追想のユグノア城・前編

「ぐぅ……っ!」

 その手に持っていた剣と盾が、音を立ててその場に落ちた。嘆きの戦士の身体はよろめき、その場に膝をつく。

「ううう…ぐう……っ。くちおしい、くちおしいぞ……!」

 嘆きの言葉はもはや呪詛のようだ。その姿を目にしながら、皆も静かに武器を下ろす。
 繰り返す言葉が耳から心へずしりと重くする。
 誰もなにも言えず、その姿を黙って見つめていた。

「よくも……エレノアとエルシスを……!ゆるさぬ……決して、ゆるさぬぞ……!!」

 ――エレノアさまとエルシスの名前?
 戦士の口から出てきた名前に、ユリは驚愕して彼を見る。

「なんで、エルシスちゃんの名を?もしかして戦士ちゃん……。エルシスちゃんを知ってるの!?」

 皆の疑問を口にするように、シルビアが驚きの声を上げた。

「……やはり、そうか」

 この場で一人、頷いたのはロウだ。まさか――……察しがついたユリ、グレイグ、ホメロスは次のロウの言葉を待つ。

「おぬしは……アーウィンじゃな」
「なんてことだ……。やはり、アーウィンさまなのか……!」

 変わり果てた尊敬する戦士の姿に、グレイグはショックを受けた。

「その人って……」
「アーウィンはこのユグノア王国の王であった男じゃ。それと同時に、勇敢なるユグノアの戦士でもあった」

 シルビアの呟きに答えるように話したロウは、視線を皆から嘆きの戦士、アーウィンに向ける。

「……そして、アーウィンはエルシスの父親。まさか、こんな形で再会するとは……」

 悲しみが混じる声でロウは言った。アーウィンは顔を伏せたまま、なにも答えない。ロウは一歩、二歩、とアーウィンに近づく。

「アーウィンよ。なぜ、おぬしはこのような姿になってしまったのじゃ?わしに、よくカオを見せておくれ……」

 慈しむような声で呼びかけると、アーウィンは反応を示し、顔を上げた。冑に手をかけ、上げるそこには――

「!?」

 その下にはあるべき顔はなく、混沌とした闇が渦巻いていた。

「なっ……!こ、これはいったい……!?」

 皆が目を見開くなか、どこからか清らかな声が響く……

 "ああ……。ついに来てくれた。彼を救ってくれる人が現れるのを、ずっとお待ちしておりました"

「この声には聞き覚えがある。夢で我々に助けを求めていた声だ」
「だとしたら……この声の方は……」

 グレイグは宙を見上げながら言い、ホメロスは心当たりがあるというように呟いた。

 "あなた方のおっしゃるとおり、彼はこのユグノア王国を収めていたアーウィン王です"


 声の主は、自分が知る真実を彼らに話す。


 "16年前、ユグノアを襲った悲劇の時……彼は闇にひるむことなく戦い抜き、正義の光を胸に立派に王国を守りました"

 "……しかし、今やその光は失せてしまった。今の彼は生きることも死ぬこともできない悪夢をさまよう悲しい屍……"

 "どうかお願いします。暗く悲しい悪夢から彼を解放してあげて。彼の絶望に光を照らしてあげてください……"

 彼らに悲願するような言葉を最後に、その声は聞こえなくなった。
「今の声はいったい……?」
 シルビアは辺りを探すように見回すが、その場はしん……と静まり返っている。

「この戦士の正体がアーウィンだとわかった今……このまま放っておくわけにはいかんの。しかし、いったいどうすれば……」

 ロウはアーウィンを見つめたまま、思案した。悪夢に捕らわれたアーウィンは、嘆きと怨みの言葉を今も繰り返している。

「暗く悲しい悪夢から彼を解放してあげて……さっきの声の主はそう言ってたわね。早くエルシスちゃんのパパをゆっくり休ませてあげる方法を探さなきゃ!」

 シルビアの言葉に全員同意するなか、ユリは皆に向けて真剣な顔で言った。

「私、やってみる」

 やってみる?皆の疑問の視線を受けながら、決意したユリはそのままアーウィンの前に立つ。

「呪いのようなものなら祓うことができるけど、これは悪夢の呪縛……。なにが起こったか、内側から調べてみる」
「内側からって……ユリちゃん、どういうこと?」
「アーウィンさまの魂の記憶の中に入るの。どうして、アーウィンさまの魂が悪夢に捕らわれたのか……悪夢から解放する方法もわかるかもしれない」
「ユリさん、そんなことができるんですかっ?」

 カミュの言葉にユリは「わからない。でも、試してみる」と答え、アーウィンの前に膝をつく。

「ああ、くちおしい……!よくも……エレノアとエルシスを……!ゆるさん……決してゆるさぬぞ……!」

 ぬけがらとなったアーウィンの中から、嘆きの声が聞こえてくる……。
 その声に耳を傾けるように、ユリはアーウィンの顔を覗き込んだ――……


 気づいた時には、なにも見えない暗闇の中にユリはいた。


「ゲファファファ……」


 ここはもう、アーウィンの魂の記憶の中だろうかと考えていると、下劣な笑い声が遠くから聞こえてくる。

「新鮮な食材がやってきおったわい。何年ぶりかのう。ゲファファファ……。さあ……我が絶望の中に堕ちてくるがよい!極上の悪夢を貴様にも見せてやろう!」

 その声に、視界が真っ白になった。今度は嘆きの声が聞こえてくる。……いや、声はユリの頭の中で響いていた。

 ……お……しい。ああ、くちおしい……。

(アーウィンさま……)

 アーウィンの声が、感情が、ユリの中に流れて込んでくる。

 もし、あの日に戻れるなら、地獄の業火に焼かれてもいとわない。

 ああ、くちおしい、くちおしい……。

 やがて、真っ白だった世界は形を作り、色鮮やかになった。
 ユリの目に、賑やかな宴の光景が映る――。


「アーウィンさま!このたびは記念すべき祝杯の日に、お呼びいただきありがとうございます」
「エルシスさまのご誕生は、私たちにとってもよろこばしいことですわ。本当におめでとうございます!」

 貴族たちが話しかける相手こそ、生前のアーウィンだった。

(エルシスのお父さん……)

 正義感の強そうな顔立ちに、意志の強い目はエルシスに似ている……と、ユリは思う。
 嘆きの戦士の姿からはまったくわからなかった姿だ。

「皆さま、ありがとうございます。本日は我が国ユグノアにとって特別な日。祝杯の宴をゆっくりとお楽しみください」

 どうやらここは過去の、それもエルシスが誕生した16年前のユグノア城らしい。
 正しくは、アーウィンの記憶の中のユグノアだ。

 ユリはこの記憶の光景を見届けることにした。

 きっと、この記憶の中にアーウィンを悪夢の呪縛から解放する鍵があるだろう――。

「サマディー王、クレイモラン王。おふたりともようこそ、ユグノアへ」

 貴族の挨拶に答えていたアーウィンは、次に他国の王たちへ挨拶に赴いた。

「やあやあ!ひさしぶりですな、アーウィン殿!このような盛大な宴での歓迎、感謝いたしますぞ!だっはっはっは!!」

 サマディー王だ。現在と姿も中身もあまり変わらないようで、陽気に笑っている。

「……本日の四大国会議は、ロトゼタシアの今後を決める重大な会議。我が国、サマディーだけのけものにはさせませんからな……。ひとつ、よろしくお願いいたしますよ!」

 陽気な笑いから一転、サマディー王は意味ありげな目でアーウィンを見て言った。

「4つの大国の王が一堂に会するなど、わしが知る限り前代未聞の事態じゃて」

 次に口を開いた彼は、クレイモラン王らしい。ユリがクレイモランを訪れた際は、シャールが即位していたので、先代国王に会うのは初めてだ。クレイモラン王はとても背が高く、白くて長い髭を生やしている。

「それほど、ご子息……伝説の勇者は我々にとって重要な存在だということ。本日の会議、楽しみにしておりますぞ」

 頷くアーウィンは、二人を順に見ながら話す。
 
「我が息子のため、遠方から来訪していただき心より感謝いたします。四大国会議が始まる際に、またお声をかけさせていただきます。私は準備がありますので、これで……」

 そこで、アーウィンはこちらに視線を投げかけた。

「デルガダール王はどこに?」
「はっ!デルガダール王は、ロウさまとおふたりで城の中庭の方に行かれました!」

 ユリは目が合った気がしてドキッとしたが、どうやら兵士に対してだったらしい。今さらながら、ここはアーウィンの記憶の世界なので、自分の姿は周囲には見えていないのだと気づく。

 まるで、天使の頃に戻った気分だ。

 兵士の言葉を聞き、パーティー会場を出たアーウィンは二階にある中庭に行くようだ。ユリはその後をついていった。

 デルガダール王とロウの二人は、中庭の噴水の近くで談笑していた。

 デルガダール王もロウも若々しさはあるものの、過去も今もさほど見た目が変わっていないのにユリは驚いた。ただ、ロウは元国王としての威厳ある装いをしていて、旅装束ではない彼にちょっと別人のようにも見えた。

「デルガダール王、ロウさま。そろそろ四大国会議を始めましょう。おふたりとも準備をお願いいたします」

 アーウィンが二人に呼びかけると、デルガダール王が固い口調で答える。

「ロウから話を聞いたぞ。そなたの息子、エルシスがあの勇者の生まれ変わりとはな……」
「はい……」

 デルガダール王の話だと、16年前にウルノーガに身体を憑依されたようだが、どの時点だったんだろうとユリは考える。
 もしかしたら、このデルガダール王がすでにウルノーガに取り憑かれていてもおかしくない。

「息子は四大国会議の場で、皆さまにお披露目するつもりです」

 近くに寄って、じっと観察してみるが、よくわからない。
 ただ、アーウィンが話すなか、デルガダール王の顔はずっと険しいままだった。

「こんな大勢の方に祝福していただいて、改めて実感しました。やはり、勇者は我々にとって希望の光……」
「……話は後ほど聞こう。先に会議室へ行っているぞ」

 アーウィンの話しをデルガダール王は手で遮ったと思えば、そっけなく行ってしまった。

「勇者はロトゼタシアの命運を左右する重大な存在だからな。皆、思うところがあるんだろう……」

 その背中を見送りながら、ロウは茫然とするアーウィンに声をかけた。

「さあ、アーウィンよ、そろそろ時間だ。エルシスを預かりに、エレノアの部屋に行ってきておくれ」

 ロウは今でもよく見せる、朗らかな笑顔をアーウィンに向けて言った。彼の言葉に頷き、立ち去るアーウィンに、張り詰めた空気を感じながらユリもついていく。

 階段を上がって戻ってきた三階は、とても美しい造りになっているのだとユリは気づいた。
 吹き抜けの天井からは真っ青な空が見える。
 太陽の光が射し込み、明るく城内を照らしていた。

「あれが最近、妙な光を放っている勇者の星……なんだか不気味な光だなあ」

 勇者の星?その単語に反応したユリは、そう呟いた兵士の元に向かう。

「せっかく勇者さまが誕生してお祝いムードだっていうのに……。不吉な前兆じゃありませんように」

 そう祈るように言って、兵士は見回りに戻っていった。彼が眺めていた窓から空を見ると……確かに、勇者の星は不気味に赤く輝いていた。

 結局、勇者の星と言われるあの星がなんなのかわからずじまいだ。

(……あっ、しまった!)

 勇者の星に気を取られ、すっかりアーウィンを見失ってしまった。

(ええと、アーウィンさまはエルシスを迎えにエレノアさまの部屋に行ったんだよね……)

 急いで向かおうとするも、ユリは当然エレノアの部屋がどこにあるのか知らない。
 この広い城内を探すのは一苦労だ。誰かに聞こうにも、自分の姿は見えないし……

「まったくお前は!何度言ったらわかるんだ!?」
(……ん?)

 困っているユリに、そんな怒声のような声が耳に届いた。

「エレノアさまのお部屋は、向こうの扉を開けて、左に曲がった先だ!もうすぐアーウィンさまも来られるからな!」
「す、すみません!自分、新入りなモノでありまして……!」
(新入りさんっ、ありがとう!)

 兵士のやりとりでエレノアの部屋がわかったユリは、急ぎそちらに向かう。

「王と王妃の部屋からまた笑い声が聞こえるな。ああ、癒やされるなあ……」
「エルシスさまが生まれてから、王妃さまはとても幸せそうだな。すっかり母親のカオになられて……」

 エレノアの部屋を警備する兵士二人はそんな話をして顔をほっこりさせていた。

 ユリは扉を開けていいか、迷う。

 勝手に開いたら皆、びっくりするだろう。天使だった頃は人間たちを驚かせないように、その辺りは気をつけて行動していた。

(あれ……?)

 ドアノブを握ろうとしたところ、手がすり抜けた。どうやら、扉を身体がすり抜けられるようだ。

(お邪魔しますね)

 そう口にしたところで意味はないが、気持ちの問題だ。ユリはエレノアの部屋に侵入した。

「だあだあ……あぶー……」

 部屋にはアーウィンの姿はなく、ユリは先に訪れたようだ。
 そこには長椅子に座るエレノアと、その腕には赤ん坊のエルシスが。

 そして――……

「赤ちゃんってこんなに小さいのね。ちょっと触ったら壊れちゃいそう……。エレノアさま。エルシスに触っていい?」

 子供時代のマルティナの姿があった。

 エレノアはマルティナに優しく微笑み、頷く。幼いマルティナは、おそるおそる人差し指を差し出した。
 笑いながらエルシスは、その指をぎゅっと小さな手で握り締める。

「ふふ。エルシスったら、マルティナのこと好きみたいね。遊んでほしいって言ってるわ」

 その愛らしい光景に、ユリは部屋の向こうにいる兵士たちと同じく癒やされて、顔をほっこり緩めた。

「……エルシスは、勇者として生を受けた希望の子」

 きゃっきゃっ、とご機嫌に笑うエルシスに、エレノアは願うように語りかける。

「この子が大きくなったら、父親に似て、いかなる困難も乗り越える、チカラ強くたくましい子になってほしいわ」
「エレノアさまに似たら、みんなに優しい子になるわね、きっと!」

 ユリは心の中で二人に答える。

 成長したエルシスは、そのどちらも兼ね備えた立派な人です――と。
 優しく細められたエレノアの瞳に、エルシスの澄んだ空色の瞳は、母親譲りなのだとユリは気づいた。

「きゃあ……っ!」

 突然、稲光と共に雷鳴が轟き、マルティナの悲鳴が上がった。
 ユリもびっくりして、窓の外に目をやる。
 先ほど見た際は晴天だったのに、いつの間にか空は灰色に雷が走り、どしゃ降りの雨が降っていた。

「アーウィンさま!」

 扉が開く音に、マルティナは嬉しそうにユリの横を駆け抜ける。どうやら、この頃のマルティナはお転婆娘だったらしい。
 自分のそばに寄る、マルティナの頭に優しく手を置きながら、アーウィンは目の前に立つエレノアに話す。

「さあ、エレノア。もうすぐ四大国会議が始まるよ。エルシスをこちらへ」

 エレノアはアーウィンにエルシスを預けた。

「エルシス!これが行く所はこわーいおじいちゃんがいっぱいだけど、何があってもパパが守ってあげるからな!」
「まったく、あなたったら。そう強く抱きしめたら苦しいじゃない。ねえ?エルシス?」

 ふふ、と上品に笑うエレノアだったが、振り返り窓の外を見ると、不安げな声に変わる。

「今日みたいな特別な日に、急にこんな天気になるなんて。私、さっきから何か胸騒ぎがして……」

 アーウィンはエルシスを片手で抱いたまま、エレノアの肩を優しく掴んだ。彼女を自分に向き合わせてから、まっすぐその目を見つめて話す。

「エレノア、安心してくれ。何があっても、君とエルシスは私が守るから心配いらないよ」

 眼差しも声も、優しく芯のあるものだ。その顔は国王としての顔ではなく、夫として、父親として……家族としての顔だった。
 エレノアも見つめ返し、アーウィンを信じるように頷く。

「アーウィンさま!私は!?」

 ぴょんぴょんと跳ねながらせがむマルティナに、アーウィンはしゃがんで小さな彼女と目線を合わせる。

「あっはっは。マルティナのお父さんは強くていさましいデルガダール王だ。私よりよっぽど頼りになるよ!」

 笑うアーウィンは、マルティナの小さな頭を撫でた。アーウィンに頭を撫でられてか、父親を褒められてか、両方かも知れない。マルティナは嬉しそうに笑った。
 
「……さて、会議が始まる時間だ。私はそろそろ行ってくるからね。エレノア、後のことは頼んだよ」

 アーウィンは立ち上がると、今度はエレノアに真剣な眼差しを向ける。
 そしてエルシスを抱いたまま、ユリの横を通り過ぎ、部屋を後にした。

「いってらっしゃい。あなた、エルシス……」

 その背中をエレノアは見守るように見送り、その隣でマルティナは大きく手を振っていた。

「弟ができたみたいでうれしいな!エルシスが大きくなったら、いっぱい遊んであげようっと!」

 アーウィンを見送ると、マルティナは楽しげに話す。
 ユグノアの悲劇が起きなければ、エルシスとマルティナの関係も変わって、二人は本当の姉弟みたいに育ったかも知れない。

「……そこに誰かいるの?」

 ユリがそんなあったかも知れない未来に思いを馳せていると、エレノアは不思議そうにその言葉を口にした。
 ユリは驚いてエレノアを見るが、目が合うことはない。

「どうしたの、エレノアさま?……誰もいないわよ?」
「あら……気のせいかしらね。もしかしたら……天使さまがいるのかも知れないわね」
「天使さま……?」
「天使さまは姿は見えないけれど、ロトゼタシアの世界各地にいて、私たちをそっと見守ってくださっているの」
「じゃあ、天使さまがいれば安心なのね!」

 ――エレノアさまは、天使の存在を信じてくださっていたのですね……。

「天使さま……どうかエルシスの生きる道を見守りください……」

 両手を組み、祈るエレノアに、ユリは胸がぎゅっと切なくなった。居たたまれなくなり、そっと部屋を後にする。
 エレノアの部屋を後にして、廊下に出ると、先ほどの兵士たちが今度は違う話をしていた。
 
「いよいよ、四大国会議が始まるが……。お前、まさか会議室の場所を忘れたなんてことはないだろうな?」
「バカにするなよ!会議室は玉座の間を出てまっすぐ行った先。忘れるワケがなかろう!」
「はっはっは、万が一ということがあるからな。王たちの身に何かあったらすぐにそこに駆けつけるんだぞ!」

 ……という二人の会話から、会議室の場所がわかったユリはそちらへ向かう。
 その途中、あの新人兵士たちの姿もあった。

「もうすぐ四大国会議が始まるから、警備をさらに厳重にしろとの命令だ。お前たちもしっかりやってくれよ」
「大丈夫です、センパイ!自分、警備の仕事なら誰にも負けません!ドーンとまかせてください!ドーンと!」
「お前、そんなこと言ってこないだ警備しながら居眠りしてたくせに……!まったくクチだけは達者なヤツだな!」

 新人兵士はともかく。四大国会議がいよいよ始まると、兵士たちの間でもピリピリと緊張感が走っているようだ。
 クレイモラン国王が前代未聞の事態と言っていたこともあり、これがいかに異例なことかユリも肌に感じていた。

「四大国会議でいったい何が決まるのか……。なんだか、落ち着かないな」
「いよいよ、始まるのか……。今日という日は、歴史に刻まれる重要な日となるだろう」

 会議室を警備する兵士たちの緊張した表情を見送り、ユリは扉をすり抜ける。
 外は激しい雷雨の中、重々しい雰囲気で四大国会議は始まった。

「あの子がそうなのか?」

 始まるのを静かに待っていたデルガダール王の目が見開き、アーウィンの腕にいるエルシスを見つめている。
 彼だけでなく、二人の王の視線もエルシスに注がれていた。


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