黄金兵の急襲

「カミュのことはご心配なさらず、私におまかせください。ユリさんは港の方へ――!」

 神父にカミュをまかせ、ユリは仲間と共に港へ続く雪道を走る。

「先ほどの悲鳴はお前にも聞こえたか?」
「うん、聞こえた」
「招かれざる何者かが上陸したのかもしれん。声は城下町から聞こえた……ユリ、心していくぞ!」

 グレイグの言葉に、ユリも気持ちを切り替えるように気を引き締めた。
 船着き場に着くと、クレイモランに着いたときにはなかった一隻の帆船が停泊している。

「あの帆についたドクロマーク……嫌な予感しかないな」

 船を見るホメロスの目が鋭くなる。赤と白の縦じま模様の帆には、特徴的なドクロマークが描かれていた。
 ユリはこのマークのついた船を見たことがある。――バイキングのアジトでだ。

「ユリ姉さーん!大変でがす!正体不明の金ピカの魔物どもが町の中に入って暴れまわってるでがす!」

 少し離れて停泊させたシルビア号から、アリスが大声を出して彼らに事態を伝える。

「金ピカの魔物じゃと……!?」
「町の人たちが心配だわ。急ぎましょう!」

 マルティナの言葉に、一行は急ぎ城下町へと向かった。


「おらっ、野郎ども、気合い入れて箱ベー!キラゴルドさまがお待ちだぞ!」

 アリスが言っていた通り、城下町では全身黄金の魔物が暴れまわっていた。盾や胸元辺りには、帆と同じ骸骨マークが描かれている。
 この魔物たちが招かれざる上陸者で間違いないだろう。

「もしや、魔物たちが集めておるのは……」
「この魔物たち、黄金像となった人間を持ち去ろうというのか。まさか、例の黄金病もこいつらが……?」

 魔物たちを見据えて、グレイグは大剣を抜く。
 皆も武器を取って戦闘態勢を取った。

「んーキサマらなんのつもりだ。まさか我らのおかしら……鉄鬼軍王キラゴルドさまに逆らうつもりか?」
「キラゴルド……?」

 その名前に、ホメロスが初めて耳にしたというような反応を示す。

「おかしらだが軍王だが知らんが、この町への狼藉、見すごすわけにはいかん!」
「フン!黄金になっていない人間など、手に入れる価値も無いが……キラゴルドさまのお宝ゲットをジャマする者は許さん!野郎どもっ、しめあげちまえ!」
「ヤイサホー!!」

 黄金兵長を筆頭に、黄金兵が一行を取り囲むように襲ってきた。
 マルティナは回し蹴りで吹っ飛ばし、グレイグとホメロスの剣が敵の剣と交える。シルビアは束になってくる黄金兵を、鞭でまとめて攻撃した。

「カチコチじゃ!」
「聖なるいかづちよ……!」

 ――マヒャド!
 ――ライデイン!

 ロウとユリは魔法で応戦しようとした。だが、魔力が足りなくて呪文を唱えられない!

 はうっと二人は同じような表情をして顔を見合わせた。

 ジャコラを撃退したあと、ろくに休まずクレイモランに上陸し、黄金兵からの急襲だ。
 ジャコラ戦で使い果たした二人の魔力は回復していない。貴重な魔力を回復する薬も、ブギー戦で使い果たしている。

「じゃが、宿屋で休んどるヒマはないっ!ユリ!わしらは魔力を使わずともここをなんとかしのぐぞ!」
「っロウさま、危ない!」

 杖からツメに装備を変えるロウに、そこに襲ってきた黄金兵の剣を、ユリは素早く引き抜いた剣で弾いた!

「おお、ありがとな、ユリよ!よし、わしも反撃じゃ!」
「回復役がいないとつらくはないか!?」
「アタシたちも魔力節約した方がいいわね」
「一つだけ残っている。……ユリさま、ロウさま!どちらかお使いください!」

 ホメロスは持っていた『けんじゃのせいすい』をユリたちの方に投げて、ユリが両手でキャッチした。

「ロウさまが使ってください!」
「よいのか?」
「私は、魔力を回復するとっておきの弓技があります!」

 ユリはロウにけんじゃのせいすいを渡すと、武器を剣から弓へと持ち替えた。
 矢を弦に構え、静寂をその身にまとう。自然と一体化するように放つその矢は、

「精霊の矢!」

 与えたダメージに反して、ユリの魔力を回復させる弓技だ。
 背中の矢筒から矢を取りだし、再び同じ要領で放つ。
 精霊の力を借りる作法に、一矢放つのに時間を要するが、少しずつユリの魔力を回復していく。

「隙だらけだぜ!」
「ヒャッホー!」
「!?」

 難点は矢を射ることに集中するので、その間無防備になることだ。乱戦状態の中、黄金兵たちがユリに飛びかかってくる。

 あわわわ……!

 弓矢を構えたまま、応戦するすべがない。ユリは攻撃を受ける覚悟をしたが、左右から現れた影が、黄金兵たちを吹っ飛ばした。

「あら、ホメロス。ここは私だけで十分よ」
「姫こそ。乱戦の中心で暴れまわっている方がお似合いでは?」

 片足を上げているマルティナと、両手に剣を構えるホメロスがお互い横目に言った。

「ユリ!弓を使うなら俺に言え!前にも言ったはずだ……俺は勇者を守る盾となると!」

 グレイグは大剣からデルカダールの盾を構えて、ユリの前に立つ。

「ありがとう、グレイグ!」
「ここはグレイグにまかせて、私たちは敵を蹴散らしにいきましょうか」
「フ……そうですね。私も剣としての役目を果たしてみせます……!」

 マルティナとホメロスはその場をグレイグにまかせ、ロウとシルビアが戦っている場に向かった。

「あいたっ!」
「ロウちゃんっ、リベホイム!」

 黄金兵に攻撃を弾かれ、尻餅をついたロウに、シルビアは回復呪文を唱えた。

「すまんのう。さすがに攻撃力は若い頃より衰えたのう。こういった肉弾戦はちと苦手だわい」
「大丈夫よ、ロウちゃん!みんなでチカラを合わせて戦いましょう!」

 シルビアはパチンとウィンクして言った。

「ロウさま!シルビア!」

 マルティナとホメロスがこちらに向かって来るのに気づいたからだ。

「おお、二人も来おったか。どうやら、あの魔物が魔物たちをまとめる親玉みたいじゃな」
「確かにザコ共とは違う風貌をしているな。少しは楽しめそうだ」
「ホメロスちゃん、昔の口調が出てるわよ!」
「みんな、さっさと倒してしまいましょう!」

 黄金兵長の見た目は、黄金になったさまようよろいに似ている。

「野郎ども!集まりやがれ!」

 黄金兵長は黄金兵を呼び寄せてから、彼らを迎え撃った!

「ルカナン!」
「しびれちまえ!」

 黄金兵長は呪文を唱えて、四人の守備力を下げると、続けざまに黄金兵の痺れるような剣捌きで攻撃してくる。魔物にしてみれば、まずまずの連携だった。

「いやん、ビリビリ痛いわね!竜よ、飛べ!極竜打ち!」
「小癪な技を……かえん斬り!」
「とどめよ、ヒップアタック!」

 心なしか、マルティナの攻撃にうっとりしながら黄金兵は昇天した。

 ――マルティナちゃん。普通においろけ技を使うようになったわね。
 ――姫の魅力に反映されて強力な技ではあるが、一国の王女に使わせていいものか……。

 シルビアとホメロスはそう目で会話した。やはり、魔物になってからマルティナは色んな方向にはっちゃけているような気がする。

「さすがじゃ、姫!そして、さすがわしが仕込んだおいろけ技!」

 元凶はロウであることには間違いない。

「キングダムソード!」

 黄金兵長は全体攻撃に加え、守備力を下げる剣技をしてきた。黄金兵たちは勝てる相手だが、これ以上守備力を下げられたらまずい。

「眠るがよい……ラリホーマ!」

 ロウが両手を前に出して、呪文を唱えると、黄金兵長と黄金兵は眠りに落ちる。

「ロウちゃん、ステキー!」
「今のうちに終わらせるぞ!」
「ええ、叩き込むわよ!」


 ――三人が気合いを入れる中、ユリの魔力はだいぶ回復していた。


「グレイグ、ありがとう!もう大丈夫!」

 最後に、通常攻撃で黄金兵を仕留めてユリは言った。

「よし、俺たちもホメロスたちの元へ……」
「う、うわぁ!」
「金目のモノをよこさねーと、お前の命をいただくぞ!」

 黄金病でほとんどの住人が家にとじ込もっていたのが幸いだったが、若い男性が襲われそうになっている。

「ユリ、いくぞ!」
「うん!」

 ユリとグレイグは彼を助けるために、そちらに駆けつけた。
 ユリの素早い二回攻撃は黄金兵の剣を弾き「マヒャド斬り!」氷の剣を懐に差し込む。
 とどめのようにグレイグの「はやぶさ斬り」が炸裂した。

「あ、ありがとう……。助かったよ」
「お怪我はなさそうでよかったです」

 くるりと返して、ユリは剣を腰の鞘に戻して言った。あらかた倒し、あとは仲間の四人が戦っている黄金兵たちだけのようだ。

「どうやらあの魔物が親玉のようだ。俺たちも加勢するぞ!」

 ユリはこくっと頷き、今度こそ仲間たちの元へ走る。

「……こうやって、グレイグと肩を並べていると、最後の砦での戦いを思い出すな」
「フッ、今となっては懐かしいな。お前が来てくれたからこそ、あの戦いは勝てた」
「あの戦いは誰一人欠けても勝てなかった、みんなの勝利だよ」
「そうだな……!何度だって俺たちは勝利するぞ!」

 勇ましく言うグレイグは、再び剣を抜いた。

「加勢にきた!俺たちも共に戦おう!」
「ちょうど今終わったところだ」

 グレイグとは反対に、ホメロスは淡々と言って二刀の剣を鞘に戻す。

「む、そうか……。なにはともあれ、町を守ることはできたな」
「……人々の黄金像は?」

 ユリの言葉に「そういえば……」と、皆はきょろきょろ辺りを探した。
 ああ!シルビアが片手を口に覆い、もう片方の手で町の入り口を指差す。

 こっそりと黄金兵たちが黄金像を運び出している瞬間だった。

「くっ、しまった!先ほどの連中は陽動だったか。追うぞ、ユリ!」

 全員、慌てて追いかけるも――黄金兵たちは船に飛び乗り、錨を上げているところだった。

 グレイグがいち早く叫ぶ。

「ユリ、あれを!」

 黄金の色に混ざって、青い髪色は――……ユリの目がはっと大きく見開く。

 船には捕らわれたカミュの姿があった。

「カミュちゃん!?ちょっと、なんであんな所にいるのよ!」

 シルビアが両手で頭を抱えて叫ぶ。

「カミュ……!」
「わからん!だが、今は理由を考えるよりヤツらを止めなければ!」

 無我夢中で走り出したユリの後ろを、五人が追いかける形になった。
 港へ着くも、すでに船は出航し、彼らの足は桟橋の先で止まる。

 船は遠ざかり、空から降り続く雪が隠すように見えなくなっていく――。

「くっ……!間に合わなかった。まさか、カミュが連れていかれるなんて」
「……どうして……カミュが……」
「もうっ、だったら取り返すだけよ!神父さんがまだこの辺りにいると思うの。見つけてアイツらのこと聞いてみましょ!」

 ダンッ、と足踏みして、感情をあらわにシルビアは皆に言った。

「アリスさん――ッ!」

 しかし、ユリは聞こえていないように、船の上にいるアリスに叫ぶ。

「船を出す準備をして!今すぐあの船を追いかけるっ!」

 係留柱からロープをほどき、上陸用の小舟に乗り込むユリを、五人は慌てて止める。

「ユリさん、待つでがす!」

 アリスも同じく、船の上からユリに制止の言葉をかけた。

「一流の船乗りは船を出す前に、まず、海について調べるものでがす。アテもなく後を追うよりも、まずはカミュのダンナの行方に関して情報を集めるのが先決でがす」
「…………」
「ユリよ、あせってはならん。カミュを見てくれていた神父殿ならば、何か手がかりを知っているかもしれんぞ」
「……はい」

 続いてロウからの諭すような言葉に、ユリは小さな声で返事をし、小舟から下りる。

「さあ、気落ちしている場合じゃないわ。あの魔物たちの手がかりを探して、カミュを助けだしましょう!」

 マルティナが励ますように優しく笑いかけ、ユリの背中を押した。
 一行はカミュと神父を残した、あの海沿いの高台へと向かう。

「すまん、ユリ。俺としたことが、魔物たちの陽動に気づけないとは……。この借りはカミュを助けだすことで返させてもらうぞ!」
「ユリさま、私もグレイグと同様です。こんな簡単な陽動に引っかかるとは、面目ございません……。必ずや、カミュを助けだしましょう」

 グレイグとホメロスの言葉に、ユリは弱々しくも笑って、ありがとうと答えた。


 海沿いの高台には神父の姿だけでなく、そこには数名の町の者たちの姿もあった。
 
「……ユリさん、すみません。私が気を抜いていたばかりに、隙を突かれ、魔物たちにカミュをさらわれてしまいました」
「何を言ってるんだよ、神父さん。あんなおっかない連中に襲われて、命が助かっただけでもめっけもんさ」

 落ち込む神父に、側にいた男が励ますように言った。ユリも続くように「神父さんの責任じゃありません」と、神父に伝える。

「神父さんが町の外にいると聞いて、心配して駆けつけたけど、無事でよかったよ」

 他の男たちも、彼の言葉にうんうんと同意する。彼らが集まったときには、もうカミュは連れ去られたあとだったらしい。

「チクショー!黄金病にかかった人間は、片っぱしならあいつらに連れてかれちまった……。ヤツら、金目のもんしか気にしてなかった。オレたちの命を高く売れるかどうかで、値踏みしてるみたいにな……くそっ」

 船乗りの男はくやしげに顔を歪ませる。

「……しかし、カミュは高価な物は持っていませんでしたし、黄金病にも感染していなかった。なのに、あの魔物たちはまるで最初からカミュを知っていたのかのように、迷うことなく連れ去っていきました……」

 疑問を口にする神父に、ユリも仲間の彼らも、カミュが拐われた理由がわからなかった。

「あの魔物たちのしゃべり方や、しぐさ……まさか、彼らの正体は……?」
「……じつは、わしもその考えがアタマをよぎった。やはり、お前さんもその考えに至ったか」
「たしかに言われてみれば……。だけどよ、そんなことありうるのか?」

 神父の見解に、老人、船乗りの男も同様に続く。彼らは同じ目星がついているようだ。ユリはなにか気づいたことがあるなら教えてほしい、と藁にもすがる思いで神父に尋ねた。

「あの黄金を欲する魔物たち……彼らの言動やクセに、私たちは見覚えがありまして。……そう、この地に寄港していた、バイキングたちにどこか似ているのです。たしかに、彼らならカミュを知っていても……」

 神父の話を聞いて、彼らの言い淀んでいた理由がわかった。
 あの帆船はユリもバイキングのアジトで見たが、黄金兵は確かに魔物だった。そして、微かに黄金像と似た魔力を感じたのも事実だ。

 ……この先はあまり考えたくない。

「当時、彼らのアジトはこの町から船で出て、すぐ近くの洞くつの中にありました。もしや、そこに行けば何か……?」

 神父は独り言のように呟き、自然と皆の目は海へと向けられる。

「神父さんの予想が正しければ、あの魔物たちは元はバイキング……つまり人間だったってことだよね。もし、本当にそうだとしたら……人間を黄金の魔物に変えてしまうなんて、身体が黄金になる以上におそろしいことだよ」
「わしの知るバイキングどもはケンカっぱやく、あらくれ者ではあったが、悪人ではなかった。いったい、何があったというのか……」
「この町に寄港していたバイキングたちなら、オレも港で仕事をしていた時に何度も会ったことがあるぜ。あいつらがさっきの黄金の魔物だなんて、そんなことがありうるのか?だが、それなら魔物どもが船に乗って航海にたけていたのもうなずけるか。……くそっ!アタマが混乱してきたぜ」

 ……町の者たちからも困惑している会話が繰り広げられているなか、

「バイキングのアジトに行ってみます」

 そうユリは神父に告げた。

「皆さん、お気をつけて……。カミュの記憶が戻りかけているようにも私には見えました。カミュを、よろしくお願いします」

 神父の言葉に全員がしかと頷く。バイキングと黄金兵についても気がかりだが、今はカミュだ。

「神父さんたちの言った通りなら、バイキングのアジトに行けばカミュちゃんの行方もわかるかもしれないわ。ユリちゃん!いざ、カミュちゃんを助けに出港よ!」

 ――港へ戻ると、桟橋で皆をアリスが待っていた。ユリはアリスの前に立つと、彼に謝った。

「アリスさん……さっきはごめんなさい。私、考えなしで……」
「謝るようなことはユリ姉さんはなにもしてないでがすよ。さあ、シルビア号は準備万端でげす!カミュのダンナを助けに行きやしょう!」

 小舟に乗るよう促すアリスに、ユリは「ありがとう」と、微笑む。海のように心が広い男とは、きっとアリスのことを言うのだろう。

 一行はアリスが漕ぐ小舟から、シルビア号に乗り込んだ。

「シルビア姉さん、行き先はどこでげすか?」
「前にアタシたちも行ったこともある、ここからすぐのバイキングのアジトよ!」
「合点承知でげす!」

 雪がしんしんと降り続ける中、シルビア号は出航する。甲板には歩くと足跡が残るほどに、雪が積もっていた。

 その光景を見て、ユリは思い出す――……

『……お前らは雪の大変さを知らないんだよ。船に積もったら、全員総出で雪かきしなきゃならないんだぞ』
『積もったらみんなで雪合戦しよう!』
『雪だるまも作ってみたいな』
『……。子供か』

 一度記憶を失ったユリにとって、思い出はなによりの宝物だった。

 でも、それ以上に大切なものがある。

 あの頃を忘れてしまっても、思い出さなくてもかまわない。


(この世界にカミュがいなきゃ、私の世界に意味がないんだよ――……)


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