勝利の女神よ、微笑んで

 その日、ユリはカミュと並んで、酒場のカウンター席で昼食を食べていた。

「……なかなか出ませんね」
「……なかなか出ないね」

 オムライスはおいしいのに、ユリの顔は浮かない様子だ。カウンターの奥からコップに水を注ぐイケメンバーテンは、微笑みながらユリに話しかける。

「まあ、辛抱強く待っていれば、そのうち幸運の女神が微笑むさ」

 彼ともすっかり顔馴染みになった。
 このカジノで、ユリは立派な常連客になった。
 むしろ、あのベシムと勝負をしている可憐なギャンブラーとして一躍有名人になっていた。ギャンブラーではないが。

 ベシムの勝負を受けてから、早三日。
 宿とカジノを往復する日々だ。
 
「あんまりのんびりできないのにね……」
「たまにはのんびりしてもいいんじゃないですか。皆さんも楽しそうですよ。ホメロスさんとマルティナさんもカジノを楽しんでますし、シルビアさんはステージで踊って、グレイグさんは闘士の方と手合わせして、ロウさんは……バニーガールたちと戯れて」

 最後のは言おうかどうか迷ったが、真実なのでカミュは口にした。

「……カミュは」
「ん?」
「カミュは楽しい?」

 ユリの問いに、カミュはくすっと笑って答える。

「そうですね……。ユリさんが気晴らしにマジスロやって、楽しそうにしているところを見るのが楽しいです」
「見てたのっ?」

 見られていたと、ユリはちょっと恥ずかしくなった。ルーレットもドキドキして楽しくないわけではないが、やっぱりマジスロが一番面白いとユリは思う。

「でも、ユリさん。結構当ててますよね。天使って、神さまに愛されて運がいいような気がします」
「そうなのかな?」

 カミュのその言葉に、ユリはしばし思案すると、なにかを決意した。

「カミュ。私、神さまに祈ってみる」

 真剣にユリは言ったが、天使がそんなギャンブルの願いを祈っていいのかカミュは少し心配になった。
 いや、元を辿れば少女のための人助けだ。
 きっと、神さまも心優しい天使の声を聞き入れてくれるだろう――。


 ……翌日、神はユリの願いを聞き入れたのか、チャンスが到来した。

「あ!ユリちゃん、ビビッと来ちゃったわ!そろそろジャックポット当選者が出そうな、そんな予感がするわね!」

 コインタワーの近くにいるバニーの彼女は、ジャックポットが出そうな流れがわかるらしく、仲良くなったユリにこっそり教えてくれる。
 ありがとう、と次にユリが向かった先は、ラッパを手に持つバニーの元だ。

「ふふ、ユリちゃん。今日もぱふぱふしましょうか?」
「うん、ぱふぱふお願い」

 これだけ聞くとムフフな感じにも聞こえるが、至って健全である。
 ぱふぱふは白粉でぱふぱふするだけでなく、ラッパでぱふぱふもあったのだ。

「じゃあ、目をつぶっていてね。……準備はいい?いくわよ……それっ!」

 ぱふぱふ!

 このバニーはラッパをぱふぱふして、ユリに幸運のおまじないをかける。効果のほどは謎だが、ユリはカジノをする前に毎回やってもらっていた。

「とっておきのをかけたわ。がんばってね!」
「ありがとう!」

 そして、ユリの足が向かった先は100コインのルーレットだ。コインは貯まっていたので、当たったときのことも考えて、ユリは勝負に出た。

 すぐには当たらなくとも、ユリは粘る。

 数字を決めるのは、ホメロスはよく当たった数字から割り出して決めているらしいが、ユリは完璧にカンだった。
 何気なくピンときた数字に、コインを置く。
 何度目かの勝負。ディーラーがルーレットを回し、ボールが転がる。

 ――あ!

 今日初めて、ボールがユリの選んだ数字に入った。あとは「JACKPOT」のところで止まれば……
 ユリは回る速度が遅くなっていくルーレットを祈るように見つめ、ごくりと息を呑んだ。(勝利の女神さま……微笑んで!)

 ……おや、おや、おや……!?

 ボールが入った数字は、ゆっくり「JACKPOT」の矢印に…………止まった!

「ジャックポット!!」

 ユリはジャックポットを見事引き当てた!
 ディーラーが叫んだ瞬間、周囲からは歓声が飛び交う。

「おめでとう!!」
「ユリちゃんついにやったな!」
「初めて見たわ!すごいわ!」

 その場にいた客たちがユリの周りに集まってきて、称賛と拍手で祝福した。

「さすがです、ユリさま!あなた自身が幸運の女神……!」
「ついにやりましたね、ユリさん!」
「すごいわ、ユリ!やったわね!」
「おお……!見事だ、ユリ!」
「ようやりおった、ユリよ!」
「すごいわ〜ユリちゃん!ラッキーガールね!」

 そこには仲間たちの姿もあった。ユリはディーラーから大量のコインをもらう。モンスターカジノのコインは幻だったが、ずしりと手にくる重さにこれは本物だ。

「さあ、さっそくベシムの元へいきましょう!」

 マルティナの言葉にユリは自信溢れる顔で頷いて、ベシムの元へ向かった。

「ブホホホホ!見ていましたよぉ!まさか本当にジャックポットを当てるとは、ボクチン、思ってもみませんでしたねぇ」

 もっと悔しがるかと思っていたら、意外にもベシムは誉め称えてくれて、マルティナは拍子抜けする。

「いやぁ、負けて悔いなし。最高に興奮しました。まずはボクチンからのごほうびを受け取るがいいですねぇ!」

 ユリはラッキーベストを受け取った!

「ハンフリーの黄金像のことも心配は無用。孤児院に使いをやって、連絡しておきました。ボクチン、約束は守るタイプですからねぇ」
「ベシムさん、ありがとうございます!」

 ユリは喜んでお礼を言ったが、マルティナはプレゼントの内容が「ハンフリーの黄金像」だと初めて知り、今度はちょっと驚いた。

「もし、ボクチンの言葉を信用できないなら、孤児院に行って、女の子から直接話を聞いてみたらいかがですかねぇ」

 ベシムの言葉を疑っているわけではないが、少女に渡したいものもあり、ユリはその足で孤児院でもある教会へ向かう。

「あ!ユリ姉ちゃん!さっきな、ハンフリーの黄金像を孤児院に届けてくれるってベシムから連絡が来たんや!」

 少女は満面の笑みでユリの姿を目にすると駆け寄り、ユリも答えるように笑いかけた。

「全部、ユリ姉ちゃんのおかげや!これでハンフリーのアニキのかっこええ姿をこの孤児院に残しておけるわ〜」

 続けて、少女はどうしてハンフリー像が欲しかったかを話す。

「ハンフリーのアニキはこの孤児院の英雄……。みんなにそのことを忘れてほしくなかったから、ウチ、あの像がどうしても欲しかったんや」
「そっか……そうだよね。ハンフリーさんもすごく喜ぶと思うよ」
「……ウチのわがまま、聞いてくれてありがとうな、ユリ姉ちゃん」
「どういたしまして!……それに、これは返すね」

 ユリは少女からもらった、3000Gを渡した。

「えっ、でも……」
「ベシムさんと勝負して、カジノでたくさん儲けたから必要なくなったの。一生懸命貯めたお金、大事に使って」
「……うんっ!ほんまありがとう、ユリお姉ちゃん!」

 ユリもにっこり笑って少女に頷いた。

「はよう、アニキの黄金像、届かんかなぁ。アニキやほかの子たちがおどろくを見るの、ウチ、めっちゃ楽しみやわ〜。んで、黄金像が届いたらな、孤児院の中でいっちゃん目立つとこ飾るって今からもう決めてるんや」

 胸を踊らせる少女に、ユリも目立つところに飾られたハンフリーの黄金像を楽しみに思う。
 これで心置きなく旅立てる――教会を後にすると、ちょうどロウがユリに話しかける。

「ユリよ。せっかく大量のコインを手に入れたんじゃ、景品と交換せんともったいないぞ」
「そうね!景品も増えたって言ってたし、見てみましょう」

 シルビアも興味津々に言って、再びユリたちはカジノに戻り、交換所へとやってきた。

「ここはコインと引き換えに景品をおわたしする交換所です。ユリさんは現在コインを212778枚お持ちです。どちらの景品と交換いたしますか?」

 ユリは景品リストを眺める。あのラブリーエキスは100枚と、とてもレートが低くなっていた。
 他にも武器や防具、素材も薬もレシピブックまであって、豊富な種類に悩んでしまう。

「旅に役立つのがいいよね……。なにがいいかな?」
「ユリちゃんが大当たり出したんだから、ユリちゃんが欲しいのと交換すればいいのよ」
「わしらはわしらでコインは貯まったからのう。どれ、わしはあのあぶない水着でも……」
「ロウさま?」

 マルティナがするどく睨みを利かせると、ロウはあたふたした。以前よりも格段と凄みがある。

「私が初めて愛用のプラチナソードを手に入れたのは、ソルティコのカジノの景品だったな」
「そういえば、ソルティコにもカジノがあったな。ユリ、カジノのコインは全国共通だから、そちらの景品と交換するのもいいぞ」

 ホメロスに続いて、グレイグはそう助言した。町によって景品の種類は違うと言う。

「アタシ、ひかりのタキシードと交換しちゃおうかしら?ムチ使いとしてはグリンガムのムチが憧れるんだけどね」
「シルビアに似合いそうじゃない?このひかりのドレスも素敵よね」

 シルビアとマルティナも楽しそうに眺める中、ユリはある物に目を奪われた。

『キラパン呼びのすず』

 チリンと鳴らせば、キラーパンサーを呼べる特別なすずだという。そして、呼び出したキラーパンサーには乗ることができると。

(ほ、欲しいっ……!)

 キラパン呼びのすずはコイン120000枚だ。余裕で交換できる。

「ユリさんが気になってるのはキラパン呼びのすずですか?旅の移動時に便利そうですね」
「うんっ、これにする!あと、レシピも」

 カミュの後押しするような言葉に、ユリは元気に答えて決めた。

「こちらとの交換でお間違いないでしょうか?」
「はい!」

 ユリは『キラパン呼びのすず』と『げんまの盾のレシピ』を受け取った!

「さっそくグロッタの町に出て、キラーパンサーを呼んでみるね!」

 スキップしそうな足取りの軽さで、ユリはグロッタの町の外へ向かう。仲間たちはその背中を微笑ましく眺めながら続いた。

 思いの外、滞在したグロッタの町からようやく出発だ。

 町の外に出ると、さっそくユリはキラパン呼びのすずをチリン、と鳴らした。


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