「アリスさーんっ!」
「ユリねえさんん!」
「わしもおるぞー!」
――ユリとロウとアリスは、感動の?再会を果たした。
というのも、自分たちは最後のパレードでソルティコまで行くから、シルビア号とアリスをお願いとシルビアに頼まれたからだ。
ユリはそのことを話して、ついでに自分たちのこれまでの経緯もアリスに話した。
自分たちはまだ、勇者の旅を続けていると――……
「……うぅっ!ユリねえさんがまさかそんな運命を背負うことになっていたとは……!あっしは夢にも思わなかったでげす。まずは、ねえさんが無事でなによりでがすな!エルシスのダンナは心配でげすが、きっと大丈夫でがすよ!」
三人が再会できたのだから、他の皆とも会えるだろう……と、アリスは励ますようにユリに言った。
「ありがとう、アリスさん。アリスさんも無事でよかった。海の近くで大丈夫か心配だったの」
「アリスが最初にシルビアを見つけて助けたと聞いたぞい」
「へえ、シルビアねえさんを見つけたのは不幸中の幸いでした。それから、あっしも共に世助けパレードをしてたげす。これからはあっしも皆さんのおチカラになるでげすから、行きたい場所があったら遠慮なく言ってくだせえ!あ、まずはソルティコの町へ行ってシルビアねえさんと合流でげすね。まさか、シルビアねえさんの故郷がソルティコの町だったとは驚きでげすな!」
――ところで。アリスはそこまで話して、"二人"を見る。
「そちらのお方は新しいお仲間でげすか?」
「…………」
グレイグとホメロスだ。二人は二人で、不思議そうにアリスを見ていた。
どう見ても荒くれ者のような雰囲気なのに、ピンクのマスクを被って、口調は気さくだ。しかも名前が可愛い。
一体、彼は何者……?
「二人はグレイグとホメロス。デルカダールの将軍で……以前は私たちと敵対していたけど、今は心強い仲間だよ」
まずはグレイグとホメロスをアリスに紹介し、ユリは続けて二人のことを詳しく話した。
「…………そうでげしたか。ユリねえさんたちが信頼しているお方なら、あっしから言うことはないでげす!」
「あのときは大切な船を沈めようとして本当に申し訳なかった……」
「頭を上げてくだせえ、ホメロスのダンナ。ダンナたちの誠意は先ほどの謝罪でもう十分伝わったでげすから。それに、この船はシルビアねえさんの船で、あっしはただの船の航海士。気を遣わないでくだせえ」
さすが、彼らの仲間だと――グレイグもホメロスも思う。アリスという男は、海のように広い心の持ち主だった。
「そう言っていただき感謝する。アリス殿」
「ああ、俺もだ」
「では皆さん、船に乗り込みやしょう!シルビアねえさんの船は、あっしがカンペキに準備しといたでがす!どんな荒波にも負けないでげすよ!」
「わだかまりは水に流れたな。……海だけに!ほほっ」
「ロウさまは船をお沈めにされたいのでしょうか」
「……ホメロスよ。最近、わしにちと辛辣じゃないか?」
「久しぶりのシルビア号ね!」
シルビア号に変わりはなく、ユリは懐かしい気持ちになった。航海中は何日もこの船で過ごしたので、実家に帰ってきた気分だ。
まずはグレイグとホメロスに船内を案内し、二人の部屋を決める。
「いい船ではないか」
「ああ、デルカダールの船ともそう変わりない」
グレイグとホメロスも、シルビア号を気に入ったようだ。
船はソルティコの町へ向けて出航し、全員、甲板へと出た。
「シルビアとどっちが早くソルティコに着くかな?」
「この海流でしたら船の方が早いでげすか、ぐるりと大陸を回るでがすから……もしかしたら同じぐらいに着くかもげすね」
「久々の航海はよいのう〜」
ユリとロウは久々の海風を全身に感じる。残念なことは、命の大樹が落ちてから海は濁ってしまったことだ。
「……海上での戦いは、お前の領分だったな」
「ん?ああ、そうだったかな」
「そうだったさ。こう見えて俺は、模擬訓練でお前に一泡吹かせられて負けたことをまだ根にもっているぞ」
「フフッ。それを言うなら俺だって……木剣で一度もお前に勝てなかったことを悔やんでいる」
「ハハッ、そりゃ何十年前の話だ」
――海を眺めながら、昔話に花を咲かせるグレイグとホメロスはとても楽しそうで……
ユリとロウは微笑ましく顔を見合わせた。
海には噂通りの強敵な魔物が現れたが、ホメロスの海戦術もあり、危なげなく対処できた。
シルビア号は赤い帆を広げ、順風満帆に海を往く――。
そして数日後、シルビア号は近くのソルティアナ海岸に停泊した。辺りには魔物も多く、イタズラする者もいないだろうから、アリスも共にソルティコの町へと向かった。
「どうやら、一足先にシルビアたちは着いたようじゃのう」
門の外から、すでに賑やかな音楽が聞こえてくる。
「つい先ほど、町に変な連中がやってきたんだ……」
そう動揺する見張りの騎士に、グレイグは「無害な連中だから安心してくれ」と伝え、一行はソルティコの町へ入れてもらった。
「いやあ〜ここがねえさんの故郷でげすか。まるで、シルビアねえさんの澄んだ心のように美しい町でがす。あっしは感慨深いでげす」
「「………………」」
アリスはシルビアの故郷であるソルティコの町に感動していたが、四人はその光景に無言になっていた……
「なにこの町キレイだわ〜!さすがはオネエさまの故郷ね!」
「な、なんですか、この人たちは……!とうとうこの世もおしまいですか……!」
「ンも〜プチャラオ村につづいてなんだかこの町のみんなも元気ないわね〜。アタシたちが笑顔を取り戻さなくっちゃ♪」
「こっ、こいつらだよ!西の地で踊りながら行進していた連中は!俺の目は正しかったんだ!な!なっ!」
「キャ〜〜着いたわよ〜〜オネエさまの故郷っソルティコ〜〜っ!そ〜れ、ドンドンドンッ!」
「天使たちがわしの周りを回っとる。いよいよ、わしにもお迎えが来たか……。ふが、ふが……」
――ソルティコの町が、世助けパレードの集団に混乱している。
「……なんだこれは。阿鼻叫喚の絵図か」
「ソルティコの町に……賑わいが戻ったね」
「賑わいは戻ったが、これは正解なのか……?」
「皆、ナカマたちにおどろいているようじゃな。最初はわしらも腰を抜かしそうになったし、この町の皆がおどろくのも仕方なかろうて」
ロウは朗らかに笑って言ったが……
「ひええええ、た…頼むっ!命だけは助けてくれ〜っ!」
実際に腰を抜かした者がいて、シャレにならなかった。
「ユリちゃんたち!こっちよ!……アタシたちもつい先ほど着いたところなの」
ユリたちはシルビアとちょうどタイミングよく合流できた。
シルビアはソルティコの町を眺めて、感傷深い声で話す。
「……不思議なものね。この町には二度と来るまいと思ってたのに、まさか、こんな風に帰ってくるなんて」
そして、その視線は向かって町の左側へ。
「あれがパパのお屋敷よ。みんなは知ってるわね。……だけど、ちょっと心の準備をしたいから、ユリちゃん先に行ってて」
「……わかった。先に挨拶しているね」
緊張している面持ちのシルビアにちょっと心配だったが、ユリはその言葉に従った。
アリスだけその場に残り、屋敷へと向かう。
ジエーゴの怪我のことを伝え忘れたが、ここまで来たらすぐにわかることだ。
「ランスさん、どうしたの?」
向かう途中、シルビアと同じような顔をしているナカマの彼が気になり、ユリは声をかける。
「ボス……アタシ、じつはこの町の出身なの。何も言わずにパレードに参加しちゃったから、家族を心配させてるかもしれないわ……。おまけに以前と格好も変わっちゃったし、家族はちゃんとアタシだってわかってくれるかしら……」
シルビアと同じような悩みだ。ユリは勇気づけるように彼に言う。
「最初はびっくりするかもしれないけど、生き生きしている姿を見せたら喜ぶんじゃないかな。家族なら、元気な姿を見られるのがいちばん嬉しいと思う」
「……そうね!アタシも家族と会いたいし、ちょっとこわいけど勇気を出して会ってみるわ!ありがとう、ボス♪」
笑顔を見せた彼に、ユリもにっこり笑った。人々を笑顔にさせる彼らには、彼ら自身にも笑顔でいてほしい。
ナカマたちが演奏する楽しげな音楽に耳をすませながら、ジエーゴの屋敷へと向かう。
町中の人も、パレードの皆に疑心的な人たちばかりではなくて……
「この方々こそ、私の救世主ですわ!西の地で魔物に襲われているところを救ってくださったんです!ひさしぶりにお目にかかれたけど、やっぱり刺激的でステキな方たち!さすが、救世主さまですわ!」
彼女は再会できて感動しているようだ。他の者たちにも、彼らが悪い者たちじゃないとすぐにわかるだろう。
「ジエーゴさまがすこしお元気になられて、つい先ほど目覚められたのだ。今ならお会いできるかもしれないぞ」
屋敷の門に訪れると、その門番の言葉に全員の顔が明るくなった。
「しかし、そこの連中は何者だ?一見害はなさそうに見えるが、ジエーゴさまに報告すべきだろうか……」
続けて訝しげに悩む男に、彼らは無害だとロウが説明し、一行は屋敷を訪問する。
ジエーゴが目覚めたこともあってか、快く屋敷内へと迎え入れられた。
「今までふせってばかりだったジエーゴさまが、急に先ほどお目覚めになったのだ。これは町が希望を取り戻すよい兆候だぞ。……しかし、先ほどから外が妙に騒がしい気がするのだが、何かあったのか?」
「世助けパレードが……」
「なぬ?世助けパレードが来た?……よくわからぬが、世助けというからには悪さをする連中ではなさそうだな」
屋敷の護衛役はそう呟き、四人はさっそくジエーゴに会いにいく。
ジエーゴの私室は階段を上がり、角の部屋だ。
そこには待機するセザールの姿があった。
「おお、皆さま、ようこそいらっしゃいました。本日、ご主人さまの体調がよろしいようで、ただいまお目覚めになっております」
「何度もすまんのう、セザール殿。ジエーゴ殿の体調が少しでもよくなったらそれが何よりじゃ」
「ぜひとも、お会いになってくださいまし。ロウさまとグレイグさまなら、きっとご主人さまもおよろこびになることでしょう」
にこやかにセザールは言って、最後に。
「……しかし、外が騒がしいようですが、何かあったのでしょうか?」
――セザールに部屋へ通してもらうと、ベッドに身体を預け、休むジエーゴの姿があった。頭には包帯を巻いている。
「ご主人さま、お客さまでございます」
「セザール、俺がこんな状態の時に一体誰が……」
「ジエーゴ殿、すまんの。一度見舞いがしたいと、わしがセザール殿に無理を申したのだ」
「!おお、ロウ殿じゃねえか!久しいな!見舞いなんて照れくせえじゃないか」
旧友の来訪に、ジエーゴから嬉しそうな声が上がり、彼はベッドから上半身を起こした。
久しい顔を見たあと、隣に視線を移す。
「お、もしやそちらの可憐なお嬢さんはロウ殿の孫か?」
「ほっほ。孫みたいな子じゃが、わしの旅する仲間じゃよ」
「初めまして、ユリスフィールです」
ユリはジエーゴに挨拶する。シルビアはおっかないと言っていたが。
「おう。初めましてなのに、こんな格好ですまねえな」
そう軽く笑って言うジエーゴに、気のいい……サンディ風に言うなら"イケオジ"だとユリは思った。
「……ん?お前、ホメロスじゃねえか。なんだロウ殿、ホメロスとも知り合いだったのか?」
驚くジエーゴに、ホメロスは騎士の敬礼をする。デルカダール城へ剣術の講義を赴いていたジエーゴに、ホメロスも何度か指導を受けたことがあった。
「ご無沙汰しております、ジエーゴ殿。ワケあって、今はロウさまたちと旅をしております」
「……ロウさま?」
「ゲフンゲフン!」
直後、ロウは大きく咳払いをしてごまかす。
――グレイグとホメロスに、自分はユグノアの前王であることは隠し「旅人のロウ」として、ジエーゴと友人だと話すのをすっかり忘れていた。
「それに、ホメロスだけでなく……」
「師匠、グレイグでございます。……ひさかたぶりです」
ジエーゴの視線が自分に向けられ、グレイグは拳を胸に、跪いてジエーゴに挨拶した。
「おうおう、グレイグじゃねえか!てめえが修行を終えて町を旅立ってからもう十数年か。近くに来てツラ見せろい」
自分の古い弟子との再会に、ジエーゴの顔は綻ぶ。
グレイグは、一歩二歩と前へ出た。
近くにきたその顔を、ジエーゴはじっと見つめ……やがて口を開く。
「……てめえの活躍はさんざん聞いてるぜ。図体でけえだけが取り柄だったてめえが、いまやデルカダールの英雄さまだ!ハハッ!」
豪快に笑うジエーゴは、今までベッドに伏せていたとは思えない。
グレイグは変わらぬ師の姿にほっとした。
「思ったより、お元気そうで何よりです。師匠のもとで騎士道を教わっていなければ、今の私はありえなかったでしょう」
黙って耳を傾けるジエーゴに、グレイグは続けて話す。
「……ここを旅立って、多くのことがありました。16年前のユグノアの悲劇に始まり、先日の大樹の落下。そして、今や魔王が……」
そこで、グレイグは顔を伏せた。
「――そういえば、シルビアはどうしたのだ。ユリ、私は師匠と話しているから、ちょっと様子を見てきてくれないか」
グレイグの言葉にユリはわかった、と頷く。確かに少し遅い気がする。
「本当はわしも古い友人じゃし、ジエーゴ殿と語らいたかったんじゃが……ここはグレイグに役をゆずるとするかのう」
ユリ、ロウ、ホメロスの三人はジエーゴに挨拶をし、一旦自室をあとした。
扉を開けたセザールは、扉を再び閉めると……彼らに嬉しそうに話す。
「ロウさまたちに会われて、ご主人さまもたいへんうれしそうです。あんなにも、お元気な様子を見るのはひさしぶりですよ」
「思ったよりもジエーゴ殿はお元気そうでまことによかった。さぞ、セザール殿も心労が多かったじゃろう」
「ご主人さまの幸せは我が至上のよろこびです。これをきっかけに、ご主人さまのお身体も快方に向かっていくとよいのですが……」
主人の元気そうな姿に喜んでいるのは、この屋敷に仕える者なら皆一緒のようだ。
「大ケガをされてからというもの……長い間、寝込んでいらしたご主人さまが急に目覚めてお元気になられたのら。あんな風に話すご主人さまはひさしぶりよ。教え子のグレイグさまとご友人のロウさたがいらしたことが、よっぽどうれしかったのね」
ずっと看病していたというメイドも、嬉しそうに彼らに話した。
屋敷から出て、ロウも彼らと同じように話す。
「ジエーゴ殿が元気そうで安心したわい!さすがはかつて怒れる剣神と恐れられた男。あの程度でくたばるヤツじゃなかろうて!」
「剣神……!本当にすごい人なんだね、ジエーゴさん」
「ええ、剣の講義にあの方が来てくれると、兵士の腕がみるみる上がるんです」
まあ、その分とても厳しい方ですが――と、ホメロスは続いて言った。
「さて、シルビアの様子を見にいこうぞ。きっと町のどこかにいるじゃろう」
ひとまず、最後にシルビアと話した場所へと三人は向かう。
――だが、そこにはアリスの姿しかないようだ。
「おおっ、ユリねえさん。シルビアねえさんでげしたら、長い階段を下りて海の方へ向かっていったでげすよ」
「海に……」
「どうもらしくない深刻な様子でげしたが……ねえさん一体どうしたんでげしょうねえ。ユリねえさん、様子を見にいってくれねえでげすか?」
ユリは笑顔で頷き、続いて海へと足を運ぶ。
「あの男……まだ決心がつかぬのか。ジエーゴ殿のご息子というならば、騎士の精神は身についているだろうに」
ホメロスはもどかしいように口にした。口ではそう言ったが、彼なりに心配しているのかもしれない。
「しかし、シルビアがおそれるのもムリないわい。知る人なら誰もが恐れるジエーゴ殿を怒らせて、十数年ぶりに会うんじゃからな」
そのロウの言葉に、少し会っただけではわからなかったが、そんなに恐い人なんだとユリは考える。
「グレイグが言っておった『すさまじいほどの大ゲンカ』とやらも、本当に壮絶なものだったにちがいないわい。ぶるるっ……おそろしや」
……え、そんなに?
そう聞くとだんだんとユリも恐ろしくなってきて、再会した際のシルビアの身が心配になってきた。
「……ホメロスはあまり、ジエーゴさんに恐ろしい印象はないみたいだね」
「話には聞いていましたが、私がジエーゴ殿から講義を受けたのは数える程度でしたし……お叱りを受けるようなことはなかったので」
さらりとホメロスは言い、最後のその言葉に当時から彼は優秀だったと窺えた。
――砂浜に出ると、三人はぽつりと一人、海を眺めるシルビアの姿を見つける。
「わしらはここで待っておる。シルビアのことを頼んだぞ、ユリ」
ユリはロウとホメロスに無言で頷いた。観光で賑わっていたソルティコのビーチは、今は閑散としており、波の音だけが聞こえる。
ユリが近づくと、すぐにシルビアは気づいて振り向いた。
「あっ、ユリちゃん。そっか、アタシを探しに来てくれたのね」
その笑顔は彼らしくない、弱々しいものだ。
「じつはね……アタシ、エルシスちゃんと再会できたら、ウルノーガと戦うって心に決めてたの」
「…………」
そう切り出したシルビアの話を、ユリは黙って耳を傾けた。
「再会したのはユリちゃんだった。でも、アタシの決心は変わらなかったわ」
ユリの目を見て微笑んだシルビアは「だけど……」と、沈んだ声で続ける。
「パレードのみんなを預けるために、パパと会う決心がなかなかつかなかったの。あのプチャラオ村の親子を見るまでは……」
プチャラオ村の親子……バハトラとチェロンのことだ。
「話し合えば、わかりあえる……。そう覚悟を決めてここまで来たんだけど、やっぱりパパと会うのがこわくてね……。アタシがこの町の出身だって、話したことあったかしら?」
シルビアはそこで顔を上げてユリに尋ね、ユリは手振りを交えて答える。
「……そう、グレイグが言ったのね。聞いての通り、アタシは子供のころから騎士になるべく徹底的に鍛えあげられた」
……ずっと、自身のことについて語らなかったシルビアから、初めて語られる生い立ち。
「だから、アタシはずっとこの町で騎士として生きていくものだと思ってた。そんなときだったわ。サーカス団が来たのは」
サーカス――きっと、それが"シルビア"の原点なんだとユリは思った。
何故なら、
「そのサーカスショー、とにかく面白くって!不思議と身体の中からチカラが湧いてくるの!アタシはサーカスのパワーに魅せられたの!」
さっきまで暗い顔が嘘のように、シルビアは弾む声で楽しそうに話すから。
「そして、アタシは確信したわ。笑顔は人を強くする!アタシの騎士道はこれだ!ってね」
そっか、とユリは頷く。騎士道についてユリはよくわからないが、シルビアの人々を笑顔にしたいという願いに、強い信念を感じた。
それがシルビアの騎士道というなら、ユリにもわかる。
「いてもたってもいられなくなって、いまのアタシに必要なのは旅芸人の修行だって、パパに打ち明けたら当然のように反対されて……」
最後は声を沈ませたものの、シルビアは海に向かって指を差す。
「そのとき、言ってやったのよ。世界中の人たちみんなを笑顔にできるような、アタシにしかできない騎士道を極めてやる!それまで絶対に帰らない!」
それまで絶対に帰らない――そう勢いよく言い放ったシルビアだったが、
「……って」
一拍置いて出た声は、ため息混じりの落胆した声だ。
「屋敷が壊れるくらいパパと大ゲンカして、アタシはこの町を飛びだしたってわけ」
がっかりと肩を竦めて。……シルビアが故郷に帰れないという理由がわかった。大ゲンカして顔を合わせるのが恐いというのもあるだろうが、
『アタシにしかできない騎士道を極めてやる』
そう啖呵を切った手前もあるのだろう。
「……おセンチな話、しちゃったわね。ねえ、ユリちゃん。アナタは『伝えたい想いは必ず届く』って言ってたけど、アタシの想いはパパに届くかしら?」
すがるような目をして聞いてきたシルビアに、ユリは目を閉じ、答える。
「シルビアが、お父さんに伝えたいと思うなら……」
そして目を開き、ユリはシルビアを見つめ――
「想いはね、強さに比例して飛んでいくんだよ。シルビアは決意してここまで来たんだから、絶対に届く」
最後はにっこり笑って、そう言いきった。
「……ユリちゃんとお話してたら、なんだか勇気がわいてきたわ」
……――彼女らしい理論に、シルビアは説得させられた。なによりも……自分がそうしたいと思ったからこそ、この町に帰ってきたのだと思い出す。
「ユリちゃんは不思議なチカラを持っているのね」
その不思議な色の瞳がそうだと物語っているようだ。このモヤのかかった空の下でも、輝きは失われない。
「パパに会うのはこわいけど……ずっとこわがってちゃ、前に進めないものね」
シルビアはそう呟き、新たに決心する。
「よ〜しっ!パパに会いに行きましょ!」
今度は共に――。ユリとシルビア、そしてホメロスとロウとも合流して、ジエーゴの屋敷に向かう。
「……たしかに。ジエーゴ殿からすれば、騎士として育てていた我が家の跡取りが、旅芸人の修行をすると言ったら怒るじゃろうな」
「むしろ激怒しない理由がない」
「んもうっ、ホメロスちゃんまで〜」
――気になっていた喧嘩の理由をシルビアから聞いて、ロウとホメロスは納得していた。
「じゃが、安心せいシルビア」
ロウはシルビアを見つめて言う。
「先ほどのジエーゴ殿は機嫌がよかった。今ならそんなに怒られんと思うぞ」
「また無責任に……」
ロウの言葉にホメロスは呆れて言った。
シルビアは「あまり期待できないわ」と言い、ユリはどっちにしろ怒られるんだ……と、思う。
それでも、そんな彼らのやりとりにシルビアの肩の力が少し抜けたようだ。
「おっ、シルビアねえさん!いよいよお父さまに会われる覚悟を決めたでがすね!さっすがはねえさんだあ!シルビアねえさん!がんばってきてくだせえ!」
「ありがと!アリスちゃん!」
アリスからエールをもらい、シルビアは……
「……ああ、懐かしいわね」
――帰りたくなかったわけじゃない。
我が家の門の前に立つと、恐怖だけでなく、色々な感情が込み上げてくる。
ここの敷居に足を踏み入れるのは、きっと、一歩前に踏み出すことと同じことだ。