学生生活を送っておるのう」

 廊下ですれ違うと笑顔で挨拶してくれる生徒たちに、ロウもにこやかに笑う。逆にグレイグは居心地が悪いようだ。

「この学園にいると、どうも落ち着かん……。俺は汗くさい男たちに囲まれて育ったから、このような女性の園には慣れていないのだ」
「私もだ……。子供は苦手だ……」

 ホメロスも同じように言った。苦手というよりは、もはや嫌いに近い。影からきゃっきゃっと少女たちから熱い視線を送られ、落ち着かないらしい。そんな二人を見て、ユリはお昼を食べたらここを立ち去ることにした。

「ドーソンさんの手作り給食が最近ちょっとあじけないんだわさ」

 給食委員長のメイジーは、以前訪れた際に給食の内容を教えてくれた子だ。

「いつもいつも、かたいパンとベーコンばっか。フフィーッとおいしい給食が恋しくて恋しくてたまらないわさ!」

 あの魅力的な給食の内容から一転。食糧難で仕方ないが、ユリも一緒に恋しくなった。

「近頃、食材の流通がめっきり少なくなってね。メニューを考えるのも一苦労だよ。どんな時でも、育ちざかりの生徒たちにはおいしい給食をお腹いっぱい食べさせてあげたいからねえ」

 給食を作るドーソンもそう頭を悩ませているようで、以前よりは味気ないとはいえ、苦労して出来上がった料理をおいしくいただく。


 昼食も食べ終わり、ここを出発しようとする彼らに、真面目な声がかけられた。
 彼女は教師の一人である、ミチヨ先生だ。

「大樹が地に落ちた日から、世界は混乱をきわめているでしょう。……そこで旅人さんにお願いがあるのです。帰る家のない、ひとりぼっちの女の子がとほうに暮れているのを見たら、この学園のことを教えてあげてくださいな」

 世界を旅する彼らだからこそ、適任だと思ったのだろう。

「この学園は運よく難を逃れましたので、ベッドや食料にもよゆうがあります。新入生としてその子らを迎えいれますわ。子供たちは未来への希望です。メダル女学園の教師一同、責任を持って守り育てると約束しますわ」

 彼女の真剣な思いに、ユリは「わかりました」と、しかと頷く。ミチヨ先生は最後に会釈し、その場を立ち去った。

「優しく立派な先生じゃのう……さらに美人さんじゃ」

 ロウはそう呟きながら、その背中を見送る。

「グレイグ……一人、心当たりがあるの」
「ああ、俺も同じことを考えていた」

 セーシェルだ。家族も友達も失い、独りぼっちになってしまった彼女に、メダル女学園は居場所にならないだろうか。

「はて、二人して心当たりとな?」

 二人はロウとホメロスにセーシェルのことを話す。相談した結果、セーシェルに直接この場を教えてみたらどうかとなった。あくまでも彼女の意思を尊重して……。

「すぐ戻ってくるね」

 ユリはルーラを唱える。グレイグを連れて、最後の砦に飛んだ。

「――セーシェル!」

 セーシェルは、いつものように独りであの桟橋で川を眺めていた。
 二人の姿を見ると、驚いた顔をする。

「……メダル女学園。ヘンなお名前。でも、学校に通ったら、きっとお友達ができるよね」
「ああ、セーシェルぐらいの女の子がたくさんいたぞ」
「優しい先生たちもたくさんいるから安心できると思うんだ」

 メダル女学園の話を聞いて、セーシェルはしばし考える素振りを見せたあと……

「ちょっと不安だけど、あたし、その学校に行ってみる。お姉ちゃん、おじちゃん、教えてくれてありがとう」

 セーシェルはメダル女学園に行くことを決意した。
 ユリとグレイグは顔を見合わせ、今度はセーシェルも連れて、再びルーラでメダル女学園へと戻る。

「ここが……キレイな学校……」

 セーシェルは大きな校舎を見上げる。中に入り、さっそくミチヨ先生の元へセーシェルを連れて行った。

「あなたはセーシェルというのね。今日まで、よくがんばりました……!」

 ミチヨ先生は両膝を床につき、ぎゅーっとセーシェルを抱き締める。

「でも、もう大丈夫。この学園で暮らし、学び、友達と一緒に生きましょう。今日からここがあなたの家よ」

 直後……セーシェルからむせび鳴くような声がもれた。
 ずっと無だった彼女に、感情が戻った瞬間だった。
 ユリとロウは目頭を熱くさせ、その光景を優しく見守る――。


「グレイグ……泣いているのか……」
「……っ泣いてなどおらん!」
「……泣いているではないか」
「お前も泣け!」


 独りぼっちの少女が、やっと自分の居場所を見つけた。





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久しぶりの夢主専用クエスト『わらしべ長者?』です。
青いサンゴ→大粒の真珠→かぐわしい香水→腐敗の魂石new!

(後程「いい香りのする あの子」はクエストとしても回収します)


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