ムウレアの王国でセレンやロミアたちと再会を果たし、勇者の旅に戻った一行は、クレイモラン地方まで戻ってきた。
次の目的地はゼーランダ山を登った先にある、聖地ラムダ――。
シスケビア雪原に出ると、ユリは得意気にカミュとセーニャに話す。
「この"キラパン呼びのすず"を鳴らすと、キラーパンサーを呼び寄せて、乗れることができるんだよ」
「ほー」
「まあ、ステキなすずですわね」
ユリはチリンチリンと鈴を8回鳴らし、ホワイトパンサーを呼び寄せた。
鈴の音と同じ数だけのホワイトパンサーが集まり、その光景はなかなか迫力がある。
「セーニャ、大丈夫?」
「はい、マルティナさま。パンサーさんはふわふわしていて乗り心地がとてもいいですわ」
馬とは違う、ホワイトパンサーに跨がるセーニャに、マルティナは心配して声をかけたが、すぐにその必要はなかったと気づく。
おっとりしているセーニャだったが、これまでも色んな魔物に抵抗なく乗って、旅してきたことを思い出したからだ。
一行をのせたホワイトパンサーは、雪道を馬よりも速く走り抜ける。
「雪道もへっちゃらだから、この地の移動に適しているな!」
「でも、向かい風が寒いのが欠点なんだよね……」
うぅとユリは震える声でカミュの言葉に返した。猛スピードで風を切って走るので、晒している顔面が凍りつきそうだ。
「せめて、雪が止んでよかったわ」
「ええ。今ごろ、俺たちの顔面は雪だらけになっているところです」
マルティナが雪が降らずとも曇り空を見上げながら言うと、グレイグも同じように言った。
「――ねえ、ちょっと!みんな!」
……ん?シルビアの呼びかけに、グレイグだけでなく、皆が彼の方へ視線を向ける。
「あそこに誰か倒れてない!?」
シルビアが指差す方向に――白い景色に混じって、確かに人が倒れているようだ。きらりと銀色に光り、それは兵士がまとう鎧だった。
「助けなきゃ!」
「うむ。まだ意識があるかもしれん」
先頭を走っていたユリは、ホワイトパンサーに方向転換するように合図し、後ろを走るホワイトパンサーたちもその後を続く。
雪の上に倒れている兵士の男は、かろうじて息をしていた。
「鎧についている紋章からしても、クレイモラン城の兵士で間違いないな」
「だが、なんで一人でこんな場所に倒れてるんだ?」
「大丈夫ですか!?しっかり……!」
ホメロスの言葉にカミュは疑問を口にし、ユリは何度か呼びかける。兵士は「うぅ……」と青白い唇から声をもらした。
「……ろ、老学者の……小屋に……」
「老学者の小屋?」
「ユリさま。エッケハルトさまが滞在していた小屋ではないでしょうか?」
「エルシスを看病した小屋でもあるわね」
「この近くにあるのか?」
グレイグの問いに、ユリは頷く。
「なら、今すぐそこへ向かおう」
グレイグは言うと同時に力を込め、兵士を引き上げ肩に抱えた。
「――ふぅ。助かったよ。旅の方、感謝する」
兵士はセーニャが煎じたお茶を口にし、落ち着いたところで皆に礼を言った。
ありったけの薪を突っ込んだ暖炉によって空気は暖められ、兵士の体にも熱が戻ってきたようだ。青白かった唇も顔色も赤みが戻り、セーニャは「もう心配ないですわ」と、彼を見て言った。
「オレはクレイモラン王国兵。この辺りの安全を確保するため、弟と共にキラーマシンの退治に当たってたんだ」
彼は皆に自己紹介をし、倒れていた経緯を話始めた。
「だが、突如キラーマシンの群れの中に強化型の赤い機体……タイプGが現れた。何も考えず、殺しを繰り返す殺人マシーンさ」
「殺人マシン……」
ユリはごくりと呟いた。キラーマシン自体、魂がある魔物とは違い、機械で動く異質な存在だ。
「オレたち兄弟は必死に戦ったよ。そして、なんとかヤツを撃退した。……だが、その代償は大きくてな」
そこで、王国兵の男は口を閉じ、手に持つカップに視線を落とす。揺れる中身を見たまま、重い口を開いた。
「ヤツの猛攻により弟は殺され、オレは重傷を負って、当分動けない身体になっちまった……」
「当分動けねえ身体なのに……なんでアンタはあんな場所に倒れてたんだ?」
「……許せなかったんだ。じっとしていられなくて、飛び出して……結局は倒れてあのザマだったが」
カミュの問いに答えたあと、王国兵の男は自嘲の笑みを浮かべた。そして、少しの間を置いて、再び口を開く。
「弟はたったひとりの肉親だった。オレたちは、ずっとふたりで生きてきたんだ。その弟を殺した、タイプGは絶対に許さねえ」
「…………」
話を聞くカミュは、重い表情で黙った。自分も妹のマヤとずっと二人で生きてきたので、彼の気持ちが理解できてしまう。
「オレは、どんな手を使ってもこの世界のタイプGをすべて破壊してみせる。弟の苦しみを、ヤツらにも味わわせるんだ」
「……気持ちはわかるが、今はまず、身体を回復させるのが優先だろう」
グレイグが男の身を案じるように言った。
「……あんた、かなり強そうだな」
顔を上げた王国兵の男は、グレイグの姿を目にしてそう呟いた。続いて周りの者たちに目を向けて、男は気づく。
その佇まいからしても、彼らはただの旅人ではない。
もしや、シャール女王が話していた、勇者一行ではないか――と。
「あんたたちにお願いしたい。礼をはずむから、動けないオレの代わりにタイプGを倒してくれないか?」
「うむ……民を守る騎士として、危険な存在は見過ごせないな。ユリ、我らで退治しよう」
「そうだね。また犠牲者が出る前に……」
ユリは真剣な顔で頷き、他の者たちも同じ思いだ。
「本当か!?それは助かるぜ。タイプGの情報を教えよう。ヤツは常に、配下のキラーマシンと共に行動している。数が少ないから簡単には見つからないだろうが、何度もキラーマシンと戦っていれば、いつかは姿を現すはずだ」
何度も……
「それって俺らが何度か出会したことがある、転生モンスターってヤツじゃないか?」
「あ、そうかも」
カミュの言葉に、ユリはその存在を思い出す。
「キラーマシンはシケスビア雪原にある氷獄の湖の近くでたむろしてるから、タイプGを探すときはそこに行くといい」
「氷獄の湖の手前には女神像があり、拠点にもできるな」
「ホワイトパンサーちゃんがいるから移動は楽チンね♪」
「はい、ここまで来るのにもあっという間でしたわ」
ホメロス、シルビア、セーニャの会話のあと、王国兵の男は怒りや悲しみ、様々な感情を込めて最後に言った。
「タイプGを倒し、ヤツが落とすタイプGのパーツを届けてくれ。憎き敵の亡き骸を見たいんだ……」
――ユリたちは老学者の小屋を後にし、キラーマシン退治に出発する。
「仇を倒したとてあやつの心が浮かばれはせんじゃろうが、このままだと無茶な行動にでんとは限らんしのう」
「そうですね……。ただ、私たちが代わりに倒して、少しでも心の整理がつければと思います」
ロウの言葉に閉めた扉の向こうを見て、ユリはそう答える。
今は家族を失った悲しみだけでなく、憎しみで彼の心がいっぱいだ。その感情をずっと持つのは、人はつらい。
一行は待機させていたホワイトパンサーに再び跨がり、南下してまっすぐと氷獄の湖へと向かった。
やがて、ぽっかり穴が開いた、氷獄の湖が見えてくる。
皆がそろって思い出すのは、魔竜ネドラのことだ。強敵だったネドラとの戦闘は、まだ記憶に新しい。
「ネドラのせいで動けなくなった時は、また冥府行きかと思ったわい。セーニャはわしらの命の恩人じゃな……」
「セーニャちゃんがいなかったら、アタシたち絶体絶命だったわね」
しみじみ言うロウに続いて、シルビアはセーニャに笑顔を向けながら言った。
「皆さまをお助けできてよかったですわ。私があの場に居合わせることができたのは、今は枯れてしまいましたが、きっと命の大樹の導きなのだと思います」
そう答えたセーニャは、命の大樹が浮かんでいた方角を見上げた。
「魔竜ネドラは神話の時代の勇者ローシュさまによって、長い間封じられていたようね」
「神話の時代、邪神に仕え、地上を荒らした伝説の魔竜と……私たち戦ったんだね」
「それに、ローシュさまたちが倒せなかった相手を私たちは倒してしまった……。なんだか、気になる相手だったわね」
「やっぱり魔王が復活を解いたのかな……?」
ユリとマルティナはそんな会話をしており、グレイグとホメロスもネドラとの戦いを振り返って反省点など話している。
ネドラ戦に参加してなかったカミュは仲間たちの会話を耳にし「そんなに強いヤツだったのか……」と、驚いていた。そして、なにより仲間たちが無事なことに安堵する。
「さあ、キラーマシンちゃんを退治するわよ!」
シルビアが勇ましく声を上げた。氷獄の湖の辺りを徘徊するキラーマシンたちは、まだ一行の姿には気づいていない。姿を補足されれば、その名の通り問答無用で襲いかかってくるだろう。
「ユリさま。提案なのですが、戦闘メンバー を二手に別れてみてはいかがでしょうか。その方が効率よくキラーマシンを倒せましょう」
「確かに……ちょうど四人ずつでチームができるね」
ホメロスの提案に、ユリは了承して頷く。問題はチーム分けだが……
「回復役はそれぞれのチームにいた方がいいじゃろう」
「キラーマシンは攻撃力が高いと聞く」
「では、私とユリさまは別々に……」
「アタシにいい考えがあるわ♪」
シルビアは皆に向けてパチン、とウインクした。
「バイキルト!」
「ありがとう、ユリ!いくわよ――さみだれ突き!」
「アタシもマルティナちゃんに続くわよ〜!」
「風よ……バキマ!」
ユリ、マルティナ、シルビア、セーニャの四人は、二体同時に襲ってきたキラーマシンを迎え撃つ。
一方のカミュ、ロウ、グレイグ、ホメロスの四人は、女子チームの方に魔物たちが集まらないように、陽動して戦っていた。
しかし……
「やれやれ、取り囲まれてしもうたのう」
ちょっと集め過ぎたかもしれない。彼らの所にはキラーマシンだけでなく、メイジももんじゃ・強も集まってきた。
『女4人と男4人で分かれるのよ!これなら平等じゃない?』
――というシルビアの「いい考え」は女性陣たちに好評だったので(一部からシルビアに対して思うことはあれど)皆了承して今に至る。
「どうせ倒さねばならんヤツらだ。グレイグ、手早く片付けるぞ。カミュ、回復役を頼む」
「おい、ホメロス。なんで、オレが回復役なんだ」
「先ほど、ユリさまからけんじゃの石を渡されたではないか」
確かに「癒やしの効果があるみたいだから、カミュに渡しておくね」と、ユリからけんじゃの石を受け取ったが……。
「くるぞ!」
カミュがホメロスに言い返そうとしたが、グレイグの声にかき消された。
飛びかかってくるメイジももんじゃ・強を、飛び出したグレイグとホメロスが切り捨てる。
いつもなら自分が先陣を切っていたが、出遅れたカミュはチッと舌打ちし、武器――ではなく、けんじゃの石を手にする。
「……いいぜ。今回だけは特別に回復役になってやる。その代わり、こいつら倒すのにチンタラしてたらオレが前に出るからな」
"特別に"、をやけに強調したそんなカミュの声が後ろから聞こえ、グレイグとホメロスはフッと同じように笑みをこぼした。
「どーれ!わしもカミュにまかせ、張り切って戦うかのう」
「無茶すんなよ、ジイさん」
――二手に分かれて魔物たちを倒していた一行は、辺りの魔物を一掃すると、一度合流することにした。
「みんな、大丈夫だった?」
「姫もお怪我がないようで何よりです」
「ほっほ。この通り皆ピンピンじゃ。カミュがなかなかの回復役を買ってくたからのう」
マルティナの問いに笑顔で答えたロウに、カミュは困ったような顔をして返す。
「今回はたまたまだからな」
「やっぱりカミュに渡して正解だったね」
「お前なぁ」
くすくす笑うユリに、カミュは呆れて言ってみせた。
「……カミュ。次はお前の手も必要になるだろう」
「殺人マシーンの名も大袈裟ではなさそうだな」
双頭の鷲の二人は、気を引き締めながら再び剣を引き抜く。
「やっと現れたわね、タイプGちゃん!」
「先ほどの魔物たちとは比べものにならないほどの強い殺気です。皆さま、お気をつけください……!」
「わしも補助に回ろう」
ガシャガシャと大きな音を立てて、配下のキラーマシンたちと共に、タイプGは一行の前に現れた。
姿形はキラーマシンと同じだが、一回り大きく、話に聞いていた赤い機体は、まるで血を浴びたような赤色だった。
「やっとお出ましか……。ユリ、さっさとコイツを倒すぞ」
カミュはタイプGを見据えたまま、短剣を両手に持つ。
「待って、カミュ。ちゃんと言って」
「?」
なにを――?隣のユリに目を向けたカミュは、そのキラキラ輝く瞳を見て、彼女が期待していることに気づいた。
(……まったく。このお姫サマはこっちの気も知らねえで)
そう困ったように思いながらも、口元は柔らかく笑ってしまう。
「いくぜ!――相棒!」
カミュの言葉に、ユリは満面の笑顔を浮かべた。満足げに答え、二人は共に魔物に立ち向かう!
「ピオリム!」
カミュが突っ込む直後、ユリは素早さを高める呪文を唱えた。軽くなった身体にカミュは、タイプGの鋭い三回攻撃を避け、懐に一撃を入れる。
見ていた皆が相棒と認める、息の合った連携だった。
「まずは、邪魔なこっちから片付けましょうか!」
マルティナは配下のキラーマシンに狙いを定め、氷面を蹴った。走りながら、その身体は黒いバニースーツに身を包まれる。――デビルモードだ。
「粉々にしてあげる♡」
変幻した瞬間、マルティナは蠱惑的な笑みと共に飛び上がり、攻撃力が上がった強烈な回し蹴りで、キラーマシンを吹っ飛ばした。
吹っ飛ばされたキラーマシンは断面に激突し、宣言通り粉々に壊れて消え去った。
「……グレイグ。あの姫の姿をデルカダール王が目にしたらどうなると思う?」
他のキラーマシンと相対していたホメロスは、背中合わせになったグレイグに尋ねる。
「そうだな……。王のことだ、一週間は寝込むだろう」
グレイグは顔だけホメロスに向けて答えた。
「俺は一ヶ月だと思う」
ホメロスは笑って言い、再びキラーマシンに斬りかかる。グレイグも口元を緩ませ、同じくキラーマシンへ再び刃を向けた。
戯れ言を言い合いながらも、二人は確実に魔物を倒していく。
「……マルティナさまが」
目をぱちくりさせているのは、後衛から皆の戦いを見ていたセーニャだ。
「とても刺激的なお姿に……」
「そういえば、セーニャちゃんはあのマルティナちゃんの姿を見るのは初めてだったわね……。あとでちゃんと説明するわ」
後衛の二人の守り役を買ってでたシルビアが静かにセーニャに言った。
「マルティナのあの姿にはどうも慣れんのう……」
そう呟いたロウは、脳裏にブギーの最後の姿が浮かび、ぶるりと身体を震わした。
「……おいおい」
――そして、驚いていたのはセーニャだけではない。
「おいろけ技だけじゃなく、なんだあのマルティナの姿は!?」
「カミュ!戦いに集中して!」
よそ見をするカミュに、ユリはタイプGの攻撃を捌きながらぴしゃりと言った。
(集中しろったって気になるだろ!)
と、カミュは心の中で答えたものの、意識は目の前のタイプGに注がれている。
ユリの言う通り、集中しなければさすがのカミュでも避けるのがぎりぎりであった。
――こいつ、普通のキラーマシンより手数が圧倒的に多い!
刃を避けたと思えば、至近距離で矢を放たれ、カミュは仰向けに間一髪避ける。
「カミュっ!」
「っ……大丈夫だ!ぎり避けた!」
ユリはカミュの無事を確認すると、後ろに跳び引き、息を吐いた。魔力を練って――
「ギガデイン……!」
聖なる雷の呪文はいかずちのように、タイプGに落ちた。
「よし、効いてるぞ!」
タイプGの機体はバチバチと音を立てている。だが、次の瞬間「うわっ」「っつ!」タイプGの回転斬りが二人を襲った。
衝撃に後ろに倒れる二人に、タイプGは追撃をする。上からの攻撃――やいばくだきだ。
起き上がったカミュは、刃を落とされる前に横からユリを押し出すように滑り込み、共に避ける。
セーニャの癒やしの呪文が二人を包み、ロウのマヒャドがキラーGを襲った。
「アナタにわかるかしら?このほとばしる愛!アモーレショット!」
さらに、後衛から駆けつけたシルビアのおとめ技が炸裂する。地味にダメージを与えており、カミュは少し複雑な心境になった。
「ユリさま、ご無事ですか!?」
「ユリ!カミュ!ごめんなさい、遅くなったわ」
「配下のキラーマシンたちは倒したから我らも加勢するぞ!」
デルカダール組も駆けつけ、カミュは彼らに安堵の笑みを向ける。
「ユリ、立てるか?」
「ありがとう、カミュ」
カミュに手を引かれ、立ち上がったユリはタイプGを皆と共に見据える。
配下もいなくなり、あとはタイプGを倒すだけ。
「可哀想だけど、全員で畳み掛けてもらうわね」
悪い笑みで言ったマルティナの言葉に、異議を唱える者は誰もいない。
彼らの猛攻に耐えきれず、敢えなくタイプGは倒れた。
タイプGの機体はバラバラになり、足元に転がってきた歯車をユリは拾う。
タイプGのパーツを手に入れた!
「無事に倒せましたね、ユリさま」
「やれやれ、すっかり暗くなってしまったのう」
「セーニャもロウさまもありがとう。セーニャの回復魔法もロウさまの援護もなかったから危なかったから……」
ユリの言葉に、セーニャもロウも嬉しそうに笑顔で返す。
「さあ、さっそく彼に渡しにいきましょう」
デビルモードから元の姿に戻ったマルティナが、いつもの笑みを浮かべてユリに言った。
「おお、あんたたちか。もしかして、タイプGのパーツを持ってきてくれたのか?」
ユリはタイプGのパーツを渡した!
「たしかに、これはヤツのパーツだ。へっ、どうだ。オレの弟と同じ苦しみを味わった気分は……」
自身の手の平に収まるパーツに、王国兵の男は話しかけた。無理やり口角を上げたように笑みを浮かべているが、その目は笑っておらず……
「……………………」
固まるように男は口を閉じた。次に口を開く際、その目は一行にまっすぐと向ける。
「見知らぬオレの頼みを聞いてくれて礼を言うよ。だが、すまない。タイプGを破壊するのはやめることにした」
急な心境の変化に、一行は驚きつつ、男の次の言葉を待つ。
「今、タイプGのパーツを見て気づいたんだ。復讐のために生きる自分もまた、タイプGと同じ殺りくマシーンになっていたことにな」
そう話す男の目には、憎しみの色は薄れ、悲しみの色だけが残っていた。
「オレは目の前の憎しみに心奪われ、やるべきことを見失っていた。本当にやるべきは弟の供養だったのに……。だが、あんたたちのおかげで、そのことに気づけた。これからは弟の供養に一生を捧げるよ。いろいろありがとな。これは精一杯の礼だ」
ユリは『メタスラのよろい』を受け取った!
「……それがよい。憎しみに囚われ続ければ、人は生きながらにして時を止めてしまう。つらくとも、人は今を生きなければならん。すぐにとはいかぬとも、その決意がやがて、おぬしの背中を押してくれるじゃろう」
「ああ……そうだろうか――……」
ロウの言葉を聞いて、王国兵の男は一筋の涙を流した。
ロウもまた、家族を、国を、大切なものをすべて奪われ――尚、時を刻むことを止めなかった者だ。その言葉は重く、男の心に響いたのだろう。
一行は王国兵の男に別れを告げ、氷獄の湖の近くにあるキャンプ地へと向かった。
今日はもう遅く、夜の山越えは危険なので、ここで野宿だ。
寒さを凌ぐように皆で焚き火を囲み、どこかしんみりした気持ちで、夜を明かした――。
「グレイグさま、ホメロスさま。ゼーランダ山を越えれば、ラムダの里はすぐですわ」
翌朝、一行はキャンプ地を出発して、雪もまばらに山麓へと差し掛かると、セーニャは嬉々として二人に説明した。
聖地ラムダに訪れるのは初めての二人は、セーニャの話に興味深く耳を傾ける。
――しかし。
登山口に入り、山道を登っていくと、セーニャの表情は陰った。
命の大樹の近くだからか、ここは被害が大きかった。数多の燃え盛る大岩が落下したのだろう。あちらこちらに道を塞ぐように転がり、火種が燻っていた。
「……こりゃあ、以前登ったときより簡単にはいかないかもな」
崩れた山脈を見て、カミュは眉を潜めて言った。
「足場に気をつけ、慎重に進もう」
「大丈夫よ、セーニャちゃん。きっと道はたくさんあるわ」
「私とグレイグは騎士の見習い時代に山の訓練も受けている。いざとなったらロープ1本で登り、皆を手引きしよう」
グレイグのあとにシルビアが励ますように言い、ホメロスも気遣ってセーニャに声をかけた。
「……はい。皆さま、ありがとうございます」
セーニャは彼らに笑顔を作って答えた。
「……」
セーニャの表情が陰ったのは、ラムダへ続く道があるかだけではなく、きっと里の心配もあるのだろう――とユリは気づく。
ユリだけでなく、皆も気づいていた。ラムダの里の無事を祈りながら、皆は山道を進む。
ゼーランダ山には、以前にはいなかった凶悪な魔物の姿もあった。
空にはごくらくちょうがぎゃあぎゃあと飛び回り、地上には我が物顔でキングリザートが闊歩している。
「怪鳥の幽谷を思い出すわね」
「アタシ、つつかれないように気をつけなくちゃ」
マルティナの言葉のあとに、シルビアは上空を気にして身を屈めた。
「まずは、行く手を阻む地上の魔物をどうにかしないとな」
「まったく、物騒な世の中になったもんだぜ」
こちらに気づいたキングリザートにグレイグは大剣を構え、カミュは背中から片手剣を抜いた。
襲いくる魔物を撃退しながら、多少道を逸れながらも、以前と同じルートを進んだ。
岩肌に囲まれた開けた場所に出ると、現れたのはキラーポッドだ。
きっと、ここはキラーポッドの棲みかなのだろう。魔王復活の影響で強くなっていたが、キラキラした個体もおり、一行は以前と同じように乗り物にして山を登った。
「ここは崖が崩れているな。迂回しよう」
ただ、やはり崖崩れを起こしている場所が多く、時間は思った以上にかかり、やっとのことで一行は山頂へと辿り着いた。
(お姉さま……。お父さま、お母さま……)
セーニャは無意識にぎゅっと拳を握り、緊張した面持ちで里へと続く道を歩く。
――どうか、どうか。ご無事でありますように……。
一歩、また一歩。足を踏み出し、里に近づくほど、セーニャの思いは強くなる。
やがて、その視界に――……懐かしきラムダのシンボルである、セニカの彫像が見えた。