「オレは世界を旅しながら料理の修行を積んでいるんだ。流れのコックってところだな」
――なんてことない、クエストの依頼だった。
「新たな料理のインスピレーションが欲しくて、思い出に残るみやげ物、ナンバーワンともいわれたプチャラオ村の虹色岩塩を買いにきたのさ」
虹色岩塩がナンバーワンの土産物だと、ユリは初めて知った。この村に初めて訪れた際は壁画グッズが流行っていたからかも知れない。
「ところが、今は虹色岩塩を入手できる場所に魔物が出るようになり、誰も取りに行けないそうなんだよ。なあ、あんたたち、ウデっぷしに自信がありそうだな。ひと粒なめただけで極楽気分という幻の調味料、虹色岩塩を手に淹れてきてくれないか?」
拐われた人たちを助けたと話を聞いて、流れのコックの男はユリたちに話しかけてきたらしい。
ユリはもちろん、引き受けることにした。
「おお!やってくれるんだな!虹色岩塩はダーハラ湿原にある霊水の洞くつって場所で入手できるらしい。岩塩があるのは洞くつの中央辺りだって話だ。根気よく探してくれよな。無事に手に入ったら俺の所まで持ってきてくれ。よろしく頼んだぞ!」
近くに来たら、霊水の洞くつに寄ってみよう。
「ユリさまはいかなる時でも頼みごとをお引き受けして、ご立派ですね」
「なんとなく、使命感が……」
ホメロスの言葉に、ユリは曖昧に笑って答えた。
「こんなにも村に笑顔があふれて……やっぱり人助けっていいものよね!世助けパレードをやっててよかったわ!あとはチェロンちゃんがパパに会えばカンペキね!……チェロンちゃんならすぐそこにオネエさまと一緒にいるわよ!」
ナカマの一人の彼が指差す先には、家の前で佇むチェロンと、その後ろで見守るように立っているシルビアの姿があった。ユリはシルビアに声をかける。
「シルビア」
「あら、ユリちゃん。これからチェロンちゃんがパパに会いにいくところよ。もしよかったら、ユリちゃんもチェロンちゃんを励ましてあげて!きっとよろこぶと思うわ!」
どうやら、ケンカ別れをしてしまったこともあり、なかなか父に会いにいく一歩を踏み出せなかったらしい。
「ペンダント、壊れちまってたし、父ちゃんすんげえ怒るだろな……」
しょんぼりするチェロンに、ユリは膝を折って、その目線に近づいてから優しく話す。
「お父さん、本当はチェロンくんのことを心配していると思うよ」
「え……?」
「私たちがお父さんと会ったのは、村から離れた場所だったの。きっと、チェロンくんのことを探してたんじゃないかな」
「父ちゃんが……」
「ええ、大丈夫よ!さ、行ってらっしゃい!アタシたちもここで待ってるわ」
シルビアの言葉にユリも頷き、チェロンを見送る。
「うん、お姉ちゃんたち、ありがとうだ。オラ、こええけど、父ちゃんに会ってくるだ」
チェロンは勇気を出して、自身の家の扉を開けた――……
椅子に座り、深刻そうな顔をしていたバハトラは、扉が開く音にそちらへと顔を向ける。その表情は驚きに変わった。
「……父ちゃん、いま帰っただ」
控えめにそう言い、バハトラの元へ歩くチェロンの手には、母の形見のネックレスが握られている。
「ごめん、父ちゃんがいちばん大切にしてた母ちゃんのペンダント、壊れちゃっただ……」
素直な言葉と共に、チェロンはペンダントを差し出した。
「ペンダント、だと……?」
バハトラからの口から出たのは低い声だった。チェロンは父が怒っていると思い、怖くて顔を上げられない。
「この……バカたれがぁ!!!」
……っ!その言葉に再び、再び顔を下げ、ぎゅっと目を瞑る。バハトラの拳は固く握られていた。
殴られるとチェロンは思ったが、いつまで経っても痛みはやってこない。恐る恐る目を開き、見上げる。
「どんだけ……」
……――父ちゃん、泣いてる。
バハトラは力が抜けたようにその場に膝をつくと、チェロンの肩を掴み、真剣な眼差しで言った。
「どんだけ心配したと思ってただ!おめえの命より、大切なモノなんてねえべ!」
そして、チェロンを抱きしめる。
「……だけど、父ちゃん、母ちゃんのペンダントがいちばん大切だって」
「そんなのウソに決まってる」
驚くチェロンの問いに、抱きしめたままバハトラは短く答えた。
再びバハトラはチェロンと向き合って話す。
それは、バハトラの真実だった。
「あの魔物に質問されたとき、悪い予感がして、とっさにウソをついただ。……おめえを守るために」
「……ホント!?」
そう聞き返してから、チェロンの大きな目からは涙が溢れてくる。
「父ちゃん、オラのことなんてどうでもいいのかと、すっかりカン違いしてた。心配かけて、ホントにごめん」
バハトラはなにも言わず、うんうんと優しく頷いて、チェロンの頭を撫でる。
その手の暖かさから父の愛情が伝わり、チェロンは堪えきれず、泣きじゃくった。
……――その暖かな家族の光景を、ユリたちは静かに見守っていた。
「チェロンは父親の本当の気持ちを確かめないまま、勝手に思いちがいをしていた。話し合えば、わかりあえるものなのだな」
「……言葉にしないと伝わらないこともあるけど、伝えたい大切な想いは必ず届くって……私はそう信じているよ」
グレイグに続いて、ユリは二人を見つめたまま言った。
「私には眩しすぎる光景だな……」
目を細めてぽつと言ったホメロスのあとに――シルビアが小さく口を開く。
「……そうね。アタシ、先に戻ってるわね」
静かにその場を立ち去るシルビアに、自然と皆の目が姿を追う。
……?どことなくその背中に憂いを感じたのは、自分の思い過ごしだろうか――ユリはシルビアの小さくなる背中を見つめた。
「そうだ、父ちゃん!このお姉ちゃんたちがみんなを救ってくれただ!」
そのチェロンの言葉に、全員そちらに意識を戻した。バハトラはチェロンと共に、四人の元へ歩く。
「旅のお方には二度も助けられちまっただな。アンタたちはオラたちのヒーローだ。本当にありがとう」
バハトラは四人を見回しながら言うと、頭を深く下げた。真似するようにチェロンも頭を下げて、くすっと小さな笑い声がユリたちからもれる。
バハトラは内緒話をするように、彼らにこそっと話す。
「……じつは、最初に助けられたときもチェロンを探しまわってただ。けれども、また魔物が来たら今度こそチェロンを奪われるかもしれねえ。だから、本心とは真逆の態度をしてただよ」
バハトラの行動の違和感がわかって、皆は納得した。直後、チェロンは家から出て、辺りをキョロキョロとする。
「あれ?ハネのオネエさんは?お礼、言いたかったのに……」
不思議そうに首を傾げて言った。
「急に出ていったが、どうしたのだろうな。ユリ、ヤツを探してみよう」
「うん、私もちょっと気になったの」
一行は少し様子がおかしかったシルビアを探してみることにした。
バハトラとチェロンにお別れをする。
「ハネのオネエさんにお礼言いたかったのに、旅立っちまっただな……。お姉ちゃん、もしハネのオネエさんに会ったら、伝えといてくんねえか?オラと父ちゃんがものすんげえ感謝してるってさ!」
「うん!必ず伝えるね。チェロンくん、元気で」
手を振るユリにチェロンは「お姉さんも元気でね!」と、振り返した。
「オラ、ヨメさんが死んでから、しばらく息子の気持ち考えてやれてなかったけどよ。こっからはチェロンとふたりで仲良くやるだ」
そう言ってバハトラはチェロンと微笑み合う。
「……アンタたちはオラたちのヒーローだ。一生、恩は忘れねえ。本当にありがとう。たまには息子に会いにきてくれだよ」
「きっと、亡くなった奥方も二人を見守っておる。バハトラ殿も達者でな」
――二人と別れて、四人はシルビアが去った方へ向かった。
歩きながら、最初に口を開いたのはロウだ。
「バハトラとチェロンはすれ違ってただけで、互いに大切に思っておったんじゃな。うむうむ、わしの思った通りじゃった!」
…………。上機嫌にひとり頷くロウに、ユリとグレイグは思わずそちらに顔を向けた。
確か、バハトラに対してプンスカと怒っていたような……。
……まあ、いいか。
「きっと、この親子はもう大丈夫じゃな。これからは仲良くやってけるに違いないわい。それにしてもシルビアのヤツ、物憂げな様子じゃったのう。いったいどうしたんじゃろうか?」
「賑やかな奴ほど、静かになると気になるもの。それにしても、あのチェロンという子供……。あいつを女性として呼んだところを見ると、あれで気を遣っていたのかもしれんな。フ、子供のくせに大人の真似事をしようとは……やはり子供は好かん」
「……いや、単にシルビアが周りからオネエさまと呼ばれていたから、真似して呼んだだけではないか?」
独自の見解を話すホメロスにグレイグはつっこんだ。
「チェロンちゃん、パパとのわだかまりが解けて、ホ〜ントよかったわねぇ〜!つい、もらい泣きしちゃったわ……うっうっ」
密かに様子を見ていたらしい泣いているナカマの彼に、ユリはシルビアの行き先を尋ねてみた。
「……?オネエさまを知らないか?階段を上って村の奥へ向かうのを見たわね。まだ、そう遠くへは行ってないんじゃない?」
ありがとう、と彼に言って、四人は階段を上がる。
この先はプワチャット遺跡に続く道だ。
「さっき、オネエさまがここを通っていったわ。なんだからしくない様子だったけれど、いったいどうしたのかしら……?」
道の途中で立っていたナカマの彼は、不思議そうにその先を見て言った。
(……シルビア……)
シルビアは村の奥の高台にひとりでいた。
「話し合わなくちゃ伝わらない……か」
こちらに背中を向けて表情は見えないが、ぽつりと呟いたその声は耳に届く。
「……アタシの思いはあの人に伝わるかしら……――ユリちゃん!いつから、そこにいたの!?」
草を踏み締める音に気づき、振り向いたシルビアはユリの存在に驚いた。
「ええと、ちょっと前?」
神妙なシルビアの雰囲気に、代表として一人やってきたユリは軽く笑って答えた。
シルビアも歩み寄り、ユリと向き合って口を開く。
「……あの親子、再会できてホントによかったわね」
そう言ってから、シルビアは空に目をやった。
「だけど、魔王のせいで亡くなった人々や、破壊された町は、もう戻らない……」
その声は底抜けに明るいものではなく、いつになく真面目な声で……ユリも真剣にシルビアの言葉に耳を傾けた。
「ねえ、ユリちゃん。ウルノーガは、世界を滅亡させるほどの強大なチカラを持っていたわ」
ユリはゆっくりと頷く。あのときの自分たちは、魔王を止めることはできなかった。
「あのチカラを目の当たりにしてなお、ユリちゃんはウルノーガと戦うつもりなの?」
シルビアのその問いに答える前に、ユリは命の大樹が落ちたあと、自分に起きたことをシルビアに話す。
海底王国で目覚めたこと、エルシスの行方がセレンにもわからないこと。
勇者の紋章を引き継いだ自分が、代わりに勇者になると決意したことを――。
「……シルビア。私、ずっと考えてたの。どうして、自分は一人生き残ったんだろうって」
師や、友や、仲間を置いて……。一人生き残ってしまった罪悪感は、ずっとユリの中で消えることはなかった。
「でも、エルシスがいない今、この紋章を受け継いで、ようやく生きていることに胸を張れた気がしたの」
シルビアからの問いの答えは……
「私は戦うよ。この世界をこんな風にした魔王を許せないし、この世界を救いたい――。それが、私が生かされた使命だとも思うから」
迷いない口調でユリは言った。まっすぐとしたその目は、エルシスと同じだと……シルビアは思う。
「……ユリちゃん、強くなったわね。アナタはもう一人の勇者よ」
ユリが自身の思いを吐露したのはきっと初めてだ。シルビアの胸は熱くなって、思わず背を向ける。
彼女が強くなったのは記憶を取り戻しただけではない。
(ユリちゃん、アナタは……)
自分の使命に気づき、強くならないと救えないと知ったからだ。
(守るために、強くならざるえなかったのね……)
シルビアは目を閉じて、自分の気持ちと向き合う。今度は、自分が自身について話す番だ。
「世界に笑顔を取り戻す!なんて言って、みんなが笑って元気になれるような世助けパレードをしてたけど……」
それは……世界を旅してわかったこと。
「魔王を倒さなくちゃ、笑顔は取り戻せない」
そして、その魔王を倒そうと再び立ち上がったのは他でもない、同じように絶望を目にした仲間たちだった。
(アナタたちとなら……)
シルビアに決意させた理由は、最初に勇者の旅についていくものと同じものだ。
きっと、何度巡っても自分はその選択をするのだと思う。
シルビアはユリと向き合う。
「だからアタシ、もう一度ユリちゃんたちの旅についていくことにするわ!」
「シルビア……!」
――その言葉にユリは、ほっと破顔させた。
新しい勇者の旅に、元仲間とはいえ強制はできない。ロウと違って、シルビアには魔王との大きな因縁もない。
なにより……仮初めの勇者の自分について来てくれるか不安だった。
「ありがとう……」
だから、シルビアのその決意は本当にユリは嬉しかった。
「大丈夫よ、ユリちゃん。今度は、ユリちゃんを中心にみんなが集まるわ。そんな予感がするの」
重圧と不安。そのユリの不安に気づき、シルビアは優しく言った。
「……でも、その前にひとつだけお願いがあるの」
シルビアは再び真剣な声で話す。
「アタシはウルノーガと戦って、命を落としたってかまわないわ。けれど、パレードのみんなは巻き込めない」
パレードのナカマたちはシルビアの世助けの考えに賛同してついてきたと聞いた。そんな彼らを、危険な旅に巻き込みたくない気持ちはユリにもわかった。
「だから、パレードのみんなを信頼できる人の所に預けたいんだけど……じつはひとりだけ当てがあるの」
そこでシルビアは両手を組み、顔をしかめる。
「でも、その人ホンットにおっかなくって、ひとりで会うのは心細いの。だからお願い!ユリちゃん、ついてきてくれない?」
「もちろん!ほかにチカラになれることがあったら手伝うよ」
「ありがと!それじゃあ今夜は遅いから、明日、話したことパレードのみんなに伝えにいきましょ!先に宿に行ってるわね!」
シルビアは足取りが軽く、先に階段を降りていってしまった。
ユリは待っていた三人と合流し、たった今シルビアと話した内容を伝える。
「シルビアのヤツ、よく決意してくれたわい!以前のようにヤツが魔王討伐の旅に加われば、大きなチカラとなってくれようぞ」
「あの賑やかな奴が仲間になるのか。元の仲間が戻ってきたことは喜ばしい限りだが、私はうまくやっていけるか不安だな……」
「おぬしとシルビア、なかなかいい関係を気づけると思うがのう」
「ロウさま……適当なことを言っておられますね」
ホメロスはジト目でロウを見る。
ユリはといえば、カミュとシルビアも最初はそんな感じだったが、旅をするうちに仲良く(ユリにはそう見える)なったので、シルビアとホメロスも大丈夫じゃないかと考えた。
「ほっほ。さて、シルビアは宿屋へ向かったようじゃな。わしらも激戦の疲れもあるし、今夜はもう休もうではないか」
ホメロスの視線に笑ってごまかしてから、ロウは言った。
四人も宿屋に向かい、今夜は早めに就寝する。
そして、翌朝――……
「シルビアは魔王討伐の旅に加わることをパレードの者たちに伝えるために、外へ出ていったようだな」
シルビアの後を追うべく、四人も宿屋を出発した。
「……しかし、信頼できる人の所にパレードの者たちを預けたいと話していたが、いったい誰のことなんだろうか……?」
「すっごくおっかない人みたい。心細いから一緒にきてほしいって……」
「ますますわからんな……」
ユリの返答に、グレイグは顔をしかめて首を傾げた。まあ、今から話を聞けばわかることだ。
そして……パレードは解散した。
……――数刻前。
シルビアは町の外で「大事な話がある」と、ナカマたちを集めた。
なんの話だろうと、わくわくして待っているナカマたちの中に、ユリたちも混ざっていた。
「ハ〜イ!みんな〜聞いて〜!」
御輿の上に立つシルビアは彼らに呼び掛ける。
「……アタシ、パレードやめる!」
前置きもなにもなく、唐突にシルビアは言った。その場に、がーんという音がユリには聞こえた気がする。
「ええええええええっ!!」
当然のごとく驚きの声が揃って上がった。
「だけど、安心して!魔王ちゃんをやっつけるまでの間よ!倒したら、絶対にみんなのもとに戻ってくるわ!」
シルビアは片目を閉じてそう言ったが、その場のざわめきは止まらない。
シルビアがパレードを止めるということは事実上解散ということで、皆は混乱と動揺した。
「……アタシ、オネエさまを応援する!みんなの笑顔を奪う魔王ちゃんなんて、絶対に許せないもの!」
考え込んでいた彼は、決意したように大きな声でシルビアに言った。
その声にその場のざわめきはピタリと止まる。
「アタシも応援するわっ!」
それを聞いて、同じように彼も声を上げた。
「オネエさまがパレードを離れるのは悲しいけど……魔王ちゃんをやっつけるなんて、オネエさまにしかできないことだから!」
続けて「アタシも!」「応援する!」と、次々と彼らから肯定する声が上がった。
彼らは大きく頷き、シルビアを見上げる。
シルビアは後ろを向いて鼻をすすった。
そして御輿の上から飛び降り、シルビアはナカマたちに向けて話す。
「そう、世界に笑顔を取り戻すためよ!だからそれまでの間、アタシのパパがいるソルティコって町で待っていてほしいの!」
「……パパ?……ソルティコ?」
その言葉にすかさず反応し、口に出したのはグレイグだ。
ユリはソルティコでのシルビアのおかしな様子を思い出す。
「……グレイグ?」
シルビアの元へ歩いていくグレイグに、ホメロスは不思議そうに名前を呼んだ。
グレイグは真っ正面かららシルビアのその顔をじっと見つめる。
「きっ、貴様、まさかとは思うが……ゴリアテか?」
グレイグの声は震えていた。
「うふふ、やっと気づいたのね!いつ気づくかずっと待ってたのよ!……グ・レ・イ・グ♪」
………………
――ノオオオ!!グレイグは雷に撃たれたような衝撃を受けている。
そして、そのまま空を仰いで固まった。
「……。グレイグ、どうしたの?」
「ユリさま。私にもさっぱりです」
「シルビアとグレイグ、二人は知り合いじゃったんか?」
「ということで、ソルティコに向けてしゅっぱ〜つ♪」
対してシルビアは元気よく片手を上げて言い、ナカマたちもそれに「いえ〜い♪」と続く。
音楽を奏で、踊って……最後のパレードはソルティコに向けて出発した。
あ、御輿が行っちゃう……ユリは指差すが、グレイグは空を仰いだまま、ぶつぶつと呟いている。
「な……なんてことだ。あの生真面目なゴリアテがあんな姿に……。ジエーゴ殿はさぞお怒りになるに違いない」
「……グレイグ、大丈夫?」
「おお、ユリ、す、すまない。あまりにもショックだったもので、つい取り乱してしまった……」
「お前、卒倒一歩手前だったがどうした?」
友の挙動不審に、眉を寄せてホメロスは聞いた。グレイグは皆に向けて話す。
「……ヤツの本当の名はゴリアテ。剣の達人とうたわれる、ソルティコの名門騎士の跡継ぎだ」
「え、ということは……」
「シルビアはジエーゴ殿のご子息じゃったんか!」
ユリの言葉を引き継いで言ったロウは、目を丸くして驚く。
「ヤツは幼少から父上のジエーゴ殿に鍛えられていたから、さぞ立派な騎士になると思っていた」
騎士になるどころか、妙な生き物になってしまったが……奴になにが起こったのだ――と、ホメロスは摩訶不思議に思う。
ジエーゴのことはもちろん、そのご子息のこともある程度耳にしていた。
ゴリアテという名前にも覚えがあったが、まさかあの者の名前とは結びつかない。
なんせ、修行中のグレイグが、たった"一回"しか勝ってなかったという噂の騎士見習いだった相手だ。
その者が、まさかあのシルビアという男とは……確かに自分も空を仰ぐかもしれない。
「ところが、あるとき理由はわからないが、ジエーゴ殿とすさまじい大ゲンカをして、町を飛びだしていってな。それきり、行方が知れなかったのだが……」
グレイグは腕を組み、明後日の方向に視線を向けてその頃を思い出しているようだ。なにやら首を横に振る。
「ちょうどいい。私もジエーゴ殿にお会いしたかったのだ。今度はお会いできるかもしれん。行くぞ、ユリ」
とりあえず一行は、少し先に進んでしまったパレードを追いかけることにした。
「ジエーゴ殿のご子息、ゴリアテが行方知れずとはずいぶん前から聞いてはおったが……それがシルビアだったとはおどろいたわい」
ロウの言葉にユリも頷く。
「ソルティコの町とシルビアはなにか縁があるのかなって思っていたけど……シルビアの故郷だったんだね」
ソルティコの町に訪れた際のおかしな態度にも納得だ。
「グレイグの話によれば……ゴリアテはジエーゴ殿と大ゲンカし、家出したそうじゃが、いったい何があったんじゃろうなあ?」
おっかない人と言ったのも、大ゲンカしたこともあるのかもしれない。
「あのゴリアテがまさかあんな風になるとは、誰が予想できただろうか……」
グレイグが呆然としながら呟くなか――……
(……ゴリアテ……シルビア……)
ユリはどっちの名前でシルビアを呼んだ方がいいのか考えた。