失われた神話

 ニズゼルファとは、いにしえの時代に存在した邪神の名前だ――。

「ま、まことなのか?ユリ」

 邪神、という言葉に震撼が走る彼らに、ユリは真剣な顔で頷く。ユリにとっては、皆がその名前を知らないことの方が不思議だった。

「ロウさま。私もサマディー王に会って確かめたいことがあります。詳しい話はお城でしましょう」

 確かに、ここで込み入った話をするのもなんだろう。皆も同意し、バクラバ石群を後にする。

 ……ん?砂の上を歩くユリは、赤く光る物体に気づいた。

 なんと!ユリは巨星のカケラを見つけた!

 手に取ると、表面には不思議な模様が刻まれている。

「ロウさま、読めます?」
「どれ……『遠き未来の者たちに託す』……。読めるのはこの言葉だけじゃのう」
「これだけでは、残念ながら意味はわかりませんね」

 ホメロスも覗き込んで言った。とりあえず、ユリは巨星のカケラを大事なものとしてポーチに入れる。なにかの役に立つかも知れない。

 関所に戻ると、唖然とする兵士たちの姿がそこにあった。

「勇者の星が突然光だして落下するスピードが速くなっただろ?あの時はもうダメだと思ったぜ。ホントに、今でもこうして生きてることが信じられないな」
「あの得体の知れない物体が壊れるとき、真っ二つに割れたように見えたが、あれは気のせいだったのだろうか……」

 皆、今まで夢でも見ていたような放心ぶりだ。

「勇者の星が地上に落ちる寸前に、運よく壊れるなんて信じられません。きっと何かが起こっていたはずです。あなたはバクラバ石群にいたのでしょう?もし、あそこで何か見たのであれば、私に教えてくれませんか?」

 ユリは学者に真剣に尋ねられて、見たままのことを話す。

「……なんですって!?何者かが星を斬ったですって!?……じょっ、冗談ですよね?だって、あんな巨大な星が斬られるなんて、そんなことあり得るはずがない……」

 そう学者はブツブツ言って、自身の思考に入ってしまった。同じようなことをカミュも呟く。

「人が星を斬るなんてそんなことありえるんですか……?それとも人ではなく、魔物?もう何がなんだかわかりませんが、とんでもない瞬間を目撃したのは確かなようです……」
「星を斬るほどのチカラと剣さばき。とても人間技とは思えぬ……。ファーリス王子はあの者が世界を救う救世主だと言っていたが、どうも胸騒ぎがしてならん……」

 続いてグレイグも。それに関しては、ユリもまったく訳がわからなかった。救世主だとしても、あの魔王に似た邪悪な気配は……

「ロウさまは魔王の剣を見たとおっしゃっていたな。……邪悪な気配はあの剣からだったんだろうか」

 魔王の剣……。ホメロスの言葉にユリはこう考える。もし、あの人物が魔王だとしたら、何故あの星を破壊したのだろうか。
 巨星が落ちるのを待っていれば、この辺り一体は壊滅して、魔王にとっては都合がいいはず。

「……まっ、それはアタシたちが今考えてもわからないわね。とりあえずサマディー城に戻って、ユリちゃんの話と王さまちゃんに話を聞きましょ」

 シルビアの言葉に、納得した皆は思考を止めた。来た道を戻るように馬を走らせる。
 サマディー国に着き、馬から降りた一行は、引き馬をして城下町へと訪れた。

「皆さま、お疲れのところ申し訳ありませんが、王さまが勇者の星に何が起こったのか報告してほしいとのことです。王さまは玉座でお待ちしています。よろしければ、城へお向かいください」

 一行の帰りを待っていた兵士から、王の伝言を聞き、ちょうど自分たちも王に会いにいくつまりだったと伝える。

 ひとまず、借りていた馬を返すため、バドックの方へと向かった。

 人々の話に耳をすますと――星の落下の脅威がなくなったが、どちらかというと星が消滅したことに皆は驚いているようだ。

「うはー!すごい音がしたと思ってあわてて飛びだしてみたら、勇者の星がなくなってやがる!あんなに大きな星がなくなるなんて信じられないぜ……」
「あなたは見ましたか?勇者の星が一瞬で消えてしまったのです。いったい、何が起きたんでしょう……」
「勇者の星が壊れるときの強烈な光が今でもマブタに焼きついてるぜ。すげえもん見ちまったな……」

 ……そんな彼らの話を耳にし、グレイグは口を開く。

「どうやら、ここからは何者かが勇者の星を斬るところまでは見えなかったようだ。まあ、そう言ったとしても誰かが剣で星を斬ったなんて話……簡単には信じてくれないだろうな」

 不思議そうに話す人たちを見ながら……

「勇者の星の対策を探るため、王国の外に出かけていた夫がそろそろ帰ってくるはずです。ホントに長い間会ってなかったから、ひさしぶりの家族団らんが楽しみですわ」
「いにしえの時代に生きた伝説の勇者はロトゼタシアを見守るため、天に昇り、勇者の星になったと伝えられます。皆、星の脅威が消えたとよろこんでいますが、世界の守り神であるあの星がなくなったことは、本当によいことなのでしょうか……」

 夫の帰還を待ちどおしいと喜ぶ女性に、逆に星が消滅したことによって不安がる者もいるようだ。

「きっと王子さまが星を壊したのたよ!さすがは私たちの王子さまだわ!王子さま大好き!愛してる!」

 さらにはこんな声まで。

「このコ、王子さまが星を壊したって言うのよ。ファンとしてそう思いたいのはわかるけど、さすがにそれはないと思うわ」

 同じファーリスファンクラブ会員でも、友人の彼女の方は冷静なようだ。

「王子さまは世界一優秀でカッコいいけど、星を壊すようなチカラはないわ。だって、同じ人間ですもの」

 あの王子が世界一優秀でカッコいいと思うのも、十分盲目なんじゃ……と、カミュはこっそり思う。

「勇者の星の落下でサマディーは滅び、世界が恐怖に包まれると思ったのだが、まさか砕け散るとはな……。いったい、いつになったらこの世界に終末の時が訪れるのか。もう待ちくたびれてしまったぞ……」

 あの邪神教徒と思われる男ががっかりしている姿には「ざまあみろ」というような悪い顔をして、ホメロスは鼻で笑った。

「勇者の星がなくなって、ソワソワしてたウマたちが落ち着きを取り戻した。これで俺もレースに集中できるな」

 馬を馬房に返すなか、馬たちも元気になったと聞き、顔を見合わせて喜ぶのはユリとグレイグだ。

「あの星がなくなってからウマたちに元気が戻りました。えっ、どうしてわかるのかって?」

 ずんぐりとした小柄な馬丁の男の話に、ユリは耳を傾ける。

「そりゃ簡単ですよ。ウマのフンを見るんです。今のウマのフンはバツグンな色をしてます。ホントにバツグンなフンですよ」
「バツグンな色……?」

 見たい……と好奇心に駆られる彼女を、ホメロスは止めた。

「この世界に魔物があふれてから、愛着があるウマがたくさん死んでいったが、いつまでも落ち込んではいられないよ。私たちにできるのは、魔物を倒してサマディーに平和を取り戻すことだ。それが死んだウマの供養にもなるだろう」

 前を向くように話したのは、懺悔するように馬たちの死を悲しんでいた兵士だ。
 一行も馬たちにお礼を言って、立ち去ろうとしたとき――ユリは片足を庇うように歩く馬丁の姿が目に入った。

「父さん!足の治療が終わってもまだ無理しちゃだめって、セイドン先生も言ってたじゃない!」

 そう男を呼んで、慌てて寄り添う彼女は、……間違いない。

「ディアナさんっ……?」
「あなたは、キレイな目をした郵便屋さんの……!」
「おお、あの時の旅の者ではないか。その節は兄妹ともどもお世話になったな」

 ディアナにアポロまで。思わぬ再会だった。

「世界がこんなことになって心配してたの!元気そうでよかった……!……あら。でも、キレイな目をした郵便屋さんの姿だけ見当たらないみたい」

 キレイな目をした郵便屋さんこと、エルシスについてユリは事情を話す。
 ディアナとアポロは恩人である彼の身を心配しつつ、ユリに今の自分たちのことを話してくれた。

 また、家族三人で暮らすことになった……と。

「こんな時だから、家族3人、身を寄せ合って生きていくことにしたの。家族がそばにいてくれたら安心だものね」

 シルビアが「よかったわ」と嬉しそうに頷く。ラハディオ宅で彼女の姿を見かけなかったので、じつは気になっていたのだ。

「くれぐれも誤解しないでくれよ。こうして家族3人で暮らしているからといって、私は親父のことをゆるしたワケじゃない」

 そう硬い声で言ったのはアポロだ。「もう、兄さん……」と、ディアナは苦笑する。

「……だけど、ひさしぶりに見た親父の背中はずいぶん小さくなっててなあ……。いつまでも子供ではいられないと思ったよ」

 二人の父親であるゼイウスは、ディアナから話を聞くと、ユリたちに何度も頭を下げた。

「あっしは心底ひでえ親父でやした。すこしでも子供たちに償いがしたくて、ガムシャラにはたらいてきやしたが……そんなどうしようもないあっしの所に、子供たちがこうして訪ねてきてくれたんでさ!こりゃ夢じゃねえですよね!?」

 その目に涙を浮かべ、くしゃくしゃな笑顔で本当に嬉しそうに彼は話す。

「こうしてまた家族で暮らせるのも、すべて旅人さんのおかげだと聞きやした!あんたたちはあっしの神さんだ、ありがとう!」

 何度もお礼を言われ、ユリは気が引ける。
 彼らを助けたのは――

「キレイな目をした郵便屋さんに再会したら、私たちのことを伝えてください」
「それに、近くに来たら顔を見せてくれともな」
「必ず、お伝えします」

 ディアナとアポロにユリは深く頷き、答えた。


 ――宮殿へとやってきて、その美しい城を目にすると、カミュはほっと胸を撫で下ろす。

「サマディー城に着きましたね。でも、まさか落ちてくる星の真下にいて生きて帰れるとは思いませんでした。もう生きてるだけでもうけものって感覚ですよ」

 そのカミュの言葉には、ちょっとわかるかもとユリは同意した。最初に宮殿から出発して帰ってくるまで、一日も経過していないのに、やっと帰ってこれたと言うような気分だ。

 宮殿前では、訪れた際と同じ兵士たちが出迎えてくれた。

「ようこそ、サマディー城へ!わざわざ遠くからこんな所までお疲れサマディー!……って、王子さまに言ったら無視して玉座へ走っていったよ。星のことで王さまに報告しにいったのかな」
「ファーリス王子が走って帰ってきました。とてもコウフンした様子でしたが、まさか王子があの星を!?」

 ユリは「いいえ」と答えると、兵士はどこかほっとしたような顔をする。

「そうですよね。いくら王子でも星を壊すなんて芸当できるはずがありません。では、いったいなぜ壊れたのか……」

 もしも「はい」と答えたら、どんな返答だったか、ユリは気になってしまった。

「ややっ、あなたは王子さまの恩人!勇者の星が砕け散ったことについて、何か知っているのでしょう。王さまのもとへお急ぎください。王子さまは先に玉座へ向かいました」

 玉座を目指して宮殿内を進むと、すぐにユリはあることに気づく。

「シルビア!ネコがたくさんいるよ!」
「ええ!星が消え去って、ネコちゃんたちも安心して帰ってきたのね!」

 二人だけでなく、宮殿で働いていたメイドや兵士たちも猫たちの帰還に喜んでいた。

「ネコが帰って来たの!こんなにうれしいことはないわ」
「勇者の星が消え去った後、急にネコたちが戻ってきたんだ。危機が去ったことを知ってるんだろうね。なにはともあれ、大好きなネコたちが帰ってきてホントにうれしいよ」

 それだけで、宮殿内が明るくなった気がする。

「彼と一緒に飼っていたネコもこうして帰ってきてくれました。だから、彼もいつか帰ってくると思うんです」

 そう話したのは、健気に彼の帰りを待つメイドだ。

「わたしはあきらめず待ち続けます。彼が帰ってくるその時まで……」

 抱っこした猫を優しく見つめながら彼女は言った。きっと、二人で飼っていた猫が、それまで彼女を支えてくれるだろう。
 
 ――ヘックション!

 直後、ひときわ大きなくしゃみがその場に響いた。一回では終わらず、続けざまにくしゃみをするグレイグに、ユリは視線を移す。

「……すまん。俺はネコアレルギーなんだ」

 ネコアレルギー?首を傾げるユリに、どういうものなのかホメロスが説明した。

「じゃあ早く用件を終わらせて、ここから出た方がいいね」
「いや、俺のことは気にするな。くしゃみだけで……へ、へっ……」

 ヘックション!

「ちょっとグレイグ!ネコちゃんがびっくりしちゃったじゃない!もうちょっと抑えてちょうだい」
「そう言われてもだな……」

 グレイグのために、ユリはあまり猫がいないルートを通ることにした。

「弱音をはくんじゃないっ!星がなくなっても新たな危機がいつサマディーを襲うともかぎらん!我らサマディーの騎士が王国を守るのだ!さあ、気合いを入れろ!」
「……はあ、はあ。兵士長はいつかこの訓練が報われる時が来ると言うけど、とても信じられないねえ……」
「勇者の星がなくなっても、訓練は終わらない。次の逆境はそこまで迫ってるんだ……。兵士長の言う通り、がんばるんだ。どんな逆境でもはね返す男になるために、正々堂々がんばるん……ううう」

 訓練場では、兵士たちは変わらず訓練に励んでいた。
 弱音を一切許さない野心家の兵士の指導に「なかなかの鬼教官ちゃんっぷりね」と、シルビアは笑う。

「ジエーゴ師匠ほどではないがな」
「ああ、そうだな。あれはまだまだ甘い」
「ジエーゴ殿は鬼ではなく鬼神だからのう」
「最初の頃はグレイグったら、パパに怯えて剣を握る手が震えていたものね〜」
「!余計なことを言うな、ゴリアテ!」

 シルビアの発言にグレイグが慌てて制止した。青年時代だったとはいえ、グレイグが怯えるほどのジエーゴの指導……カミュは話を聞くだけで引いていて、ユリは恐いもの見たさで逆に気になった。


 ――長い階段を上がり、玉座の間にたどり着く。


「よくぞ戻られました。先に戻ったファーリス王子は玉座で何やら王と話しております。ずいぶんコウフンした様子で救世主!救世主!と叫んでおりますが、何かすごいものでも見たのですかな」

 大臣の言葉に一行はそちらへ目をやる。

「あれは絶対、救世主です!間違いない!」

 ……確かに。大臣の言った通り、ファーリスは熱意を込めてサマディー王に話をしていた。
 一行を代表して、ユリとロウは王の元へ足を進めた。

「ファーリスが無事に戻り、ホッとしました。あの子のことはあの子にまかせると決めてましたが、やはり不安になりましたわ。ユリさん、ロウさま。様子を見てくれて本当にありがとうございました」

 先に王妃にお礼を言われ、二人はとんでもないと首を横に振る。

「ああっ、ユリさん!ちょうど今、父上に救世主さまのことを話してたんだ!よかったら、ユリさんもバクラバ砂丘で目撃したことを父上に話してくれよ」

 冷めぬ興奮のまま、ファーリスはユリに言った。促されるままユリとロウは、サマディー王の前に立つ。

「おふたりとも、よくぞ戻られました。勇者の星がいきなり砕け散ったので心配していたのですが、無事でなにより。ファーリスから話は聞いておりますぞ。星が落ちてもうダメだという時に、救世主が現れ、あの星を斬ったそうですな」
「救世主かどうからわからんが……まあ、それはいいのじゃ。それより、おぬしに聞きたいことがある」

 ロウは一度ユリを見て、彼女が頷くと、再び口を開く。

「わしが見たところ、星をおおう結界にはニズゼルファ……そう刻まれておった。この言葉に何か心当たりはないか?」

 サマディー王は視線を上に向けて、その言葉に心当たりがないか考えているようだ。
      
「……ニズ……ゼルファ?うーん……聞き覚えがありませんな」

 王の答えに、ユリは不思議に思っていたことが確信した。

「ニズゼルファとは邪神の名前です」
「邪神……だと?なぜ、邪神の名前が勇者の星に刻まれておったのだ?」

 驚くサマディー王の問いに、ユリはその答えは持っていなかった。勇者の星の存在自体が、ユリにとっては謎の存在だ。

 答えが出ないその場に、ロウはユリを見て言う。

「仕方がない。わしらには魔王を倒すという大事な使命が残っておる。先を急ぐとするか」
「ニズゼルファについては城の学者に調べさせておこう。ロウ殿、魔王退治の旅、私たちも微力ながら応援いたしますぞ」
「もし、こまったことがあれば、なんでも言ってくれよ。今度こそ、ボクがユリさんのチカラになるからさ!」

 その言葉と共にサマディー王は頭を下げ、対してファーリスは親指を立て、自信満々にユリに言った。

「……そうだ」

 ユリはあることを思い出し、さっそくファーリスに尋ねてみる。

「砂漠に咲く幻の花について?ああ、"さばくのバラ"のことかな?」
「それです!それを探していて……」
「ボクはこの国の王子。さばくのバラがどこに咲きやすいか当然知っているさ!今日はもう遅いから、明日、共に探しにいこうじゃないか、ユリさん!」
「王子、どの辺りか場所を教えてもらえれば……」
「ああ、もちろんこの城に泊まっていってくれ!城の者たちに言っておこう」

 ユリの口を挟む隙を与えず、最後にファーリスはパチンとウィンクし、颯爽と行ってしまった。

「ユリはずいぶんとファーリス王子に気に入られておるのう。それはそうとじゃ。せっかくじゃから王子のご厚意に甘えて城に泊まるとせんか?」

 一日中、ウマに乗って腰が張ったわい――そう腰を叩くロウに、ユリは軽く笑って頷いた。
 他の皆も異論ないようだが、カミュだけ「城に泊まるなんてなんだか落ち着きませんね」と、眉を下げて笑った。


「私、ずっと気になっていたことがあるの」

 ――宮殿にある客間を借りて、ユリは皆にそう話を切り出す。

 バクラバ石群で中断した話だった。

 テーブルの上にはそれぞれカップが置かれ、メイドがお茶を注ぐ。サマディー地方は茶葉の名産であるらしく、ホメロスは口を付ける前に豊かな茶葉の香りを堪能した。

「邪神の名前であるニズゼルファ。この名前は天界では古くから言い伝えられていたのに、地上では伝わっていない。勇者の伝説は神話として残されているのに、邪神については詳しく残されていないのが不思議で……」

 ユリの話を真剣に聞いていた皆は、そういえば……と、納得する。

「それに、私はあの勇者の星についても、天界では聞いたことがなかった……」

 いにしえの時代に勇者ローシュたちによって倒された邪神の名が、何故、あの勇者の星と呼ばれる星に刻まれていたのか。(もしかしたら、天界にも地上にも語られていない歴史が……?)
 続いて、ユリは自分だけにしか見えない黒い精霊についても皆に話した。

「黒い精霊に、星を斬った剣士……すべてが謎に包まれているな」

 ホメロスはまったくわからないことだらけだ、と額を片手で覆って言った。
 せめて、あの謎の剣士の正体が判明すれば……ホメロスはあの剣士に魔王の気配を感じていた。

「気のせいかもしれんが、勇者の星はバクラバ石群に向かって落ちてきたように見えたのう。石柱にも古代の壁画が刻まれておったし、あの遺跡はそれらと何か関係があるのかもしれんな……」

 壁画には賢者の絵らしものはわかったが、もうひとつの絵はロウが見てもなにかさっぱりだった。

「まあ、あの遺跡の解明についてはサマディーの学者たちにまかせよう。サマディー王は調べてくれると言っておったしな」
「わからないことだらけだけど、勇者の星の一件は無事解決ね。もうサマディー王国は心配いらないわ。後のことはファーリスちゃんたちにまかせて、アタシたちはゆっくり休みましょう」

 難しい顔をしていた彼らに、シルビアは明るく投げかけた。
 その場の空気だけでなく、ユリの表情もゆるむ。
 考えるのは一旦止めて、夕食までの軽食として出された、サマディー名物のスイーツを堪能することにする。

 そして――。

 今宵は大浴場にフカフカのキングサイズのベッドと、一行は十分に身体を休めた。


- 173 -
*前次#