もう一人の勇者

 悲しみのままユリの意識は混沌とし、気がつけば闇の中を立っていた。
 ここがどこかわからない。なにもない世界かと思ったそこに……

「ケファファファファ……。うまい、うまい……」

 その魔物はいた。ユリは一瞬で理解する。

 アーウィンを悪夢に縛りつけた元凶だ――と。

 そこから生まれる絶望を、その魔物はむしゃむしゃと喰らっていた。

「我が名はバクーモス。絶望をくらうもの……」

 魔物はユリの存在に気づき、ちらりと顔だけ向けて自らそう名乗った。
 紫の身体に六本の足。背中には翼が生えた邪悪な魔獣だ。

「国は滅び、愛する家族とは死に別れ、この男の絶望はまさに高級フルコース。こんな絶望にはそうありつけはしない。だからこの男に、16年前の悪夢を何度も見せ、こうして食らい続けているのだ」

 下劣な声で魔物は得意気に語った。ユリの身体に悲しみ、くやしさ、怒り……様々な感情が駆け巡る。

(……なんて、惨いことを……っ!)

 歯を食い縛り、腰の横で手をぎゅっと握りしめる。
 鎮魂の儀式でも慰められず、アーウィンの魂はずっと縛りつけられていたのだ。

 ――この魔物によって!!

 涙なんてもう流れやしない。その目に燃ゆるのは怒りだ。

「この男の絶望は一度食べたら忘れられぬ。16年間、食べ続けても飽きぬほどだ。だが、しかし……」

 そこまで言うと、バクーモスは大きく振り返り、ユリに牙を向ける。

「そろそろ違う味も試したかったところだ。次はお前の新鮮な絶望をいただくとしよう!」
「……っ!」

 バクーモスが咆哮すると、闇のオーラがユリを襲った。

「さあ、感じるがいい。お前の心の悲痛な叫びを……」

 ユリの頭の中に、バクーモスの声が反響する。

「ここは、お前の心の中にあるもっとも忌まわしい記憶……」
「……ない」

 ――最初の絶望は、きっと天界が魔物の軍勢に襲われたことだった。

「私は……絶望なんて……しない」

 オーブを勇者に届ける役目を担わせてもらったのに、本当は助けてほしかった。

 滅びゆく天界を……天使たちを。

 自分が勇者を守らなくてはならないのに、その勇者に助けを求めていた。

(……だから、罰が当たったのかな……)

 エルシスを、守れなかった。

「お前は勇者を守れず、魔王を誕生させてしまった。そして、この世界は壊れたのだ」
「絶望なんて……絶対に……しないっ!」
「お前は誰も守れなかった……。お前は世界を救えなかった……。それは無力な天使の罪」

 救えなかった。

 勇者も、ムウレア王国も、ニマ大師も、ユグノアの惨劇も――見ているだけで、なにもできなかった。
 
「あらがえぬ絶望の暗闇に落ちてしまえ。それが私の糧となる……」
「絶望なんて……したく…ない……っ」

 だって、絶対に絶望しないって、あのとき誓ったんだ。

(エルシスに――……)

 闇はすぐそこまで迫って、彼女を引きずり込もうとする。抗うも虚しく、ユリは絶望の暗闇の中に落ちていった。


  ――……


 "……ユリ"

 "聞こえますか、ユリ"

(その声は……エレノアさま……?)

 "ユリ……"
 
 "あなたの中にある聖なる光は、決して消えることはありません"

 "あなたはずっと、感じていたのはないですか?"

 "エルシスと、勇者のチカラで繋がっていることに――"

(……エルシス……)

 "その光はあなたの中で、ひそやかに目覚めの時を待っています"

 "この世界を、ふたたび光で照らすために!"

(光……)

 "今、闇を滅ぼすことができるのは、もう一人の勇者であるあなただけ!"


『さあ、目覚めなさい……!!』


 その言葉がはっきり聞こえ、ユリの目は開く。その不思議な色をした目に輝くのは、希望の色だ。

 そして、エレノアとは別の声がユリの内側で聞こえる。

『勇者とは、最後までけっして、あきらめない者のことです』

(……そうだ)

 たとえ、絶望したって構わない。絶望したって、また立ち上がればいい。


「勇者は、あきらめない者だから――!!」


 諦めなければ、きっと希望は繋がる。どんな闇をも照らす、光となる。


「な、なんだこの光は……!ぐわああああーーーー!!」


 ユリの中から放たれる輝く光に、バクーモスは悲鳴を上げた。その光は悲鳴さえも飲み込む――……


「な、なになに?いったい何が起こったの!?」
「なんじゃ、この光は……!」

 その異変は現実世界でも同様に起こっていた。
 突然、アーウィンが縛りつけられていた場所から、輝く光が発生し、仲間たちは驚愕する。

 その中から、ユリが現れた。

「ユリさん……!」
「おお、ユリ!よかった。無事じゃったか……」
「みんな……」

 アーウィンの闇に吸い込まれたユリが戻ってきて、仲間たちは笑顔で迎える。

「ぐおおお……っ!忌々しい光で前が見えん……!」

 続いて、バクーモスが姿を現した。聖なる光が、アーウィンの魂から引きずり出したのだ。

「バクーモス!」

 魔物に敵意を向けるユリに、一瞬で皆も察する。

「貴様がすべての元凶か!さあ、ユリ!こいつを倒してアーウィンさまの呪縛を解き放つぞ!」

 グレイグの言葉に、全員が武器を手にし、臨戦態勢を取った。

「くそう……あと一歩で極上の新鮮な絶望のディナーを食えるところだったのに……!まあいい……こうなったらお前ら全員、皆殺しにしてまとめてオードブルにしてくれるわ!」

 ユリはキッとバクーモスを睨みつける。

 絶対に許さない――魂を弄ぶことは禁忌であり、神への冒涜と同じだ。
 バクーモスへの怒りに、ユリはゾーンに入った。

 その背に一瞬、天使の羽根が生える。

 天使としてだけでない。人として、エルシスの友として……


 ――お前を絶対に許さない。


「さあ!いくぞい!」

 襲いかかってくるバクーモスに、ロウが気合いの入れた声で皆を鼓舞した。
 バクーモスは彼らを見て、下劣な笑い声を上げる。

「さあ、絶望をよこせ!」

 ――その攻撃は闇属性が多く、彼らはユリを守りながら戦うこととなる。

「ユリ!俺はお前の盾だと忘れるな!」
「私がこの身をもって、あなたさまをお守りします」

 主君に誓うように、双頭の鷲の騎士は隣に立ち、ユリに言った。

「ドルモーア!」

 バクーモスは上位の闇属性の呪文を操り、悪夢を見せるだけあって、ただの攻撃でさえ眠りを誘う。

「ザメハ!」
「マジックバリア!」
「スクルト!」

 眠り対策は後衛のカミュにまかせ、自分たちの守備を固めるため、ロウ、グレイグはそれぞれ補助の呪文を唱えた。

「破魔の矢――!」
「はやぶさ切り!」

 その間に攻撃を仕掛けたのはユリとホメロスだ。ユリは自分自身に、ホメロスはシルビアのバイキルトによって、攻撃力は増している。

「……っグガ……!なんだこの忌々しい矢は……!」
「……苦しいでしょう」

 とくにユリの聖なる破魔の矢は魔物に効果絶大だった。
 闇属性にユリが苦しむように、魔物も聖属性に苦しみを覚える。

 ……けれど。

 16年間、ずっと絶望の悪夢を見せつづけられたアーウィンの苦しみは、この程度のものではない。

「一つ、幸いだったのは……」

 再び、ユリはまっすぐバクーモスに向けて弓を構えた。そして、ぎりぎりと弦を引いて、自身の聖なる魔力を練り上げて矢を作る。

「エルシスがあの悪夢を見なかったこと」

 もし、勇者としてエルシスがこの場にいたら、きっとアーウィンを助けにいったのはユリではなく、息子でもあるエルシスだっただろう。
 自分の故郷が滅ばされる日を……父親が殺される瞬間を……エルシスが目にしたらと考えるだけで、ユリは自分が代わりになれてよかったと、心の底から思える。

「魔の者を地獄へと導かん……」

 無慈悲な声と共に、冷徹な聖なる光の矢がバクーモスを貫いた。
 これほどにも、嫌悪と怒りをむき出しにするユリを見たのは初めてで、彼らは驚く。
 古今東西、真に怒らせて恐ろしいのは、悪魔ではなく天使だとよく云ったものだった。

 瀕死のバクーモスは、悪あがきのように猛攻を仕掛ける。
 とくに「悪夢の吐息」は全員にダメージを与えるブレス攻撃というだけでなく、回復魔力も下げられてしまった。

「大丈夫よ!アタシのハッスルダンスはかいふく魔力は関係ないもの!」

 シルビアが陽気なラッパの音と、ダンスで皆を元気に癒やしていく。
 さらにバクーモスは捨て身で攻撃力を上げ、彼らに襲いかかる。

「悪夢の餌食になるのはお前らだ――!!」
「自棄になるとは愚かな……ヘナトス!」

 すかさずホメロスは杖を向け、攻撃力を下げる呪文を唱えた。

「……っ!」
「ふん!」

 襲いかかる爪をユリは剣で弾き、そこに盾を構えたグレイグが、バクーモスに体当たりする。

「……チィ!簡単に心が折れる、弱い人間風情が……!」

 獣のような俊敏さで、バクーモスは受け身をとった。

「……なにがあったか詳しくは知らぬが、悪辣な魔物がアーウィンを長年苦しめ続けたのはわかる」

 静かに怒りを含んだ声で、ロウはバクーモスに言う。その手に光弾を練り上げて。

「我が娘が愛した婿殿の無念。晴らさせてもろうぞ――」

 ロウは祈りを込めて、グランドクロスを放った。
 罪に罰を与える刻印のように、バクーモスに光の十字架が刻まれた。

「ケギャアアァァァァ……!!」

 ロウのその攻撃がとどめとなり、苦しげな断末魔を最後に、バクーモスは消え去る。

「……すまんな、ユリ。最後はわしがとどめを刺させてもらった」
「いいえ、ロウさま。バクーモスを倒して、きっとアーウィンさまは……」

 嘆きの戦士は立ち上がり、その身体が光輝いた。バクーモスの呪縛から解けたようだ。
 その姿は生前のアーウィンの姿に変わり、彼は頭を手で押さえていた。

「ここはいったい……?」

 アーウィンは顔を上げると、彼らの存在に気づいた。

「ロウさま……?それに……」

 彼女のことは知っている気がする。絶望の淵にいた自分を、救おうとしてくれた聖なる光。
 そして、自分が命を落とす際に、守ろうとしてくれたあの青年とも雰囲気が似ている。

「君は……もしや天使なのか?」

 その問いに、ユリは否定せず頷いた。

「そうか……。君が私を絶望の闇から救ってくれたのだな。ありがとう。不思議だ……君からはエルシスの気配も感じる」

 そうアーウィンが感じとったのは、ユリが勇者の紋章を宿しているからだろうか。勇者の力でエルシスと繋がっているからかも知れない。

「エルシスは私の大切な友であり、仲間です」
「仲間……そうか。エルシスはいい仲間と出会えたのだな」

 アーウィンはユリの言葉に、嬉しそうに目を細めた。成長しているエルシスの姿を想像しているのかも知れない。

「そのエルシスは……いや、なにも答えなくていい。……大丈夫。きっと、あの子もどこかで戦っているはずだ」

 そうユリに聞こうとして、途中でアーウィンはなにかを察したのか、そう言葉を変えた。

 "……あなた。ようやくもとのあなたに戻ってくれたのね"

 その声と共に、天からあたたかな光が射し込む。全員、きらきらと星のように輝く、美しい光を見上げた。

「……ああ、信じられない。君なのか?エレノア……」

 "あなたを苦しめていた呪縛は、ユリが解き放ってくれた。これで、私たち安心して旅立てるわね……"

「そうだな、エレノア……」

 アーウィンはその光に答えたあと、再びユリを見つめる。

「君はユリという名なのだな。では、ユリ。……我が息子、エルシスを頼む」

 その言葉の最後、深く頭を下げたアーウィンに、ユリも同様に深く頷き答えた。

 アーウィンは微笑むと、光の粒となり、魂へと戻る。

 ユリの周りを回ったあと、ロウの目の前に挨拶するように止まってから、射し込む光――エレノアと一緒になった。

 "もう一人の勇者、ユリ……。あなたは自分自身のチカラで、内にある勇気に火を灯しました。それに、勇者の紋章は応えたのです。どうか、自分を誇って"

「エレノアさま……」

 "そのチカラはエルシスと繋がっています。あの子は生きて、今もなお戦っている……。ですが、あなたの助けが必要です"

「エレノアよ、エルシスが今どこにおるのか知っておるのか……!?」

 "……ああ、お父さま。私に感じられるのはあの子の魂だけなのです"

「……そうか」

 "ユリ、あなたはとても優しくて芯の強い子。どうか、お父さまのこともよろしくお願いしますね――"

 最後に、エレノアは自身の父の身を案じ、アーウィンと共に旅立って行った。

 あたたかな光は幻だったかのように消えていく。

「……これで本当にお別れじゃな。アーウィン、エレノア……」

 いつまでも宙を見つめるロウの目は、娘とその婿殿を思う親の眼差しだった。
 潤む瞳から涙が流れそうになり、指先で拭う。
 ロウは二人の門出を静かに祈り、他の者たちもそれに続いた。

「ユリちゃん!それ……!」

 閉じていた目を開けたシルビアは、ユリの左手の甲が光っているのに気づく。

「おお、勇者の紋章が光り輝いておる……!きっと、ユリの人を思うその心が、勇者のチカラをよみがえらせたのじゃな」

 ユリも自身の左手の甲を見た。勇者の紋章に力が満ちているのがわかる。そして――……

『……ユリ。僕の父と母を救ってくれてありがとう』

 そんな声が聞こえた気がした。勇者の紋章の先で、エルシスを以前より強く感じる。

 ――エルシス。待ってて……。必ず、助けにいくから。

「さあ、行こう。もう一人の勇者、ユリスフィールよ!今度こそ、勝利をこの手につかむのだ!」

 グレイグはまっすぐ前を見つめたまま、力強く言った。
 そして、一行はもう用のないこの場を後にする。

「さあ、いつまでもなげいていてはいかんな。気を引きしめて、次の目的地へ向かうぞ」

 ユグノア城跡地を後にしながら、ロウは張り切って皆に言った。その言葉は自分への鼓舞でもある。
 
「ここより北にあるグロッタの町ならば、人も多いし、新たな情報が得られるかもしれん。さっそく行くとしようかの」
「……あの、さすがに休んでから行きませんか?」

 カミュが控えめに言った。自分は後方支援といえ、強敵と戦って疲れた……というのもあるが、ユリを気遣ってからの思いだった。

「たしかにそうだな……。我々はともかく、ユリさまはさぞお疲れなのでは?」
「あ、私は……」
「そうね。ネルセンの宿は混んでるでしょうし、近くにキャンプ地があったはずよ。そこで一晩休んでから行きましょうよ」
「そうじゃのう。ちと、張り切りすぎたわい。では、そちらに向かうとしよう」

 ロウは納得して、朗らかな笑顔を浮かべる。以前もユグノア跡地へ向かう際に、訪れたキャンプ地だ。

「海の六軍王や新しい仲間のこと……やるべきことはたくさんある。だが、ユリよ。真の勇者になったお前のチカラがあれば、必ずや世界を平和にすることができるだろう」

 グレイグの言葉に、ユリは微笑を浮かべて頷く。


 一行は、キャンプ地で一夜を明かした――。


(…………あれ、起きられない)

 目が覚めたユリは、驚くほど疲れを感じていた。

 目は覚めたのに、なかなか寝床から起き上がれない。ゆっくり休み、身体の疲れは取れたはずなのに、まるで心に鉛がついたように重い。

(起きなきゃ……。起きて……顔を洗って……朝ごはんを食べて……支度して…………)

 そう思考は働くのに、心はついてこなかった。

 せっかく勇者の力が復活し、エルシスがこの世界のどこかで生きていることがわかったのに……。

 ――ユグノアの滅亡、アーウィンの死、大師匠エルギオスの最後。
 数々の悲しみに襲われ、怒りが身体を駆け巡り、ユリの心は本人も気づかぬうちに疲弊していた。まるで、張り詰めた糸がプツン、と切れたように。

(……ごめんなさい。エレノアさま……)

 自分ではどうしようもできなくて、ユリは罪悪感を胸にその目を閉じた。


「ユリさま、体調のほどはいかがですか?」

 ユリがやっと起き上がれたのは、雲でよく見えないが、太陽が高く昇ってからだ。
 よろよろとテントから出たユリに、ホメロスが心配そうに声をかけた。
 彼女は笑みを浮かべたものの、それは作り笑いだ。出された食事も少量しか食べられず、いよいよ皆は心配する。

「ちょっと一人で散歩しにいってもいいかな?」

 という言葉に、彼らは神妙に顔を見合わせて、やがて了承した。一人になりたいときは誰にだってある。

(……よかった。この辺りにはキレイな花が咲いてる)

 ユリは単なる散歩がしたかったわけではなく、エルギオスの最後の場所に献花をしたいと思ったからだ。
 皆にそのことを言わなかったのは隠したいわけではなく、アーウィンの魂の中で見た光景を、口に出して話すのには気力がいる。
 色とりどりの花を摘むと、ユグノア城下町跡地へと訪れた。廃墟と化した静けさの中に、一つの明るい声が響く。

「あっ、お姉さん!キレイな花だね」

 ただ一匹そこで暮らすスライムは、脅威の魔物もいなくなり、のんびりと過ごしているようだ。

「この花はお供えものなんだ」
「そっか。供えられた人もきっと喜ぶよ!」

 ユリはありがとうとスライムに言って、井戸を通ってユグノア城跡地へと向かった。

 途中にあるロウが建てたアーウィンとエレノアの墓にも、ユリはそっと花を添える。二人はもうここにはいないが、この花の種が、いつかこの辺りに芽吹くことを願って……。

 そして、地下通路を通って、エルギオスが落ちた水路にやってきた。

 ずっと、行方不明とされていたエルギオス。暗いこの場所で人知れず命を落としたと……師の最後を知ったら、イザヤールは嘆き悲しむだろう。

 しかし、そのイザヤールももういない。

「…………」

 ユリは水路に花を捧げた。水面に浮かんだ花は、ゆっくりと水に流されていく。
 

 自分だけが知る死に、静かに黙祷を捧げる。


 ユグノア城下町を後にしても、ユリの心は変わらず疲れ果てたままだった。心というものはそう簡単に区切りがつけられないと知る。

 キャンプ地に戻ると、そこにはカミュしかいないようだ。

「あ、おかえりなさい、ユリさん!他のみんなですか?えっと、ロウさんは近くにある山小屋へ、グレイグさんは鍛練に、ホメロスさんはこの辺りに生えている植物を採取しに、シルビアさんはアリスさんに次の目的地のことなど伝えに行ったみたいです。それより、ユリさんは大丈夫……じゃないですよね」

 カミュは最後の言葉は「大丈夫ですか?」と言おうとしたが、ユリのその顔を見て言葉を変えた。

「私、大丈夫そうに見えない?」
「少なくとも、オレには見えませんね」

 カミュが言うならそうなんだろうな、とユリは他人事のように思う。

「あの、オレにできることがあったらなんでも言ってくださいね。今のオレはあんまり頼りにならないですけど……ユリさんのチカラになりたいんです」
「カミュ……」

 ユリはしばし考えて、カミュに口を開く。

「……カミュは、私に一緒に逃げないかって言ってくれたよね」
「たしかに、言いましたけど……」
「じゃあ、一緒に逃げてくれる?」
「え……ええ!?」


 ユリはカミュの手を取って、ルーラを唱えた。


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