世助けパレードと共に

 ユリたちがバハトラの家にお邪魔すると、そのすぐあとに男が入ってきた。

「おお、バハトラ!ケガはないか!」

 口が上手い商人のボンサックだ。ボンサックとバハトラは友人であるらしい。

「いやーよかった!息子のチェロンだけでなく、オマエさんまでいなくなったと思って、心配してたんだ!」

 無事を喜ぶボンサックの言葉に、何故かバハトラは気まずそうに視線を泳がす。

「アナタのおぼっちゃん、いなくなっちゃったの?」

 シルビアの問いに、今度ははっきりと表情を顔に出してバハトラは答える。

「……フン、チェロンみてえな自分勝手な息子なんて知らねえだ!」

 刺々しい態度で、バハトラはどこかへ行ってしまう。

「スミマセン、旅の方。……バハトラのヤツ、大事にしてたヨメさんに先立たれただけでなく、息子までいなくなって気が立ってるんです」

 代わりに、バハトラを弁解するようにボンサックは話した。彼は続けて、村の現状をくわしく話す――

「フールフールの話はごぞんじです?大樹が地に落ち、空が闇に包まれた直後のこと。ヤツは魔物の群れを引きつれ現れました。ワタシたちは逃げることもできずに、ただ恐怖に打ちふるえました。するとヤツは、ワタシたちを広場に集めこう言ったのです」

 オマエたちのいちばん大切なモノを教えろ。その大切なモノだけ助けてやろう……と。

「おびえたワタシたちはその言葉にすがって、大切なモノをあげていったんです。お金、愛する妻や夫や、そして子供……」

 そこまで話して、ボンサックは声を荒らげる。

「ところが、それはすべてウソだった!……あの忌々しい魔物は、その大切なモノを助けるどころか逆に奪い去っていったんです!」
「まあ!なんてヒドイことを……!」

 シルビアは両手を組んで、ショックを受けた声で言った。その場にいる全員が同じような思いだ。
 そして、シルビアは片足をだんっと床に叩き、怒りを露にした。こんなにもシルビアが怒っているのは初めてで、ユリは少し驚く。

「……ウソつきはいちばん許せないわ!アタシたち、世助けパレードがさらわれた村のみんなを助けてあげる!」
「おおっ、ほ、本当ですか?だけど、ヤツは強く、ズルがしこいですよ?」
「ご心配なく!アタシたちにおまかせあれ!騎士に二言はない、っていうでしょ!」

 ボンサックの言葉に、シルビアは力強く答えた。

「騎士、だと……?」

 ――ひとり、グレイグはその言葉に反応し、シルビアを探るような目で見る。

「フールフールは村人を連れて南の方へ去っていきました。そこに、ヤツのすみかがあるかもしれません」
「なるほど、わかったわ。それじゃ村の人たちを助けるために、まずは南の方を探ってみましょ!」

 ユリ、ホメロス、ロウはその言葉に大きく頷いた。
 バハトラの家を後にすると、真っ先にロウが穏やかじゃない声を上げる。

「ふぬおおおお、村の者をだましていたぶって楽しむなんぞ、なんたる外道!わしは怒ったぞい!見ておれい、フールフールとやら!取得したばかりのわしのグランドクロスでギッタギタにしてくれようぞ!」

 ふぅーっと鼻息が荒いロウに「ロウさま、そう興奮なさっては身体に悪いですよ」と、ホメロスが落ち着いた声で言った。

 怒っているのはロウだけではない。

「プチャラオ村の様子がドンヨリしていたのは、フールフールって魔王の手下のしわざなのね!インキな魔物は許せないわ!さあ、ユリちゃん。さらわれた村の人たちを助けるために、村の南の方を探してみましょう!」

 急かすシルビアに、ユリも表情を引き締めて答える。

「私も怒ってる。天罰を与えたい!」
「おお、ユリ嬢、勇ましいのう」
「アタシもキツ〜イお仕置きをするわよ!」
 
 やる気満々に村の入り口へと向かう三人。その後ろを数歩遅れてついていくグレイグは、二人と話すシルビアの横顔を見つめながら呟く。

「……シルビアのヤツ、騎士に二言はない……と言ってたな。うーむ……」
「それがなにか気になるのか?」

 並んで聞いてきたホメロスに、グレイグは「あ、いや……」と曖昧に返事した。

「なんとなくだが、昔、どこかで会ったことがあるような気がしてな。……それはそうと、プチャラオ村の皆をだまして、大切なものを奪っていったという魔物の話は聞き捨てならないな。その魔物、フールフールというヤツはズルがしこい強敵との話だ。準備をととのえて挑もうぞ」
「そうだな。知能が高い魔物はそれに比例して強敵だ。同じように姑息な手段を使ってきそうである」

 ――ユリたちの姿を目にすると、ナカマたちは駆け寄ってきて、一人また一人と合流していった。

「うふふ、ボス、聞いたわ!魔物のすみかを探しだすときたら、アタシたち世助けパレードの出番ねっ!」
「ボス!村のみんなを助けにいくのよねっ!さすがはオネエさまが見込んだ子だわっ!アタシたち、全身全霊でもって協力するわっ!」
「村の人たちの不安を取りのぞくには、フールフールってイジメっ子にお仕置きして大切なモノを取り戻すしかないようだわ!よぉぉーっし、ボス!フールフールのアジトを探しに村の南を目指して行進していきましょっ!」

 皆、口々にそう言い、どうやらナカマたちも一緒についてきてくれるらしい。ユリは頼もしいと彼らに笑いかける。

「ジワジワと痛みつけられるようにこの先もフールフールに奪われつづける……そう思って村の人たちはおびえていたのね。……だけど、アタシたち世助けパレードを敵に回したのが運の尽きね。必ずとっちめてやるわ!うふふっ」

 魔物に対して怒っていたり、人々の笑顔を取り戻したいという思いは、誰もが同じだ。

「お前はすっかり、あやつらからボスと呼ばれるのが定着したな」
「あ、そうだね」

 村の入り口に御輿は置いてあり、留守番していたナカマが笑顔で迎える。

「あらっボス!ついに出発するのね!このおみこしなら、アタシガホッカホカにあたためておいたから準備はカンペキよ!」
「さあ、ユリちゃん!出発の合図をお願い!」

 ボスとしてユリは皆を見回し――

「では……。卑劣なフールフールを倒して、奪われた人々の大事なものを取り戻しましょう!出っ発!」
「「イエス、ボス!!」」

 声とポーズをビシッと一寸乱れず揃えて、ナカマたちは元気よく答えた。
 パレードをしながら、一行はフールフールの棲みかがあると思われる、南を目指す。

「このペースでは、目的地に着く頃には日が暮れるのではないか……」

 愚痴るようにホメロスは言った。そんな彼は、再びパレードの服を着せられて憂鬱そうな顔をしている。
 ホメロスだけでなく、ユリもグレイグもロウも着ており、パレードをする際はその衣装着用がルールらしい。

 ひたすら躍りながら南に向かう途中、キャンプ地を見つけ、そこで軽食を取りながら、一行は一休みする。

「ふふ、サーカスの人たちと旅しているみたいで、にぎやかで楽しいね」

 ナカマたちの中にはサーカス出身の者もいるが、元々は漁師や騎士、占い師や神父など、バラエティーに富んだ者たちで結成されているという。

「アタシもナカマのみんなには、たくさん励まされて助けられたわ」
「そういえば、大橋でシルビア号を見かけたの。アリスさんも一緒?」
「ええ!アリスちゃんも一緒よ!アタシがとある小島の砂浜で倒れていたときに、最初に見つけてくれたのがアリスちゃんだったの」

 アリスも元気なようで「早くアリスちゃんにもユリちゃんたちを会わせてあげたいわ」と、続けて言った。
 シルビアとナカマたちの旅の話をもっと聞きたいし、ユリもシルビアにこれまでのことを話したかったが、まずはプチャラオ村のことが先決だ。

 休憩もそこそこに、一行は再び出発する。
 ――出発して、間もなくのことだった。

「わ〜っ!ハネの人たち、楽しそうに何してるだ?」
「!」

 突然、少年が岩影から顔を出して声をかけてきたのだ。

「あら〜!アタシたち、さらわれた村人を助けるために、強い魔物ちゃんをやっつけに行くのよ」
「君はどうしてここに……」

 こんな所にいたら危ない。ユリの言葉のあとに、なにかに気づいたグレイグが声をかける。

「……ボウズ。お前はもしや、バハトラの息子、チェロンではないか?」

 チェロン……?グレイグの言葉に改めて皆は少年を見つめる。

「さらわれたワケではなかったのか……。どうしてこんな危ない所に。お父さんが心配していたぞ」

 少年はチェロン本人で間違いないらしい。グレイグの問いに、チェロンはゆっくり口を開き、理由を話した。

「……父ちゃんが、魔物に言ってただ。父ちゃんのいちばん大切なモノは死んだ母ちゃんのペンダントだって。父ちゃんの大切なモノ、オラじゃなかった。それ知って、すごく悲しかっただ……」

 チェロンは悲しげに顔を伏せ、話す。

「だから、母ちゃんのペンダント取り返して、父ちゃんを見返してやるって思っただ!それで、魔物を追っかけて来ただ!」

 勇ましく言うも、すぐにその声は弱々しくなって……

「でも、途中でこわくなっちまって、ここで隠れていただ……」

 最後は黙りこんでしまった。

「なるほど、バハトラがそんなことを。しかし、この辺りは子供には危険すぎる。私たちにまかせて、早く村に帰りなさい」
「イヤだ!みんなが行くなら、オラも行く!母ちゃんのペンダント取り返すまで、村には絶対帰らないだ!」

 間髪を入れずにチェロンは答えた。

「お前がいたら足手まといになるということがわからんのか。村まで送ってやるから……」
「っ帰らないだ!」

 ……。素直そうな顔をしておいてなかなかの頑固者だった。これだから子供は嫌いなんだ、と参るホメロスに、グレイグもため息を吐いて、どうしたものかと眉間を手で押さえる。

「いいじゃない〜連れてってあげましょうよ!アタシたちと一緒にいれば、チェロンちゃんも安全じゃない?ユリちゃんはどう思う?」
「本当は危ないから村に送り届けたいけど、私たちが言ってもダメみたいだし……」

 ここまで一人でやって来た子だ。強引に村まで連れて帰っても、勝手についてきてしまう気がする。そっちの方が心配だ。

「ふうむ……ユリの言うことも一理あるな。わかった。ならば、貴様が責任を持ってチェロンを守るのだぞ」

 グレイグはシルビアに向けて言うと、彼は「もちろん」片目を閉じて答えた。
 その後ろではナカマたちも「まかせて!」と言うように、それぞれ頷いている。

「ありがとう、ポンポンのお姉ちゃんにハネのお兄ちゃんたち!フールフールのヤツはこの先にある岬のほら穴にはいっていっただ」
「よ〜しっ、悪い魔物ちゃん退治にしゅっぱ〜つ♪」

 チェロンも引き連れて、パレードは進行した。

「へえ〜ハネの人たちはこうやって世界を練り歩いて世助けパレードしてるだ?オラ、こんなすげえのはじめてだ!」

 御輿を近くで見るチェロンの目は、キラキラしている。

「よ〜し!村を襲った悪い魔物から、父ちゃんが大切なモノだって言ってた死んだ母ちゃんの形見を取り返してやるだよ!オラ、母ちゃんのペンダントを取り返すまでは村には絶対に帰らねえ!お姉ちゃん、お兄ちゃん、よろしく頼むだ!」
「危ないことや、無茶はしちゃダメだからね?」

 張り切るチェロンに、ユリは微笑しながらも注意して言った。

「バハトラの息子、チェロンは魔物にさらわれたワケではなかったのか。やれやれ……勇敢というよりは命知らずだな」

 楽しげに歩くチェロンを見ながらグレイグは言う。

「チェロンの頼みを引き受けたことでまた、フールフールを倒す理由が増えたな。いっそう気を引きしめていくぞ」

 最後にはそう真剣に言ったグレイグに、彼らしいとユリは思った。

「ふあああああっ、父上を見返すために子供ながらひとりでやってきたとはなんと健気なんじゃ……わしは感動したぞい!」

 そう叫んだロウの目は、感動で潤んでいるが、続いてその上にある眉がつり上がる。

「それにしても許せぬわ、バハトラよ!息子より死んだヨメの形見を取るとは……。いったい何を考えておるのじゃ!」
「……でも、バハトラさんがあんな遠くにいた理由って、チェロンくんを探しにきたんじゃないかな?」

 ロウの言葉はごもっともだが、彼の不自然な様子に、なにか理由があるんじゃないかとユリは考えた。

「ホメロスはどう思う?」

 頭のいい彼の考えを聞きたいとユリは声をかけたが、ホメロスから反応がない。

「……ホメロス?」
「ああ、すみません、ユリさま。この衣装を着ているということだけでなく、さらに子供が同行するという現実に耐えきれず、しばし意識が遠退いておりました」
「……無理はしなくて大丈夫だからね」
「アタシたち、世助けパレードと一緒にいれば、チェロンちゃんも安全だし、ペンダントを取り戻すの手伝ってあげましょ!」

 二人の会話はシルビアの明るく元気な声にかき消された。
 
「フールフールっていう魔物の手下は、南にある岬のほら穴に入っていったのよね」
「お姉さま!きっとあのほら穴よ!」


 ――岬のほら穴には牢屋があり、そこにはたくさんの人たちが捕らわれていた。

「竜族の上位種か……」

 その姿を見てホメロスは忌々しく呟いた。檻の中に入る人々を脅えさせるように魔物は眺めている。

 魔物は彼らの存在に気づいて、ゆっくり振り向いた。

「ホッホッホ。これはおどろきました。このフールフールさまの前にノコノコと現れる人間が、いるとは……」

 こちらを小バカにしたように見下ろすフールフールは、ピンクの鱗に黄緑色の皮膚をした竜だった。左手には呪術の腕輪と、右手には趣味の悪いドクロの顔がついた杖を持っている。
 ユリは古代図書館で見かけたりゅうはかせに似ていると思った。凶悪なオーラは段違いだが。

「アナタがプチャラオ村を襲った悪い魔物ちゃんね!村のみんなを返しなさいっ!」

 折り畳んだ羽扇をフールフールに向けて、シルビアは毅然とした態度で言い放った。

「ホッホッホ。そんなことのために、わざわざ危険を冒し、ここまで来たのですか。とんだおバカさんがいたものです」

 フールフールは黒い眼球に緑色の瞳孔でぎょりと眺める。その視線は、明らかに見下しているものだ。

「……いいでしょう。そのバカげた勇気を評して、村人を解放してさしあげます!」

 その言葉に、全員の顔がぴりっと険しくなった。

「ですが……タダで返してもらえると思ったら、そうは問屋がおろしません」

 彼らが疑っていたとおり、フールフールは続けて話す。シルビアはふっと鼻で笑い、続きの言葉を待った。

「そうですね……そこのお嬢さん。アナタのいちばん大切なモノをゆずってくだされば、村人を解放しましょう。悪い話ではないと思いますが、いかがですか?」

 ――私のいちばん大切なモノ。きっと、それは…………

(そんな話、信じるわけないじゃない!)

 ユリが怒りのまま口を開く前に、さっとシルビアの長い手が伸びて止めた。

「ユリちゃんっ、その必要はないわっ!」

 続けてシルビアは、フールフールを見据えて言う。

「これ以上、ユリちゃんに大切なモノを失わせはしないわ。ここはアタシの出番」

 そして、一歩前に出た。躊躇するような仕草をしながら……
 
「アタシが、ずっとずっとあたためてきた、とっても大切なモノ……。この魔物にあげるわ」
「シルビア……!」
「ホッホッホ!人間にしてはものわかりがよくて助かりますよ!では、さっそくいただきましょうか!」

 フールフールの元へ歩き出す直前、シルビアは魔物から見えないように顔を横に向け「!」ユリにウィンクした。

「ハイ、これ、大切に使ってね……」

 羽扇で隠すように、シルビアはフールフールの手のひらにそれを乗せた。
 フールフールはおぉ……と、それを持ち上げる。

「どれどれ……」

 まずは目を閉じ、スンスンとニオイを嗅いで。

「お、おおっ、なんとかぐわしい香り……っ!こ、これは……っ!」

 一体、シルビアはなにを――!

 次の瞬間、フールフールは地面にそれを投げ捨てた。

「……って、うまのふんじゃないですかァ!!」

 これでもかってほどカッと目を見開き、フールフールは叫んだ。

 う、うまのふん……!

 シルビア以外の皆もぽかんと驚く。
 そのうまのふんは、シルビアのナカ馬のマーガレットからの贈り物である。

「あっかんべーっ!アンタなんか、うまのふんがお似合いよ!」

 ふんふんふん♪馬のふ〜ん♪

 さらにシルビアは挑発するように、フールフールへお尻を向けてフリフリした。

「さっすがお姉さまー!ステキー!」
「もっとやっちゃってー!」
「マーガレットのうまのふんは最高品なのよー!」

 後方からナカマたちの大絶賛の声が飛び交い、さらにフールフールの神経を逆撫でする。

「ワタシを怒らせましたね……。このフールフールさまをここまでコケにするようなオバカさんは……」

 ――これでもくらいなさいっ!!

「あっ!?」
「いやん」

 ユリたちは呪文をふうじこめられた!

「く……。いきなり呪文を仕掛けてくるとは……ウワサ通りの姑息な魔物だ。これでは回復や補助に期待できんな。どう戦う?」
「フ……効果が切れるまで、呪文以外で戦う他ないだろう」
「安心せい、わしの奥義は使える!」

 グレイグ、ホメロス、ロウ――怯むことなくそれぞれ武器を構える。

「泣いてわびようが、絶対に許しませんよ!アナタたちの大切な命……チカラずくで奪ってあげましょう!」
「――逆よ。人々から奪った大切なものを今ここで返して貰う!」

 ユリは強い眼差しと共に、フールフールにまっすぐ剣を向けて言った。
 シルビアもすでに剣を引き抜き、戦闘準備はばっちりだ。

「いきなり呪文を封じるなんてズルい魔物ちゃんねぇ」
「さあ、いきますよ!」

 ――フールフールとの戦いが始まる。

「炎の嵐をきたれい!」

 魔物はインテリ風の格好の通り、呪文が得意なようで炎の上位呪文の「ベキラゴン」を唱えてきた。

「くっ……!」
「盾も意味なさんな……!」

 ロウは「いやしの雨」でわずかだが皆の傷を癒し、ホメロスは「ファイアフォース」で、まずはユリの炎の耐性を上げる。

 フールフールは「スクルト」を唱え、自身の身の守りを固めた。
 呪文が使えない彼らは物理攻撃しかしてこないからだ。まったくズル賢いことこの上ないな……グレイグは忌々しく呟く。

 だが、この程度で怯む自分たちでもない。

「今なら……すごく成功しそうな気がする!」

 ユリは両手を上に、ポンポンを振って「おうえん」する。

 ユリの「おうえん」は仲間全員を30%の確率でゾーンにするものだが、じつは今着ている「パレードのチアガール」は、その確率を60%まで上げる効果がある。

 さらに……

「アタシたちもボスの技を盛り上げるわよ!」
「みんな〜!アタシたちは手拍子しましょ!リズムっ♪」
「いっけーボスー!」

 後方でナカマたちがユリの「おうえん」に合わせて演奏し、効果が上がる。

 ――その確率、100%。

 全員、ゾーンに入った。

「なんと素晴らしき技。ありがとうございます、ユリさま!」
「力がみなぎってくるわい!」
「いや〜ん!ユリちゃんと皆のセッション……アタシ、しびれたわ!」
「いい技じゃないか、ユリ!」

 さあ、今度はこっちからの反撃だ――

 素早さの高いユリとホメロスが左右から駆け出し、弱点をつく「ドラゴン斬り」を叩き込む。さらに、そこにシルビアの火ふき芸がフールフールを襲う。

「ぐふっ……」

 フールフールは痛みに声を上げながらも、怯まず大きな尻尾を振り回した。

 ぶつかり合うような鈍い音が響く。

 その攻撃を盾で受け止めたのは、グレイグだ。
 彼はふっと口角を上げて笑う。
 盾とは反対の手には、剣からオノに武器を変えており――

「喰らえ!かぶと割り!!」

 飛び上がって頭上からの一撃は、守備力を下げる効果がある。

「今だっロウさま!」

 グレイグは後ろに跳んで、フールフールから距離を取った。

「はああぁ……」

 今まさに、精神統一をしていたロウの一撃が放たれようとしている。

「我が奥義……グランドクロス!!」

 ロウの両手から放たれた眩い光弾が、フールフールを十字に切る。
 確かなダメージを与えた。この奥義の威力を、ユリは身をもって知っている。

 だが、フールフールは余裕の笑い声を上げた。

「少しは楽しませてください!」

 彼らに杖を向け、次に唱えた呪文は……

「ラリホーマ!」
「!?」

 眠りの呪文に誘われ、ユリ、グレイグの二人が深い眠りに落ちる。

「二人だけとは運がよかったですね」

 今度は杖で攻撃を仕掛けるフールフールに、ツメを装備したロウが応戦した。

「おやおや、棺桶に片足を突っ込んでいるような老いぼれががんばるじゃありませんか」
「誰が老いぼれじゃ!フールフールよ、人間を舐めとったら痛い目に合うぞ……!」


 二人の武器がぶつかり合う音が、激しさを増す――!


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