人魚のお使い

 セレンが作ってくれた海流に乗って、再び一行はムウレア王国へと戻ってきた。
 ユリはセレンに人魚のことを報告しに行き、その間仲間たちは『けんじゃの石』について情報収集をするという。

「ありがとう、ユリスフィール。あの子も先ほど、元気になって帰って来ましたよ」
「お役に立ててよかったです」
「それはそうと……ユリスフィール」

 では……と立ち去ろうとしたユリを、セレンは引き留めるように言った。麗しいセレンの顔が、少女のような笑みを見せる。

「海底王国をお散歩するなら、その姿はすこし不便じゃないかしら?もしよかったら、あの時のかわいらしい人魚の姿に変えてさしあげましょうか?」
「あ、じゃあお願いします!」

 けんじゃの石を探すのにも、人魚の姿の方が泳ぎ回れて便利だろう。

「……ふふふ。いいでしょう。うんとステキな姿に変えてさしあげますわ。それでは、すこし目をつむってください」

 セレンに言われた通り、ユリは目を閉じた。魔力に包まれたあと、彼女の声が再び耳に届く。
 
「さあ、人魚になりましたよ。元の姿に戻りたくなったら、またわたくしに話しかけてくださいね」
「ありがとうございます、セレンさま」

 ユリは目を開くと、あのときの人魚の姿になっていた。

「人魚のアナタはとってもステキですよ。ずっとそのままの姿で、海底王国にいてくださればいいのに」

 宮殿を後にする際、玉座の間に連れていってくれた人魚の言葉に、ユリはそれも悪くないかもと少し思う。
 人魚の姿で泳ぐのに慣れると、大空を飛ぶように楽しい。

(あ、そうだ。この姿なら、お店で買い物ができるかも)

 ちょうど武器防具屋を通りかかり、中を覗いてみる。以前訪れた際に、サメの店員に言葉が通じなかったと、エルシスがしょんぼりしていたのを思い出した。

「よぉ。オレの店に来たってことは、平和ボケしたこの町の白身魚どもとは、ひとアジもふたアジも違うんだよな?」

 ひとアジもふたアジも違うかはわからないが、サメの店員の言葉にユリは「はい」と答える。

「……いいぜ、気に入った。どれでも好きなのを買ってきな」

 サメの店員から許しを得て、品揃えを眺めるユリの目は……引き寄せられるように止まった。トルソーに飾られている装備品に。

「そいつぁ大海賊のコートと大海賊の帽子だな。セットで着りゃあ立派な海の男よ。帽子の方は雷属性のダメージを軽減して、コートの方は風属性のダメージを軽減する、装備品としては優秀だぜ」
「買います!!」

 即決した。絶対、カミュに似合う。むしろカミュ専用衣装かも?大盗賊姿もかっこよかったけど、大海賊姿も絶対に似合ってかっこいい。着てほしい!

「イカす買い物、ありがとよ!」

 装備品として優秀そうな水のはごろも一緒に購入し、商品を受け取ると、そのままカミュの姿を探す。

「あ、カミュ!」
「おう。ユリ、戻った、か……――」

 仲間たちと一緒にいたカミュは、人魚の姿をしたユリに、目が釘付けになる。その場にいた全員が目を丸くして、彼女を見つめた。

「驚いた?セレン女王の魔法で、人魚にしてもらったの」
「おお、ユリ。これまた可愛いらしい人魚のお嬢さんになったのう」
「いやーん♡人魚のユリちゃん、ステキー!」
「ええ、本当に。ふふ、天使と人魚で天と海底ほどあるのに、違和感ないわよ、ユリ」
「ユリさま、まるでおとぎ話から飛び出した人魚のお姫さまみたいです!」
「…………いい」
「……尊い……っ!」

 それぞれ言葉は違えど、称賛の言葉が飛び出して、ユリは照れくさそうに笑う。(グレイグとホメロスだけはちょっと違うが)
 もともと記憶喪失で不思議な雰囲気を纏っていたユリに、人魚でもおかしくないと思っていた皆だ。その姿は簡単に受け入れられた。

「…………」

 カミュだけは無言である。いや、見惚れて声を失っていたというのが正しい。ただでさえ、人魚という存在は人を魅了してしまうのに。こ、これは……

「そうそう、カミュ!これ着て!」
「……服?」

 ぼーっとしていたカミュは、ユリに服を押し付けられように渡されて、意識が戻った。

「大海賊になれる装備だよ!カミュにすっごく似合うと思うの!ねっ、着てみて!」

 大海賊……?訝しげに思いながらも、ユリの熱意に押されて「……仕方ねえな」と、カミュは着替えてきた。

「――やっぱり!すっごく似合って、すっごくかっこいいよ、カミュ!」

 帽子も眼帯も、どこか貴族風な海賊衣装も、カミュは見事に着こなしている。

「そうか?」

 素直に「かっこいい」と褒めてくるユリに、カミュは満更でもない。

「ユリの方こそ、人魚の姿でも違和感ねえぜ?」
「セレンさまに言われたんだけど、ロトゼタシアの空を翔んで、海を泳いだのは私が初めてかもしれないって」
「そりゃあそうだろうな」

 そして、この海賊衣装を着ているからだろうか。妙な気分になってくる。海賊と人魚なんて、それこそ物語のようだ。

 そして、カミュは胸に誓う。

 人間と人魚は結ばれぬ運命かもしれねえが、そんな運命知らねえ、絶対にオレはこいつを幸せにしてやる――と。

「……カミュったら、珍しく隠しきれてないわね」

 そんな二人の様子を見ていたマルティナが、くすりと笑いながら言った。いつもクールで、本人もそれを努めているであろうが、人魚のユリを前にして、カミュがデレデレしているのが見てわかる。

「ほっほ。人魚の魅了とは罪なものよ」
「海賊姿のカミュちゃんもステキだし、あの二人、可愛いわよね」
「ああ……!どうしましょう!」

 突然、困った声を出したセーニャに「セーニャ。どうしたのだ?」尋ねたのはホメロスだ。

「ユリさまとカミュさまを見ていたら、海賊と人魚のラブロマンスのお話が次々と頭に思い浮かんでくるのです!これは小説を書いてみよという神さまの天啓でしょうか……」

 巡るめく妄想をしていたのはカミュだけでなく、セーニャもだったらしい。

「モデルがユリさまなのはいいが、もう一人はカミュか……」
「何事も挑戦してみるのはいいことではないか?もしかしたら、大作が生まれるやもしれんな」

 複雑そうなホメロスに代わって、グレイグがセーニャの背中を押すように声をかけた。

「ありがとうございます、グレイグさま。私、挑戦してみようかしら?」
「セーニャが書いた小説、読んでみたいわ。海賊と人魚ね……できればハッピーエンドがいいわね」
「そこはもちろん、ステキな恋の物語にしてみせますわ!」

 執筆する気満々の、ウキウキなセーニャに皆は微笑ましく眺めた。


 けんじゃの石探しだが、どうやらあの沈没船が宝をのせていたのは確からしい。ユリは船の中を探してみると、一人泳いで沈没船が沈む場所にへと向かった。
 その途中、ユリは気になる建物を発見する。

「ここはムウレア国立博物館。ちょっとだけめずらしい人間の落とし物が飾られています」
「博物館?」

 中にいた人魚が説明してくれた通り、飾られているのは地上でよく見られる物たちばかりだ。
 箒や地球儀、座蒲団……。ユリが見てもなんだかわからないものまである。(どうやって集めたんだろう?)
 海底に住む者たちにとって、飾られているものはすべて物珍しいものばかりなのだろう。

「私はね、これを海神ポセイドンのヤリと思い、70年間研究してまいりましたが、海底王国を出て、真実を知ってしまいましたよ」

 70年間も!彼女の目の前にあるのは、なんてことのない燭台だが、上下逆に飾られている。

「これは人間の世界の明かりだそうですね。海底でいうチョウチンアンコウなんですね。はあ……ショックだ……絶望だ……」
「ちなみにこれは……」
「え?これは燭台という名で置き方が上下逆さまなんですか?……なんですって!?」

 70年間にして大発見らしい。他の物についても彼女から聞かれて、ユリは自分が知る限りのことを教えた。

「はあ〜……実際に聞いてみないとわからないものですね。教えてくださりありがとうございます!新しく得た知識を元に、私は新たな研究をしてみます!」

 そう彼女は張り切って、研究は続行するようだ。

「これは人間の世界の超危険物。危ないですから、旅人魚さんもあんまり近よらないほうがいいですよ。なんてったって、この中に魚やら海草やらをつめこんで、火にかけるっていうんですからね!」

 そう魚が恐ろしげに言った先にあるのは、至って普通の釜戸だ。これも上下逆さまであるが。

「さしずめ罪人……いえ、罪魚たちを裁く、もっとも残酷な刑罰である、煮魚の刑に使用されていたのでしょうね」

 これは刑罰ではなく、食べるためとはユリは言えなかった。(むしろ、おいしく食べるのなら許してくれるかも……?)

「やあ、勇者さま。ようこそ、ムウレア国立博物館へ」

 そうユリをにこやかに歓迎してくれたのは、海亀の館長だった。

「我らがムウレア国立博物館は、近々開館600周年を迎えましてな。これを記念して、地上のめずらしい品を展示したいと思っておるのです」
「600周年……それはおめでたいですね」

 亀は長生きすると聞いたことがあるが、もしかしたら、この館長は600年以上も生きているのかも知れない。

「その品は、私がまだまだピチピチのウミガメだった頃。地上で見た人間の道具なのですが……。見ての通り、私はウミガメ。人間の道具を取りにいくのはとてもむずかしい……」

 海亀の館長はユリを力強く見つめる。

「そこで!伝説の勇者であり、海底と地上を自由に行ききできるあなたのおチカラが必要なのです!どうか、博物館に展示する人間の道具を取りにいってはくれませぬか?」
「いいですよ」

 もちろん、ユリは笑顔で二つ返事をした。

「おおっ!なんとご親切に!さっそくですが、探していただきたい品は、まか不思議な巨大タコツボなのです」
「タコツボ……?」

 タコツボとはなんだろう、とユリは首を傾げる。

「あれは何年前でしょうか。人間が暮らす村近くまで散歩にいくと、崖の上にそのタコツボは置かれていました。人魚がすっぽり入るほどに巨大で美しいフォルムのタコツボに見ほれていると、次の瞬間……」

 海亀の館長は思い出してうっとりとしているようだ。

「ドカーン!という爆音がひびきわたり、水面が嵐のように波だったのです!感動のあまり、呼吸を忘れましたよ!」

 ドカーン?ユリはなんとなくわかった気がする。もしや、大砲のことじゃないだろうか。

「……それ以来。爆音を鳴らし、人魚がすっぽり入るあのタコツボが、私の心をとらえてはなさないのです!もしも、お心がおありでしたら、そのタコツボをゆずりうけ、ムウレア国立博物館に持ってきてくだされ。国立博物館、開館600周年の命運はあなたにたくしましたぞ、勇者さま!」

 こうして海亀の館長からのお願いを引き受け、ユリは国立博物館を後にした。
 当初の目的の沈没船へと向かうと、辺りをのんびり泳いでいた魚からけんじゃの石について、思わぬ有益な情報を得る。

「……え?けんじゃの石を探してる?こんな、広い海底で探しものだなんて見つけるの大変だねえ。そういえば、ボクこないだこの辺りのずっと上の方を泳いでいたら、キラキラしたものを見つけたよ」

 そう言って細長い黄色い魚は上の方を見上げた。

「もしかして、それが人魚さんが探してるけんじゃの石だったりして……。探しもの、早く見つかるといいね」
「ありがとう、お魚さん!探しに行ってみるね」

 魚の情報を頼りに、尾ひれを力強く動かし、上に向かってユリは泳いだ。見下ろすと、海草の間でキラキラ光るものを見つける。

 ユリはけんじゃの石を見つけた!

 いや、けんじゃの石を見たことがないので、本当にそうなのかわからないが、きっとこの石がそうだろう。

「おや……人魚さんが持ってるのもしかしてけんじゃの石じゃない?キラキラしてきれいだねえ」

 先ほどの魚もそう言ってたので、間違いない。
 探し物も見つかり、ユリは戻ろうと尾ヒレを返すと、沈没船の上で人魚や海の民が神妙な顔で集まっているのが気になった。
 なにをしているのか尋ねると、眼鏡をかけた人魚はここで行われていることを教えてくれる。

「私は深海の裁判長。海の中でのちょっとしたいざこざから、世紀の大犯罪まで私が裁いているのです」

 裁判長!かっこいいとユリは彼女を見る。

「今日の裁判は友人のわき腹を食べた食べないの障害ざた……。なかなか難しい裁判になりそうです。隣人は友であり、師であり、時に食料である。皆がこの言葉を忘れなければ、悲しい事件は起こらないのですがね……」

 その言葉はダーハルーネで海の民から聞いた、海底のすすめの一節だ。この海底王国では重要な教えだということがわかる。

「あれは数か月前のことになります。2週間ほどワカメしか食べてなくって、ハラペコのところに彼が泳いできたんです」

 そう話すのは被告人の海の民だ。

「もう、おいしそうでおいしそうで、気がついたら彼の右わき腹をちょこっとだけ、失礼していたってワケです。せめて、ひと声かけてから彼をかじるべきでしたよね……」

 一声かけたらかじっても許されるのだろうか……と、ユリは疑問に思う。

「旅人魚さん、信じられるかい!?私が気持ちよくお散歩していたら、海の民がいきなりかみついてきたんだよ!」

 裁判の様子を見ていたユリに、唐突に赤い鱗の魚が話しかけた。どうやら彼(彼女?)が被害者の魚らしい。

「食事するにしたって、マナーってもんがある。ちょっと声をかけてくれさえすれば、おとなしく食べられてやってもいいんだよ。だが、いきなりはダメだ。逃げるヒマがなけりゃ、食事とは言えねえ。あんたもそう思うだろ?」
「あ、はい」
「やっぱりそうだよな!あんたは話のわかる人魚だと思ってたぜ!」

 思わず「はい」と答えてしまっただけなので(え、声をかけてもらえれば食べられてもいいの……!?)魚の常識にユリは内心驚愕した。

「今やってる裁判の被告人は、オレの弟なんだ。魚にことわりもなくわき腹をかじるなんて、弟ながらとんでもないことをしたもんだ」

 被告人の兄である海の民は、そう話しながら難しい顔をして見守っている。

「しかし、魚を食べるのは当たり前のこと、裁判長さんのお裁きがお優しいことを祈るばかりさ……」

 友人でもありながら、食べて食べられる間柄とは、なんとも複雑な関係だ。ユリは皆と合流するのもそっちのけでこの裁判の行方が気になっていると、今度は人魚に話しかけられる。

「私はこう見えても弁護士でして、友人であるお魚の右わき腹をかじってしまった海の民の弁護をしているのです。ですが、私は弁護士といっても新米中の新米なので、どうすれば彼の無罪を証明できるのか見当もつきません」

 彼女はため息混じりに困った顔で話した。確かにここから彼を無罪にするにはどうすればいいのか、ユリには見当もつかない。せめて、ものすごく空腹を主張しての情状酌量だ。

「こんな時、あまたの無罪を証明したという伝説の先輩弁護士が記した判例集を読めば、きっと弁護の参考になると思うのです。すぐにでも判例集を借りにいきたいのですが、もう裁判は始まってます。弁護士である私は法廷を離れらません」

 ユリはなんとなく、自分が声をかけられた理由がわかった。

「勇者さま、もしよろしければ、私の代わりに先輩弁護士のもとへ行き、判例集を借りてきてはくれませんか?」

 そして、ユリはもちろん笑顔で引き受ける。

「……ありがとう、ご親切な勇者さま!伝説の先輩弁護士は、今はもう隠居の身でして、だいぶ昔に海底王国を離れられました。ウワサでは、西の果てに浮かぶ無人島に人間の家のような小屋を建て、地上で暮らしているそうなのです」

 西の果て……クレイモラン大陸に向かう途中で訪れた島だろうか。そして、人間のように暮らしているのとは、人魚ではなく海の民なのだろうか?

「気むずかしくてヘンテコな方ですが、本当はとても優しい方ですので、人間のあなたにも親切にしてくれるはずです。それでは勇者さま、頼みましたよ。西の果ての無人島に行って、先輩弁護士の判例集を借りてきてください」

 新米弁護士の人魚からのお願いも引き受け、ユリはまずはセレンの元に戻ってきた。

「海底散歩は楽しかったかしら?もう人間の姿にお戻りになる?……ふふふ。わかったわ。人間の姿に戻してさしあげましょう。それでは、すこし目をつむってください」

 ――セレンに人魚から人間の姿に戻してもらい、自由行動をしている仲間のうち、見つけたカミュと合流する。

「カミュ、けんじゃの石を見つけたよ」
「この海の中でやるじゃねえか!さすが伝説の秘宝だけあって、かがやきが違うな。さっそくあのじいさんに持っていてやろうぜ!」
 
 シルビア、マルティナ、セーニャ、グレイグはロミアの家に遊びに行っており、ホメロスとロウは辺りを散策しているという。
 ユリはさっそく「ルーラ」を唱え、カミュと共にダーハルーネへやって来た。
 依頼主である老人を探すと、彼は最初に会った場所で海を眺めていた。

「おお、戻ってきおったか。それで、どうだったんじゃ?けんじゃの石は見つけられたのか?」

 ユリは海底王国で見つけた、けんじゃの石を老人に差しだした!

「おおーー!そっ、それはけんじゃの石!かつてわしが手に入れた秘宝に間違いない!お前さん、本当に見つけてきおったんか!」
「はい!海底に沈んだ船の近くに落ちてました」

 ユリが詳しく説明すると、老人はしょぼしょぼした目を丸くさせた。

「まさか、海底王国にまで足を伸ばせる旅人がおったとは……。あっぱれじゃ!……ん?受け取らないのかって?このお宝を見つけたのはお前さんじゃろ?だから、これはお前さんのモノじゃよ」
「マジか!やったな、ユリ!」

 なんでも、けんじゃの石は癒しの効果がある聖なる石らしい。ユリも喜んで老人にお礼の言葉を言った。

「それにな、わしは悟ったんじゃ。あの嵐を共にのりこえた仲間たち……それがわしにとってのいちばんの宝だとな!」

 その老人の言葉に、ユリは同感して頷いた。隣のカミュも同じような気持ちだ。口には出さないが、仲間たちとの記憶がなにより……。(ん、前にも誰かに聞かれたような……?)

「よし!無理難題にもかかわらず、わしの夢をかなえてくれたお礼に、とびっきりのごほうびをあげようかのう!」

 ユリはレシピブック『ミスリル武具のレシピ』を受け取った!

「伝説の秘宝、けんじゃの石……キラキラしててまぶしかったのうー!死ぬ前にもう一度見れてよかったわい!しかし、いくつになっても冒険ってモンはワクワクして楽しいのう。男だったらロマンを追いつづけなくてはな!」

 無事に老人の願いを叶え、けんじゃの石とレシピももらって儲けた気分になったカミュは、ご機嫌に「じゃあムウレアに戻ろうぜ」と、ユリに言った。

「あ、待ってカミュ」

 ユリは笑顔で引き留め、ムウレアで受けた二つのクエストのことを話す。
 あの短時間でまたホイホイ引き受けたのか……とカミュの顔が呆れたものになったのは毎度のこと。

「カミュだってお礼にブーメランもらったし、今だって喜んでたじゃない」

 不満げに言ったあと「あ、お礼目当てに引き受けてるんじゃないよ!」そう慌ててユリは付け加えた。カミュにはそんなこと重々承知である。

「とりあえず、付き合ってやるよ。で、次はどこ行くんだ?」
「じゃあ、西の果てに浮かぶという無人島ね。心当たりがあるの。もしかしたら一度行ったことがある島かも」


 そう言ってユリは「ルーラ」を唱えた。
 やって来たのはメダチャット地方・西の島。

「ほら、あの小屋だよ!」
「ほう……こんな辺鄙な島に人が住んでるもんなんだな」

 その島には小屋が建っていて、そこ住んでいる海の男がなにか知っているかも知れない。

「ん……嬢ちゃんはいつぞやの旅人さんか」

 小屋に訪れたユリは、ここに住む海の男に、海底王国から来た弁護士がこの島にいないか尋ねた。

「海の民……ああ、おやっさんのことか?あの人のことならよく知ってる。いい人だった……オレの恩人さ。どうしようもない乱暴者の海賊で、仲間の船から追放されちまったオレを、この小屋で住まわしてくれたのさ」
「やっぱり、この島にいたんですね!」
「でもな……3年前、死しんじまったんだ。よく晴れた日に、海をながめながら眠るようにあの世へ行ったよ」

 無念そうに言った海の男の言葉に、ユリとカミュは思わず顔を見合わせる。まさか、すでに亡くなっていたとは……

「もしかして、旅人さんはおやっさんの知り合いかい?探しに来てくれたなら残念だったな」
「じつは……」

 ユリは事情を話すと、海の男はそういうことなら……と、快く答える。

「おやっさんの遺品はそこの宝箱にまとめてあるから、必要な物があったら自由に持っていくといいぜ」
「ありがとうございます」

 失礼します、とユリは宝箱を探すと、弁護士の判例集を見つけた。その判例集の1ページ目に何か文字が書かれている。

『我、死すとも、海底の法の守り魚なり。この書を引きつぐ若魚よ。魚眼を開き、真実を見定めよ』

「後継に残した言葉だな」

 隣からカミュが覗き込んで言った。ユリも頷く。「最後まで弁護士だったんだね……」きっと彼は、いつかこの判例集が後継の手に渡るのを待っていたのだろう。

「おやっさんの日課は海を見ることだったんだ。もしかすると、故郷の海底王国に帰りたかったのかもしれねえなあ……」

 その判例集を見つめて、ちょっと切ない気持ちになりながら、ユリとカミュは、次にナギムナー村へと訪れた。
 海亀の館長のタコツボの話をすると、カミュも大砲のことだろうと、ユリと同じ答えに行き着き、二人は大砲ばあさんの家に向かう。

「ややっ、旅の方、おひさしぶりじゃな。この大砲ばあさんに何かご用ですかな?」

 庭にいた大砲ばあさんは、カミュのことを覚えていたらしく、にこやかに出迎えた。
 とある博物館の館長さんが、展示品のひとつとして音の出るタコツボを欲しがっているとユリは交渉するも……。

「なにいっ!おぬし、わしの大砲をタコツボなどと愚弄するか!?」
「あ、いえ!決してそんなつもりじゃ……!」

 そのまま伝えたユリはしまったと思った。タコツボがなんだかわからなかったが、禁句だったのかも知れない。

「……だが、亡き夫が残した大砲を、博物館に展示するほどの品だと目をつけたのは、なかなかお目が高い」

 カミュはフォローしようとしたが、大砲ばあさんのその言葉によって口を閉じる。

「……よいじゃろう。わしの大砲コレクションの中から、とびっきりの品をさすけてやるぞ!」
「ありがとうございます!」

 ユリはとびっきりの大砲を受け取った!

「そういえば、わしの大砲が展示されるのはどこの博物館なんじゃ?……え?ムウレア国立博物館?聞いたこともない名の国じゃな。さぞや遠い国の博物館なんじゃろうの」

 海底王国なので、ある意味遠い国の博物館だ。大砲を受け取り、カミュは(やれやれ、やっとムウレアに戻れるぜ……)心の中で呟く。
 ルーラで戻ってくると、再びユリはセレンに人魚の姿にしてもらって、まずは海底裁判所へ――。

「勇者さま、お待ちしておりました。……それで、いかがでしょう。先輩弁護士の判例集を借りられましたか?」

 ユリは先輩弁護士の判例集を渡した!

「……そうですか。小屋に先輩の姿は無く、この判例集だけが置かれていたということは、先輩はきっともう……」

 新米弁護士の人魚は悲しみに目を伏せるが、すぐに表情を引き締めて話す。

「偉大な先輩が残してくれたこの判例集。ありがたく使わせていただきます」

 ユリもこくりと頷いた。きっとそれは先輩の意志でもあるだろう。

「右わき腹を謝ってかじってしまった傷害事件を弁護する時の判例は…………ありました!トロなしマグロはサメも食わない!」
「トロなしマグロ?」

 マグロとは、おいしいとウワサの海の魚だとユリは知っている。中でもトロは高級な部位だとか。

「マグロで言うところのトロのように、もっともウマみのある部位を失った魚は補食対象になりにくい……。たいていのお魚の右わき腹は、マグロで言うところのトロのようにひじょうに美味で貴重な部位だ。……となれば、むしろ原告は命の危機にさらされる機会が減ったことを被告に感謝すべき……そういうことか!」

 ……そういうことなの!?

「なんと見事な判例なのでしょう!トロなしマグロはサメも食わない、これなら勝訴は間違いなしです!勇者さま、本当にありがとうございました。これは感謝の気持ちです。受け取ってください」

 ユリはロイヤルチャームを受け取った!

「先輩が残した言葉どおり、私がこの判例集を引きつき、海底の法の守り魚となってみせます。まずはこの判例をしっかりと終わらせなくては……トロなしマグロはサメも食わない!んんっ!何度聞いてもカンペキな判例ですね!」

 なかなかアクロバティックな弁護なような気がしたが、先輩の言葉が後継に繋がり、よかったとユリは思う。
 お礼にもらったロイヤルチャームは、氷と闇の攻撃から守る効果があるアクセサリーだ。
 闇属性に弱いユリは、きんのロザリオを外してさっそく装備してみた。

 続いて向かうのはムウレア国立博物館だ。

 とっておきの大砲と共に待っていたカミュが、戻ってきたユリに言う。

「……お前、これ持って泳げるか?」
「カミュ。ちょっと背中にのせてみて」

 背負ってユリは泳ぐつもりだ。

「い、いける!」
「本当に大丈夫か……?」

 海中のため地上より重さが軽いとはいえ、よろよろと泳いでいくユリを、カミュは心配そうに見つめた。

「おお!お待ちしておりましたぞ、勇者さま!爆音を鳴らし、人魚が入るタコツボを持ってきてくださったのですな?」
「こ、これです……!」

 ユリは疲れながらも、とびっきりの大砲を渡した!

「おお!まさにこれこそ私が探し求めてきた巨大タコツボ!……なっ、なんですと?これは大砲と呼ばれる人間の武器?鉄の玉を飛ばす時、大きな音が鳴る?」
「はい、ドッカーンと鳴ります!」
「ほほ〜!人間はタコツボさえも武器にして戦うのですな!戦いを好む種族と聞いておりますが、まさかここまでとは……。人間とは奥が深い生き物ですなあ」

 うんうんと唸りながら海亀の館長は話す。一応これは大砲という名だとユリが教えるが……

「ほほう!たいほうという名のタコツボなんですね!」

 タコツボから離れないらしい。

「とにもかくにも、勇者さまのおかげで開館600周年にふさわしい最高の展示を作ることができそうです!それではささやかではありますが、国立博物館一同から感謝の気持ちです。お礼の品を受け取ってくだされ」

 ユリはレシピブック『海神のヤリのレシピ』を受け取った!

「いやはや人間世界とは複雑怪奇。何十年何百年と研究を続けてもわからないことだらけでありますな。だからこそ、研究しがいがあるというもの。我らムウレア国立博物館の職員一同は、これからも地上の謎に挑みつづけますぞ」

 無事に海亀の館長のお願いも聞き遂げ、タコツボ……ではなく、とびっきりの大砲は博物館の一角に飾るようだ。

 ユリは満足げにそれを見て、博物館を後にした。


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