ホメロスが投げたキメラのつばさの行き先は、怪鳥の幽谷近くにあるメダル女学園へだ。
「この学校が無事でよかったわー。小さくかわいらしい未来のレディに、悲しい涙は似合わないものね」
メダル女学園が平穏だと知って、シルビアは安堵して言った。
そこから歩いて、三人は怪鳥の幽谷へと向かう。
狭い足場に、図体がでかいグレイグは大丈夫かとホメロスが心配した直後――「うおっ」グレイグは足を踏み外した。
崩れた崖の破片が、音もなく激流に落ちていく。
「ちょっとグレイグ。気をつけてちょうだい」
「仕方なかろう。俺にはこの道は狭い」
「もっと慎重に足を運べは問題あるまい」
危なげながらも、三人は怪鳥の幽谷へたどり着いた。グレイグはほう…と谷全体を眺める。
「ここが怪鳥の幽谷か……」
「ここは凶悪なヘルコンドルが集まるおそろしい谷として有名だ」
子供の頃、書物で読んだ記憶を思い出しながらホメロスは言った。
「デルカダールの紋章にはワシのデザインをされていることもあり、鳥の名がついたこの場所には一度来てみたかったものだ」
「そういえば、子供の頃にそんなことを言っていたな。たしかに、ワシはデルカダールの象徴。俺も憧れていた」
「ウフフ……二人とも、マルティナちゃんと同じことを言ってるわ」
やはり、祖国の紋章に描かれている鷲には、三人とも特別な思い入れがあるらしい。
「逆にアタシは苦手なものってあんまりないけど、鳥だけはどうしてもダメなのよね〜」
「そうなのか?初めて知ったぞ」
「アタシのひとみが宝石のようにきらめいているのが原因かもしれないけど、鳥にはよくつつかれちゃうのよねえ」
「他に原因がありそうな気もするが」
シルビアが前と同じ理由を答えると、そのときは首を傾げるだけのカミュに対して、ホメロスは率直に言った。
シルビアの案内で、三人がまず向かったのは、ここのキャンプ地だ。
あくまのきしは夜になると徘徊する魔物らしく、日が暮れるのをここで待つことにした。
「ここは思い出深いわ……ユリちゃんが記憶を取り戻したのもこの場所なのよね」
「魔王軍が天界に攻め入り、襲われたユリは命は助かったものの記憶喪失になったと、話には聞いていたが……この場所で取り戻したのか」
「…………」
グレイグの言葉を聞いて、ホメロスはユリへの申し訳なさと、罪の意識に苛まれた。
自分が直接荷担をしたわけではないが、魔王から「天使たちは悪魔の子の勇者に寝返り、堕天使となった」と聞かされ、それを疑うわないどころか、あまつさえ自分は「天罰」だと思ったのだ。
魔王に洗脳されてたとはいえ、自分はなんて愚かであったと思う。
「ほらほら、ホメロスちゃんってば、そんな暗いカオしないの。笑顔よ、笑顔!」
「もともとこんなカオだ」
ここで起きた話をシルビアから聞きながら、グレイグがふと疑問に思って口を開く。
「ナイトプライドは一人を大幅にパワーアップするれんけいだが、誰にする?」
その問いに、シルビアとホメロスは視線を合わせてから答えた。
「グレイグでいいんじゃない?」
「ああ、俺も異論はない」
「わかった。……では、そろそろあくまのきしを探しにいくか」
「ええ、そうね!」
薄暗くなってきた空に、もう少ししたら夜の帳が下りるだろう。
三人はそれぞれ立ち上がり、あくまのきしを探しに歩き回る。
――だが、問題の魔物はなかなか見つからず……
「本当にこの場にあくまのきしはいるのか?」
「変ね〜真っ暗じゃないと出てこないのかしら?」
ついには、ごくらくちょうの巣まで三人は来てしまった。
「あの魔物……少し様子がおかしくないか?」
グレイグの視線の先には、ぽつんとドラゴンバケージが切り立った崖の上に立っている。
「ドンデロデン、ドンデロデン」
なにやらそう繰り返しており「ねえ、アナタ……」思わずシルビアはドラゴンバケージに話しかけた。
「あたしはナターシャ。ドンデロデンはしあわせのじゅもん。死んだお母ちゃんが教えてくれたのよ」
「そうだったの……素敵なママね」
ナターシャと名乗ったドラゴンバゲージは、魔物でも悪い魔物ではないようだ。
「大樹が地面に落っこちた日をさかいに、急に仲間たちが暴れん坊になってね。あたしはお家を追いだされてしまったの……」
そう悲しそうにナターシャは話した。大樹が落ちた影響は、魔物にも無関係ではないらしい。
「もうお家には帰れないし、あたしは世界にひとりぼっち。これから先、どうすればいいのかなあ……」
「魔物とはいえ、ひとりぼっちで悲しんでるナターシャちゃんを放っておけないわ。なにかいい方法ないかしら?」
なんとか助けてあげたい、というシルビアの願いに、ホメロスはグレイグに相談する。
「メダル女学園はどうだ?あそこは魔物でも入学できるのだろう?」
「たしかに……ミチヨ先生は『帰る家のない、ひとりぼっちの女の子』とだけで、魔物はだめとは言っていなかったな」
グレイグは、ナターシャにメダル女学園のことを教えた。
「……ドン、デロ、デンッ!メダル女学園!そこに行けば、もう……ひとりじゃないのね!お兄ちゃん、教えてくれてありがとう!」
「よかったわね!きっとナターシャちゃんもメダル女学園を気に入ると思うわ!」
「それじゃあ、さっそく出発するわ!手土産においしい果物をツボいっぱい積めていかなくっちゃ!」
ナターシャは元気よく、メダル女学園に向かっていった。
「……一人で行かせて大丈夫なのか」
「大丈夫だろう。たぶん」
教師に魔物もいるし。ナターシャを見送った三人は、一旦キャンプ地まで戻ることにした。川を挟んで向こう岸に、徘徊するあくまのきしの姿を見かけた。
すぐ近くにいたのか……!拍子抜けする三人であった。
「我が騎士の誇りに懸け……!」
「これがアタシの騎士道よ!」
――あくまのきしと戦闘に入り、ホメロスとシルビアは剣を顔の前に掲げ、グレイグに剣先を向けた。二人の騎士精神は光のエネルギーになって、グレイグに力を与える。
三人のれんけい技、ナイトプライド!
「うおおお……!」
グレイグのあらゆる能力が超アップし、ガードできる攻撃をすべて防ぐようになった!
グレイグはあくまのきしたちに猛攻を仕掛ける。
彼らの攻撃はグレイグには届かず、反対にグレイグは次々とその剣一本で倒していく。
「……思い出せ。お前たちの失われた騎士の誇りを」
最後に放ったその言葉は、かつて騎士だった彼らに届いただろうか――。
「ユリちゃんたちも待っているだろうし、さっそくあのおじいちゃんに報告しにいきましょ!」
ソルティコへ戻るため、ホメロスは再びキメラのつばさを投げる。
「ふぉっふぉ。おぬしたちのカオを見れば、わかる。あくまのきしを倒してきたようじゃな。これで、騎士の誇りを取り戻したはずじゃ。これからは正々堂々とおぬしに戦いを挑んでくるはずじゃて。ありがとうな。こいつはお礼じゃ」
グレイグはメタスラの盾を受け取った!
「……しかし、なげかわしいことじゃ。まさか、魔物になったことで騎士の誇りを忘れてしまうとはな」
騎士道を重んじる老人の次の言葉は、騎士の三人もよく知るものだ。
「信念を決して曲げず、国に忠節を尽くす。弱気を助け、強気をくじく。どんな逆境にあっても正々堂々と立ち向かう。これぞ、騎士道、三の誓い……。騎士たる者、三の誓いを忘れるようなことがあってはならんわい」
「……そうね。それはアタシたちも同じだわ」
改めて、三の誓いを心に刻んでから、三人はその場を後にした。
「さすが、ソルティコの町の住人だな。騎士道への造詣が深い」
「それに、いい盾をもらったわね!久々にアタシ、装備しようかしら!」
「さあ、船に戻るぞ。ユリさまたちは先に船へと戻って、我々の帰りを待っているだろう」
クエストをクリアした騎士三人は、ソルティアナ海岸に停泊しているシルビア号まで、急ぎ走った。