「まぁっお姉さま、お似合いですわ!」
ベロニカの着替えた姿を見て、セーニャは「素敵です!」と声を上げた。
「小さいサイズはこれぐらいしかなかったけど……涼しいし、なかなかいいわね」
ベロニカも気に入ったようだ。
赤い色がベロニカらしい子供サイズのベリーダンスの服だ。下はズボンなので動きやすい。
しかも、魔力を高める糸で縫われているという。
「アンタたちにはこれが似合うんじゃないかしら?」
そう二人に言って、ベロニカが指差したのは『おどり子の服』である。
「ああ、それね。防具としても優秀よ。魅力を高めてメロメロにしちゃうからね」
そう言って脱盗人の女は、二人におどり子の服を見せた。
可愛いし涼しそうだが、いささか露出が多い気がすると二人は悩む。
「ねぇ?イケてるお兄さん達の意見はどう?」
悩んでいる二人を見かねて、彼女はエルシスとカミュに服を見せた。
「素敵な服だね。涼しそうだし、二人に似合うと思うよ!」
「ああ、良いと思うぜ。サマディー王国でなら違和感ないしな」
二人の意見を聞いて、セーニャは「少し恥ずかしいですが、私挑戦してみます!お姉さま、着るのを手伝ってください!」と――ベロニカを連れて、試着室へと意気込んで行ってしまった。
(きっと、セーニャなら似合うだろうな)
「……お前はそれにしねえのか?似合うと思うぜ」
見たい。という思いを込めて、カミュはユリに言った。
「露出が……」
「……まあ、肌は出すからな。気になるなら無理して着ることもねえ」
恥ずかしがり屋の彼女だ。過度な露出に抵抗感があるのだろう。
カミュは少し残念だが、他の男に見られるのも癪なので、彼女の言い分に同調する。
「うん、そうする」
そう言って、他の服を物色し始めるユリ。
「――エルシス」
ふいにユリは小さくエルシスを呼び、何やら彼に耳打ちをしている。(なんだ……?)
「…………そうか、そうだな。他にも服はたくさんあるし、探してみよう」
その時、エルシスは少し悲しげな表情を浮かべた。
会話の内容から服についてのことで、露出をしたくない理由を言ったのではないだろうかとカミュは考えた。
ユリがわざわざエルシスに耳打ちをしたのだ。他に知られたくなかったのだろう。……自分に?
気になるが、無理には聞いけない。
カミュは気づかなかったことにした。
セーニャが着替え終わると、ユリが「すごく似合ってるよっセーニャ!」と絶賛した。
露出があるといえ、彼女の清楚な雰囲気は変わらず、本当の踊り子のようにとても似合っていた。
ベロニカと二人で並べば、まさに旅芸人。
まだ着替えていないのは、エルシス、ユリ、カミュの三人になる。
その時、脱盗人の男がエルシスにある服を差し出した。
「恩義のあるアナタには、ぜひ、これを着てほしい。きっと似合うと思います」
それは『異国の王子の服』と呼ばれる珍しい品物だ。
着た者の魔力を高め、身かわし率も上がるそうだ。
上質な糸で縫われたその服を、エルシスは身に付けた。
「「王子!!」」
そう言ったのは誰と誰だったか、その場にいた全員かも知れない。
服に着られることなく、異国の王子としてエルシスはそこ立っていた。
全体的に白を基調として、金の刺繍があしらわれている上品なデザインだが、少し上半身の露出が多いせいか、色気も醸し出している。
これで、先ほどの紫のストールを被れば、誰がどう見てもお忍びの王子の姿だ。
「……なんか、恥ずかしいな」
「すごく良いよ!似合ってるよっエルシス!」
ユリはかっこいいと言い、
「お前の雰囲気にぴったりじゃないか」
カミュも褒める。
「似合ってるわよ、エルシス!アンタ、本当の王子らしいしね」
「本当に素敵ですわ!エルシスさま!」
双子も絶賛だ。
「ありがとう。涼しくて軽いし、気心地は良い感じだ」
その言葉に脱盗人の男は「ここにある物はすべて砂漠の気候に適したものなんだ」と話した。
そんな彼らに、真っ当に商売したら儲かったんじゃないか?とエルシスは苦笑いを浮かべる。
「で、あとはアンタたちだけよ?」
そう言うベロニカにう〜んとユリは悩んだ。
気候のせいか露出がある服が多いのだ。(背中の傷が見えるのはさすがに……。もう上から外套羽織っちゃえば良いかな?)
ユリは事情を知るエルシスにも相談をして、一緒に探してもらったが、なかなか難航していた。
「オレはその宝箱の中身が気になってんだ。その中に良い物がありそうだ」
にやりと笑うカミュに、脱盗人の男は「ぎくっ」と口に出して言った。
彼は目敏く隠してある二つの宝箱を見つけたらしい。
ああぁという脱盗人の男の反応を無視してカミュは開けると、そこには男性用の服が入っていた。
「そ、それは……『大盗賊の服』に似てるけど違いますから!世界でたった一つの貴重な装備品とか、絶対違いますから!!」
脱盗人の男は慌てて叫んだ。
つっこむのは野暮というものだ。
「カミュにぴったりだ!」
エルシスが言った。
「よし、これを貰う」
カミュは即決した。
「こっちはどうだ?」
ああぁという脱盗人の男の反応を無視してカミュは開けると、そこには女性用の服が入っていた。
「そ、それは……『砂漠の王女のローブ』に似てるけど違いますから!世界でたった一つの貴重な装備品とか、絶対違いますからぁぁ!!」
脱盗人の男は泣きながら叫んだ。
二回目のつっこむのは野暮というものだ。
「ユリにぴったりだ!」
エルシスが言った。
「よし、これを貰う。ユリ、これ着ろよ」
「わぁ、ありがとう!」
露出も少なそうだしと、ユリは喜んだ。
脱盗人の男はがっくりと項垂れ、脱盗人の女は「バカね」と呆れていた。
それでよくやっていけたな…とエルシスは思う。案外、盗みも不発に終わってたのかも知れない。
着替え終わった二人に、皆から歓声が上がった。
ベロニカとセーニャもそうだが、特にユリとカミュは初めて見る違う姿に、エルシスは新鮮さにまじまじと見てしまう。
気がつくと、観察するように心の中で呟いていた――。
まずはユリだ。
彼女の要望通り上半身の露出が少ないけど、その分長いスカートにがっつりスリットが入っており、彼女の白い脚線美を露にしている。
気にしている背中でなければ、その露出は気にならないらしい。
スカートが長くても動きやすいねと満足しているようだ。良かった。服の淡い色合いは彼女の髪色や瞳色に似合っていて、彼女のために織られたのでは?と思ってしまう。
先ほどのストールを被れば、僕なんかよりずっと異国のお忍びの姫君だと思う。
続いてはカミュ。
彼は僕以上に上半身を露出している。
締まった筋肉がついた腕と腹筋がチラ見している。なんだ、この色気は。頭に被ったターバンという帽子のせいか、雰囲気がガラリと変わってまるで違う人のようにも感じる。
青いマントも似合っていて、素早く動くカミュならかっこよくはためくんじゃないだろうか。
これもカミュのために織られたのでは?と思ってしまう。
――結論。
「二人ともよく似合ってるね!ばっちりだよ!」
エルシスがそう言うと、二人とも照れ臭そうに笑った。
全員、着替えが終わり、見た目も華やかに。
これで、この先の砂漠越えも少し楽になるだろう。
「僕たち、ルーラという移動魔法が使えるんだ。すぐにここに飛んで行けるから、何か悪いことをしてもすぐに分かるからね」
そうエルシスが釘をさせば、脱盗人の男は「真面目に働きます!むしろ、また会いに来てください!」と元気よく答えた。
どうやらキャンプ地がこの先にあるらしく。
陽が傾いて歩きやすくなったこともあり、このまま五人は向かうことにした。
砂漠の夜は冷えるからと外套も貰い(持っているユリ以外)根っからの悪人ではなさそうだ。
それに、貴重な防具も揃えてるし、彼らは本当は商売の方が合っているのかも知れない。
今後に期待だなとエルシスは彼らに手を振った。
馬にはベロニカと、今度はユリが前に乗ることになった。
ユリは手綱を握り、先頭のエルシスとカミュについて行く。
「夕焼けがすごく綺麗……」
視野が広がった馬上から、ユリがうっとりと呟いた。
砂の地平線にゆっくりと太陽が沈んでいく。
赤い光に空も砂も染まって。少し切なくて、心揺さぶられる光景だ。
「本当ね……暑くて最悪って思うけど、この景色を見るだけの価値があるんじゃないかって思っちゃうわ」
「ユリさま、砂漠は星空も綺麗なんですよ」
ベロニカとセーニャが続けて言う。
「もう、うっすらと見えるものね」
空を仰ぐユリ。
夕闇に明るい星たちが早くも輝いていて、それもまた綺麗だ。
夜は天体観測をしたいなとユリは思った。
「エルシスさまは"勇者の星"はご存じですか?」
セーニャは少し前を歩くエルシスにそう訊ねる。エルシスが振り返った。
「勇者の星?」
はい、あの赤い星です――とセーニャは空に指差す。
あの赤い星なら昔からよく知っている。
その名の通り、赤く光り、他の星より目立つからだ。
そういえば……旅立つ前日の夜に、エマが話してくれたのを思い出した。
セーニャは続けて説明する。
「勇者の星とは、かつて伝説の勇者が邪神を討伐したあと、星となって世界を見守る存在になったと云われております」
「勇者の星、か……」
エルシスはもう一度、赤い星を見上げた。あの時はピンと来なかったが、今は親近感に近い思いを抱く。
すっかり辺りが闇に覆われた頃、彼らはキャンプ地に到着した。
さっそく食事の仕度を始めようとしたカミュに、ラムダの双子が「あたしたちが作ってあげるわ!」「おまかせください!」と自信満々に言ったので、彼は二人にまかせることにする。
「二人の料理楽しみだね」
「やっぱり、味付けとか少し違うのかな?」
期待に溢れるユリとエルシスだったが――。
出来上がった料理を見た時の二人の顔を、カミュは吹き出すのを我慢するのに精一杯だった。
二人の表情を一言で例えるなら、絶望である。
「み、見た目はちょーっと失敗しちゃったけど、味は大丈夫よ!」
ベロニカがちょっとと言ったそれは、緑色がぐつぐつと煮えて、バブルスライムを彷彿させた。スープだと思うが……。
「はい、味は大丈夫です。……大丈夫です」
なぜセーニャは二回言った。
不安感を仰ぐが、毒味……ではなく味見と、カミュは一口食べた。
四人の視線が一斉に彼に注がれる。
「……見た目はまあ、アレだが、味は普通にうまいぜ」
カミュの一言で、四人はほっとし、「いただきます」と食べ始めた。
「あ、おいしい」
「うん、おいしいね」
ユリとエルシスの言葉に、双子はさらにほっと安堵したようだ。
だが、ユリとエルシスのいつもの食事時とテンションが違うことをカミュは知っている。
そして、二人から痛い視線を受けている。食べづらい。
確かに二人もおどろおどろした見た目よりおいしいと思った。
カミュが最初に言った普通においしい。
だが、二人はカミュの手料理に舌が肥えてしまっている。
カミュの手料理はそれ以上においしい。目で訴える。
対してカミュはそこまで食に対しての興味はなかった。
好きな食べ物や嫌いな物はあるが、基本、生きるために栄養が取れて腹が満たされれば良いという考えだ。
カミュは二人の視線に堪えきれず、ため息を吐きながらしぶしぶ口を開く。
「オレは料理が得意なんだ……。次はオレが作るな」
その言葉に二人の目に輝きが灯る。
分かりやす過ぎだ。
「カミュさまの手料理楽しみですわ」
「お手並み拝見といこうじゃないの」
まったく意見が違うちぐはぐな二人をカミュは改めて見た。彼女たちは今まで二人で旅してきたというが、よくここまで来れたなとある意味感心する。
すると、ふとセーニャと目が合った。
「私、着替え終わったお二人を見てずっと思ってたんですが……」
二人、と言うのはユリとカミュのことらしい。
「お二人は『赤い砂漠の伝説』に出てくる主人公とヒロインに似てらっしゃいますわ!」
言われた二人は首を傾げる。
楽しそうなセーニャに、ベロニカが「アンタ、本当に恋愛小説が好きね」と言った。ベロニカは興味がないらしい。
「お姉さま。これはただの恋愛小説ではありませんわ」
どんなお話なの?と興味津々なユリに、セーニャは本の内容を語るように話した。
「砂漠を舞台としたお話なのですが、その美しさから『赤い砂漠の宝石』と呼ばれ、お城に幽閉されているお姫さまが、城に忍び込んだ旅人の盗賊と出会い、二人は一目で恋に落ちます。盗賊は姫に『あなたの瞳は今まで見てきたどんな宝石より美しい。次はあなたの瞳を盗みに来る』と告げて去りますが、城の兵士に見つかって砂漠の牢獄に囚われてしまいます…。盗賊は脱出しようと奮闘し、姫はなんとか彼を助け出せないかと城を抜け出し……二人はやがて砂漠の伝説を知るという、ラブロマンスアドベンチャーですわ!」
「面白そう!読んでみたい」
「有名な本なので、町の本屋にあると思います。サマディー王国に着いたら探してみましょう」
ユリとは対照的に、一ミリも興味ないというように眉を潜めるカミュ。
「お二人のお姿は、まるでその小説から飛び出してきた盗賊とお姫さまのようなんです」
「……。まあ、やけに行動力があるお姫さまはこいつと似てるかもな」
きらきらと瞳を輝かせて言うセーニャに、カミュはそれだけ言った。
彼は逆にセーニャの話した話に心当たりがあり、なんとも言えない心境になっていた。
城に忍び込むとか、牢獄とか、助けに行くとか、『あなたの瞳は今まで見てきたどんな宝石より美しい』というセリフ。
カミュはどこかで、そんなことをユリに対して思った気がする。
あれはどこだったか――導きの教会に向かう少し前だ。
崖から飛び降り、助かった時。思い出して少し恥ずかしい。
「僕も読んでみようかな。あんまりそういう系は読んだことないけど、二人が似てるって聞くと気になる」
エルシスの言葉にセーニャは「冒険もしますので、おすすめですわ」と嬉しそうに言った。
食事とその後の片付けも終わると、それぞれの自由な時間だ。
エルシスはふしぎな鍛治を始め、セーニャは琴の手入れをしている。
ベロニカは魔道書を読んだり、セーニャとしゃべったり。
カミュは武器の手入れだ。
そして、ユリは天体観測をしてくるとひとりでキャンプ地を離れていた。
もちろん女神像の加護がある範囲である。
「なあ、エルシス。オレにも片手剣を打ってくれねえ?」
「お、本格的に剣も使うことにしたの?」
「まあな」
「良いよ。新しい鉄のレシピの」
サンキューとカミュはエルシスにお礼を言った。
「エルシスさま。一息入れてはどうですか?お茶を淹れましたわ」
セーニャはカップをエルシスに渡す。
「ありがとう」
優しい香りのするそれは、セーニャ特製のハーブティーだ。
薬学にも精通しているセーニャは、自分で茶葉を調合をするのが趣味であった。
「ユリさまにも淹れたんですが……」
どこにいらっしゃるかしらと辺りを見渡すセーニャに、カミュがカップを受け取った。
「オレが渡してくるよ」
「まあ、ありがとうございます。こちらはカミュさまの分です」
自分の方も受け取り、カミュはユリが消えて行った方角に向かう。
女神像の加護の範囲だ、少し歩くと星を眺める彼女の後ろ姿があった。
「ユリ。セーニャが淹れたお茶だ」
「あ、ありがとう、カミュ。良い香り…ハーブティーだね」
ユリは受け取って、香りを楽しむ。
カミュは自然と隣に腰かけた。
「おいしい……ほっとする味」
ユリは一口飲んで、湯気と共にそう呟く。
「砂漠は昼夜で気温差があって、夜は冷えるから暖まるだろ」
続けて聞かれた「寒くねえか?」という言葉に、ユリは大丈夫と外套の前を寄せた。そう聞いたカミュも、身体を冷やさないように外套を羽織っている。
「星ってどこで眺めても同じ星なのに、砂漠の星空はすごく綺麗に見えるの。不思議……」
ユリは遠くを見ながら、口を開いた。
砂漠の上で、満天に輝く星の輝きは特別に見えた。
ぼんやりと淡い光を放つ月も大きく見え、その光りに照らされた砂漠に、夜の海の中にいるように錯覚させられる。
「オレも詳しくは分からねぇが、気温とか地域が関係しているのかもな。寒い地域の星空は空気が澄んで綺麗に見えるってのはよく聞くぜ」
「そうなんだ。それも見てみたいな」
「少なくとも──オレは好きだ」
その言葉にユリは隣のカミュの横顔を見た。いつもとは違う、雰囲気の彼。
それは格好のせいだけではなくて。
「張りつめた冷たい空気のなか、夜空を見上げると透明な光を放ってるんだ。すごく近くて、手を伸ばしたら掴めるんじゃねえかと思うぐらい……」
そう星を見上げ、語るカミュの横顔は、ユリは初めて見る顔だった。
まるで、少年のような顔。
無垢で無邪気で、青い瞳が夜空を映したように輝いている。
ユリは目が離せなくなってしまった。
星空より今は彼を眺めていたいとさえ思っていると、ふいにカミュがこちらを向いた。
「……いつか、ユリにも見せてやりたい」
そう微笑む彼の顔は優しいのに、その奥に様々な感情を圧し殺しているようにも感じられる。(そうか…、瞳が…。瞳が悲しそうなんだ……)
目は口ほどに物を言うという言葉があるが、例えカミュの隠れた感情を垣間見たところで、ユリには何もできない。
そこに触れていいのか、触れさせてくれるのか……。怖いのだと思う。
「いつか……こうして旅してたら、見れるかな?その時は……こうして、カミュと一緒に見たい」
願うようにユリが言うと、カミュの瞳が氷が溶けるように和らいでいく。
「……そうだな」
一言、彼はそう頷いた。
いつか――その日は来るのだろうか。
いつか、捨てたあの地に訪れて。
あの頃の星空を見上げることができるだろうか。
その時は、彼女は自分の隣にいてくれるだろうか。
「カミュなら、きっと掴めると思うよ」
ふふと笑いながらユリが言った。
首を傾げるカミュに、続けて彼女は言う。
「星。カミュなら掴めるよ。なんなら盗めると思う」
夜空から――とユリは空に人指しを向ける。(……無理難題を簡単に言うもんだ)
「オレは盗賊業は辞めたんだが……」
ユリはくすくすと無邪気に笑っている。
彼女が望むなら悪くない。
その何気ない言葉や笑顔で、自分の冷えた心を何度も暖めてくれたのは確かだ。
「その時はお前に見せてやるから、期待せずに待っててくれ」
「分かった。期待して待ってる」
ユリはそう綺麗に微笑んで言った。
そんな風に言われてしまえば、カミュはやってのけるしかない。
(星か……こいつの瞳を盗むよりは簡単そうだ)
カミュはそう冗談半分に思って、笑った。
「……そろそろ、戻ろうぜ。風もずいぶん冷たくなって来た」
そのカミュの言葉に、二人はキャンプ地へと戻る。
身体を休ませて、明日からまた砂漠越えの続きだ。
彼らがサマディー王国に着いたのは、その二日後だった。
-------------------------
衣装チェンジ!
作中に出てきた「赤い砂漠の伝説」は島谷ひとみさんの同曲から。(気分を上げるために色んな異国調の曲を聞きながら書いてました)