「ベロニカ、サポートは頼んだよ!」
「まかせなさい!」
エルシスは隣のベロニカに声をかけてから「デイン!」と唱えて、上空から襲いかかってきたガルーダたちを一気に倒した。
失った魔力をすぐにベロニカが"まほうの小びん"で回復してくれる。
「なかなか、動きが様になってきたんじゃねえか」
「こうして戦うと、カミュの素早さも、それに対応できるエルシスのすごさも改めて分かる。…私も頑張らないと」
「お前は元々の運動神経が良いんだ。焦らず頑張れよ」
カミュとユリの会話に、二人も順調なようで、エルシスはほっと胸を撫で下ろした。
どうやらこの戦列は成功なようだ。
魔物との戦いに危険は承知の上だ。
だから単純に強くなればいいとエルシスは思っていた。
だが、戦闘はそんなに単純なものではなかった。
まあ、今の自分たちがスライムと戦ったら、どうスライムが足掻いても自分たちには勝てないような圧倒的な戦闘力を持てば戦術も何もないが。脳筋でいける。
でも、そうじゃない。これから強い魔物もどんどん出てくるだろう。
その力の差を代わりに生めるのは何か――自分たちにとって有利な状況、作戦、連携。
とにかく考えることだ。
その思考に至ったのは、エルシスとって前回のイビルビースト戦が大きなきっかけだった。
なんとか最後は勝てたが、今まで以上に苦戦した戦いだった。最初のカミュとの分断に始まり、状態異常の魔法もきつかった。
特に油断してユリを危険な目に合わせたことは、カミュだけでなくエルシスにだって呵責の思いだ。
素早く動けるカミュが助けに行ってくれたから良かったものの、あの爪がユリを切り裂いていたかもと思うと今でもぞっとする。
ユリだって戦う以上、今も懸命に剣を握り。怪我も死も、覚悟はあるのだと思う。
だが、自分がユリを見つけた時の……あんな大怪我はもう二度と彼女には負ってほしくない。
それはカミュにだってそうだ。
大切な仲間を失いたくない――その思いがどんどん強くなる。
「だんだん魔物が増えてきたな……ベロニカ、その迷宮はもうすぐだったりする?」
「ええ。あそこに岩壁に阻まれた狭い道あるでしょ?あそこを進んだ先よ」
ベロニカの案内に、一同はまずはその道を目指す。
「――エルシス。お前、やるじゃねえか」
カミュがさりげなくエルシスの隣に来て笑いかけた。
ユリは「迷宮に入る前に万全で挑みたい!ベロニカ、やくそう使ってー」と、ベロニカに話しかけている。
エルシスは「え、なにが?」と分からず首を傾げ、カミュはさらにふっと笑った。
「戦術だよ。前衛、後衛の戦列も、全部考えての上だったんだろ?お前もベロニカも連携ばっちりだし、最初はどうなることかと思ったけど、この分だと大丈夫そうだな」
そう自分を褒めるカミュに、エルシスはきょとんとする。
「でも、カミュだって同じこと考えてたことだろ?」
「…まあ、このままじゃまずいなとは思ってはいたが。でも、お前のことだから、全体だけでなく、ひとりひとりのことも考えてたんだろ?そして、ちゃんと指示して、全員をまとめたんだからすごいと思うぞ。だからこそ今順調なんだしな」
「大袈裟だよ……カミュが今まで僕たちにしてくれたことを、僕は参考にしただけだよ」
エルシスは謙虚からではなく、本心からそう言った。謙虚は美徳というが、通り越してカミュは呆れる。
「お前なぁ、せっかくオレが褒めてるんだぜ?……そもそも、オレがそんな風にできたのは、お前らだったからだと思う」
「えぇ?」
どういう意味かとエルシスは顔をしかめる。
「とにかく。オレはそんなガラじゃねえんだ。これからもどんどん指示を出してくれよな、勇者さま」
「なに、いきなり…」
肩にぽんと手を置かれ、にっと笑うカミュに戸惑う。
いきなりそんなことを言われても!
「そんなに動揺するなよ。別に口は出さないとは言ってねえ。…でも、オレはお前は向いてると思うぞ。そういうリーダーっぽいこと」
カミュはそう言うと、さっさとユリのところへ行ってしまった。(リーダーって……)
「ねえ、エルシス」
代わりにベロニカがいつの間にかエルシスの側に来ていた。
「あなたたち三人は、もしかして幼馴染なのかしら?」
「いや?……旅の途中で出会った仲間だよ」
エルシスは詳細は控えて答えた。
「あ、でも、出会ってまだ一ヶ月も経ってないのかぁ……」
思い出して驚くエルシスに、ふぅん、そうなのとベロニカは呟く。(まだ、会って間もないけど、三人からは幼馴染みと思えるほどの強い絆を感じられた。少し、アタシとセーニャに似たような……)
「まあ、きっと気のせいね!」
「ん?なにが?」
「さあ、エルシス!迷宮はすぐそこよ、気合い入れて行くわよ!」
「っちょっとベロニカ、走ったら危な…………早っ!ねえ君、本当に子供なのかい!?」
「さあ?どうかしらね!」
走るベロニカに追いかけるエルシス。
「なんでいきなり全力疾走なんだ、あいつら」
「きっとセーニャを早く助けたいんだね。私たちも急ごう、カミュ!」
その後をカミュとユリが急いで追いかけた。
道の奥に、地下迷宮と呼ばれる入り口があった。
陽が届かず薄暗いなか、ぽつんと口を開けている。
見た目は神殿のような印象を受けるが、地下に続く階段は不気味に思えた。
元は魔術の研究施設だったとか、罪人の牢獄だったなどと噂は色々あるが、結局何の建物だったかは里の住人も分からないらしい。
昔から魔物は住んでたらしいが、最近では黒いオバケが現れると噂になってるとか……
「たぶん、その黒いオバケってのは、ユリを襲ってコイツをさらった影の魔物で間違いねぇだろうな」
カミュはそう言いながら、入り口に足を踏み入れる。その後を三人が続く。
「いつの間に、そんな情報を……」
驚くエルシス。
「盗賊の情報収集をなめんなよ」
「なめてないけどさ」
「なに、アンタ盗賊なの!?」
ベロニカの驚いた甲高い声が室内に反響する。
「うるせぇな……だったらなんだ」
カミュは片耳に人指し指をつっこんで、不機嫌そうに言った。
「信じらんない!盗賊だなんて……。でも、そうね…納得だわ」
「はあ?」
「ベロニカ。カミュは盗賊でも良い盗賊だよ」
「そうそう。信頼できる盗賊だから」
笑顔でフォローするユリとエルシス。
「まさか……アンタたち脅されてるの?」
「お前なぁ、いい加減に…………」
カミュはそう言おうとして、ぴたりと口を閉じた。
最初はどうしたんだろうと疑問に思った四人だったが、階段を降りて、彼の後に続き内部に入ると、その意味が分かった。
言い知れぬ空気がそこには漂っている。
「ここ、寒いね……」
「ああ……なんだかイヤな感じの迷宮だな……」
肌寒いのは気温が低いからだけじゃないだろう。
カミュは辺りを注意深く探りながら続けて言う。
「今までここでたくさんの人間が犠牲になったような……そんなニオイがするぜ。さっさとセーニャって子を見つけたらこんな場所からはおさばらしよう」
「僕もそう思う。いわくつきなのはあながち嘘じゃないのかもな……」
エルシスは前を歩くカミュの隣に並び、その後ろをユリとベロニカと、彼らは奥へと進んで行った。
「エルシス、用心しなさい。ここはあちこちワナが仕掛けられているから、うまく切り抜けないと出られなくなるわよ」
「ワナか……厄介だろうけど。僕たちには凄腕の盗賊がいるから大丈夫さ」
そうエルシスは心配ないと言うように、ベロニカに笑顔で答えた。
「いや、お前も注意してくれよ」
「分かってるって」
「ユリ、お前はこれまで以上にオレたちから離れるなよ」
「分かった」
カミュに釘を刺すように言われて、ユリは強く頷いた。
「キラキラした魔物を見つけてもだぞ」
「…………」
「返事」
「…分かった」
「おい、そこで笑ってるお前もだからな、エルシス」
「分かってるって」
――なにこの緊張感のなさは。
三人の様子を呆れて見ているベロニカ。
さっきまでピリッとした空気はどこへやら。
肝が据わっているといえば聞こえは良いが。
ベロニカは背中にかけてある両手杖を手にして握り締める。(その分アタシがしっかりしないと!)
気合いを入れあベロニカだったが、それは杞憂に終わった。
魔物が襲いかかってきて戦闘になれば。
一気に彼らの雰囲気が変わる。
息ぴったりに魔物を一体ずつ確実に倒していく三人。
そこへ、タホドラキーの呪文が四人を襲った。
運良くかからなかったベロニカが叫ぶ。
「ルカナンよ!守備力を下げる魔法!気をつけないと思わぬ大ダメージを受けるわよ!」
ベロニカのその言葉に、カミュはへっと笑う。
「なら、一気に片しちゃおうぜ!――ユリ!」
「ん!」
そうユリの名前をカミュは呼ぶと、短剣を戻し、ブーメランを手に持った。
「あ…」
それは昨日、エルシスがカミュに渡したクロスブーメランだ。
初めて戦闘でそれを手にするのを見る。
「はっ」
カミュがそれを投げれば、ブーメランは弧を描き、飛んでるタホドラキーを含めてそこにいる他の魔物にも次々とダメージを与えながら宙をいく。
目を回した魔物たち。そこに間髪入れずにユリが矢を放てば。
まるで的の中心に当たったようにスパっと魔物たちに決まり、同時にカミュの手がブーメランをバシッとキャッチした。
魔物は全員倒れて消えていく。
「どうだ?オレたちの飛び道具のれんけい技は」
「弱い魔物なら一気に片付けられるよ!」
弓とブーメランのれんけい技《フライトターン》というらしい。
何でもそのターンで魔物を倒せなくても、魔物は目を回して1ターン行動不能になるという。
「すごいよ!二人ともいつの間に!」
エルシスは両手のひらを上げ、二人とハイタッチする。
「ブーメランは攻撃力が低いのがネックだからな。だんだんと威力は落ちるし。強敵には通用しねえが、このれんけい技ならこの辺りのザコなら一掃できそうだ」
「貴重な全体攻撃だし、なによりかっこいい!通常攻撃でもいけるって」
笑顔で言うエルシスにユリもうんうんと頷く。
「ま、その状況に応じてな」
カミュはクロスブーメランを手の中で投げて遊びながら言った。
(意外にやるじゃない……)
ベロニカは腰に手を当てながら三人を見た。迷宮内は外の魔物より強いのに、息ぴったりなれんけい技で一掃してしまった。
辺りから魔物の気配が薄れる。
「あっ」ふとベロニカの視線に気づいたユリ。
「ベロニカも。やっぱり魔法使いだからすぐ敵の魔法も分かるんだね」
そう言って屈んで手のひらをベロニカに向けたが。
「やらないわよ!」
「えー」
残念そうな声を上げるユリを無視し、ベロニカは「セーニャは奥にいる気がするわ。このまま前に進みましょう」と言い、すたすたと進む。
「そうね……アンタたち、とくに床に気をつけた方がいいわ」
次にそう意味深につけ加えて。
「おわあぁ……!!」
そして、エルシスは落ちた。
――迷宮ともあって内部はいくつもの通路が入り組んおり、迷いそうになるなか、カミュを先頭に四人は進む。
「あ、宝箱」
ユリがぽつんと置かれたその存在に気づいた。
「通路のど真ん中に置かれるなんぞ、いかにもって感じで怪しいな。あれは遠回りして回収した方が良そうだ。まあ、セーニャって子を見つけてからでも良いんじゃないか」
カミュの言葉にそうだねとエルシスとユリは頷いた。
まずはセーニャの安全確保が第一だ。
近くにある物は別だが、探索は後に回すことにした。
「じゃあ、こっちの隣の道だ」
そう言ってエルシスは隣の通路を歩く。
ちょうど真ん中に差し掛かった時、床が崩れるように抜け、
「おわあぁ……!!」
エルシスはそのまま下へと落っこちた。
「「エルシス!!」」
二人は驚いて、慌てて下を覗く。
「大丈夫だよ、二人とも!」
そこまで深くはなく。エルシスは瓦礫の上に着地し、上に顔を向けた。
「だから言ったじゃない!床に気をつけなさいって!」
ベロニカがひょこっと顔を覗かせ、エルシスに言った。「ごめーん」と下からゆるい声が返ってくる。
「お前、もっと詳しく言えよ。いつも意味深に言いやがって」
「し、しかたないじゃない!魔物がちょろっと言ってたことを聞いただけなんだから!」
さすがに黙ってられずチクリと刺したカミュに、たじろぐベロニカ。
「ここからじゃエルシスも上に登れないし、階段を探すって言ってるから私も行ってくるね」
さすがにひとりじゃ危ないし――
「あ、おい!ユリ…!」
カミュが止める前に彼女はさっさと下へと飛び降りてしまった。
おっとととよろめきながらユリは瓦礫の上に着地し、カミュに手を振る。
「カミュー!ベロニカのことよろしくね!エルシスとすぐに戻るから!」
(マジか……)
だが、確かにこの状況で分かれるとしたらこのメンバーか。
カミュはベロニカと視線が合う。
「しょうがないわね……」
ため息をつきたいのはこっちだ。
「ちょっとアンタ、どこに行くのよ。あそこで待ってなくて良いの!?」
「二人が戻ってくるまで、他の道も確認する」
そう言ってカミュは同じような通路に向かう。短剣を取り出そうとして、良いものが目に入った。
「……なあ。その杖、ちょっと貸してくれないか?」
「…………壊さないでよね」
壊すかよと呟き、カミュはベロニカから杖を受け取る。
床を叩き、音を確かめるカミュ。
後ろからベロニカが「傷つけたら許さないわよ!」と騒いだ。
「静かにしろよ、聞こえねえだろうが……」
そう言いながら、ふとカミュが鋭い視線で振り返った。
「な…なによ……」
怯むベロニカをよそに、カミュは素早く短剣を投げつける。
「え……?」
ベロニカが驚いて振り返ると、自分の後ろにいるタホドラキーに短剣が突き刺さっていた。
「たく、面倒くせぇ時に現れるやがって……」
そのままタホドラキーは消えて、カランと床に落ちる短剣を回収するカミュ。
「とりあえず、この床は大丈夫だな」
そう言って彼は再び歩く。
「この方法で分かるかもな。他の道も確認するから、もうちょっとこの杖借りるぜ」
カミュは杖を肩におきながら、ベロニカに言った。
「アンタが……」
「…あ?」
「正真正銘の盗賊だってことは分かったわ」
「……で?」
「それだけよ。……今はね」
そう言ってベロニカはすたすたとカミュの前を歩いて「こっちの道を調べるわよ」と彼を呼ぶ。
「また意味深な言い方しやがって……。なんなんだありゃあ」
髪をかき上げながら、しかたなくカミュはベロニカの後へ続いた。
――一方、エルシスたち。
「……カミュとベロニカ、大丈夫かな……」
エルシスは天井を見上げながら小さく呟く。(まあ、なんだかんだカミュは面倒見が良いから大丈夫だよな、うん)
そう結論付けて、自分たちは上へと続く道を早く見つけなければならない。
「エルシス、ひとつひとつ道を調べてみよう」
だだっ広い空間を見渡しながら、ユリは言った。
通路が何本か別れているように見える。
たぶん、そのどこかに階段があるだろうと期待する。
「そうだね、それが一番確じ……」
「ぎゃあ!?」
「ユリっ!」
ユリの悲鳴にエルシスは素早く剣を握った。見ると、地面から現れた魔物の手が彼女の足を掴んでいる。
「ユリから手を放せ!」
エルシスがその腕を剣で突き刺すと、魔物はユリの足から手を放した。
その隙にユリは距離を取り、自身の剣を握る。
「な……なにこのにおい……」
辺りに漂う異臭――。
ユリは手で鼻を覆い、エルシスも腕で鼻を覆う。
「くさった死体だ……」
エルシスが嫌そうに呟いた。
先ほどの手の持ち主であるくさった死体が、地面から這い出てきた。
「エルシス、呪文で倒そう!アンデッド系なら確か火の魔法が効いたと思う……!」
近づきたくないと言う風にユリは言った。
彼女はすでに剣から弓に変えている。
「同感……!メラ!」
エルシスは呪文を唱える。
くさった死体が炎に包まれ、追い打ちをかけるようにユリが矢を放った。
無事にくさった死体を倒して、二人はほっとしたのも――束の間。
地面から次々と這い出てくるくさった死体たち。
「「ひぃっ!?」」
二人は悲鳴にならない声を上げた。
恐怖だ……強敵に遭遇した時は違う恐怖が二人を襲う。
「エルシス!デインを……!!」
「デ、デイン――!」
エルシスがデインを唱え、聖なる雷の魔法はまとめてくさった死体を一撃で倒した。
「やっ…た……………」
喜ぶユリの顔がみるみるうちに青くなっていく。
倒した分だけ、またくさった死体が地面から這い出てきたからだ。
……………………。
「「逃げようっ!!」」
二人は同時に叫んで走り出した。
あんな数のくさった死体を相手をするなんてごめんだ。凄まじい異臭に途中で鼻がもげてしまう。
(けど、逃げるって言っても…どこに……!)
エルシスが後ろを振り向くと、くさった死体は動きが鈍いようなので、すぐに追い付かれることはなさそうだが……。
「きゃ!?」「うわぁ!?デイン!」
再びユリとエルシスの悲鳴が上がった。
目の前をいきなりくさった死体が地面から飛び出してきたのだ。そんなのありか!?
とっさにエルシスはデインを唱えて倒す。
「ユリ、やつらは動きは遅い!手分けして道を探そう!」
「う、うんっ!」
二人はそれぞれ反対方向に駆け出す。
「こっちは行き止まり!」
「こっちもだ!」
「あ、宝箱」
「くそ!扉はあったけど、鍵がかかってる」
出口が見つからない――。
ちゃっかり宝箱の中身を回収したユリと合流する。
体力が消耗するなか、くさった死体はじわじわと追いかけて来る。
まるで、恐怖が迫り来るように。
「っ、倒すしか――」
「………エルシス。あの魔物、キラキラ光ってる!あれ倒してあれに乗って逃げられないかな?」
そしたら、逃げるのも楽だよねと、ユリが指差す方には、キラキラと光るスカルライダーがいる。
「よしきた!ユリ、速攻で倒そう!」
「うん!」
すぐさま「ヒャド!」と呪文を唱えるユリ。
(僕はデイン…いや、あれならメラで……。――炎。そうか……!)
エルシスの頭と身体に閃きが走る。
カミュはこうして腕を振り上げ――
「かえん切り!!」
刀身は炎に包まれ、魔物を切り裂く。
スカルライダーを倒れた。
「やった……成功した!!」
自力でかえん切りが成功して、エルシスは達成感と喜びを感じる。
「ユリ!見た!?かえん切りができたよ!」
「すごい!エルシス、おめでとう!」
「はは!あとでカミュに見せてあげないと!って、その前に早く逃げないとだ。…ユリ、僕の後ろに乗って」
エルシスは主がいなくなったスカルライダーに乗り。
ユリはその後ろに横座りし、エルシスの身体にしがみついた。
スカルライダーの角を掴むエルシス。
「これを……こうか?歩いた!」
「エルシス、走って!後ろ近づいて来てるっ!」
「えぇと、たぶん、こうして……おお!意外に早い!」
カタカタと音を立てながらスカルライダーは走る。
「他に調べてない道は……」
「…見て、あそこ!壁に変な足跡がある!あれってスカルライダーの足跡じゃない?」
「スカルライダーの?」
「絶対そうだよ!壁登れるんだよ、このヒトきっと!」
……ヒト?
「エルシス、壁を登って逃げよう!」
「ええ!?いやいやいや」
なにを根拠にそう言ってるのか分からないが、きっと登れる!壁に向かって!とユリは叫びながらエルシスの肩をバシバシと叩く。
「わ、分かったから……!」
彼女の勢いに押しきられ、エルシスは足跡がある壁に近づいた。
「でも、壁を登るとしてもどうやって……――おおぅっ!?」
足跡に近づくと、自然とスカルライダーは垂直に登り始める。
慌ててエルシスは角に、ユリはエルシスにしっかり掴まる。
「ほ……ほらね」
「うん…。すごいな……ユリは」
そうは言っても、ユリも本当にスカルライダーが壁を登って驚いているようだ。
なんとか上に戻れたユリたちを出迎えたのは――、
怪訝に顔を歪ませるカミュの顔だった。
「お前らまた遊んでいたのか」
という呆れ声のカミュの一言に、珍しく二人はもう反発する。
「必死で逃げてきたんだよ!カミュはくさった死体の大群に追いかけられる気持ちが分からないのね!」
(……。追いかけられたことねーよ)
「そうだよ、カミュ。ちょっとそこから落ちて、くさった死体たちに追いかけられる気持ち味わってごらんよ」
エルシスの目が本気だ。
それほどまでに二人はある意味怖い目にあったらしい。
盗賊のカンから面倒くさいことになる前にとお告げがあり、カミュは素直に二人に謝罪した。「あー…オレが悪かった。そりゃあさぞかし怖かっただろう」ついでに労いの言葉もつけてあげた。棒読みだが。
「とりあえず、下に落ちないよう気をつけましょう。安全な道はアタシとコイツで見つけたから大丈夫だと思うけど」
話をまとめるようにベロニカは言った。
二人が見つけてくれたという通路を進んで行く。
すると、その先には不思議な根っこが静かにそこに佇んでいた。
「不思議な根っこ、こんな所にも生えてるんだね……」
不気味な地下迷宮の一室で、清らかな光を放っている。
「エルシス、見てみろよ」
「うん、…いくよ」
エルシスが手をかざせば、たちまち不思議な光景が見えてくる――……
それは黒い影の魔物が移動する姿だった。
「……あぶねえ、あぶねえ。この先には確か落とし穴があったな。仕掛けを作った張本人がヘタ打って穴をあけるワケにはいなねえ。ここは回り道して行くとしよう」
罠を教えてくれるような光景。
ふっと消えて、元に戻る。
「なに……今の」
ベロニカが不思議そうに呟いた。
そうか、ベロニカは初めてだったとエルシスは気づき、慌てて説明しようと口を開く。
「えーと、今のは…………なんだろうね?」
厳しい言い訳だった。いや、言い訳にすらなっていない。
隣でカミュがやれやれと肩をすくませた。
「……別に良いわよ、ムリに言わなくて。きっとアンタの力でしょ」
そうベロニカはあっさり言って、こっちの道が安全だったわねと先に歩いていく。
「…………行こうか」
「そうだな……」
順応性が高いというか、やけに察しが良い彼女に思うことは色々あるが、今は先に進むことにした。
「あの床のワナは乗ると落ちる仕掛けなんだよね?あの魔物は浮いてるのに、どうして避けたのかな……?」
ふと、ユリが純粋な疑問を口にし、二人は確かにと考える。
「……。浮いてても通れば落ちる仕掛けだったんだろうな」
自分を納得させるように言ったカミュ。
少なくともユリは厄介な仕掛けねと納得したようだ。
エルシスはこの時気づいた。
世の中には、つっこんではいけないつっこみがあると――。