ふたたびのグロッタの町

 ユグノア地方を北上し、崖間の道を通って一行はグロッタの町を目指していた。
 途中の大きな湖が目印で、そこを過ぎれば町はすぐそこ――……

「あら、湖の上にあんな建物あったかしら……?」
「いや……以前にこの辺りを訪れた時は、このような場所はなかった気がするが……。いつの間にできたのだろう?」

 シルビアとグレイグは崖へりから眼下に広がる湖を見下ろす。その言葉に、残りの皆も二人の後ろから覗き込んだ。
 湖の上には半壊した白い遺跡のようなものが忽然と現れていた。柱や巨大な石像が沈んでいるのも見える。

「……神の民の里の……!」
「神の民の里?」

 グレイグがその単語を聞き返すと「神の民の里は空に浮かぶ島にあるの」ユリは空を見上げて答えた。

「きっと、天界が襲われたように、神の民の里も魔物の襲撃にあって、建物の一部がここに落ちたんだ……」

 険しい表情で言ったユリは、続いて皆に神の民の里について説明する。
 神の民は、ロトゼタシアが生まれるよりも古い歴史を持つ種族だと。それゆえ、天使たちは彼らを神の民と呼んでいる。

「なんと、天上にそのような種族がおったとは……」
「それほどの古の存在なら、魔王についての有益な手がかりを持っていたかもしれんな……。だからこそ、魔王は滅ぼしたに違いない」

 ホメロスの言葉にユリも同意した。邪魔者は消してから、万を時てして、ウルノーガは魔王として君臨したのだ。

「……とはいえ、今はここに立ち寄っているヒマはない。次の場所へ急ぐぞ、ユリ」
「……うん」

 ユリは気になりつつも、先に進む皆のあとを追った。

 グロッタの町は、大きな塔のような建物の中に町がある変わった作りの町だが、外観は変わりがないようだ。

「よう!あんたたちもあのウワサを聞いてこんなとこまでやってきたのか?」

 町の入り口の前には一人のあらくれ者の姿があり、一行に気さくに声をかけた。
 ウワサ?皆、同じように首を傾げるなか、ロウがあらくれ者に聞き返す。

「はて……ウワサとな?」
「なんでい、あんたたち、もしかして何も知らねえのか?」

 あらくれ者は呆れたように言ったあと、得意気に皆に話した。

「世界が滅亡して、みんな落ち込んでるだろ。そんな心のキズを癒やしてくれるこの世の楽園が、グロッタの町にあるって話さ。こないだすれ違った旅の武闘家も、グロッタの町に行くって言ってたしな。みんな、癒やされたくて仕方ねえのさ」
「グロッタの町ってそんな癒やされる町だっけ……?」
「アタシたちが来たときと町の雰囲気が変わったのかしらね?」

 話を聞いて、ユリはシルビアと不思議そうな顔を見合わせる。むしろ、癒やしとは反対の熱狂的な町だったような……。

「それにしても、あの武闘家のねえちゃん、すっげえ美人だったなぁ。楽園に行けばまた会えるかな。でへへ……」

 思い出しているのか、あらくれ者はニヤけた笑いを声をもらしている。美人な武闘家のウワサは、ネルセンの宿でもユリは聞いていた。

「すごい美人の旅の武闘家ですって……?それってもしかして……」
「あの、その人の特徴を教えて……」
「アニキーーーッ!」

 ユリの問いを遮るように呼び声が響いて、自然に皆は振り返る。

「おっと、連れが来たみたいだ。それじゃあな、旅の人。縁があったらまたグロッタの町で会おうぜ」

 連れと呼ばれた若い男はハァハァと息を切らして、あらくれ者の元へ駆けてきた。

「おせえぞ!どこで道草くってんだ!?さあ、行くぞ!楽園は目前だ!」
「あっ!待ってよ、アニキーー!」

 足取り軽くグロッタの町へ向かったあらくれ者に、再び追いかける若い男。二人は町へと続く扉の中へ入っていた。

「グロッタの町か……。何やら胸騒ぎがする……」

 呆然と見送った一行に、最初に口を開いたのはグレイグだった。その後にシルビアも「そうね」と同意して続ける。

「グロッタの町にあるっていうこの世の楽園……怪しい誘い文句だけど、こんなご時世だし、だまされても仕方ないのかもね」

 そして、シルビアはユリを真剣な表情と共に見て。

「ユリちゃん、覚えておいて。いいオンナはそういうのに惑わされないよう何ごとも見抜く目を養わなきゃダメよ」
「わかった」

 シルビアの注意に、ユリは真面目に頷いた。

「それにしても……。ロウさま、さっきの人も言っていた美人の旅の武闘家って……」
「わしも同じことを思っておった。もしやマルティナのことかもしれんのう……」
「アタシもマルティナちゃんをすぐに思い浮かんだわ」

 ユリだけでなく、ロウもシルビアもマルティナを連想したらしい。

「姫さまが……グロッタの町にいらっしゃる……」

 最初は美人の旅の武闘家はマルティナとは限らないと思っていたグレイグだったが、三人もマルティナを思い浮かんだとなると、そんな気がしてきてしまう。

「ウルノーガにだまされていたとはいえ、以前、俺が姫さまにした仕打ちを思うと、どのようなカオでお会いすればいいのか……」
「グレイグ、なにをその程度で落ち込んでいる。俺がしたことに比べれば大したことなかろう」
「ホメロス……」
「しかし、姫さまが武闘家か……。あのおてんばぶりから想像できなくはないが、あそこまで姫が手練れになっていたのは驚いたな」
「……そうか。おぬしらは知らんかったな」

 ホメロスの最後の方の呟きを拾ったのはロウだ。話しておくにはちょうどいいかと、ロウはユグノアの悲劇で生き残ったマルティナの話をする。

 それは、ユリやシルビア、カミュも初めて聞く話であった。

「マルティナは、守れなかったものを今度は守るためにあそこまで強くなったのじゃよ……」

 ――ユリがアーウィンの魂の中で、途中まで見た光景だ。

 幼いエルシスを抱いたエレノアとマルティナは地下通路を逃げていたが、逃げきれないと悟ったエレノアは、エルシスをマルティナに預け、自ら囮になり……

「マルティナは城から脱出したものの、森の中でぬかるんだ地に足を滑らせ、川に落ちてしまったそうじゃ」
「あの日は……雨で……」

 ユリは思い出して呟く。雷が轟き、窓に滝のように雨が流れる豪雨だった。

「……やはり、ユリ。おぬしはアーウィンの中であの惨劇を目にしたのじゃな?」
「……」

 ロウに鋭く察し、ユリは静かに肯定した。

「……しなくていい、つらい経験をさせてしまったな。もっと早くに気づいてあげられず、すまんかった……。気にやむなと言っても無理じゃろうが、もう過ぎ去った時のことじゃ。心を捕らわれてはならん」
「……はい。私も黙っていてごめんなさい。もう大丈夫です」

 ユリがしっかりした口調で言うと、ロウはその目を見て頷く。奥に強い意思が見える目に、大丈夫だと判断したからだ。
 そして、空を目にしながらロウは話の続きをする。

「……そう、あの日は豪雨じゃった。増水した川の流れに、幼子が揺り籠を手離してしまうのは仕方のないことじゃったのじゃ……。結果的にエルシスは生きておったが、生存を知るまでの16年間、マルティナは後悔の念に苦しんだ」

 悔やんで悔やんで……次は絶対に守れるようにと――ロウの指導の元、武術の鍛練に明け暮れていたという。

「あの強さは一長一短では生まれん。マルティナの16年の歳月の積み重ねた強さじゃ。現にグレイグよ。おぬしはマルティナと戦った際に手こずったのではないか?」
「……はい」

 最後は微笑むように言ったロウに、グレイグは素直に答えた。
 正直、最初はたかが姫が武術を嗜んだ程度だと甘く見ていた。あの動きは熟練の武闘家のものだと、今なら素直に認めることができる。

(マルティナ姫……)

 ――マルティナを思い出すとき、グレイグはあの戦いの中での目を思い出す。重なった視線は、互いが互いを敵と認識した目だった。

 グレイグがマルティナに対する後悔はただ一つ。

 赤ん坊の頃から見守ってきた彼女の言葉を、何故、わずかでも耳を傾けなかったのか――と。

「さて、マルティナがいるかは町に行けばわかるはずじゃ。わしらも行こうかのう」

 一行はグロッタの町の入り口へと向かう。

「グロッタの町か。前にも行ったことがあったような……。ダメだ、思いだせない……」

 見上げながら、カミュは小さく呟いた。
 これまで皆と世界を回ってきたが、記憶を思い出す気配がまったくなく、いよいよ不安になってくる。

 自分はずっと、このままかもしれない。

 いや、町の中を歩いたら、なにか思い出すかもしれない……カミュはそう自分を励まして、皆と共に、町へ足を踏み入れた――。


「……なんだか、様子がおかしいわね。それに、あんな悪趣味な像、前に来た時あったかしら?」

 腕を組んで、元はグレイグ像があった場所を見ながらシルビアは言った。

「あのマヌケなカオは間違いない……」
「ホメロスちゃん、なにか知ってるの?」
「あれは……」
「ようこそ、グロッタの町へ……」

 ホメロスが答えようとした時、声をかけられ、皆の視線は上から下へ移る。

「町の中に魔物……!?油断するなユリ!」

 声の主は魔物であった。いち早く声を上げたグレイグだけでなく、皆は身構える。

「おやおや、こまりますな……。どうか落ち着いてくださいませ」

 緊張感が走った彼らとは別に、悪魔系の魔物のライオネックは悠然と話す。こちらに敵意はないようだが、先ほどグレイグが言ったように油断はできない。

「このグロッタの町は、今や幸せな楽園に生まれ変わったのです。そんな場所で戦闘するなどヤボですぞ」
「幸せな楽園?さっきの男もそんなことを言っておったが……」
「野蛮なコロシアムなんてもう古い!これからは、六軍王であるブギーさまが作ったモンスターカジノがここの新名物ですよ!」

 ……モンスターカジノ?

 魔物は片手をあの像に向ける。あの悪趣味な像が六軍王のブギーらしい。
 今まで出会ってきた六軍王とはなんだか毛色が違う……と、ユリは思う。

「あなたたちも興味がおありなら、ぜひ、2階のカジノで遊んでいってください。どうなっても知りませんがね。フフフ……」

 最後は妖しく笑いながら、魔物は去っていた。

「おどろいたわね〜!まさかグロッタの楽園っていうのが魔物だらけのカジノだったなんて!」

 魔物が去った方を見ながら、シルビアは驚きの声を上げた。

「闘技場をカジノに改造しちゃうなんて、ブギーって魔物はずいぶんとハチャメチャな性格なのね」
「こんないかがわしく危険な場所に、気高き姫さまがいらっしゃるなど……想像しただけでも虫唾が走る!このグレイグ……!いち早く姫さまを見つけてお守りしなくては……!」
「落ち着け、バカモノ。まだマルティナ姫がこの場にいると確定していない。……可能性は高そうだがな」

 一人暴走しそうなグレイグの肩を掴んで、ホメロスが止めた。

 ……それにしても。

 ホメロスは無駄に主張しているブギー像を見上げて思い出す。記憶の中にあるブギーは、魔物の中でも下品でいけ好かない魔物だったが、実際に間違いないようだ。

 あれではグレイグ像の方が100億倍マシである。(そもそも頭をすげ替えただけではないか!)
 
「魔物が運営するカジノとな……」
「なんだか妙なことになってますね」
「怪しいニオイがプンプンするが……マルティナがいるやもしれん。情報収集しながら、2階にあるというカジノに行ってみようかの」

 ロウとユリは頷き合い、以前とは違うグロッタの町を歩く。
 歩いてすぐ、入り口の前で会ったあの二人組に出会した。

「ア、アニキーーー!町の中に魔物がいるよぉー!」
「グ、グロッタの町にある楽園ってのは、魔物にとっての楽園だったのかよ!ちくしょう、だまされた……っ!」

 二人に話しかけているのはアンクルホーンだ。

「さあさあ、モタモタしとらんと早く2階に行って楽しんできんさい!」
「でも、カジノに行って楽しめだなんて、どうしてオレたちにこんな優しくしてくれるんだ……!?」

 ここにいる魔物たちに敵意は感じないが、ユリはなんとなく裏がありそうな気がした。(スライムくんみたいな悪い魔物じゃない子たちとはちょっと違うような……)

 厳つい見た目だからだろうか。

「……おっ、嬢ちゃんたちも人間か?新しく生まれ変わったグロッタの町によう来よったのう。嬢ちゃんたちも早いとこ2階のカジノに行ってみい!どえらいお楽しみが待ってるけえの!」

 ……でも、口調は気のいいおっちゃんだ。

「どえらい楽しみってなにかな?」
「だめよ、ユリちゃん、惑わされちゃ!でも、気になるわよね!あとで行ってみましょう♪」
「お前も乗り気ではないか」

 ユリはともかく、ノリノリなシルビアにホメロスはジト目でつっこんだ。

「それにしても、魔物がいっぱいいてずいぶんぶっそうな町ですねえ」
「人の姿が全然見えないね……」

 カミュと一緒に、ユリもキョロキョロと見回す。ここまで人の姿が見当たらない。

「今までは忌々しい勇者を倒すためにオイラたちも毎日はたらかされて身も心も疲れてたんだけど……。魔王さまのおかげで勇者もいなくなったし、ひさしぶりに休みをもらえてさあ。これで、ようやくゆっくりできるよ〜」

 そうのんびりと歩きながら言ったのは、どろにんぎょうだ。人間味があるが魔物であり、本当にこの町は魔物の楽園になってしまったのかもしれない。

「マルティナがいるのが本当なら、なんのためにこの町に来たのかのう?こんな魔物がはびこる悪の巣窟に……。いずれにせよ、マルティナが見つければ、すべての謎が解けるじゃろう。さあ、先に進むとしよう」
「ロウさま、教会へ行ってみましょう。あそこなら魔物も近づけないし、町の人たちがいるかもしれない」

 ユリの提案にロウ以外の皆も同意した。教会は下層の移住区にある。一行は階段を降りていく。

「ムチムチギャルはええのう!」
「お客さま、こまりますぅ」

 ハッスルじじいがブラッドレディに絡んでおり、ホメロスは「ロウさまみたいだな」と思った。

「これ、ホメロス。わしに失礼じゃぞ」
「失礼いたしました。声に出ていたようで」

 悪気なく笑って答えたホメロスに、ロウは困ったようにため息を吐いた。そもそも、自分が好きなムチムチギャルは魔物は除外される。

「みんな、家に閉じこもってるみたいだね」

 ユリは民家を確認したが、建物の中から住民の気配は感じるものの、扉はかたく閉ざされていた。
 住人もこの状況じゃ、外に出たくとも出れないのだろう。

「あんな、むさ苦しかった町をたった数日で超ホットなカジノにしちまうなんて……。ブギーさまってホントセンスあるよなー。一日中バカ騒ぎしても怒られないし、オレ、ブギーさまの軍に入ってよかったぜ!ブギーさま、バンザーイ!」

 言葉通りバンザイをするアンクルホーンは、冷ややかな目で見ているホメロスに気づくと、はっとした。

「ホメロスさま!もしや視察ですか!お務めご苦労さまです!」
「いや、私は……」

 どうやら、魔軍司令ホメロスと勘違いしているらしい。ホメロスから生まれた魔物で、本人そっくりなので間違うのも無理はないだろう。
 ホメロスは否定しようとしたが、面倒くさくなったらしく、なにも言わず魔物を通り過ぎた。

「武器屋も防具屋も魔物が接客をしていて驚きましたね」
「楽しそうだったね。魔物も人間に憧れているところがあるのかも」

 それでも、町が乗っ取られているような状況は問題だ。辺りには魔物しかおらず、魔物の町にやって来た気分になる。

 さすがに教会の付近は魔物の姿は見当たらない……

「グゲゲェ……オゲェーーー!」

 と、思っていたら。一匹のびっくりサタンが床にうつ伏せに倒れていた。

「な、なんなんだ、この家からあふれ出るまがまがしい聖なるオーラはっ……!おかげで魔物はここに寄りつけねえ!近づいたら、オイラみたいにこうしてヘロヘロに……うぷ……オエーッ!」
「ユリさま、行きましょう」

 不快な光景だと言わんばかりに、ホメロスはユリの背中を押して、さっさと教会の中に入っていく。
 扉を開けて教会の中に入ると、中にいた人たちの目が一斉に向けられた。

「あんた、ユリじゃないか!あたいを覚えてる?仮面武闘会で出会った闘士のサイデリアだよ!」
「サイデリアさん!」

 駆け寄ってくるサイデリアに、ユリは笑顔で迎える。サイデリアともう一人コンビを組んでいたビビアンは一緒に酒を飲んだ仲だ。

「……町の中に魔物がいておどろいただろ?大樹が落ちた直後、いきなり魔物の大群がグロッタの町に押しよせてきたのさ」
「そうだったんですね……」
「私たちはずっと防戦一方だったんだけど、武闘会で準優勝したマルティナさんが来て闘士たちはみんなで反撃に出たんだ」
「やっぱり、マルティナはこの町に来て……」

 ユリは自分たちは仲間とバラバラになり、仲間の一人であるマルティナを探しているとサイデリアに話した。
 サイデリアはユリの話を聞いて、残念そうに首を横に振って口を開く。

「でも……それきり、彼らは帰ってこない……。意気地なしのあたいは、この教会でみんなの無事を祈ってるってワケさ……」

 サイデリアは自分に落胆した声で言った。一緒にいたビビアンの姿がないのは、彼女は反乱組の一人らしい。
 ユリは自分たちが様子を見てくると言ってサイデリアを励ました。

「ユリ……なんだか最初に会ったときの印象と変わったね。きっと、これまで色んなことを乗り越えてきたんだってわかるよ。ありがとうね。ビビアンのことをお願いするよ」

 弱々しく笑顔を見せたサイデリアに、ユリはまかせて、と頷いた。

「だ…大丈夫や。マルティナさんやハンフリーのアニキたちは絶対、無事に決まってる!」

 どうやら、ハンフリーを含む多くの仮面武闘会の闘士たちが反乱組らしい。孤児院の子たちも心配そうに彼らの帰りを待っていた。

「この孤児院は神のチカラで守られておるから、魔物は入ることすらできんのじゃ。だから皆、ここに避難したのじゃが……それもいつ突破されるかわからんし、食糧だって、いつ底を尽きるか……。早くこの悪夢が終わってくれんかのう……」

 椅子に座り、神に祈りを捧げた老人が不安な顔で言った。ユリは仲間たちと顔を見合わせる。

「マルティナがここに訪れた理由はわかったが、皆と共に帰ってこないという話は心配じゃな」
「ユリ!姫さまたちを探すぞ!俺たちの助けが必要かもしれん」
「町の人たちもずっと閉じこもっているわけにはいかないわ」

 その手がかりは2階にあるというモンスターカジノだろう。そちらに向かおうと、教会を立ち去ろうとした際。

「あっ、ユリねえちゃんだ!たいへんったいへんだよぉ!」
「どうしたの?」

 慌てる少女がユリを引き留めた。孤児院の一人だ。

「あっちのへやのおくにねっ!まものがはいってきちゃったみたいなの!ねえちゃんおねがい!なんとかして!」
「まさか、教会に魔物なんて……」
「ユリちゃん、いきましょ!」

 驚くカミュにシルビアが続き「うん!」ユリはすぐさま少女が案内する部屋に向かった。

 そこはハンフリーの自室だ。

「ベロベロ、ベロ〜ン!オレは魔物じゃないベロ〜ン!ひどいベロン、ベロロ〜ン!」
「ベロリンマンさん……?」

 勢いよくドアを開けた先には――魔物ではなく、オロオロするベロリンマンがいた。

「ユリちゃん、ひさしぶりだベロン!外にいる子供にオレが魔物だってカン違いされてるんだベロン!騒ぐからここから出られないベロ〜ン!助けてベロン?」

 ユリは苦笑しながら頷いた。怖がっている少女にベロリンマンのことを説明する。

「なぁんだ、まものじゃないんだね。びっくりしてごめんね、ベロのおにいちゃん」
「素直でいい子だベロン!許すベロン!」

 二人は仲良くなって、ユリはほっとシルビアと顔を見合わせた。
 相方のミスター・ハンもここにいるようだが、彼は怪我をしてベッドに横たわっていた。

「おお、ユリのお嬢さんに、お前は……カミュ!私だよ、仮面武闘会で一緒に組んだミスター・ハンだ……いてててっ!」
「あ、そのままで大丈夫です……!」

 思わず起き上がろうとしたミスター・ハンに、ユリは慌てて手で止めた。この人もオレの知り合い?とカミュが不思議そうな顔をしていると、シルビアが事情を説明する。

「すまんな……町を占拠した魔物を退治しようと立ち向かったんだが……。結果はご覧の通りでな、ハハハ」
「話は他の方たちからも聞きました。ハンさん、今はゆっくり休んでください」
「ありがとう。私や他の闘士はヤツらに負けたが……。カミュ、共に戦いお前の実力は知っている。チャンピオンの仲間でもあるお前のチカラがあれば、きっとこの町を救うことができるだろう。頼む、この町を魔物たちの手から救い、散った闘士たちのカタキをとってくれ……!」
「アタシたちにまかせて。ハンちゃんは早く元気になるのよ」

 突然、ミスター・ハンに託されて困惑するカミュに代わって、シルビアが答えた。
 ミスター・ハンに「お大事に」と言って、一行は部屋を後にする。

「とりあえず、アタシたちがやるべきことはひとつね」

 かつての姿から変わってしまった、この町の問題を解決することだ――。
 きっと、その先でマルティナとも再会できるだろう。


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