ふたたびのムウレア王国

 ゼーランダ山に向かうはずだった一行は、急遽進路を変更して、シルビア号に乗り込む。

 目的地はムウレア王国。

(よかった……セレン女王がご無事で……)

 マルティナが言っていたユリに会いたいという者は、セレン女王であった。

 ユリが倒れている間に、海の民の使者がシルビア号に訪れて、アリスから皆に伝えられたという。
 セレンやロミア、ムウレアのその後が気になっていたのは仲間たちも一緒だ。グレイグとホメロスも海底王国に興味があるらしく、ムウレアに向かうことは満場一致に決定した。

「ユリさま。お姉さまはせっかちですが、ちょっとぐらい待たせても平気ですわ」

 にっこり笑ってユリに言ったセーニャに「ベロニカがラムダにいる前提なのか……?」と、カミュが不思議そうに首を傾げた。どうやら自分がラムダに向かおうとしているので、姉もきっとそうだろうという考えらしい。

 船は進み、クレイモラン大陸は遠ざかっていく。近海では黄金の氷山もなくなり、漁船や商船が行き交っていた。

「大樹が落ちた直後、お前は海底にいたんだってな」

 海を眺めていたユリの隣に、ごく自然に並んでカミュが尋ねる。

「起きたらロミアさんの家でね。ボロボロの格好でサンゴの森に引っかかってて、もう少しでサメに食べられるところだったんだって」
「そりゃあ、笑えねえな……」

 今となっては笑って話すユリだったが、カミュは苦笑いを浮かべた。


「――デュアルカッター!」
 
 ジャコラはいなくなり、海は穏やかさを取り戻したが、凶暴化した魔物が現れなくなったわけではない。
 が、カミュの新しい戦法は大いに魔物との戦闘で活躍した。

「カミュ、すごいね!二刀流のブーメランかっこいい!あっという間に魔物を倒しちゃった!」
「剣の二刀流も考えたが、使うヤツらも多いだろ?どうせならオレしかできないこっちから極めてみようと思ってな」

 カミュはそう言って、片手でブーメランを投げてキャッチする。

「でも、カミュも剣の二刀流もできるんだよね?かっこいいな〜私も二刀流取得できるように練習してみようかな」
「エルシスはできそうだと思ったが……お前はできる気がしねえな」
「!?」

 カミュの言葉にガーンとショックを受けるユリ。そこに代わってロウがカミュに話しかける。

「新しい戦法だけでなく、カミュ。以前よりも吹っ切れた動きになった気がするのう」
「あー……たぶん、マヤのことがあったからかもしれねえ」

 どうやら罪悪感がなくなったことにより、心の枷が外れて、カミュは本来の力を出せるようになったようだ。

「……私もカミュに負けないようがんばらなきゃ」
「お前はもう勇者の技とか強力なヤツを使えるだろ」
「強くなったのはセーニャちゃんもよね!ネドラにとどめを刺してビックリしたわ」

 その二人の会話に入ったのはシルビアだ。シルビアは向こうでマルティナから槍の手解きを受けているセーニャを眺めて話す。

「いったい、いつの間にあんなスゴイ呪文を覚えたのかしら?命の大樹が落ちた後、アタシたちが世助けパレードをしていたように、セーニャちゃんもがんばっていたのね……」
「たしかにセーニャのヤツ、しばらく見ないウチになんだか雰囲気が変わったよな。以前はお前やエルシスと同じくボンヤリしてて危なっかしかったが、ひとりで世界中を渡り歩いているうちにアイツなりに成長したのかもな」

 カミュはクレイモランで再会したときのセーニャの姿を思い出した。
 ユリを助けるために真剣なセーニャの姿に、なんとも頼りがいを感じたものだ。そして、反対に自分の不甲斐なさにも。

「ベロニカとセーニャか……。たしかに俺がエルシスたちを追っている時に、そのふたりの名を報告で受けたことがある。たしか、人間に化けた魔物の姉妹が勇者の仲間となり、あちこちで悪さをはたらいてるとか……」
「そのウワサ話は私も聞いていた。……そして、疑いもしなかった」
「……かつて、俺たちが支えていたデルカダール王国は、なんの罪もないうら若き女性を魔物と見なすほど正気を失っていたのだな」

 そう言って、グレイグとホメロスは再び自分たちの過ちを思い出して反省した。悪魔の子と一緒に行動しているということで、噂に尾ひれはいれがついたのだろう。


 船は数日かけて外海から内海へ入り、買い出しに一行がダーハルーネに立ち寄ると、楽しそうに町中を走るラッドとヤヒム、海の民とばったり出会す。

「あ、いつかの旅のお姉ちゃん!聞いたぜ!海で暴れてたジャコラを倒したんだってな!さすがだぜっ!」
「こんにちは、ラッドくん、ヤヒムくん。なんだか楽しそうだね!」

 ユリが膝を曲げて二人の目線に合わせて聞くと、ヤヒムとラッドは顔を見合わせてえへへと笑う。

「僕たち、海から来た子と仲良くなったんだ。最初は魔物かと思ってこわかったけれど、話してみると僕たちと変わらないってわかったんだ!今は毎日楽しいよ!」
「ウフフ、二人に笑顔が戻ってアタシも嬉しいわ!新しいお友達ができたのね」

 ヤヒムの言葉に、シルビアが満面の笑みで答えた。
 大樹が落ちて、このダーハルーネに訪れたときから、ラッドとヤヒムの二人のことを気にかけていた。
 その二人は、今は太陽よりも眩しい笑顔を見せている。

「あのね、ボクは人間じゃないのに、ラッドくんとヤヒムくんがいっしょにあそんでくれるんだ!人間ってお魚を食べるからちょっぴりこわかったんだけど……みんなとってもやさしいんだね!」

 海の民も二人を見ながら楽しげに話した。友達に種族は関係ないと、彼らはよく知っている。

「そうそう、海底の王国に住民たちが戻ってるそうだぜ。けど、町が気に入ったのか、この子たちはしばらく町に滞在するんだって。それでさ、この子、釣りがうまくってさ。今度一緒に釣りに出かけることにしたんだ!楽しみだなあ!」

 ラッドは最後にそう言い、三人は笑いながらどこかへ走り去って行った。

「……ねえ、ユリちゃん。あんな風に子供たちの笑顔を見ると、アタシたちのやってきたことに誇りが持てるわね」
「うん、もっとがんばろうって思えるよ」

 三人が走り去った方角を、シルビアとユリは笑顔で見つめる。穏やかさを取り戻した海には船が行き交うことができ、ダーハルーネの町にも人が集まってきたようだ。

 訪れた市場にも、以前より食材が並んでいる。

「あ、魚もたくさん売ってる!ねえ、カミュ。アクアッパッツァにしてもいいよね」

 あれ、おいしくて好きだな、というユリに「ああ、うまい」と、カミュも同意して頷いた。

「じゃあ夕食はそれにしよう!」

 今日の料理担当はユリだ。他にも手際よく食材を選んでいく彼女を見て、カミュはくすりと口を開く。

「お前、すっかり料理上手になったよな。最初の頃は全然できなかったのに」
「最初に料理を教えてくれたのはカミュだよ?味付けも近づいてきたでしょ」
「そうだったな。味付けもうまくなったと思う」
「じゃあ私、カミュの胃袋掴んだ?」

 無邪気なその問いに、カミュは無言になった。(ぜってーこいつ、意味わかって言ってねえだろうなぁ……)
 そもそも胃袋以外を掴んでんだよ、お前は――とカミュは言いたいが、こんな面前で口に出すわけにはいかないので。

「……まあ、そのうち胃袋も掴むかもな」
「がんばるね」

 にこっと笑って、他の食材を見て回るユリは「ユリさま!果物がお買い得ですわ!」セーニャに呼ばれて、そちらへと向かう。
 ……基本、そこまで食に関心がないカミュだが、今日の夕飯はちょっぴり楽しみになった。


「荷物は私とグレイグで運びますので、よろしかったらユリさまたちは、ダーハルーネの町を見て回ってください」
「ああ、荷物運びやチカラ仕事はまかせろ」
「あら、二人とも気が利くじゃない?せっかくだから、ユリちゃん。ラハディオちゃんたちのカオも見てきましょうよ」

 ホメロスとグレイグの言葉に甘えて、ユリと残りの仲間たちはそのまま町の様子を見て回ることにした。

「………………」
「なにか釣れるの?」

 町を繋ぐ橋の縁に立って釣りをする海の民に、ユリは親しげに声をかける。

「……ウオっ、勇者さま、いつの間に。ここでは海底では見ない魚も釣れるし、しばらくは地上で過ごすことにしたのさ」

 海の民たちは普段は海底で暮らし、滅多に海上にも姿を現さないので、地上は珍しいらしい。

「アンタがジャコラを倒してくれたおかげで、隠れていた魚も姿を現したみたいだぜ。海を取り戻してくれて本当にありがとうよ」

 だから市場には魚が多く並んでいたのか、と皆は納得した。

「なんだか彼らもすっかりここの住民のようね」
「そうだね」

 再び釣りに没頭する姿を見て、マルティナはくすりと笑い、ユリも同意して頷く。

「なんでも、海から来た3人は3兄弟らしいぞ。けれど、トシが30歳ずつ離れてるとか……私たちとは時間のスケールが違うなあ」

 町を巡回する兵士から聞いた海の民の話に、ユリはへぇーと驚いた。同じような顔に、正直年齢さがまったくわからない。

「あら、もう一人の兄弟ちゃんは広場のステージにいるみたいね」
「皆さんも集まって、いったい何をされているのでしょうか」

 シルビアに続いてセーニャが不思議そうな顔をして言った。

「ラハディオ殿もおるし、どれ行ってみるか」

 ロウの言葉にそちらに向かうと、一行の姿を目にしたラハディオは、すぐさま笑顔を見せる。

「おおっ、聞きましたよ!魔王の配下……ジャコラを倒したのはあなた方であると。礼を言わせてください。ありがとうございます!」

 皆が笑顔で答えていると、続けて彼は海の民に視線を向けた。

「……そうそう、海からやってきた方々ですが、この町を気に入っていただけたようですっかり町になじんでいるのです。これからは彼らの知恵も借りつつ、避難した人々がいつ戻ってもいいように、この町を活気づかせていきたいですな」

 その海の民は、吟遊詩人と船乗りに向けて演説をしているようだ。

「海からやってきたお方が、あのふたりに海の男とはなんたるかを伝授してるのです!」

 そう教えてくれたのは、海の男コンテストの主催の男だ。最初にダーハルーネに来た際に、カミュとエルシスを参加しないかと誘ったのも彼である。
 
「こっこれは、あのお方にはぜひとも次回の海の男コンテストに出てもらわねば!祭りの目玉となること間違いなしです!」
「次回の海の男コンテストは白熱した戦いになりそうね。開催される際はぜひ見に行きましょう、ユリちゃん!」

 ユリは笑って「うんっ見に行きたい」と答えた。シルビアが特に楽しみにしていたが、気になっていたのはユリも同じだ。

「俺はコンテスト優勝者として、自分の海の男らしさに自信を持っていたが……このお方の海の男っぷりには完敗だ。世界の広さ……いや、海の深さを身を持って知った気がするよ。このお方こそ海の中の海の男だぜ!」
「僕ごときが海の男を名乗るだなんて、なんとおこがましいことだったんだろう……。師匠の話を聞いて目からウロコさ!」

 話を聞いている船乗りと吟遊詩人も絶賛らしい。「まあ、海からやって来たヤツだしな」それを見てカミュが呟き、真剣に語る海の民の話に皆もしばし耳を傾ける。

「いいですか……とどのつまり、隣人は友であり師であり時に食料なのです。これは海底のすすめの一節でしてね……」

 時に食料……?なかなかシビアな発言が出てきた。

「……ウオっ、ユリさま、いつの間に!」

 そこにいるユリの存在に、海の民は驚いたようだ。薄々気づいていたが、彼らは驚く際「ウオっ」が口癖らしい。

「せっかく人間さんと会えたことですし、今はこの町の海の男さんたちに海底の教えを話していたところなんです。海は元の姿を取り戻しつつあるようです。ユリさま、ジャコラを倒してくださって、本当にありがとうございます!」

 感謝の言葉に、再びユリは笑顔で答えた。地上にいても、彼らには海の変化はわかるらしい。
 不意にユリはステージ上の向こうの海に目を向けると、一人の老人がぽつんと海を眺めている姿に気づいた。

「こんにちは」

 黄昏れたような背中が気になって、ユリが声をかけると「おお、旅人さんか」と、老人は振り向いて嬉しそうに返事をする。

「こうして心地よい潮風を浴びとると……冒険家として、世界中を旅して回っていた若造だったころを思いだすわい」
「おじいさんは冒険家だったんですね」
「お嬢さん、よろしかったら少しだけ昔話につき合ってくれんかのう?」

 ユリは快く頷いた。

「あのころ、探検船の船長をしていたわしは、船員たちと財宝を探す日々を送っておった。そんな中、すごいお宝を見つけたんじゃ」
「へえ、すごいお宝か。気になるな」

 お宝という言葉に食いついたのはカミュだ。その反応に気をよくしたように老人は話す。

「伝説の秘宝と呼ばれるけんじゃの石……あまたの財宝の山の中にそれを見つけた時は今でも忘れんほど興奮したもんじゃよ」
「けんじゃの石だって!?」

 けんじゃの石とはユリは初めて聞いたが、驚くカミュの反応に伝説の秘宝で間違いなさそうだ。

「ほっほ、驚くじゃろ?しかし、故郷に帰る航海の途中……突然の嵐に見舞われてのう。お宝は全部海に投げ出されてしもうた。欲に駆られたわしは、お宝の後を追って海に飛び込もうとしたが、仲間の船員たちに説得され、泣く泣くお宝をあきらめたんじゃ」

 そりゃあもったいねえ話だな、とカミュは今度は残念そうに呟く。だが、仲間に止められたこそ、老人は今ここにいるのかも知れない。

「というワケで、伝説の秘宝けんじゃの石は、わしの船と一緒にこの海のどこかで静かに眠っているんじゃよ」

 もしかして、海底王国の難破船だったりして……と、ユリの頭の上に思い浮かんだ。

「のう、旅人のお嬢さんや。わしは死ぬ前に、もう一度だけけんじゃの石を見てみたい。この老いぼれの夢、かなえてくれんか?」

 ユリは二つ返事で引き受けた。海の底なら、人魚や海の民たちから手がかりが得られるかも知れないと思ったからだ。

「おお!こんなふざけた頼みを引き受けてくれるとは!なんでも言ってみるもんじゃなあ!わしの船が嵐に襲われたのはデルカダールの東の海。けんじゃの石があるとすれば、おそらくあの辺りじゃ」

 東の海……皆も思い思い考える素振りをし、どうやらユリと同じ考えにたどり着いたようだ。

「しかし、海の底に沈んだお宝を探すなど至難の業。船で海に潜れるようにでもならんと見つけることなどできんじゃろうて。まるで、雲をつかむような話じゃが、もしも……けんじゃの石を見つけたらわしに見せとくれ。この老いぼれの夢、お嬢さんたちに託したぞい!」

 まさに自分たちは船で海に潜れる。老人からのクエストを引き受けて、そろそろ船に戻ろうかと歩くなか、皆の会話はその一色だ。

「けんじゃの石か……。オレもお目にかかってみたいもんだぜ」
「カミュが言うんだからすごいお宝なんだね」
「話を聞くかぎり、わしはムウレア王国の難破船があやしいと思うぞ」
「東の海なら、ちょうどムウレア王国がある辺りですものね」
「海に沈んだお宝なんて、なんてロマンチックなんでしょう」
「ムウレアに行ったら探してみましょう!人魚ちゃんたちもなにか知ってるかもしれないわ」


 ――そして、シルビア号はダーハルーネを出発し、ムウレア王国に続く光の柱にたどり着いた。
 ユリがマーメイドハープを奏でると、人魚の力を借りて、船は海底へと沈んでいく。

 そこは、青と光が揺らめく世界だ。

「ひさしぶり!アタシは船着き場の管理人魚!ユリさまのおかげで海底に戻ってこれたよ!お礼を言わせてね。ありがとう!」

 あの友好的な青い髪の人魚が、さっそく彼らを出迎えてくれた。

「海の上が恋しくなったらアタシにいつでも話しかけてよ。すぐに海の上へ送ってあげるからね」
「ありがとう」

 船から飛び降りて、ゆっくり着地したユリは管理人の人魚にお礼を言う。

「ユリ!この泡の外に出ても平気なのか!?」
「大丈夫だよ!息もできるし、歩けるよ!」
「ほら、男は度胸!さっさと飛び降りる♪」
「のわっ!」

 おっかなびっくりのグレイグに、シルビアは背中を押した。船縁に片足をかけていたグレイグは、そのまま船の外へ。
 水の中なので沈むようにゆっくり落ちて、やがてグレイグの足は砂地についた。

「不思議な感覚だな……。水の中なのに息はできるし、服も濡れていないぞ」
「なんでも、女王さまのおチカラらしいぜ」
「よもや海底を歩くことができるとは……」

 ホメロスもゆっくりと足をつき、周囲を興味深そうに見回している。

「二人ともこっちだよ!」

 青く光るイソギンチャクのランプが並ぶ、この道を抜ければ――

「ここは海底王国ムウレア。うるわしき人魚の女王が治める青き海底の楽園よ。あなたのおかげで美しき故郷に帰ってくることができたわ。本当にありがとう」

 その人魚の言葉通り、ムウレア王国は大きな破壊も見られず、深海の美しい国が視界に広がる。

「おお、なんと美しい国だ……。これが海底王国……!」

 ホメロスの口から感嘆なため息がもれた。グレイグも同様で、初めて訪れた自分たちと同じような反応で、皆はくすりとする。

「北の海でジャコラに襲われ、仲間をすべて失ってからというもの、私の心は真っ暗な海の底にありました。でも、勇者さまがジャコラを倒したと聞いた時、私の心に太陽の光が射したようでしたわ。本当にありがとうございました」

 ユリの周りに「ムウレア王国を救った勇者さま」と人魚や海の民たちが集まってきた。その光景を驚愕に見つめているのはグレイグだ。

「おい、ホメロス!人魚だ……人魚がたくさんいるぞ!」
「そりゃあ海底王国なのだから人魚は多く住んでいるだろう。しかし、人魚たちの海底での暮らしぶりが気になるものだな」
「ここはパラダイスか……」
「……おい、グレイグ。その辺にしておけ。姫さまがこっちを苦々しいカオで見ているぞ」

 ムフフのロウだけでも悩みの種なのに、そこにグレイグまで加わらないでほしいとマルティナは願っていた。
 真面目な癖して……いや真面目だからこそムッツリになるのか。

「人魚たちも海の民も戻ってきてくれてよかった!」

 笑顔のその姿を見て、ユリも満面の笑みを浮かべていた。
 彼女たちだけでなく、魚たちも戻ってきており、辺りには色鮮やかな魚が泳いでいる。

「ぎゃーーー!ボクの身体はアブラミだらけ!食べたら胸焼け胃もたれするよ!……って、おどろかさないでくれよ!勇者さまじゃないか!後ろから声をかけるからサメかと思っちゃったよ!」
「ごめんなさい!」

 こんにちは、と挨拶をかけただけだが、海の民の驚きように慌ててユリは謝った。
 自分もサメに食べられそうになった身であるし、ここで暮らすのにはスリルがあると思う。

「勇者さまの人間姿はかっこいいけど、海底王国ではちょっと不便じゃない?玉座の間にいる女王さまにお願いすれば、もっと動きやすい姿にしてくれると思うから、女王さまの所へ行っておいでよ」

 違う海の民からはそう助言され、すれ違う者たちとは挨拶を交わしていく。

「ユリさまはすっかりムウレア王国の有名人ですわね」
「ずっとお世話になっていたこともあって、みんなとは顔見知りになったのかも」

 セーニャの言葉に、ユリははにかむように微笑んだ。

「ユリ、あとでロミアの家に行ってみましょう。もしかしたら彼女も戻って来ているかもしれないわ」
「――ユリさん!」

 ユリが頷こうとしたそのとき、ちょうど名前を呼ばれた。向こうから泳いでくるのはそのロミアだった。ユリも彼女に駆け寄る。

「ロミアさんっ!」
「ユリさん、皆さんも!よかった、また出会えて……!」

 変わらぬ姿のロミアは、皆を見回し微笑んだ。

「ロミアさんも無事でよかった!あの後、魔物たちから逃げきれたのね」
「ええ!ナギムナー村に逃げて、キナイに助けてもらったの」

 匿ってくれたのだとロミアは話す。そして、海に平穏が訪れたことを知り、ムウレアに戻ってきたと。

「皆さんがあの魔物を倒してくれたのね。私からもお礼を言わせて。ありがとう」
「ロミアが無事でなによりだわ」
「キナイちゃんも元気だった?」

 マルティナに続いてシルビアの問いに、ロミアは笑顔で頷く。

「漁に出られなくて困っていたけれど、あの魔物がいなくなったからそれももう大丈夫ね!」

 漁村のナギムナー村だと、漁に出られなかったのは死活問題だっただろう。

 さあ、女王さまに会いに行ってさしあげて――しばらく談笑したのちロミアに促され、一行はセレンがいる巻き貝のような宮殿へと向かう。

「ウワサに聞くロミアという人魚……とても美しかったな」
「お前は美人なら誰でもいいのだな」

 呆れて言ったホメロスの言葉に、グレイグはむっと反論する。

「人聞きの悪いことを言うな、ホメロス!俺の好みのタイプは穏やかで笑顔が素敵な人だ」

 そして、グラマーならなおよし!ちなみにロミアもなかなかのグラマーである。
 宮殿の前まで行くと、外壁には傷一つ付いていないことに気づいた。ムウレアの建築物は地上より丈夫なのかもしれない。

「よくぞ、お越しくださいました、ユリスフィールさま!女王さまはあなたがふたたび海底を訪れる日を心待ちにしていましたよ!」

 宮殿の中に入ると、控えていた人魚が嬉々とした声で一行を出迎えた。

「女王さまが玉座の間にてお待ちです。人間用の階段が海底宮殿にはございませんので、私が玉座の間へお連れいたしましょう」

 人魚の彼女に手助けされ、一行は玉座の間へと訪れる。


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