父と娘の再会

 呼び出したキラーパンサーに跨がった七人は、ユグノア地方の山間の地を風のように駆け抜けていた。
 ユリは何度か虎に乗ったことがあるが、キラーパンサーはそれ以上の速さで野を駆ける。
 その勢いにほとんどの魔物がぶっ飛ばされるほどだ。
 少し乗り心地を試すつもりだったのが、あっという間にネルセンの宿まで来てしまった。

「ここまで走ってくれてありがとう」

 ユリは乗っていたキラーパンサーから一旦降りて、お礼を言う。頭を撫でると、キラーパンサーはご機嫌に笑っているように見えた。どこかへと去っていく彼らを見送ると、まずは吟遊詩人にロウが見つけてくれた楽譜を渡しに、ユリは向かう。

「オレからは何も言うことはねぇ。あんたのことを信じてるからな。……やってくれたのか?」

 ユリは詩人の楽譜を渡した!

「……オオオ、悪にくじけぬこの勇気!背中を預けた友のため、キズつくこともいとわずにーっ!」

 いきなり叫び出した吟遊詩人に驚き、ユリの肩がびくっと跳ねた。え、なに?どうしたの!?

「愛の絆が世界を結び、正義の叫びが邪悪な敵を討つーああ、偉大なる者、その名は勇者ーっ!!おっと、ついクチずさんじまった。間違いないぜ、オレの楽譜……オレの歌だ」
「急に歌いだすな、バカモノめ。ユリさまが驚いただろうが」

 ……歌だったのね。

「オレはこの歌で、希望はまだあるってみんなにそう伝えたかったんだ。そう……勇者っていう希望がな。どこにいるかわからないが……それでも太陽は毎朝昇ってくる。太陽のように闇をはらうのが勇者だ!」

 吟遊詩人の言葉に、仲間たちはユリを見た。彼女は立派なもう一人の勇者だ。

「オレのように、勇者を信じてる人を元気づけるための大切な楽譜をあんたは取り戻してくれた……礼をさせてくれ」

 ユリはレシピブック『賢者の愛用品のレシピ』を受け取った!

「なあ、あんた。どこかで勇者に会ったら伝えてくれ。勇者を信じてるやつがいるってことをさ!勇者が不幸を呼ぶとかウソっぱちだ!オレは信じない!オレは勇者を信じてる!この歌はそんな気持ちで歌いあげたんだ」
「わかった。"勇者"に会ったら必ず伝えるね」
「さあ!歌うぜーっ!あんたが取り戻してくれたこの詩で、世界をひとつにまとめてやる!!」

 熱い吟遊詩人だった。その歌声を耳にしながら、一行はその場を立ち去る。
 そのまま港へ向かうと思われた足取りは「船旅をする前に行きたい場所がある」というユリの言葉に足を止めた。

 ユリはにっこり、マルティナに笑いかける。

「マルティナ、イシの村に行こう。デルカダール王に会いに!」

 お父さま……に。

 目を見開くマルティナは、やがて大きく頷いた。それに皆からの異論はない。
 ユリは「ルーラ」を唱え、今度は全員で――イシの村へやって来た。

「ここって、エルシスが生まれ育った村でもあるのよね」
「ユリちゃんの第二の故郷でもね!」
「うん。魔物の軍勢で『最後の砦』って呼ばれて戦地みたいになったけど、今はデルカダールの兵士たちの協力もあって、元のイシの村に立て直しているところだよ」
「デルカダール国が……」

 ユリの説明を聞きながら、マルティナはイシの村を見渡す。見張りや、デルカダールの鎧を身に付けた兵士たちが世話しなく村を行き来しているのが、マルティナの目に映る。

「おおっ、ずいぶんと見違えてきたな!」
「ああ、喜ばしいことだ」
「元は素朴でのどかな村じゃったとわかる。きっと、エルシスはここでのびのびと育ったのじゃろうな」

 グレイグとホメロスも、元に戻りつつある風景を目にして笑顔を見せた。ロウもしみじみと眺めている。

「あ、ユリさま!それにグレイグ隊長、ホメロスさま!えぇと仲間の皆さまも、お帰りなさいませ!」

 一行の姿に駆け寄ってきたのは、ちょびっとベテラン兵士になった青年だ。グレイグは彼に「デルカダール王に会いたい」と話すと、今は王のテントへいらっしゃると案内してくれる。

「ちょびっと兵士!なにサボってるっ……と。これはこれはグレイグ隊長、お帰りなさいませ!」
「ああ、ご苦労」

 そこに先輩兵士が来て、びしっと上官であるグレイグに敬礼した。彼の視線はそこからつつつ……と、マルティナに移る。そして、なにかに気づく。

「その艶やかな黒髪……意志の強い眼差し……もしや、マルティナ姫ですか!?」
「え!?行方不明だという……!?」
「あなた、私のことがわかるの?」

 先輩兵士の言葉にマルティナは驚いた。自分が行方不明になったのは16年も前……死んだことにもされ、もはやデルカダールの者たちは王女の顔など覚えていないだろうと思っていた。

「なにをおっしゃいますか!亡き母君にそっくりですぐにわかりましたよ!あ、私、生前の母君である王妃さまを一度だけお見かけしたことがありまして……あまりの美しさに目に焼きついてしまいましたよ。ハハハ」

 そこまで話して先輩兵士は、はっとして「余計な話をして申し訳ございません!」と、勢いよく頭を下げた。
 マルティナはくすりと笑って、首を横に振る。

「……いいえ。ありがとう。私のことを王女だと気づいてくれて……母のことを覚えていてくれて」

 誰もが見惚れる麗しの微笑みを、マルティナは彼に向けた。ずっきゅーん!先輩兵士は胸に矢が刺さったような仕草をして固まった。

「こりゃ天使の矢が胸に刺さってもうたのう」
「天使の矢?」

 ロウの言葉にユリは首を傾げる。

「先輩?せんぱーい?ありゃ、石のように固まってしまいました。……そんなことよりも!マルティナ姫!デルカダール王があなたの帰りを心からお持ちです!さ、行きましょう!さ!」
「ええ」

 先輩兵士を放置して、ちょびっとベテラン兵士は急いでマルティナを王のテントに案内した。
 マルティナはテントの前で立ち止まり、不安げにユリに聞く。

「ユリ……。お父さまは……デルカダール国王は、本当に元に戻ったのよね?」

 その声に、ユリは彼女が緊張しているのだとわかった。自分とマルティナが再会したのとはわけが違う。

 16年ものの長い年月を経ての再会だ。

「大丈夫だよ、マルティナ。会ったら、その不安はすぐに溶けてなくなるよ」
「……不思議ね。ユリにそう言われると、本当にそうだと思えてくるわ」

 マルティナは笑顔を見せ、一つ深呼吸をする。
 ユリに見送られ、テントの中へと足を踏み入れた。

「……お父さま」
「!」

 ――デルカダール王はすぐにわかった。幼い姿から成長を果たしても、親にとってはいつまでも子は子だ。その面影を感じないわけがない。

「おお、おお……!我が娘、マルティナよ!よくぞ、よくぞ、戻った!」
「っ、お父さま……ただいま戻りました……!」

 16年の月日が嘘のように、マルティナはその腕に飛び込むことができた。
 暖かな父の温もりを感じる。幼い記憶にある父は、母がいない分もと、いつだって自分に惜しみなく愛情を与えてくれた。

「マルティナ……生きていてくれてありがとう……!正気に戻ったわしの願いはそれだけだった……!」
「お父さま……!ずっと、会いたかった……っ」

 今もなに一つ変わらないのだと、マルティナはわかって、それがなにより嬉しかった。
 マルティナの目尻から、静かに涙が流れる。
 彼女だけでなく、デルカダール王も涙を流していた。


 悲劇に翻弄された父と娘は、しばしの再会を喜びあった。


「父はお前が失った16年の月日を……取り返しのつかぬ、過ちの数々を……心からわびねばならぬ……すまなかった」

 二人の涙が乾く頃――王のテントにはユリたちも呼ばれて、控えめに後ろの方に立っていた。

「いいえ、お父さま。すべては魔王となったウルノーガの仕業……。私は信頼できる仲間たちと共に、必ずや打ち倒してみせますわ」
「……そうか。話したいことは山のようにあるが、お前は世界を救う旅の途中じゃ。引きとめることを、お前は望まぬだろう」

 王の言葉に、マルティナは凛々しい表情のまま頷く。

「マルティナよ、すべてが終わったら、どうかこの地に帰ってきておくれ。親子水入らず、ゆっくり話をしようぞ」
「はい。必ずや生きて帰ってきます」

 マルティナのその言葉に、デルカダール王はじっと彼女の目を見つめる。彼女の中にある、覚悟と信念を確かに見た。

 もう、おてんばなだけの姫ではない――。

 デルカダール王はマルティナの成長を感じ、次にグレイグとホメロスに視線を送る。

「……グレイグ、ホメロスよ。険しい旅になると思うが、マルティナのことをよろしく頼んだぞ」
「はっ!」

 デルカダールの双鷲の騎士である二人は、胸に拳を当てて、王の言葉に応えた。
 最後に、デルカダール王はユリを見つめる。

「ユリスフィールよ。数多の困難が立ちはだかろうとも、勇敢なる仲間たちとチカラを合わせ、必ずや世界を救うのじゃ」
「はい!」

 ユリもデルカダール王の言葉に、力強く応えた。その返事を聞くと、王の目尻がふっと柔らかく下がる。

「マルティナと会わせてくれてありがとう。そなたの計らいだと……マルティナから聞いた。これからも娘のよき仲間であり、友でいてくれ」

 マルティナは照れくさそうにくすりとし、ユリはもちろんと言うように、満面の笑みで王に答えた。


 ――再び、ルーラでネルセンの宿屋まで一行は戻ってきた。マルティナとデルカダール王が再会を果たせ、ユリは心置きなく先に進むことができる。

「……本当に、ありがとうユリ」
「え?」

 バンデルフォン港へ向かう田園風景の道の中で、マルティナはぽつりとユリに言った。

「私、あなたに言われなければ、お父さまとは会えなかったわ」

 どんな顔で会えばいいのか、自分の姿にすぐに気づいてくれるか……。ウルノーガに解放された父と会いたいと願っていたのに、いざ会うとなると不安でいっぱいだった。

 魔物には恐れず向かっていけるのに不思議ね――マルティナは眉を下げて笑う。

「でも、お父さまと会えてよかった。もしかしたら、もう二度と会えなくなってしまうかもしれないものね」
「マルティナ……」

 大樹が落ちてから、ユリは自分が生きていることに奇跡を感じていたが、それはマルティナも同じなのだとわかった。

「……なんてね!弱気じゃだめよね。絶対にウルノーガの好きにはさせない……あんな世界を危険にさらす悪いヤツはたっぷりお仕置きしてやらないとね、ウフフ!」

 そう笑うマルティナに、ユリも釣られて頬を上げる。「さあ、いきましょ!」下り坂を駆けるマルティナにユリも後を追い、仲間たちもそれに続いた。


「そのお姿は……マルティナ姉さんっ!」
「また、お世話になるわね。アリスさん」

 アリスはマルティナの姿を見て、また一人再会できた仲間に喜んだ。
 船に乗り込んだあと、マーメイドハープが戻ってきて、新しい道が開けるかも知れないとユリはアリスに話す。
 顔はマスクで見えないが、なにやらアリスははっとする。

「ユリ姉さん。あっしたちが、クレイモランのバイキングの舎弟さんを探しに行ったことは覚えてるげすか?」
「ええと、たしか北海の孤島にいたんだよね?」

 答えてからユリもはっとした。その北海の孤島まで行ったのは、光の航路を通ってショートカットしたんだ。

「逆に、そこからクレイモラン大陸付近の海域に入れる可能性がある!」
「はいでがす!」
「どうやら、次の目的地が決まったようね」
「そうと決まったら出発するわよ!まずは外海を目指して、ソルティコの町にいくわよ!」

 シルビアは舵を操作し、シルビア号は赤い帆を広げ出発する。

「……ユリ」

 遠く離れるバンデルフォンの港を眺めていると、話しかけてきたのはグレイグだった。

「姫さまとデルカダール王を引き合わせてくれたこと、俺からも礼を言わせてくれ。ありがとう」
「あ、そんなお礼を言われるほどのことは……」

 ユリが困惑していると、横目で見ていたホメロスはグレイグの真面目っぷりに「はぁ……」とため息を吐く。だが、ため息を吐いただけで、二人の会話に口を挟むことはしなかった。

 顔を上げたグレイグは、真剣な顔でユリを見つめる。

「俺は、今まで主君であるデルカダール王のご命令にしたがい、祖国のために剣をふるってきた。しかし、今この世界では……他人の意思にしたがっているだけでは、誰も何も救うことはできん」

 そして、グレイグはユリに手を差し出した。

「ウルノーガをこの手で倒すまで、俺は自分の意思でお前と共に戦う。これからもよろしく頼むぞ、ユリ」
「こちらこそ……これからもよろしくね、グレイグ」

 二人は改めて、ぎゅっと手を握り合った。ふっとグレイグは笑う。

「お前と最後の砦で出会い、肩を並べ、戦うようになって、どれくらいの時がたっただろうか……。一緒に旅をしていると、お前たちがいかに強いキズナで結ばれているか、痛感するよ」
「……でも、それはグレイグとホメロスもじゃない?」

 魔物が現れて剣を抜くホメロスに、ユリは視線を送って言った。

「……そうか。ユリの目にはそう見えるのだな。フフ。よし、俺たちも加勢するぞ!」
「うん!」

 加勢と言っても、現れた魔物はスライムブレス・強だったらしく、やはり内海の魔物は可愛らしいものだ。そう思って、ユリとシルビアはしびれくらげ・強の痺れ攻撃に痛い目を見たのだが。


 船は再び長い航海に入る――。


 各々自由に過ごす中で、ユリはマルティナに『弁天のどうぎ』を渡して着てもらった。

「どうかしら?」
「やっぱりマルティナ、すごく似合う!」
「フフ、ありがとう。ユリも着てみたら似合うと思うけれど……」
「じつは私も買ったの!」
「あら、お揃いね」

 冥府での修行の際に着て、動きやすくて着心地がよかったと、ユリはマルティナに話した。

「ロウさまも……ロウさまだけでなく、みんな、それぞれができることをやっていたのね」

 なんだか誇らしいわ、とマルティナは微笑む。

「命の大樹が落ち、世界が闇におおわれた後、ひとりきりになって思ったの。やっぱり、みんなと一緒がいいなって」

 私も一緒だ――ユリはマルティナを見つめる。最後の砦に向かう道中はエルシスとカミュと三人で通った記憶を思い出し、それが支えになっていた。

「……ふふ、私だって強いばかりじゃないもの。だから、どんなに苦しい状況でも、またあなたたちと旅ができてうれしいわ」
「うん、私も……。仲間がいるってこんなに心強いんだって気づいた」

 そこでユリとマルティナは、再会できてよかったと心から笑い合った。

「あ、ねえ。前にベロニカたちから聞いたんだけど、ユリのウサギの着ぐるみを着ている姿が見たいわ」

 ――というマルティナのリクエストを受け、ユリは久々にウサギの着ぐるみを引っ張り出し、着てみた。

「まあ、とっても可愛いらしいわ!ベロニカもさぞかしネコの着ぐるみが似合っていたでしょうね」
「師匠はとっても似合ってたよ!茶とらのネコの着ぐるみで、色違いの黒ネコの着ぐるみも見かけたらから、買っておけばよかったな」

 あのときはベロニカから「ユリが着ぐるみを着るなら」と、言われてやめてしまったが。船の中だしと、しばらく二人はこの格好で過ごすことにする。

「あら、マルティナちゃん!弁天のどうぎ似合ってるじゃなーい!ユリちゃんも久しぶりにウサギの着ぐるみを着てみたのね!う〜ん、ラブリー!」

 甲板に出ると、真っ先に二人に声をかけたのは、船の操縦をしているシルビアだ。

「おお、姫よ。さすが武闘スタイルが似合っておるな。ユリもその格好は初めて見たが、可愛いらしいのう」
「ええ、ユリさま、とても愛らしい姿です」
「お二人とも、似合ってますね」
「ウサギならバニーガールの方が……いてっ」

 素の意見を口にしようとしたグレイグの足を、ホメロスは蹴った。

「フフ、ユリの着ぐるみ姿、可愛いわよね。……ペットにしたいぐらい」
「ペット……?」
「マルティナ姫、その発言もダメです」

 続いて妖しい発言をしたマルティナにも、ホメロスは見過ごさず咎めた。デルカダール王が聞いたら腰を抜かすぞ。

「アタシも『光のタキシード』着てみようかしら?」
「シルビア、着てみせて!」
「ええ、ぜひ見たいわ」

 シルビアは「ちょっとホメロスちゃん、操縦代わって」と、船の操縦の心得があるホメロスにまかせ、自室へと着替えに行く。

「じゃーん、どうかしらん?」
「わ、まぶしい……!」
「すごく似合っているけど、まばゆいわね……!」
「シルビア姉さんがさらに輝いてるでがす……!」

 タキシード姿をびしっと着こなすのはさすがのシルビアだったが、光のタキシードはその名の通り光輝くので、ちょっとまぶしかった。そのまぶしさで呪文を跳ね返す効果があるという。

「でも、シルビアはなんでも着こなせちゃうからすごいね」
「あらそう?ありがとう、ユリちゃん!」

 皆と着替えを楽しんでいたが、途中のダーハルーネを寄る際はユリは着ぐるみを脱いで、いつもの格好に戻った。
 ダーハルーネに寄ったのは、船旅の買い出しだけでなく、スイーツ目当てでもある。マルティナも大の甘いもの好きで、甘党のデルカダール王と親子で一緒だ。

「グレイグの好きなものは……確かきのこだったわよね」
「おお、姫さま!覚えて頂いてたとは感激です」

 きのことグレイグといえば……と、マルティナは幼い頃の思い出を話す。

「城を抜け出し、きのこを採りに行ったことがあったの。グレイグがきのこを好きだったのを知っていたから、そのきのこをあげたら……グレイグったら痺れきのこだとわかっていたのに、私に気を遣って食べちゃったのよね」

 今となっては微笑ましいが、なかなかのマルティナがおてんば姫だったとわかる思い出だ。
 皆でスイーツを堪能したあと、グレイグのきのこ好きの話を聞いて、ユリはきのこを買った。

「グレイグはどうやって食べるのが好きなの?」
「きのこはどうやって食べてもうまいぞ。きのこソテーにきのこシチュー、きのこの炊き込みご飯……」
「どれもおいしそう!」


 しばらく、船での食事はきのこ尽くしになったとか。


 船がダーハルーネからすぐ先のソルティコの町に寄ったのは、外海に出るのに水門を開けてもらうためだ。
 ソルティコの町はナカマたちの明るさによって、少しずつ元通りになり始めているようだった。

「じゃあ、アタシ。セザールに水門を開けてもらうよう頼んでくるわ!みんなは町を見て回ってて♪」

 一人、ジエーゴの屋敷に向かうシルビアを見送り、ユリたちはソルティコの町を散策することした。

「あら〜ボスじゃない!知ってると思うけど、オネエさまの故郷のソルティコの町よ♪アタシたち、この町の笑顔を取り戻そうとチカラの限り、がんばってるところなの!ぜひ、ゆっくりしていってね」
「ボス!ピンチになったら、またいつでもアタシたちを呼んでね!この間は楽しかったわん!」

 最初はナカマたちを見て面食らったマルティナだったが、すぐに「シルビアのナカマたちだけあるわね」と、町を盛り上げている彼らを見て笑顔になった。

「それに、ユリはボスって呼ばれているのね」
「成りゆきで……」

 にっこり笑うマルティナに、ユリは照れくさそうに答えると「ボス〜!」と再び呼ばれて、そちらに手を振った。

「パレードの連中、悪い風にウワサされてたけど、サイコーにゆかいでいいヤツらだったよ!ずっと悪く言ってたのが、申し訳ない気分さ。やっぱりみんな落ち込んでるとイヤなほうに解釈しちゃうんだな。本当はこんなに陽気な連中だってのによ!」
「家でふさぎこんでいたうちの息子が、パレードの方のもとで修行させてもらって最近とっても楽しそうなのよ。……最初、この方々にはおどろきましたけど、今ではなくてはならない存在ですの。この町に末長くいてほしいものですわ」

 そんな風に町の人たちからも、すっかり彼らは受け入れているようだ。

「あら、ボス!見てよ!この技もオネエさまに習ったの!これで町のみんなを元気づけるわよ〜!」
「空や海が暗くても関係ないわ!アタシたちがかがやく光になってやるのよ〜!それ、笑って踊って〜っ!ほーら、ボスも一緒に!」
「マルティナも一緒に踊ろう!」
「ウフフ、そうね!みんなで踊りましょう!」

 ナカマたちは玉投げの曲芸をしたり、踊ったりして、町行く人々を楽しませている。

「よかった、よかった。この町の人々に笑顔が戻ってのう」
「最初は奇抜な人たちと思ったけど、あんなに人々を笑顔にしてすごいなぁ」
「俺も正直、あいつらをおかしなヤツらだと思っていたが、この町に笑顔を取り戻してくれたことに感謝しないとな」

 ロウ、カミュ、グレイグは晴れやかな顔で人々の顔を眺めた。その中心で、ナカマたちから誘われて踊るユリとマルティナも楽しそうだ。

「なんでも十数年前に町を出ていったきり行方知れずだったゴリアテさまが帰ってきて、ジエーゴさまもお元気になったそうね!それにしても、ジエーゴさまのご子息がこのパレードの人たちのリーダーなんて、とても信じられないわ!」
「ゴリアテさまの変わり様にはおどろいたが、思い返せば幼い頃から人を笑わせることが大好きなとても明るいお方だったよ。このような時代だからこそ、希望がチカラの糧となる。ゴリアテさまが望むのは明るい未来なんだろうな」

 ジエーゴの息子、ゴリアテことシルビアがこの町に帰ってきて安否を知れたことも、町の人たちにとっては大きな支えとなっているのだろう。

「みんなで踊って楽しかったね!」
「ええ、最初はちょっとびっくりしたけど、ナカマのみんなはステキな人たちばかりね」

 踊りを楽しんだユリとマルティナに、ホメロスが声をかける。

「ユリさま。せっかくなのでソルティコのカジノを覗いてみませんか?なんでも、前より豪華な景品に入れ換えたようですよ」

 ユリはどんな景品があるか気になると、ホメロスの言葉に頷いた。まだコインはたくさん余っている。
 
「カジノは今日も楽しく営業中よ!さあ、この先の階段を下りて、夢の世界へレッツゴー!」

 元気なカジノの客引きのバニーガールに導かれ、一行はソルティコカジノへ――

「いらっしゃいませ、お客さま。ロマンの殿堂、ソルティコカジノへようこそ。暗いご時世だからこそ、パァッとお楽しみあれ」

 支配人の出迎えを受けると、彼らは目的の交換所へと向かう。

「あ、新しいレシピがある!」

 ユリは『蝶イケてる装備のレシピ』と貴重な『天使のソーマ』を交換することにした。

「いなずまのやり……いいわね」

 マルティナは『スパンコールドレス』も気になったようだが、それより武器と交換しようかと悩んでいるのが武闘家らしいと皆は思う。
 いなずまのやりは雷の力を宿し、すばやさも高める魔法の槍だという。

「あ、マルティナ。その武器ならレシピを持っていたと思うから、私が造るよ!」
「ユリは鍛冶もエルシスから引き継いでいるのね。じゃあ、お願いしようかしら」

 武器はユリに頼むことに解決し、一行は早々にカジノを後にする。

「ちょびっと遊んでいかんか?」
「グレイグ」
「ロウさま、行きますよ」

 マルティナの一言をすぐに察したグレイグは、ロウの首根っこを掴み、引きずる。姫の命令とはいえ、雑な扱い方をしたな、とホメロスは思う。

「のぉ……」

 こちらに向けて、愛くるしく手を振るバニーガールが遠ざかっていき、ロウはしょんぼりと悲しげな表情をした。
 カジノを後にしたユリたちは、すぐにシルビアと合流することができ、シルビア号へと乗り込む。

「ゴリアテぼっちゃん、皆さん……どうかお気をつけていってらっしゃいませ」
「ゼザール!行ってくるわね〜!」

 水門を開けて見送るゼザールに、今度はシルビアも堂々と手を振った。
 水門を通り過ぎ、ソルッチャ運河を進み、船は再び外海の大海原に出る――。


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