人魚たちが来てくれることを願い、ユリはマーメイドハープを奏でた。
美しい音色が海原に響く――……
「聞こえます……生きぬいた海のものたちのダンス……よろこびのさざめきが聞こえます!」
「!」
ユリの見開く視界に、海中から現れた彼女たちの姿が映る。
「ユリさま……!私たちの海を取り戻してくださって、本当にありがとうございます!」
「勇者よ……。よくぞジャコラを倒してくれた。再びムウレアに、生き延びた者たちが戻ってくるだろう」
そして、その顔は喜びに満ちる。マーメイドハープの音色に人魚たちは集まってきてくれた。
人魚たちだけでなく、
「ウオっ、ユリさま!ジャコラを倒してくださって、本当に…本当にありがとうございます!約束どおりあいつを海のもずくにしてくれたんですね!」
「オレはジャコラの術をやぶれるのは勇者さまだけだとにらんでたんだ。やっぱりオレの思った通りだったぜ!」
そこには海の民たちの姿もあった。
「世界を救おうとするあなた方に、私たち人魚が手助けできることは多くはありません。……ですが、あなたがマーメイドハープを奏でるとき、私たちは必ず集いましょう。さあ、光の海流の先に送り届けますわ――」
人魚たちの不思議な力によって、船は魔法の泡に包まれ、海の中へと沈んでいく。
「お、おい……ゴリアテ!貴様の船が海の中に沈んでいくぞ……!大丈夫なのか?ちゃんと息はできるんだろうな!」
海底を初めて体験するグレイグは、近くにいたシルビアに焦りながら問いかけた。シルビアは呆れた表情で答える。
「んもう当たり前でしょう。息ができなかったら、アタシたち溺れちゃうじゃない!少しは冷静なホメロスちゃんを見習って……」
落ち着き払っているホメロスに視線を向けたシルビアだったが、なにやらその目を丸くして睫毛をパチパチさせた。
「……すごい。これが人魚のチカラなのか……。ハハ……まさか、海底にいくことになるとは……」
海の中の光景を眺めるホメロスの顔は、笑顔で少年のように目を輝かせていた。
「ユリちゃん、マルティナちゃん!見て見て、ホメロスちゃんのあのカオ!レアよレア!」
シルビアに呼ばれ、ユリとマルティナがホメロスを目にすると、二人の表情は物珍しげなものになる。
「いつも無表情が多いし、ホメロスのあんなカオ……初めて見たわ」
「ふふ、わくわくしているって感じだね」
「ほっほ。知的好奇心が強いあやつにとって、ここは本の中のような世界なんじゃろうな」
彼女たちに続いて、微笑ましそうにロウはホメロスを見て言った。
「あ、カミュはどう?カミュも海底に来るの初めてだよね?」
記憶喪失になってから――。ユリがカミュに話しかけると、カミュはぷはっと息を吸う。
「あ、よかった……息できるんですね。ずっと止めてました」
「息もできるし、海底も歩けるよ!」
ほっとしているカミュを見て、複雑そうに笑っているのはマルティナだ。
「このカミュに慣れたと思ったけれど、やっぱり慣れないわね」
「そうなのよねえ。ベロニカちゃんに再会するまでになんとか記憶が戻るといいわね、カミュちゃん」
気にせずカミュと話しているユリは、おおらかというか、柔軟性が高いというか……。魚を指差し、二人は楽しげに話している。
人魚の力を借りて海中に潜ったシルビア号は、光の海流に乗り、ややして遥かその先で浮上した。
「海の民の皆さーん!ありがとうございまーす!」
ユリは船縁から乗り出し、大きく手を振って、人魚たちにお礼を言う。
人魚たちもユリに笑顔で手を振り返し、やがて海の中へ潜っていった。
「……ユリ。きっと、セレンさまもロミアも無事よ。今はそう信じましょう」
「うん……そうだね」
人魚たちが潜った水面を見つめていたユリは、マルティナの言葉に前を向く。ここはクレイモラン大陸に面した海で、黄金に輝く氷山によって進めなかったその先だ。
雪に覆われた大陸と、凍てつく冷気が彩る美しき雪の都が、白い靄の中にうっすらと姿を現した。
「……ホメロス。俺はもうお前にわだかまりはない。だが、一つだけ気になることがある」
船がクレイモランの港に向かうなか、グレイグはずっと気になっていたことをホメロスに尋ねる。
「なんだ?私に答えられることなら、すべて答えよう」
その問いに何かを感じとったホメロスは、真剣な表情でグレイグと向き合った。
「なぜ、お前は直接俺に手をかけず、氷の魔女リーズレットを差し向けたのだ?お前なら俺に不意討ちをかけることも、いかようにも謀を巡らすことができたはずだ。ずいぶんと回りくどいやり方が気になってな」
「それは……」
グレイグの純粋な疑問だった。すべて答えようと言ったものの、ホメロスは気まずそうに視線を泳がせ、やがて口を開く。
「……いずれ、グレイグが脅威になると、ウルノーガからお前を始末するように言われていたのだ。俺も闇の洗脳によってお前への憎しみを募らせていたため、その命に従おうと思った。だが……」
自分の手でグレイグを手に掛けることに、葛藤が起きてできなかった――。
「そこで、本に封印されている氷の魔女の存在を思い出した。知っていると思うが、お前がソルティコで修行をしている間、俺はクレイモラン王国で魔法を学び、その時に魔女の存在を知った。並大抵の者では、英雄グレイグには太刀打ちできないからな。古の氷の魔女なら、お前を倒すことができると思った……」
そこまで話してホメロスは「すまなかった」と、グレイグに頭を下げて謝罪した。
本当に自分は愚かだった……と。
一方、初めて明かされた真実を知ったグレイグは……
「……ふっ。ふはははっ!」
「な、なぜ、笑う……っ?」
いきなり声を上げて笑い出し、ホメロスは戸惑いながら眉を潜める。
「いや、知将と呼ばれたお前らしくない、まどろっこしいやり方だとずっと不思議に思っていたが……その理由がまさかこんな人間くさいものだったとはな」
グレイグの言葉にホメロスはうっ……と言葉を詰まらせた。どこを取っても弁解できない。今になって思えば、よくこんな不確定要素も穴も多い策を自分は実行したものだ。
「お前に悪役は向いていないということだ。顔は悪人面だがな。ウルノーガも見る目がない」
「……悪人面は余計だ」
なんとも情けない気持ちになって、そう一言、グレイグに返すのが精一杯なホメロスだった。
……――クレイモラン王国の港にシルビア号は停泊する。初めてこの地にやってきた時のように、周囲は静まり返っていた。
「なんだ、この感覚……。どうして……ムネがざわつくんだ」
アリスから送り届けられ、一番最後に桟橋に降りたカミュは、誰にも聞こえぬ声で自身の中にある違和感を口にした。
まとわりつくその感覚を振り払うようにカミュは頭を振って、皆の後ろをついて行く。
「あれほどの大惨事の後じゃ。クレイモラン城もただでは済んでおるまい」
目立った損傷は見当たらないが、人気のない静かな港を見渡してロウは言った。次いで隣に立つユリに顔を向ける。
「シャール女王の安否を確かめたい。ユリよ、聖地ラムダへ向かう前に、ここクレイモランの城に入るぞ」
「はい、ロウさま。六軍王の魔の手がこの国に伸びてないといいけれど……」
「皆の者は城下町の様子を見てきてくれんか」
仲間たちに向けて言ったそうロウだったが、そこでなにやら皆の心配そうな様子に気づいた。
「どうした、カミュ?ひどい顔色じゃが……」
「カミュ、大丈夫?」
ユリは俯くカミュの顔を覗き込む。顔色が真っ青だ。ユリは思い出す――はっきりとカミュの口からは聞いてはいないが、彼の出身地がここクレイモラン地方なのは間違いないだろう。
記憶になくとも、なにか、帰れない……帰りたくない事情を感じているのかもしれない。
「カミュはムリせず船で休んでいて」
「……いえ、オレなら平気です。町の様子を見てくればいいんですよね?」
カミュは顔を上げて、ユリの言葉に首を横に振った。
「でも……」
「船にいても落ち着かないんです」
「……では、こうしよう。おぬしもわしたちについてくるがよい。記憶も無い中、ひとりで動くのは心細かろう。ただし、ムリをするではないぞ」
「……すみません、ロウさん」
「ほほっ、おぬしらしくもない、気にするな。……では、ユリよ。城に向かいシャール殿に会うとするかの」
ロウの提案にユリも納得して、足を進めようとした時「ロウさま、ユリさま」引き留めたのはホメロスだ。
「私もそちらに同行してもよろしいでしょうか。私はこの国に多大な被害を負わせました。シャール王女にお詫びをしたいのです」
ホメロスの申し出に、もちろんとロウもユリも快く了承する。
ウルノーガの支配下にあったホメロスの仕組んだ一件は、クレイモラン王国を大きく巻き込んだ。
だが、ユリはシャールなら最終的には彼を許すのではないかと考える。
何故なら、ホメロスが封印を解いた魔女リーズレットはシャールのよき理解者となり、友達となったからだ。その話をしたら、ホメロスだけでなくグレイグも「女王が魔女と友達……?」と、理解しがたいという顔をした。
城下町へ向かうグレイグ、シルビア、マルティナとは別に、ホメロスを加えた四人はクレイモラン城を目指す。
足どりがゆっくりなのはカミュを気遣ってだ。「カミュ、本当にムリしないでね」ユリがそう声をかけると「大丈夫です。ちょっと船酔いしたのかもしれません」と、カミュは心配かけまいというように笑顔で答える。もちろん、船酔いなどではなかった。
(なんだ、この感覚……。ここに来てからずっと、どうしてムネがざわつくんだ……)
「…………」
そして、ユリもカミュがそうじゃないことには気づいていた。カミュは、船酔いはしない――。
「港の方だけでなく、町の往来にも人々の姿が見当たらないわね……。建物の中からは人の気配もするのだけど、どうやら何かにおびえていて、扉にカギをかけ、閉じこもっているようなの」
一足先に城下町の様子を探っていたマルティナが話す。確かにユリたちもここまで歩いて、誰ともすれ違っていない。
「……私はこのまま町の様子を探ってみるわ。あなたはロウさまと一緒に城へ向かい、シャールさまにお会いしてきて」
――別の場所を探っていたグレイグとシルビアも同様だという。
「この広場には住民たちの姿は無いようだ。これでは何が起きているか知るすべが無いな……。不思議なことに、家の中からは住民の気配を感じるのだが、誰も扉を開けてくれぬのだ。いったい、どういうわけだ……。俺たちはもう少し町の様子を探ってみる。ユリよ、城の方はまかせたぞ」
「前にクレイモランに来た時には、この辺りもにぎやかな雰囲気だったのに、今は人っ子ひとりいないわね……。どうもみんな家の中に隠れてるみたい。……なんだか不気味ねえ。いったいどうしちゃったのかしら」
以前の氷漬けになったとは違う静けさだ。人の姿がない城下町に少し不気味にも思いながらも、ここは三人にまかせてクレイモラン城へとユリたちは向かう。
城門の前に立つ門番の姿が見えると、ユリはほっとする。
兵士たちは予期せぬ訪問者に驚く素振りを見せたが、ユリたちの顔を覚えていたようだ。
「……キミたちは、いつぞやの旅人だな。無事であったか。シャールさまもご心配なされていたぞ。玉座の間に向かい、お会いになられるがよい」
「あの……城下町は一体どうしたのでしょうか……?」
ユリが尋ねると、兵士は神妙な口調でこの王国に何が起こったのか話した。
「……じつは、このクレイモラン王国でおそろしい奇病が流行していてな。シャールさまも気が気でないご様子なのだ」
「奇病とな……?」
ロウがその単語を繰り返し、ユリとホメロスの三人で顔を見合わせる。
「相手がたとえ原因不明の病だとしても、城におられるシャールさまの安全はボクたち兵士がお守りしなくては……。本当はボクも家や城の中に避難したいんだけどね……。はあ、兵士のつらいところだよ」
隣の兵士は愚痴を溢すように彼らに言った。ホメロスは独り言のように呟く。
「……原因不明の病を恐れて、住民たちは家にとじ込もっているのだろうか?」
「国を治めるシャール女王ならわかるはずじゃ。話を聞いてみよう」
ユリたちは見張りの兵士に城の中へと通してもらう。
「ここはクレイモラン城。まだ世界が平和だった頃、その美しさで評判だった名城です。ですが、今やこの国には奇病が広まり、それどころではなくなってしまいました。あなた方も病にかからぬようご用心ください」
城の内側で警備する兵士が、注意を促すように声をかけた。
城の中を一歩足を踏み入れて、わかる。
空気は暗く、緊迫した緊張感が漂っている……と。それは、勇者の星の落下が迫っていたサマディー城の雰囲気と似ていた。
「大樹が落ちてから、ほどなくして突如原因不明の病が広まりだしたの。本当にあっという間のことだったわ。私だって、いつ発症するか……。それを思うとおそろしくて身体のふるえが止まらなくなるの」
城に避難をしていた貴族の女性が怯える声で話した。
「かつてこの国を氷漬けにしたという魔女、リーズレットさん……。今、この国で起きている災厄も彼女が犯人だと疑う者も少なくないんだ。……けれど、本当にそうなのかな?」
隣にいた男性はそんなウワサ話をする。自分たちが旅立ったあと、どうやらリーズレットが町を氷漬けにしたと、シャールは真実を打ち明けたらしい。
「疑われるのは仕方ないが、奇病などあの魔女の専門外なはず……。しかし、もしも本当に魔女の仕業だとしたら、私はどう償えば……」
「ホメロス、まだ原因が決まったわけじゃないよ。それに、リーズレットはそんなことをしないと思うの」
「そうじゃぞ。しっかりせい」
悩ましげなホメロスに、ユリは励まし、ロウは活を入れる。カミュはというと「……償い……」その言葉が引っ掛かったのか、小さく呟いていた。
「私とこの国の女王シャールさまとは、まるで姉妹のように育った幼なじみでもあるよ。……だからこそ、ひとりで大変そうなシャールさまの姿を見ていると、何もできない自分がくやしくなるわ」
メイドの彼女の話を聞き「シャール女王もさぞかし参っているようじゃな」と、腕を組むロウが呟いた。
ロウもかつては国を統べていた者だ。
国民を守る立場にあるシャールの心情を、よく理解できるのだろう。
「この城を守っていた衛兵の数も次々に減り、残すは我らのみ……。だが、どんな苦境でも任務は果たさねば」
「どんなおそろしい魔物が相手でも、尊敬するシャールさまだけは命に代えてでもお守りしなくちゃ。……でも、相手が病気じゃ、どうやってお守りすべきかさえ、さっぱりわからないんだ」
城を警備する兵士たちからも切実な話を聞き、ユリたちは玉座の間に訪れた。
「カオを上げなされ、シャール殿。王たる者、いかなる時も民を不安にさせてはいけませんぞ」
玉座に腰掛け、暗い顔で憂いていたシャールはロウの声にはっと顔を上げる。
「ロウさま!それに……あなたは、ユリさん……!ああ、皆さまご健在だったのですね!」
「ご無沙汰しております、シャールさま」
ユリは謙虚に挨拶をしたが、シャールが自分を見つめる目に、不思議に思う。まるで、ずっと訪れるのを待っていたような……。
「ひさしぶりじゃのう。シャール殿こそ、壮健そうで何よりじゃ」
「よかった……。大樹が落ち、闇の世界をおおい、黄金病の恐怖がこの地に蔓延したとしても……まだ希望は残されていたのですね」
「……むう。それじゃシャール殿。今、黄金病と言ったかの。いったいこの地で何が起きておるのじゃ?」
ロウの問いに、再びシャールは表情を影らせ、詳しく彼らに話す。
「数週間ほど前からです……。クレイモラン王国一帯で、突如奇病が流行りだしたのです。この病に感染したものは人間も動物も植物でさえも、身体が黄金と化してしまうのです」
「身体が……黄金に……?」
シャールの話を聞いていたカミュは、ぽつりとその部分を繰り返した。
ユリは視線をシャールからカミュに移すが、その横顔からはなにも窺えない。
「原因も治療法もわからない、この病はいつしか不安におびえる人々から黄金病と呼ばれるようになりました。他の国に助けを求めるようにも、病とともに現れた巨大な黄金の氷山により、陸路と海路も閉ざされたこの地は今や陸の孤島……」
黄金の氷山……四人は海路を塞いでいた光景を思い出す。
「病を調べていた魔女リーズレットも、逆にあらぬ疑いをかけられ、城の地下に幽閉されてしまいました」
シャールはいつもリーズレットが控えていた場所を見つめた。
「友人として、彼女を解放しようと試みましたが、民の強い反対にあい、それもかなわず……。黄金病がこの国を混乱に陥れているのです」
国を不安に曝している黄金病だけでなく、リーズレットの件も彼女の心を痛めているのだろう。
「なんと、そのようなことが……。じゃが、シャール殿、安心なされよ。その黄金病の謎、わしらが調べよう」
「……ありがとうございます。ロウさま。リーズレットは、ユリさんならなんとかできるかも知れないと言っていました」
「私、ですか……?」
「元天使であるあなたならば、と」
……天使の力を必要とするなら、ユリの思い当たることは一つしかない。
「城の者や城下町の民たちにも、皆さんに協力するよう伝えておきます。……どうか、よろしくお願いします」
ユリとロウはシャールとの謁見を終えて下がり、代わりにホメロスが前へ出た。
「あなたは……デルカダールの将軍、ホメロスさん。今はロウさまたちと一緒に行動されているのですね」
シャールの御前の下で、ホメロスは跪く。
「シャール女王。私はこの国に謝罪をしなければなりません。魔女リーズレットの封印を解いたのは、なにを隠そう私なのです」
「!まさか、あなたが……」
――ホメロスがシャールに懺悔と謝罪をしている間、ユリとロウは見守りながら、先ほどシャールから聞いた黄金病について話をしていた。
「あらゆるものを金に変えてしまう正体不明の黄金病か……。このまま放っておくことはできんな」
「はい、そんな恐ろしい病があるなんて……」
「黄金病……」
二人が深刻な顔で話をする中、カミュは再びぽつりと呟く。
「それに、シャール殿の話を聞く限り、ラムダへ向かおうにも黄金の氷山によって、各地への陸路はふさがれておるそうじゃ」
「海路だけでなく、陸路もだったんですね……」
「……問題は山積しておるな。ひとまず城下町に戻り、皆と合流して今後の対策を練るとしようかの」
「その前にリーズレットとお話ししたいです。私ならなんとかできるかも知れないと言った理由……」
「おお、そうじゃった。リーズレットはおぬしが勇者になったことを知らんだろうから、天使のチカラを指しておるようじゃな」
――ユリとロウはそこで、カミュの異変に気づいた。
「身体が……金に……?」
「カミュ……?」
「黄金病……それって……。ううっ……」
「カミュ……っ」
突然、頭を抱えるカミュに、ユリはその身体に寄り添う。ロウも「どうしたと言うんじゃ……」と、苦しむ彼を驚きに見つめた。
「お連れの方は気分が優れんのか?よかったら、こちらの部屋で休まれるがいい」
シャールの側近の女兵士が、客間へと案内してくれるらしい。ユリはカミュに付き添おうとしたが……
「わしがカミュについておるから、ユリはリーズレットの方を頼む」
そう言ってロウはカミュを支える。クレイモランの港に上陸した際の様子もあり、カミュの側についていたかったが、ユリはロウの言葉に従った。
「心配でしょうけど、彼は黄金病ではないと思うわ。室内にいて黄金病の発症例はまだないから……」
「だから、町の人たちは家にとじ込もって……」
心配そうに背中を見つめるユリに声をかけたのは、もう一人の側近の女兵士だ。
「黄金病は人間も動物も関係なく発症すると、全身が黄金になるとてもおそろしい病気なの」
「全身が……」
「以前の事件の記憶や、魔女だという理由でリーズレットさんを疑う人もいるけど、私はあの人は無関係な気がするわ」
最近はリーズレットにおしゃれを教わって、貴金属や宝石のアクセサリーにも興味を持つようになったの、と。
「……でも、まさか、その矢先におそろしい病が流行するなんて。これじゃ、おしゃれどころじゃないわ」
話を終えると、彼女は暗いため息を吐いた。せっかくリーズレットが皆に受け入れられた矢先で……と、ユリも残念に思う。
「ユリさま、私の事情でお待たせして申し訳ありません。……おや、ロウさまとカミュの姿が見当たりませんが」
「それが……」
ユリはカミュの具合が悪くなって、ロウが付き添って客間で休んでいるとホメロスに話す。
「……そうでしたか。あやつはクレイモランに来てからどうも様子がおかしかったですね……。とりあえず、私たちはリーズレットの元に行きましょう。なにか、新たな情報が掴めるやも知れません」
「うん。リーズレットに話を聞きましょう」
ユリはホメロスと共に、リーズレットが幽閉されているという地下に向かう。
「先ほど、女王さまからお聞きしました。黄金病の調査と解決。よろしくお願いします。……あなた方が最後の希望なのです」
通りすがりにかけられた兵士の言葉に、ユリは真剣な顔で頷いた。
玉座の間を後にしようとする二人だったが、先に扉が開く。
入ってきたのは、魔女事件の際に世話になったエッケハルトと大臣であった。