人助けの理由

 翌朝、夕食だけでなく朝食もいただき、一行はサマディー王にお礼を言う。
 ファーリスはすでに出発したらしく、兵士から「先に門の前で待っている」という言付けを、ユリは受け取った。

「なにやら王子は、いつになく張り切っておりました」

 いくら友好的なファーリスといえ、さすがに一国の王子を待たすわけにはいかない。一行は急ぎサマディー城を出発する。

「勇者の星がなくなって、サマディーの町も落ち着きを取り戻していますね」
「昨日はまだざわざわしてたものね」

 勇者の星の消失から一夜明け――城下町を歩くなか、カミュはユリに話しかけた。

「これなら、一度はサマディーから避難した人たちも城下町に戻ってくるでしょう」

 以前のようにとはいかなくとも、少しでも城下町に活気が戻ればいいな……と、町を眺めながらユリは思う。

「ねえ、ユリちゃん聞いた?勇者の星がなくなったのを記念して、サーカスの無料期間が延長したらしいわ。さすが団長、太っ腹よね♪お客さんも戻ってきてるみたいだし、もう心配いらないわ」
「すごいね、団長さん!またサーカス見に行きたいな」

 嬉しそうに話すシルビアに、ユリも同じように笑顔で返した。そんなユリの耳に、なにやらブツブツとした声が届く。

「今は仮説をまとめる段階ではない……。もう一度、巨星のカケラを調べてみないと、私の推測した内容の裏づけには……」

 何やら深く考え込んでいる学者だった。巨星のカケラ……?ユリがその単語に反応して声をかけると、学者はようやく顔を上げる。

「……おおっと、これは気がつきませんで。私は天文学を研究していたのですが……研究対象だった勇者の星が夜空から姿を消し、しばらくは何も手につかなかったんです」

 彼は以前から勇者の星を研究対象としていたという。危機を脱したかも知れないが、研究対象がなくなれば、それとは別にショックだったのだろう。

「しかし、学者仲間が砂漠から持ちかえってきた巨星のカケラを見たとき、私の頭脳にほとばしるものが!」

 打って変わって学者は力を込めて話す。

「研究を進めるため、新たに巨星のカケラが欲しいのですが、カケラの落ちている付近は魔物が多く、私では危険で近づけないのです。お願いです、旅の人。どうか私の代わりに巨星のカケラを手に入れてきてくれないでしょうか?」
「それなら……」

 ユリはポーチから、昨日拾った巨星のカケラを取り出した。使い道がわからない自分が持っているより、学者の彼に研究してもらったらなにかわかるかも知れない。

 ユリは巨星のカケラを渡した!

「おおっ!なんと譲ってくださるのですか!?ありがとうございます!では、さっそくこの巨星のカケラを調べてみるとしましょう」

 学者はユリから受け取った巨星のカケラをじっくり眺める。

「むむ!これは……っ!」

 さっそくなにかを発見したらしい。

「なるほどーっ!この巨星のカケラには古代の人たちが使っていたという封印の文様の痕跡があるようです!勇者の星と呼ばれていたくらいですし、あの星には勇者さまの大いなるチカラが封印されていたに違いありません!」

 なにかが封印されていたのは確かだが、勇者の力と言われるとユリはピンとこない。

「しかし、気になるのはカケラに刻まれた『遠き未来の者たちに託す』……と読める言葉です。勇者のチカラを未来に託すという意味が……?ううむ……これはもっともっと研究してみたくなってきたぞ!」

 学者はロウと同様に古代文字を読み取ったようだ。張り切る学者はお礼を手にする。

「旅の人よ、あなたがくれた巨星のカケラはじつに興味深い物です!私の感謝の気持ちを受け取ってください」

 ユリはしんかのひせきを3個受け取った!

 特に新たな発見はなかったが、貴重な素材を手に入ったのは嬉しい。なにか新しいことがわかったらまた聞かせてほしい、とユリは学者に話し、その場を離れた。

 門が見える位置に来ると「おーい」ファーリスがこちらに大きく手を振っている。

「ユリさんたち、わざわざ王子さまの様子を見にいってくださったとお聞きしました。本当にありがとうございます。あなたたちにはいつもお世話になっていてアタマが上がりませんよ」
「星の騒動も一件落着しましたね。思えば、あなたがサマディーに来ると何かしら事件が解決する気がします。またこの国に事件が起きたときは、あなたを呼びにいきますかな。はははっ」

 ユルい側近の真面目な言葉は置いておいて、豪快に笑って言った門番の兵士の言葉に、ユリたちは苦笑いした。

「では、行こう!さばくのバラはサマディー王国から南の方に咲いてることが多いんだ」

 サマディー国を出ると、ファーリスを先頭に、一行はその後をついていく。

「ここからは流砂の谷なんだ。一度落ちたら二度と出られないから気をつけてくれよ」

 ファーリスの案内で砂漠を歩き、たどり着いたのはサマディー国から南の奥地だ。
 流砂の谷と呼ばれるだけあって、谷底に落ちる砂の滝の光景は圧巻だった。ユリは岩の上に乗って下を覗き込んでみるが、砂が舞い散り、谷底がどうなっているかはわからない。
 これだけ大量の砂が落ちているのに、谷が砂で溢れないのは不思議だ。

「ユリは放っておいたらいつまでも見ていそうだな……」
「珍しい絶景に目が奪われるのはわからんでもないがのぅ」
「ユリさまが落ちてしまわないか心配で私の心臓が持たない」
「ユリちゃーん、そろそろ行きましょー!ホメロスちゃんが倒れそうよー」
「倒れはしない」

(なんか、前にもこんなことがあったような……)

 砂が落ちるのをじーっと眺めるユリの姿を見て、カミュはそんな気がしていた。……ズキリ。だが、それ以上思いだそうとすると、いつも頭が痛くなるのだ。

(この地の暑さに、この風景も見覚えがある気がするけど……)

 結局なにも考えられなくなって、カミュは黙って皆の後をついていく。
 
「ここは流砂を泳ぐ幻の巨大生物、サバクくじらが目撃されることも有名です。サバクくじらは頭部のサボテンの香りで獲物を誘い、パクリと丸飲みします」

 いつだったかの観光案内のように、ユルい側近は一行に話す。

「砂漠のヌシとも言われ、姿を見た者は少ないんですが……」

 そこでユルい側近は皆の視線を促した。辺りの砂漠には、ぽつぽつと不思議なサボテンが生えている。

「ごらんの通り、辺りには自然に生えてるものとは明らかに違うサボテンが生えていますね〜。あれ、全部サバクくじらです」

 大樹が落ちた影響か、サバクくじらの目撃数が増え、ここはサバクくじらの棲みかのようになったという。

「皆、安心してくれ!強くなったボクがいれば問題ないさ!」
「あっ、王子!ひとりで突撃は死ににいくようなもんですっ!」

 慌ててユルい側近が止めるも、ファーリスは腰から抜いた剣を振りかざし行ってしまう。

「ん……?うわあぁ!」
「ファーリス王子!」

 ファーリスの足元が揺らいだと思えば、砂をかきわけるようにサバクくじらが現れた。

 で……でかい!

 予想以上の大きさに彼らは驚く。まさにその巨体は砂漠のクジラ。
 その際、飛び散った大量の砂が頭から彼らにかかった。
 サバクくじらの頭にのっていたファーリスはというと、バランスを崩し、その場に落ちる。

「ファーリス王子、大丈夫!?」
「いてて……。砂が口の中に入ってしまったよ」

 慌ててユリは駆け寄るが、砂のおかげで怪我はないようだ。ぺっ、ぺっ、とファーリスは砂を吐き出した。

「ボクを誰だと思ってる!騎士の国の王子だぞ!」

 ファーリスは落とした剣を拾い上げ、果敢にサバクくじらに斬りかかった!

 おお――!ユリもシルビアもファーリスの勇敢な姿に感動する。だが、しかし。悲しいことに全くダメージが入っていない!

「王子、危ない!」
「……っ!」

 ユルい側近が叫ぶも遅かった。サバクくじらの大木のような腕が、ファーリスを叩きつけようと――

「ぐぅ……!」
「!……グレイグさん!」

 それをグレイグが盾で防いだ。だが、盾を掲げても完全には抑えきれず、庇うようにグレイグはダメージを負う。

「ファーリス!お前の勇敢さはわかったが、ここは俺たちにまかせろ!」
「わ、わかりました!」

 ファーリスは素直に頷き、彼らの邪魔にならないように離れる。

「いくぞ!」

 グレイグは盾から大剣に持ち変えると、叫ぶように皆に言った。


 ……――結果的に彼らはサバクくじらは倒したが、強敵だった。


 単なる腕の攻撃だけでも一撃喰らえば回復が必要になるし、その大きな口からしゃくねつの火球を吐き出したかと思えば、さばくクジラは荒れ狂う砂嵐を引き起こしてみせた。

 砂は当たると痛いということは、ユリはデスコピオン戦で知っている。

 ユリとロウのベホマラー、シルビアのハッスルダンスという全体回復がなければ危険だっただろう。

「さすがですね、皆さん!あのサバクくじらをあっという間に倒すとは!」
「楽ではなかったがな」

 ユルい側近の言葉に答えながら、ホメロスは呪文を唱え、自分の傷を自分で癒やしながら言った。

「グレイグさんの戦いを間近で見られて感激です!大剣さばき見事でした!」
「思いのほか手こずってしまったが、ファーリス王子の経験になったならよかったよ」

 グレイグの言う通り、彼らの戦いを見て経験値を得たファーリスは、また一つ強くなったようだ。

「それに……ユリさんも以前よりずっと強くなったんだな。まるで戦乙女のようで、惚れ惚れしたよ!」
「ありがとう」

 ファーリスに褒められ、ユリは照れくさそうに笑った。

「倒せたからよかったものの、あのサバクくじらと何度も戦えませんよ……。王子、もう無闇に突撃しないでくださいね」

 不満げなカミュの言葉に、ファーリスは「その必要はないようだ」と、岩の隙間を見て言う。

 水晶に混じって咲くその花は――

「これが、さばくのバラ……」

 さばくのバラとは、バラ状になった不思議な鉱物だった。

「さあ、ユリさん。受け取ってくれ!」

 ファーリスは簡単に砂を払うと、彼女に差し出す。受け取ったユリは、ずしりと腕にくる重さを感じた。

「ありがとう、ファーリス王子!じつはね……」

 ユリはこれを必要としている女性の話をした。

「……そうか。その女性も、この花が生きる支えになってくれたらいいな。その恋人も、この幻の花をプロポーズの贈り物にしようとしたのは、心から彼女を愛していたからだろう」

 幻の花と言うだけあって、見つけにくいだけでなく、滅多に採掘できないとファーリスは話す。

「こんなに簡単に見つかったのは正直驚きだ。きっと、その彼がボクたちを導いてくれたに違いない」

 うん、そうだ、とひとり納得するファーリスにユリは思う。

「ファーリス王子は変わったけど、優しいところは変わってないね」
「……ユリさん。ボクはキミの目から見て、変われたかな?」
「うん、今のファーリス王子は前よりずっと素敵だよ」

 ファーリスは「そ、そうか」と、ユリに背中を向けて言った。自分から自信満々に言うのはできるのに、いざ褒められると照れてしまうらしい。

「さあ、ユリさん!ボクたちのことは気にせず、その花を彼女に届けてくれ!なーに道中の魔物たちは今度こそボクが蹴散らすさ!」

 ファーリスが再び顔を向け、胸を張って言った。
「あ、ボクたちはキメラのつばさがあるから大丈夫ですよ」
 という台無しにするようなユルい側近の言葉に、ファーリスは怒る。

 そのやりとりに、その場には笑いが生まれた。

「ファーリス王子。さばくのバラ、本当にありがとう!」
「エルシスさんと再会したら、またサマディー王国に遊びにきてくれ!」

 別れの挨拶を交わし、ユルい側近が投げたキメラのつばさで、二人はサマディー王国に戻っていった。

「ファーリス王子は一見お調子者で頼りないように見えるが、将来は立派な騎士になりそうだ。彼は民を守りたいという、騎士にとっていちばん大切な心を持っているのからな」

 グレイグの言葉にユリも同意する。帰る二人を見届け、ユリは片手を上に伸ばし、唱えた。

「ルーラ!」

 すぐさま全員の身体はダーハルーネに飛んだ。


 ダーハルーネでも勇者の星が突然消失したことに皆は驚いていたが、何よりサマディー王国が無事なことに安堵しているようだ。

 ユリは早くこの花を渡したく、彼女の元へ走った。

「あら……あなたは。どうしたの?まさか、砂漠に咲く幻の花を見つけたとでも言うの……?」

 ユリはさばくのバラを渡した!

「こ……これが砂漠に咲く幻の花……!?水晶で作られたバラだったなんて、まさに自然が生んだ芸術……!」

 彼女はずしりとした腕にくる重さのさばくのバラを受け取り、近くで眺める。

「彼は、これを私に見せたかったのね……。すごいわ……まるで、大地から芽吹いた命のチカラが花開いたように思える……」
「これを探すのに、サマディー王国の王子が手助けしてくれたんですが……」

 ユリはファーリスが言っていた言葉を彼女に伝えた。

 "きっと、その彼がボクたちを導いてくれたに違いない"

 彼女は驚いたような顔をして、再びさばくのバラに視線を移す。

「……不思議ね。この花を見ていると、まるで彼の声が聞こえてくるみたい。まだ、こっちには来るなって……」

 彼女はぎゅっと両目を瞑る。その仕草は、溢れる涙が零れぬように堪えているだけではなく、もういない彼が残した思いを……必死に受け止めているようにユリには見えた。
 
「そうね……もうすこし生きてみてもいいかな。ありがとう、旅の人……あなたのおかげで、私、もうすこしがんばれるかもしれないわ」

 生きる希望を見つけた彼女が……その言葉が、ユリにとっては何よりも嬉しかった。

「少ないけど……これはお礼よ。あなたの旅に役立ててちょうだい」

 ユリはしあわせのぼうしを受け取る。

「その王子さまにもありがとうと伝えてください」
「王子も……あなたがその花を支えに生きてくれることを願ってました」

 その言葉に、彼女は儚くも笑った。

「さばくのバラを見ているとね、楽しかったころの思い出がよみがえってくるの……。大丈夫……私のことは心配しないで。彼との思い出が胸にある限り、私はきっとまだがんばれるわ」

 最後に彼女は、ユリの目を見て言う。

「優しい旅の人……あなたの旅がうまくいくように祈ってるわ」


 彼女と別れた後、シルビアはそっとユリに声をかける。

「よかったわね、ユリちゃん。今はまだ彼女の悲しみは完全には癒えないでしょうけど、いつか心から笑える日が来るといいわね」

 それにユリはうん……と静かに答えた。

 誰かの為にできることなんて、ずっと少ない。
 助けたくても助けられなかったことは、いくつもあった。
 だからこそ、自分たちが達成できそうな頼みごとは、できる限り引き受けたい……そうユリは思っていた。

 ――そして、これもその一つだ。

 そのままアリスが待つシルビア号に戻ろうとするなか、ユリは足を止める。

「頼まれた虹色岩塩がダーハラ湿原にある霊水の洞くつにあるみたいなの。取りに行ってくるから皆は先に行ってて」

 プチャラオ村の流れのコックから引き受けたものだ。
 ユリはちょっとそこまでだから一人で大丈夫と言ったが「私もお供します」と、同行するホメロスに……

「……なんだ、お前もついて来るのか」
「記憶を失う前に訪れた場所は行っておきたいので」
「虹色岩塩なんて、名前からして気になるわ!アタシもユリちゃんについてく〜!」

 カミュ、シルビアもついてきて、四人で行くことになった。

 ダーハルーネの町を出て、ダーハラ湿原から霊水の洞くつへと訪れる。
 洞くつ内の魔物は変わりなく、弱い魔物たちは一行の強さに逃げていくので、楽に奥へと進んだ。

「確か、その虹色岩塩は中央辺りにあるって話よね?アタシたちが以前来たときはあったかしら?」
「うーん……どうだったかな」

 あのときはまた別の理由で訪れたし、気づかなかった気がする、とユリは思い出す。

「なんだかジメジメした場所ですね」

 そう洞くつを見渡しながら言ったカミュの髪型は、案の定湿気でしなっとなっていて、ユリはこっそり笑った。

「中央というと……この辺りのようだ」

 ホメロスの言葉に皆で辺りを探す。鍾乳洞のようになっている場所で、水溜まりのような所にユリはそれらしきものを見つけた。きっと、これのことだろう。

「みんな、あったよ!」
「見た目は普通の岩塩なのね。ねえ、アタシたちの分もちょっと取っておきましょう」
「確かにどんな味か気になりますね」
「塩は取れる場所によって味が変わるからな。私も興味がある」

 コックに渡すものとは別に、ユリは自分たち用を採取した。
 ここでの目的は達成し、カミュに「リレミト」を唱えてもらう。ユリは覚えていない呪文だ。

「すぐに戻るよ」

 今度こそユリは一人で「ルーラ」を唱えてプチャラオ村にやってきた。これこそ頼まれたものを渡すだけなので、一人で十分だ。

「おお、あんたか!もしかして、虹色岩塩が見つかったのか?」

 ユリは流れのコックに虹色岩塩を渡した!

「これが虹色岩塩なのか?色や形は普通の岩塩とあまり違いがないようだが。とりあえず、味を見てみるか」

 彼は一欠片削って、口の中に入れた。

「おおっ!塩味の中にあるこの甘味はっ!?甘味だけじゃない!酸味も苦味も辛味も渋味も……それらを包みこむ旨味まで、なんという複雑で深みのある味!なるほど、7つの味がからみあうから虹色岩塩というわけか!」

 虹色岩塩と聞いて、最初は虹色に輝くからだと思っていたが、その言葉にユリもなるほど〜と納得する。

「これはまさに、新たな味との出会い!まさしく、心の中に思い出として永遠に刻みこまれる味だ!一度味わえば、絶対に忘れないような味だ。もしかすると、魔物もこの味を忘れられず虹色岩塩を求めていたのかもな。オレもこの岩塩に出会った今日という日をきっと忘れないだろう。あんたのおかげだ!礼をさせてくれ!」

 感激する流れのコックから、ユリはミスリルこうせきを10個受け取った!こんなにたくさん貰って嬉しいと、ユリも感激だ。

「あんたのとってきてくれた虹色岩塩は本当にうまいなぁ!こいつは天国の調味料に違いない!クチの中でなめていると、新しい料理のインスピレーションがどんどんわいてくるようだ!」

 彼が作った料理を食べてみたいと思いつつ、ユリは「ルーラ」を唱えてダーハルーネへと戻る。
 すぐに戻ると言った手前もあり、あまり遅くなると皆が心配するだろう。

 ドッグに預けてあるシルビア号に戻ると、皆が笑顔で出迎えてくれた。

「ユリちゃん、おかえり〜!プチャラオ村はどうだった?」
「みんな、世助けパレードの人たちを恋しがってたみたいだったよ」
「ウフフ、みんなに教えてあげたいわね。あ、そうそうユリちゃん!アリスちゃんがね……」

 船を出発する前に、アリスからなにやら話したいことがあるらしい。

「スイーツをあっしが全部いただいてしまったげすから……」

 シルビアがアリスに行く先を変更すると伝えた際に、食べる暇がないからとアリスにスイーツをあげたという。
 すっかりそんなことをユリは忘れていた。

「今度はあっしが皆さんに買ってきたでげす!ぜひ皆さんで食べてくだせえ!」
「わあっ、アリスさん、ありがとう!」

 思わぬサプライズでユリは喜んだ。

「ほほ、おぬしたち。好きなものを選ぶのは早いもの順じゃぞ」

 どれにしようかと楽しそうにスイーツを選ぶ皆を、ロウは微笑ましく見守る。

「ホメロスはフルーツサンドにするか?」
「……は……」

 思わぬグレイグの言葉に、ホメロスは普段出さないようなすっとんきょんな声を出した。

「お前の好物だっただろう?」
「……知っていたのか」
「?そりゃあ知ってるだろ」

 グレイグから差し出されたフルーツサンドをホメロスは受け取る。表情に変化はないが、どことなくホメロスは嬉しそうだ。

「ユリさん、よかったらオレのケーキ半分どうぞ」
「いいの?」
「甘いものはニガテみたいで……」
「ありがとう、カミュ!」
「ユリちゃん、アタシとケーキ半分こずつして食べない?両方の味が食べられるわ♪」
「半分こしよう!シルビア!」
「ウフッ、エルシスちゃんともこうやって半分こして食べたのを思い出すわ」
「どれ、アリス。せっかくじゃ。お主も一緒にわしと半分こして食べんかの?」
「ロウのダンナ……!光栄でがす!」


 次の目的地へ出発する前の船は、甘いお菓子の香りと笑顔で充満していた。


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