マルティナとの再会

 マルティナはニィ……と目を細める。まるで、獲物を見定めるような目だ。
 その表情も仕草も、マルティナなのにマルティナじゃないみたいだった。
 目の色も赤く、肌の色も青い。なにより――。(マルティナから魔のオーラを感じる……?)

「……あら?グレイグじゃない。アンタみたいな頭でっかちでも、こういう所に出入りするのね」

 彼女は視界に入ったグレイグに話しかける。

「ウフフ……アンタも刺激が欲しいのね。たーっぷりサービスしてあげるから、アタシと一緒に遊びましょ」
「ひっ、ひっ……姫さま!な、なんとはしたないっ……!」

 マルティナらしからぬ話し方と内容だ。彼女を知る者たちは変わり果てた姿に呆然とする。対してマルティナは、がっかりしたというような、呆れた顔をしてみせた。

「グレイグ……アンタって、ホントウンザリするほどマジメな男ね。忠実なだけならイヌでもできるわよ。ねえ……アタシのイヌにしてあげましょうか?世界でいちばん幸せなペットにしてあげる」

 ――今のマルティナは絶対に正気じゃない。

 ユリはそう確信する。気高い王女が、闇の女王ぐらいの変わりようだ。記憶はあるようだが、彼女の身になにかが起こったのは確かだ。

「な、なんとハレンチなっ……!いったいどうしたんじゃ、マルティナ!?今は冗談を言っている場合じゃないぞい!」

 マルティナの言動に言葉を詰まらせたグレイグに変わって、ロウが困惑する声で言った。

「打倒ウルノーガの信念を貫くため、わしらにはおぬしのチカラが必要なんじゃ!さあ、もう一度わしらと旅を……」
「んもう!相変わらずうるさいジジイね。楽しい雰囲気がシラケちゃうじゃない!」

 ……ジジイ!?そう呼ばれて、明らかにロウはショックを受けている。ロウだけでなく、ユリもマルティナの口からそんな単語が出てショックだ。

「いい?今のアタシにとって、打倒ウルノーガなんて興味ないわ。こんな世界、もっと壊しちゃえばいいのよ」

 その言葉のあと、マルティナは両手を広げて、うっとりと続ける。

「アタシが興味あるのは、このカジノを作った六軍王であるブギーさまだけ……。アタシの身も心もブギーさまのモノなのよ」
「ブギーに洗脳でもされたか……」

 ホメロスは苦々しく呟いた。洗脳……それならこのマルティナの様子も納得だ。

「だから、アンタたちにはついてかないわ。アタシはブギーさまと一緒に、これからこのカジノを盛り上げていくんだから!」
「いい加減にしてください、姫さま!今はそんなバカげたことを言ってる時ではありません!」

 語気を強めてグレイグはマルティナに言った。背を向ける彼女に近寄り、説得を試みる。

「こんないかがわしい場所、気高い姫さまにはふさわしくない!さあ、我々と共に行きましょう!」

 グレイグがその肩に手を振れようとした瞬間。マルティナは振り向きざまにその手を足で払い、さらに飛び上がりグレイグに蹴りを入れた。

「ぐ……っ!」
「グレイグ……!」

 仲間の元まで押し流されたグレイグは、咄嗟にガードした手を片手で抑える。皆は息を呑む。マルティナの足技は健在だ。

「気安く触らないでくれる?」

 見下すような目をして、マルティナは言う。

「女の誘い方も知らないの……?アンタ、何もわかってないのね」
「……グレイグ。残念だが、今のマルティナ姫になにを言っても無駄だ」
「っ……なら、どうすれば!」
「今のマルティナから闇のオーラを感じるの。祓えないか試してみる!」

 洗脳の種類にもよるが、ホメロスの時のように、元のマルティナに戻せるかもしれない――。

「どうやら、キツ〜いお仕置きが必要みたいね。アンタたちみたいなしつこいヤツらは、アタシの蹴りで黙らせてあげるわ!」
「!?」

 言うな否や、呪われしマルティナが襲いかかってきた!
 ――速い!気づいたら目の前に移動し、グレイグは咄嗟に腕をクロスさせて防御した。

「くっ!今の姫さまは危険だ!ユリ、やるしかないぞ!」

 グレイグの言葉にユリは同意するしかない。
 マルティナは戦う気満々で、こちらに容赦なく攻撃してくる!

「ウフフ……。全員、かわいがってあげるわ♪」

 飛び蹴りから床に着地したマルティナは、六人を見据えて蠱惑的に微笑んだ。

「マルティナ!ちと痛い思いをさせるが、許しておくれよ……!」
「アタシを見て♡セクシービーム!」
「ふおぉ!」

 呪文を唱えようとしたロウは、ダメージを受けると共に魅了状態になった。

「シルビア!」
「んもう、ロウちゃんってばしょうがないわね!」

 素早くホメロスがシルビアに目配せして、シルビアがロウにツッコミをする一方、

「グレイグ、アタシにパフパフされたい?」
「パッ……!姫さま、おやめ……!」

 ――ぐはあぁ!!

 動揺したグレイグの顎を、いとも簡単にマルティナは蹴り上げた。

「グレイグ!?」
「まずはアンタから仕留めてあげる!」

 グレイグは後ろに吹っ飛ばされ、床に背中を叩きつけられる。すぐさま追撃しようとしたマルティナの蹴りを「っ!」ユリが剣で受け止めた。

「あら……ユリ♪」
「マルティナ……!」
「そういえば、アンタ。元天使だったっけ」

 拮抗していた力が弾き合い、ユリとマルティナは距離を取る。

「だったら……ユリ。アンタを堕天使にしてあげる」
「え?」
「堕天使……!?」
「その方が素敵でしょ?」

 全員、堕天使になったユリをちょっと見てみたいと思い、すぐさま首を横に振った。

「アタシと一緒に来なさい。アンタもブギーさまのものに……」
「――ドルモーア!」
「ッぐぅ!」

 闇の上位呪文がマルティナは襲い、彼女は呻いた。

「マルティナ姫とはいえ、我々の勇者を引き抜くのはお止めください」
「チィ……」

 ホメロスはマルティナに杖を向けたまま、冷めた声で言い放った。

「……ホメロス。グレイグのオマケみたいなアンタが、ずいぶんとエラそうじゃない?」
「どうぞ私のことはお好きに罵っていただいて結構です」
「……今にアタシの前に跪かせてあげるわ!」
「おイタはやめて、正気に戻ってマルティナちゃん!」

 ロウのうっとりを治したシルビアが、今度はマルティナに鞭を振るう。

「痛いじゃない!……奪ってあげるわ、アンタのすべて!」

 マルティナはシルビアにセクシービームを放った!

「残念♪それぐらいの色気じゃ、アタシには効かなくってよ」

 シルビアはダメージを受けても、うっとりにはならない!

「だったらこれならどうかしら?ヒップアタック――!」
「いやんっ!」

 なかなかの攻撃力に、シルビアの口から可愛いらしい悲鳴が出た。

「……っ……、あの姫さまの技は一体なんなんだ……?」
「私も初めて見る技だよ……!」

 ユリの回復呪文によって傷が癒えたグレイグは、彼女に支えられながら起き上がる。急所の攻撃はさすがのグレイグの脳を揺らし、一発ダウンさせた。

「マルティナちゃん、きっと魔物に洗脳された影響で……」
「あれはわしがマルティナの素質を見抜き、教えたおいろけ技じゃ!」
「ロウさまァァ!姫さまになんたる技を教えたんだっ!」
「余計なことをっ……!」

 何故か誇らしげに言ったロウに、双頭の鷲の騎士から苦情が飛び交った。ホメロスにいたっては舌打ちまでしている。現にロウが教えていなければ……

「サキュバスウィンク!」
「ユリ!ホメロス!ゴリアテ!」
「こりゃまずい!」

 ここまで自分たちは振り回されなかっただろう。
 サキュバスウィンクは全員にダメージを与え、眠りに誘い、さらにマルティナは回復するという恐ろしい技だ。

「よりにもよって魅了耐性がある者たちが眠ってしまった……!頼む、カミュ!皆を早く起こしてくれ!」
「は、はい!」
「あら、カミュもいたの?アンタにしては存在感薄いじゃない!」
「させん!」

 カミュを襲おうとしたマルティナに、グレイグとロウが立ちはだかる。

「姫さま、二度も剣を向けることをお許しくださ……」
「ぱふぱふ、ぱふぱふ……」

 マルティナはグレイグにぱふぱふをしてあげた!
 グレイグは気持ちが良さそうだ!

「グレイグ!?なんという羨ましい……じゃなくて、しっかりせい!」
「ほーら」

 マルティナはお色気たっぷりのキッスをロウに投げつけた!

「どうせなら……ぱふぱふがよかったのう……」

 ロウはグレイグと共に、再び魅了状態になる。

「うわあぁ!皆さん、起きてくださいっ!」

 それを見てカミュは慌てて「ザメハ」を唱えた。……が、皆が目を覚ました瞬間。

「イッツショータイム!」

 マルティナの高々とした声が合図のように響き、グレイグの「ぶんまわし」の攻撃が三人を襲った。

「っ、ちょっとグレイグ!」
「グレイグ……貴様……!」
「私が回復補助に専念するから、二人はマルティナを……!」

 ユリは星の矢を放った。悪い効果を打ち消すその矢は魅了状態も解除する。

「こーなったら、ホメロスちゃん!一気に決めるわよ!」
「ああっ、これではラチがあかん!」

 二人は両手に剣を握る。二人が二刀流のときに使えるれんけい技――双剣連舞だ。

「きゃああ……!」

 素早く、そして華麗に剣技が入った。マルティナは痛む腕を片手で抑えながら、二人を睨みつける。

「マルティナ姫……ここまでです。我々も無用にあなたを傷つけたくない」
「ホメロス……その澄ました顔……昔からムカついてたわ。ちょっとアタシに傷をつけたからって、調子に乗らないでくれる?」

 マルティナは屈んでいた身体を起こす。その際、彼女の髪を纏めていたリボンがほどけ、黒髪がバサ……と落ちた。

「あ……」

 それは思い出のリボンだ。リボンは風に乗って、ユリの手のひらの上に落ちる。

「…………」

 リボンを見つめるユリの表情が引き締まり、その足はマルティナの元へ向かった。
 正面から彼女と向き合い、手を伸ばし、リボンを差し出す。

「……なによ。そんなリボンなんか知らないわ。いらないわよ」
「……本当に?これはあなたのお母さまの形見のリボンだよ」
「……!」

 マルティナの表情が揺らいだ。その目は僅かに見開き、ユリの手の上にあるリボンをじっと見つめる。

 人には、心がある。

 洗脳を解く一番の方法は、その心を動かすことだ。

「あなたのお母さまの親友であるグレースさん……。彼女から託された大切なリボンだと……マルティナ、本当のあなたは知っているはず」
「……お母さまの……リボン……?」

 ――思い出して、マルティナ。

(あの夕暮れのなか、二人の青春時代に触れたことを……!)

 祈るユリの目に、マルティナがおそるおそるリボンに手を伸ばす姿が映り――……

「こまりますなぁ、お客さぁ〜ん。うちのナンバーワンディーラーをイジメてもらっちゃあ……」
「っ!ブギーさま!」

 その声に、マルティナの手がさっと引っ込んだ。どしん、どしん、と響く足音が床から伝わる。

「えっほ、えっほ…………ほっ!」

 でっぷりとした腹を揺らし、ジャンプした魔物は、ユリたちの前に音を立て着地した。

「泣かせた女は数知れず……。最強のキングオブモンスター!妖魔軍王ブギーさま、参上だじょ!」
「やっと元凶のお出ましか……」

 忌々しいというような目をして、ホメロスは呟いた。その強欲で悪趣味な成金みたいな姿は、いつ目にしても癇に障る。

「こいつが六軍王のひとり、ブギー……。グロッタの町をこんな風にした張本人の登場ってワケね」

 シルビアがそう話す間に、ブギーはマルティナの元へ擦り寄った。

「おお、よちよち。こんなに痛めつけられて、かわいそうなボクちんのかわゆい子ネコちゃん。カタキはボクちんが取ってあげるからね」
「ぶ、無礼者がぁ!即刻、姫さまから離れろ!」

 グレイグはそう叫ぶが、マルティナは「ブギーさま。ムカつくあいつらを懲らしめてやってください……!」と、うっとりした顔でブギーに言う。
 せっかくマルティナの洗脳が解けそうだったのに……ユリはもどかしそうにブギーを見た。

 ――元凶を倒すしかない!

「クックック……ボクちんのマルティナを仲間に引き込もうなんてムダムダ」

 ドシンッ。マルティナからひとっ跳びして、再び一行の前にブギーは立ちはだかる。

「ボクちんのチカラでマルティナをナイスバディ〜な魔物にして、ボクちんの忠実なるしもべにしたからね〜ん」
「人間を魔物に……?じゃ、じゃあ、もしかしてマルティナちゃん以外の魔物たちも……?」

 シルビアの問いに、ブギーが手を向ける先にはブラッドレディたちが……
 
「マルティナだけじゃく、このカジノの従業員である魔物たちはもともと人間だったヤツらさ」
「どおりでカジノに人の姿がなかったわけじゃ……」

 納得というようにロウは言った。

「カジノで大勝ちして、調子に乗った人間たちを魔物に変えてコキ使いまくるのが、ボクちんの何よりの楽しみなんだよーん」
「相変わらずゲスで、やり方が汚ならしいな」

 かつての自分が言える立場ではないが……こいつには言わせてほしいとホメロスは思う。

「お前はホメロス!?なぜ、ボクちんの楽園に……って、よく見たら人間の方のホメロスだじょ!よくもボクちんを騙したな!」
「貴様が勝手に勘違いしたんだろうが」

 ホメロスは心底呆れて、ため息を吐く。見た目だけでなく中身も生理的に無理な魔物だった。
 
「マルティナはわしらの大事な仲間……。おぬしの悪行に付き合わせるワケにはいかぬ!さあ、マルティナを返してもらうぞい!」

 ロウはブギーに宣言するように言って、意思は同じというように、皆は武器を構える。

「ボクちんの楽園を壊そうとするヤツは、まとめてズタボロ百たたきの刑だじょ!全部、全部、消えてなくなれ〜!!」

 ブギーの周りをふわりと浮いた魔力の玉が回りだした。首に下げているグリーンオーブの力だろうか。

「姫さまによくも無礼を!一気にたたきのめしてくれる!」
「こいつを倒せば、姫も町の人も元に戻るだろう」
「じゃあ、遠慮はいらないわね」

 グレイグ、ホメロス、シルビアがブギーに剣を向ける。

「ユリ、先ほどの戦闘の影響もある。油断は禁物じゃ。わしらは回復補助に専念するぞい」
「はい!」

 厄介なお色気攻撃もだったが、やはり仲間相手に全力は出せなかった。だが、相手が魔物なら――とくに卑劣な魔物に情けはない!

「いくぞ!!」

 大剣を構えたグレイグはゾーンに入り、ブギー目掛けて走る。

「彼の者に力を……!」

 さらにユリはグレイグに「バイキルト」を唱えた。グレイグのあとに、ホメロス、シルビアも続き――……

「どいつもこいつも踊らにゃそんそん!」


 !?
 ブギーは"超さそうおどり"を踊った!


(そんな……っ)

 ――ユリは初めて、強い屈辱感を味わっていた。
 あんな魔物にすべての自由を奪われたのだ。抵抗も虚しく、意思とは反対にリズムを刻もうとする身体……


 頭では拒否してるのにぃ……!


「身体が勝手に踊るぅ〜〜!!」
「いや〜ん!踊りの誘惑には勝てないわ〜!」
「よよいがよい♪そ〜れ、よよいがよい♪」
「花が〜咲く咲く〜バンデルフォン〜」


 ……!?自分以外が踊っている光景に、ホメロスは愕然としていた。しかも、ロウとグレイグに至っては陽気に歌まで歌っている。(このムッツリコンビめが!)

 魅了耐性に強かったユリとシルビアとホメロスの三人だが、ホメロスは踊り耐性は普通で、ユリとシルビアは弱かった。
 シルビアが踊り耐性がないのは一目でわかるが、ユリの場合は大樹の加護の範囲外が弱い。

 それが、踊りと眠りである。

 一度釣られて踊ってしまったら、解除する方法は時間経過しかない。(それまで、俺一人でこの状況をどうにかせねば……!)

 ……いや、もう一人いた。

「カミュ!お前も参戦しろ!人手が足りん!」
「え!?は、はい!がんばります!」

 控えていたカミュは前衛に上がり、愛用の短剣を手にして、ホメロスと共にブギーに攻撃を仕掛ける。

 ちなみに、カミュの耐性はすべてが普通である。

「ピカーン」

 ブギーは額の目をカッと見開いた!

 なので――「あ、あれ……?」ブギーの強制的に魅了状態にする「第三の目」で、カミュがその状態になってもおかしくない。

(こいつも魅了攻撃をするのか……!)
「丸焦げにな〜れ」

 残る一人のホメロスに対して、ブギーは「メラゾーマ」を唱えた。

「ぐうっ……!」
「ボクちんより目立つからこんな目に合うんじょ!あ、人間の方じゃなくて魔物の方だけどね〜」

 ブギーはクックックッと、いやらしく笑う。

「踊りが解けた!ホメロス、今助けるぞ!」
「ギガデイン!」

 グレイグが「ベホイム」を唱え、ユリがブギーに聖なる雷の呪文を唱えた。

「やっと解けたわ!いっくわよ――かえん切り!」
「わしの奥義を受けてみろ!グランドクロス!」

 彼らの怒濤の攻撃にも、ブギーの口から出たのは「ぐじょ!」と、気の抜けるような声だ。

「だったら……いただくじょ〜」

 ブギーはオーブの力を解き放った!

「ギガマホトラ!!」
「!?魔力が……!」
「んもうっ!アタシたちの魔力を奪うなんて卑怯よ!」

 全員の魔力がブギーに奪われた。魔力が渇望すれば、呪文はもちろん、とくぎも使えなくなってしまう。

「ぶっとびんしゃい!」

 続けざまにブギーは魔力の玉から竜巻が発生させ、その言葉どおり全員、吹っ飛ばされた。

「……っ、魔力のことを考えても長期戦は不利だ」
「ああ!短期決戦でいくぞ……!」

 ホメロスの言葉に、すかさずグレイグが答え「うおぉ!」今度こそブギーに一撃を入れる。
 それは会心の一撃となり、ユリが唱えたバイキルトの効果もまだ解けてはいない。

「いてっ……」

 渾身のグレイグの攻撃に、ブギーは後ろによろめくが、三つの目と口はニヤリと笑っていた。

「この程度でボクちんを倒そうなんて、ヘソで茶が沸かせるじょ〜!」

 ブギーは再び超さそうおどりを踊り、彼らを撹乱する。

「くそ……!こんな奴に踊らされるとは、なんたる屈辱だ……!」

 今度はホメロスも誘われて踊ってしまった。口では悪態をつきながらも、その踊りは貴族のように優雅である。

「わしだけでも……!」

 運よく誘われなかったロウが、祈りを込めてグランドクロスを放とうとするも……

「ボクちんの魅力にメロメロにな〜れ」
「ほえ〜」
「ロウさま!我ら美女にうつつを抜かしても、あのような不細工な魔物に魅了されてはなりません!」
「誰が不細工じょ!お前にもボクちんの魅力に気づかせてやる!ピカーン!!」
「なんと素晴らしきお方……ブギーさま!」

 ――ダメだこりゃ!?

 ブギーは的確に、魅了耐性が弱い二人に第三の目を使ってくる。
 さらに通常攻撃に加え、たつまき、メラゾーマ、そこにギガマホトラと、じわじわと彼らを追い込んでいった。

 攻撃どころか回復もままならない。

 パーティーは総崩れし、ブギーの一方的な蹂躙が続いた。

 ……――気がつけば。


「さすがブギーさまですわ!あんな大口を叩いておいて、ブギーさまの足元にも及ばないなんて……ホントに情けないヤツらね」

 嬉々としたマルティナの声が、虚しく耳に届いた。全員、力なく床にひれ伏している。

「うっひょひょ!全員もれなく、ボクちんの忠実な魔物にしてあげるじょ!」
「……っ!」

 ――こんなところで、終わるわけにはいかない。
 ユリはダメージと、踊らせ続けられてフラフラな身体を起こすが、魔力も残り僅かしか残っていない。

「いちばんに立ち上がるとは、なかなか健気な子だね!じゃあ、キミは特別にボクちんの……って、なんだじょ!?このまがまがしい聖なるオーラは!?可愛い顔しておいて、とんでもない悪女だじょ……!」
「おい、ブギー!ユリさまを悪女と呼ぶとは底抜けに愚かな奴め……!」

 すかさずホメロスから抗議の声が飛び出した。魔族にとって、ユリの天使として残る聖なるオーラを禍々しいものに感じるのは道理ではあるが。

「愚かなのはお前らじょ。そんなボロボロな状態で、この最強のキングオブモンスター!妖魔軍王ブギーさまに勝てると思ってるじょ?」
「ぐっ……」

 グレイグの喉から絞り出すような声がもれた。体力自慢のグレイグだったが、その彼も多くの傷を負い、息切れしている。

「ぬう……連戦に魔力も渇望して、ここから立て直しは厳しいじゃろう。敵との分が悪すぎた。……のう、ユリよ。ときには逃げることもひとつの戦略じゃぞ」
「……ロウさま。……でも……」

 どうやって……!ブギーは下品な笑みを浮かべて両手をこちらに向ける――

「……皆さん。オレが敵の注意を引きつけます。その隙に逃げてください」
「カミュちゃん……?」

 驚くシルビアの目に、短剣をぎゅっと握り、意思の強い表情をしたカミュの横顔が映る。
 ほとんど戦闘に参加せず、後衛にいたので、カミュはまだ自分は動けると言った。

「大丈夫です。捕まっても魔物にされるだけですよ。でも、あなたたちが捕まれば、この町を救う者はいなくなってしまう……」
「カミュ、だめ……っ、逃げるなら一緒に……!」

 ユリの脳裏に、ダーハルーネで身代わりになったカミュの姿が思い浮かぶ。

 もう、二度と。

「ユリさん、オレにもかっこつけさせてください。敵の攻撃手段を知ったあなたたちなら、次は絶対に勝てる――……そう信じてます」

 カミュは最後に微笑み、ブギーに立ち向かっていた。

「ユリ、カミュの覚悟を汲め!」
「行きましょう、ユリちゃん!」
「一時撤退じゃ――!」


 もう、二度と。カミュを置いていかないって決めたのに。


 ――……


「ブギーさま。ちょうどもう一人、ディーラーが欲しかったところですわ」
「そっか!マルティナの仕事が減れば、もっとボクちんと一緒にいられるもんね♪よーし!キミにはこれを着させて……さあ、魔物になってボクちんに忠誠を誓うじょ!」


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